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オーストラリアの先住民、憲法上の承認を求める

【シドニーIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

1967年の歴史的な国民投票で、オーストラリア国民の約92%が、同国の先住民を人口調査においてカウントすべき「人間」であると認めた。

あれからちょうど50年、オーストラリアの250人以上の先住民族が5月24日から26日にかけて同国中部の聖なるウルル・ロックを臨む地で歴史的サミットを開き、政府に対して、議会における発言権を彼らに与えるように憲法を改正し、彼らの土地との結びつきを認めた条約を制定するよう求めた。

Australian Aborigine/ Public Domain
Australian Aborigine/ Public Domain

オーストラリアのアボリジニは、他の同国国民と同じく彼らを「人間」と認めた1967年の国民投票以来、長い道のりを歩んできた

高い教養を身に着け英語を流暢に話せる先住民系オーストラリア人の数が増えてきた。その一部は、大学教授、法律家、医者、作家、ジャーナリスト、政治家になっている。アボリジニに対する注目度を高め、この広大な大陸の先住民族として彼らの特別な地位を規定しようとしているのは、こうしたリーダーたちだ。

アボリジニは常に土地や母なる大自然との精神的なつながりを保ち、こうした主権を英国王室に譲り渡すことは決してなかった。26日のサミット閉幕の際に読み上げられた「心からのウルル声明」は、オーストラリアの憲法に「ファースト・ネーションの声」を盛り込むことと、先住民族との条約署名に向けたプロセスを開始するよう呼びかけた。

白人入植者らは何世代にもわたって、鉱物資源を獲得するため、とりわけオーストラリア北部・中部において先住民族の土地を搾取して巨万の富を築いた。

オーストラリアの先住民たちは1992年、土地への権利を取り戻す画期的な成功をおさめた。先住民のいるトレス海峡島民のエディー・マボ氏は、豪州大陸が「無主の地」でありこれを英国王に併合したと宣言する、英国によって書かれた憲法は無効だとしている。歴史的な1992年のマボ高裁の判決は、先住民族の土地への権利の承認につながり、アボリジニが同国で保有する土地が増えることになった。今日、同国の国土の3分の1が、何らかの形で先住民族によって保有された土地である。

The Founding of Australia” by Captain Arthur Phillip RN Sydney Cove, 26 January 1788, faithful photographic reproduction of 1937 Oil Painting by Algernon Talmage, picture from Wikimedia Commons, license: public domain
The Founding of Australia” by Captain Arthur Phillip RN Sydney Cove, 26 January 1788, faithful photographic reproduction of 1937 Oil Painting by Algernon Talmage, picture from Wikimedia Commons, license: public domain

こうした成功があったにもかかわらず、ウルル声明が指摘するように、アボリジニは「世界で最も隔離された人びと」である。1967年の国民投票以前には、オーストラリア(や英国)の映画や報道でアボリジニはしばしば「野蛮人」として描かれていた。

「私たちは生まれつきの犯罪者などではありません。しかし、同朋の若者たちが大量に収監されています。若者たちは本来私たちの将来の希望であるはずです。…こうした危機的な側面は、私たちが直面している構造的な問題を端的に示しています。つまりこれは、私たちが力を奪われた結果、私たち自身に降りかかっている苦悩にほかなりません。」とウルル声明は指摘している。

かくして、先住民族の指導者らは、政府とファースト・ネーションとの間の「合意形成のプロセス」と、先住民族の歴史に関する真実追及を監督する委員会の設置を呼びかけた。

「1967年、私たちは(『人間として』)数えられるようになりました。2017年、私たちの声が聴かれることを要望します。」これは、声明で伝えられた強力な叫びである。「私たちが自らの運命を握る時、子どもたちは栄えることだろう。彼らは2つの世界を歩み、彼らの文化は彼らの国にとっての恩恵となるだろう。」

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

政府が任命した「国民投票評議会」のパット・アンダーソン共同議長はメディアに対して、会合では、政府と野党のいずれもが支持している、アボリジニ先住権の容認を憲法で行うという考えを「完全に否定した」と語った。

「この半年間行ってきた協議でわかったことは、人々は条約を望んでいるということです。つまり単なる容認ではなく、条約と、真実・正義委員会の設置を望んでいるのです。」アンダーソン氏は、この2つの考えを前進させるために今回のサミットで作業委員会が設置されたと語った。

同評議会の委員であるメーガン・デイビス氏は、このプロセスは真実と正義を認めるものだと説明した。「これは民族にとっての癒しであり、ともに成熟した国を作り上げるプロセスの一部にほかなりません。世界の他の国々でもそうであったように、まずは真実が語られねばなりません。」とデイビス氏は語った。

アンダーソン氏は、「議会において発言権を得るということは、文化的権威と高さを持つ人々の声が聞かれるようになることを意味します。」と指摘したうえで、「私たちはいずれ意思決定において発言権を持つことになるでしょう。しかし現在は締め出されており、自らの土地において無力で、声を奪われているのです。」と嘆いた。

CNNの元ニュースキャスターでアボリジニのジャーナリストであるスタン・グラント氏は、全国放送ABCのウェブサイトで、1967年の国民投票は強力な象徴的瞬間であったと指摘したうえで、「初めて、連邦議会に対して、アボリジニとトレス海峡島民のための法律を策定することが認められた。それは運動と改革の波の一部を成すもので、その後、先住民に対して教育と雇用の機会の扉が開らかれた。」と記している。

Stan Grant (journalist) and Tracey Holmes, at the 2008 Summer Olympics torch relay events in Canberra, Australian Capital Territory./ By Peter Ellis – Own work, GFDL

