【ニューヨーク/バンジュルIDN=リサ・ヴィヴェス】
西アフリカのガンビア情勢:2年前に20年に亘ったヤヒヤ・ジャメ独裁政権が終焉して以来、報道の自由が回復しつつあるガンビアの状況を報じた記事。ジャメ政権下ではジャーナリストは誘拐・拷問・殺害の対象となっていた。(原文へ)
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【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】
2017年の大統領選挙に敗れたのち隣国の赤道ギニアに亡命したヤヒヤ・ジャメ前大統領が不正に取得したとされる莫大な国家資産(推定約10億ドル)の内容と関与した欧米の銀行、ビジネスマンらの存在について報じた記事。(原文へ)
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【ローマIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】
国連食糧農業機構(FAO)は、この種のものとしては初の報告書で、私たちの食料システムを支えている生物多様性が消滅しつつあり、世界の人びとの健康や生活、環境が厳しい脅威に晒されているという強力かつ不安な証拠を示した。
![José Graziano in Itamaraty Palace press meeting/ Renato Araújo/ABr - Agência Brasil [1], CC BY 3.0 br](https://i0.wp.com/inpsjapan.com/wp-content/uploads/2022/01/Jose_graziano_FAO.jpg?resize=336%2C416&ssl=1)
2月22日に発表されたFAOの『食料・農業のための世界の生物多様性の現況』は、食料と農業のための生物多様性は、ひとたび失われれば取り戻すことができないと警告した。
FAOのジョゼ・グラジアノ・ダ・シルバ事務局長は、報告書の重要性を強調して、「生物多様性は世界の食料安全保障を守る上できわめて重要であり、健康的で栄養価に富んだ食生活の基盤となり、農村の生活を改善し、民衆や社会のレジリエンス(=リスク対応能力)を高めます。私たちは、気候変動という難題に対応し、環境を害さない形で食料を生産するためにも、生物多様性を持続可能な形で利用する必要があります。」と語った。
ダ・シルバ事務局長はさらに、「生物多様性が失われてると、動植物は害虫や疾病に対してより脆弱になります。食料と農業のための生物多様性が失われていけば、人類がより少ない種に食糧を依存することとなり、食料安全保障と栄養が危機に立たされることになります。」と語った。
食料と農業のための生物多様性は、野生か家畜化/栽培化されたものかに関わらず、食料や飼料、燃料、繊維を提供するすべての動植物に関連するものである。また、「関連する生物多様性」と呼ばれている、生態系を通じて食料生産を支える数多くの生命体に関するものでもある、と報告書は説明している。
たとえば、土壌の肥沃さを保ち、植物に受粉させ、水や空気を清浄化し、魚や木々を健康に保ち、作物や家畜を害虫や疾病から守るすべての植物や動物、微生物(昆虫、コウモリ、鳥、マングローブ、サンゴ礁、海藻、ミミズ、土壌中の菌類、バクテリア等)などがそれである。
食料と農業のための生物多様性の問題に対処する唯一の恒久的な政府間機関である「食料と農業のための遺伝資源に関する委員会」の指示によってFAOが作成した今回のレポートは、これらすべての要素を検討するものだ。報告書は、91カ国が特にこのために提供した情報と、最新のグローバル・データの分析を基にしている。
報告書の主要点は以下のとおりである。
・食料のために生産されている約6000種の植物のうち、グローバルな食料生産のために実質的に貢献しているのは200弱であり、わずか9つで作物生産全体の66%を占めている。
・世界の家畜生産は約40の動物種によるもので、そのうちほんのわずかな種によって、肉や乳、卵のほとんどが提供されている。世界で報告されている家畜の飼育で、一国内で育てられている7745種のうち、26%が絶滅の危機にある。
・魚類のうち3分の1が乱獲状態にあり、半分以上が持続不可能なラインに到達してしまっている。
