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アラブの権力闘争:「王は死んだ。しかし王政はこれからも続く」

【シンガポールIDN=ジェームズ・ドーシ―】

2011年のアラブの春に始まった中東・北アフリカ諸国における民主化/反民主化の動きを分析した記事。これまでの体制維持を最優先するサウジアラビア・アラブ首長国連邦・エジプトの3か国連合がいかにリビア・スーダン・アルジェリア・イエメンといった国々の内戦や民主化の動きに影響を及ぼしているかを分かりやすく解説している。(原文へ

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南アフリカ共和国―核兵器を廃棄した模範

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

核兵器や化石燃料関連事業からの金融資産の引き上げ(ダイベストメント)運動が盛んになっているが、その政治的影響力は、20世紀末に南アフリカ共和国(南ア)に対して展開されたダイベストメント運動のように強力なものになる可能性がある、と「世界未来評議会」のティース・ケイトー研究員は見ている。この運動は、南アが1994年にアパルトヘイトを撤廃させる一つの重要な要因となった。

現在のところ、そうした期待が実現される兆しや、現在進行中のダイベストメント運動が重武装した核兵器保有国を軍縮に向かわせる兆しはほとんど見えていない。しかし、南アは、一時は独自の核兵器開発を推し進めたがその後核兵器を自ら廃棄し、この大量破壊兵器に対する急進的な反対国に転じるという、りっぱな模範である。

中央アジアのカザフスタンもまた、かつて核兵器システムと関連施設を廃棄・破壊したが、これらの核兵器は(南アのように自力で製造したものではなく)ソ連崩壊時に同国から継承されたものだった。

ICAN
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南ア政府は、核兵器を自主的に廃棄してから25年目となる今年の2月25日、ニューヨークの国連本部において核兵器禁止条約に批准し、核兵器なき世界に向けたさらに重要な一歩を踏み出した。南アは同条約に2017年9月20日に署名している。

アパルトヘイト下の南ア政府は、豊富なウラン資源に恵まれたことで、早くも1948年には、原子力エネルギーと、その周辺に構築しうるウラン採鉱、貿易、エネルギー産業への関心を持ち始めた。1957年には米国と南アとの間で原子力協定が締結され、南アは米国から初の原子炉を購入している。

1978年、南ア政府は、当時南アが支配していたナミビアや本国の領土が、ソ連が支援する勢力によって侵略されるのではないかと恐れ、3段階の抑止戦略を構築した。

しかし、核脅威イニシアチブ(NTI)が指摘するように、キューバ軍のアンゴラからの撤退や、ナミビアの独立ソ連の崩壊といった安全保障環境の変化を受けて、南アは1989年に核兵器事業を放棄した。人種隔離政策、ナミビアの不法統治などにより当時グローバル経済から孤立していた南アは、核兵器を維持するよりもむしろ放棄することに利益を見出したのである。

南アの核兵器解体に伴って、1993年大量破壊兵器不拡散法が成立し、同国では核兵器開発が禁止された。

南ア政府の発表によると1977年に初めて核爆発事業を平和目的から軍事目的に転換したとされているが、米諜報当局は南アが1973年に核兵器開発を始めたと報告している。

当初、国際的な圧力により、核兵器の実験はできなかった。しかし、1982年までには初の核爆発装置の開発に成功し、1989年までには55キロの高濃縮ウランを含むTNT換算で19キロトンの爆発力を持つ核爆弾6発を保有していた。

1989年、南ア政府は公式に核計画をとりやめることを発表。1991年には非核兵器国として核不拡散条約(NPT)に加入した。国際原子力機関(IAEA)は、南アの核兵器すべてが廃棄されたことを1994年までに確認した。

南アはそれ以降、核兵器なき世界へのリーダーシップをとり続けている。1996年4月11日、南アは他のアフリカ諸国と共にペリンダバ条約に加わり、アフリカ大陸に非核兵器地帯を創設した。

ペリンダバ条約を加盟国に遵守させる目的で設置されたアフリカ原子力委員会(AFCONE)は、南アのプレトリアに本部を置いている。1996年9月24日、南アは包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名し、1999年に批准した。

Map of South Africa
Map of South Africa

加えて、南アは、核兵器なき世界を推進する新アジェンダ連合(NAC)の一員でもある。NACの起源は、ブラジル・エジプト・アイルランド・メキシコ・ニュージーランド・スロベニア・南アフリカ・スウェーデンの外相が共同声明を通じて核軍縮に向けた新アジェンダを提示した1998年6月に遡る(その後、スロベニアは脱退)。

NACは、5つの核保有国(米国・ロシア・英国・フランス・中国)と3つの核能力保有国(インド・パキスタン・北朝鮮)に対して、核軍縮を明確に誓約し、核兵器禁止条約を通じて核兵器の廃絶につながるような多国間協議を開始するよう求めた。

さらに南アは、核軍縮を主張する国々の最右翼として、核兵器なき世界を達成し維持するための明確な到達基準や時間軸をともなう、法的拘束力のある新たな枠組みを創設する提案を支持してきた。

南アは核軍縮の原則を支持し続け、2012年以降は、核兵器廃絶への人道的イニシアチブをとる中核的存在の一翼を担ってきた。それが核兵器を禁止する国連条約を求める運動へと発展し、2017年7月7日の核兵器禁止条約の採択に繋がった。

Nelson Mandela in Johannesburg, Gauteng, on 13 May 2008./ By South Africa The Good News, CC BY 2.0
Nelson Mandela in Johannesburg, Gauteng, on 13 May 2008./ By South Africa The Good News, CC BY 2.0

南アは、第71回国連総会において、核兵器禁止条約など核兵器の法的禁止措置について交渉を促すリーダー的な存在だった。

ICANは、南アのネルソン・マンデラ大統領が1998年に国連総会で行った演説に言及した。マンデラ大統領はその際、他の核兵器国が援用してきた核抑止論に挑戦して、こう述べたのである。

したがって、2017年にノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が南アの「核軍縮における継続的なリーダーシップ」を歓迎し、「その行動が他のアフリカ諸国の条約加入に繋がることを期待している」と述べたのは、当然であろう。