しかし、グラント氏は先住民の同朋に対して、永続的な政治的変化の議論は、単に社会経済的な不平等のみを基礎にしたものであってはならないと警告している。「第一に、そうした主張をしている人びとの多くが、私も含めて、特権を持ち、教育程度も高い。私たちは格差を埋めてきたのです。」「オーストラリア国民には、なぜ私たちが特別な取り扱いを必要としているのかを問う権利があります。」グラント氏は、「ファースト・ピープル」としてのオーストラリアの先住民族には独自の地位と遺産があると論じる。「しかし、問題なのは、オーストラリアの人々がそれをいかにして同国の民主制度の中に取り込むのか、ということです。」

野党労働党党首のビル・ショーテン氏は、5月27日に開催された1967年国民投票の票決を記念する昼食会で発言し、政治家はアボリジニによって「大きな問題」に関する「開かれた心」を学んだと述べたが、自身はウルル声明における呼びかけを実行に移すとは約束しなかった。

今年末に行われる予定の総選挙に関して世論調査で後れを取っているマルコム・ターンブル首相は、憲法改正は「きわめて困難」と演説で述べ、より懐疑的な姿勢を見せた。憲法は「議会が変更するわけにはいかず、唯一オーストラリア国民のみがなしうること」だとターンブル首相は語った。(原文へ

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防災計画で人々のことを忘れてはならない

【メキシコシティIDN=エク・ソリア】

5月22日~26日にメキシコのカンクンで開催された「2017防災グローバル・プラットフォーム会議」には、民間セクター、学術研究機関、市民社会組織から防災専門家や政策決定者らが集い、タイムリーかつ効率的な形で災害の影響を減じ、災害に適応し、復旧を図るとの加盟国政府の公約について協議がなされた。

なかでも重要な議題は、2015年3月の第3回国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組」の履行に関して世界的にどの程度の進展があったか評価することであった。同枠組は、15年計画の自発的かつ拘束力のない合意で、国には防災の第一義的責任があるが、地方自治体や民間部門などのその他の利害関係者と責任を分担すべきとされている。

UN World Conference on Disaster Risk Reduction

仙台枠組は「人命・暮らし・健康と、個人・企業・コミュニティ・国の経済的・物理的・社会的・文化的・環境的資産に対する災害リスク及び損失を大幅に削減する」ことを目的としたものだ。

カンクン会議には仙台枠組の履行に関する各国別報告書が提示され、災害によって最も直接的かつ大きな影響を受ける人々の地域が参加する必要性が強調された。

参加者らは、防災計画と被害の緩和におけるギャップを埋める上で、もっとも社会の主流から取り残され脆弱な立場に置かれている人々の役割を認識すべきとの声に耳を傾けた。これはとりわけ、そうした人々が開発のより広範な現場においても取り残されているからだ。

Madeleine Redfern, mayor of Iqaluit/ City of Iqaluit

カナダ国内のヌナヴト地域の中心イカルイット(Iqaluit)の首長であるマデレーン・レドファーン氏は、こうした人々が防災議論の最前線に置かれねばならない、と語った。

「今回の会合で発せられた最も強力なメッセージは、誰かを置き去りにする余裕などないということです。」とレドファーン氏は指摘したうえで、「人々を忘れてはいけません。私たちは前に進み、女性や先住民などを参加させなくてはなりません。そこには知恵があり、参加への願望があるのです。彼らを無視することはできません。国内・国際の両レベルにおける防災活動に彼らを巻き込むことが重要です。でなければ、私たちの計画(=仙台枠組)は効果的なものでなくなってしまいます。」と語った。

参加者らは、こうすることによってしか、仙台枠組の提案は現場における進展に見合ったものにならないと強調した。

仙台枠組は、2030年までに災害による死者を大幅に減らすこと、重要インフラや保健・教育などの基本サービスの経済的損失と被害を減らすことを呼びかけている。

SDGs Goal No. 11
SDGs Goal No. 11

発言者らは、仙台枠組が目標と期限を提示してから2年、一部の地域は災害への対処法を学びつつあるが、低開発による従来からの脆弱性によって、将来的に災害が起こった時に諸機関が対処する能力が制限されている地域も依然としてあると主張した。

仙台枠組は、経済、構造、法、社会、保健、文化、教育、環境、技術、政治、組織などの側面を統合し包摂した措置を実行することによって、災害の新たなリスクの登場を予防し、既存のリスクを減じ、対処と復旧への備えを強化することを目的としたものだ。

しかし、気候変動の最大の影響を被っている国・地域は、大きな課題を含みこんだ任務に直面している。

言葉から行動へ

カンクン会議の第1会合はグローバル・プラットフォームの評価にあてられたが、発言者らはまた、2005年の京都議定書や2016年のパリ協定のような、各国が署名したその他の公約についても言及した。これらはいずれも国連気候変動枠組条約の枠の中でなされた合意で、温室効果ガスの排出削減に関する拘束力ある措置に合意し確立するためのものだ。予防の真の範囲を確定するために必要なものであった。

グローバル・プラットフォームの行動のガイドラインと優先事項には、リスクを管理・低減し、復旧・復興・再建の分野での効果的な対応を可能にするガバナンスの強化を含んでいるが、そのためには国々の支払い能力も必要とされる。「保険が唯一の解決策でも最善の解決策でもありません。人々が貧困状態にあるリスクを減らすための最善の条件をいかにして生み出せるかが問題なのです。」と話すのは、ドイツ連邦経済協力開発省グローバル問題局政策・事業部門の責任者イングリッド・ホベン氏である。

Saber Chowdhury/ PNND

公的部門と、市場や民間部門、あるいはいわゆる市民社会組織との相互作用として理解されるガバナンスには、グローバルなレベルでの防災の分野においてより一貫した方針が求められる。「災害によって損失が生み出されるのと同じスピードでは、持続可能な開発の目標は達成できません。」と列国議会同盟のセイバー・ホサイン・チョウドリー議長は語った。

現在の指標によると、富の産出量よりも災害で失う影響の方が大きいことが明らかになっている。カンクン会議の参加者らは、より一貫した方針を導く合意に至るために、あらゆるレベルの議会と社会団体との間での完全な関与に真にコミットした行動と結びついたアジェンダを作るべく、同様の国際会議が開催されている昨今の機運を積極的に利用していくべきだと呼びかけた。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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Accompanying the 2017 U.S. Cherry Blossom Queen & Chaperone – June 4-6

This year marks the 105th anniversary of the donation of 3,000 cherry blossom trees to Washington D.C. by Ozaki Yukio in 1912 when he was Mayor of Tokyo. As in previous years, the 2017 Cherry Blossom Queen, who is selected annually during the National Cherry Blossom Festival in Washington D.C., visited Japan as the U.S. goodwill ambassador.