FAOが91カ国から収集した情報で明らかになったことは、受粉を助ける動物や土壌生物、害虫の天敵など、食料と農業に不可欠な生態系に寄与する野生の食物種や多くの種が、急速に消滅しているということだ。
例えば、4000近い野生食物種(主として植物、魚、哺乳類)の24%が、その豊かさを失いつつあると報告書は述べている。しかし、既知の野生食物種の半分以上の実態はよく知られていないため、減少しつつある野生食物の割合は実際にはもっと大きいと思われる。
減少しつつある野生食物種は、ラテンアメリカ・カリブ海地域で最も多く、アジア・太平洋地域とアフリカ地域がこれに続く。しかし、これらの地域における野生食物種が他の地域のよりもよく研究されてきたことが理由であるかもしれない。
多くの関連する生物多様性種もまた、厳しい脅威にさらされている。たとえば、害虫や疾病を抑える鳥やコウモリ、昆虫、それに、土壌の生物多様性、受粉動物(ハチ、蝶、コウモリ、鳥など)がここには含まれる。
森や放牧地、マングローブ、海藻が生い茂る土地、サンゴ礁、湿地一般もまた、急速に失われつつある。これらは、食料や農業にとって不可欠な数多くの機能を提供し、無数の種の生息地となる主要な生態系である。
多くの報告国によれば、食料・農業のための生物多様性の喪失の原因は、公害に伴う土地や水の利用・管理の変化、土地の過剰利用と過剰収穫、気候変動、人口増と都市化である。
関連する生物多様性の場合、生物の生息地の変化と喪失が最大の脅威であるとすべての地域が報告する一方で、その他の要因については地域ごとの違いがみられると報告書は述べている。つまりアフリカでは、土地の過剰利用と狩猟、密猟。欧州と中央アジアでは、森林破壊や、土地利用の変化、集約農業。ラテンアメリカ・カリブ海地域では土地の過剰利用や害虫、疾病、侵略種の存在。そして、中東とアフリカ北部では、土地の過剰利用。アジアでは森林破壊となっている。
報告書は一方で、生物多様性に親和的な活動に関して、好ましいシナリオも提示している。報告を寄せた91カ国のうち80%が、生物多様性に親和的なさまざまな実践やアプローチを試している。例えば、有機農業、統合的害虫管理、コンサベーション・アグリカルチャー(環境を保全しつつ収益を得ることを目的とした低投入型の食糧生産)、持続可能な土壌管理、アグロエコロジー、持続可能な森林管理、アグロフォレストリー、養殖における多様性強化の実践、漁業に対する生態系アプローチ、生態系の回復が挙げられる。

現場における保全措置(例:保護地区の設定や農場管理)と外部からの保全措置(例:遺伝子バンク、動物園、文化財の収集、植物園)もまた世界的に強化されている。もっとも、これらの措置でカバーされる範囲と実際に保護される水準はまだ不十分なものにとどまっている。
生物多様性に親和的な実践が強化されるのは望ましいことだが、食料と農業のための植物多様性の喪失を食い止めるには、まだまだ多くのことがなされねばならない、と報告書は指摘している。「ほとんどの国が、生物多様性の持続可能な利用・保全のために法律・政策・制度的枠組みを整えつつあるが、それらはしばしば不適切であるか、不十分である。」
したがって、報告書は、諸政府と国際社会に対して、実施可能な枠組みを強化し、インセンティブと利益を分有するための措置を生み出し、生物多様性を強める取り組みを促進し、生物多様性喪失の主因に対応するために、より多くのことを行うよう求めている。
食料と農業のための生物多様性に関する知識の現状を改善するために、より強力な取り組みがなされねばならない。なぜなら、とりわけ「関連する生物多様性種」に関して、情報格差が激しいからだ。そうした種の多く、とりわけ無脊椎動物と微生物に関しては、明らかになっていないことが多い。バクテリアと原生生物の99%以上と、それが食料や農業に与える影響については、未だに実態が知られていない。
食料・農業・環境分野を横断して、政策決定者と生産者組織、消費者、民間部門、市民団体の連携を強化する必要がある。
報告書は、「生物多様性に親和的な製品の市場を広げる機会をもっと模索すべき」と指摘したうえで、食料・農業のための生物多様性に対する圧力を弱めるために一般の人々が果たせる役割を強調した。
報告書はまた、「消費者は、持続可能な形で育てられる製品を選択し、農産物直売所で直接購入し、持続不可能とみなされる食品を購入しない選択ができるようになるだろう。『市民科学者』が食料・農業のための生物多様性を監視する上で重要な役割を果たしている国もある。」と指摘している。
