ホーム ブログ ページ 169

武力紛争時における国際人道法の擁護(ルネ・ワドロー世界市民協会会長)

【ジュネーブIDN=レネ・ワドロー】

トルコ軍が「安全地帯(国境沿い東西約600km×幅30~40kmの地域)」と称するシリア東北部に越境侵攻し、とりわけ同軍の支援を得たシリア民兵組織による残虐行為が明らかになる中、国際人道法の尊重という問題が、急速に浮上している。名目上は、あらゆる国の正規軍が、1949年8月12日のジュネーブ諸条約と1977年に採択された同議定書の規則について周知されていることとなっている。

1949年にジュネーブ諸条約が起草・採択された際、戦時捕虜と民間人の保護に関する規則を相当に詳しく書き込むことが可能であった。とりわけ、ジュネーブ共通3条(4本の条約に共通する条文)は「各紛争当事者は、少なくとも次の規定を適用しなければならない:敵対行為に直接に参加しない者は、どのような状況下にあっても、人種、肌の色、宗教若しくは信条、性別、門地若しくは貧富又はその他類似の基準によるいかなる不利益を受けることなく、人道的に待遇しなければならない」と規定している。

Photo: German, French, and Spanish fighters of the People's Protection Units (YPG) in northern Syria call for people to join the Kurdish-Turkish conflict in Turkey. CC BY 3.0
Photo: German, French, and Spanish fighters of the People’s Protection Units (YPG) in northern Syria call for people to join the Kurdish-Turkish conflict in Turkey. CC BY 3.0

共通3条の重要性をおろそかにしてはならない。それは、あらゆる紛争当事者が尊重すべき重要な保護について、明確に規定したものだ。国際人道法は、さらなる保護の必要性を満たすために、国際的な武力紛争だけではなく、内戦をもカバーすべく発展してきた。今日、国際人権基準は国際人道法の一部を成し、女性や子ども、マイノリティといった脆弱な集団に対する更なる保護を提供するものとみなされている。

内戦状況が広がるにつれ、武装集団のような非国家主体による虐待行為がますます懸念されるようになってきている。国際人道法の根本的な標準は、あらゆる場面において人権を効果的に保護できるようなものとして意図されている。その基準は、明白なものだ。

国際人道法の効果については、2つの弱点がある。第一は、国際人道法というものが存在し、その規範に自分たちが拘束されていることを多くの人々が知らないという事実だ。したがって、啓発的な活動や、一般的な教育を通じた情報の拡散、軍人に対する特別訓練、武装集団への働きかけ、広範な非政府組織との協力には大きな役割がある。

第二の弱点は、国際人道法の違反がほとんど罰されることがない、ということだ。各国政府は、こうした違反行為をあまりにも野放しにしている。国際人道法違反のために、一般の裁判あるいは軍事裁判にかけられる軍人はほぼいない。政府に属しない民兵や武装集団に関しては、なおさらそうである。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

実際、国際人道法の違反事例の大半は、軍人や武装集団の構成員個人が、怒りや恐怖、復讐への欲望、あるいは女性をレイプしたいという突発的な性的欲求などの、急な衝動によって起きているのではない。国際人道法の規範を破る軍人や武装集団のそうした行為は、上官の命令で行われているのである。

こうして、唯一確実な対処法は、上官からの命令を拒否し、拷問や医療施設の爆撃、捕虜の射殺、子どもの虐待、女性への暴行を拒絶する良心に基づく行動しかないということになる。良心こそが善悪を識別し正しい行動を促す「内なる声」であり、国際人道法を順守する環境を築き上げる基礎となる価値観である。不公正な命令を拒絶する良心を擁護していくことは、法の支配による国際社会へと向かっていくうえで、困難だが決定的に重要な行動である。(原文へ)PDF

※国際人道法に関する有益なガイドとして、D・シンドラー、J・トーマン『武力紛争法』(マルティナス・ニジョフ出版社、1988年)、H・マコーブリー、N・D・ホワイト『国際法と武力紛争』(ダートマス出版、1992年)を参照。

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

関連記事:

|グアテマラ|忘れられた大量殺戮の物語

混迷の度が深まるアフリカ東部・「アフリカの角」地域

著名な仏教指導者が核兵器とキラーロボットの禁止を呼び掛ける(池田大作創価学会インタナショナル会長インタビュー)

ガンビアがミャンマーによるジェノサイド条約違反を訴えた重要性

西アフリカのイスラム教国ガンビアが国際刑事裁判所(ICJ)に提訴した「ロヒンギャ大量虐殺」疑惑を巡る問題点と、ミャンマーによる違反が指摘されている集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約(ジェノサイド条約)の中身、さらには国際社会の対応を分析したルネ・ワドロー世界市民協会会長の視点。ルワンダ国際戦犯法廷に関与した経験があるガンビアのタンバドゥ法務大臣は、「(今回の提訴を通じて)われわれは周りで起こっている恐るべき残虐に対してミャンマーおよびそのほかの国際社会に明白なメッセージを送っている。ミャンマーで発生している大量虐殺を目の前にして何も行われていないことは恥ずべきことである。」と語った。(原文へ)

INPS Japan

関連記事:

ロヒンギャ難民は依然として危険な状況にある

賠償がいかに貧困を根絶し、SDGs実現に寄与するか

【ニューデリーIDN=マニッシュ・アプレティ、ジャイネンドラ・カーン】

数字を扱うことにはマイナスもあり、他の領域での満足を得ようと考える者が出てくるかもしれない。20世紀で最も影響力のあった詩人(=後のノーベル文学賞作家T.S.エリオット)が、ロンドンの厳格なロイズ銀行の植民地外務部に勤めていた1922年に『荒地』を著したことは不思議ではない。

他に思い付く事例と言えば、ピーター・ボーン氏だ。彼は叩き上げの会計士であり、ウェリングバラ地区選出の保守党国会議員である。2018年11月、(かつての英国の植民地である)インドがどのように国家予算を使うべきかについて明け透けに語り、反発を招いた。ボーン議員の(時代錯誤的な)発言は、有名な格言の一つ「パル・アップデシュ・クシャル・バフテーレ(他者に教えを垂れる前に、自らそれを実践せよ)」を思い起こさせるものだ。

とりわけ途上国の場合、開発領域で大きな難題に立ち向かう上で、利用可能な多くの政策オプションや見解がある中で、より真摯に問題に取り組まざるをえないだろう。資源は有限であり、それを生み出す手段も限定的であるからだ。