After meeting with Prime Minister Shinzo Abe, the Governor of Tokyo and the House Speaker, the 2017 Cherry Blossom Queen and chaperone visited Ise, Mie Prefecture of Central Japan, accompanied by Mr. Takaaki Ishida, Secretary General of Ozaki Yukio Memorial Foundation which hosted the delegation together with NPO Gakudo Kofu June 4-6, 2017.

The delegation called on the Governor of Mie and the Mayor of Ise, and visited the Mikimoto Pearl Island, Ise Grand Shrine, Ozaki Memorial Hall, Kogakkan University, and Futami Pearl Center, among others.

IDN-INPS accompanied the delegation and made a documentary of the 2017 Cherry Blossom Queen’s visit.

Video documentary by IDN-INPS Multimedia Director Katsuhiro Asagiri

Day 1: https://www.youtube.com/watch?v=FxvrR_CILiM&t=21s

Day 2: https://www.youtube.com/watch?v=NzrB8CIFsB0&t=24s

Day 3: https://www.youtube.com/watch?v=31rbWajvvUE&feature=youtu.be

「第69代全米さくらの女王と伊勢来訪 」(石田尊昭尾崎行雄記念財団事務局長) article in Japanese

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|国連|「2030開発アジェンダ」費用が急増、数兆ドル単位へ

【国連IDN=シャンタ・ラオ】

17項目からなる持続可能な開発目標(SDGs)を含む「2030開発アジェンダ」の履行について国連が評価したところ、予測される費用が年間数百万、数十億ドルの単位から、数兆ドルの単位へと急増していることがわかった。

ピーター・トムソン国連総会議長(フィジー)は4月18日、2030年までに「あらゆる形態の貧困の根絶」等の目標に掲げるSDGs関連費用は、年間6兆ドル、そして新開発目標の期限となる2030年に向けては30兆ドルもの高額に上ると語った。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

同時に、SDGs17項目の概要を示した「開発資金に関するアジスアベバ行動目標」(AAAA)は、途上国におけるインフラ格差は年間で1~1.5兆ドルとしており、世界全体での格差は年間で3兆~5兆ドルと推計している。

しかし、国際社会、とりわけ後発開発途上国と途上国は、約5.5億人を貧困から脱出させるなどの国連の大胆な目標を達成するための資金調達に成功することは難しそうだ。

また、グローバルな経済成長の動向も、SDGsのすべて(或いはほとんど)の項目達成に向けて、あまりよい状況にあるとは言えない。

国連経済社会局担当事務次長で、「開発資金(FfD)に関する機関横断タスクフォース(IATF)」の呉紅波(ウ・ホンボ)事務局長は5月22日の記者会見で、「2016年の困難なグローバル環境(=米国経済の足踏みや、中国経済の失速懸念及びBREXIT ショックによる金融市場の混乱等を背景にした世界経済の減速)は、持続可能な開発の達成を目指す各国の努力に大きな影響を及ぼしました。」と語った。

経済社会理事会が主催する5月22日~25日の開発資金国際会議を前に呉事務局長は、「このままでは、2030年までに極度の貧困を根絶するという目標は達成できないだろう」と警告し、「2017年、18年には成長が回復すると見られているが、現在のグローバルな環境ではSDGsの達成は覚束ない」と指摘した。

呉事務局長はまた、貧困との闘いにおいて、普遍的な社会保護の土台(social protection floor)が貧困削減の方法として試されてきていると述べた。それは、収入を増やすだけではなく、生産性と成長を引き上げることによって貧困層を経済的にエンパワーしようというものだ。「これと同じ原則が国際レベルにも適用され、貧困国に対して効果的で十分な資金の裏付けを持ったセイフティーネットが提供されます。」と呉事務局長は指摘した。

Wolfgang Obenland/ GPF
Wolfgang Obenland/ GPF

グローバル政策フォーラム(GPF、ボン)の事業コーディネーターであるウォルフガング・オーベンラント氏は、このことは事実であり、2030アジェンダの履行には追加的な資源が必要となるとの見方を示した。

「しかし、数十億、数兆、いやさらにもっと、といったような大きな数字を並べたてることで、本当に必要なことに光が当たるのではなく、むしろそれが覆い隠されてしまうのです。」とオーベンラント氏は語った。IATFが5月22日に発表した今年の報告書では、常に論理的で適切とは言えないものの、政策論議に資する重要な素材を提示している。

「将来的な報告に向けた加盟国のより強い主導が、各国が焦点を当てるべきとみなす問題に関して必要となります。というのも、ある問題に関しては、他の問題よりもより長い準備期間を要することになるかもしれないからです。この報告書、さらには『開発資金フォーラム』の成果文書の問題点のひとつは、言及されている巨大な金額がもたらす影響です。」とオーベンラント氏は語った。

各国政府が自らこの額の資金を調達することは困難と見られていることから、民間部門やその資金提供者への依存度が増したり、過剰に依存したりすることになる。

「とりわけ心配なのは、各国政府が、(目標の達成を)『可能にする環境(Enabling Environment)』を整えることで民間部門を刺激しなくてはならないと思い込んでいるように見えることです。これは、しばしば『官民パートナーシップ』や『ブレンド型金融』といった表題でまとめられる、いわゆる『脱リスク化』やその他の手法を指しています。これらは概して、環境や社会面での防護措置を欠いていることが多く、『持続可能な開発』のようなアジェンダを履行するうえで適切なものとは言えません。」と4日間の会合に参加したオーベンラント氏は語った。