生物多様性の喪失がもたらす影響や、生物多様性に親和的な実践として、次のような例が挙げられる。
・ガンビアでは、野生の食物種が大規模に喪失した結果、食生活を補完するために、しばしば工業的に生産された食物に依存せざるをえなくなっている。
・エジプトでは、気温上昇のために魚類種の生存可能域の北限が上がってきており、漁業生産に悪影響が出てきている。
・ネパールでは、労働力不足や(出稼ぎ労働者からの)送金の流れ、さらに地元市場で安価な代替製品が次第に出回るようになったため、地元の作物が放棄されるようになってきている。
・ペルーのアマゾン川流域の熱帯雨林では、気候変動によって野生食物の供給に悪影響が出る「サバンナ化」が予想されている。
・米国カリフォルニア州の農民たちは、生育期後に田を焼くのではなく、水を溜めるようになってきている。これによって11万ヘクタールの湿地ができ、その多くが絶滅の危機にある230種の鳥の生息地ができた。結果として、多くの種がその個体数を増してきており、アヒルの数も2倍になった。
・フランスでは、約30万ヘクタールの土地がアグロエコロジーの原則によって利用されている。
・キリバスでは、複合養殖されているミルクフィッシュ(サバヒー)やサンドフィッシュ、ナマコ、海藻が、気候条件の変化にも関わらず、基本的な食物と収入の源になっている。これらの養殖対象のうち、少なくともひとつの要素が、つねに食物を生み出している。(原文へ)
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【バチカンIDN=ラメシュ・ジャウラ】
「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の履行状況を各国首脳レベルでレビューする9月の「SDGサミット(4年に1度で今回初となる国連総会主催でのハイレベル政治フォーラム)」まであと半年、世界の諸宗教は、「SDGsの履行に対して宗教が成しえる貢献を繋げるようなロードマップや行動計画」を策定するという課題を自らに課している。
ガーナ出身でローマ教皇庁人間開発のための部署の長官を務めるピーター・タークソン枢機卿は、IDNの取材に対して、「これは、(SDGs達成に向けた)気運を高め、新たにグローバルな結束を図っていくために、この共同の『旅』に協力し合って踏み出そうという考え方に基づいています。」と語った。
ローマ教皇庁の人間開発のための部署と諸宗教対話評議会は、「宗教と持続可能な開発目標(SDGs)に関する国際会議:地球と貧者の叫びに耳を傾ける」を3日間にわたって開催した。
3月9日まで開催されたこの会議の参加者は、SDGsの履行に関わっているさまざまな宗教を代表する人々、外交官、国際組織の幹部、国際開発分野の学者や研究者らであった。
3月8日、フランシスコ教皇は会議参加者らにこう語りかけた。「持続可能な開発目標が採択されてから3年半が経過しました。私たちは、地球の叫びと貧者の叫びの両方に適切に応えられるような取り組みを行い、それを加速する重要性について、これまで以上にもっと敏感であらねばなりません。―これらの叫びは相互に繋がっているのです。」
「これらの難題は複雑であり、さまざまな原因があります。従って、その解決策もまた、複雑かつよく練られ民衆の多様な文化的豊かさを尊重したものでなくてはなりません。」とフランシスコ教皇は語った。
「人類がもたらしてきた損傷を修復する能力を持つ生態系の発展に私たちが本当に関心を持とうとするのなら、科学のいかなる分野も、あるいは、いかなる形態の知恵も無視されてはならないし、その中には宗教やそれに特有な言語も含まれます。…宗教は、平和の新たな名称ともいうべき『真の統合的な発展』を導くものになるでしょう。…」
「なぜなら、2015年9月に190カ国以上が承認した2030アジェンダと持続可能な開発目標は、グローバルな対話に向けた偉大なる一歩であり、活力に満ちた『新しく、普遍的な連帯』を示すものだからです。」と、フランシスコ教皇は説明した。

フランシスコ教皇はまた、「カトリック教会をはじめ、旧来からのさまざまな宗教が、持続可能な開発目標(SDGs)を支持してきました。なぜならSDGsは、一方で民衆の多様な価値観を反映し、他方で開発の統合的なビジョンによって支えられてきたグローバルな参加プロセスの結果だからです。」と付け加えた。
