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「石器時代」のレイプ法廃止に動いたヨルダン政府の決定がなぜ重要なのか?

【ローマIDN=フィル・ハリス】

今日でも、多数の国々で多くの女児や若い女性が、「男性は女性をレイプしてもその後犠牲者と結婚すれば罪を問われない」と規定する、「石器時代」の法律と呼ばれてきた、ある刑法の条項に恐れおののきながら暮らしている。

中東のヨルダンもこうした条項が適用されてきた国の一つであるが、政府が4月15日に同国の刑法308条を廃止する勧告を行ったことから、レイプ被害者を取り巻く状況が好転する兆しが見えてきた。

その勧告とは、「レイプ犯が被害者と結婚すれば収監されない」と規定する同条項を廃止すべきとする内容で、現在ヨルダン議会と国王アブドラ2世による最終承認待ちの状況である。

女性・女児のための公正な世界の実現に向けて活動している国際女性人権団体「イクオリティ・ナウ(Equality Now)」は、最終承認は4月末にもなされる可能性があると見ている。

Suad Abu-Dayyeh/ Equality Now
Suad Abu-Dayyeh/ Equality Now

「イクオリティ・ナウ」のスアド・アブ・ダイエ中東・北アフリカ顧問は、刑法308条の廃止に対する広範な民衆の支持へとつながった女性権利擁護団体や国会議員らの長年にわたる活動を称賛しつつ、「この条項が女性や女児に及ぼす悪影響について、一般大衆がようやく理解し始めるところまできました。…レイプされた女児は被害者であり、家族の支援や政府の助けを必要としています。」と語った。

二十歳の時に55歳の男にレイプされたヌール(仮名)さんもそうした被害者の一人だ。彼女の経験は、これまで多くの女児や若い女性に、自分をレイプした犯人が罪を逃れるのを強制的に受け入れさせてきたこの法律の背後にある現実を如実に物語っている。

ヌールさんは、ヨルダンの女性権利支援団体「SIGIヨルダン」に対して、彼女が通学を断念して仕事を探していたときに遭遇したレイプの経験について詳細に語っている。

「私は家の近所の携帯電話ショップで働くために学校を退学しました。店のオーナーは、妻と離婚し子どもを抱えた男性で、私の家庭が財政的に困難な状況にあることを知っていました。彼はそこで、職場の仕事に加えて、彼の家で子供の世話や掃除、料理をこなすことで給料を引き上げてもよいと提案してきました。」

「私は家庭の財政事情からこの申し出を受け入れ、彼の家で働き始めました。ある日、家事をしているところにオーナーが現れ、鎮痛剤を2錠渡されました。私が頭痛を訴えたからでしたが、服用した後のことを覚えていません。目が覚めると、私は全裸でレイプされていたのです。」

「家族にはこのことを打ち明けられず、どうしていいかわからず大泣きしました。家族が、私がレイプされたことを知れば、計り知れないショックを受けると気づいたからです。オーナーはそんな私に『おまえと結婚してやるから。両親にも結婚の許可を求めにいってやるから。』といって落ち着かせようとしました。彼はさらに私を納得させようと、その場で婚姻契約書を作成し、そこに2人で署名しました。」

「その日は、どうしていいかわからないまま帰宅しました。打ちのめされ怯えきっていた私は、このことを両親に黙っていることにしました。しかしその月に生理がなく、妊娠していることが分かりました。私はオーナーに妊娠を伝え、何度か堕胎も試みましたがうまくいきませんでした。結局、母が私を私立病院に連れて行ってくれてそこで子供を出産しました。」

「私は子どもの将来を思い警察に訴え出ることにしました。オーナーにレイプされたと告発したのです。すると彼は、「結婚すれば罪に問われない」という刑法第308条を利用して、私との結婚を提案してきたのです。私は心の底からこの男を憎んでいましたが、家族は「一族の名誉」を救うためとして、無理やり彼と結婚させたのです。

「私はこの男に騙されレイプされた暗い記憶とともに結婚し同居生活を始めざるをえませんでした。しかしこうした絶望の淵にあっても、自分の子供と暮らすことでそのうち事態は好転するのではないかと希望を抱いていました。しかし、現実は悪化の一途をたどりました。」

私の唯一の望みは子どもの安全を確保することでした。そこで子供を父親名で登録させようと試みましたがうまくいきませんでした。ついに彼は、私との離婚を条件に、子供の認知をちらつかせる交渉にでてきました。私をレイプした男とそれ以上同居することには耐えられなかった、私はその条件を呑みました。」

「私は彼と裁判所で離婚手続きを申請し、妻としての全ての権利を放棄しました。しかし今日になっても、未だに子供を父親の名前で登録したいという私の訴えは認められないままです。」

ヌールさんが語った経験談は、ヨルダンのみならず多くの国々で、来る日も来る日も繰り返されている多くの事例のほんの一例に過ぎない。」

SDGs Goal No. 5
SDGs Goal No. 5

例えば、レバノンの女児や女性は同国の刑法第522条の規定の下で類似した状況に直面している。レイプ犯は、この条項により、被害者と結婚すれば罪を免れることができるのである。

レバノンではこの刑法第522条の廃止を巡る国会審議が進められており、4月21日には、活動家らがこの問題に対する社会の注目を集めようと、首都ベイルートの海岸通りに、白いレースと包装紙でできた花嫁衣装31着を吊るして展示するパフォーマンスを行った。

この展示を企画したレバノン人芸術家のミレーユ・オネイン氏はAFPの取材に対して、「刑法第522条は、女性からアイデンティティを奪い去るものであり、このような法律を女性に強要しつづけることは恥ずべきことです。」と語った。

国連の推計によると、約10億人の女性と女児が生涯の間にレイプや性的な虐待の被害に遭遇している。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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2020年核不拡散条約運用討会議に備える

【ベルリン/ニューヨークIDN=ラメシュ・ジャウラ】

核不拡散条約(NPT)の締約国は5年に1度集まり、3回の会期にわたってこの核軍縮体制の履行状況を検討する。2020年NPT運用検討会議に向けて、その準備委員会の第1回会合がウィーンで5月2日から12日に開催される。