ソーシャル・ウォッチ」のコーディネーターで、政府の公約を監視する市民団体の国際的ネットワークの代表でもあるロベルト・ビッシオ氏も同じく懐疑的だ。

ビッシオ氏はIDNの取材に対して、「世界銀行は、すべての貧困層(1日1.9米ドル未満)の生活を引き上げて『貧困の格差』を解消するには年間600億ドルが必要だと推計しています。」と語った。トランプ政権が最近サウジアラビアと結んだ武器輸出契約の規模が1100億ドル超と推計されていることを考えれば、この金額規模はそのごく一部に過ぎない。

 ビッシオ氏はまた、「国際労働機関(ILO)は、まともな社会保護のプラットフォームを国民全員に提供するために必要な資源を有しているのはわずか数カ国だと見ています。」と語った。

ビッシオ氏はまた、「環境破壊が発生したほとんどのケースで、政府はさらに費用をかけるどころか、『何もしない』ことを余儀なくされます。必要とされる『数兆』(ドル)という数字はいったいどこから来るというのでしょう? しかもこれはあくまでインフラだけの話です。もちろんインフラは必要ですが、一方で最も汚職にまみれた部門という現実もあります。」と付加えた。

ILOはまた、経済成長の社会的帰結は非常に大きいとしている。

ILOによると、2017年の失業者数は2億人以上で、16年よりも340万人増えたという。より多くの人が労働可能年齢に達しグローバルな労働市場に参入してくる2018年には、失業者がさらに増えるものと見られている。

「経済成長が目標を下回り、とりわけ後発開発途上国に与える社会的影響は大きくなると懸念する理由がある。」

他方で、タスクフォースの報告書は、「開発資金に関するアジスアベバ行動目標」の7項目の行動領域すべてにおいて、進展が見られる。」と指摘している。7項目とは、資金の流れ(国内の公的資源、国内・国際の民間ビジネスと金融)、国際開発協力、貿易・債務・システム問題、科学・技術・イノベーション・能力開発などである。

にもかかわらず、「履行の上でかなり遅れが依然として存在する。」と報告書は指摘している。

タスクフォースはさらに、最も貧しく脆弱な国々や人々に関してとりわけ懸念があると警告している。後発開発途上国(LDC)48カ国は、現在の成長レベルでは、極度な貧困を根絶するという目標には、到底届かないだろうと考えられている。

Financing for Development: Progress and Prospects, 2017/ IATF
Financing for Development: Progress and Prospects, 2017/ IATF

2017・18両年に失業者は増えるものとみられる。そして、国際貿易の成長鈍化は、低投資とグローバル経済の失速の結果でもあり原因でもある。

「政策の変化が必要なのは明白だ。」と、タスクフォースは報告書で指摘している。

現在、主要国の経済、金融、社会、環境の各政策の方向性にはかなりの不透明感が漂っている。

世界銀行グループや国際通貨基金(IMF)、世界貿易機関(WTO)、さらに、国連貿易開発会議(UNCTAD)や国連開発計画(UNDP)のような国連機関など、50以上の国際機関からの専門家と分析、データを結集して作成されたこの報告書は、このような不透明な状況のためにグローバル経済に通常以上のレベルのリスクがかかっている、と指摘している。

開発資金国際会議に先立って、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、2030開発アジェンダの履行に関して、速やかに行動を取るよう各国に呼びかけた。

「グローバル化と技術の進歩によって、貧困との闘いにおける大きな前進が可能となったにも関わらず、世界全体で不平等は明確に拡大しています。紛争は拡大し、気候変動や食料安全保障、水不足といったその他の大きな動向も、この数十年で得られた進歩の効果を打ち消しかねない状況にあります。」とグテーレス事務総長は訴えた。

オーベンラント氏は、「必要なのは、民間部門の活動を規制し、企業の活動を持続可能な開発の要請に従わせるような強力な政策措置です。」と語った。

「民間部門を万能薬と見るのではなく、農業・生態系アプローチや循環経済、社会的連帯枠組み等の意義深く革新的なモデルを推進することによって、民間部門を『開く』ことが必要です。」

「ブレンド型金融や官民パートナーシップに関するこの種の言説は、公衆の利益を守るために包摂的かつ透明性が確保された形で原則や基準を発展させるとの『開発資金に関するアジスアベバ行動目標』(とりわけ2030アジェンダの履行の手法を正確に達成するために策定されたアジェンダ)の公約と大きな矛盾をきたします。」とオーベンラントは語った。

SDG Goal No. 17
SDG Goal No. 17

国連開発会議(FfD)プロセスでは、当初から普遍的なメンバーシップ、包摂的な特徴、人権の基礎に鑑みて、グローバルな経済ガバナンスにおいて国連の役割を強化することが試みられてきた。それによって、途上国の相対的な役割を強化してバランスを変え、より民主的なグローバルシステムを促進することが可能となる。

「途上国にとって最も重要な問題のひとつである国際的な課税協力を進めるために、国連開発会議(FfD)の成果は、包摂的でない既存の機関を強化する投資を行うよう各国に求めるのではなく、普遍的な加入がある国連の政府間課税機関など、この目的にかなった機関を設立することに向けられるべきです。」とオーベンラント氏は語った。

同様に、「グローバル・インフラストラクチャー・フォーラム」は、国連開発会議(FfD)フォローアッププロセスに対して開かれ、それによって導かれるものでなければならない。これに対して、『途上国の適切な声』への言及は、国際金融機関の改革において『途上国の声を強化すること』を『開発資金に関するアジスアベバ行動目標』が約束したことに比べると、見劣りするものだ。」とオーベンラント氏は強調した。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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アスタナ万博を取材ーカザフスタン館「ヌル・アレム」

【アスタナINPS Japan=浅霧勝浩】

Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan.