タークソン枢機卿は、3月7日の開会あいさつで、「持続可能な未来に必要なエネルギーを提供してくれる3つのグループがあります。1つ目のグループは、変革を求め世代間の公正を訴える若者達。2つ目のグループは、地球上に残された生物多様性のうち推定80%の保護に寄与し、私たちの福祉と土地のつながりの重要性について常に思い起こさせてくれる先住民の人々。そして3つ目のグループは、私たちの意識を支配や破壊をもたらすものから、愛と尊重に満ちたものへと変換するインスピレーションを与えてくれる信仰心を持った人々です。」と語った。
タークソン枢機卿はさらに、「(今回の会議に代表を送った)これら3つのグループは、人類社会に対して、これまでの不平等と環境破壊を助長してきた構造を、包摂と環境への配慮を促進する構造へと変革するよう働きかけていくことができるのです。」と指摘したうえで、「これら3つのグループに耳を傾ければ、地球と貧者の叫びに適切に応えられる方法を見出すことができます。」と語った。
宗教が開発とどのような関係があるのかというIDNの問いに対してタークソン枢機卿は、「『国連環境開発世界委員会』(UNWCED)が定義するように、持続可能な開発とは、『将来の世代の経済発展の基盤を損なうことなく、現在の世代のニーズを満たすような開発』のことです。はたして、宗教ほど、こうした社会的目標を追求できるものが他にあるでしょうか。」と語った。

さらに、世界の人口の約8割が信仰心を告白しているという状況があり、宗教は「国際開発における不可避の現実」となっている。タークソン枢機卿は、「宗教は人類発展の主要なプレーヤーである。」と指摘したうえで、「宗教は、世界各地の民衆の教育や医療ニーズに多大なる投資をしてきました。また、災害に際してしばしば真っ先に対応し、援助活動を組織してきたのも、宗教組織でした(カリタス・ネットワーク、諸宗教による救援機関、台湾の仏教慈済基金会など)。」と語った。
国連児童基金(ユニセフ)の報告書によると、宗教組織はサブサハラ地域で教育の64%を提供し、世界全体の医療機関の3分の1を運営しているという。
最後に、宗教は変化に向けた目的を設定し、それを鼓舞する。「私たちが持続可能な開発を着実に生み出そうとするならば、これまでのライフスタイルをはじめ、モノの生産や流通、消費、廃棄のやり方を、緊急かつ根本的に変革する必要があるかもしれません。そうした変化を引き起こすには深い動機付けが必要ですが、開発を技術的な用語に絡めて語るだけでは、それを生み出せません。」
「人生を変えるような力強いストーリーの中で、宗教に関する物語は抜きんでています。そうした物語は、世代から世代へと語り継がれ、世界中で数多くの民衆やコミュニティーの心を捉えてきました。宗教は、私たちが今日必要とする変革に向けたインセンティブを実際に与えることができるのです。」
タークソン枢機卿は、「『気候変動に関する政府間パネル』(IPCC)が2018年、地球温暖化による気温上昇を(産業革命前と比べて)1.5度の範囲内に収めるには、人類は今後10年以内にこれまでの生産・消費のあり方を抜本的に変えなくてはならないと警告しました。」と指摘したうえで、「だからこそ、地球の未来を形作る方法に関する議論を続けながらも、変化が緊急に求められているという感覚を決して失わないようにしようではありませんか。」と訴えた。(原文へ)
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【ニューヨーク/ミュンヘンIDN=ソマール・ウィジャヤダサ】
「リベラルな世界秩序全体が崩壊しつつあるようだ。状況はまったく変わってしまった。」自身が議長を務める2019年ミュンヘン安全保障会議(MSC)を前に寄稿したオピニオン記事の中で、ドイツの元外交官ウォルフガング・イッシンガー氏はこう述べている。
「ウラジミール・プーチンがクリミア半島を併合し、2014年にウクライナ東部で血塗られた紛争を開始した時、多くの人々が、彼こそが世界の不安定化の主たる原因だと考えた。…その数年後に米大統領が現在の国際秩序を大きく揺るがすことになろうとは、誰も想像しえなかっただろう。ドナルド・トランプ大統領は、西側の価値観や北大西洋条約機構(NATO)に疑問を呈するがごとく、自由貿易にも疑問を呈している。このことは、我々欧州の人間にとってだけではなく、影響は極めて大きい。」