国連事務局及び一部関連機関の本部としても機能しているこのオーストリアの首都は、非核世界を導く条約実現に向けた国連の取り組みにおいて、歴史的な役割を果たしてきた。2014年12月にはウィーンが、(2013年3月のオスロ会議、2014年2月のナヤリット会議に続く)第3回「核兵器の人道的影響に関する国際会議(非人道性会議)の舞台となり、「核兵器を絶対悪とし、禁止し廃絶する」ことを目指す「オーストリアの誓約」(「人道の誓約」としても知られる)への道を切り開いた。

UN General Assembly approves historic resolution on December 23, 2016. /ICAN
UN General Assembly approves historic resolution on December 23, 2016. /ICAN

国連総会は2016年12月23日、「核兵器を禁止しその完全廃絶につなげるような法的拘束力のある文書」を交渉するすべての加盟国に開かれた会議を今年3月と6・7月に開くことを決めた決議71/258という形で、この誓約を採択した。

2020年NPT運用検討会議第1回準備委員会は、世界全体で1万4900発の核兵器(米国科学者連盟[FAS]による)のうち合計で93%を保有する米国とロシアの間の緊張が高まる中で開かれようとしている。残りの核兵器は、英国・フランス・中国・インド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮の7カ国が保有している。

北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が次第に爆発力を強めながら核爆発装置の実験を継続するなか、北朝鮮以外の核武装国は、核軍縮ではなく「永久に大きな核戦力を保持し続ける意向のようだ。」と、FASは警告している。

オランダのヘンク・コル・ファンデルクワスト軍縮大使を議長とした今回の準備委員会の重要性は、核兵器を禁止しその完全廃絶を導く法的拘束力のある文書を交渉するための国連会議の第1会期から1カ月後に開催される事実によっても明らかだ。同会議の第2会期は約1カ月後の6月15日から7月7日にかけて開かれる。

今回の準備委員会が重要であるもう一つの理由は、2005年と同様に2015年にニューヨークで開かれた運用検討会議(2015年4月27日~5月22日)もまた、実質的な成果文書に関する合意に達することができなかったことだ。米国・英国・カナダの3つの締約国が、非締約国であるイスラエルが合意に反対したことを理由として、会議を頓挫させてしまった。

これら3か国は、中東非核兵器地帯創設への呼びかけを運用検討会議の最終文書で繰り返すべきだと主張したエジプトの要求が会議を失敗に終わらせたと非難した。

しかし、中東非核兵器地帯は、2010年運用検討会議でもすでに想定されていたものであった。同年の運用検討会議では、核軍縮、核不拡散、原子力の平和利用、中東問題(とりわけ中東に関する1995年決議の履行)の領域におけるフォローアップ(行動計画)について合意に達していた。

Map of the Middle East between Africa, Europe, and South Asia/ Public Domain
Map of the Middle East between Africa, Europe, and South Asia/ Public Domain

それ以前の2000年運用検討会議では、核軍縮について規定した第6条の履行に向けた体系的かつ漸進的な努力に関する実際的な措置などについて実質的内容を持った最終文書に合意していた。

NPTは1970年に発効し、1995年に無期限延長された。NPTは、グローバルな核不拡散体制の要であり、核軍縮追求の不可欠な基礎だとみなされている。

国連軍縮部(UNODA)のウェブサイトにあるように、NPTは、核兵器の拡散を防ぎ、核軍縮及び一般的かつ完全な軍縮の目標に向かって前進し、原子力の平和利用分野における協力を促進することを目的としたものだ。

NPTの下では、核兵器国は核兵器やその他の核爆発装置の保有または管理をいかなる受領国に対しても移譲せず、同兵器や装置の製造、取得、あるいは管理を行うよう非核兵器国を援助、奨励、あるいは勧誘しないことが義務づけられている。

一方、非核兵器国は、核兵器やその他の核爆発装置の移譲あるいは管理を受領しないこと、同兵器や装置の製造や取得を行わないこと、加えて、こうした点に関していかなる援助を求めたり受け取ったりしないことが義務づけられている。

非核兵器国はさらに、国際原子力機関(IAEA)による保障措置を受けることが義務付けられている。これは、核エネルギーが平和利用から核兵器やその他の核爆発装置に転用されることを阻止するために、領土内あるいはその管轄下にあるすべての平和のための原子力活動について実施する査察を含む検認制度である。

またNPTは、核エネルギーの平和的目的のための研究・生産・利用を行う権利を、すべての締約国に保証している。

NPT第6条は、核軍縮に関連した効果的措置を誠実に追求することを締約国に求めた、唯一の法的拘束力ある義務を含んでいる。

NPT第8条は、前文の目的および同条約の条項が実現されるようにするため、この条約の運用を検討するために5年毎に条約の締約国会議を招集すると規定している。

1995年、条約の無期限延長の決定に関連して、締約国は、運用検討プロセスを強化し、運用検討会議を5年に1度開催していくことに合意した。準備委員会は通常、運用検討会議に先立つ3年間の時点から3期にわたって毎年10日間の会合を開くことになっている。

2000年に締約国が決定したように、準備委員会は、最初の2期(=第1回と第2回準備委員会)においては、条約の全面履行とその普遍性を推進するための原則、目標および方途を検討することになっている。 

そして第3回準備委員会では、先の2回の会期における審議と結果を踏まえた上で、運用検討会議に対する勧告を含む合意報告書の作成に向け、全力を尽くすことを期待されている。

NPTの文脈の下では、2020年NPT運用検討会議に向けた3期にわたる準備委員会の中で、サイクルの最初にあたる第1回準備委員会に特に重要性があることには別の理由もある。

United Nations Office at Vienna/ Wikimedia Commons
United Nations Office at Vienna/ Wikimedia Commons