INPS Japanの浅霧勝浩理事長・マルチメディアディレクターは、カザフスタン政府の招待を受け、2017年6月から開かれている「アスタナ国際博覧会」を取材した。この万博のテーマは、“未来のエネルギー”。日本を含めて115カ国と22の国際機関が参加した。この映像は、カザフスタンのパビリオン「ヌル・アレム」の内部を撮影したもの。直径100メートルの巨大な8階建ての球体となっており、フロアごとに風力や水力、ソーラーエネルギー、バイオマスエネルギー等の展示がされている。

INPS visited Expo 2017. “The Sphere” left deep impression on our minds. All this was beyond what we have known from Science fiction. EXPO 2017 Shows the Way to Sustainable Energy Solutions

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Reporting on Shanghai Cooperation Organisation (SCO) Summit in Astana – June 8-9

IDN-INPS reported on the Shanghai Cooperation Organisation (SCO) Summit on June 8-9 in Astana, the capital city of Kazakhstan.

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「第69代全米さくらの女王と伊勢来訪 」(石田尊昭尾崎行雄記念財団事務局長)

【伊勢・東京IDN=石田尊昭】

第69代(2017年)全米さくらの女王のサマンサ・オルセンさんと、シャペロン(後見人)のバレリー・クレメンスさん、INPS JAPANの浅霧勝浩理事長と私の計4名で、6月4・5・6日と伊勢に行ってきました。

2017 US Cherry Blossom Queen and Chaperone visiting Prime Minister Shinzo Abe/ abinet Public Relations Office, Cabinet Secretariat.
2017 US Cherry Blossom Queen and Chaperone visiting Prime Minister Shinzo Abe/ abinet Public Relations Office, Cabinet Secretariat.

毎年この時期、全米さくらの女王は日本を訪れ、首相や衆議院議長、都知事などを表敬訪問し、日米の友好促進の役割を果たしています。今年は、5月30日に小池百合子・東京都知事、31日に安倍晋三首相を表敬訪問しました。

「全米さくらの女王」といえば「尾崎行雄」です。

女王は、毎春開催される「全米さくら祭り」(Cherry Blossom Festival)で選出されますが、この祭りのきっかけとなった桜は、1912年、当時東京市長を務めていた尾崎行雄が東京市から公式に贈ったものです。

そして、尾崎といえば、彼を連続25回当選させ、63年間国会に送り続けた「伊勢」です。その伊勢で咢堂精神の普及に努めるNPO法人・咢堂香風は、1915年に桜の返礼として米国から送られたハナミズキにちなみ、毎年「花みずきの女王」を選出しています。そして、全米さくらの女王を伊勢に招聘し交流を深め、「日米友好の架け橋」となっています。

今回も、咢堂香風のお招きによるもので、理事長の土井孝子さんを筆頭に、伊勢の方々の「あたたかい心」に触れた女王は、大変感激していました。

Commemorative Tree Planting ceremony held at Ozaki Yukio Memorial Hall in Ise/ Hiroyuki Mori
Commemorative Tree Planting ceremony held at Ozaki Yukio Memorial Hall in Ise/ Hiroyuki Mori

女王たちは、伊勢神宮二見興玉神社(ふたみおきたまじんじゃ)、皇學館大學(神道博物館)などを巡り、美しい自然と日本の精神性に触れました。また、咢堂記念館や伊勢市長、三重県知事を訪問し、咢堂精神に触れました。さらに、御木本真珠島(御木本幸吉は尾崎行雄を物心両面で支援した人です)や二見パールセンターでは美しい真珠やその歴史に触れました。そして、咢堂記念館と朝熊山麓公園でハナミズキの記念植樹を行い、改めて「尾崎行雄の桜と返礼ハナミズキの歴史と意義」を振り返りました。

女王は、全てのプログラムに感動し、このプログラムを企画・実現した土井理事長に、「自身の学びが深まったこと」を大変感謝していました。

私自身も、女王に同行する中で、改めて、伊勢の方々の「思いやり・おもてなしの心・あたたかい心」を実感し、そして土井理事長の情熱に元気づけられました。機会を頂ければ、またぜひ参加したいと思います。

Commemorative Tree Planting ceremony held at Ozaki Yukio Memorial Hall in Ise/ Hiroyuki Mori
Commemorative Tree Planting ceremony held at Ozaki Yukio Memorial Hall in Ise/ Hiroyuki Mori

INPS Japan

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全米さくらの女王一行の伊勢訪問を取材

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INPS JAPANの浅霧勝浩マルチメディアディレクターは、来日中の第69代全米さくらの女王使節団(サマンサ・オルセンさんと、シャペロン(後見人)のバレリー・クレメンスさん)と東京で合流し、尾崎行雄記念財団の石田尊昭事務局長と共に、一行の伊勢訪問を同行取材した。

Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan.
Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan.
Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan.
2017 US Cherry Blossom Queen and Chaperone visiting Prime Minister Shinzo Abe/ abinet Public Relations Office, Cabinet Secretariat.
2017 US Cherry Blossom Queen and Chaperone visiting Prime Minister Shinzo Abe/ abinet Public Relations Office, Cabinet Secretariat.

以下、石田事務局長の記事:

毎年この時期、全米さくらの女王は日本を訪れ、首相や衆議院議長、都知事などを表敬訪問し、日米の友好促進の役割を果たしています。今年は、5月30日に小池百合子・東京都知事、31日に安倍晋三首相を表敬訪問しました。

「全米さくらの女王」といえば「尾崎行雄」です。

女王は、毎春開催される「全米さくら祭り」(Cherry Blossom Festival)で選出されますが、この祭りのきっかけとなった桜は、1912年、当時東京市長を務めていた尾崎行雄が東京市から公式に贈ったものです。

そして、尾崎といえば、彼を連続25回当選させ、63年間国会に送り続けた「伊勢」です。その伊勢で咢堂精神の普及に努めるNPO法人・咢堂香風は、1915年に桜の返礼として米国から送られたハナミズキにちなみ、毎年「花みずきの女王」を選出しています。そして、全米さくらの女王を伊勢に招聘し交流を深め、「日米友好の架け橋」となっています。

今回も、咢堂香風のお招きによるもので、理事長の土井孝子さんを筆頭に、伊勢の方々の「あたたかい心」に触れた女王は、大変感激していました。

Commemorative Tree Planting ceremony held at Ozaki Yukio Memorial Hall in Ise/ Hiroyuki Mori
Commemorative Tree Planting ceremony held at Ozaki Yukio Memorial Hall in Ise/ Hiroyuki Mori

女王たちは、伊勢神宮二見興玉神社(ふたみおきたまじんじゃ)、皇學館大學(神道博物館)などを巡り、美しい自然と日本の精神性に触れました。また、咢堂記念館や伊勢市長、三重県知事を訪問し、咢堂精神に触れました。さらに、御木本真珠島(御木本幸吉は尾崎行雄を物心両面で支援した人です)や二見パールセンターでは美しい真珠やその歴史に触れました。そして、咢堂記念館と朝熊山麓公園でハナミズキの記念植樹を行い、改めて「尾崎行雄の桜と返礼ハナミズキの歴史と意義」を振り返りました。

女王は、全てのプログラムに感動し、このプログラムを企画・実現した土井理事長に、「自身の学びが深まったこと」を大変感謝していました。

私自身も、女王に同行する中で、改めて、伊勢の方々の「思いやり・おもてなしの心・あたたかい心」を実感し、そして土井理事長の情熱に元気づけられました。機会を頂ければ、またぜひ参加したいと思います。

Commemorative Tree Planting ceremony held at Ozaki Yukio Memorial Hall in Ise/ Hiroyuki Mori
Commemorative Tree Planting ceremony held at Ozaki Yukio Memorial Hall in Ise/ Hiroyuki Mori

INPS Japan

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ICAN、核兵器禁止条約発効を期待(ティム・ライトICAN条約コーディネーターインタビュー)

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【シドニーIDN=ニーナ・バンダリ】

2018年に核戦力による威嚇が強まるのを世界が目の当たりにするなか、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は、各国政府に核兵器禁止条約(核禁条約)への署名・批准を働きかける世界的な民衆運動を支援している。ICANの条約コーディネーターを務めるティム・ライト氏は、IDNのニーナ・バンダリ記者に、軍縮、核兵器のリスクと帰結に対する認識を高めること、そして今日の世界には核禁条約がなぜかつてないほど必要なのか、について語った。

ライト氏は、核禁条約が2019年中に発効することを期待している。彼は南北対話を開始した韓国の文在寅大統領の「優れたリーダーシップ」を称賛しつつも、「しかし、真の平和は、核兵器が、北朝鮮だけではなく、全ての国々による全面拒否に基づくものでなければならない。」と指摘している。また、ドナルド・トランプ大統領によるイラン核合意破棄については、「核不拡散の努力を阻害するもの。」と述べている。

インタビューの全文は次の通り:

バンダリ:ICANの核禁条約コーディネーターとして、ICANの2017年ノーベル平和賞受賞以来、世界的な核軍縮シナリオについて何が変化したとお考えですか。

ライト:2017年ノーベル平和賞の受賞は、ICANにとって核禁条約に光をあてる活動の助けになっています。また、核禁条約への署名・批准を獲得する機運を高めるのに貢献しました。ICANのノーベル平和賞受賞はまた、別の道を選択することが可能であり、私たちが永遠に核戦争の瀬戸際で生きていく必要はないことを示しました。

ノーベル平和賞受賞演説で、私たちには、核兵器の終わりか、それとも、私たちの終わりか、二つの終わりのどちらをとるかという選択肢が与えられていると述べました。私は、このシンプルなメッセージは世界の人々の共感を呼んだと思っています。世界中の人々が、この恐ろしい兵器が人類に及ぼす脅威について深く憂慮し、これを廃絶するために政府に緊急の対策を講ずるよう望んでいるのです。民衆は変化を切望しています。私たちには、世界各地で自国の政府がこの条約に署名するよう取り組んでいる多くの仲間がいます。

バンダリ:核禁条約が2017年9月20日に署名開放されてから、これまでに58カ国が署名し10カ国が批准しました。条約が発効するには50カ国が批准しなければなりません。5月14日から16日にかけて予定されていた「核軍縮に関する国連ハイレベル会議」は無期限延期されました。核禁条約はいつ発効すると期待していますか。

ライト:私たちは、核禁条約が2019年中に発効することを望んでおり、この目標に向けて行動を起こしています。条約が発効するにはさらに40か国の批准が必要ですが、既に多くの国々が批准手続きでかなり進んだ段階にあります。いくつかの国については、この数カ月で批准書を寄託する準備が整うでしょう。

私たちはニュージーランドとアイルランドが今年の半ばまでに条約に批准すると期待しています。またラテンアメリカの多くの国々が議会に条約を提出しており、今年中に批准することが期待されています。したがって、核禁条約は今年末までの発効に向けて推移しています。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

2017年にニューヨークで行われた軍縮活動に鑑みれば、2018年の国連ハイレベル会合は、ある意味以前に考えられていたほど重要でなくなっているというのが、一般的な考え方でした。国連ハイレベル会合が無期限延期となった背景には様々な要素があり、とりわけハイレベル会議設立の根拠となった国連総会決議を提出した主催団体側の組織力の欠如が指摘されています。

ICANはハイレベル会合の準備に関与していませんでした。今は、核禁条約に署名・批准する国を増やすことに焦点をあてています。私たちは核禁条約が発効してから1年以内に国連事務総長によって開かれる第一回締約国会合の開催に向けて努力を傾けています。

北朝鮮の非核化と核軍縮を促進する

バンダリ:米朝首脳会談は6月12日開催の方向で進んでいるようですが、核禁条約の発効という観点から、米朝首脳会談にどのような結果を期待しますか。また、朝鮮半島に平和をもたらそうと積極的に行動している韓国の役割をどのように見ていますか。

ライト:米朝首脳会談が実現するかどうかは未だ明確ではありません。金最高指導者とトランプ大統領の双方から、首脳会談をキャンセルか日程変更するかもしれないというコメントを聞いています。双方とも予想が大変難しい政治指導者だと考えています。なにが起こってもおかしくない状況ですが、私たちは、このプロセスから何らかの前向きな結果が生まれるものと、引き続き慎重ながら楽観的な見方をしています。

南北対話を開始した韓国は素晴らしいリーダーシップを示しました。文氏はこの状況の中で思慮深い立ち回りをしたと思います。しかし、真の平和は、核兵器が、北朝鮮だけではなく、全ての国々による全面拒否に基づくものでなければなりません。韓国がいわゆる米国の核の傘で守ってもらうという考え方を拒否することが極めて重要です。この危険な軍事概念こそが、核兵器が安全保障を強化するという愚かな考え方を助長しているのです。

私たちは、核禁条約は朝鮮半島の非核化を前進させ核軍縮をより広く促進するうえで大いに関係があることを示したい。私たちは、こうした協議に関わってきた全ての国々に対して、核禁条約に署名・批准し、同条約を核軍縮を実現するための道具として利用するよう呼びかけています。

バンダリ:米国による2015年イラン核合意からの撤退は世界にとってどのような意味合いを持つでしょうか。イランは産業レベルでウラン濃縮を始めるでしょうか。また、この出来事は中東における核軍備競争の前兆となるでしょうか。

ライト:これは大いに懸念すべき出来事です。全てが、イランによる包括的共同作業(JCPOA)の完全順守を示唆していたからです。国際原子力機関(IAEA)は、イランは合意に則って引き受けた内容を履行していると繰り返し認定してきました。従って、今回の米国による行動は、全く正当化できないのみならず、核不拡散の努力を阻害するものです。私は、今回の米国の動きは、イラン国内の急進派に対して危険なメッセージを送ることになったと考えています。急進派は、イラン独自の核兵器計画を実現したがっている可能性がある人々です。私は、イランの現政権が核兵器を開発する意図を持っているとは思っていません。

米国がイラン核合意から離脱したことにより、より広範な分野で様々な悪影響が及ぶことになります。例えば、今後の北朝鮮との交渉過程において、米国の主張が真剣に受け止められにくくなるでしょう。米国がイランに関して筋を通していないなかで、北朝鮮がどうして米国が筋を通すと期待するでしょうか。イラン核合意の欧州の当事国(英国、ロシア、フランス、ドイツ)は、米国による合意撤退を強く非難しました。しかし、私たちは単に核不拡散に焦点をあてるだけの議論から先に進む必要があります。

全ての国々が既存の兵器を廃絶しなければなりません。イラン核合意の締結国をみるとイラン以外の全ての国々が核兵器を保有しています。私たちは欧州の締結国が核禁条約に加盟し、実際に核兵器を廃絶するよう望んでいます。ドイツは独自の核兵器を保有していませんが、米国の核兵器を領内に受け入れています

バンダリ:最近、米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに、核軍縮交渉が停滞する中、「コンピュータの誤作動や人的・技術的な間違い、軍事対立の激化で」核攻撃が起こりうる現実を警告した寄稿文が掲載されました。こうした事態がおこる可能性を減らすには、どのような措置が緊急に講じられるべきでしょうか。

ライト:私は全ての核兵器国が、不注意による核兵器使用のリスクを減らす措置をとれると考えています。つまり、まずは核ミサイルの『警告即発射』態勢を解除し、次に、実戦配備から外すのです。核兵器が二度と使用されないよう保障する唯一絶対の方法は、全ての核兵器を不可逆的に廃棄することです。核兵器が世界に存在する限り、いつの日か再び使用され人類と環境に壊滅的な影響をもたらす深刻なリスクがあります。

ICANは、各国に核禁条約への署名と批准を強く働きかける取り組みに加えて、核兵器のリスクと帰結について人々の意識を高めていく活動を今後も継続していきます。依然として多くの人々が、人類が直面している現実の危険性に気づかないままでいるのです。

米国とロシアは世界の核兵器の90%以上を保有していることから、両国が軍縮に向けてリーダーシップを発揮する必要があります。しかしそのようなリーダーシップは、国内世論と国際社会からの圧力があってはじめて現実のものとなります。だからこそ、世界の大多数の国々が核禁条約に加盟して一刻も早い核軍縮を求めていることを示すことが極めて重要なのです。

バンダリ:核兵器を保有しながら核不拡散条約に加盟していないインド、パキスタン、イスラエルといった国々の核禁条約に対する反応としては、どのようなものがありますか。

ライト:インドとパキスタンは、核不拡散条約について、条約交渉時点で既に核兵器を保有していた国々と、条約発効後に核兵器を開発した国々では扱いが異なる差別的な制度であるとして、長年にわたって批判してきました。

しかしながら、核禁条約は全ての国々を平等に扱う仕組みとなっているので、インド・パキスタン両国は、もはや核軍縮措置を支持しない口実は使えません。今までのところ、両国からは、なぜ核禁条約への署名や批准を拒否しているのか、明確な理由を聞いていません。インド・パキスタン両政府に対する国内の民衆からの圧力が高まることを期待しています。ICANは両国においてそのような民衆運動を構築していきます。

イスラエルについては、イスラエル軍縮運動というICANのパートナー組織が、核兵器についての国民的議論を巻き起こす取り組みを行っています。彼らはイスラエル国会(クネセト)で国会議員と軍縮問題に関する公開討論会を開催するなど、僅かながらも軍縮議論を前進させてきています。しかし、依然としてやらなければならないことが多い。核禁条約は、各国に対等の立場で軍縮に貢献できる道筋を提供しています。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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【ワシントンDC・IDN=リック・ウェイマン