したがって、最大規模の代表団(超党派の50人からなる議員団)を率いて参加したマイク・ペンス米副大統領が、「トランプ主義」を拒絶する人々を激しく非難した長い演説を行った際に会場から拍手がなかったのは、不思議なことではない。ペンス副大統領は、この演説を「第45代アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプ氏からのご挨拶をお伝えします」という言葉で始めていた。
世界中から集まった約500人の参加者で埋められた会場は、水を打ったように静かであった。イッシンガー氏の寄稿文に表れた(米国への)反発と恐怖心の残響は、外交規範に大げさに従った会議参加者の態度によって明確に示された。
なぜなら、彼らの圧倒的大多数が、トランプ大統領は、多くの意味合いにおいて、変化の原因であるというよりもむしろ兆候であることに気付いているからだ。イッシンガー氏が記したように、世界の安全保障環境は「画期的な変化を経験しつつある。つまり、一つの時代が終わり、新しい政治的時代の輪郭が現れつつあるのだ。」
事態を修復する
「大きなパズル:誰がピースを拾う(=事態を修復する)のか?」というのが、今年のミュンヘン安全保障会議の大きなテーマである。ミュンヘン安全保障会議は1963年、分断された西ドイツと、そのもっとも重要な同盟国である米国、それに他のNATO諸国との間で外交政策に関する意見交換を行うために始められたものである。
ミュンヘン安全保障会議は、創設から55年、国際安全保障をめぐる主要な国際会議へと発展してきた。今回、国際秩序の中核的な要素をいかに保つかについて議論が行われる背景には、数多くの「不安定」要因がある。たとえば、欧州の防衛政策、シリア・イラク・アフガニスタンからの米国の撤退、欧州連合(EU)諸国のGDP2%をNATOに拠出すべきとのトランプ政権の要求、貿易・関税戦争、英国のEU離脱がもたらす混沌、世界中で跋扈する右翼ポピュリズム、ベネズエラで急速に力を増しつつある「体制変革」への動きなどを挙げることができるだろう。
国際安全保障は、イランとの核合意(JCPOA)や中距離核戦力(INF)全廃条約、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)、パリ気候変動協定といった、慎重に策定された多国間合意からの離脱をトランプ大統領が次々に発表したことで、さらなる危機にさらされている。
さらに、イエメンで進行中の惨事、神聖なる国際法に違反して主権の壁を超える国々、英国で起こったスクリパリ親子への毒物攻撃、トルコでのジャーナリスト、ジャマル・カショギの惨殺もまた、世界の安全保障を悪化させている。
米国・中国・ロシア間の世界のトップの座をめぐる争いに現を抜かした、権力に目のない政治家たちが引き起こしたこれらの紛争は、世界を終わりなき紛争の淵に叩き込み、世界の平和と安全を脅威にさらしている。
この状況は、1939年に勃発した第二次世界大戦前夜の状況、そして、フランクリン・D・ルーズベルト大統領が「平和がどこかで破られるとき、全ての国々の平和は危機に陥る」と語ったことを思い起こさせるものである。
対話か対立か
ミュンヘン安全保障会議で寄せられた多様なコメントは、何がいったい危機に晒されているかを明確に示している。

米国が主導したグローバル秩序が「多くの細かい部分に分裂してしまった」と嘆くドイツのアンゲラ・メルケル首相は、外交政策に対する自身のアプローチ、とりわけ、多国間主義やルールを基盤とした秩序、外交へのゆるぎなきコミットメントを力強く擁護した。
メルケル首相は「世界の危機のすべては結局のところひとつの問いに帰着します。つまり、『私たちは、たとえ困難でゆっくりとしたものであっても、多国間主義を信奉するのか否か?』という問いです。」と述べて(名指しは避けつつも)トランプ主義の精神を否定した。
トランプ大統領を「自由世界の指導者」と呼ぶペンス米副大統領は、「『アメリカ・ファースト』とはアメリカが単独で行動することを意味するのではなく、世界の指導者らや同盟国、国々に対して、アメリカはこれまでよりも強力になり、米国が世界の舞台で再び指導的立場に立つことをあらためて確認するためにここにやってきた。」と述べた。
このような傲慢な演説では拍手は生まれない。ペンス副大統領が「欧州のパートナーらはイラン核合意から手を引くべきだ」と述べ、ロシア・ドイツ間の石油パイプライン「ノルド・ストリーム2」を非難するに及んでは、なおさらだ。