「我々は問わなければなりません。非道で恐ろしい大量破壊兵器を拒むことなく、その正当性を主張し続ける人々には無知に聞こえるのかもしれませんが、『なぜそんなものが必要なのか』と。実際のところ、冷戦時代の惰性と自国の優位性を固持するためだけの核兵器への執着が結果的に何をもたらすのか、満足のいく形で合理的に説明することなど誰にもできないのです。」(原文へ

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著名な仏教指導者が核兵器とキラーロボットの禁止を呼び掛ける(池田大作創価学会インタナショナル会長インタビュー)

【ベルリン/東京IDN=ラメシュ・ジャウラ】

まもなく開催される核不拡散に関する重要協議を前に、仏教哲学者、教育者で核軍縮の確固たる支持者である池田大作博士は核兵器開発を巡る対立がさらにエスカレートすることのないように、緊張緩和への道筋を探るよう呼びかけている。

池田博士は、4月29日から5月10日までニューヨークの国連本部で開催される2020年核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議第3回準備委員会の重要性を強調するなかで、締約国の声を結集し、多国間による核軍縮の履行を力強く働きかけていく必要性を訴えた。2020年は、NPTが発効して50年目の記念すべき年となる。

池田博士はまた、インターナショナル・プレス・シンジケートの基幹媒体であるIDNとの多岐にわたるインタビューの中で、2017年7月に国連で122ヶ国によって採択され核兵器禁止条約が、広島と長崎への原爆投下から75年を迎える2020年8月までに発効が実現することを強く望んだ。

池田博士は、192ヶ国・地域に1200万人以上のメンバーを擁する世界規模の仏教団体創価学会インタナショナル(本部:東京)の会長で、今世紀に入ってから国連に19の平和提言を提出している。

電子メールによるインタビューの全文は以下のとおり。

Q:まもなく開催される2020年NPT再検討会議の準備委員会に際し、池田SGI会長が今年の「SGIの日」記念提言を踏まえて最も訴えたい点は何でしょうか。

A:NPT発効50周年の意義を持つ来年の再検討会議を前にして、世界は今、深刻な核軍拡競争に再び突入することになるのか、それとも、緊張緩和への努力を通じて核軍縮の道を切り開くのか――その大きな岐路に立たされています。

特に懸念されるのは、冷戦終結の象徴ともなったINF全廃条約が失効の危機に直面していることです。アメリカとロシアが条約義務の履行停止を相次いで表明しており、このまま対立の解消ができなければ、8月に条約は破棄されることになります。

また、2021年2月に期限を迎える新STARTの延長についても、米ロ両国が合意できるのかは不透明となっており、核軍縮の枠組みが失われる恐れが高まっているのです。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、先日のジュネーブ軍縮会議での演説において、「われわれは、冷戦時代のように無制限の核競争が展開される暗い日々に戻ることはできない」との警鐘を鳴らしました。私もまったく同じ思いを感じずにはいられません。

Q:そのような事態を防ぐために、今回の準備委員会では何をなすべきだと思われますか。

A:まずは、核兵器開発を巡る対立がさらにエスカレートすることのないように、緊張緩和への道筋を探ることが急務だと思います。その上で、来年のNPT再検討会議に向けて核軍縮の機運を高めるための手立てを話し合う場にしていくことが求められます。

INF全廃条約を締結に導いたミハイル・ゴルバチョフ元ソ連大統領は、かつて私との対談集の中で、当時抱いていた問題意識について、こう述べておられたことがありました。

「世界的な核惨事の脅威をなくした、国の安全保障モデルは可能なのだろうか? 安全を維持し、かつ人類が核による自滅の脅威から完全に解放されるためにはどうすればよいのか?」と。

このゴルバチョフ氏の問題意識に対し、ロナルド・レーガン大統領の“核戦争に勝者はなく、核戦争を決して起こしてはならない”との思いが合致したという背景があったからこそ、両国は核軍縮に踏み切ることができたといえるのです。

Photo: U.S. President Ronald Reagan and Soviet General Secretary Mikhail Gorbachev at the first Summit in Geneva, Switzerland, in November 1985
Photo: U.S. President Ronald Reagan and Soviet General Secretary Mikhail Gorbachev at the first Summit in Geneva, Switzerland, in November 1985

歴史を振り返れば、その目指すべき方向性はNPTの誕生時にも示されていたものでした。核戦争の危険を回避するためにあらゆる努力を払うとの精神が前文で謳われるとともに、核軍縮の誠実な履行の誓約が第6条に明記されていたからです。提言でも強調しましたが、混迷を続ける核問題を打開するためには、こうしたNPT制定の原点に立ち返ることが重要ではないでしょうか。

昨年の第2回準備委員会で北欧5カ国が出した声明でも、「我々は力を合わせてNPTの妥当性を維持・強化し、その弱体化につながるいかなる措置を慎まねばならない」として、“何が各国を結び付けているのか”に焦点を当てる必要があるとの主張がされていました。

私は、NPT第6条に明記された核軍縮の誠実な履行の誓約こそ、その重要な紐帯となってきたものに他ならないと考えます。

二国間の枠組みによる核軍縮の灯火が消えかけようとしている今だからこそ、NPT制定の原点に立ち返って締約国の声を結集し、多国間による核軍縮の履行を力強く働きかけていくことが急務であると思われてなりません。

その突破口を開くためには、2010年のNPT再検討会議の最終文書で共通認識として示された「核兵器の使用がもたらす壊滅的な人道上の結果への深い懸念」を十分に踏まえる形で建設的な討議を行うことが大切になります。

グテーレス事務総長の主導で昨年発表された国連の軍縮アジェンダでは、核問題の解決に向けて「人類を救うための軍縮」という新しいビジョンが打ち出されていました。私は、来年のNPT再検討会議において各国がそのビジョンを共有しながら、NPT第6条に基づいた多国間の核軍縮交渉の開始に向けた土台づくりを目指すことを強く呼び掛けたいのです。

Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.
Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.

