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北欧諸国が持続可能な開発目標を支持

【レイキャビクIDN=ロワナ・ヴィール】

北欧5カ国の指導者らが、国連の下で合意された持続可能な開発目標(SDGs)を北欧諸国全体として支持すると最近発表した。

「グローバルな課題への北欧の解決策」と題された構想は、当初、気候変動に関するパリ協定と、17項目のSDGsを提示した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された2015年に披露された。

2015年にパリで開かれた第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)以来、このプログラムの策定は進み、デンマーク・アイスランド・ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの首相が出席して5月30日に開催された北欧閣僚会議の会合において発表された。

その目的のひとつは、エコ推進の変遷、職場におけるジェンダー平等、持続可能な食料、福祉問題の解決について北欧の経験を提示することであり、持続可能な開発を追求することが必ずしも経済成長を阻害することにはならないということを示すために北欧の事例を持ち出すことにあった。

この2年計画の構想は、約1000万ユーロにのぼる予算の裏付けを伴い、すべて北欧の経験に則った6つの主要なプロジェクトから構成されている。それは、①エネルギー問題の解決、②気候問題の解決、③持続可能な都市、④職場でのジェンダー平等の効果、⑤福祉問題の解決、⑥食料政策研究であり、SDGsが掲げるほとんどの目標に取り組むことになる。

北欧諸国はとりわけ、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスによる発電の経験が長く、その解決策の多くが他の場所でも適用可能なものだ。

Location of the Nordic countries/ Public Domain
Location of the Nordic countries/ Public Domain

「エネルギー問題の解決」における優先順位の高い行動は、たとえば、途上国における再生可能資源に関する政策や資金調達、技術に関するギャップと、さらなる投資を促すためにそれらのギャップを埋める方策を明らかにすることが挙げられる。

その目的は、各国と国際の両レベルにおいて、「みんなのための持続可能なエネルギー」という国連の目標に関する既存の解決策や実行枠組みとの重複を避け、むしろそれらを補完することにある。

このプロジェクトは、北欧諸国や企業、その他の組織がすでに関わりを持っており、さらなる拡大の余地が明確になっている東部アフリカの特定の国々に焦点を当てることになる。

プロジェクトのコーディネーターであるスヴェント・ソイランド氏によると、「エネルギーに関する解決策」構想は第一義的には「安価でクリーンなエネルギー」に関するSDGs第7目標に関連するものとなるが、「同時に、貧困削減、保健の向上、教育、ジェンダー平等、経済成長、持続可能な都市・共同体、環境関連行動(SDGs第21113目標)を可能とする主な要素にもなる。最後に、これら全ての目標を達成するうえで必要なパートナーシップのアプローチ(SDGs第17目標)を実現することにもなる」。

「気候問題の解決」は、化石燃料補助金改革(FFSR)と「北欧緑の指標」という2つの側面を含む。

FFSRの究極の目標は、自発的な改革を支援することにある。気候の緩和やそれに似た措置の代わりとして、炭素価格制度や浮いた予算の再分配のような政策の導入が望ましい。パートナー国における排出削減に加え、同じような状況に直面している他の開発途上国にとって刺激となることだろう。

「北欧緑の指標」プログラムとは、1カ国以上の北欧諸国で利用されている、15の成功した既存の気候問題の解決策を測定することである。居住用熱ポンプ、産業における低炭素エネルギー、肥料管理などが例として挙げられる。比較可能な国々において広く適用されたならば、この試みによって2030年までに4.1ギガトン相当のCO2削減が可能かもしれない。北欧地域を越えてこのプログラムを拡張すれば、さらなる削減も期待できる。

SDGs for All Logo
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ハンス・フリードベルク氏が率いる「持続可能な都市」構想は、「持続可能な都市と共同体」に関するSDGs第11目標に取り組むものだ。このプログラムは全国的な貿易促進機関や団体、企業との緊密な協力の下で行われ、北欧の利害関係者と拡大する輸出機会との間の協力に焦点をあてる。9月の会議では、将来に向けた都市構築における北欧モデルの役割を検証する。

北欧諸国は、ジェンダー平等にも長らく取り組んできている。「職場におけるジェンダー効果」のプログラムは、SDGs第5目標(ジェンダー平等)と第8目標(人間らしい労働と経済成長)に緊密に結びついている。

このプロジェクトのアイディアを出し、基本枠組をまとめたジュリア・ファルト=ワヘンゴ氏は、「北欧地域は、職場における男女平等が、繁栄と生産性、経済発展をもたらすことを証明してきました。」と語った。ワヘンゴ氏は上級顧問としてプロジェクトを導き、実行はライン・クリスマス・モラー氏が牽引しコーディネートしている。

ジェンダー平等と同じく、保健と福祉が常に北欧社会の中心的要素だった。北欧「福祉問題の解決」のプロジェクト責任者であるモナ・トゥルーエルセン氏は、「福祉技術には、ユーザー指向の技術とロボットによる解決策が含まれています。」と語った。

トゥルーエルセン氏は、「北欧諸国が保健分野の変革をリードする中、解決策と概念を市場に持ち込む新たな機会が生まれています。北欧諸国が実行している保健分野の変革は、変革が同じスピードで起きていない他の国々に比べて、将来の保健システムに向けた解決策を確立する機会を創出しているのです。」と説明した。

トゥルーエルセン氏は、遠隔医療や電子医療システムの広範な利用に加え、すべての人にとって患者情報を利用可能にすることを指摘した。「北欧諸国は、持続可能性のある病院運営の点で世界で最も先進的である…建設や廃棄物管理のような分野における厳格なルールと規制のために、北欧地域において環境面で持続可能な解決が発展してきています。」とトゥルーエルセン氏は語った。

北欧の「福祉問題の解決」は、SDGs第3目標(健康と福祉)、第9目標(産業・技術革新・インフラ)、第12目標(責任ある消費と生産)に関連している。

最後の旗艦的なプロジェクトである「食料政策研究」は、SDGsにおいて課題とされた食料問題の解決に資するような方法として、北欧の政策的解決策の利用を促進すべく立ち上げられたものだ。その意図は、消費者に対して、食料に関する選択を行う際に「持続可能性」を考慮に入れるよう教育する点にある。

ロシア人とデンマーク人を父母に持つ活動家セリーナ・ジュール氏は、2008年にデンマークで始めた「食べ物の無駄をなくそう」運動を成功させ、同国において廃棄食品の大幅な減少を生み出してきた。

Stop Wasting Food movement Denmark
Stop Wasting Food movement Denmark

「廃棄食品に関する北欧の他の活動と並んで、ジュール氏の活動は『北欧食料政策研究』の活動の一部となることだろう」とコーディネーターのマッヅ・フレデリーク・フィッシャー=モラー氏は語った。

「私たちの政策に対する関心は海外できわめて高いものがあります。先週はオランダで、今はスコットランドで、議会や政府関係者と話をしています。…欧州連合(EU)は廃棄食品のアプローチに興味を示し、多くの国々が栄養と食料文化政策に関心を持っています。地方政府は、『新北欧キッチン』からの食料問題に関する革新に学ぶ意欲があります。こうした例はいくらでも挙げられます。総じていえば、先進国(欧州・北米)からの要請が最も強いように思います。」とフィッシャー=モラー氏は付け加えた。

北欧のこの構想とは別に、スウェーデン政府が6月15日、CO2排出を2045年までにゼロ(カーボンニュートラル)にすると発表した。同国の気候法は、同年までに温暖効果ガスの排出を差し引きゼロにするという究極の目標を立てているが、2030年・40年の暫定目標も設けている。

他方で、初の「世界循環経済フォーラム」(北欧閣僚会議が共催)が6月5日から7日にヘルシンキで開催されたばかりである。循環経済は、国連の2030アジェンダとそれに関連したSDGsの達成に向けてカギを握ると広く見なされている。