ペンス副大統領は、トルコによるロシアのミサイル防衛システム「S-400」購入計画を念頭に、「NATOの同盟国が我々の敵から兵器を購入するのを手をこまねいてみていることはない。」さらに、「我々の同盟国が東側への依存を増すというのなら、西側の防衛を我々は保証できない。」と語った。
ペンス副大統領は、「中国による知的財産権の侵害や強制的な技術移転、その他の構造的諸問題が、米国経済や世界各国の経済の負担になっているという長期的な問題に、中国は対処しなければならない」ことを、トランプ大統領の指導の下で米国は明確にしてきた、と述べた。
ペンス副大統領はまた、ベネズエラ危機に言及して、トランプ大統領は「自由の擁護者」であり、欧州諸国に対して米国と共にベネズエラのニコラス・マドゥロ政権に対抗するよう訴えた。
英国のテレサ・メイ首相は、「(国民投票に従って)2019年にEUを離脱後速やかに、EUの共通外交・安全保障政策からも抜け出ることになろう。我々は、真に独立し、主権的な外交政策を持つことになる。」と述べた。
多くの発言者がロシアを標的にした。英国のギャビン・ウィリアムソン国防大臣は、世界をより危険な場所にしつつあるとしてロシアを非難し、ドイツのウルサラ・フォンデルレイエン国防相はロシアは欧州を分断しつつあると述べた。しかし、全体としてみると、過去よりも批判のトーンは弱まっている。
中国の楊 潔篪外交部長は「歴史は、多国間主義を擁護し、グローバルな協力を推進して初めて、より良き生活を求める人民の夢を実現できることを示している」と述べた。

ロシアのセルゲイ・ラフノフ外相は、NATOがロシア国境まで「拡大」し、双方が軍の展開と訓練を強化する中で空前の緊張を生み出していると厳しく批判した。ラブロフ外相は他国の外交指導者らと多くの二国間協議をもった。
ロシア外務省のマリア・ザカロワ報道官は、あらゆる問題に関して米国の一貫性のなさに苛立ちを示した。米国はその強大な軍事力と経済力にも関わらず「中東で失敗」し、「どの場所でもどの世界的な危機も解決できていない。」と指摘したうえで、「ミュンヘン安全保障会議の主な目的はロシアを悪者扱いすることにある。」と示唆した。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、従来から会議での目標を劇的な形で示して自らの存在を誇示しようとする傾向があるが、今回はイラン製ドローン(無人攻撃機)の破片を振りかざし、同国を「中東最大の脅威」と呼んだ。
イランのモハンマド・ジャヴァード・ザリーフ外相はスピーチで米国を批判し、前日のペンス演説を激しく非難した。イランが「新たなホロコースト」の筋書きを立てているとのペンス副大統領の見方は「憎悪に満ちて」おり「無知」だと述べた。またザリーフ外相は、「病的に」イランを標的にする米国は「世界最大の脅威だ」と呼んだ。
生起しつつある新世界秩序
会議の閉会にあたって、議長のイッシンガー氏は「我々はたしかに問題を抱えている。」という残念な結論を出した。
そう、確かに問題はある。恐らくそれほど新しくもない問題が―。2007年ミュンヘン安全保障会議で、ロシアのプーチン大統領は、「一人の主人と一人の主権者がワシントンDCに鎮座している西側の同盟システムは『内から崩壊することになる』だろう。」と予想した。その予言は的中することになるだろうか。
今回のミュンヘン安全保障会では、侮蔑と当てこすりさえ交えた実に様々な発言と応答が飛び交った。これは、米国が、ロシアや中国、イランとだけではなく、同盟国とも対立の火種を抱えていることの証左だ。
米国は反対しているが、欧州諸国は東側に橋を架けつつある。ペンス副大統領は、欧州に対して、ロシアや中国と取引きすることは自らの安全保障を毀損することになると警告してきが、ロシアのパイプライン「ノルド・ストリーム2」のような大型プロジェクトや中国の「一帯一路」構想は、欧州で信頼を獲得してきている。
イッシンガー氏は、「暗い予想図は、何もないところから生まれるのではない。一部の西側諸国が自己中心的で対立的な心性を持つようになり、国際的な責任に関心を示さなくなれば、単独行動主義や孤立主義、保護貿易主義という悪果が生まれることになる。」と記している。
国際関係の専門家によれば、世界各地で起こっている紛争は、米国と欧州の影響力が低下しつつあり、ロシア・中国・米国といった大国が経済的・軍事的優勢を求めて競争していることの証であるという。
こうした「分裂」状況を背景に、世界の平和と繁栄をめざして、ルールを基盤とする国際秩序を模索しようとする願望が、今回のミュンヘン国際会議全体を覆っていたと言えるだろう。(原文へ)
※著者のソマール・ウィジャヤダサは国際弁護士。国連総会に対するユネスコ代表(1985~95)、国連合同エイズ計画(UNAIDS)代表(1995~2000)を務める。
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世界各国における女性の政界進出の現状をまとめたIPU-UN Women による調査報告書「Map of Women in Politics」(隔年出版)の内容を分析した記事。報告書は3月12日に国連本部で開催された「世界の女性地位委員会」会期中に記者発表された。(原文へ)FBポスト
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INPSは、ローマ教皇庁の人間開発のための部署と諸宗教対話評議会が主催した「宗教と持続可能な開発目標(SDGs)に関する国際会議:地球と貧者の叫びに耳を傾ける」(3月7日~9日)を取材した。会議期間中、INPS Japanの浅霧勝浩マルチメディアディレクターがラメシュ・ジャウラ編集長と共に、インドの学者・環境活動家で、食料主権の主唱者であり、アルテルモンディアリスム(もう一つの世界主義)に関する著作もあるヴァンダナ・シヴァ氏にインタビュー取材した。
シヴァ氏は、今回の会議で「ヒンドゥー教徒の観点」について発言したが、IDNの取材に対して、「ヒンドゥー教とキリスト教の深い精神的な観点には大きな違いはありません。両者とも、使っている言葉は違えど、被造物の保全(Integrity of Creation)について論じています。」
「(ヒンドゥー教では)ウパニシャッドのなかで『貪欲を避けよ』と説きます。一方、イエス・キリストは金貸しのところに行ってテーブルをひっくり返しました。つまり、基本的な原則は共通しているのです。ヴェーダとウパニシャッドは世界最古のスピリチュアルな文献であり、人類が地球上で生命を維持していくための生き方を示しています。したがって、主な違いは、アブラハムの伝統は約2000年であるのに対して、私たちのそれは1万年であるということだけです。つまり、前の時代を生きた女性たちは常に賢明だったということです。」と語った。
Vandana Shiva, who participated in the 'International Conference on Religions and Sustainable Development Goals (SDGs): Listening to the cry of the earth and of the poor', held in Vatican City, from March 7-9, 2019, talks about the Hindu perspective as far as the role of religion in achieving SDGs is concerned. She is of the view that there is no difference in the deep spiritual perspective of Hinduism and Christianity. Both talk about the integrity of creation, though they use different words.
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INPSは、ローマ教皇庁の人間開発のための部署と諸宗教対話評議会が、2030アジェンダ採択から3年半を契機に開催した「宗教と持続可能な開発目標(SDGs)に関する国際会議:地球と貧者の叫びに耳を傾ける」(3月7日~9日)を取材した。INPS Japanからは浅霧勝浩マルチメディアディレクターがラメシュ・ジャウラ編集長とバチカンで合流し、主催したピーター・タークソン枢機卿(ローマ教皇庁人間開発のための部署長官)をはじめ、主な参加者とのインタビューや会議の様子を記事並びに映像に収録した。
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