Q:核兵器禁止条約の早期発効に向けて、どのような取り組みが重要になるとお考えですか。

A:2017年7月に核兵器禁止条約が国連で採択されて以来、現在まで70カ国が署名し、23カ国が批准を果たしました。

長年にわたって“核兵器の禁止は不可能”と言われ続けてきましたが、世界のヒバクシャをはじめ、SGIも国際パートナーとして参加しているICANなどの市民社会の力強い後押しを得て成立した核兵器禁止条約の批准は、着実に進みつつあるといえます。

条約の発効のためには50カ国の批准が必要となっており、私は、広島と長崎への原爆投下から75年を迎える2020年8月までに発効が実現することを強く望むものです。

この条約の早期発効に加えて、締約国の大幅な拡大による条約の普遍化を図る上で重要な鍵を握るのが、核依存国の行動ではないでしょうか。核兵器を保有する国々の政策転換を促す上で、まずもって欠かせないのが核依存国の間においても「核兵器のない世界」を強く望む意思を目に見える形で表していくことではないかと思うからです。

私はこの観点に立って今年の提言の中で、「核兵器禁止条約フレンズ」という有志国によるグループの結成を提唱するとともに、唯一の戦争被爆国である日本がその活動に加わり、貢献していくことを呼び掛けました。

ICANの国際運営団体の一つである「ノルウェー・ピープルズエイド」によると、核兵器の開発・実験・生産・製造・取得・保有・貯蔵から、移譲と受領、使用とその威嚇、違反行為を援助することや援助を受けること、配備とその許可について、すでに155カ国が禁止状態にあるといいます。

ICAN
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つまり、核兵器禁止条約にまだ参加していない国も含めて世界の8割近くの国々が、条約の禁止事項に沿った安全保障政策をすでに実施しており、これらの国々に加えて、核依存国が自国の条約参加に向けた課題の克服を模索しながら、新たな行動に踏み出すことができれば、「核兵器のない世界」への潮流は揺るぎないものになっていくと考えるのです。

また、「核兵器禁止条約フレンズ」の枠組みを通して、これまで核兵器の脅威や非人道性などを巡って国際社会で積み上げられてきた議論を今後も深化させていくことができれば、核保有国と非保有国との意見の溝を埋める上で大きな意味をもってくるはずです。

そのためにも日本が唯一の戦争被爆国の使命として、こうした“橋渡し役”を積極的に担っていくことが大切ではないでしょうか。

Q:核兵器禁止条約を巡る意見の溝を埋めるために、どのような観点からの議論が大切になると思われますか。また、とりわけ日本には、そのようなプロセスを加速させるうえでどのような取り組みを期待されますか。

A:日本の主導による「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」の第4回会合が3月に京都で行われましたが、そこでの核保有国と核依存国と非保有国の識者が参加しての議論でも、新しい問題意識が提起されていました。

つまり、サイバー技術の進展や精密な兵器の開発などで安全保障環境が変化しており、そうした環境下では、核保有によって他国の核使用を思いとどまらせようとする「核抑止」の考え方の見直しが迫られるとの問題意識です。会議の出席者からは、こうした状況の変化への認識が、核保有国と非保有国が話し合う“共通の土俵”になり得るとの声も出ています。

私どもの創価学会平和委員会が参画する「核兵器廃絶日本NGO連絡会」でも、この賢人会議の第4回会合に寄せて、次のような市民社会からの提言が示されました。

「核兵器の非人道性に関する国際的な規範が形成され拡大されてきたこと、そして核兵器禁止条約がその流れの中に存在するということは、歴史的な事実です。賢人会議は、この事実が諸国間の対話の出発点に位置づけられなければならないということを、明確に発信すべきです」と。

こうしたNGOからの声に加えて、宗教界の間でも日本の果たす役割に注視が集まっており、今年11月にはローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇が、被爆地である長崎と広島を訪問することが予定されています。

私どもSGIでは、多くのNGOをはじめ、さまざまな信仰を基盤とした団体(FBO)と協力しながら、核兵器禁止条約を支持するグローバルな民衆の連帯を広げ、広島と長崎への原爆投下から75年を迎える来年を、核兵器禁止条約の発効による“核時代決別への出発年”にしていきたいと強く決意するものです。

Q:核兵器の近代化が進む一方で、「自律型致死兵器システム(LAWS)」は、国際平和や安全保障に対して深刻な脅威をもたらそうとしています。どのような対応策が考えられるでしょうか。

A:AI兵器やロボット兵器とも呼ばれる「自律型致死兵器システム(LAWS)」は、現在のところ、いくつかの国が開発を進めている段階で実戦配備には至っていませんが、その状態に迎えてしまう前に、国際的な規制の枠組みを早急に設ける必要があると考えます。

私はかねてから、良心の呵責も逡巡も生じることなく自動的に攻撃を続けるLAWSには、人道的観点や倫理的観点から重大な問題があると訴えてきました。

SGIとしても、LAWSの開発と使用の禁止を求める市民社会のネットワークである「ストップ・キラーロボット」の運動に加わってきましたが、国際社会ではこうした問題に加えて、安全保障や軍事的な面からも懸念が広がっています。

Photo: Killer robot. Credit: ploughshares.ca
Photo: Killer robot. Credit: ploughshares.ca

ひとたびLAWSを導入する国が実際に現れれば、核兵器の誕生に匹敵するような世界の安全保障環境を一変させる事態になりかねないとの懸念です。

また、国連の「軍縮アジェンダ」においても、LAWSは人工知能に操作を依存するがゆえに「予期しない行動や説明できない行動を起こす可能性」を常に抱えているとの警鐘が鳴らされていました。

このようにLAWSに対する懸念は広がりをみせているものの、国際的な規制についての各国の意見は分かれています。

2017年以来、特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の枠組みの下でLAWSに関する政府専門家会合が重ねられ、今年3月にもジュネーブで第4回会合が開かれましたが、意見の溝は大きく、具体的な進展はみられませんでした。

しかし、各国や市民社会から提起された主張の中には重要な観点も多く、今後さらに議論を深めていく上で土台になるものだと思います。例えば、ICRC(赤十字国際委員会)は、“兵器の使用だけでなく、兵器の設計や開発の段階においても国際人道法による評価が必要”との観点を強調したほか、人権NGOのヒューマンライツ・ウォッチは“国際人道法は人間の生死が機械に委ねられるような状況を扱うように設計されていない”との指摘をしました。

また、規制についての立場が異なる場合でも、「武器使用における人間の制御は決定的に重要である」との認識については大多数の国々が共有していることに加えて、LAWSの開発を行う意思はないことを表明してきた日本が、考慮すべき要素の一つとして“市民社会からの懸念”に言及していたことにも留意すべきです。