「グローバルな課題への北欧の解決策」に循環経済を何らかの形で盛り込むかどうかについて、北欧閣僚会議のハイディ・オラヴァ氏は「この構想は循環経済に関するものではありませんが、たとえば食料の部分に関して言えば、ゴミ投棄禁止や資源を効率化するという観点が含まれています。」と語った。(原文へ) |ドイツ語スペイン語|

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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アイスランドで北極圏会議、持続可能性について議論

歴史的な国連会議、海の環境回復を誓う

【国連IDN=J・ナストラニス】

私たちの海は、そのすべての多様性において、私たちが共有する未来と、共通の人間の運命にとって、きわめて重要なものだ。海は地球の4分の3を覆い、人口や市場を結びつけ、自然と人類の文化遺産の重要な一部分を構成している。

海は、私たちが吸う酸素の半分近くを供給し、私たちが排出するCO2の4分の1以上を吸収し、水の循環と気候システムにおいて重要な役割を果たし、地球の生物多様性と生態系の重要な源となっている。

また海は、持続可能な開発と持続可能な海を基盤とした経済だけではなく、貧困根絶、食料の安全保障と栄養、海洋貿易・交通、人間らしい労働と生活にも貢献している。

1週間に及ぶ国連海洋会議で全会一致で採択された14項目からなる「行動の呼びかけ(Call for Action)」に関するこれらの抜粋は、歴史を通じて各世代が考慮に入れてきた周知の事実であると誰もが思うだろう。

しかし、実際は、これらは周知の事実などではなかった。ニューヨークの国連本部で6月9日まで開催された会議は、海洋に関する史上初めてのサミットであった。しかし、海洋環境の悪化を反転させるグローバルな合意と、青い海を守る1300以上の行動目標でもって、会議は終結した。

「行動の呼びかけ」は、参加した各国元首や上級代表によって全会一致で採択された。呼びかけは「持続可能な開発のために、海洋や海、海洋資源を保全し持続可能な形で利用する私たちの力強いコミットメントを確認する」と述べている。

「海洋における問題に対する世界的な意識のレベルは引き上げられました。」と国連総会のピーター・トムソン議長はニューヨークで記者らに語った。

スウェーデンと共に会議を主催したフィジー出身のトムソン議長は、主催者はこの会議から期待したとおりの成果を得られたと語った。「会議の結果には100%満足しています。私たちの目標は、海をとりまくこれまでのサイクルを反転させるという野心的なものでした。」

トムソン議長と共に会見した呉紅波(Wu Hongbo)国連海洋会議事務局長は、交渉された文書は、海洋のための「世界的なコミットメントとパートナーシップを活性化させるため」の具体的な措置をリスト化したものでした。」と語った。

この政治的文書と(6月5日から9日の)議論で出された主要な論点は、国連の「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム」に持ち込まれる。同フォーラムは、2015年9月に採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ(2030アジェンダ)」と持続可能な開発目標(SDGs)実施に関し、政治的リーダーシップや指針、提言を提供するために不可欠なグローバルな話し合いの場である。

Sustainable Development Knowledge Platform

政治的な「行動呼びかけ」に加えて、数千人の市民社会の代表、学者、芸術家、金融関係者、その他の活動家を含む会議の参加者は、海洋や海、海洋資源を保全し持続可能な形で利用する行動を約束した。これは、SDGsの第14目標にあたる。6月9日の午後までに、すでに1300項目以上の自主的コミットメントが登録されている。

この数字は「非常に印象的なもの」と述べた呉事務局長(国連経済社会問題担当事務次長でもある)は、これらの約束は「海に関する解決策のリスト」を構成していると強調した。

「私たちの海、私たちの将来:行動呼びかけ」において参加者らは、SDGsのすべての項目の統合的で不可分の性格と、それらの間の相関関係や相乗効果を強調し、彼らの作業が、「2030アジェンダ」で再確認された原則も含めて、同アジェンダによって導かれることがきわめて重要であると改めて表明した。

参加者らは、「2030アジェンダ」で認識されているように、とりわけ後発開発途上国(LDC)や内陸部の開発途上国、小規模島嶼開発途上国(SIDS)、アフリカ諸国(沿岸諸国を含む)において、持続可能な開発を追求するうえで特定の問題に直面していると認識している。また、多くの中進国においても重大な課題がある。

「行動の呼びかけ」において参加者らは、「各国が直面している様々な現実や能力、開発のレベルを考慮に入れ、各国の政策や優先順位を尊重しながら、(2030年という)期限内に第14目標を達成するという公約と、長期にわたってそうした行動を維持していく必要性を改めて表明した。」参加者らはまた、SIDSとLDCにとっては、第14目標における特定の目標がとりわけ重要であることを認識した。

SDGs Goal No. 14
SDGs Goal No. 14

約6000人が参加したこの会議では、これは「私たちすべてか、無か」という問題であると認識された。トムソン議長は、「海に関して言えば、これは人類の共通の遺産です。南北関係も、東西問題もありません。」と指摘したうえで、「もし海が死にゆけば、私たちもみな死にゆくことになるのです。」と語った。

トムソン議長は、この会議はSDGs第14目標に関して「車輪を回転させる」ことによって、SDGsの17目標全てに関して事態を前進させ、海洋科学に資金提供を行うことができるが、能力のギャップを埋めるためにはまだまだ多くのことが必要とされる、と強調した。

討論されたテーマは、海洋におけるプラスチック汚染から、海の酸性化、違法漁業まで、幅広いものだった。それらは、貧困を緩和し、飢餓を根絶し、保健を促進し、水や衛生を提供するという話題と結びつけるものであった。

トムソン議長は、会議の成功は、さまざまな参加者が集まって討議し協力した「素晴らしいやり方」によるものだと語った。

トムソン議長は、「ここには『連中』と『我々』(という分断が)あるのではありません。『自分たち全員』か『無』しかないのです。」と述べ、この会議においては、政府とその他の部門の間で典型的にみられる分断を乗り越える上で、市民社会や科学界、民間部門に門戸を開放してきた点を称賛した。

国連海洋会議は、8つの全体会と7つのパートナーシップ対話に加え、SDGsメディアゾーンにおける150のサイドイベント、41の展示やインタビューで構成されていた。

たとえば、「新・海の擁護者たち」(New Oceans Advocate)や世界的に有名なオーストラリアのシンガーソングライター、コーディー・シンプソン氏、海洋生物学者ダグラス・マコーリー氏、アボリジニの芸術家シド・ブルース・ショート・ジョー氏、スペインの慈善活動家アルバロ・デ・マリチャラー氏らが参加するイベントも開催された。

会議の共同議長であるイザベラ・ロヴィーン副首相(スウェーデン)は、「こうした有名人による行動への強力な支持のお蔭で、海洋に関する行動について『創造性と連帯感』が生み出されています。」と語った。

6月8日の「世界海の日」には、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が、地球の海は、気候変動や公害、破壊的な漁業などの脅威と、それに対処する能力の欠如により、将来にわたって大きな負担に苦しんでいる事実に注意を向けた。

Secretary-General António Guterres addresses the opening of the UN Ocean Conference. / UN Photo

グテーレス事務総長は、「世界海の日」に寄せたメッセージで、「持続可能なやり方で海洋に配慮し、海洋を利用することは、あらゆる場所のコミュニティーにとっての生態学的・経済的目標を達成するうえで、きわめて重要です。」と語った。

グレーレス事務総長は、「将来を展望すれば、海洋の保全と持続可能な利用は、海洋が直面している脅威に効果的に対処する道筋をなんとか見出してこそ、達成しうると言えるでしょう。」と指摘したうえで、「私たちの将来は、いかに情報を共有し、共通の問題に対する解決策を見出すかという集団的な決意にかかっているのです。」と強調した。

国連教育科学文化機構(ユネスコ)のイリナ・ボコヴァ事務局長は、「世界海の日」を祝うメッセージで、「海洋の状況が健全であるためには、海洋科学に関する強力な世界的知識が必要です。」と述べ、地球の死活的な運命を握る海洋を守るために科学知識を最大限動員し利用することを強く呼びかけた。

「測れないことを管理することはできないし、海で起こっている無数の変化をたった一国で測ることなどできません。フィジーからスウェーデン、ナミビアから北極に至るまで、あらゆる政府とパートナーが、科学を基盤とした共通の政策を策定すべく知識を共有しなくてはなりません。」とボコヴァ事務局長は語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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世界の最貧困層は気候問題の解決を求める

「理性と心情の組み合わせ」で実現した核兵器禁止条約

【国連IDN=ラメシュ・ジャウラ】

国連本部で開かれていた核兵器を法的に禁止する条約の制定を目指す交渉会議で7月7日、核兵器禁止条約が、「歴史的」かつ感動的な雰囲気の中で、賛成多数で採択された。

交渉会議の議長をつとめたエレイン・ホワイト・ゴメス駐ジュネーブ軍縮大使(コスタリカ)は、第二次世界大戦終盤の1945年8月に広島・長崎で最初の原爆が使用されてから「70年、世界はこの法的規範を待ち望んできました。」と語った。

「とても感動しています。なぜなら、私たちは現在と将来の世代の希望と夢に、いま応えているからです。」とホワイト議長はニューヨーク国連本部で開かれた記者会見で語った。

核兵器禁止条約は、この20年の間、議論されてきた核軍縮に、初めて法的拘束力を持たせた多国間の枠組みである。この条約によって、世界は核兵器の完全廃絶に「一歩近づきました。」とホワイト議長は語った。

賛成122、反対1(オランダ)、棄権1(シンガポール)で採択された核兵器禁止条約は、核兵器やその他の核爆発装置の開発・実験・生産・製造・取得・保有・備蓄などの核兵器関連活動を全体として禁止している。禁止事項には、核兵器やその他の核爆発装置を使用したり、使用の威嚇を行ったりすることも含まれている。

ホワイト議長は、「129カ国が条約の起草に加わったが、これは193の国連加盟国の3分の2にあたります。」と語った。しかし、全ての核兵器保有国(国連安保理常任理事国である米国・英国・フランス・ロシア・中国に、インド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮を加えた9カ国)と、核の抑止力に依存する北大西洋条約機構(NATO)加盟国などの国々は、協議に参加しなかった。

唯一の例外は、米国の核兵器を領土に配備することを認めているオランダであった。国会が交渉会議に代表を送るよう政府に要請したためである。

核兵器禁止条約は「核兵器の全面的廃絶のための国際デー」に6日先立つ9月20日にニューヨークの国連本部で全ての加盟国に対して署名開放され、少なくとも50カ国が批准すれば90日後に発効する。

Stéphane Dujarric/ UN Photo/Evan Schneider
Stéphane Dujarric/ UN Photo/Evan Schneider

国連のステファンドゥジャリク事務総長報道官は採択後、「核兵器禁止条約は、核兵器のない世界という共通の目標に向けた重要な一歩です。」「グレーレス事務総長は、この新しい条約が、長年停滞してきた核軍縮の実現に向け、包括的な対話と新たな国際協力が進むことを望んでいます。」と語った。

しかし、米国・英国・フランスの3カ国は7月7日に共同で声明を出し、「我々は条約交渉には加わらなかった…そして、条約に署名・批准したり、加盟国になったりする意図は全くない。」と語った。

共同声明はさらに、「この取り組みは、国際安全保障環境の現実を無視したものだ」と指摘したうえで、「核兵器禁止条約の締結は、欧州と北東アジアにおいて70年間以上も平和を保つうえで不可欠であった核抑止の政策と矛盾する。」と主張した。

ホワイト議長は、この共同声明が提起した疑問点について、「かつて核不拡散条約(NPT)が採択された際にも、加盟国数は多くなかった。」という事実を指摘した。

1968年に署名開放された同条約は1970年に発効した。1995年5月11日、条約は無期限延長された。5つの核兵器国を含めた全191カ国が条約に加盟している。「当初は、これらの国々がNPTに加盟することは考えもしなかったことです。」とホワイト議長は指摘したうえで、「しかし、世界も国際状況も変化しているのです。」と論じた。

ホワイト議長はまた、核爆発の被害を者を意味する「ヒバクシャ」が、核兵器禁止条約の採択を加速する原動力であったと語った。ヒバクシャが証言し続けてきた壮絶な被爆経験の内容は「人々の心を打つもの」であり、核兵器禁止条約の採択に向けた交渉は、まさに「理性と心情の組み合わせ」であったと語った。

新たに国連軍縮問題担当上級代表に就任した中満泉氏は、最近の「国連ニュース」のインタビューの中で「核兵器国とその一部の同盟国は、現在は交渉に加わることができないかもしれません。しかし、結果的には参加できるような条約になることを私は期待しています。」と語った。

Izumi Nakamitsu/ UN Photo/ Manuel Elias

中満上級代表は、「扉はすべての国に対して開放されておらねばならず、こうした包摂性が条約に組み込まれるべきです。」と語った。

条約草案には、核保有国が参加する様々な道筋が埋め込まれている。たとえば、ある核保有国が加盟する場合、加盟前に核兵器プログラムをまず廃止しなくてはならないが、当該国は、その核物質及び核施設のリストの完全性を検証する目的で、国際原子力機関(IAEA)と協力する必要がある。これは(1990年代に核兵器を自ら放棄した)南アフリカ共和国が行った手続きと同じである。

ホワイト議長は7月6日の記者会見で、「これは交渉ですから、いかなる国の代表も自国の観点から望む全てを手にして議場をあとにすることなどできません。」と指摘する一方で、「その熱情と知識、集団的な経験でもってこの交渉プロセスを突き動かしてきた市民社会も含め、この会議に参加する圧倒的多数の人びとの希望を最終草案は捉えたものです。」と自信を示した。

国連ニュースによると、ホワイト議長は記者の質問に対して、核兵器なき世界の実現に向けた最初のステップとして国際的な法的規範を確立することの重要性を強調した。つまり、「(将来的に)核保有国が参加する機が熟した際に、それを可能にする仕組みが既に存在していることになるのです。」と説明した。

また、「あらゆる人々が、核保有国が条約に『遅かれ早かれ』参加することを望んでいますが、いつになるかは分かりません。」と語った。さらにIDNの質問に対して、「私は今後も、協議に参加しなかった国々との対話を続けていきます。」と語った。

北朝鮮の核・弾道ミサイル開発をめぐる現在の緊張が協議に与えた影響について問われたホワイト議長は、「法的規範を確立すれば、国の行動に必ず影響を及ぼしますし、21世紀の新しい安全保障パラダイムを形成するうえで根本的な役割を果たすことになります。」「核兵器禁止条約は、核軍縮・不拡散体制の世界的な仕組みを補完し強化していくものに違いありません。これは人類にとって歴史的な出来事です。」と語った。

この「歴史的な出来事」の起源は、核兵器の全面的廃絶を目指し、法的拘束力のある核兵器禁止条約の交渉を行うための国連会議を2017年に開催することを決定した国連総会決議71/258に遡る。

UN conference to negotiate a legally-binding instrument to prohibit nuclear weapons/ Soka Gakkai.
UN conference to negotiate a legally-binding instrument to prohibit nuclear weapons/ Soka Gakkai.