2010年運用検討会議の行動計画はごく部分的にしか履行されなかった。もっともひどかったのは軍縮関連の行動で、22項目の行動計画のうち実質的な前進を見たのは僅か5項目に過ぎなかった。2010年以前に合意を得た2000年運用検討会議では『13項目の実際的措置』の合意があったが、その履行状況もまた無残なものであった。」と指摘しているのは、婦人国際自由平和連盟(WILPF)の発行した『2017NPTブリーフィング・ブック』である。WILPFの軍縮関連事業は、レイ・アチソン氏が責任者を務め、「リーチング・クリティカル・ウィル」と呼ばれている。

2017NPTブリーフィング・ブックは、「NPTの外におけるより広範な状況はさらに危機的なものだ。」と警告し、現在の状況は「より多くのプレーヤーが参入し、さらなる資金が投入され、『殺戮力』が以前よりも増した新たな核軍拡競争」として特徴づけられると指摘している。

WILPFは「一方では、核軍縮に対する口先だけのコミットメント(そんなものがまだ存在すればの話だが)すら怪しくなっている。」と述べている。2009年4月にプラハでバラク・オバマ大統領が提示した「核兵器なき世界」のビジョンから遠く離れて、ドナルド・トランプ政権は核軍縮が「現実的な目標」であることに疑問を呈している。同政権が核爆発実験を再開するのではないかとの警戒感すらある。

ウラジーミル・プーチン大統領が支配するロシアとの緊張が強まり、北朝鮮が脅威を感じた場合米国への核使用も辞さないと威嚇するなかで進行する米政府の政策見直しで、あらたな核態勢が提示されるものと見られている。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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若者1人当たり年間30ドルかけることがなぜ必要なのか

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

1人当たり年間30ドルに満たない予算をかけるだけでも、若者の健康や教育に驚くほど効果を上げることが可能であると、国連人口基金(UNFPA)が委託した最新の研究が示している。

報告書は、4月21日から23日にかけてワシントンDCで世界銀行春季会合が開催されるのを前にして『ランセット』誌に掲載された。春季会合では188カ国の財務・開発担当閣僚らが若者への投資の重要性について討論する予定だ。

『ランセット』誌は、医療が社会に奉仕して社会を変革し、人々の生活に良い影響を与えるべく、科学の成果を公衆が広く利用できるようにすることを目的とした、国際的な独立系総合医学誌である。

この研究は、米国政府がUNFPAに対する分担拠出金の停止を決定してから数日のうちに発表された。これは、ドナルド・トランプ大統領が発表した国連に対する米国の分担金削減策の第一弾である。1985年の制定以降共和党の歴代大統領が利用してきたケンプ・カステン修正法案を引用した米国務省の覚書は、UNFPAが中国において、「強制 妊娠中絶、不妊手術などのプログラムを支援または協力して行っている。」と主張している。

同修正法案は、強圧的な堕胎や不本意な不妊手術を支援する組織への対外援助を禁じている。ロナルド・レーガン、ジョージ・HW・ブッシュ、ジョージ・W・ブッシュの共和党歴代大統領が、この法案を根拠にUNFPAへの資金提供を拒んできた。

10歳から19歳の若者の身体的・性的・精神的健康を向上させることで、1200万人以上の死と、3000万件以上の若者による望まない妊娠を避けることができる、と報告書は述べている

同様に、1人あたり約3.8ドルで実行可能な、児童婚を減らす政策は、投資額に対する6倍近くのリターンがあり、児童姻を約3分の1減らすことができる。

Babatunde Osotimehin/ UNFPA
Babatunde Osotimehin/ UNFPA

「若者に投資することは、すべての人にとっての長期的で戦略的な利益にかないます。」と語るのは、UNFPA事務局長のババトゥンデ・オショティメイン博士である。「世界の10億人以上の若者をエンパワーし保護するための小規模の投資でも、10倍以上、いや時にはそれ以上の見返りが可能です。我々の先駆的な研究が政策決定者によって参照され、世界を前進させる導きとして利用されなければなりません。

オーストラリアのビクトリア大学、メルボルン大学、さらにUNFPAがこの研究を主導した。著者らはとりわけ、若者に対する医療サービスの向上とヒトパピローマウィルス(HPV)ワクチンの普及に関する保健当局の介入が経済や社会に及ぼす影響を計算した。また、児童婚姻や近親者による暴力を減らす政策や、登校率や教育の質を向上させる政策の影響も計算した。

主執筆者のピーター・シーハン教授(ビクトリア大学)は、「若者の健康や福祉に対する投資の中で最も成果を上げているものは、児童婚の問題に対する対処、交通事故の抑制、教育の改善など、しばしば保健部門以外の取り組みに見出すことができます。」と指摘したうえで、「私たちの調査で提示した取り組みが、世界各国で大規模に展開でき、少年少女たちの生活を変えることができることは、疑いの余地がありません。青年の保健・福祉に対する投資がもたらす経済的・社会的効果は、あらゆる基準をもってしても高いものであり、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために国際社会がなしうる最善の投資のひとつです。」と語った。

報告書は、調査の対象となった措置のすべて(教育関連を除く)に関して2030年までに必要となるコストは5240億ドルであり、これは1人当たり年間約6.7ドルに相当する。教育に関しては全体のコストが1兆7700億ドルと(1人当たり年間約22.6ドル)推計される。

UN Photo
UN Photo

これらを合計すると、若者1人あたりに年間で必要なコストは30ドルにも満たない。つまり、すべての政策に対する年間の投資総額は、世界全体の国民総生産合計のわずか0.2%にしかならないのである。(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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ダリル・キンボール米軍備管理協会会長インタビュー

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Filmed by Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan

核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議第1回準備委員会を取材のためウィーンの国連報酬本部に滞在中のINPS取材チームは、ダリルキンボール米軍備管理協会会長にインタビューを行った。

Daryl Kimball, the Executive Director of the Washington-based Arms Control Association (ACA), was in Vienna in the second week of the first session of the Preparatory Committee for the 2020 NPT Review Conference from May 2-12. IDN-INPS DG and Editor-in-Chief Ramesh Jaura discussed with him the status of negotiations on May 9 and invited him to a video interview which was recorded by the INPS multimedia director Katsuhiro Asagiri.

翻訳=INPS Japan

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米国、大陸間弾道ミサイル「ミニットマンⅢ」発射実験を実施

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【トロントIDN=J・C・スレシュ】

米朝間の緊張がこれまでになく高まるなか、両国は軍事力を誇示し、陰に陽に相手を挑発している。米国は、4月26日にカリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地から大陸間弾道ミサイル「ミニットマンⅢ」(爆弾を搭載しない状態にあるもの)の発射実験を行うと発表した。

カリフォルニア州に本部を置く核時代平和財団のデイビッド・クリーガー会長は、試射に先立ち声明を発表し、「米国は、北朝鮮の実験は脅威を与え状況を不安定化させるものとして強く非難しながら、自国の試射は国防のためだと正当化しており、これは明らかなダブルスタンダード(二重基準)だ。」と批判した。

クリーガー会長はまた、「軍事挑発ではなく外交が必要です。ツイートであれ、核発射能力を持つ空母打撃団や核弾頭搭載可能なミサイル発射であれ、危険度を増すだけです。」と付け加えた。

David Krieger/ Rick Carter
David Krieger/ Rick Carter

しかし、これは米国が実施する初めての実験ではない。米空軍は、第90ミサイル航空団が4月10日から12日にかけてワイオミング州ワーレン空軍基地でミニットマン(SELM)の電子発射シミュレーションの実験に成功したと13日に発表した。声明は、「SELMは国民のために揺るぎなき核抑止力を提供する同航空団の能力を示した」と述べている。

「第90ミサイル航空団は、150基の大陸間弾道ミサイル(ICBM)『ミニットマンⅢ』と、関連の発射施設を維持し運用することで国の戦略防衛に寄与しています。SELM実験の成功は、安全かつ保安が確保された状態でのICBMシステムの効果を証明しました。」とクリストファー・ルアノ三等軍曹は語った。

第625戦略作戦飛行大隊のディーン・コノビッチ中佐は、「ミニットマンⅢの電子発射シュミレーション実験は、我々のICBMの能力が、安全で、保安が確保され、致命的であり、発射の準備が整っていることを、米国民や我々の同盟国、そして敵対相手に示すシグナルです。」と指摘したうえで、「この実験は、電子的に孤立しているICBMの陸上および空での指揮・統制要素に焦点を当てたものであり、配備された我が国のICBMが重大な発射命令に対応できることを示したものです。」と語った。

4月26日の発射実験を前に、ドナルド・トランプ大統領は24日、国連安保理構成国の大使らに対して、国連がこれまでは避けてきた問題に今後取り組まねばならないだろうと語った。

ホワイトハウスで大使らと開いたビジネスランチの冒頭でトランプ大統領は、「今後、皆様方は忙しくなります。」と発言したと報じられている。この場には、4月の国連安保理議長であるニッキー・ヘイリー米国連大使も同席していた。

トランプ大統領はシリア政府による自国市民への化学兵器使用の問題を挙げて、「国連は特定の問題を取り上げるのを好まないようだ。」と指摘したうえで、「私は安保理に対して、協力してこれら多くの脅威のすべてに対して行動を取るよう求めます。」と語った。

トランプ大統領はまた、緊張が高まる北朝鮮との関係についても触れ、この共産主義独裁国家は「世界にとっての真の脅威だ」と語った。そして居並ぶ大使とその配偶者に対して、「北朝鮮は世界の大問題」であり、「人々は数十年にわたってこの問題を見て見ぬふりをしてきた。」と語った。

発表は4月21日、第30宇宙航空団広報部によってなされた。空軍グローバル打撃司令部によると、「ICBM発射実験プログラムの目的は、兵器システムの効果、即応性、正確性を確認・検証するものだ」という。ICBMには核弾頭を搭載する能力がある。

第30宇宙航空団司令官のジョン・モス大佐は「我々は再び空軍グローバル打撃司令部と協力して、ミニットマンⅢの発射を成功させる準備を進めています。こうしたミニットマンⅢの発射実験はわが国の核戦力の状態を検証し、核能力を示すために不可欠なものです。わが国のためこの任務を実施すべく、第576発射実験大隊の諸君と協力してきた長い歴史を誇りに思っています。」と語った。

第576発射実験大隊は、ミサイルの追尾、遠隔測定、指揮破壊システムの運用を担当している。

米国は現在、核弾頭を搭載した約400基のICBM「ミニットマンⅢ」をコロラド州、モンタナ州、ノースダコタ州、ワイオミング州に配備している。(原文へ

*米国内の大陸間弾道ミサイル(ICBM)や戦略爆撃機などを一元管理・運用している米空軍グローバル攻撃司令部によると、同基地から発射されたミニットマン3は約6800キロ飛行し、太平洋・マーシャル諸島クエゼリン環礁付近に到達した。

翻訳=INPS Japan

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【ジョージタウン(ガイアナ)IDN=デズモンド・ブラウン】

コモンウェルス(英連邦)が発行した新しいガイドブックが、スポーツへの投資によって、急増する保健関連コストを抑え、教育や社会の一体性、ジェンダー平等を促進することができると述べている。

持続可能な開発目標に対するスポーツの貢献度を高める』と題されたガイドブックの勧告はカリブ海地域にとって重要なものだ。というのも、この地域では、慢性病や感染症が個人や地域社会に深刻な被害を及ぼしており、生活の質が下がり、地域の開発にとってますますマイナス要因になりつつあるからだ。

例えばガイアナは、国内総生産(GDP)の平均4.6%を毎年保健関連に使っているが、これは人口1人あたり200ドルに相当する。

Enhancing the Contribution of Sport to the Sustainable Development Goals/ Commonwealth Secretariate

国連の「持続可能な開発に向けた2030アジェンダ」の17項目の持続可能な開発目標(SDGs)などの重要な開発目標を達成するうえでスポーツが成しうる貢献を評価したこのガイドブックは、4月6日の「開発と平和のための国際スポーツデー」に合わせて発行され、スポーツをツールとして利用することで、保健や教育、社会的包摂、ジェンダー平等のグローバルな目標を達成する支援を国々に行うことを意図した政策的な処方箋を示している。

スポーツが多大な影響を及ぼしうる領域のひとつが、公衆衛生の改善である。

西半球で慢性病の猛威に最も晒されているのがカリブ海地域である。汎アメリカ保健機構(PAHO)は「カリブ海地域は心臓病による死亡率が最も高く、米州での糖尿病による死亡者数の上位5カ国を占めている。」と指摘している。カリブ共同体(CARICOM)の国々の中では、心臓病が死亡原因としては最も多い。ガンや心臓発作、糖尿病、HIVのようなその他の疾病が主要な死亡原因である。

コモンウェルスのガイドブックは、運動不足が原因で世界全体で毎年300万人以上が死亡しており、すべての保健関連コストの1~4%を占めていると述べている。行動的なライフスタイルを取ることには利点があるにも関わらず、男性の5分の1、女性の4分の1が、「週に75~150分の運動を行う」とする世界保健機構(WHO)の「運動に関するガイドライン」が定める最小限度に到達していない。

ガイドブックは、例えば、学校でのスポーツ・体育に一定の教育予算を割り当てること、スポーツや運動のための緑地を街中に確保する規制を行うこと、民間・市民社会とのパートナーシップで新たなスポーツ施設の建設資金をまかなうこと、ダンスや軽い運動のための「ミニ公園」をつくることを勧告している。

また、スポーツ施設が女性・女児にとって安全で利用しやすいものにすること、さまざまな経歴を持った人びとが体を積極的に動かすよう指導にあたるコーチやボランティアなどの訓練、スポーツを基盤とした起業や企業活動を加速する取り組み、スポーツに参加するすべての子どもたちの安全確保のための措置を採ることも勧告している。

ガイドブックは、スポーツにおける腐敗と搾取が続くようであれば、スポーツへの投資の効果は相殺されると厳しく警告し、公的資金を受け取る条件として、よいガバナンスと児童の保護に関する国際的基準を満たす義務があるとスポーツ関連団体に対して訴えている。

Athletes participating at the Launch of the 4th International Day of Sport for Development and Peace. Tahl Leivovitz (left) and Kanak Jha, USA Table Tennis demonstrate their abilities in the UN Visitors Lobby

コモンウェルスのガイドブックは、英ダラム大学のイアン・リンジー博士とトニー・チャップマン教授に加え、スポーツの専門家や団体、オーストラリア、ボツワナ、シエラレオネ、ザンビアの政府関係者によって作成されたものである。

これは、国家のスポーツ政策がSDGsの実施との連携が取れたものにするために2016年8月に行われた「コモンウェルススポーツ閣僚会議」でなされた30カ国以上による歴史的公約を受けて作成された。

コモンウェルス事務局の「開発と平和のためのスポーツ」責任者であるオリバー・ダッドフィールド氏は、「質が高く包摂的なスポーツを利用し参加できるようにすることで、人々の健康と教育を向上し、社会的障壁を打破し、究極的には公的資金を節約することができます。」と語った。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

「このガイドブックは、スポーツと体育が持続可能な開発の実施に資するとする証拠がある領域について、諸政府に幅広い政策上のオプションを提示しています。私たちが打ち出した勧告は、開発ツールとしてのスポーツの可能性を発揮することをめざしたものです。」

他方で、4月11日にCARICOMの本部があるジョージタウンで開催された会議で、CARICOM事務局長であるアーウィン・ラロック大使と、国際サッカー連盟(FIFA)のジョヴァンニ・インファティーノ会長が、若者の成長と社会全体に対してスポーツが重要な役割を果たしているという認識で一致した。

若者を前向きな取り組みに向かわせる支援を行いうる社会的投資としてスポーツは重要であると強調したラロック氏は、「カリブ共同体は、開発プロセスの総合的な性格にかんがみてスポーツを重要な要素とした『人的資源開発戦略』の策定を予定しています。」と語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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【ジュネーブIDN=ジャムシェッド・バルーア】

国連の枠内で独立して軍縮に関する研究を行っている国連軍縮研究所(UNIDIR:ジュネーブ)は、「広島長崎への原爆投下以来、核兵器が使用されていないからといって、そのこと自体が、今後も核兵器がほぼ使用されないと考える根拠にはなりえない。」と警告している。

1945年8月6日と9日に米国が原爆を投下した広島と長崎は、核兵器の使用が人間に及ぼす恐るべき影響を今日に伝える日本の被爆都市であり、こうした大量破壊兵器が再び使われるようなことがあれば残虐な帰結が待っていると警鐘を鳴らし続けている。

広島・長崎の惨劇がその後繰り返されていないという事実をもってしても、人類を悩ませ続けている核兵器のリスクに関する将来への不安が取り除けるわけではない。『核兵器のリスクを理解する』と題された報告書は、核兵器のリスクに対する理解を困難にしている要素について、「核兵器が抑止ドクトリンにおいて果たす決定的な役割や、複雑なシステムの相互作用、『想定外』の事態が起きる可能性、備蓄核弾頭の老朽化に伴う影響等に関連した未知数が、考えられる。」と指摘している。

ジョン・ボリー氏、ティム・コーリー氏、ウィルフレッド・ワン氏が編集したこの報告書は、「核抑止は、それが機能しないと証明されるときまでは機能する。」と論じたうえで、「核兵器には(核爆発の)リスクは本来備わっているものであり、運が尽きれば、壊滅的な結果を招くものになる。抑止理論を現実に適用することで加速する軍備競争は、それ自体が尽きることがないダイナミズムを生み出す。とりわけ不安定な社会状況にある国で兵器が生産されればされるほど、核兵器がテロリストによって奪取されたり使用されたりする可能性が高くなる。」と指摘している。

Kim Jong Un, with what North Korea claims is a miniaturized silver spherical nuclear bomb, at a missile factory in early 2016. /Wikimedia Commons.

報告書はまた、「核抑止は『コミットメント・トラップ』というパラドックスも生じさせている。」と指摘している。報告書の著者らは、米国とその同盟国が北東アジアで直面している脅威、とりわけ北朝鮮からの脅威を米国の核の傘で抑止しようとしても、北朝鮮の態度を変えることはできない(=核使用の威嚇は機能しない)とみている。かといって、北朝鮮に対して核を使用することは核抑止の精神そのものに反することから実行されない。つまり、「核使用というオプションは信憑性に欠け、不必要なもの」と論じている。

報告書はまた、「しかし、米国の核の傘を弱めれば、敵国によるさらなる冒険主義や同盟国への核の拡散を引き起こしかねない。この難問を解くには、安定的で、協調的で、ビジョンを持ったリーダーシップを必要とする。しかし、主要国がますます内向きになる中、今日、この種のリーダーシップは悲しいほどに欠如している。」と論じている。

UNIDIRの研究は「核兵器と核兵器システムへの相当規模の投資とその近代化は、意図的あるいは不注意による核爆発の可能性を減じるのではなく、むしろ高めている。」と結論付けている。

報告書のその他の知見は以下のようなものだ。

・核兵器プログラムに伴う秘密主義は、核爆発のリスクに関する評価を行ったり説明責任を果たしたりするうえで障害となっている。

・過去に核攻撃を警告するシステムの誤作動を確定し解決した事例では、いずれも人間による判断が重要なカギを握った。自動化されたシステムにより依存すれば、過剰な自信につながり、(核戦争につながる)新たな脆弱性を生み出すことになりかねない(「隠れた相互作用」の問題)。

・技術の進歩は、核爆発を実際に引き起こすためにテロリストやその他の集団が実際の兵器を直接入手する必要性を低めていることを示唆している。

・核爆発のリスクは核兵器に本来的に備わっている特徴である。このリスクを完全に除去する唯一の方法は、核兵器を完全に廃絶することだ。

この研究は、すべての国家に対して、既存のグローバルな核不拡散・軍縮レジームを履行する努力を強化すること、学者や民間部門のような市民社会と連携することも含め、国内の安全・安全保障・保安の文化を強化すること、より透明性を確保し、コミュニケーション及びその他の信頼醸成措置の強化を通じて、国際安全保障環境における緊張状態に対処すること、を求めた。

ICAN
ICAN

著者らは、核保有国が「報復攻撃を引き起こしかねない誤認を避けるために、とりわけ外国に配備されているものに関して、既存の核備蓄と運搬システムに関する情報を交換する努力にあらためて焦点を当てる」ことを促している。

同研究はさらに、「核弾頭を搭載したミサイルの警戒レベルを低めたり、『警告即発射』態勢を解除することも含めて、危機状況における政策決定者の決定時間を引き延ばす行動」を取ることを求めた。

UNIDIRの報告書は、核保有国に対して、事態を一層曖昧にしかねない空中発射巡航ミサイルのような新たな核運搬システムの開発を控えること、核オプションの敷居を下げたり限定的核戦争の実行可能性を示唆したりするようなレトリックの使用を避けること、核兵器システムのあらゆる層における脆弱性を査定するサイバー安全保障を強化するために段階的なアプローチを取ることを求めている。

核保有国はまた「安全上の考慮を優先し運用上の不確実性を徹底的に調査するために、国内の核兵器施設に対する一定の独立した監視・統制レベルを確保」し、「非民生事業における核分裂性物質の83%を含めた核セキュリティー政策を拡充すべき。」と報告書は訴えている。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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化学兵器は決して使用されてはならない(セルジオ・ドゥアルテ元国連軍縮担当上級代表)

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【ニューヨークIDN=セルジオ・ドゥアルテ】

国際法と普遍的に受け入れられた文明的な振舞いに関する現段階の規範に照らせば、大量破壊兵器の使用は、いかなる主体によるものであっても人類の良心に反するものであり、容認できるものではない。

最近シリアで使用されたという化学兵器が誰の手によるものかはまだはっきりしていない。しかし、この劇的な出来事の犯人探しに奔走していると、時として、こうした残虐で無差別的な効果をもつ大量破壊兵器が一部の国家の兵器庫あるいは秘密の倉庫に依然として存在するという驚くべき事実があいまいにされてしまう。

Map of Syria
Map of Syria

2013年と14年、化学兵器がダマスカスやアレッポなどシリア国内の数か所で使用された。国際的な圧力の下で、シリアは化学兵器禁止条約の締約国になり、化学兵器備蓄の廃棄に向けた道が切り拓かれた。化学兵器禁止機関(OPCW)やその他の国際機関が査察官や専門家を現地派遣して、シリア政府から申告された備蓄を検証しその廃棄を監視した。

米国政府は、化学兵器は100%廃棄されたと断言した。しかし、備蓄の一部が査察官の目から隠されている可能性や、シリア国内で対立する武装集団がそれを奪取した可能性が取りざたされていた。致死的な少量の化学物質が、査察官や監視衛星の目を逃れて秘密の研究所で製造されていた可能性さえある。

数週間前、シリアのイドリブ州ハーン・シャイフーンで致死性の化学物質が放出されて80人以上が殺害された。中には多くの子どもがいた。少なくとも他に100人がその被害を受けた。2つの超大国(=米国とロシア)とシリア政府、反政府諸集団が、化学兵器攻撃の責任をめぐって批難の応酬をした。その出所がどこで、誰が保有していたものであれ、6年間もの内戦が行われていたこの国の現状で兵器を追跡することは困難だ。誰が化学兵器を保有し、なぜ、どのようにしてそれが使用されたのかを確認する徹底した中立的な調査が必須だ。

しかし、政治的な対立と不和、主な主体間の信頼感が欠如しているために、信頼性が高く異論のない結論に到達することは極めて困難だ。意図的であれ偶然であれ、化学兵器の使用は絶対に容認されるべきではなく、首謀者は処罰されるべきだ。国連と関連機関の下で確立された多国間構造は、そうした兵器の使用に関する申し立てと事例に対処するうえで適切なチャンネルとなる。

化学兵器の使用規制に向けた国際的な取り組みの背景には、人道的な理由がある。このきわめて成功した取り組みの歴史的な起源は、フランスとドイツが毒ガス弾を禁止することに合意した17世紀に遡る。1874年、「戦争法規に関するブリュッセル宣言」では、毒あるいは毒を使用した兵器が禁止され、1899年のハーグ会議では毒ガスを詰めた投射物が違法化された。それでもなお、第一次世界大戦時には、化学兵器によって10万人が殺害された。

戦後、国際社会と市民社会からの強い反応を受けて取り組みが再開され、1925年のジュネーブ議定書では、窒息性ガス、毒性ガス、またはそれに類するガスを、戦争の手段として使用することが禁止された。しかし、化学兵器の開発・生産・保有は禁止されなかった。そのため多くの国々が、非締約国に対して使用するか、化学兵器攻撃に対する報復に使用しうる大量の備蓄を保有していた。研究も継続され、その結果、強力な神経ガスが開発されて、備蓄リストに加わることになった。

国際社会において化学兵器の使用・製造・備蓄が違法化され、その備蓄の廃棄を締約国に義務づけた強力な条約が実現したのは、ようやく1997年になってからのことであった。

ハーグに本部を持つOPCWは、そうした化学兵器の破壊を検証し、新たな化学兵器の開発を予防する一方で、正当な国家安全保障上の排他的な利益を擁護する、透明性を確保した信頼できる制度を担保している。しかし、化学兵器禁止条約の採択によって最終的に実現した包括的な禁止は依然として普遍的なものではなく、備蓄の廃棄ペースは想定よりも遅い。化学兵器禁止条約の締約国は192カ国あり、2016年末までに世界の備蓄の9割が廃棄されたと報告されている。

世界には、化学兵器生物兵器核兵器という3つのカテゴリーの大量破壊兵器が存在する。そのすべてが、過剰に残虐で、戦闘員も無辜の民間人も区別せず破壊する無差別な効果を持った恐怖の兵器である。化学兵器と生物兵器はすでに国際条約によって禁止されている。

国際社会は、核兵器を違法化する条約を交渉するための長く待ち望まれた多国間の取り組みを始めたばかりだ。9つの核保有国すべてとその同盟国は、このイニシアチブには参加せず、自らが望ましいと考える状況において、時として核兵器を保有していない相手にすら核兵器の使用を考慮に入れる時代遅れの軍事ドクトリンに固執している。

Ambassador Sergio Duarte is President of Pugwash Conferences on Science and World Affairs, and a former UN High Representative for Disarmament Affairs. He was president of the 2005 Nonproliferation Treaty Review Conference.
Ambassador Sergio Duarte is President of Pugwash Conferences on Science and World Affairs, and a former UN High Representative for Disarmament Affairs. He was president of the 2005 Nonproliferation Treaty Review Conference.

核の対立は、それがどこで発生するかに関わらず、気候や人口全体にも壊滅的な影響を及ぼす。今こそ、私たちは、大量破壊兵器のこの最後のカテゴリー(=核兵器)を廃絶することによって、この歴史的任務を完遂すべき時だ。(原文へ

※セルジオ・ドゥアルテは、国連軍縮問題担当上級代表(2007~12)。核不拡散条約第7回締約国運用検討会議(2005年)議長。職業外交官としてブラジル外務省に48年間勤務。オーストリア、クロアチア、スロバキア及びスロベニア、中国、カナダ、ニカラグアでブラジル大使を務める。また、スイス、米国、アルゼンチン、ローマにも駐在した。

翻訳=INPS Japan

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「世界と議会」2017年春号(第576号)

特集:地方政治と人間学

■尾崎財団設立60周年記念・咢堂塾公開講義
 「論語と佐藤一斎『言志四録』」/長峯 基

■地方議会議員の声
 ・小池劇場、激動の都政は何処へ向かうのか?/両角 穣
 ・江東区に見る地方自治の課題について/鈴木 清人
 ・報徳思想の発祥地・神奈川から考える私的教育論/武田 翔
 ・スポーツによる地域振興を実現するために/黒崎 祐一

■特別掲載
 「東京市長時代の尾崎行雄」

■特別論文
 国会における「女性活躍」に関する考察/橋本 晶代

■財団だより

1961年創刊の「世界と議会では、国の内外を問わず、政治、経済、社会、教育などの問題を取り上げ、特に議会政治の在り方や、
日本と世界の将来像に鋭く迫ります。また、海外からの意見や有権者・政治家の声なども掲載しています。
最新号およびバックナンバーのお求めについては財団事務局までお問い合わせください。

|スリランカ|紅茶農園が干ばつを背景に環境意識の転換を迫られる

【ラトナプラIDN=ステラ・ポール】

リルヒナの製茶工場で稼働している十数台の機械から発している耳をつんざくような回転音を聞くと、頭に激しい一撃を食らわされたような気になるが、この工場で働くビヒタ・マドゥラさんやラジャカクシミ・チャンドラクマールさんにとっては心地よい音楽のようなものだ。

騒音をあげ黒い煤を吐き出しているこの機械は、彼女たちにとっては最も肝心なこと、つまり「今日も一日働くことができた」という事実を象徴するものだ。マドゥラさんは、シャベルで茶葉を巨大な煎り釜に投入しているチャンドラクマールさんを見ながら、「これが私たちにとっての日常です。」と語った。いずれも40代のマドゥラさんとチャンドラクマールさんが安堵しているのには理由がある。紅茶生産大手「ディルマー」社のカワッテ・農園が保有するリルヒナ工場は、スリランカで屈指の優良茶葉生産企業だからだ。

SDGs Goal No. 15
SDGs Goal No. 15

しかし、スリランカ全土を見れば、紅茶産業は、干ばつ、日照り、豪雨、土地の劣化、土壌の喪失、茶葉価格の急落、生産量の低下、移住労働、相次ぐ工場閉鎖といった数多くの難問に直面している。

スリランカの紅茶産業は年間で3億8800万キログラムの紅茶を生産し、外貨だけでも16億ドルを稼ぎ出している。しかし、スリランカ輸出開発委員会(EDB)によると、この4年間で製茶業は着実に衰退しているという。その主な理由は、日照りや、平均を下回る降雨量、そして干ばつである。

スリランカ政府と世界食糧計画(WFP)が合同で出した報告書によると、2016年の降雨量はこの30年間の平均を23%も下回っていた。結果として、スリランカは30年間で最悪の干ばつに見舞われている。

政府と国連人道問題調整事務所(OCHA)による別の報告書では、スリランカの25県のうち17県で、100万人以上が長引く干ばつの影響を現在受けているという。

スリランカ気象庁によると、国連気候変動枠組条約の基準で「厳しい」と表現される今回の干ばつは2016年初頭に始まった。日照りが繰り返され、エルニーニョ現象によってさらに事態が悪化している。全土で気温が急上昇し、スリランカの主要な紅茶生産地であるラトナプラでは、例年の平均気温27度よりも6度以上も高い平均33度を記録した。

この結果、農業部門全体に被害が広がり、主要作物の収穫が減少している、と食糧農業機関(FAO)は報告している。FAOの統計では、水不足のために、作物収穫面積が通常の80万エーカーから30万エーカーにまで縮小している。

紅茶開発委員会によると、紅茶生産部門では2016年の茶葉収穫量が11%減少し、この7年で最悪であった。今年1月、生産量はさらに15.3%も落ち込んだ。

紅茶農園では、水量の低下に加え、干ばつの影響により土地の劣化と土壌喪失が進行している。こうした状況は、「中央高地とその他の辺境地域に適切な土地・水管理を導入し、土地の劣化を最小に止め、土地・水の生産性を向上させる」ことを約束したスリランカの「約束草案(INDC)」に反映されている。

紅茶生産者から中部州マスケリヤで持続可能な土地管理の指導者に転じたマヘンドラ・ペイリス氏は、「従来ここでの紅茶の栽培方法は、化学合成除草剤や殺虫剤を過剰に使用するなど、きわめて環境に有害なものでした。土壌の質や周辺の環境に気を使う者など以前は誰もいませんでした。つまり、土壌喪失や土地劣化はこうした慣習の副産物といえます。」と説明した。

マスケリヤ茶農園の元管理人だったペイリス氏は「今や干ばつにより土壌喪失が一層加速し、茶の木にストレスを与え、土壌の栄養が失われています。これにより、紅茶の生産量と収入が減る可能性が高まっているのです。」と語った。

シャシ・カラ氏(37)は中部州ヌワラ・エリヤ県のベアウェル茶農園で働いている。茶葉を1日19キロ摘んで、日給は750ルピーだ。しかし、今シーズンは労働者が摘んだ茶葉の平均量が15キロを下回ることも少なくないという。「以前には50キロ摘んでいた人もいましたが、今では毎日の割り当て量をこなすので精一杯です。」とカラ氏は語った。

Shashi Kala – a tea worker at the Bearwell tea estate in western Sri Lanka’s Sabaragamuwa province – one of the plantations that has adopted sustainable land management measures to plug draining of its profits. /Stella Paul, INPS.
Shashi Kala – a tea worker at the Bearwell tea estate in western Sri Lanka’s Sabaragamuwa province – one of the plantations that has adopted sustainable land management measures to plug draining of its profits. /Stella Paul, INPS.

「つまり、収穫量が減っても茶農園の経営者は労働者に同じ賃金を支払わねばならず、その分利潤に食い込むことになります。」とラトナプラの自然保護家ギリ・カドゥルガムワ氏は語った。

損失を抑えるために一部の紅茶農園では賃金が切り下げられ、労働者による集団抗議や集団離脱に発展している。このため、この2年で20以上の紅茶工場が閉鎖に追い込まれた。「労働者の離脱に多くの経営者が頭を悩ませています。」とベアウェル茶農園の管理者ディルシャンカ・ジャヤティラケ氏は語った。

危機が広がる中、多くの紅茶農園が、「熱帯雨林同盟認証」を申請するようになってきている。熱帯雨林同盟は、未来に目を向けている農業、林業、観光業の事業家たちと協力して、自然資源を保護し、森林共同体の長期的な経済安定性をもたらす活動を行うとともに、世界各地で増加している良識ある消費者のコミュニティにこれらの事業家を結び付ける活動を展開している団体で、「熱帯雨林同盟認証」は、環境・社会・経済面の持続可能性のシンボルとして国際的に認知されている。

Rainforest Alliance Verified Mark/ Rainforest Alliance
Rainforest Alliance Verified Mark/ Rainforest Alliance

スリランカ「熱帯雨林同盟」のカドゥルガムワ代表は「これまでのところ、ベアウェルやカハワッテ、ワタワラのような主要な生産者も含め、スリランカ国内で78の農園が認証を受けています。」と語った。

熱帯雨林同盟は現在、国連環境計画地球環境ファシリティ、地方政府と組んで、土地劣化を防ぐことを目的とした持続可能な土地管理プロジェクトに取り組んでいる。

このプロジェクトをリードする指導者のひとりであるマヘンドラ・ペイリス氏は、「認証を受けるためには「持続可能な農業ネットワーク(SAN)」が策定した厳格な社会・環境基準(農場の労働力の福祉や環境の改善等)を満たさなければなりません。」と語った。

環境改善措置には例えば、合成除草剤・殺虫剤の使用をほぼゼロあるいは完全にゼロにすること、水資源の保全、農園や工場での水リサイクル、非再生可能エネルギー源の最小限度での利用、農園内での植樹によるCO2吸収量の向上などが含まれてなくてはならない。

カハワッテ農園の管理人ジャナカ・グナワルデネ氏は、「気候変動と紅茶農園の環境基準にますます敏感になっているバイヤーの信頼を得るためにこの認証は有効です。」と指摘したうえで、「認証を取得して以来、コロンボでの茶葉のオークションで当農園の製品が高値を獲得することができるようになりました。実際、先週のオークションでは当園の紅茶に680ルピーの値が付いたのですが、これはスリランカで最高値でした。」と語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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