その一方で、規制に関して慎重な立場の国々からは、LAWSの攻撃の精度を上げることで市民を巻き込む被害を削減することができるとの主張もされました。しかし、こうした主張は、核兵器に関して「クリーンな核兵器」や「スマート核兵器」の開発を志向するのと同じような思考を感じる面があります。

そうではなく、LAWSに“良いLAWS”と“悪いLAWS”との区別があるかのような考え方は、国際人道法の精神に照らして禍根を残すものとなるとの大前提に立つことが重要ではないでしょうか。

この点、私どもSGIもメンバーとして連なっている「ストップ・キラーロボット」のキャンペーンが、第4回の政府専門家会合に寄せて発表した声明でも、国際人道法と国際人権法の観点に加え、道徳的・倫理的な観点からLAWSの法的規制を強く求め、手遅れになる前にLAWSの開発を中止させて軍拡競争を招かないようにするよう、強く呼び掛けています。

Q:具体的には、LAWSのどんな点が特に問題だと思われますか。

A:私が1月に発表した提言でも指摘したように、LAWSは、ドローン兵器の場合にみられるような、攻撃をする側と攻撃をされる側の人間が同じ空間にいないという“物理的な断絶性”を生じさせる傾向が強いことに加えて、実際の戦闘行為が攻撃を意図した人間と完全に切り離されるという“倫理的な断絶性”を招くものです。

これは、20世紀の二度にわたる世界大戦をはじめとする多くの惨劇を経て、国際社会の中で重視すべきものとして確立されてきた「人間の尊厳」や「生命への権利」などの原理に真っ向から反するものであり、私はこうした〝倫理的な断絶性〟に目を向けることを忘れてはならないと強調したい。

今後、LAWSが実際に使用されるような事態が起きた場合に、これまで戦闘行為に関わった人々の多くが感じてきたであろう、自身の行為に対する“深い悔恨”と、戦争に対する“やりきれない思い”、そして、次の世代のために平和な関係を築き直したいと切実に願う“一人の人間としての決意”が入る余地は、そこにあるでしょうか。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

また、AIが制御する兵器において、敵味方に分かれた相手に対する複雑な思いや、人間性の重みを感じて、一時的であれ、戦闘行為を踏みとどまることはあり得るのでしょうか。

その結果、軍事的な攻撃の垣根が低くなり、甚大な被害が広がるだけでなく、紛争の終結後も、敵味方に分かれた双方の国の人々が和解する余地は、きわめて狭められたものになりかねません。このように核兵器とは別の意味で、攻撃される側の国にとっても、攻撃をする側の国にとっても取り返しのつかない結果を招くのが、LAWSに他ならないのです。

そうした面からも、私は、LAWSを全面的に禁止する条約づくりを目指すことが必要だと考えます。

開発段階にあるだけで実戦配備されていない兵器を禁止する枠組みを設けることは容易ではないとの声もありますが、人間を失明させるレーザー兵器に関して、実戦配備される前の段階でCCWの議定書によって禁止された先例もあります。

SGIとしても、LAWSという兵器にひそむ本質を見据えつつ、開発と使用の禁止を求める国際世論を粘り強く喚起していきたいと思います。(英語版)(スペイン語版

https://bit.ly/3pqQQzt

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「世界と議会」2019年春号(第582号)

特集:尾崎行雄生誕160周年記念

「憲政の父・尾崎行雄生誕160周年の集い」
◇主催者挨拶/大島理森、高村正彦
◇メッセージ/安倍晋三、枝野幸男、鈴木健一
◇講演「全米桜祭りへの参加と日米交流」/土井孝子
◇特別寄稿「尾崎生誕160周年の集いに参加して」/ジョン・S・コールドウェル

特別論文
 議員立法充実化による議会政治復権の新提言/片山玲里

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 混迷の度が深まるアフリカ東部・「アフリカの角」地域

■連載『尾崎行雄伝』
 第十二章 松隈内閣

「咢堂ブックオブザイヤー2018」選考結果

1961年創刊の「世界と議会では、国の内外を問わず、政治、経済、社会、教育などの問題を取り上げ、特に議会政治の在り方や、
日本と世界の将来像に鋭く迫ります。また、海外からの意見や有権者・政治家の声なども掲載しています。
最新号およびバックナンバーのお求めについては財団事務局までお問い合わせください。

|ボツワナ|若き大臣が女性と女児への扉を開く

【ハボローネIDN=バボキ・カヤウェ】

アフリカ北部のボツワナの最年少大臣ボゴロ・ケネウェンド投資通商産業大臣(32歳)に焦点をあてた記事。青年向けリーダーシッププログラムに参加してミシェル・オバマ大統領夫人(当時)に対面、大学院卒業後ガーナで経験を積み汎アフリカ主義に共鳴、帰国後、昨年誕生したマシシ政権により投資通商大臣に任命された。また、アントニオ・グテーレス国連事務総長が昨年7月に設置した「デジタル協力に関するハイレベル・パネル」のメンバーも務めている。(原文へ

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文民政府を求めるスーダン市民の意思は固い

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

軍主導の暫定政権に民主化を要求し続けるスーダンの民衆に焦点を当てた記事。30年間に亘ってスーダンに君臨してきたバシール大統領は食糧・燃料不足とバンの高騰を背景に昨年より国内に広がった大規模な抗議活動を受け、4月11日、ついに国防軍によって身柄を拘束された。暫定政府は2年以内の民主化を約束しているが、公約の履行を疑問視する民衆が抗議活動を継続している。(原文へ

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アンゴラ、ロシア製武器の製造を計画

【モスクワIDN=ケスター・ケン・クロメガー】

多くのアフリカ諸国が、開発援助よりも、利益の上がるビジネスや投資、貿易を求めている。アフリカ中南部にあるアンゴラが、国家ビジネスの多様化の一環として、ロシア製軍装備品購入から、本格的な国内製造へと移行する計画を発表した。マーケットとして想定するのは、南部アフリカ、さらにはアフリカ全土だ。しかしこれは、平和と公正を求める「持続可能な開発目標」の第16目標の実現を阻害することになる。

ジョージワシントン大学エリオット国際関係大学院のデイビッド・シン教授は、「仮にアンゴラがロシア製武器の主要な生産・販売国になると、いずれはアンゴラ国外の南部アフリカ開発共同体(SADC、構成16カ国)諸国に武器が拡散する恐れがある。」と警告している。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