5月23日、米エネルギー省は、ドナルド・トランプ大統領の2018年予算案を歓迎する報道発表を行った。同省は特に「本省の核兵器事業の安全性、保安性、効果を維持し向上させる『核兵器活動』予算に102億ドル」を割り当てた点を賞賛した。

この報道発表は、コスタリカのエレイン・ホワイト大使が核兵器禁止条約の草案を発表してから24時間も経たないタイミングでなされたものである。ホワイト大使は、核兵器を禁止し、その完全廃絶に導くための法的拘束力ある文書を交渉する国連会議の議長を務めている。これまでのところ、130カ国以上が禁止条約の交渉に参加している。条約の最終草案は7月初めに提示される見通しだ。

A step closer to fusion energy. Credit: DOE
A step closer to fusion energy. Credit: DOE

条約案では、締約国に対して、核兵器の開発・生産・製造・保有・備蓄をとりわけ禁じている。米国は強硬な姿勢で条約交渉をボイコットし、この無差別的で壊滅的なまでに破壊的な兵器を禁止しようとする世界の大多数の国々による誠実な努力を妨害すべく積極的に動いている。

トランプ大統領の核兵器活動に対する予算案に驚く者はいないだろう。実際、その大部分は、バラク・オバマ政権の下で開始された米国の核兵器「近代化」計画の延長線上にある。しかし、注意しなくてはならないのは、エネルギー省が「その予算案は核兵器が廃絶されるまでの間、単に米国の核弾頭を維持するためだけのものではない」と暗に認めている点である。むしろこの予算案には、21世紀末までに作戦上の地位が与えられるとみられる新兵器に新たな軍事能力を統合し、核兵器の「威力」を向上させる狙いが含まれている。

核兵器禁止条約案は「核兵器の壊滅的な帰結は国境を超え、人類の生存や環境、社会経済上の発展、グローバル経済、食料安全保障、そして将来世代の健康に大きな影響を与える」と明確に述べている。

米国が世界の大多数の国々と共に核兵器を禁止する条約交渉に加わる予定であるかどうかに関わらず、その政策と計画は、核兵器の使用が壊滅的な帰結を伴うという明白な証拠を反映したものにならざるを得ない。核兵器なき世界における真の安全保障実現に向けて全力で外交努力を行うのではなく新型核兵器に投資することに、弁解の余地など断じてあり得ない。

誠実な義務

核不拡散条約(NPT)第6条は、すべての締約国に対して、核軍備競争を早期に終結させるために誠実に交渉することを義務づけている。同条約は47年以上前に発効した。

核兵器禁止条約案は、「厳格かつ効果的な国際管理の下でのあらゆる側面における核軍縮につながるような交渉 を誠実に追求し妥結をもたらす義務が存在する」とした1996年の国際司法裁判所(ICJ)の全会一致での宣言を繰り返している。

クリストファー・ウィラマントリー判事は、ICJが1996年の勧告的意見を出した際、副所長だった。ウィラマントリー氏は2013年に核時代平和財団に寄せた文章の中で、核軍縮における「誠実さ」の概念について以下のように詳述している。「国際法における誠実な遵守の義務において中途半端はありえない。」「義務の部分的な遵守とはかけ離れた完全なる非遵守があった場合、『誠実さ』の部分に対する無視と違反は加速度的に拡大するだろう。」

Christopher Gregory Weeramantry, born 17 November 1926 in Colombo, Sri Lanka/ By Henning Blatt - Own work, CC BY-SA 3.0
Christopher Gregory Weeramantry, born 17 November 1926 in Colombo, Sri Lanka/ By Henning Blatt – Own work, CC BY-SA 3.0

米国やその他多くの核保有国は、核兵器の数そのものを削減していることを理由に、自らの義務を果たしていると主張する。量的な意味での削減は重要であり、この数十年間におけるこの面の進展ぶりには目を見張るものがある。しかし、核軍拡競争は、単に量的な側面にとどまらない。むしろ、多くの核保有国の間で私たちが目にしているものは、質的な意味での核軍拡競争だ。そこでは、核兵器の「威力向上」が主要な要素となっている。

ウィラマントリー判事の解釈によれば、この質的な核軍拡競争は、軍縮のための「誠実(=Good Faith)」義務に大きく違反するのみならず、その精神とは真逆の「悪意(=Bad Faith)」を構成することになる。

核兵器禁止はすぐそこまで来ている

米国やその他の核保有国がいかに多くの資金を核戦力に投入しようとも、世界の国々の圧倒的多数は7月に核兵器禁止条約を締結する心づもりだ。

そうした条約は核開発を直ちに止めたり、現在の核戦力が人類全体に及ぼしている脅威をなくしたりすることはないが、正しい方向に向かう重要なステップとなる。

NPTと慣習国際法は、核兵器を保有する国々だけではなく、すべての国々に対して、核軍縮に向けた交渉を行うよう義務づけている。核兵器禁止条約はこの義務を果たすために必要な多くの措置のうち最初のものであり、将来的な多国間行動の堅固な基礎を築くものだ。

UN General Assembly approves historic resolution on December 23, 2016. /ICAN
UN General Assembly approves historic resolution on December 23, 2016. /ICAN

非核保有国は、禁止条約を成功裏に発効させ、「核兵器なき世界」を最終的に達成するための次なる措置を確実にするために、外交努力の効果を継続的に高めていかなくてはならない。(原文へ

◆著者注…一般的に、米エネルギー省は核弾頭や核爆弾の設計・製造・管理を担当し、国防総省は核兵器の運搬システム(ICBM・潜水艦・爆撃機)や、この原稿で触れていないさらに数十億ドルを要する核兵器の配備・展開を担当している。エネルギー省による核「近代化」計画について、さらに詳しくは、「核の説明責任追及連合」による最新の報告書『アカウンタビリティ監査』を参照。

※リック・ウェイマンは、核時代平和財団の事業・運営部門責任者。「核の説明責任追及連合」理事長。核廃絶を求める「アンプリファイ:変革の世代」ネットワークの共同議長も務める。

翻訳:INPS Japan

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