国連総会は、すべての加盟国に会議への参加を推奨し、国際組織や市民社会の代表の参加と貢献も得つつ、会議が他の決定をしないかぎり、国連総会の手続き規則に従ってニューヨークで招集されるべきものと決定した。

こうして核兵器禁止条約交渉会議はニューヨークで3月27日~31日と、6月15日~7月7日に開催された。

この会議を招集する決定は、決議70/33に基づき招集された多国間核軍縮交渉の前進に関する国連公開作業部会の勧告に従ったものである。

タイのタニ・トーンパクディ大使が議長を務めた公開作業部会は、その報告書で、法的拘束力のある核兵器禁止条約を締結すれば、核兵器の原則的な禁止とそれに伴う義務のほか、核兵器のない世界を実現、維持するための政治的な確約も得られるだろうと明記していた。

公開作業部会の最重要マンデートは、核兵器なき世界を実現、維持するために締結する必要のある具体的かつ実効的な法的措置、法的条項、規範の問題を扱うことであった。(原文へ

翻訳:INPS Japan

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若者たちが包括的核実験禁止条約を実現させる決意を新たに

【ニューヨーク/ウィーンIDN=ラメシュ・ジャウラ】

CTBTO青年グループ(Youth for CTBTO)のメンバーである若者らが「青年として、私たちは世界の将来を担うリーダーです。つまり、私たちは、やがてはこの世界を受け継いで生きていくとともに、子どもたちとその子孫に希望と夢を託することになる者たちである。」と宣言した。

包括的核実験禁止条約(CTBT)が署名開放されてから20年、核爆発実験に関する法的拘束力のある包括的な禁止を確立したこの条約が依然として発効していないことは遺憾である。」と、CTBTO青年グループは共同声明で述べた。

Youth for CTBTO/ CTBTO
Youth for CTBTO/ CTBTO

同声明はまた、「長年にわたって、CTBT発効に向けた外交的な努力が傾けられてきたにもかかわらず、国際社会は条約発効を成し遂げるには至っていない。」と指摘したうえで、「私たちは、従来のアプローチを見直す必要があり、未批准の発効要件国(「付属書2諸国」:中国・エジプト・インド・イラン・イスラエル・朝鮮民主主義人民共和国・パキスタン・米国)には、各々の国にとって、認識され対処されるべき懸案事項があることを認識している。私たちは、そうした各国の懸案に対処し溝を埋めるうえで、平等の原則に基づく建設的な対話が果たせる能力を信じている。」と述べた。

声明は、「核兵器なき世界」というCTBTO青年グループで共有された価値を確認した。「この目的のために、私たちは、CTBTは核軍縮に向けた重要な次のステップであり、国際核不拡散レジームの重要な要素であると考えている。」

2016年6月13日の声明で示されたこれらの見解は、CTBTOが(同機関の拠点である)ウィーンで主催した「平和と安全保障のための科学と外交:CTBT20周年」と題したシンポジウムでCTBTO準備委員会の事務局長であるラッシーナ・ゼルボ博士が青年グループを立ち上げてから17カ月後に、大きく打ち出されたものである。

ゼルボ事務局長は、「今日の若者は、気候変動や環境を巡る状況と同じく、過去の近視眼的な政策決定がもたらした結果に直面しています。」と論じた。

Dr. Lassina Zervo/ CTBTO
Dr. Lassina Zervo/ CTBTO

ゼルボ事務局長はさらに、「私たちの世代には、若者たちが将来の難題に対応する準備ができるように、教育機会と訓練を提供する責任があります。」と語った。こうした動機から、ゼルボ事務局長は2016年2月にCTBTO青年グループを立ち上げ、CTBTの教材、ネットワークやフォーラム、CTBTOのオウトリーチ活動に参加する機会を提供してきた。

CTBTO青年グループは、世界の平和と安全に貢献する職種を志向し、CTBTとその検証体制を積極的に推進することを望んでいるすべての学生と若手社会人に門戸を開いている。

現在、同グループには、世界全体から200人以上の学生と若手社会人らが集い、CTBT発効の実現という目標を共有している。メンバーらは、各自にとってのCTBTの意義を明確にし、自らの声でそのメッセージを同年代の若者層や社会全体に伝えるべく、能力構築(キャパシティビルディング)を通じて力をつけている。

さらに、CTBTOによって青年グループに提供される資源は、ブレーンストーミングや知識の共有、プロジェクト開発のためのメンバー間の連携を促進する役割を果たしている。

CTBTOが6月26日から30日までウィーンの絢爛豪華なホーフブルク宮殿で開催した「CTBTO科学技術会議」において、2016年2月に立ち上げられたCTBTO青年グループは成熟しているように見えた。これは、ゼルボ事務局長が設定した目標を可能な限り早期に達成できるようにとCTBTOの広報部長が努力したためでもあるだろう。

50カ国以上の出身者70人が代表参加したCTBTO青年グループは、科学技術会議の議論の不可欠の部分を構成していたいただけではない。彼らはまた、自らの論文とアウトリーチのためのプロジェクトを発表したほか、ワークショップや討論に参加し、「青年記者室」プロジェクトにおいて「市民ジャーナリズム」の実践を試みた。

5日間の一連のイベントにおいて、CTBTO青年グループのメンバーらは、核兵器なき世界に向けた活動へのコミットメントを再確認した。すべての核爆発を、地上・大気圏・水中・地下など世界中どこでも、誰によるものであっても禁止するCTBTの発効に間違いなく関連している目標である。

彼らは、政策責任者や学者、学生、専門家、メディアの間でCTBTを巡る議論を再活性化させ、核実験禁止の重要性への意識を高め、若い世代への知識移転の基礎を築き、ソーシャルメディアやデジタルによる視覚化、情報伝達のための双方向的な手段といった新しい技術をCTBT促進に取り込む自らの能力と、CTBTを世界で最も重要な核関連の課題に押し上げる能力を証明した。

加えて昨年、CTBTO青年グループのメンバーたちは、関連イベントや活動に定期的に参加したり貢献したりしてCTBTの役割について意識を高め、法的拘束力のある核実験の禁止の重要性を伝えた。なかでも、ワシントンやニューヨーク、ブリュッセルなどで注目されるイベントに出席した。

CTBT20周年を記念する2016年6月の閣僚会合で、CTBTO青年グループのメンバーは共同声明を発表した。彼らは、「若者との対話―核実験を終わらせる:なぜこれが自分の問題なのか」においてゼルボ事務局長だけでなく国連の金垣洙(キム・ウォンス)軍縮問題高等代表にも質問し、「CTBT20年:潘基文国連事務総長とのパネル討論」においては、潘事務総長とも対面する機会を得た。

6月会議の青年グループのイベントでの声明では、「この普遍的な目標に対して貢献し、長く待ち望まれている条約の発効を私たちの世代が目撃するための努力を惜しまない」と決意を述べている。

これは、核不拡散・核軍縮措置について真の進歩を達成するには若者の関与が必要であり、さまざまなレベルにおいて教育に投資することが解決の根本的要素であり、それを包摂的かつ協調的なやり方でなすべきとする、ゼルボ事務局長が繰り返し述べてきた信念を再確認するものであるかに見える。

ゼルボ事務局長は、CTBT発効を前進させる「革新的で焦点を絞ったアプローチ」の強固な推奨者である。ゼルボ事務局長は、このことを視野に入れて、事務局長職就任から2カ月にも満たない2013年9月に、ニューヨークの国連本部において賢人会議(GEM)の創設を発表した。

CTBT Science and technology 2017/ CTBTO
CTBT Science and technology 2017/ CTBTO

関連筋によると、賢人会議のメンバーらは、CTBTO青年グループの活動に感銘を受け、彼らに何をどのようになすべきかを教えるよりも、むしろ彼らの話を聞いてみたいと望んでいるという。

ゼルボ事務局長も同様の観点から、「あなたたちの世代は、明日のリーダーではなく、今日のリーダーです。若い世代はソーシャルメディアで世界を牽引しています。私たちは、自らと将来世代のために設定した目標を達成するためにも、あなた方とともに歩み、ビジョンを共有し、青年がもたらす新鮮な力を活用してともに行動しなければなりません。」と語った。(原文へ

 翻訳:INPS Japan

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強制的な子どもの妊娠が「小説の世界」ではない場所

【ローマIDN=フィル・ハリス】

彼女が母親の交際相手の男にレイプされ妊娠したのは、10歳の時のことだった。妊娠中の彼女は、きわめて体調が悪く、栄養不良で体重も少なかった。母親は中絶を要望したが、母体が危険にさらされていると当局が判断した場合は法律が妊娠中絶を認めているにも関わらず、政府はこの要望を却下した。

女児の母親は、娘に対する監護義務を怠ったとして逮捕され、一時的に収監されている。母親は以前に虐待を警察に通報したこともあったが、警察は動かなかった。

当局はこの女児を本人の希望に反して施設送りにし、子どもを産むまで留まるように強制した。彼女は誰との面会も許されず、唯一許されたのは、伯母との週1回・2時間の面会だけであった。

予想に反して彼女は妊娠期を乗り越え、女児を出産した。

現在12歳の母となった彼女は、自身と娘の生活のために、わずか50ドル相当の生活支援金を政府から受けるのみである。彼女は、金銭的に苦しい生活を送るだけではなく、妊娠や病気、そして学校でのひどいいじめによる不登校のために逃した教育機会を得るためにも、苦労している。

DNAテストによればこの女児を虐待していたのは、彼女の子どもの父親であることが分かっているが、当人は、収監されているものの、いまだに裁判待ちの状態だ。

これは小説の世界ではない。女児の名はメイナンビー(仮名)ちゃんで、パラグアイに住んでいる。彼女のケースは決して特異なものではない。「女性の権利擁護のためのラテンアメリカ・カリブ委員会」(CLADEM)によると、強制的な児童妊娠はパラグアイだけではなく、ラテンアメリカ全体で問題になっている。

Report "Child Mothers"/ CLADEM
Report “Child Mothers”/ CLADEM

14カ国の調査を基に2016年に書かれた報告書『子どもの母親たち―ラテンアメリカ・カリブ海地域における強制的な子どもの妊娠と母親としての生活』において、CLADEMは、パラグアイやラテンアメリカ全域において数万人の女児がレイプされ妊娠していると指摘している。

パラグアイでCLADEMの地域コーディネーターを務めるエルバ・ヌニェス氏は、「強制的な子どもの妊娠はこの地域において深刻な問題となっていますが、各国政府からはまだ効果的な対応策が出てきていません。」と指摘したうえで、「ラテンアメリカ全体で、15歳未満の女児数千人が性的暴力の被害を受け、意思に反して母親になっています。これは、深刻な保健・人権の問題です。女児が直面するマイナスの影響は、身体面、感情面、社会面と多岐にわたります。」と語った。

ヌニェス氏はまた、「メイナンビーちゃんのような多くの女児が、カトリック教会の関連した宗教団体が運営する慈善施設に『収監』されており、妊娠を続けるように義務づける裁判所の命令下に置かれています。彼女たちの母親の中には、娘に対する性的暴行を当局に通報し当局が十分な対応をできなかったにもかかわらず、子どもの監護義務を果たしていないとして逮捕・収監される者もいます。」と語った。

「強制的な子どもの妊娠は性的虐待とレイプの結果であり、暴力以外のなにものでもありません。」と、Equality Now(今こそ平等を)の米州局長であるシェルビー・カスト氏は語った。同団体は1992年に設立され、世界中の女性・女児の人権の擁護と向上のために活動している非政府組織である。

「妊娠に至るまでに起こった出来事と妊娠そのものは、子どもにとって深いトラウマとなり、心理的にも身体的にも生涯を通じた傷を残します。こうした幼い母親たちの身体は十分に発達していないため、妊娠は、出産のためにまだ十分な準備ができていない生殖器及びその他器官にダメージを及ぼします。」

パラグアイ保健省の最近の報告によると、2014年に10~14歳の684人の女児が出産しており、2015年の人数はこれよりももっと多いという。パラグアイは10~14歳の少女の妊娠率がラテンアメリカでもっとも高い国のひとつであり、同国の女児のうち約3分の1が、19歳までに身体的暴力、感情的暴力、性的暴力を受けている。

ヌニェス氏は、パラグアイでは「性的虐待の犯人が処罰されないという深刻なパターンがあります。」と指摘したうえで、「その理由は第一に、加害者が近親者であることが多いことから、被害者の女児が被害を訴えることに恐怖を覚えるため。第二に司法制度が、虐待を捜査し適切に対処していない状況があります。」と語った。

「パラグアイにはまた、性的虐待を防ぎ、女児のエンパワーメントと事件の早期発見を図るための性教育の枠組みが学校にありません。これに加えて、さらなるリスクを避け、適切な保護を与えるための、児童妊娠のケースに対処する一般基準もないのです。」

カスト氏は、そうした基準が必要だと強調し、「明確な基準の策定がきわめて重要であり、警察や医師、教員のような専門家が、いかに性的暴力に適切に対応し報告するかについての訓練が必要です。加害者と責任を持つ者の双方が、責任を追及されるシステムが構築されなくてはなりません。」と語った。

カスト氏によれば、「性的暴力と暴行を経験したパラグアイの女児は国家からの適切な保護を受けていません。それどころか、宗教的原理主義者と、一部の官僚を含むその他の集団が、被害者や人権活動家を黙らせようとしているのです。」と語った。

SDGs Goal No. 5
SDGs Goal No. 5

「多くの人々が中絶問題だけに焦点をあてようとしている中で、Equality NowやCLADEMは、女児に対する性的暴行やレイプを免責するような根深い社会規範や慣行に焦点をあてています。」

カスト氏は、「前向きな変化を成し遂げるためにも、議論や行動に『予防』の視点が含まれねばなりません。また政府は、恐るべき暴力の結果としての妊娠にのみ集中するのではなく、女児がレイプされた際に総合的に対応できる方策を改善しなくてはなりません。」と語った。

「政府は、被害者、とりわけ性的暴力に遭った子どもの被害者、それに被害者を支援する人権活動家を強力に支援する必要があります。女児に対する性的暴行の問題が拡がっていることへの意識を高め、地域指導者や宗教指導者らは性的暴力に反対する声をあげねばなりません。」(原文へ

翻訳=INPS Japan

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【ハラレIDN=ジェフリー・モヨ】

夕暮れ時になると、ゴミで満杯の袋を抱えたペティーナ・ドゥーブさん(43歳)が家から現れた。ジンバブエの首都ハラレの多くの住宅地区で市のゴミ収集車が燃料不足のために収集ができないと報じられる中、自分の家の庭に放置されていたゴミをかき集めたのだった。

ハラレ郊外の人口密集地区ワレン・パークの住民であるドゥーブさんは、ゴミを捨てた後それがどうなるかについて、全く気にしていないようだ。「正直言って、このゴミが最終的にどうなるか心配していません。ここからあまり遠くない小川に捨てるつもりです。」とドゥーブさんは語った。しかし、ジンバブエのミッドランズ州立大学で環境学の学位を取得したハプソン・チコワさんのような環境専門家からすれば、どこで捨てられたゴミであっても、結局海に流れていくことになり、海洋生物に被害をもたらすとんでもない事態だ。

SDGs Goal No. 14
SDGs Goal No. 14

チコワさんはIDNの取材に対して、「所定の場所以外でゴミを捨てる人々が気づいていないことは、それらのゴミは投棄した場所に留まるのではなく、雨に流され、川に沿って流れを下り、国境を越えて海に流れ込むということです。人々がゴミをあちこちに捨てる限り、こうしたことは何度も繰り返されるのです。そしてその結果として、海洋生物が脅威に晒されているのです。」と語った。

チコワさんは、アフリカの海洋生物に対して高まっている脅威は、「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」とする、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の第14目標に関連するという。

持続可能な開発目標第14目標の履行を支援するハイレベル国連会議が、6月5日~9日までニューヨークで開催された。その目的は「民衆や地球、繁栄のための海洋の保全状態が低下している状況を根本的に逆転させる」というものだった。

しかし、モザンビークのベイラ海岸近くに住むファウジア・シノリタさんのような多くのアフリカ住民からすれば、自分の行動が海にどういう影響を及ぼしているかについてはほとんど気にしていないようだ。

シノリタさんはIDNの取材に対して、「私たちは海で釣りをします。つまり、海は私たちに食べ物を与えてくれるし、近くに移動するときのルートにもなります。しかし私たちは同時に、海をゴミ捨て場としても使っています。」と語った。

シノリタさんのような多くのアフリカ住民が海の生き物が生息する環境を圧迫し続ければ、海洋生物は急速に消滅していくと専門家らはみている。「その多くが最近発見されたばかりの海の生き物や海洋の種が危機にさらされるなか、海洋生物は急速に消滅していっています。」と南アフリカ共和国を拠点にする科学者ジャン・リューベン氏は語った。

結果として、国際海洋研究所南部アフリカ支部(IOI-SA、本部:南アフリカ・ケープタウン)によると、アフリカにおいて中核となる専門家を安定的に育成していくために、海のガバナンスに関する様々な学問体系において意識を高め訓練を進める必要がますます高まっている。

IOI-SAは、国際海洋研究所(IOI)のアフリカ地域における訓練センターとして機能している。IOIは、沿岸や海洋に関連した権限や機能、関心を持つ中堅の専門家や教育関係者、研究者、市民社会組織のメンバーを教育することを目的にした機関だ。

南アフリカ共和国には目をみはるような3000キロにも及ぶ海岸線がある。冷たく、栄養豊富な大西洋が亜熱帯のインド洋と交わり、近くには多くのクジラが生息する南氷洋がある。これらのお蔭で、海洋の生物多様性の点において、南アフリカ共和国の経済面での地位は非常に高いものになっている。

そして、2003年以来の協調的な取り組みにより、南アフリカ共和国の海岸線の2割近くが公的な海洋保全区となっている。この値は、国際自然保護連合(IUCN)が推奨する数字に近いものだ。

しかし、ケープタウンのムイザーンバーグ砂浜で活動する環境保護家のムジテリ・クマロさんによれば、同国の海岸線では密猟が横行しており、その他多くのアフリカ諸国と同様に、南アフリカ共和国においても、安全基準以下の船舶の使用や低レベルな運用実態のために、海洋汚染や被害が大規模に起こっている。

アーマンド・チカンダさん(63歳)は元船長で、モザンビークのベイラ海岸に住んでいる。「インド洋は、モザンビークからの物品を運び出す航海路です。しかし、正直に言うと、ここを日々通過する船は、油漏れを起こし、座礁をし、錨で海底を傷つけ、ゴミや油脂廃棄物を捨てています。そのために、ここだけではなく、世界全体で海洋生物が危機にさらされているのです。」とIDNの取材に対して語った。

「未処理の下水、ゴミ、殺虫剤、産業用化学薬品、プラスチックなど、陸上のあらゆる汚染物質が海に流れ込み、この汚染が海洋の食物連鎖全体に深刻な悪影響を及ぼし、それは人間にさえ及んでいるのです。」とチカンダさんは付け加えた。

ニューヨークで開催された国連海洋会議で、海洋の利用に関してパラダイムシフトが起こったかどうかは未知数だ。しかし、ナミビアのサリタ・インベニさんのようなアフリカの多くの環境活動家は、「海は既に大きな被害を被っており、今回の会議開催はあまりに遅すぎたかもしれない。」と感じている。

「海に近い他のアフリカ諸国ですでに起きていることについては言うまでもなく、ここナミビアにおいても過剰漁獲がなされ、海が無節操に汚染されるのを見てきました。それでもなお、海自体は、地球で最大の、生命が生きる場なのです。」とインベニさんはIDNに語った。

このナミビアの活動家にとっては、地球でもっとも生産的で生物的に多様な海岸地帯が、人間の無謀な収奪によって急速に消滅していっているのである。

非政府組織(NGO)「Sea sense(海の感覚)」によれば、タンザニアでは海洋の危機が重大なレベルに達しているという。「Sea sense(海の感覚)」は、ウミガメやジュゴン、クジラ、イルカ、サメなどの絶滅危惧海洋種を保全・保護するために、このタンザニアの沿岸地域と緊密に協力している。

「Seas sense(海の感覚)」は、タンザニアにおける、海洋生態系と漁業を基盤とした生活に対する最大の脅威は、ダイナマイトを使用した漁業だと報告している。これは、漁獲を容易にすべく、魚の大群を殺したり驚かしたりするために爆発物を用いるというものだ。ダイナマイト漁法は、爆発を起こすたびに、多くの海洋種を無差別に殺害している。

他方で、ドゥーブさんのようなジンバブエ国民にとっては、海洋生物のことを考慮するなど二の次だ。ドゥーブさんは、「近くで見たこともない海の生き物を守るために、裏庭のゴミで病気にならないといけないのかね?」と問いかけてきた。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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【国連IDN=シャンタ・ラオ】

国連の2015年以降の開発への取り組みについて、ピーター・トムソン国連総会議長(フィジー)は、耳の痛い真実に焦点を当てた。それは、国連の17の分野からなる持続可能な開発目標(SDGs)について世界のほとんどの人は知らない、ということだ。

トムソン議長は記者団に対して、「したがって、SDGsが全ての学校カリキュラムの中に盛り込まれねばなりません。国連はSDGsの推進を力強く後押していきます。若者らは開発アジェンダの中でSDGsの重要性について教えられねばなりません。」と語った。

Peter Thomson at HLPF 2017/ Sustainable Development Knowledge Platform

トムソン議長は、「もし世界中の学校のカリキュラムにSDGsが盛り込まれることになり、すべての教師がSDGsについて教え、地球上のすべての若者が自らの権利・義務としてSDGsについて知らされたならば、世界が2030年までにこれらの目標を達成する可能性が極めて高くなります。」と訴えた。

トムソン議長は、2016年11月に193カ国の首脳に宛て、子供たちや若者にSDGsについて教えることの重要性を強調した書簡を送った。トムソン議長はその中で、「若者は、持続可能な開発目標の成功の継承者にも、失敗の継承者にもなりうるのです。」と述べている。

東京を本拠にした仏教系NGOである創価学会インタナショナル(SGI)は、この国連総会議長の宣言よりかなり前から、SDGsの第4目標(すべての人に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する)に着目するなかで学生の役割を極めて重視ししてきた、おそらく世界でも数少ない組織のひとつだろう。

持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF)の期間中である7月12日に、スリランカ国連政府代表部でSGIが主催した円卓会議のテーマは、「ノンフォーマル教育の効果は測定可能か?学校環境において展示を用いた、あるケーススタディ」であった。

この円卓会議は、地球憲章インタナショナル(ECI)と環境教育センター(CEE)が共催した。

Dr. Daisaku Ikeda/ Seikyo Shimbun
Dr. Daisaku Ikeda/ Seikyo Shimbun

SGIの池田大作会長は、円卓会議に出席した関係諸団体の代表や参加者へのメッセージのなかで、「SDGsが掲げる『誰も置きざりにしない』とのビジョンは、遠大な目標ではありますが、『同じ人間として同じ地球で共に生きる』との思いを一人ひとりが深め、身近な場所から行動を起こす中で、時代変革の波を力強く広げることができるのではないでしょうか。その大きな原動力となるのが、世界市民教育や、持続可能な開発のための教育に代表される『教育』です。」と述べた。

池田会長は、長年にわたって、持続可能な開発における「教育」の役割の重要性について訴えてきた。

池田会長はまた、リオサミットから10年が経過した2002年にヨハネスブルクで行われた「環境開発サミット」の際には、(1)地球環境問題の現状を知り、学ぶこと(Learn)、(2)持続可能な未来を目指し、生き方を見直すこと(Reflect)、(3)問題解決のために、ともに立ち上がり、具体的な行動に踏み出すためのエンパワーメント(Empower)、の3つのステップに基づく教育の推進を提言した。

現在までに、「希望の種子展」は世界36カ国・地域で開催され、多くの若い世代をはじめ、市民社会の幅広い人々が訪れるノンフォーマル教育の場ともなってきた。

この提言をもとに、SGIと地球憲章インタナショナルは共同で、「希望の種子:持続可能のビジョン、変革へのステップ」と題する教育展示を制作した。

Seed of Hope Panel 01 / SGI
Seed of Hope Panel 01 / SGI

インドで実施したプロジェクトでは、「希望の種子展」を用いて、ノンフォーマル教育の効果を測定することを意図している。インド国内の3つの異なる都市から合計18の学校がプロジェクトに参加した。

1つ目のグループに対しては展示の観覧だけをさせ、別のグループには展示観覧と関連活動も行わせた。

プロジェクトの前後に、学生が何を学んだかを評価する調査が行われた。

調査結果は、アーメダバード(インド)を拠点にする環境教育センター(CEE)の事業責任者であるプラモド・クマール・シャルマ博士から参加者に提示された。シャルマ博士はミシガン大学の客員研究員も務めている

共同プロジェクトにおける自身の役割についてシャルマ博士は、「CEEは研究を担当しました。私は、センターの同僚とともに、調査設計の準備、データ収集手段の準備、報告書の分析に関わりました。」とIDNの取材に対して語った。

「ノンフォーマル教育」の定義についてシャルマ博士は、「この文脈において『ノンフォーマル』とは、持続可能性の問題について子どもたちを教育し、変革の動機づけを与えるために使用させるアプローチや教材のことを指します。」と語った。

国連総会議長が行った提案についてシャルマ博士は、SDGsを学校のカリキュラムで取り上げ、SDGsについて、なぜ、何が、どのようにして、持続可能性につながるかを子どもたちに教えるために役立つかもしれない。」と語った。

シャルマ博士はまた、「もっとも重要なことは、それを日常生活と結びつけることであり、それらがどうつながっているかということです。現在、そして将来の市民として、自らのSDGsへの関与を目に見える形にし、国連における国家間の取り決め以上のものにしなくてはなりません。」と語った。

国連によれば、7.5億人以上(うち、1.15億人は若者)が読み書きができないという。その3分の2は女性だ。小学校の年齢の約2.5億人が基本的な読み書きの能力がなく、1.24億人の子ども・青年がまったく教育を受ける機会がない。

Soka Gakkai
Soka Gakkai

「持続可能な開発へのこれらの障害は、コミットメントと資源の裏付けを得た適切な政策の策定と履行によって乗り越えることができるし、またそうしなくてはならない。」

SDGs Goal No.4
SDGs Goal No.4

「学校に行けない子どもたちが質の高い学習機会を手にできるようにし、学校教育の質を高め、成人教育・学習を促進する必要がある。」と国連は指摘している。

SDGsを教えることによって、SDGsの第4.7項目の履行に向けて前進することができる。4.7項目は「2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、 男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様 性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。」と述べている。

Mapting
Mapting

他方で、2016年11月、SGIと地球憲章インタナショナルは共同で「マプティング(Mapting:マップとアクティングを合わせた造語)」と呼ばれる新たなノンフォーマル教育のツールを開発し、発表した。これはSDGsに対する関心と関与を促進する目的で作られたモバイル・アプリである。

マプティングは、SDGsに関連する写真や動画を撮影し、世界地図上で共有できるようにした、参加型のスマホアプリである。

池田会長が指摘したように、マプティングのユーザーは、操作を通じて、SDGsが身近なものであると実感できるようになる。マプティングの経験は、自らが暮らす「地域」から「世界」を見たり、また「世界」から「地域」を見る体験を与えてくれる。

「こうした身近で具体的な体験を通じて、SDGsに対する意識を高め行動していくことの意味は大変に大きいものであると思います。SGIは、それぞれの地域社会における草の根のネットワークを生かし、ノンフォーマル教育の取り組みを積み上げながら、志を同じくする皆さま方とともに、持続可能な地域社会の建設を目指していく所存です。」と池田会長は述べた。(原文へPDF

翻訳=INPS Japan

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Reporting Another Special from Kazakhstan: EXPO 2017 Astana

IDN-INPS travelled to Kazakhstan to provide an in-depth coverage of  EXPO 2017 Astana inaugurated on June 10. Touted by some as the ‘Disneyland for Adults’ and ‘a virtual reality beyond science fiction’ by others, EXPO 2017 shows the ways to access affordable, reliable, sustainable and modern energy for all.

READ > EXPO 2017 Shows the Way to Sustainable Energy Solutions

WATCH > VIDEO by IDN-INPS Multimedia Director Katsuhiro Asagiri

アスタナ万博を取材ー日本館「Smart Mix with Technology」

【アスタナINPS Japan=浅霧勝浩】

Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan.

INPS Japanの浅霧勝浩理事長・マルチメディアディレクターは、カザフスタン政府の招待を受け、2017年6月から開かれている「アスタナ国際博覧会」を取材した。この万博のテーマは、“未来のエネルギー”。日本を含めて115カ国と22の国際機関が参加した。この映像は「Smart Mix with Technology ―オールジャパンの経験と挑戦―」をテーマに、日本の高い技術力と世界的な課題解決に向けた貢献を発信する日本館の内部を撮影したもの。日本館は、2025年国際博覧会の大阪誘致に向けたPRも積極的に行っていた。

INPS Japan visited Astana Expo 2017, held in Kazakhstan. Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director and president of INPS Japan filmed Japan Pavilion. Under the theme “Smart Mix with Technology,” the Japan pavilion demonstrated a multi-layered approach to clean and efficient energy provision. Across three dazzling exhibition zones, Japan delivered its vision for the future against a historical backdrop. EXPO 2017 Shows the Way to Sustainable Energy Solutions

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国連事務総長、カザフスタンを称賛し、上海協力機構との緊密な協力を約束

【アスタナIDN=ラメシュ・ジャウラ】

国連のアントニオ・グテーレス事務総長が、カザフスタンが国連安保理非常任理事国として「国際舞台でますます活発な役割」を果たしていることに謝意を表明するとともに、上海協力機構SCO)の重要性を強調して、気候変動に関してSCOがリーダーシップを発揮するよう求めた。

カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は、国連事務総長がSCOサミットに参加したことに感謝の意を示し、「SCOの歴史の中で国連事務総長の参加を得たのは初めてのことです。また、この機会がインドとパキスタン両国がSCOに正式加盟するタイミングであったこともきわめて象徴的と言えるでしょう。つまり、今やSCOが国際社会の中で真の政治的な影響力を持ちつつあることを示しています。」と語った。

SCOは恒久的な政府間機関で、カザフスタン、中国、キルギス、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンが中国の上海で2001年6月15日に創設を発表したものである。

António Guterres at SCO Summit in Astana/ Katsuhiro Asagiri of INPS
António Guterres at SCO Summit in Astana/ Katsuhiro Asagiri of INPS

グテーレス事務総長は6月9日、SCO加盟国首脳理事会第17回会議(アスタナサミット)で、「持続可能な開発に向けた2030アジェンダと、SCOの開発戦略2025は、私たち共通の青写真です。」と指摘するとともに、「皆様に置かれましては、気候変動に関するパリ協定の履行について、是非ともリーダーシップとコミットメントを発揮されるようくれぐれもお願いしたい。希望は高く持っておかねばなりません。」と語った。

グレーレス事務総長はSCOに新たにインドとパキスタンが加盟したことを祝福し、「本日のサミットは、SCOの発展の新たな段階を画するものであり、その対象領域と世界に対する影響力を拡大させました。」と指摘した。

グテーレス事務総長がカザフスタンを訪問していたのは、SCOサミットに参加するためだけではなく、その直後に開催予定の2017年アスタナ国際博覧会(アスタナ万博)開会式に参加することも目的であった。グレーレス事務総長は、気候変動に関してきわめて重要な関連性をもち、持続可能な開発へのコミットメントにも深くかかわる「未来のエネルギー」をテーマとしたアスタナ万博が、画期的なイベントとなるよう強い期待を滲ませた。

グテーレス事務総長は、「SCOはユーラシア大陸各地で相互理解、対話、安定、開発を促進するうえで意義深い役割を果たしています。」と指摘したうえで、「加盟国は、テロリズム、暴力的過激主義、麻薬密輸、組織犯罪など、今日平和と安全を脅かしているものと闘うために協力しています。これらは、いずれの国も一国で効果的に対処することは不可能であり、集団での対応が必要とされる複雑な問題です。」と語った。

2017 Astana Expo/ Katsuhiro Asagiri of INPS
2017 Astana Expo/ Katsuhiro Asagiri of INPS

グテーレス事務総長はまた、「国連とSCO間の協力は『堅固な基盤』に基づいています。」「グローバル化の進展と急速な都市化により世界が再編成される一方で、主要な武力紛争は終息する気配を見せていません。このように、国際社会が多くの面において試練に晒されている今日、この協力関係はとりわけ重要なものとなります。」と語った。

「私たちは、安全と経済的機会を求めて多くの人々が大移動する現実を目の当たりにしています。そして今日、不平等や不寛容、それに外国人排斥や人種差別が横行しています。そして、気候変動がもたらす影響は日々悪化の一途をたどっています。」

「国連は、前を見据えて、SCOの強力なパートナーであり続けるだろう。」とグテーレス事務総長は確約した。グテーレス氏は1月の事務総長就任以来、国連の平和維持活動を強化し、国際開発体制をより効果的にすることを目的として、幅広い改革を進めてきた。

そうした改革のひとつが、テロ対策室の新設だ。テロと暴力的過激主義と闘う加盟国を支援するために国連の全力を傾けることを目的とした、高いレベルのリーダーシップを発揮しようとしている。

グテーレス事務総長は、上海協力機構(SCO)のすべての加盟国がテロの被害にあってきたと指摘した。「テロと闘い、その根本原因に対処し、対応策が国際的な人権基準に見合うようにするとのSCO加盟国の公約に期待しています。」とグテーレス氏は指摘したうえで、「究極的には、包摂的で持続可能な開発が、武力紛争と暴力的過激主義予防の最善の形です。」と論じた。

グテーレス事務総長は、この目的を追求するうえで若者の雇用に特に着目すると約束した。「進歩のためには、法の支配の原則を貫き、不満に対処するために平和的な解決方法を提供する民主的機構が肝要です。そして、市民社会と自由で独立したメディアが活躍できる空間を確保することが、成功のためのさらなる要素となるでしょう。そして女性・女児をエンパワーすること、これが、私がとりわけ心に留めている重要課題です。」とグレーレス事務総長は語った。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

6月9日にアスタナで行われた記者会見でグテーレス事務総長は、国連にとってカザフスタンとのパートナーシップは、国連の各レベル(国家レベル、地域レベル、グローバルレベル)の活動においてきわめて重要な柱だと語った。

国家レベルでは、持続可能な開発目標の履行においてカザフスタンの民衆と政府を支援している国連のパートナーシップがある。この目的は、同国が、その潜在能力と可能性を完全に発揮しつつ、一方で、持続可能かつ包摂的な方法で、環境を保護し、誰も置き去りにせず、不平等と環境の問題が効果的に対処される取り組みを通じて、世界で最も発展した経済のひとつに自らを変革していくこと(2050年までに先進30か国入りを目指している:INPS)を可能にすることだ。

グテーレス事務総長は、「国連は、ガバナンスと法の支配、人権を向上させるあらゆる取り組みにおいてカザフスタンを全面的に支援する用意があります。」「国連とカザフスタンのパートナーシップは、この国が中央アジアの安定と発展のために最も重要な柱であることを考えると、地域レベルにおいても不可欠のものです。私たちは、中央アジアが平和と繁栄の地域になることを望んでいます。そしてそのためには、中央アジア諸国間の協力が一層促進される必要があります。カザフスタンは、こうした地域レベルの協力を促進するうえで主導的な役割を果たすことができるでしょう。」と語った。

「水資源に関する合意、より効果的にテロに対処し闘うことに関する合意、そして持続可能な開発の取り組みに関して中央アジア諸国間の連帯を強化していく方向性は、カザフスタン政府が今後も決意を持って追求していくものだと確信しています。国連は、カザフスタン政府のこうした取り組みを全面的支援していきます。」とグテーレス事務総長は語った。

さらにグテーレス事務総長は、グローバルなレベルでのカザフスタンとの強力なパートナーシップについて、「カザフスタンはこれまでの実績から、対話の象徴であり、平和の象徴であり、さまざまな文化・宗教・文明間の接触を促進する象徴という地位を築き上げてきました。この国が、(今年初めから)国連安全保障理事会の非常任理事国に加わったことで、様々な紛争事案に関して、同理事会が調停能力を発揮するうえできわめて重要な貢献をしています。」と語った。

「他方で、気候変動に対して脆弱な国であるカザフスタンは、パリ協定が履行され、この難題に国際社会が正面から向き合い、気候変動と闘う能力を手に入れるために、地球温暖化に関してイニチアチブを発揮する必要があります。」

グテーレス事務総長は、北側でカザフスタン、南側でウズベキスタンと接するアラル海への訪問の後、6月10日の声明で、「かつて世界で4番目に大きかった内海が死の危機に瀕しているのを目の当たりにして、強い衝撃を受けました。これはおそらく、現代における最大の生態学的大惨事であり、人間が地球を破壊する能力を持っているという事実を如実に示しています。」とグテーレス事務総長は語った。

しかし、アラル海が徐々に消滅しつつあるのは、気候変動のためではなく、人間による水資源管理の失敗によるものだ。「しかし、それは同時に、気候変動との関連で、もし私たちがこうした現象を抑えるべく思い切った行動を起こすことができなかったとすれば、この種の悲劇が世界中のあちこちで繰り返される可能性があることをも示しています。」とグテーレス事務総長は論じた。

「したがって、アラル海の悲劇を、人類がいかにして地球を破壊しうるかを示す証左として活用しようではありませんか。つまり、私がウズベキスタン側から目の当たりにしたアラル海に起こったような悲劇を二度と繰り返さないためにも、パリ協定の履行に向けて、政府も、企業も、市民社会も、都市も、国家も、全ての人々が国際社会全体を動員することができるように、アラル海の悲劇を一つの教訓としようではありませんか。」(原文へ

翻訳=INPS Japan

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