2015年、世界の指導者らは、2030年までにより良い世界を目指す17の目標である「持続可能な開発目標(SDGs)」に合意した。貧困を根絶し、不平等と闘い、気候変動の緊急事態に対処し、政府や企業、市民社会、一般市民の参加を促してより良い未来を構築することを目指すものだ。

これは「古いワインに新しいラベルを貼る」の典型に見えるかもしれない。2000年の国連ミレニアムサミットと、国連ミレニアム宣言の採択に続いて、当時の国連加盟191カ国すべてと、少なくとも22の国際機関が、2015年までに国連ミレニアム開発目標(MDGs)を達成することを誓った。各目標には特定の指標とその達成期限が付されていたが、残念ながら目標は達成されなかった。

批評家らはMDGsで選択された目標には十分な分析と正当な理由が欠けており、一部の目標に関しては測定が困難あるいは不在、なかには進展具合が不均衡なものもあると批判した。いずれにせよ、2015年9月25日には、「私たちの世界を変革する:2030持続可能な開発アジェンダ」と題された国連総会決議70/1によって、8つのMDGsが17のSDGsと169のターゲットに生まれ変わった。

しかし、MDGsの経験に学ぶことは、とりわけ開発援助の利用に関して、多くの意味において典型的であった。MDGs実現のために先進国が行った支援のうち半分以上が債務返済支援に回され、残りのほとんどが、開発支援ではなく災害救助と軍事支援に向かった。

人間開発の進展を測るために「脆弱性」と「強靭性」の概念を初めて検討した『人間開発報告書』を国連が2014年に発表した際、国連開発計画(UNDP)のヘレン・クラーク総裁は、あらゆる社会がリスクに対して脆弱ではあるが、困難な状況が起こった際に、より少ない害しか受けず、より早く復興に向かう社会があると指摘した。

Human Development Report 2014/ UNDP
Human Development Report 2014/ UNDP

社会で問題になるのは、その経験だ。欧州諸国による植民地化は、アフリカやアジアの社会に対して、拭いがたい影響を残した。その悪影響は現在でも見られ、開発の指標によって測定されうるものである。

SDGsが2015年に発表された際、極度の貧困の撲滅に関する目標1の成功は、アフリカの状況いかんにかかっていると理解された。しかし、国連や世界銀行の最近の予想では、アフリカがこれに成功する見通しはない。

なぜ、史上最高の経済成長を享受しているにも関わらず、アフリカの貧困はこれほどまでに執拗になくならないのだろうか。この点について、歴史的な経験はいかなる役割を果たしうるのだろうか。

世界銀行の報告書によると、アフリカの貧困には3つの主な理由がある。

①アフリカの成長のほとんどの部分が貧困撲滅に向かっていない。低いレベルの資産保有や、公的サービスへのアクセスが限定されているなど、当初からの高いレベルの貧困によって、機会をつかむことができないからだ。

②アフリカの収入増が、農業よりも天然資源に依存する傾向があること。農村開発は農村地帯の貧困層の85%を排除している。

③アフリカの高い出生率と、その結果として起こる高い人口成長率のために、高い経済成長があっても一人あたりの収入増は少なくなる。アフリカに関する議論の中で、米国ではしばしば忘れ去られている論点である。

当初からの高いレベルの貧困と天然資源への依存、農業開発の不在が、欧州による植民地化の歴史とつながっていることは、たやすく見て取れる。

アジアに関しては、1600年には、1990年時点の米ドルと購買力平価で換算したところ、世界のGDPの51.4%を中国とインドが占めていた(中国が29%、インドが22.4%)と、英国の著名な経済史家アンガス・マディソン氏が推計している。

その100年後、中国のGDPは低下したが、インドは世界全体の24.4%まで成長した。しかし、1820年までには、インドの割合は16.1%まで低下する。1870年までにはさらに下がって12.2%になった。

また、著名な経済学者ウトサ・パトナイク氏は、これまでの約200年で、東インド会社と英国領インド帝国が少なくとも9.2兆ポンドをインドから絞り出したと計算した(44.6兆米ドル相当。植民地期のほとんどにおいて、為替レートは1米ドル=4.8ポンド。)

植民地期には、インドの外国為替収入のほとんどはロンドンに直接向かい、インドが機械や技術を輸入して、明治期の日本(=1870年代)と同じような近代化への道をたどることを著しく阻害した。

ハーバード大学で学んだ統計学者でインドの国会議員でもあるサバルマニアン・スワミー博士は、ノーベル賞受賞者のサイモン・クズネッツ氏、ポール・サミュエルソン氏と共同で、英国がインドから強奪した総額は71兆米ドルに上ると推計している。

英国支配(東インド会社~英国領インド帝国)の下で、インドでは数えきれないほどの飢饉が発生した。最悪のものはベンガル地方を1770年に襲った飢饉であり、これに、1783年、1866年、1873年、1892年、1897年、最後に1943~44年の飢饉が続いた。それ以前に飢饉が国を襲った際には、現地の為政者らが適切な対応を行い、大きな災害は避けられてきた。他方、ヨーロッパによる植民地化の顕著な特徴は、無謀な経済政策のみならず、現地住民に対する容赦ない態度であった。

Map, “Political Map of the Indian Empire, 1893” from Constable’s Hand Atlas of India, London: Archibald Constable and Sons, 1893. / Public Domain

1770年の飢饉だけでもおよそ1000万人が亡くなったが、これは、第二次世界大戦時のユダヤ人虐殺(ホロコースト)やコンゴでのベルギー国王による虐殺よりも数百万人多い。この飢饉によってベンガルの人口の3分の1が消滅してしまった。米国の歴史家ジョン・フィスク氏は『見たことのない世界』において、「ベンガルの1770年の飢饉は欧州を14世紀に襲った黒死病よりもずっとひどかった。」と書いている。

私達の誰もがこれに懸念を持つべきだが、しかし、何がなしうるだろうか? 世界銀行の最近の報告書『アフリカにおける貧困削減を加速する』では、各国政府や利害関係者に対して従来の方策に関する提案や勧告を行っている。しかし、報告書は、欧州の植民者による被植民地への賠償や、賠償が開発のプロセスを加速し、国連のグローバルな目標を達成する上で果たしうる役割についても、検討すべきであった。

2013年、カリブ海諸国の元首らは「カリブ共同体損害賠償委員会(CRC)」を立ち上げた。大量虐殺や奴隷、奴隷貿易、人種的アパルトヘイトといった「人道に対する罪」の犠牲になった先住民族やアフリカ出身者の子孫に対する賠償責任を果たす必要性を訴えることを任務としている。

CRCは、「人道に対する罪」の犠牲者とその子孫には、過去の不正に対して補償を求める法的権利があり、これらの罪を犯した者や、これらの罪を通じて利益を得た者には、被害者の要求に応じる賠償責任が生じると主張している。

現在、人間開発指標で世界130位に位置し、栄養不良に苦しむ4660万人の子どもをもつインドのような発展途上国が、英国から賠償として71兆米ドルを得ることができたならば……と想像するほかはない。

資金的な注入には、社会において好ましい経済的・開発的プロセスを起動させる能力がある。そのよい例が、1948年のマーシャル・プラン(欧州回復計画)だ。マーシャル・プランの下で、130億米ドル以上が欧州各国経済の回復を支援し、保護主義と自己利益の追求ではなく、開放的な市場と自由貿易を基盤とした政治経済をもつ「新しいヨーロッパ」の建設に寄与した。数多くの成果に結びついた出来事を連鎖的に引き起こす刺激となったのである。しかし、援助は常に、ドナーがその条件を設定するものであった。

したがって、CRCは、すべての元植民地宗主国政府とそれらの国々の関連機関による、植民地化された国々に対する賠償支払いの道徳的・倫理的・法的正当性を確立する素晴らしい前例を作ろうとしているのである。

実際、CRCは、アジアやアフリカ諸国の「貧しい人々のための資源を動員する」としてGDPの割合に対する税金を引き上げる呼びかけを高らかに行ったり、海外にひも付き支援を行ったりといった従来のやり方よりも、はるかに望ましい方策である。

時は2019年11月。ピーター・ボーン議員や、国際機関を含むその他の人々は、現存する歴史的な過ちを正し、貧困を根絶して国連のグローバルな目標を達成するために賠償に主たる役割を与え、より公正で人道的な世界への道を切り開くつもりがあるだろうか。(原文へ)

※マニッシュ・アプレティ氏は元外交官。ジャイネンドラ・カーン氏はインド人民党の幹部。

INPS Japan

関連記事

インドで持続的開発を阻むもの

|国連|奴隷貿易に関する教育プログラムを促進し、人種差別に警告を

第二次世界大戦時のアフリカ人従軍兵士等が英国政府に公式謝罪と補償を求める

忘れられた感染症:肺炎が5歳未満児の死因第1位に

【ニューヨークIDN=ショーン・ブキャナン】

肺炎は予防可能な疾病であるにも関わらず、昨年は39秒に一人に相当する80万人以上の5歳未満の子どもが命を落とした。しかし、最新の分析によると、引き続き肺炎対策に割り当てられる資金不足から、子供たちの生存率は改善できていない。

国連児童基金(UNICEF)が、WHO(世界保健機関)および母子疫学推計グループ(MCEE)の中間推定値と2018年の子どもの死亡率推計に関する国連の機関間グループ推定値に基づいて9月に発表した分析報告によると、亡くなった子供の大半が2歳未満であり、約153,000人が生後1か月以内の新生児が命を落としている。

この忘れられた感染症について警鐘を鳴らすため、保健や子どもの専門機関6団体(ISGlobal、セーブ・ザ・チルドレン、ユニセフ、Every Breath Counts、ユニットエイド、GAVI)が、11月12日に、世界規模での行動を呼びかけた。

このグループは、肺炎の蔓延率が高い国々およびドナーによる具体的な行動を求めるため、ラ・カイシャ財団、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、米国国際開発庁(USAID)とともに、1月29日から31日にスペインで小児肺炎に関するグローバルフォーラムを開催する。

World pneumonia Day  Logo/ WHO
World pneumonia Day Logo/ WHO

ユニセフのヘンリエッタ・フォア事務局長は、「毎日、5歳未満の子ども約2,200人が、治癒可能でほとんどが予防可能な肺炎で亡くなっています。この病気と闘うためには、世界規模での積極的な取り組みと投資の増加が不可欠です。子どもたちの元へ、費用対効果の高い保護、予防、治療の支援を届けることによってのみ、何百万人もの命を真に救うことができます。」と語った。

肺炎は細菌やウィルスといった病原菌によって引き起こされる病気で、肺に膿や水分が溜り呼吸困難を引き起こす。

2018年の5歳未満児の死因第1位が肺炎だった。なお、5歳未満の子ども43万7,000人は下痢、27万2000人はマラリアにより命を落としている。

セーブ・ザ・チルドレンのケヴィン・ワトキンス代表は、「これは国際的に緊急の対応を要する世界的に蔓延しながら忘れ去られた感染症です。数百万人もの子供たちが、ワクチンや安価な抗生物質の不足、さらに、酸素吸入治療さえできない環境が原因で命を落としています。肺炎危機は、国際社会がこの疾病を軽視しヘルスケアへのアクセスが弁解の余地がないほど不平等な現実を映し出しています。」と語った。

2018年は、ナイジェリア(16万2000人)、インド(12万7000人)、パキスタン(5万8000人)、コンゴ民主共和国(4万人)、エチオピア(3万2000人)の僅か5か国が、世界で肺炎で亡くなった子供の半数以上を占めていた。

HIV/AIDSなどの感染症や栄養失調で免疫力が低下した子どもや、大気や水が汚染された地域に暮らしている子供は、はるかに大きなリスクに晒されている。しかし、肺炎は、ワクチンによる感染予防が可能だし、感染しても適切な診断を受けられれば安価な抗生物質で容易に治療できる疾病である。

UNICEF
UNICEF

しかし依然として数千万人に及ぶ子供がワクチンを接種できないでいるほか、発症しても3人に1人が最低限の医療さえ受けられないでいる。

2018年、7100万人の子どもが、3回にわたる接種が推奨されている肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)を受けられず、肺炎に感染する高いリスクに晒された。世界全体では、肺炎の疑いがある子どもの32%が、医療施設に連れて行ってもらえていない。中低所得国の場合に限定してみると、この割合は40%に跳ね上がる。

深刻な肺炎を患った子どもには、酸素吸入による治療が必要になることもあるが、最貧国ではそういった設備があるのは稀である。

ワクチンと予防接種のための世界的同盟(GAVI)のセス・バークレー事務局長は、「この予防可能で、治療可能で、診断が容易な病気が、依然として世界の幼児の死因の1位であることは、率直に言って衝撃的です。過去10年間で大きな進歩を遂げ、世界で最も貧しい国々の数百万人もの子どもたちが今、命を救う肺炎球菌ワクチンを接種しています。主にGAVIの支援のおかげで、低所得国における肺炎球菌ワクチンの接種率は世界平均を上回りましたが、すべての子どもがこのワクチンを接種できるようにするためにはさらなる取り組みが必要です。」と語った。

肺炎に対処するために運用できる資金は、他の病気よりもはるかに限られている。5歳未満の子どもの死亡の15%を引き起こす病気にもかかわらず、肺炎対策に割り当てられている感染症研究における世界の支出は僅か3%に留まっている。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

Every Breath Countsのリース・グリーンスレード氏は、「数十年にわたって、この忘れられた感染症が子供たちの死因の首位を占めてきました。そして最も脆弱な立場にある子どもたちがその代償を払わされてきたのです。今こそ、各国政府、国連、国際機関、企業、NGOsが力を合わせて肺炎問題に取り組み、こうした子どもたちを助けることが求められています。」と語った。

6団体は共同声明の中で、「最も肺炎の影響を受けている国々の政府は、小児肺炎による死亡を減らすために肺炎を予防・治療する戦略を策定・実施するよう、そして、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の一環として、プライマリ・ヘルスケア(地域保健)へのアクセスを拡大するよう」呼びかけた。

共同声明はまた、「より所得の高い国々、世界のドナー、民間企業の力を借り、主要なワクチンの費用を削減し、GAVIによる予算の補充を確保することで予防接種率を高めるよう、また、肺炎の調査や革新的な取り組みのための資金を増やすよう」呼びかけた。(原文へ)

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

関連記事:

「性産業」犠牲者の声なき声:売春宿から1人でも多くの犠牲者を救いたい

|児童労働|シリア危機の隠された悲劇

|カメルーン|SMSで母子の命を救う

重要な2020年再検討会議を前に、高まる不安

【ニューヨークIDN=サントー・D・バネルジー】

広島・長崎の被爆者や、核兵器の受け入れがたい残虐性を直接体験した人々が住む両市の市長、その他の市民団体の代表、国連は、核不拡散と核軍縮の行方について懸念を強めている。

UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariate Building/ Katsuhiro Asagiri

国連軍縮局によると、広島・長崎の原爆被爆者を代表する日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の藤森俊希事務次長らが10月11日、約1051万人分の「ヒバクシャ国際署名」を、サチャ・ヨレンティー第74回国連総会第一委員会議長と中満泉・国連事務次長・軍縮担当上級代表に提出した。

ボリビア国連大使でもあるロレンティ議長は、核兵器禁止(核禁)条約への支持を集めるために藤森氏や日本被団協が取組んできた活動に敬意を表した。

2020年核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議第3回準備委員会会合の結果に困惑した広島の松井一實市長と長崎の田上富久市長(それぞれ、平和首長会議の議長と副議長を務める)は5月10日、NPTが具現化する国際的な利益は、全ての国家と人々の利益につながるものであるとの認識から、「NPTに係る共通基盤の形成」を求める共同アピールを発表した。

「我々は、NPTを第二次世界大戦後に結ばれた最も重要な条約の1つと考えています。締約国は国連の加盟国数には及ばないものの、本条約は、核兵器の存在や拡散から解放された世界においてのみ、国際平和・安全保障は強化されるという基本命題に対するグローバルな合意を具現化した条約です。」と共同アピールは述べている。

画期的な国際条約であるNPTの目的は、核兵器や核技術の拡散を予防し、核エネルギーの平和利用における協力を促進し、核軍縮および一般的かつ完全な軍縮の達成という目標を前進させることにある。

Ambassador Syed Mohamad Hasrin Aidid photo: Katsuhiro Asagiri/ INPS

NPTは、核兵器国が核軍縮を目標とした唯一の法的拘束力ある多国間条約である。1968年に署名開放され、1970年に発効した。1995年5月11日、条約は無期限延長された。米国・ロシア・中国・英国・フランスの5つの核兵器国を含め、191カ国が加盟している。軍備管理や軍縮に関する協定の中でNPTが最も加盟国が多く、NPTがいかに重要な条約であるかを示している。

来年4月から5月にかけてニューヨークの国連本部で開かれる再検討会議を前に、準備委員会は、2017年、18年、19年と会合を持ってきた。とりわけ今年の第3回準備委員会会合は、それ以前の会合での議論と結果を考慮に入れて、再検討会議に対する勧告を含んだ全会一致の報告書を作成する努力を行うよう求められていた。

第3回準備委員会会合の議長を務めたマレーシアのサイード・モハマド・ハスリン・アイディッド大使はサイドイベントで、広島・長崎両市長に対して「やるべきことがたくさん残っています。とりわけ、来年はNPT発効50周年です。」と語った。

「アクロニム軍縮外交研究所」の創設者であり、『終わりなき任務』の著者でもあるレベッカ・ジョンソン博士はIDNの取材に対して、「核兵器の使用・生産・配備を全面的に禁止する新たな国連条約(=核禁条約)を発効させ、私たちの目前に迫っている核と気候変動の惨事から人類を守る国際的な安全保障レジームのあらゆる側面を強化する必要があります。」と語った。

今年のNPT再検討会議準備委員会会合への期待は低いものだった。ジョセフ・ガーソン博士は、「核保有国がこの大量虐殺兵器に依存し、核拡散への圧力が高まっている現状を考えれば、期待を上回る結果は望めなかった。」と語った。ガーソン氏は、「平和・軍縮・共通安全保障キャンペーン」の代表で、アメリカフレンズ奉仕委員会の平和・経済安全保障プログラムの責任者と、国際平和ビューローの副代表も務めている。

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.
Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

さらにガーソン氏は「米ロ両国が中距離核戦力全廃条約(INF条約)を脱退し、新戦略兵器削減条約(新START)の将来が危ぶまれ、核兵器国が核兵器と運搬手段の更新のために多額の費用を使っている中、人類は、きわめて危険かつ野放図な核軍拡競争の瀬戸際に立たされています。」と語った。

国連は、2020年NPT再検討会議をきわめて重視している。ジェームス・マーチン不拡散研究センター(CNS)とマレーシア政府代表部が共催したNPT外交ワークショップにおいて、中満上級代表は、「NPTに関しては、二重のジレンマに直面しています。時間が足らないだけではなく、加盟各国の立場が歩み寄る兆しさえありません。国連総会第一委員会での事態は、実際にはその反対のことが起りつつあると言わざるを得ません。」と語った。

国連総会第一委員会は、軍縮やグローバルな諸問題、国際社会に影響を及ぼす平和の問題を扱い、国際安全保障レジームにおける問題への解決を求める場である。

中満上級代表はまた、「共通の基盤が最も必要とされているまさにこの時に、それを提供するものが不足しています。」「核兵器国間の関係悪化、核兵器の有用性に関する危険なレトリック、質的な意味での軍拡競争と言いうる核兵器の近代化、それに核の側面を伴った地域紛争があいまって、冷戦期の暗い時代よりも核兵器使用の可能性が高まるという危険な状況が作り出されていいます。」と語った。

Izumi Nakamitsu/ photo by Katsuhiro Asagiri
Izumi Nakamitsu/ photo by Katsuhiro Asagiri

従って、今こそ加盟国に対して、NPTこそが共通の基盤であると思い知らせねばならない。核禁条約の熱心な支持者から、核兵器国とその同盟国に至るまで、NPTは、私たち共通の安全保障における不可欠の要素であり、すべての加盟国が意義を見出し続けられる法的文書であると認識されてきた。

国際環境が悪化する中、NPTが提供する安全やその他の利益を守り続けることは、加盟国が最優先すべきことだ。とりわけ、NPT発効50周年を迎える2020年の再検討会議は「加盟国にとって象徴的かつ実践的な機会を提供するもの」だからだ。

中満上級代表はすべての加盟国に対して、NPTと「核兵器なき世界」へのコミットメントを再確認し、この目標を達成するために取るべきあらゆる義務を履行し、悪化する問題に対する不拡散措置を強化し、軍縮における実践的なステップを通じて核の危険を減じる道に世界を引き戻すために、この機会を利用すべきだと訴えた。

2020年NPT再検討会議に対する国連の懸念は、2015年再検討会議が実質的な成果を全会一致で合意することなしに終了したことに由来している。

2010年の再検討会議では、1995年中東決議の履行を含め、フォローアップの行動に関する結論と勧告を含む最終文書に加盟国が合意していたが、2015年の結果は、強化された再検討プロセスにとっての打撃であった。

1995年に無期限延長が合意された時のパッケージの一環として、不拡散・軍縮・原子力技術の平和的利用というNPTの三本柱の下での行動に関連した責任の履行が、2015年の成果とはならなかったという事実が、その打撃のありようを示している。

2020 NPT Review Conference Chair Argentine Ambassador Rafael Grossi addressing the third PrepCom. IDN-INPS Collage of photos by Alicia Sanders-Zakre, Arms Control Association.
2020 NPT Review Conference Chair Argentine Ambassador Rafael Grossi addressing the third PrepCom. IDN-INPS Collage of photos by Alicia Sanders-Zakre, Arms Control Association.

次のNPT再検討会議に向けた不透明な状況と、NPTと核禁条約は両立可能か対立的かという論争の中、ノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)は、核禁条約の発効について楽観的な見通しを持っている。

核禁条約は、国連総会が2017年7月7日に採択し、9月20日に署名開放された。50カ国目が批准、受諾書、承認書または加盟書を寄託してから90日後に発効することになっている。

ICANによれば、「核兵器の全面的廃絶のための国際デー」(9月26日)に合わせてニューヨーク国連本部で行われた特別ハイレベルセレモニーにおいて、新たに計12カ国が条約に署名または批准(またはその両方)し、発効にむけた重要な一歩を踏み出した。これにより、署名国は79、批准国は32となった。

ICANは、条約発効まで3分の2ぐらいに到達しており、この勢いは続くとみている。「まもなく条約が批准されそうだとICANに回答している国もいくつかあります。世界各地の活動家は、すべての国がこの条約に参加するまで、活動を継続していきます。」(原文へ)

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

関連記事:

|日本|拘束を解き放って核廃絶に向かう道とは

米国という障害にぶつかりかねないNPT再検討会議

今年の第一委員会を特徴づけた政治的対立と敵対的言説

ホロコーストは遠い昔の話ではない

【ニューヨークIDN=アントニオ・グテーレス】

ニューヨークのユダヤ人遺産博物館で、ナチスによるユダヤ人迫害「水晶の夜」81周年を記念した展示会に登壇したグテーレス国連事務総長の講演を収録した記事。グテーレス氏は、故国ポルトガルやナチスによるユダヤ人迫害の歴史的系譜に言及しながら、近年再び台頭しつつある反ユダヤ主義や人種差別・憎悪の文化に対する警鐘を鳴らした。(原文へ)

INPS Japan

関連記事:

フォルケ・ベルナドッテ、伝説的な意志力を備えた人道主義者

中印ドイツ大使のRSS本部訪問について非難が高まる

国連事務総長が描く、創設75周年に向けた青写真

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

国連の機能を脅かす財政難によって複雑化する様々な危機が進行する中で、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、国連の死活的な重要性を強調する計画を発表した。「2020年は、国連創設75周年の一環として『私たちが望む未来』の構築にグローバルな協力が果たす役割に関する大規模かつ包摂的なグローバル対話に焦点を当てることになるだろう。」とグテーレス事務総長は語った。

「『国連デー』は、74年前に発効した国連憲章の不朽の理想を記念する日です。荒れ狂う海のような世界の中で、国連憲章は依然として私たちをつなぎとめる道徳的な錨(いかり)の役割を果たしています。」とグテーレス事務総長は強調した。

国連は、安全保障理事会の常任理事国5カ国を初めとする署名国の大多数が国連憲章を批准することで、正式に発足した。1948年以来、10月24日は「国連デー」として祝われている。1971年、国連総会は、加盟国がこの日を公的な休日とするよう勧告した。

Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.
Photo: UN Secretary-General António Guterres speaks at the University of Geneva, launching his Agenda for Disarmament, on 24 May 2018. UN Photo/Jean-Marc Ferre.

来年の国連創設75周年のイベントの一環としての、地球の将来に関する「史上最大のグローバルな対話」の開始は、グテーレス事務総長が公表した通り、来年1月から世界各地で始まる対話を通じて、世界の民衆を巻き込むことをめざしている。この対話の目的は、さまざまな人々の希望と恐怖に耳を傾け、彼らの経験から学び、いかにしてより良い世界を構築できるかに関する対話と行動に活気を与えることだ。

教室や企業の役員室、議会、村役場など、さまざまな環境において社会のあらゆる部門や世代からの意見が求められる予定だが、とくに強調されているのは若者や社会から取り残された人々である。こうして寄せられた意見とアイディアは、2020年9月の第75回国連総会で実施される注目度の高いイベントで世界のリーダーと国連高官に提示される。

世界の世論調査やメディア分析と並んで、この対話の中で集められた情報は、国連創設100周年にあたる2045年に向けたグローバル・ビジョンにまとめられる。「すべての人々にとって持続可能で包摂的な未来に対する脅威への理解を深め、このビジョンを実現するための集団的行動を推進することをねらいとしている。」と「国連ニュース」は述べている。

創設75年イベントの責任者である国連高官のファブリツィオ・ホスチャイルド氏は、10月24日の記者会見で、「このイベントは、世界がかつてないほど相互関連を深め、国際協力を通じて対処すべき諸課題に直面しているにもかかわらず、そうした問題に対処するために作られた組織から諸国が手を引きつつある中で行われるものです。」と指摘した。

ホスチャイルド氏は、「グテーレス事務総長は、世界の現状について、そして、この現状が『持続可能な開発に向けた2030アジェンダ』で提示されたより良い未来に向けた国連の野心からどれほど離れているかについて、国際社会が熟考する一連のプロセスを求めています。」と語った。

ホスチャイルド氏によると、国連が進めるこれらの対話は、3つの主要な領域に焦点をあてるという。第一は、2045年を見据えて、世界規模のビジョン「私たちが望む未来」を定義すること。第二は、グローバルメガトレンドと、それがこのビジョンから私たちをどの程度遠ざけているのかを把握すること。第三は、グローバルな協力を促進するアイディアを生むような批判的議論を展開することである。

国連75周年では、教室から役員室、国会から村役場に至るまで、社会のあらゆる部門における対話を促進することをめざしているが、若者をはじめ、その声がグローバルな場で軽視されたり、無視されたりすることがあまりにも多い社会から取り残された人々を特に重視する予定だ。

グテーレス事務総長は、10月24日に発表された動画で「私たちが奉仕すべき全世界の人々により良い成果を届けられるようにするためには、皆さんの意見や戦略、アイディアが必要です」と述べ、このキャンペーンに声を寄せるよう、世界各地の人々に訴えた。

国連は、対話の枠組みを作り促進するために、気候危機、不平等、新たな形態の紛争と暴力、急激な人口変動、デジタル技術といった問題に関して概観する『イッシュー・ブリーフ』に焦点を当ててきた。これらの問題は、国境や部門、世代を超えた効果的な協力を必要としている。

国連は、これらの新たなリスクと機会に対処するために必要なことに関する多様な視点と創造的なアイディアを求めている。現在のメガトレンドに変わりがないとすれば、「私たちが望む未来」と、私たちが向かいつつあるところの間で、どう集団的な舵取りをしていったらいいのだろうか。

デジタル技術の影響

技術によって、私たちの世界は、より公平で、より平和で、より公正なものになりうる。デジタル技術の進展は、極度の貧困の撲滅から、妊婦・幼児死亡率の抑制、持続可能な農業の促進、ディーセント・ワーク、普遍的な識字の達成にいたる、17項目の「持続可能な開発目標」の達成を支援し加速することを可能にする。しかし、技術はまた、プライバシーを危険に晒し、安全を損ない、不平等を強化しかねない。人権や人間の主体性への影響もある。以前の世代と同じように、我々(政府や企業、個人)は、新技術をどう使いこなし管理していくかの判断を迫られている。

SDGs logo
SDGs logo

紛争と暴力の新たな時代

紛争と暴力の性格は、国連が75年前に創設されて以来、かなり変化してきた。紛争における死者数は減ってきたが期間は長期化し、国家間紛争よりも内戦が増えてきた。世界の一部の地域では殺人が増え、性的な暴力も多くなってきた。

それとは別の問題として、技術の進化によって、ロボットが兵器化され、ドローンが生まれ、ライブストリーミングやサイバー兵器、ランサムウェア、データのハッキングが起きるようになってきた。他方で、国際協力が制約され、紛争と、あらゆる形態の暴力の予防・解決に向けた世界の能力が低下してきた。

不平等:格差の縮小

世界は、貧困の削減で大きな成果を上げてきた。この30年間で、極度の貧困から抜け出した人は10億人を超える。しかし、人類の貧しい方から半分の人々の収入は、1990年以来、世界経済の生産が3倍にもなっているにもかかわらず、この間ほとんど変わっていない。不平等は経済的進歩を阻害し、それがさらに、不平等がつくり出す社会の分断を悪化させる。

収入や地理、ジェンダー、年齢、民族、障害の有無、性的志向、階級、宗教による不平等は、資源へのアクセスと機会、成果の決定要因となり、国内および国家間において執拗に存在し続けている。世界の一部の地域では、こうした分断がより明確になりつつある。他方で、オンライン技術やモバイル技術へのアクセスといった、新しい領域での格差が生まれつつある。

気候危機:勝ち目のある闘い

「気候変動は、私たちの時代を特徴づける危機であり、私たちが危惧するよりも速いスピードで訪れている。しかし、グテーレス事務局長が9月に指摘したように、このグローバルな脅威に直面した私たちに、力がないわけではない。グテーレス事務局長は「気候の緊急事態は、私たちが負けつつある闘いだが、勝ち目のある闘いである。」

Photo (in text) Credit: UN
Photo (in text) Credit: UN

気候変動の壊滅的な影響から逃れうる場所など、地球のどこにもない。気温の上昇によって、環境の悪化や自然災害の発生、異常気象、食料や水の供給の不安定、経済的阻害、紛争やテロなどが起きている。海水面は上昇し、北極の氷は融け、サンゴ礁が死滅し、海が酸性化し、森は火災に見舞われている。これまでのやり方が有効でないのは明らかだ。気候変動のもたらす無限のコストは不可逆的に膨らんでいる。大胆かつ集団的対応が必要な時にきている。

変化する人口構成

世界の人口は現在の77億人から2050年には97億人へと、20億人も増加すると見込まれている。出生率が下がり始めるとみられる今世紀末には110億人のピークに達する。この間、世界の人口は都市に集中し、65歳以上人口が5歳未満の児童の数を上回るようになると考えられる。

現在から2050年までに起こる世界の人口増加の半分は、インド・ナイジェリア・パキスタン・コンゴ民主共和国・エチオピア・タンザニア・インドネシア・エジプト・米国のわずか9カ国で起こるとみられる(人口増の多い順)。サブサハラ地域のアフリカの人口は倍増し、欧州の人口は減少に向かうと見込まれる。

他方、人々の移動が活発になっている。この20年間、国境を越えて移住する人の割合は世界の総人口の3%程度で一定だが、実数で言うと、2000年以来、50%以上増えている。同時に、長引く紛争のために、意思に反して住み処を追われる人々が急増し、気候変動や環境悪化のためにその数がさらに増える可能性もある。難民・移民の流れの圧倒的多数は「南」の国々で起きている。(原文へ)PDF

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

関連記事:

「気候変動との闘いの道は長い」―国連事務総長の嘆き

著名な仏教指導者が核兵器とキラーロボットの禁止を呼び掛ける(池田大作創価学会インタナショナル会長インタビュー)

移民らが、リビアからルワンダに移送される

仏教生誕地における大型開発プロジェクト

【ルンビニIDN=カリンガ・セレヴィラトネ】

仏教の開祖・釈迦(本名・サンスクリット語:ガウタマ・シッダールタ)の誕生地とされるルンビニ(ネパール)をとりまく開発ラッシュの推移と、巨額の開発・投資を巡る各国(とりわけ中国、インド、ネパール、米国)の思惑を分析したカリンガ・セネヴィラトネIDN記者の記事。地元住民がイスラム教徒とヒンズー教徒が大半を占めるルンビニ開発の方向性や、ダライ・ラマ14世後の輪廻転生地を巡る諸議論が紹介されている。(原文へ)FBポスト

INPS Japan

関連記事:

HIV/AIDS蔓延防止に向けたカンボジア仏教界の試み

|バングラデシュ|社会の調和を訴える仏教徒たち

国連、食料安全保障のための農村女性の役割に焦点

【ニューヨークIDN=サントー・D・バネルジー】

2008年10月15日に初めての「農村女性のための国際デー」が持たれて以来、先住民族を含めた女性や女児が、農業や地域開発を改善し、食料安全保障を強化し、貧困を根絶する上できわめて重要な役割を果たしているという点に関しては、衆目の一致するところだ。

実際、国連総会が2007年12月18日の決議62/136でこの国際デーの新設を決定した際、「各国、地域、グローバル規模のそれぞれの開発戦略において、先住民族女性も含め、農村の女性の環境を改善することに優先順位を置くよう」呼びかけている。

A view of the General Assembly Hall as Deputy Secretary-General Jan Eliasson (shown on screens) addresses the opening of the 2015 Review Conference of the Parties to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons (NPT). The Review Conference is taking place at UN headquarters from 27 April to 22 May 2015. Credit: UN Photo/Loey Felipe
A view of the General Assembly Hall as Deputy Secretary-General Jan Eliasson (shown on screens) addresses the opening of the 2015 Review Conference of the Parties to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons (NPT). The Review Conference is taking place at UN headquarters from 27 April to 22 May 2015. Credit: UN Photo/Loey Felipe

決議はまた、農村女性の視点を考慮に入れること、彼女らが自然災害や人道支援、平和構築、紛争後和解といった緊急事態に関連した政策や活動の設計・履行・フォローアップ・評価に参加できるようにすべきことを呼びかけている。

また決議は、エネルギーや交通といった根本的な農村インフラを利用できるようにすることを通じて、農村女性の基本的ニーズに応える取り組みに投資し、強化すべきことを強調している。

さらに、農村女性の特定の健康上のニーズに対処し、農村地域の女性の健康状態を最大限に引き上げることができるよう具体的な措置を取ることを求めている。例えば、妊娠中・出産後の性と生殖に関する健康、緊急の産科ケア、家族計画に関する情報、HIV/AIDSなどの性感染症の予防に関する知識・認識・支持の増大といったことである。

国連総会はまた、国際社会に対して、農村の女性や女児が全ての人権と基本的自由を享受することを促進・擁護し、家庭内暴力や性的暴力、ジェンダーに基づくあらゆる形態の暴力をはじめとして、彼女たちの権利の侵害を許さない環境を作り出すことを求めている。

決議が挙げているその他の措置には、次のようなものがある。▽基本的な社会サービスへのアクセス、▽適切な社会的保護/社会保障の実施、▽経済的資源への平等なアクセス、管理、▽金融、近代的取り引き、金融手続きにおける農村女性の経済的スキルを向上させるような特定の支援サービス、▽とりわけ母子家庭に対してマイクロクレジットなどの金融・ビジネスサービスを提供することで、農村女性らの経済的エンパワーメントを図ること。

決議はまた、土地と資産の私的所有が確立しているところでは、相続の権利も含めて、女性が土地や資産に対する完全かつ平等な権利を持つようにすること、信用や資本、適切な技術、市場・情報へのアクセスといった権利を女性にも男性同様に与えるための行政改革およびその他の必要な措置を実行することを求めている。

ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関である「UNウィメン」は、この国連総会決議の背景にある論理について、「農村の女性は、天然資源と農業が危機にさらされるなか、闘いの最前線に立たされている。」と説明している。

たとえば、2000年から2016年の間の気象災害による被害・損失の4分の1は途上国の農業部門におけるものであり、これが農村の女性・女児の食料安全保障と生産能力に大きな悪影響を与えている。

気象災害においては女性の方が死亡する確率が高く、土地や水のような天然資源へのアクセスにより大きな困難を抱える。さらに、気候変動が既存の不平等を悪化させ、農村の女性・女児を置き去りにする可能性がある。

「結果として、気候変動の引き起こす危機に関して前進をもたらす最も効果的な方法のひとつは、ジェンダー不平等の問題に対処することだ、ということになる。」とUNウィメンは主張する。エンパワーされた(=社会的な力をつけた)女性には、気候変動に対処する高い能力がもたらされる。彼女らは低炭素技術の導入や気候変動に関する知識の普及、気候行動を促すうえで、重要な役割を果たす。

SDGs Goal No. 13
SDGs Goal No. 13

UNウィメンは、ジェンダーに敏感な気候関連政策・事業を採用し、気候関連のアクションにおける女性のリーダーシップを促進することは、地球温暖化の悪影響を減ずる主要な方法のひとつであると考えている。

UNウィメンは、その他の国連・開発関連機関と並んで、気候変動という文脈の下で農村の女性・女児を強化する必要性を認識している。「農村地帯の女性・女児の状況を改善する」ことに関する2019年の国連事務総長報告(A/74/224)は気候問題に焦点を当て、UNウィメンは、気候変動に直面した女性をエンパワーする多数のプログラムを実施している。

気候変動に強い農業を通じた女性のエンパワーメントを促進することは、持続可能な開発に関するUNウィメンの事業活動の中核となっている。UNウィメンが国連食糧農業機関(FAO)や世界食料計画(WFP)、「農村女性の経済的エンパワーメントに関するIFAD」と行う共同事業は、持続可能な生活と人権に焦点を当て、なかでも、女性の収入増加と気候変動に強い農業の促進に力を入れている。(原文へ)

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

関連記事:

持続可能な開発にとって不可分の女性と水

ジェンダー平等、女性のエンパワーメントに取り組むアフリカ

|タンザニア|困難に負けずジェンダー・エンパワーメントを強化

「印パ間の核戦争が世界的大惨事を引きおこす」と新研究が警告

【ボルダー(コロラド)IDN=ダニエル・ストレイン】

インド・パキスタン間の核戦争は、第二次世界大戦6年間の死者を上回る5000万~1億2500万人の死者を1週間弱の間にもたらす可能性があるとの新たな研究結果が発表された。

コロラド大学ボルダー校とラトガーズ大学の研究者らが行った新たな研究は、(印パ両国間の)紛争を想定し、それが世界全体にどういった波及効果を及ぼすかを考察している。今日、インドとパキスタンはそれぞれ約150発の核兵器を保有しており、2025年までには200発以上に増加するものと見られている。

Daniel Strain

研究結果の見通しは暗いものだ。『サイエンス・アドバンシーズ』に10月2日に発表されたこの論文の第一著者であるコロラド大学ボルダー校のブライアン・トゥーン氏は、「この核戦争によって印パ両国で数百万人が死に至るだけの問題ではない。この核戦争は、地球全体を氷河期以降、人類が経験したことがないような厳しい寒気で覆い尽くす恐れがある。」と語った。

この研究チームの知見は、印パ両国の緊張が再び強まる中で発表された。今年8月、インドは憲法を改定し、印パ間の紛争の種となっているカシミール地方の自治権をはく奪した。その直後、インド政府はカシミール地方に部隊を派遣し、パキスタンから激しい抗議を受けた。

大気・宇宙物理学研究所の教授であるトゥーン氏は、「印パ戦争が勃発すれば、世界の通常の死亡率が倍増する可能性がある。それは人類がかつて経験したことのないような戦争となるだろう。」と語った。

死亡率

これは、大気・海洋科学部の一員でもあるトゥーン氏が、長年にわたって取り組んできた問題でもある。

トゥーン氏は、子どもたちが学校で核戦争に備えて机の下に隠れるような冷戦期真っただ中に成人となった。彼は1980年代初め、若き大気科学者として、米ロ間の核戦争により地球上に大規模気候変動が起き、人為的に氷河期が発生する現象を説明する用語として、「核の冬」という言葉を生み出した研究チームの一員だった。

トゥーン氏は、ソ連は崩壊したものの、核兵器は依然として大きな脅威であると考えており、現在の印パ間の対立関係についてもこの点を強調している。

「印パ両国は急速に核戦力を拡大している」「人口も多い両国のことだから、核兵器による影響も大きい。それに両国間には、カシミール地方を巡る紛争も未解決のままだ。」とトゥーン氏は語った。

最新の研究でトゥーン氏らの研究チームは、こうした紛争がどのような最悪の結果をもたらしうるかを考察している。そのために、地球の大気に関するコンピューター・シミュレーションから、広島・長崎への1945年の原爆投下に関する知見に至るまで、あらゆる証拠を利用している。

彼らの分析によれば、惨事はいくつかの局面に分かれて現れる。紛争の第1週においては、印パ両国が相手国の都市に対して計約250発の核兵器を爆発させうると想定している。

どちらの国も何十年も核実験を行っていないため、その爆発力がどの程度になるかは推測しがたい。しかし、今回の研究では、それぞれの国が最大70万人を殺害しうると推測した。

食料不足

しかし、ほとんどの人々は、核爆発そのものによって死亡するのではなく、それに続いて起こる制御不能な火災を原因として亡くなっている。

「原爆が投下された後の広島では、広範な瓦礫の原野が広がっていた。それは爆発によるものではなく、火災によって引き起こされたものだ。」とトゥーン氏は語った。

Hiroshima after bombing. Area around ground zero. 1,000 foot circles./ Public Domain
Hiroshima after bombing. Area around ground zero. 1,000 foot circles./ Public Domain

印パ以外の地域に関して言えば、火災は単なる始まりに過ぎない。

研究チームは、「印パ間の核戦争によって1600万トン~3500万トンの厚くて黒い煙が放出される。煤は太陽熱を吸収し、大気を温めるため、上昇気流が発生して煤はさらに上昇し、太陽光を20~35%を遮る。その結果、地表の温度は約6.5~16度低くなり、これによって太陽光が遮られ、地球全体で数年にわたって華氏3.5(-15.8C)~華氏9度(―12.7C)程度気温が低下する。それに続いて、世界規模での食料不足が起こる。」と推測している。

「最新の地球システムモデルを利用した私たちの実験によれば、陸上の植物と海中の藻の生産性が格段に落ち、人類を含め、食物連鎖の上位にいる生物にとっては危険な帰結が待っている。」と共著者の一人であるニコール・ロベンダスキー氏(大気・海洋科学准教授、北極・アルペン研究所研究員)は語った。

トゥーン氏は、このような規模の戦争の話をされても、一般の人々には理解できないかもしれないことをよく認識している。しかし、この研究によって、冷戦が終了しても世界的な核戦争の危険は去っていないことを理解してほしい、と考えている。

「パキスタンとインドがこの論文に注目してくれるといいのだが。しかし、概していうと、アメリカ人が核戦争の帰結に関して知識がないことが気がかりだ。」とトゥーン氏は語った。(原文へ)

INPS Japan

関連記事:

単独行動主義の傾向を強める米国政治

カザフスタンが非核世界推進の立役者を表彰

共通の未来のためにヒロシマの被爆体験を記憶する