シン教授は、「どの国が製造した兵器であっても、アフリカの紛争地帯に流れる可能性があります。たとえば、中国やロシア、西側諸国で生産された武器が、ダルフールコンゴ東部ソマリアで使用されたことを示す証拠書類が多数存在します。」「中には、アフリカ諸国が(他国の)反政府武装集団に武器を移転したケースもありますし、その他多くの兵器が国際武器市場で購入されてきました。」と語った。シン教授は駐エチオピア米大使(1996~99)、駐ブルキナファソ米大使(1987~90)を務めた経験がある。

シン教授はさらに、「南アフリカ共和国が、最も高い武器生産能力を持っており、エジプトがそれに続きます。スーダンは、軍需産業の構築に関して中国やイランの支援を得てきました。またナイジェリアにも、武器を生産する能力があります。その意味において、(武器工場を建設するという)アンゴラの計画は、ロシアに支援されているという点を除けば、こうした国々と大差はありません。」と指摘したうえで、「アンゴラが武器輸出を進めるためにはアンゴラ議会の承認を必要とし、SADCやアフリカ連合(54カ国)、国連安保理もこの問題に高い関心を持つことを期待している。」と語った。

2月29日、国連安保理は、国際協力とパートナーシップの強化を通じて、さらには、アフリカ連合が主導する平和維持活動への強力な支持を通じて、アフリカにおける紛争終結という目標に向けたステップを示した決議を採択した。

国連安保理は、終日続いた討議の冒頭で決議2457(2019)を全会一致で採択するとともに、「2020年までに銃声を止める」キャンペーンを通じてアフリカ大陸における紛争の停止に取り組むアフリカ連合の決意を歓迎し、その目標に安保理としても貢献する用意があることを表明した。

Photo: Security Council meeting on Maintenance of international peace and security, Nuclear non-proliferation and nuclear disarmament. Credit: UN Photo/Loey Felipe
Photo: Security Council meeting on Maintenance of international peace and security, Nuclear non-proliferation and nuclear disarmament. Credit: UN Photo/Loey Felipe

この決議の重要性は、戦争に巻き込まれているか、あるいは、戦後の紛争あるいは緊張状態にあるアフリカ諸国が15もあるという事実に現れている。アフリカ西部では、コートジボワール、ギニア、リベリア、ナイジェリア、シエラレオネ、トーゴがそうであり、東部ではエリトリア、エチオピア、ソマリア、スーダン、ウガンダがそうである。

Photo: President Lourenço of Angola with President Putin of Russia. Credit: en.kremlin.ru
Photo: President Lourenço of Angola with President Putin of Russia. Credit: en.kremlin.ru

アンゴラのジョアン・ロウレンソ大統領は、4月2日から5日にかけて4日間のモスクワ公式訪問の際にイタール=タス通信が行った独占インタビューで、ロシア製兵器の製造計画について明らかにした。ロウレンソ大統領は、アンゴラはロシア製兵器の主要な購入国のひとつであるが、購入するだけではなく製造したいと述べたのである。

「ロシアとの軍事・技術協力は、今後も継続され、深化していくことだろう。ロシア製装備・技術の購入者という現在の立場から、ロシア製兵器の工場をわが国の国内に建設する製造者の立場へと移行していきたい。」とロウレンソ大統領はイタール=タス通信に語った。

ロウレンソ大統領のロシア訪問はアンゴラ大統領としては初めてのものであったが、1978年から82年までモスクワの軍事政治アカデミーで学んだ経験があり、同市についてはよく知っている。

ロシアは長年にわたり、「軍事・技術協力」をアフリカに対する外交政策の重要な一環とみなしてきた。アンゴラのサルビアーノ・デ・ヘスス・セケイラ国防相によると、ロシアは今年、アンゴラに対してすでに6機の戦闘機「SU-30K」を引き渡しており、5月末までにさらに2機を引き渡し予定だという。

セケイラ国防相はさらに、アンゴラはロシアの対空防衛システム「S-400」に関心を持っているが財政的な問題から協議は始まっていないとしながらも、「アンゴラ軍は伝統的にロシア製兵器の扱いに慣れています。そのため、両国間の軍事協力は永続するだろう。」と語った。

Photo: President Lourenço of Angola with President Putin of Russia. Credit: en.kremlin.ru
Photo: President Lourenço of Angola with President Putin of Russia. Credit: en.kremlin.ru

国防省ウェブサイトにある報告書によれば、ロシアはアンゴラに対して、ロシア製兵器の交換部品、軽兵器、弾薬、戦車、砲弾、多目的ヘリなど25億米ドル相当の武器と防衛装備品を供給することになっている。

アンゴラ:ロシアとアンゴラ―戦略的パートナーシップの再生」と題された南アフリカ国際問題研究所(SAIIA)の研究報告書では、著者のアナ・クリスティーナ・アルベス氏、アレクサンドラ・アルカンゲルスカヤ氏、ウラジミール・シュービン氏が、「防衛はロシア・アンゴラ間協力のもっとも堅固な側面である。これまで、ロシアがアンゴラにとって最重要の戦略的軍事パートナーである。」と述べている。

SAIIAの「グローバル大国とアフリカプログラム」のアナ・クリスティーナ・アルベス主任研究員は、「防衛装備品は疑いなく、ロシアの対アフリカ貿易の中でも最大かつもっとも利益を生む部分です。残念ながら二国間貿易の公的なデータは存在しませんが、もしそれらも含めることになると、二国間貿易の総量はもっと大きなものになると考えられます。これはおそらく、ロシアの対アフリカ関係の最も強力な側面ですが、武器取引という性格ゆえに、軍関係者以外では実情が知られておらず、実態を把握するのは困難です。」と語った。

ロシア科学アカデミー南部アフリカ研究センターのセンター長であるアンドレイ・トカレフ氏がロシアの金融日刊紙『コメルサント』に語ったところによれば、軍事・技術協力は二国間関係の優先的な領域であり、そのルーツは旧ソ連が1960年代にアンゴラ人ゲリラ部隊に対して武器を供給したことに遡るという。

「しかし、1994年に隣国の南アフリカ共和国でアパルトヘイト体制が崩壊し、2002年にアンゴラ内戦が終結したことから、アンゴラには潜在敵がいなくなり、武器供給の必要性が激減した。アンゴラの指導層は近年、同国をアフリカ諸国に対する旧ソ連製装備品の修理基地と位置づけようとしている。その点では、南アフリカも同様の構想を持っている。武器を購入し、同時に製造もするという今回の提案は南アフリカを出し抜こうとする戦略だとの見方も否定できないが、アンゴラの地元産業は自ら武器を製造する用意が十分にあるとはいえない。」とトカレフ氏は説明した。

The National Assembly building in Luanda, Angola, was built by a Portuguese company in 2013 at a cost of US$185 million./ By David Stanley from Nanaimo, Canada - National Assembly Building, CC BY 2.0" width="300
The National Assembly building in Luanda, Angola, was built by a Portuguese company in 2013 at a cost of US$185 million./ By David Stanley from Nanaimo, Canada – National Assembly Building, CC BY 2.0″ width=”300

外交の専門家らも懸念を示している。「チャタムハウス」でアフリカ・プログラムの責任者を務めるアレックス・バインス教授は電子メールでの取材に応じ、ロシアのアフリカ諸国との軍事・技術的協力について意見を述べた。バインズ教授は、2016年に英連邦オブザーバーグループの一員としてガーナに派遣されたことがあり、モザンビークやアンゴラでも国連の選挙監視員を務めた経験がある。

バインズ教授はロンドンから電子メールでこう回答を寄せた。「長年にわたり、アンゴラのロシアとの軍事的連携は緊密なものであり、シンポルテックス社[Simportex、アンゴラの政府系企業]を通じた調達の主たる部分はロシアからのものです。今年ロシアが戦闘機『SU-30K』6機を引き渡し、(アンゴラが)ロシアの対空システム『S-400』への関心を示していることから、こうした現状は続くだろう。新たな動きは、アンゴラにおいて防衛装備品を製造するためのロシアとの連携が進みつつあることです。ロシアはアフリカにいくつかの修理施設を持っています…しかしアンゴラとの提携が実現すれば、大きな展開となるだろう。」

バインズ教授はさらに、国連査察官など、自身がアンゴラで経験したことを振り返って、「アンゴラの武器に関しては、盗難のリスクが重大な問題なのではなく、むしろ最大の懸念は、倉庫から独立のブローカーに古い兵器が売却され、それが制裁対象の主体に転売されることです。」と指摘した。

シン教授は電子メールでのインタビューで、アンゴラが戦闘機「SU30-K」を購入したことを念頭に、アンゴラがなぜそれほど高性能な戦闘機を必要とするのか、潜在的な敵はどの国なのだろうか、と疑問を呈した。(原文へ

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【レイキャビクIDN=ロワナ・ヴィール】

カラフトシシャモの調査を5回にわたって行ったアイスランドの海洋・淡水研究所(IMFRI)は、地球温暖化がカラフトシシャモ減少の原因であるとして、2019年に関しては漁獲割り当てを勧告しないことを決めた。

同研究所のトルスタイン・シグルドソン遠洋部長は、「カラフトシシャモは冷水魚であり、1~3度の海水温を好みます。」と指摘したうえで、「今世紀初めごろからアイスランド北方海域における海水温の上昇に伴い、カラフトシシャモの分布に変化が生じ始めました。アイスランドの北海岸や西部フィヨルド沖に代わって、グリーンランドの東海岸沖でもっぱら見つかるようになりました。」と語った。

Map of Iceland
Map of Iceland

「1990年代末から起こっている環境の変化のせいにするのは容易なことです。考えられることは、環境の変化がカラフトシシャモの繁殖にマイナスの影響を及ぼし、その結果近年の漁獲量が、1980年代から90年代と比べて大幅に下回る事態になった可能性があります。」とシグルドソン遠洋部長は説明した。

この20年ほど「アイスランド周辺の海水温はかなり上昇してきました。」とIMFRIのオラフル・S・アストールソン博士は語った。アストールソン博士は、気候変動がアイスランドに及ぼす影響に関する包括的な研究の一環として、海洋生態系に関する章をとりまとめた責任者である。

アストールソン博士は、「確かに、2015年以降、海水温はわずかに下降しています。しかし、2000年以前のレベルよりは依然として高い」と指摘したうえで、「アイスランド周辺などの表層の海水温は、年によって、また長期的にも変動があります。現在の海水温の下降が1年限りのものなのか、それとも、より寒い時期の到来を意味するのかは、わかりません。」と語った。

カラフトシシャモは大群で移動するが、見つけるのが困難なことがある。にもかかわらず、2009~11年と2014年を例外として、この小さな遠洋魚は、タラに続いて収入をもたらす輸出品として重要な地位を占めてきた。ロビイスト集団「アイスランドの漁民たち」のエコノミストであるフレドリック・トール・ギュナールソン氏は、アイスランド統計局による数値を用いながら、海産物輸出による収入のうち、カラフトシシャモは常時6~12%を占めてきたと語った。

フィヤルザビッグズ市は、アイスランドの2018年のカラフトシシャモの水揚げ・加工の47%を占めた。さまざまな規模の7つの村々を構成する村のうち、もっとも重要な漁村は、ネスカウプスタドゥール、エスキフィヨルドゥール、ファスクルヅフィヨルドゥールの3村である。これらの村にはそれぞれ、カラフトシシャモを凍結したり、加工したり油をとったり、寿司の飾りとして使われる「まさご」として知られる黄色の魚卵を取り除いたりする会社が少なくとも1つはある。

これらの村々では、1月から3月にかけた生活はカラフトシシャモが中心となり、従業員は24時間体制で働く。しかし、海水温上昇が及ぼす影響としてカラフトシシャモの不足という事態は、フィヤルダビグド市の将来に暗い影を落としている。「2019年のフィヤルダビグドの賃金収入は前年と比べて5%減、額にして12億5000万アイスランドクローナ(940万ユーロ)まで落ち込むでしょう。」と同市雇用開発局のヴァルゲール・イージール・インゴルフソン氏は語った。

「漁業部門の従業員の賃金は、カラフトシシャモのシーズンが変動したことにより、前年比で13%減。輸出が地域にもたらす収入の減少は100億アイスランドクローナ(7億5130万ユーロ)。また、地元の漁業に直接関係のある企業の売上高は、6億アイスランドクローナ(450万ユーロ)にまで減少するだろう。」

Stöðvarfjörður in Ostisland./  Christian Bickel - Vlastito djelo, CC BY-SA 2.0 de
Stöðvarfjörður in Ostisland./ Christian Bickel – Vlastito djelo, CC BY-SA 2.0 de

さらに、「不況はフィヤルザビッグズ市の他の産業にも波及し」、やがて、企業や住民の投資やメンテナンス、その他のサービス購入に対する姿勢や、不動産市場にも影響を及ぼすことになるだろう。「市と港湾当局の2019年度の収入は、昨年度と比べて2.6億アイスランドクローナ(195万ユーロ)減ることになろう。」とインゴルフソン氏は語った。

「つまり、現在提案されている市のさまざまな開発プロジェクトは、予算不足のために延期を余儀なくされるだろう。」とインゴルフソン氏は指摘した。

問題は、今年だけに留まらないであろう。シグルドソン氏は、アイスランド沖で産卵する他の魚と異なり、カラフトシシャモは産卵直後に死ぬと指摘する。「カラフトシシャモの9割が3才の時に、1割が4才の時に産卵する。つまり、産卵時期にあるカラフトシシャモの大部分が、わずか1年の間に集中していることになる。ある年齢集団の産卵や孵化の規模がある年に小さくなると、3年後に孵化する集団が小さくなる。近年もそうした例が出てきており、資源の減少につながっている。」

シグルドソン氏は、今世紀に入ってから、シシャモ資源の状態がよかったことはほぼなく、漁獲量にそれが現れていると語る。「この5年間の漁獲高平均の30万トンは、1980年から2000年にかけての3分の1以下に過ぎない。1996年には最大で160万トンが獲れていた。」

また、アイスランド周辺ではこのところ海洋の酸性化が進んでおり、それが海の動物相に影響を及ぼしていることが考えられるという。エビのような甲殻類への影響に関して、先述の気候変動研究で海洋の酸性化に関する章を担当したアイスランド大学のヨン・オルフソン名誉教授は、「いや、その点に関してはほとんど研究がなされていません。甲殻、あるいは、炭化カルシウムを作る海洋生物に一般的な影響はあるかもしれませんが、個々の種に関しては言及していないのです。」と語った。

SDGs Goal No. 14
SDGs Goal No. 14

IMFRIのノルウェー・ロブスターに関する専門家ヨナス・ヨナソン氏は、資源量は2016年から2割減少していると推定され、「2005年以降、加入尾数は減っている」と語った。この傾向が反転しない限り「今後数年でノルウェー・ロブスターの資源量はさらに減ることになる。」加入尾数とは、5才のロブスターの数を指す。なぜなら、この年齢のロブスターがもっとも多く捕獲されるからだ。

しかし、これに関する海水酸性化の影響については、「ノルウェー・ロブスターの減少が、海洋の酸性化と直接結びつくとは考えていません。」とヨナソン氏は語った。

オラフソン氏と同じく、ヨナソン氏はこの領域に関する知見の少なさを指摘して、「将来的に酸性化が進むと、海洋生物の生理にどのような影響があるのかについては、ほとんど知られていません。この部分に関しては、ようやく研究が緒に就いたばかりであるというのが現実でしょう。」と語った。(原文へ

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【ベルリン/バチカンINPS Japan/IDN=ラメシュ・ジャウラ】

自分たちに唯一できることは道義と国際公法における原則の問題を解明することだけだと述べて、バチカンが国際連盟からの加盟要請を1923年に拒否して以来、多くの月日が流れた。

その後バチカンが国際連合常任オブザーバー国家になったのは、実に41年後の1964年4月6日のことである。それ以来、4人のローマ教皇(1965年にパウロ6世、1979年と1995年にヨハネ・パウロ2世、2008年にベネディクト16世〈当時名誉教皇〉、2015年にフランシスコ)が国連総会で演説を行ってきた。

いずれの教皇も国連に最大の賛辞を贈ってきた。それは歴代教皇が、国連は、歴史の中の今の時点で、人類が距離や国境、そしてあらゆる自然の限界を乗り越えて権限を行使する技術的能力を備えた、法的・政治的に最も適切な機関と見なしてきたからだ。

フランシスコ教皇はまた、国連創設70周年にあたる2015年の総会(9月25日)ですべての加盟国が全会一致で採択した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の重要性を強調した。

同アジェンダは、現在および将来にわたる人間と地球の平和と繁栄のための共通の青写真を示したものだ。その中心は、17項目に及ぶ持続可能な開発目標(SDGs)であり、世界的なパートナーシップを通じて、先進国も途上国も含めたすべての国々が行動するよう緊急に呼びかけたものである。

2030アジェンダの採択から3年半、ローマ教皇庁の人間開発のための部署と諸宗教対話評議会は、「宗教と持続可能な開発目標(SDGs)に関する国際会議:地球と貧者の叫びに耳を傾ける」を3日間(3月7日~9日)にわたって開催した。

参加者は、SDGsの実行に関わっているさまざまな宗教を代表する人々、外交官、国際組織の幹部、国際開発分野の学者や研究者らであった。

Hirotsugu Terasaki/ SGI
Hirotsugu Terasaki/ SGI

仏教団体である創価学会インタナショナル(SGI、本部・東京)の寺崎広嗣平和運動総局長は、信仰を基盤とした団体(FBO)・市民社会組織の一員として参加していた。寺崎氏は、SDGsに関して宗教間の会議が行われたことは「大変有意義なことです。」と振り返った。

「SDGsが示す誰も置き去りにしないとの精神で、個人の尊厳を認め合う対話の重要性を私はまず強調したい。」と寺崎氏はIDNの取材に対して語った。

寺崎氏はさらに、「現実に起こっている課題の本質を認識・共有することから行動は具体化されます。私たち宗教者は、市民社会の一員としての重要な役割を果たしていくべきであると思います。」と語った。

レバノンの「スンニ・サイーダ法廷」のムハンマド・アブ・ザイード議長は、この会議にはSDGsの究極的な目標である地球を守るために「対話するだけではなく、行動計画を策定するために」さまざまな異なる信仰を持つ人々が集った、と語った。

「この地球を守るという共通の目標に向けた宗教間パートナーシップこそが会議の肝であり、私たちが成しうる最も重要なことです。」

ザイード師は、この会議が宗教間の対立を解消する一助となるかどうかという問いに対して、「ええ。対立の解消にきっと役立つことでしょう。しかし、会議だけでは十分ではありません。有言実行を積み重ねていかねばなりません。私たちは(地球を守るための)旅を共に歩みながら、それぞれの教えと理論をもっと実践的なものに変える行動計画を持つ必要があります。」と語った。

インドの学者・環境活動家で、食料主権の主唱者であり、アルテルモンディアリスム(もう一つの世界主義)に関する著作もあるヴァンダナ・シヴァ氏は、今回の会議で「ヒンドゥー教徒の観点」について発言したが、IDNの取材に対して、「ヒンドゥー教とキリスト教の深い精神的な観点には大きな違いはありません。両者とも、使っている言葉は違えど、被造物の保全(Integrity of Creation)について論じています。」と語った。

「(ヒンドゥー教では)ウパニシャッドのなかで『貪欲を避けよ』と説きます。一方、イエス・キリストは金貸しのところに行ってテーブルをひっくり返しました。つまり、基本的な原則は共通しているのです。ヴェーダとウパニシャッドは世界最古のスピリチュアルな文献であり、人類が地球上で生命を維持していくための生き方を示しています。したがって、主な違いは、アブラハムの伝統は約2000年であるのに対して、私たちのそれは1万年であるということだけです。つまり、前の時代を生きた女性たちは常に賢明だったということです。」

最もよく知られたアブラハムの宗教は、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教であり、すべて一神教である。これらの宗教はまた、民衆は神に祈りをささげ信仰すべきであると信じている。一神教的な諸宗教の中で、アブラハムの宗教が世界で最も多くの信者を獲得している。

ヴェーダのひとつであるウパニシャッドは、サンスクリット語で記された文書であり、ヒンドゥー教の中心的な哲学的概念・観念が含まれている。仏教やジャイナ教といった伝統的な宗教と共通する部分もある

マイケル・モラー国連事務次長(国連欧州本部長)は、今回の会議は、自身が「これまでに参加した会議」の中で、「SDGsの履行とパートナーシップに関する最も重要な会議のひとつだ」と評価し、「楽観的な意識と目的感覚を新たにして」帰国の途につくと語った。

Photo: Michael Møller, UNOG Acting Director-General, Palais des Nations, Geneva. Monday 11 November 2013 Credit: UN Photo
Photo: Michael Møller, UNOG Acting Director-General, Palais des Nations, Geneva. Monday 11 November 2013 Credit: UN Photo

それ以前にモラー事務次長は、全体会の参加者に対して、「ジュネーブからローマへの途上、国連と宗教との関係について考えていました。…国連は、世俗的な組織ではありますが、その設立時から世界の主要な宗教と手を携えてきました。」と語った。

「人類の希望の光として、偉大なる宗教と同じく国連も、より良い世界―すなわち、寛容で平和な世界、貧しい家庭に生まれようが裕福な家庭に生まれようが、あるいは、男性に生まれようが女性に生まれようが、そうした出自とは関係なく皆が希望を持って生きることのできる世界―を目指す普遍的な希望の下に人々を結びつけています。」

「国連は、強者のためだけではなく弱者や、虐げられ脆弱な立場にある人々のために創設されました。国連は、持続可能な開発目標の中核をなす大願であり明確な目的でもある『誰も置き去りにしない』世界を実現するために創設されたのです。」とモラー事務次長は語った。

またモラー事務次長は「ダグ・ハマーショルド国連事務総長」の言葉を引用して、「国連は、必然的に、すべての宗教から中立な立場に位置します。しかし、国連は信仰の手段でもあるのです。つまり国連は、世界の偉大なる宗教を、分断ではなく、結びつけるものによって、触発される機関なのです。」と語った。

モラー事務次長はさらにつづけて「それは今日の国連も同じです。私たちは行動の核心部分において、慈愛に満ち、寛容で、汝の隣人を愛すという普遍的な価値を扱っているのです。」「こうした教えに関して、どの宗教も独占を主張することはできません。こうした価値観は人間の精神に根差したもので、国際人権法に体現されています。これらは、国連憲章を活性化させ、持続可能な開発のための2030アジェンダの本質を包含しています。」と語った。

ガーナ出身でローマ教皇庁人間開発のための部署の長官を務めるピーター・タークソン枢機卿は、IDNの取材に対して、「この会議は(SDGs達成に向けた)気運を高め、新たにグローバルな結束を図っていくために、この共同の『旅』に協力し合って踏み出そうという考え方に基づいています。」と語った。

タークソン枢機卿は「宗教は変化に向けた目的を設定し、それを鼓舞するものです。」と指摘したうえで、「持続可能な開発を生み出そうとするならば、ライフスタイルのあり方にも、モノの生産や流通、消費、廃棄のやり方にも、急激な変化が必要です。そうした変化を引き起こすには深い動機付けが必要ですが、開発を技術的な用語に絡めて語るだけでは、それは生み出せません。」と語った。

「人生を変えるような力強いストーリーの中で、宗教に関する物語は抜きんでています。そうした物語は、世代から世代へと語り継がれ、世界中で数多くの民衆やコミュニティーの心を捉えてきました。宗教は、私たちが今日必要とする変革に向けたインセンティブを実際に与えることができるのです。」

3月7日の会議の開会挨拶で、タークソン枢機卿は、持続可能な将来に必要なエネルギーを提供してくれる人々が3種類あります(①若者②先住民③信仰心を持った人々)と指摘した。

International Conference on Religions and Sustainable Development Goals (SDGs) Credit: Katsuhiro Asagiri, IDN | INPS
International Conference on Religions and Sustainable Development Goals (SDGs) Credit: Katsuhiro Asagiri, IDN | INPS

ローマ教皇庁の人間開発のための部署は2017年11月10・11両日にも「核兵器なき世界と統合的な軍縮」をテーマとした会議を開催し、宗教指導者や市民社会の代表、諸政府、国際機関関係者、著名な学者、ノーベル平和賞受賞者、学生代表らが参加した。(文へPDF

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Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan.