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米国政府の国連人口基金への分担金停止判断に疑問噴出

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、国連人口基金(UNFPA)への資金拠出を停止するとした米国政府の決定に対して、「極めて残念」と深い遺憾の意を表明するとともに、ドナー諸国に対して、同基金が重要な任務を継続できるように支援を強化するよう要請した。

リベラル系カトリック団体「選択の自由を求めるカトリック教徒たち(CFC)」は、「国連人口・開発委員会第50回会期(4月3日~7日)と同じ週にこの決定を発表したことは、「国連が持続可能な開発のために家族計画の重要性を検討している中で、女性たちの顔を平手打ちするような(=侮辱する)ものだ。」と述べ、米国によるこの決定を強く批判した。

Donald Trump/ The White House
Donald Trump/ The White House

CFCのジョン・オブライエン代表は、「アフリカの角の飢饉からシリア危機まで、世界各地で女性が未曾有の危機の矢面に立たされ最大の犠牲者となっているなかで、このような決定がなされるのは、カトリックの社会正義の観点から見て、とりわけ残酷だと考えます。」「ドナルド・トランプ大統領は、国連人口基金の影響力に対する理解ではなく、自身の大統領選出に貢献した極右キリスト教徒の有権者に報いる観点からこのような決定をしたように思えます。」と語った。

これは、トランプ大統領が発表した国連に対する米国の分担金削減策の第一弾である。1985年の制定以降共和党の歴代大統領が利用したケンプ・カステン修正法案を引用した米国務省の覚書は、UNFPAが中国において、「強制 妊娠中絶、不妊手術などのプログラムを支援または協力して行っている。」と主張している。

同修正法案は、強圧的な堕胎や不本意な不妊手術を支援する組織への対外援助を禁じている。ロナルド・レーガン、ジョージ・HW・ブッシュ、ジョージ・W・ブッシュの共和党歴代大統領が、この法案を根拠にUNFPAへの資金提供を拒んできた。

CFCは、資金拠出停止の決定を伝える国務省の発表は「UNFPAが中国で強制的中絶や本人の同意によらない不妊手術を支援していると誤って述べている。」と指摘した。

UNFPA
UNFPA

「こうした主張はまったく見当違いです。」と同団体の声明は述べた。CFCは14年以上前、宗教指導者らによる独立代表団を中国に派遣し、同国におけるUNFPAの影響について調査したことがある。この報告書によると、完全に自発的で非強制的な家族計画政策に中国が移行するうえでUNFPAは大きな役割を果たしていた。

CFCはまた、すべてのドナー国に対して、女性たちをエンパワーし、女性やその家族が発展の道筋に到達・留まることができる家族計画について決定できるよう取り組んでいるUNFPAを支援するよう呼びかけた。

英国海外開発研究所(ODI)は「国連機関の中では、全世界の女性のうち推定3人に1人に影響を及ぼしていると言われる性暴力やジェンダーに基づく暴力に取り組む事業を支援するうえで主要な役割をUNFPAが果たしている。」としている。

UNFPAは4月4日に発表した声明のなかで、米国務省の主張を「誤っている」と否定したうえで、同機関の全ての活動が「抑圧や差別を受けずに自らの意思決定を行えるよう個人とカップルの人権(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)を推進するものだ。」と訴えた。

UNFPAは米国を「信頼のおけるパートナー」と呼び、米国政府および米国民からの支援は長年にわたり、「防ぐことのできる死や障害から、何万人もの母親の命を救うために役立てられてきた。」と述べた。

例えばUNFPAは昨年、妊娠・出産期にある女性2340人以上を死から救い、1250件以上の瘻孔(フィスチュラ)手術を支援した。

グテーレス国連事務総長は報道官を通じた声明の中で、「米国の決定はUNFPAの活動の性格と重要性に関する誤った認識を基にしている。」と指摘したうえで、「分担金削減は弱い立場の女性・女児やその家族の健康に『壊滅的な影響』を及ぼしかねません。」と述べた。

General Assembly Seventy-first session, 59th plenary meeting Appointment of the Secretary-General of the United Nations.
General Assembly Seventy-first session, 59th plenary meeting Appointment of the Secretary-General of the United Nations.

かつて国連難民高等弁務官も務めたグテーレス事務総長は、150以上の国・地域で活動しているUNFPAが命を救う現場を「私自身の目で見てきた。」と語った。

「選択の自由を求めるカトリック教徒たち(CFC)」の声明は、「UNFPAは150カ国以上で避妊手段の重要な提供者となっており、結果として世界中で妊産婦死亡率の大幅低下に寄与している。」と指摘したうえで、「UNFPAへの資金提供を拒むトランプ政権の決断は、世界全体で数百万の弱い立場の女性を傷つけることになるだろう。」と述べている。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

ODIニコラ・ジョーンズ首席研究官は「UNFPAが困難な状況下にある女性・女児を含めて、妊婦の健康と家族計画をグローバルに支援する上で重要な役割を果たしていることを考えると、同機関から資金を引き揚げるとの米国の決定はきわめて憂慮すべきもの」であり、「資金の引き揚げは、年間数百万人もの女児の健康と未来を危機に陥れている、早期かつ強制的な児童婚と女性性器切除の慣行を終わらせる主導者としてのUNFPAの重要な役割を危険にさらすことになるだろう。」と語った。

UNFPAは、他の国連機関と同じく、諸政府からの自発的分担金に依存している。2015年、同基金は9億7900万ドルの拠出を受け、米国は第4位のドナー国であった。デヴェックスによると、(民主党政権下の)米国は、「コア予算」および「ノンコア予算」の組み合わせを考慮に入れながら、UNFPAに毎年およそ6900万ドルを拠出していたという。

BBCは、米国務省の声明を引用して、「2017会計年度にUNFPAに割り当てられていた資金は『グローバル保健プログラム』の会計に移転され、事業は組み直される」と報じた。国務省によれば、同会計は、途上国で家族計画や母子保健、リプロダクティブ・ヘルス関連を支援するために米国際開発庁(USAID)が使用することになるという。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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党略政争を排す(石田尊昭尾崎行雄記念財団事務局長)

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Mr. Takaaki Ishida
Mr. Takaaki Ishida

【東京IDN=石田尊昭】

「国の存続繁栄と国民の幸福」――。明治・大正・昭和の三代にわたり国会議員を務めた尾崎行雄の取り組みは、常にそれを目指したものでした。

武力を否定せず強硬論を唱えた頃の尾崎も。逆に、国際協調と軍縮を唱えた頃の尾崎も。また、個人の生命・財産・自由その他権利の重要性を説きつつも、普通選挙は時期尚早だとして選挙権拡大に消極的だった頃の尾崎も。そして、民主主義・立憲主義の重要性を説くと同時に、大日本帝国憲法という欽定憲法の下で立憲政治を実現しようとした頃の尾崎も。

一見、変節に見えたり、相対立する思想が混在し矛盾した行動に見えたりもしますが、いずれも、内外情勢の現実を冷静に見極めながら、国の存続繁栄と国民の幸福のために、その時々で最適な手段を考え抜いた結果といえます。

自分のためでも政党のためでもなく、国家国民のために、今の政治が議論・決断すべきことは何か。

以下は、第二次大戦終結後、危機に直面する日本において、党利党略で動く政治と、付和雷同する国民に対し、尾崎が投げかけた厳しい言葉です。


70年を経た今の政治はどうでしょうか。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「党略政争を排す」

 今日各政党がやっていることは政策の争いではなく、党略本位の政争である。これほど悪いことはないのだが、国民は案外平気で眺めている。敗戦で国が生きるか死ぬかの瀬戸際に立っている時だから、くだらぬ政争はやめて生産高を増すことに総がかりで努力すべきだ。現在のように消費的な喧嘩ばかりしていては問題にならない。野党の側でも内閣を倒すことだけは知り、後継内閣を作ることは知らない。

 先頃も幣原内閣を倒しはしたが作ることはできず、倒した内閣の外務大臣を迎えてようやくこれを組織し、そのうえ自由・進歩の両大政党は彼らが打撃し打倒した内閣の首相と外相を迎えて総裁とした。これでは政変の意味は全然ないのだが、国民も政党も平気である。あたかも古家を無理に壊し、古材木を集めて前より悪い家を作ったようなものだ。馬鹿馬鹿しい限りである。

 今は政争を中止して挙国一致救国政権を確立し、兎に角危機を突破すべきである。政争に没頭し、ストライキ騒ぎをやっているのは自滅の手伝いをやっているものといってよい。それには純真な青年が奮然躍起して、国を救う以外方法はなかろうと思われる。老人は昔の習慣や癖がぬけず、政党の争いをすぐ感情でやる。青年の純情と熱意だけが頼みである。

 しかるに地方によっては唯一の頼みである青少年までもがゼネストに参加したり、内閣打倒運動に協力したりしている。しかもろくにその理由も理解せず、漫然とやっている者が多いようだ。

 政治家は国家の存亡をよそに党争をやっている。資本家と労働者は喧嘩をする。都市と農村は軋轢している。今度の選挙は日本が更生復興するか否かを決する意味もあるので、どうか立派な選挙を行なってもらいたい。特に青年諸君に躍起してもらいたく熱願する次第である。

1947年(昭和22年)『咢堂清談』より

Ozaki Yukio with his son Yukiteru and daughter Yukika visiting cherry trees by Tidal Basin Wshington D.C. in June 1950./ Ozaki Yukio Memorial Foundation
Ozaki Yukio with his son Yukiteru and daughter Yukika visiting cherry trees by Tidal Basin Wshington D.C. in June 1950./ Ozaki Yukio Memorial Foundation

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|国連|核兵器禁止条約に向け大きな第一歩

【ニューヨークIDN=ロドニー・レイノルズ】

主な核保有国4カ国を含む40カ国以上が示し合わせて参加を拒否したにも関わらず、核兵器を禁止する国際条約の交渉を目的とした国連会議は、世界で最も危険な大量破壊兵器を廃絶する法的拘束力のある文書の策定を目指す史上初の試みにおいて、大きな突破口を作り出した。

「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)は、「大量破壊兵器の禁止や海洋法の例にあるように、条約がしばしば、非締約国の行動をも変えることがあります。」と述べ、たとえ核兵器国の参加がなくとも核兵器禁止条約は非常に大きな影響力を持つようになる、との予測を示した。

Elayne Whyte Gómez (Costa Rica) on the negotiation of a legally binding instrument to prohibit nuclear weapons/ UN Web TV
Elayne Whyte Gómez (Costa Rica) on the negotiation of a legally binding instrument to prohibit nuclear weapons/ UN Web TV

国際社会は、いずれも大量破壊兵器である生物兵器に関しては1972年に、化学兵器に関しては1992年にそれぞれ禁止条約を採択し、これに、対人地雷(1997年)やクラスター弾(2008年)のような無差別殺人兵器の廃絶が続いている。

核兵器禁止条約交渉会議の議長をつとめているエレイン・ホワイト大使(コスタリカ)は3月30日、いったん条約ができあがれば核保有国も最終的には参加するのではないかと記者らに期待感を示した。最終的な交渉(第2会期)は6月15日から7月7日にニューヨークの国連本部で開催が予定されている。

3月27日から31日まで開催された今回の交渉会議(第1会期)は、参加者数の点からいっても大きな成功であった。国連の193加盟国のうち132カ国が参加し、加えて、220以上の市民団体が積極的に参加した。また、80カ国・3000人以上の科学者(ノーベル賞受賞者28人を含む)が、国連への公開書簡で「核兵器禁止」を支持した。

ホワイト議長に手交された書簡は「科学者には核兵器に関する特別な責任があります。なぜなら、核兵器を開発し、その影響が最初に考えられていたものよりずっと恐ろしいことを発見したのは他ならぬ科学者だからです。」と述べている。

2001年にノーベル物理学賞を受賞したマサチューセッツ工科大学(MIT)のウォルフガング・ケタール教授は「核兵器は人類に対する真の脅威だと考えています。この脅威を削減する国際的な合意が必要です。」と語った。

現在、米ロ両国で約1万4000発の核兵器を保有しているが、その多くが高度な警戒態勢下にあり、通告後数分で発射可能な状態にある。

米国フレンズ奉仕委員会(AFSC)平和・経済安全保障プログラムの責任者であり「国際平和・地球ネットワーク」の共同呼びかけ人でもあるジョセフ・ガーソン氏はIDNの取材に対して、「『なせばなる』という進取の精神と、政府・市民社会間の協働の深さには目を見張るものがあり、これは長年にわたる平和運動の活動と組織化のたまものです。」と指摘する一方で、「しかし、世界は正反対の方向をめざす勢力によって駆り立てられています。」と警告した。

ガーソン氏は、韓国や日本からオランダやドイツに至るまで、「『核の傘』に依存する国々の政治勢力が、私たちが知っている生命全てを絶滅させることができる国々と連携し続けるのではなく、核兵器禁止条約を選択するよう自国政府に圧力をかける必要があります。」と語った。

一部の北大西洋条約機構(NATO)加盟国、あるいはアジアにおける米国の同盟国が核大国への依存を放棄したならば、核兵器なき将来に向けて大きな弾みが生まれるだろう、とガーソン氏は指摘した。

ガーソン氏は同時に、「(核兵器禁止)条約が交渉され、採択・発効したとしても、核保有国が自国の核戦力を廃棄する結果に直ちにつながるとの見通しがあるわけではありません。」「21世紀の次世代核兵器と運搬手段を開発するために想像を絶するような多額の予算を費やしている核保有9カ国は、署名・批准していない(核兵器禁止)条約は自国には適用されないと主張するだろう。」と語り、冷静な見方をする必要性も指摘した。

米国は、北朝鮮との対立に関して、先制攻撃も含めた「あらゆるオプションがテーブル上にある」との姿勢を示している。

NATOがロシア国境沿いまで拡大し、ウクライナ危機が起こる中で、米ロ関係は冷戦期の核対立に近いところにまで回帰している。インドとパキスタンは互いを威嚇しつづけており、ブルッキングズ研究所は、挑発的な軍事演習の際の事故や計算違いが、容易に制御を越えてエスカレートする可能性が高い、と警告している。

軍備管理協会(米ワシントン)のダリル・G・キンボール会長は、世界の核保有国が国連核兵器禁止条約交渉会議をボイコットしたとしても、「この前例のない新たなプロセスは、核兵器の非合法性をより明確にし、その使用に対する法的・政治的規範を一層強化することにつながるだろう。」と指摘したうえで、「これは核兵器なき世界という目標とも整合し、『核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、誠実に交渉を行うこと』を全ての加盟国に義務づけた核不拡散条約(NPT)第6条とも整合する意義のある目標です。」と語った。

今会期の交渉に参加した132カ国のすべてが、「核兵器なき世界」という一つのビジョンを共有している。核兵器禁止条約の策定に向けた活動を主導している市民団体の一つであるICANは、意見の違いが出ることが予想されるものの、提案されている条約のほとんどの要素に関して多くの国々の間に広範な合意が存在する、と3月31日に発表した声明で語った。

ICAN
ICAN

会合の締めくくりにあたってICANのベアトリス・フィン事務局長は、「国際法における法的空白を埋め核兵器を禁止することを目指した私たちのキャンペーンにおいて、今週、胸を躍らせるような進展がありました。また、誰も核兵器禁止条約の締結に反対する勢力に気を取られることはありませんでした。条約草案を詳細に検討するのを楽しみにしています。」と語った。

ホワイト議長は、6月15日から7月7日までの交渉最終ラウンド(第2会期)において議論される条約案を5月後半か6月初頭までに議長案として提示するものと見られている。

終了したばかりの第1会期では、核兵器禁止条約の原則と目標ならびに前文に焦点が当てられた。核兵器の保有・開発・実験・使用、さらに、これらの行為に関して他国を支援することの禁止が内容として盛り込まれる予定だ。

4つの主要核保有国であり、国連安保理の常任理事国でもある米国、ロシア・英国・フランスが条約の反対勢力を率いている。他に、イスラエル、オーストラリア、日本、韓国も反対の立場だ。

国連総会が2016年10月に核兵器禁止条約に向けた交渉開始を定める決議を採択した際、残りの核保有国である中国・インド・パキスタンは採択を棄権し、北朝鮮は禁止条約に賛成票を投じた。

驚くべきことに、高見澤将林軍縮会議日本政府代表部大使は、「核兵器国が参加しない形で条約を作ることは、国際社会の亀裂と分断を一層深めるだけの結果に終わるだろう」と発言した。

核による破壊の影響に苦しんだ唯一の国の代表である高見澤大使は「我が国は、引き続き、核廃絶のための具体的かつ効果的な措置の積み上げを追求し、核廃絶を可能にする安全保障環境の整備に努力していきたい。」と発言した。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、提案されている文書が核不拡散条約(NPT)を強化し、核兵器の完全廃絶に世界をより近づけること、核軍縮と「全面的かつ完全な軍縮という我々の究極の目標」に対して重要な貢献を成すことを期待すると表明した。

General Assembly Seventy-first session, 59th plenary meeting Appointment of the Secretary-General of the United Nations.
General Assembly Seventy-first session, 59th plenary meeting Appointment of the Secretary-General of the United Nations.

「人類が直面している生存上の脅威である気候変動という難題に対応すべく民衆が活気づけられたのと同じように、軍縮を支持する民衆の意識を喚起し動機づける新しい道筋を見出さなければなりません。」とグテーレス事務総長は語った。

英国のマシュー・ライクロフト国連大使は、主要な核保有国はその核戦力の規模を縮小し続けており、「この交渉は世界的な核軍縮の効果的な進展につながることはないと考えている。」ことを理由に、核兵器禁止条約交渉会議に参加しないと記者らに語った。

米国も同様に、ボイコットについて強硬な姿勢を示した。ニッキー・ヘイリー国連大使は記者団に「私の家族のために、核兵器なき世界ほど望んでいるものはありません。しかし、私たちは現実的にならねばなりません。」「北朝鮮が核兵器の禁止に合意すると信じる人がいるでしょうか。」と問いかけた。

核時代平和財団」の事業責任者リック・ウェイマン氏はこのヘイリー国連大使の発言について、「大きな役割の反転が起こっています。ヘイリー大使が国連総会会議場の外で抗議活動をする一方で、世界中の市民社会組織が支援する世界の国々の多数が、核兵器を禁止する条約の交渉を開始しようとしているのです。」と語った。

ウェイマン氏はまた、「核時代平和財団は、これからも核兵器禁止条約を交渉する誠実な取り組みを支持し、核兵器を永久に持ち続けようとする核保有国の試みに反対していきます。」と宣言した。

同財団によれば、想定される新条約では、核兵器の使用・保有・開発及びそれらの行為に関して他者を支援することを締約国に法的に禁じ、既存の不拡散・軍縮レジームと協調し、無差別兵器に反対する規範を強化し、軍縮義務を満たす手法を諸国に提供するものになるだろうという。

United Nations Conference in New York to negotiate "a legally binding instrument to prohibit nuclear weapons, leading towards their total elimination". /Soka Gakkai.
United Nations Conference in New York to negotiate “a legally binding instrument to prohibit nuclear weapons, leading towards their total elimination”. /Soka Gakkai.

軍備管理協会は将来を予想して、条約を効果的なものにしようとすれば、それは、(a)核兵器の保有、核共有計画、開発、生産、実験に関連した行為を禁止し、(b)NPTを含め、核兵器関連の特定の活動を禁止あるいは制限した既存の条約と整合性があるものであり、(c)核兵器を現在保有するか、核保有国と同盟を組んでいる国々が、この新たな核兵器禁止条約の完全な加盟国となる前に同条約を支持できるようなものでなくてはならない、と述べた。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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宗教コミュニティーが核兵器禁止を呼びかけ

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「核への抵抗」を象徴する国連会議

宗教コミュニティーが核兵器禁止を呼びかけ

【ニューヨークIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】

宗教コミュニティーは、世界の被爆者の声に耳を傾けるよう呼びかけるとともに、ニューヨークの国連本部で「核兵器の完全廃絶につながるような、法的拘束力のある文書」について交渉する国連会議の必要性を強調してきた。

ICAN
ICAN

国連核兵器禁止条約交渉会議2日目の3月28日に発表された共同声明は、20以上の団体および個人が賛同しており、核兵器の使用・保有・開発・製造・入手・移転と配備の禁止、ならびに、それら禁止行為に関わる、誘導・奨励・投資ならびに支援の禁止を「条約の文言に明確に示す」よう求めている。さらに、その新しい法的取極は、「核兵器の全廃義務を提示するものであり、またその達成のための枠組みを提供するもの」とするよう求めている。

同声明はまた、「この新しく制定される法的取極が、核兵器使用によってもたらされる人道的被害を防ぐことに、その根本の正当性がある」と説明している。

この法的取極めがもつ「明確な正当性」とは、広島・長崎の人々が経験した苦しみを「他の人々や家族、そして社会に再び訪れることがない事」を確実にすることにある。「核兵器の人道的影響が全ての核軍縮に関する努力の中心に据え置かれるべきである。」と、同声明は宣言している。

宗教コミュニティーはさらに、「核軍縮に導く交渉を誠実におこないかつ完結させる義務を果たすよう」、全ての国がこの交渉に参加するよう呼びかけ続ける必要性を強調した。

ニューヨークの国連本部で開催された国連核兵器禁止条約交渉会議の第一会期(3月27日~31日)に120カ国が参加する中、ドナルド・トランプ政権の国連大使であるニッキー・ヘイリー氏は3月27日、国連安全保障理事会で拒否権をもつ英国とフランス、さらに、ロシアの脅威を感じている東欧の多くの同盟国と共に、交渉会議に対する抗議行動を行った。

安保理五大国(P5)の残りの2か国であるロシアと中国は、この抗議行動には参加しなかった。しかし、この両国とも、オーストリア・ブラジル・メキシコ・南アフリカ共和国・スウェーデンが主導して2016年10月に初めて開催が発表された今回の国連核兵器禁止条約交渉会議には参加していない。

「核兵器を憂慮する宗教コミュニティー」と題された共同声明は次のように述べている。「1945年8月に広島と長崎が最初の核攻撃を受けて以来、核兵器がもたらす悲惨な結末は、その廃絶の必要性を示してきました。1945年以降、人類は核兵器による黙示録的な破壊の影のもとで暮らし続けることを余儀なくされています。ひとたび核兵器が使用されれば、人類文明のこれまでの成果が破壊されるだけでなく、現世代は傷つき、将来の世代も悲惨な運命へと追いやられるのです。」

United Nations Conference in New York to negotiate "a legally binding instrument to prohibit nuclear weapons, leading towards their total elimination". /Soka Gakkai.
United Nations Conference in New York to negotiate “a legally binding instrument to prohibit nuclear weapons, leading towards their total elimination”. /Soka Gakkai.

同声明には次の宗教団体が賛同している。世界各地のパックス・クリスティの組織、世界教会協議会、ノルウェーキリスト教協議会、創価学会インタナショナルムスリム平和フェローシップ核軍縮のためのキリスト教者キャンペーンフランシスコ会行動ネットワーク英国のクウェーカー教徒修道女会指導者会議(LCWR)、世界ボシュニャク会議、ユニテリアン・ユニバーサリスト協会メノナイト中央委員会国連事務局、サウンド・ヴィジョン、世界宗教者平和会議

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

「私たちの信仰が掲げる価値観は、安全と尊厳の中で人類が生きる権利を求めています。私たちは、良心と正義の要請があることを信じ、弱き者を守る義務、未来の世代のために地球を守る責任感に誇りを持つべく努力しています。」と共同声明は述べている。

宗教コミュニティーは、核兵器はこうした価値観や約束事を蔑ろにするものであると確信している。国家の安全保障や国家関係の安定、あるいは政治的惰性といったいかなる理由をもってしても、核兵器の存在、ましてやその使用を正当化することはできない。核兵器がもたらす壊滅的な人道上の結末は、それがいかなる状況においても二度と使用されてはならないことを求めている。

宗教コミュニティーは、本来あるべき正常な精神と人類が共有する価値の名のもとに、声を挙げている。また、これまでに発明された史上最悪の兵器を禁止するための協議を歓迎するとともに、おぞましい死の恐怖をもって人類を人質にとる非道を拒絶している。また、この交渉会議を開始する勇気を示した世界の政治指導者らを称賛している。そして、交渉に参加しない国の政治指導者たちが、自国の立場を見直し、少なくとも6月15日~7月7日に開催される交渉会議(第2期)に誠実に参加するよう、強く訴えている。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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国連、改革を約束するも、急激な財源の削減に警戒感

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

ドナルド・トランプ大統領が発表した2018年会計年度(2017年10月-18年9月)予算案については、アントニオ・グテーレス国連事務総長が、国連分担金の削減計画を強く批判する一方、米国国内でもユダヤロビー団体のリーダーが、「外交に対する危険な偏見」を示すものであり、「米国とイスラエル、いずれの国民の利益にもならない」と警告している。

Jeremy Ben-Ami (J Street founder and president), appearing at J Street at Seattle Town Hall/ Joe Mabel, CC BY-SA 4.0

こうした痛烈な批判を展開しているのは「Jストリート」のジェレミー・ベンアミ会長である。Jストリートは、「プロ(=親)イスラエル、プロ・ピース」を掲げ、「イスラエルが安全で、民主的で、すべてのユダヤ人の故郷であることを望むユダヤ系米国人のロビー団体である。

トランプ大統領の2018会計年度の予算案は、外交や対外支援関連の予算を削減する一方で、イスラエルへの軍事支援に31億ドルを充てている。

ベンアミ会長は声明の中で、「この予算案は、もし実行されれば、米国の影響力と安全を損ない、世界中の弱い立場の人々に無数の苦しみを与えることになるだろう。」と指摘したうえで、「世界のリーダーとしての米国の役割とイスラエルに関心をもつすべての人々が、この予算案に厳しく反対すべきだ。」と警告した。

一方、グテーレス事務総長は、テロ対策関連支出を拡大し国防費を540億ドル引き上げるとしているこの予算案に関して、3月16日にステファンドゥジャリク報道官を通じ、「テロに効果的に対処する必要性は認めるものの、それには軍事支出以上のものが必要です。」と懸念を示した。

グテーレス事務総長はさらに、「紛争予防や紛争解決、暴力的過激主義への対抗措置、平和維持活動、平和構築、持続可能で包摂的な開発、人権の向上と尊重、人道的危機への適時の対応を通じて、テロの根本原因に対処する必要もあります。」「国際社会は、強力で効果的な多国間システムによってはじめて対処できるような、大きな世界的難問に直面しています。国連はこれに関して根幹となる柱であり続けている。」と述べている。

グテーレス事務総長はさらに、「米国およびその他の加盟国と、共通の目標と価値を追求するために、より費用対効果が高い組織へと国連を改革する最善の方策について議論する用意がある。」と強調している。

国連が目的にかない、最も効率的で費用対効果がある結果を出すようにするために、グテーレス事務総長は2月14日、自身が昨年に国連事務総長に指名された際に提示していた、国連事務局の平和安全保障分野の戦略、機能、構造の改革を進めるため、内部審査チームを発足させると発表した。

2月14日に国連事務総長室が発表した声明によると、国連で数多くの要職を歴任したタムラート・サミュエル氏がチームを率いる。内部審査チームは、6月までに事務総長に勧告を提出することになっており、国連加盟国や関連機関との協議プロセスが始まることになる。

グテーレス事務総長は、こうした内部審査の成果が出るまでの間、平和・安全保障分野で活動する高官らの任務は来年4月1日まで維持されると述べた。

米国の国連拠出金の規模は、国連の一般予算の22%および、再検討の過程にある16件の平和維持活動関連予算の28%以上にあたる。グテーレス事務総長は、同声明のなかで、「最大の財政支援国として、米国が長年にわたり国連に行ってきた支援に感謝しています。私は、国連が目的にかない、最も効率的で費用対効果がある結果を出せるよう国連改革に取り組んでいきます。」と約束するとともに、「しかし、急激な財政削減が行われた場合、臨時の措置を採らねばならず、それは長期的な改革努力の効果を損なうことになるだろう。」と付け加えた。

General Assembly Seventy-first session, 59th plenary meeting Appointment of the Secretary-General of the United Nations.
General Assembly Seventy-first session, 59th plenary meeting Appointment of the Secretary-General of the United Nations.

ベンアミ会長は、トランプ大統領の2018会計年度の予算案は、外交や対外支援関係を削減する一方で、イスラエルへの軍事支援に31億ドルを充てていると指摘し、この削減は「無責任で危険なもの」と警告した。

「この予算案の青写真は、(トランプ政権の)孤立主義的な世界観と、多国間外交を犠牲にして問題解決のために軍事力に依存する傾向を体現しています。私たちは、すべての政党の議員に対して、死活的な支援分野における強権的な予算削減を拒否すべきだと強く訴えています。」とベンアミ会長は語った。

長年にわたって、Jストリートを含む多くの親イスラエル団体が、米国の対外援助予算が全体として削減される中でも、対イスラエル支援だけは例外として扱うよう論じてきた。しかしベンアミ会長は3月16日に発表した声明の中で、「私たちはあらゆる政治組織における親イスラエル派に対して、米国の対イスラエル支援という従来の枠を超えて、対外支援全般を再び活発にするために共闘していくよう呼びかけています。」と述べている。

ベンアミ会長はその理由として、「すでに他の先進国よりも対GDP比で下回っている米国の対外支援をさらに弱めることは、イスラエルの安全保障も同様に損なうことになる」と論じている。

予算案は、国務省や国際開発事業関連の予算を28%という壊滅的な幅で削減し、国連や人道支援、文化交換プログラムについても大胆に削減している。

「これによって、すべての米国民・イスラエル国民に影響を与える戦略的重要性を持つ問題に関しても、同盟国や国際社会と協調して活動する米国の能力に深刻な影響が出てくるだろう。もっとも基本的な『人間対人間』というレベルにおいて、世界と米国との絆は失われることになる。」とベンアミ会長は警告している。

ベンアミ会長はさらに、「近年の諸事例から明らかなように、外交には、軍事行動にかかる費用のほんの一部だけで、付随する人的被害を伴わずに、米国に対して国家安全保障上の大きな見返りをもたらす能力があります。」「わが国は依然として、ジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)が2003年に行った不必要かつ壊滅的なイラク侵攻のつけを支払わされています。一方、イランとの多国間合意でその核開発の牙を抜いたバラク・オバマ大統領の決断からは、この先長年にわたり利益が得られることだろう。」と述べている。

ベンアミ会長は、元統合参謀本部議長のマイク・マレン提督の次の言葉を引用している。「外交は、全体的に調整された戦略の一部として、米軍の関係する現実の軍事紛争の可能性を減ずることによって、コスト削減に寄与するというのが私の固い信念です。[外交にかかる予算の]削減幅が大きくなれば、軍事作戦により時間がかかり、もっと多くの人命がリスクにさらされることになる。」(原文へ

INPS Japan

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核軍縮・トランプ政権・北欧諸国

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【レイキャビクIDN=ロワナ・ヴィール】

核軍縮への寄与という点でドナルド・トランプ政権は何をすべきと考えているかを尋ねられたスウェーデンのボッセ・ヘドベルク駐アイスランド大使は、「この問題に関する米新政権の見解に対して、現時点では北欧諸国共通の立場はないものと理解しています。メディアからの情報をみるかぎり、新大統領は、米国の核兵器を削減するよりも、核能力強化のための投資を進めようとしているようです。」と答えた。

スウェーデンは、3月21日・22日にジュネーブで開催された軍縮会議に出席した北欧で唯一の国である。フィンランドとノルウェーはジュネーブ軍縮会議の構成国ではあるが、会議には参加しなかった。

ICAN

3月27日、ニューヨークの国連本部では、核兵器を禁止しその廃絶を究極の目的とした条約を交渉する歴史的協議が開始される。これは、国連総会第一委員会におけるこれまでの交渉の成果である。例えば昨年10月27日の会合では、核軍縮に関する多くの決議が採択されている

北欧諸国の中では、中立国のスウェーデンだけが、世界全体で核兵器の究極的廃絶を呼びかける主要な決議案であるL.41「多国間核軍縮交渉の前進」(オーストリアやメキシコなど43カ国が共同提案)に賛成した。

ジュネーブ軍縮会議で発言したスウェーデンのマルゴット・ヴァルストローム外相(上部の写真の人物)は、核不拡散条約(NPT)の新たな再検討サイクルが5月に開始されると指摘した。

「この条約は、まちがいなく核軍縮及び核不拡散の要です。しかし、今日までそのポテンシャルが完全に発揮されているとは言いがたい。核軍縮の公約の履行には重大な欠陥があり、その責任の大半は核保有国にあります。自らの核戦力を解体するとの約束を核保有国が無視し続けることはできません。ロシアと米国は、核兵器削減の再開をリードすべき立場にあるのです。」とヴァルドストローム外相は語った。

「NPT運用検討会議に関連して核兵器国がなすべき重要な措置は、例えば、法的拘束力のある消極的安全保証、核搭載可能な巡航ミサイルの禁止、戦術核兵器に関する協議など、他にもたくさんあります。そして、恐らくより重要なのは、警戒態勢の解除等のリスク軽減措置です。」とヴァルドストローム外相は付け加えた。

「核兵器国に対して、不安定化をもたらしかねない警告即発射態勢を放棄するよう強く求めています。偶発的な核兵器の使用を避けるために作戦上の即応態勢を緩和することは、あらゆる人々の利益となります。」とヴァルストローム外相は語った。

フィンランド外務省軍備管理・軍縮・核不拡散室のピア・ノルドベルク参与は、「北欧諸国は、核軍縮も含めて軍備管理や軍縮の問題について定期的に協議を行っています。例えば、国連第一委員会で共同声明を発しています。私たちは核兵器なき世界という共通の目標を有しています。フィンランドにとって、NPTは国際安全保障と核軍縮における要なのです。」と語った。

Flags of the Nordic countries - from left: Finland, Iceland, Norway, Sweden and Denmark. Taken outside Bella Center, Copenhagen. /Hansjorn, CC BY-SA 3.0
Flags of the Nordic countries – from left: Finland, Iceland, Norway, Sweden and Denmark. Taken outside Bella Center, Copenhagen. /Hansjorn, CC BY-SA 3.0

ノルドベルク氏は、「フィンランド政府はまた、具体的な核軍縮を推進するうえで核保有国が果たす役割を強調しています。」と指摘するとともに、「そうした好例には、ロシア連邦と米国が締結した新戦略兵器削減条約(新START条約)があります。我が国は米ロ両国に対して、条約の履行を継続し、さらに削減を推進するよう強く促しています。」と語った。

「米国に関して言えば、我が国との良好で建設的な対話と実際的な協力が継続することが重要です。私たちは、既存の軍備管理・軍縮の枠組みと合意を尊重・履行し、さらなる協力に向けた信頼を構築していく必要があります。新たな軍拡競争を望んでいる国などありません。NPTを正しく機能させるようにすることが最も重要です。核軍縮におけるほんの小さなステップでも、世界的な安全保障を高めることができるのです。」とノルドベルク氏は語った。

ノルウェーはまだこの問題に対処していない。ボルゲ・ブレンデ外相の政治参与であるボール・ルドヴィ・トルハイム氏は、「私の知る限り、ノルウェー議会ではトランプ政権の核政策についてはまだ討議していません。これはおそらく、今後どうなるかについて判断するには時期尚早だからでしょう。」と語った。

デンマークの状況も似たようなものだ。「トランプ政権の核軍縮に対する態度についてデンマーク議会が討議したとは聞いていません。防衛委員会は、外相と国防相を呼んでトランプ政権の拷問と水責めに関する見解について審議を行ったが、核軍縮については審議していません。」とジェスパー・ティングハース防衛委員会委員長は語った。

アイスランドでは、トランプ政権発足直前の1月に政権が交代した。外務省高官のウルダール・ギュナールスドティール氏によれば「この問題はまだ議論されていない」という。

左派緑の党運動の所属で外務委員会委員でもあるシュタイナン・トーラ・アルナドッティル議員は1月、「アイスランドは核兵器禁止に関する国連協議に参加するのか」とのグドゥロイグル・トール・トールダルソン外相に対する質問の形で、この問題を取り上げようとしている。「北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国が協議への不参加を望んでいるのは承知しています。しかし外相はこの問題にまだ答えていません。」とアルナドティール議員は絶望した口調で語った。

ウフェ・エルマン-ジェンセン氏はデンマークの元外相で、今でも社会問題について活発な発言を続けている。ジェンセン氏は「これはあくまでも個人的な考え」と断ったうえで、「トランプ氏が核抑止を条件付きのものにしたことを懸念しています。というのも、核抑止はそれが無条件であるからこそ有効だからです。同時にトランプ氏は、一部の非核保有国が自らの核抑止力を開発すべきだと示唆しています。トランプ氏ができる最善のことは、NATOを通じて米国が欧州に与えている安全の保証は完全に無条件のものであるということに対する疑念を完全に払拭することに最大限努めるとともに、核兵器を制限する諸条約を順守する姿勢を示すことです。」と語った。

トランプ大統領は、2月にロイター通信が行ったインタビューの中で、「私は核のない世界を誰よりも見たいと思っている人間だ。しかし、それが友好国であっても、他国に劣るつもりは決してない。核兵器をどこの国も持たなければ素晴らしいし、それが理想だ。だが各国が核兵器を持とうとするなら、われわれはその頂点に立つ。」と語った。

3月16日に発表された予算案でトランプ大統領は、核兵器関連予算を11%、国防予算全体を8%増加させる一方で、環境問題や外交関係の予算は削減される見込みだ。また、核軍縮関連事業は廃棄される見込みである。

しかし、アイスランド人でビフロスト大学のマグナス・スヴェイン・ヘルガソン非常勤講師(経済史、米国政治)は、予算はおそらく承認されないだろうと見ている。「トランプ大統領の言葉と行動にはズレがあります。決定するのはトランプ大統領ではなく、議会なのです。」とヘルガソン氏は語った。

レックス・ティラーソン国務長官ジェイムズ・マティス国防長官が核軍縮に関連した決定に関与しうる立場である。ティラーソン氏は上院の指名公聴会において核不拡散の重要性に触れ、マティス氏は上院軍事委員会で「核備蓄に注意を払い、根本的な疑問が問われ、答えられねばならない」と述べている。

しかし、ヘルガソン氏はそうした見方を取らず、「ティラーソン氏はおそらく近代米国史上最も弱い国務長官です。ティラーソン氏やマティス氏の言うことに注目しても仕方ありません。それよりも、スティーブン・バノン主席戦略官・大統領上級顧問に着目すべきです。バノン氏こそが、トランプ大統領のブレーンです。」と語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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ジャルガルサイハン・エンクサイハン博士は、NGO「ブルーバナー(青旗)」事務局長で、モンゴルの元国際原子力機関(IAEA)大使・元国連大使(駐ニューヨーク)。この寄稿文は、「核兵器を禁止し、完全廃絶につながるような法的拘束力のある措置(=核兵器禁止条約)」について交渉する国連総会の2回の会期(3月27日~31日、6月15日~7月7日)に先駆けて寄せられたものである。

【ウランバートル(モンゴル)IDN-INPS=J・エンクサイハン博士】

非核兵器保有国には、核兵器保有国に対してその核政策の変更を迫る根拠がないという考えもある。しかし、近年3次にわたって開かれた「核兵器の人道的影響に関する国際会議」(非人道性会議)(2013年のオスロ会議、2014年のナヤリット会議、2015年のウィーン会議)が改めて明確に示したように、意図的なものか否かにかかわらず、核兵器の爆発が起これば、壊滅的な帰結を引きおこし、気候、遺伝子その他広範な分野にわたって破壊的な影響をもたらすことになる。

もちろん、このような事態は、さらなる連鎖反応を引きおこすことになる。従って、グローバルな核軍縮は、核兵器保有国とその同盟国だけの排他的な領域ではあり得ない。さらに、核不拡散条約(NPT)第6条は、「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、誠実に交渉を行うこと」を全ての加盟国に義務づけている。非核兵器地帯の創設は、核不拡散対策を促進し、さらなる信頼醸成に資する具体的な地域的措置のひとつである。

冷戦終結以来、核兵器は世界全体で約1万5000発にまで削減されたが、一方で核兵器を保有する国の数は増加している。また、運搬手段の精度向上と破壊力の制御(「爆発力調整」技術の導入)を目指す核兵器の近代化競争により、核兵器はより「使用可能」なものとなっており、核抑止ドクトリンは、さらにいっそう危険なものとなっている。

ICAN
ICAN

非核兵器保有国と国際NGOが核兵器を禁止・廃絶する国際交渉を速やかに開始することを目指したキャンペーンを立ち上げた背景には、このように核軍縮における具体的な進展が見られない現状がある。このことは、近年に採択された国連総会決議「多国間核軍縮交渉を前進させる」にも反映されている。

モンゴルの場合

他国の場合と同じく、モンゴルの政策もその地理的位置と関連しており、特定の時代における主要な出来事の縮図といえよう。多くの場合、モンゴルの政策は、隣国であるロシアや中国において、或いは中露間、その他の大国との関係において起きる出来事の反映であったり、それらに対する反応であったりする。

核リスクの観点から言えば、モンゴルの地理的、地政学的位置はあまり好ましいものではない。しかし、だからと言ってモンゴルが「地理の囚人(Prisoner of Geography)」理論に必然的に当てはまるとか、環境決定論に従う運命にあるという訳ではない。それどころか、モンゴルはむしろ、この地理的な位置関係ゆえに、他国から悪影響を被ったり、あるいは他国に悪影響を及ぼすために利用されたりすることのないように、常により創造的であることを余儀なくされてきた。

Map of Mongolia
Map of Mongolia

こうしてモンゴルは、自国に対する想定外のリスクを減らすために、出来事に可能な限り影響を及ぼそうとしてきた。はたして、核時代の脅威に座して翻弄されるか、或いは、国益の増進を図り、過去の歴史を踏まえで自国の未来を築くべく幾分積極的な役割を果たそうとするか、2つの選択肢のなかから、モンゴルは後者を選択したのである。

リスクに満ちた遠くない過去を振り返る

冷戦期のモンゴルはソ連の衛星国であり、親ソ連の諸政策に密接に従っていた。これにより、概して核実験に反対の立場をとっていたモンゴルは、あらゆる核実験を非難したにもかかわらず、自国の領土からさほど遠くない所で行われていたソ連の核実験については例外とみなしていた。当時、ソ連の核実験を非難するのは政治的に正しくないとみられていた。と言うのも、ソ連の核兵器は米国や北大西洋条約機構(NATO)、中国の戦力との均衡を保つためのものであり、「世界平和と安定を保証するもの」と考えていたからである。

1960年代の中ソ対立期、モンゴルはそれに不本意ながら巻き込まれた。ということは、中ソの軍事的対立に暗に巻き込まれたということである。中国が核兵器を開発し中ソ対立が1969年に国境をめぐる武力衝突に発展した際、ソ連は一時期、成長期にある中国の核兵器施設に対する先制攻撃の可能性を検討し、あるいは、少なくとも検討しているかのように振る舞い、その考えをワルシャワ条約機構の同盟国に伝えた。ソ連はまた米国にも接近して、その反応を探った。

先制攻撃が行われていれば、国際関係、とりわけモンゴルに対して間違いなく破滅的な影響をもたらしたであろう。というのも、中国側は、ソ連軍基地がモンゴルにあることと、二重用途の兵器がそこに配備されていることについて十分認識し、対抗措置を採る計画を確実に持っていたからだ。当時におけるモンゴルの役割は、ソ連軍とその軍事活動を支援する「手駒」としての役割であった。米国の兵器もまた、モンゴル国内のソ連軍基地に向けられていた。

Disputed sections of the border between China and Russia before final border agreement of 2004/ Public Domain
Disputed sections of the border between China and Russia before final border agreement of 2004/ Public Domain

事態を座して黙認することはないという、ソ連に対する米国の反応が、大惨事の危険性を回避するうえでおそらく決定的な要素となった。もし当時中ソ間で核戦争が勃発していたら、1962年のキューバミサイル危機は20世紀の歴史書では単に脚注で触れられる程度の事件とされていただろう。これは、軍事的に敵対している核保有国の片方に盲目的に追従してはならないという重要な教訓をモンゴルに与えることになった。

新たな安全保障環境

1990年初めの冷戦終結、中ソ関係の正常化、モンゴルからのロシア軍基地・部隊の撤退は、モンゴルをとりまく安全保障環境を大きく変えた。モンゴルはもはや、特定の核兵器国(=ソ連)のジュニア・パートナーではなくなったのだ。

さらに、2つの隣国(=中ソ両国)は、隣接する第三国の領土や空域を互いに敵対するために利用しないことを約束した。これを受けてモンゴルは、隣国との均衡を保った関係を追求し、モンゴルの死活的な利益に直接の影響を及ぼさない中露二国間の紛争においては中立を保つと宣言した。

立場を明確にしたモンゴル

モンゴルは1992年9月、冷戦期の教訓を胸に、一国非核兵器地帯(SS-NWFZ)の地位を宣言し、その地位を国際的に保証させるように努力をすると誓った。モンゴル国内に核兵器を保有せず、近くの国でも遠くの国でもモンゴル領土内に核兵器を配備することを認めないという内容である。実際にこのことは、核兵器の脅威がモンゴルの領土(英国・フランス・ドイツ・イタリアの領土の面積の合計に等しい)からは発しないということを意味する。こうしてモンゴルは、信頼性、予測可能性、安定性の向上という共通の利害に積極的に貢献することを意図したのである。

目標を達成する道の選択

核兵器の拡散防止は最も緊急の対応を要する国際問題のひとつであり、共同の取り組みと、核兵器国の参加によってのみ達成できるものだ。モンゴルの場合だと、国際関係において新奇な「一国非核兵器地帯」という地位を受け入れるのに核保有五大国(P5)(国連安保理の常任理事国である米・露・中・英・仏)としてはややためらいがあったものの、その地政学的な位置故に、初めて非核兵器地帯化を決めたのである。五大国は、これが他の小規模国・島嶼国にとっての良き前例となり、自国領土を一国非核兵器地帯と宣言して核保有五大国(P5)から安全の保証を求めるようになるのではないかと考えたのである。

この目的を達成し共通の取り組みに貢献するために、モンゴルは、「関与」、「対話」、「戦略的忍耐」、そして「妥協を追求する」道を選択した。五大国や他の国連加盟国とこの精神を持って協力することで、モンゴルは1998年、国連総会に「モンゴルの国際安全保障と非核兵器地位」と題する決議を採択させることに成功した。この国連総会決議は、モンゴルの政策を、同地域の安定性と予測可能性に貢献するものとして歓迎し、この問題を自らの議題として取り込んだのである。

モンゴルでは2000年2月、国家大フラル(国会にあたる)が、一国レベルで非核地位を定義する立法を行い、その地位を犯すような行為を犯罪化した。また、いかなる方法によっても核兵器を領土に配備したり領土を通過させたりすることを公式に違法化した。同法はまた、この問題の社会的重要性に鑑み、法の範囲内において、履行状況を公的に監視し、関連の国家機関に示唆や提案を与える権利を、NGOや、さらに個人にまでも付与している。

モンゴルの非核兵器地位を促進する目的で2005年に設立されたNGO「ブルーバナー(青旗)」は、同法の履行に関してモンゴル当局が検討を開始する契機を3度にわたって提供するともに、必要なフォローアップ措置に関して政府に勧告を提出している。

Blue Banner
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この問題に関して共通の基盤と合意を見出すために、二国間、三国間、および五大国+モンゴル間で、数多くの協議が持たれている。これらの会合の結果として、モンゴルは、五大国がモンゴルの地位を尊重し、その違反につながるようないかなる行動をも慎むとの条件のもとに、その独自の地位を定義する法的拘束力のある条約の制定を主張しないことに合意した。2012年9月、五大国とモンゴルは、合意した諒解に関してそれぞれの宣言に署名し、対話を通じて、政治的・外交的方法によって関連するすべての当事者の利益を追求することの意義を強調した。

実践的な意味合いでは、五大国の共同宣言はモンゴルが安定性と予測可能性の地域になったことを意味する。というのも、地域的な防衛体制、あるいは、対抗的な防衛体制を含め、五大国のいずれもモンゴルを将来の核の対立に巻き込むことがないからである。その意味において、五大国共同宣言はモンゴルの国益に資するだけではなく、時間と空間が重要な戦略的軍事資産になっている時代においては、地域の安定と予測可能性の利益に資するものとなっている。共同宣言を通じて、五大国とモンゴルはお互いに、モンゴルとその広大な領土を対抗するために利用することがないと約束したのである。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

現在モンゴルは、その一国非核地帯地位を東アジア地域の安全保障や安定とつなげる適切な措置の策定について検討している。モンゴルの諺にあるように、アヒルは湖が穏やかな間は静かにしているものだ。こうすれば国家は、防衛予算を削減して(国家予算の1%以下)持続可能な開発目標(SDGs)にあるように、国の開発問題に対処し、人間開発を促進し、社会のあらゆる人々のための人間の安全保障を高める機会を手に入れることができるのである。

地域レベルでは、NGO「ブルーバナー」が、方向性を同じくする北東アジアのNGOやシンクタンクと協力して、もちろん地域特有のニーズや課題を考慮に入れつつ、地域の非核兵器地帯化の構想を促進し、その基本的な要素を検討している。(原文へ

翻訳=INPS Japan

ジャルガルサイハン・エンクサイハン博士は、モンゴルを国内外で代表する政府の一員として印象的な経歴の持ち主である。2013~14年、多国間問題担当大使。モンゴルで2013年に開かれた「民主主義国共同体」の閣僚会合に向けた組織委員会の顧問。2008~12年、モンゴルの駐オーストリア大使、国際原子力機関(IAEA)大使。1996~2003年、モンゴルの国連大使(駐ニューヨーク)。1978~1986年、外交官として国連代表部に勤務。

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【ローマIDN=フィル・ハリス】

世界中の市民社会の活動家らが、新たに国連事務総長に就任したアントニオ・グテーレス氏に対して、「市民社会の擁護者となり、国連をより包摂的な組織にするための具体的な措置を取るよう」要求している。

国連事務総長職を選ぶプロセスを改革するよう国連に呼びかけてきた「70億人のための1人」キャンペーン創始者のうち4人が、『市民社会の国連への関与を強化する』と題された最新の報告書の中で、これがいかにして可能であるかについて、世界各地の市民社会組織から集めた幅広い提案を紹介している。

英国国連協会(UNA-UK)、フリードリッヒ・エーベルト財団(FES)ニューヨーク支部、シヴィカス(CIVICUS)、アヴァーズ(Avaas)の4つの団体は、国連が、諸政府間だけではなく、地域のリーダーや市民団体、活動家を巻き込んで多元主義を強化する方法について、実践的な勧告を提示している。

報告書はまえがきで「世界の70億人が国連のもっとも重要な利害関係者であり、受益者でありつづけている。国連の実績は彼らの目を通して測られるべきだ。」と強調している。

また、世界的に不確実な時代にあって、人々は組織や政治的リーダーシップへの信頼を失いつつあり、他方で国家主義的な傾向が国際システムへの深刻な脅威になっていると警告した。

報告書は、国連難民高等弁務官やポルトガル首相を歴任してきたグテーレス氏が、国連事務総長に任命される前に「市民社会との対話と協力が今後数年の国連活動の中心的な側面になるだろう」と約束していたことを想起した。

若者活動家やNGOの代表、専門家など、この報告書の執筆者は、このグテーレス氏の約束をとりあげ、青少年問題や持続可能な開発目標(SDGs)、ジェンダー、平和構築などに関する幅広い共通の利益に関して、市民社会と広範な関係を構築していくよう求めた。

アフリカのフェミニスト活動家で、CIVICUS理事、「アフリカ若者運動」の初代議長でもあるアヤ・チェビ氏は、「国連は民衆に対して最終的に責任を取るべき機関です。国連が永続して任務を果たせるかどうかは、主に193の加盟国の市民に奉仕し積極的に関与できる能力にかかっています。」と語った。

チェビ氏は、「国連は、これまでの市民社会との関わりでは、必ずしも現場レベルの現実を反映しているとは限らない大規模で資金力の豊かな団体の意見を聞く傾向にあり、もっとも支援を必要とする市民の声は届いていなかった」と指摘したうえで、「SDGsに向けた国連の新アジェンダは、世界の『北』と『南』における市民社会の間の権力関係のバランスを変える機会を提供しています。」と語った。

SDGs for All Logo
SDGs for All Logo

青少年問題に関しては、気候変動に関する青年活動家で、気候変動キャンペーン「将来は私たちのものだ(The Future is Ours)」の共同署名者でもあるカジ・アテーア氏は、「将来に最大の利害関係を持っている」若い世代が、将来における気候変動に関する交渉に代表として派遣されるべきだと主張している。

アテーア氏は、「権力者はお互いの意見にばかり関心を持っています。しかも私たちの代表として現在決定を下す立場にある人々は現場で結果を確認しようとしません。」と指摘したうえで、「私たちはミレニアル世代として、私たちが向かう方向性を導き変化をもたらす必要があります。起こるべきことについて発言すべきなのは私たちなのです。今こそそのときであり、将来は私たちのものなのです。」と語った。

地域開発コンサルタント「2乗のインパクト(Impact Squared)」の創設者・CEOであるノア・ガフニ・スレイニー氏は、国連の野心的な持続可能な開発アジェンダの達成にミレニアル世代を関与させるよう呼びかけた。

2015 United Nations Climate Change Conference/ COP21
2015 United Nations Climate Change Conference/ COP21

スレイニー氏は、世界を変えたいと思っているのはミレニアル世代だけではないことを認識しつつも、「国連がSDGsやパリ協定のような野心的な国連の取り組みを追求するうえで、この影響力がある世代の能力に関与し活かしていこうとするならば、この世代が以前の世代とはどれほど異なるかを認識することがきわめて重要です。」と語った。

SDGsの問題には、「ステークホールダーフォーラム」の代表で「持続可能な開発に向けた英国のステークホールダーたち」(UKSSD)の共同議長でもあるファルーク・ウラー氏も触れた。ウラー氏は、「これらの目標達成には公共政策だけでは不十分で、地域レベルの行動とつなげる必要がある。」と論じた。

ウラー氏は、「国連の役割のひとつは、SDGsを履行していくうえで、市民社会を巻き込んだより強力でより公式なメカニズム…さらには、市民社会を含む定期的で透明性が確保された包摂的な報告メカニズムを立ち上げ資金提供することを奨励することにあります。」と語った。

もう一人の報告書執筆者は、女性・女児のための公正な世界の実現に向けて活動している国際女性人権団体「イクオリティ・ナウ(Equality Now)」のプログラム・オフィサーであるメリーナ・リト氏である。「イクオリティ・ナウ」は、女性国連事務総長の実現に向けてこの20年間活動を続けてきており、国連で働く女性の割合が少ない点を問題視している。

リト氏は、「最近の国連事務総長選で女性が指名されなかったのは遺憾」という「イクオリティ・ナウ」の見解を述べたうえで、グテーレス新事務総長に対しては、「国連職員間のジェンダー平等の確保や、世界中の女性・女児に対する暴力・差別の予防を優先化する取り組みを通じて、フェミニズムの課題に対する揺るぎない支援者になる」ことを求めた。

General Assembly Seventy-first session, 59th plenary meeting Appointment of the Secretary-General of the United Nations.
General Assembly Seventy-first session, 59th plenary meeting Appointment of the Secretary-General of the United Nations.

リト氏によると、ジェンダー問題に取り組んでいる市民社会の声を最高レベルの政策フォーラムにおいて取り入れることを通じて、女性の権利の問題について国連がリーダーシップを取る緊急の必要性がある。

「女性の権利への政治的風当たりがますます強まる時代にあって、女性の市民社会の声を支持することには、国連が加盟国に対してリーダーシップを示し、持続可能な開発目標や既存の国連の人権枠組みの中でこれらの問題に対する解決姿勢を見せることも含まれます。」とリト氏は語った。

他方、国際社会で平和構築能力の強化がますます求められる中、クウェーカー国連事務所(QUNO)の国連代表であるレイチェル・メイデニーカ氏は、国連平和構築委員会は市民社会とより体系的に関わることで恩恵を受けるだろうと論じた。

「平和構築委員会が新たな『持続可能な平和』アジェンダの実行に向けて次のステップを取ろうとするのならば、市民社会との関与をより強化し組織化すべきなのは明らかです。」とメイデニーカ氏は語った。

Maina Kiai, UN Special Rapporteur on the rights to freedom of peaceful assembly and of association/Guyinnairobi photos - Own work, CC BY-SA 4.0
Maina Kiai, UN Special Rapporteur on the rights to freedom of peaceful assembly and of association/Guyinnairobi photos – Own work, CC BY-SA 4.0

UNA-UKのキャンペーン責任者を務め、「70億人のための1人」の共同創始者でもあるベン・ドナルドソン氏は、国連システムやその外部にわたって市民社会を支援すべきとの報告書の呼びかけをまとめて、「国連は『市民社会との対話と協力』というグテーレス事務総長のビジョンを実現するために市民社会の空間を守るように協調的な支援を行わねばなりません。」と語った。

ドナルドソン氏は、国連特別報告官のマイナ・キアイ氏の言葉を引いている。キアイ特別報告官は2016年に「私たちはこの10年間、抑圧的な法律や慣行が前例のない規模で世界中に広がるのを目の当たりにしてきた。これらはすべて、民衆が組織化し、発言し、民主的な権利や義務に関わるのを阻止するために企図されたものだ。」と記している

ドナルドソン氏によれば、「市民社会スペース(市民社会が活動できる領域)は『急速に萎んで』おり、国連は『市民社会スペースを守り、再開を支援し、スペースを拡大する取り組みの先頭に立つために、可能な限りの手を尽くさなければならない。』」(原文へ

翻訳=INPS Japan

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核兵器禁止条約交渉に暗雲立ち込める

【ワシントンDC・IDN=ロドニー・レイノルズ】

193カ国で構成される国連総会が2つの重要な会期(3月、6月~7月の計20日間)からなる会議を開催する。それは、世界的な核兵器の廃絶に向けた、一か八かの賭けとなることだろう。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)軍縮・軍備管理・不拡散プログラムの責任者タリク・ラウフ氏は、「2017年が、核兵器が禁止される年になるのか、それとも、それを実現しようとする動きがある種の『フェイクニュース』とされてしまうのかは、まだわからない。」と、やや懐疑的だ。

来たる総会会期に垂れ込めている暗雲は、ドナルド・トランプ米大統領の存在である。トランプ大統領の指は危険にも7000発以上の核兵器の引き金にかけられており、核軍縮に関する彼の見解は、拡散から既存の核戦力の強化に至るまで、常に一貫性を欠いている。

Tariq Rauf
Tariq Rauf

3月27日~31日と6月15日~7月7日(この間に15日間)に予定されている2回の会期の目的は、「核兵器を禁止し、完全廃絶につながるような法的拘束力のある措置(=核兵器禁止条約)」について交渉することである。

しかし、これはどの程度現実的で、実現可能なのだろうか? とりわけ、米国・英国・フランス・ロシアなど主要な核保有国からは強い反発を引き起こすことが予想されている。これらの国々は、会議を脱線させ、非核兵器国の間に混乱を引きおこそうとして、背後で動き回っているとされる。

ラウフ氏は、IDNの取材に対して、「あらゆる兆候から言えることは、参加予定の非核兵器国の間の根深い見解の対立を背景に、交渉は困難なものになるだろう。」と語った。

「会議に参加するかもしれない北大西洋条約機構(NATO)と[核保有国と]同盟関係にある非核保有国は、核保有国に成り代わって会議を妨害し議論を複雑にすることでしょう。」とライフ氏は警告した。

「また、核兵器を禁止する条約を確立する素早い規範定立を望む非核保有国と、検証に関する条項を含めたより詳細な条約を望む非核保有国との間にも、別の分断線が引かれているかもしれません。」とラウフ氏は指摘した。ラウフ氏はかつて、国際原子力機関(IAEA)で核の検証・安全保障政策調整部門のトップを務めた経験がある。

ラウフ氏は、「(きたる会議では)市民社会の参加が核兵器に関する多国間条約交渉において初めて顕著な特徴となる可能性がありますが、一方で一部の国々が、市民社会の影響力行使や関与を抑えつけようとする兆候を見せています。」と語った。

核政策法律家委員会(LCNP)のジョン・バローズ代表は、IDNの取材に対して、「国連本部で2月16日に開催され、100カ国以上が参加した準備会合から判断すると、『核兵器を禁止し、完全廃絶につながるような条約』、すなわち核兵器禁止条約の交渉に向けてかなりの推進力が生まれています。」と語った。

バローズ氏はまた、「このプロセスは、核軍縮を誠実に交渉するという核不拡散条約(NPT)上の義務と、国連総会が最初に採択した決議に従って核軍縮に関して迅速かつ力強く前進することを核保有国が拒否していることに、ほとんどの非核保有国からの不満が高まる中から生まれてきたものです。」と指摘するとともに、「ここ数年の間、米国、英国、フランス、ロシア、その他すべての核兵器国が、このプロセスに反対を表明してきました。これらの国々と、米国と軍事同盟を組むほとんどの国々は[核禁止条約交渉会議には]参加しないでしょう。」と語った。

「しかし、興味深いことに、中国とインドはいずれも準備会合に参加し、明らかに本交渉にも参加しそうです。両国が最初から核兵器禁条約に参加することはなさそうだが、核軍縮の多国間交渉にコミットしているという姿勢を見せたいのでしょう。」

国際反核法律家協会(IALANA)国連事務所の所長でもあるバローズ氏は、「オランダもまた準備会合に参加しており、報道によると、準備会合には参加しなかった日本も本交渉に参加するかどうか検討中です。」と語った。

ラウフ氏はIDNの取材に対して、「非核保有国の大多数によるこの動きは、核保有国との間だけではなく、非核保有国の内部でも顕著な差異を明るみに出すことになりました。」と語った。

NATOや米国の太平洋地域における同盟国などの核に依存する同盟国、それに加えてロシアは、核兵器を禁止する多国間条約のいかなる交渉にも強く反対する一方、「ステップ・バイ・ステップ」や「段階的」アプローチなどの言葉を、何の定義もなく、時限も設定せずに使うことで、「核兵器なき世界」の達成という目標に一応のリップサービスをした形にはなっている。

3次にわたって開かれた「核兵器の人道的影響に関する国際会議」(非人道性会議)(2013年のオスロ、2014年のナヤリット、2015年のウィーン)は、核兵器の存在によって人類にもたらされている脅威と、核爆発による壊滅的な人間への影響に対する深い懸念に世界的な関心を呼び寄せることになった。

非核保有国の多数は、こうしたリスクに鑑みて、核兵器なき世界の達成に向けたすべての国家による緊急行動の必要性を強調し、核軍縮に向けた今日までの進展はきわめて緩慢なものであると指摘してきた。

「これらの国々はまた、NPTは核兵器国に軍縮の義務を課しているが、条約の約50年の歴史の中でこの義務は果たされておらず、これから果たされる兆しもないことを強調しました。」とラウフ氏は語った。

これらの国々はまた、核兵器の禁止・廃絶に関しては法的な欠落が存在すると指摘してきた。なぜなら、核軍縮に関しては、生物兵器禁止条約化学兵器禁止条約のような条約が存在しないからだ。両条約は、生物兵器と化学兵器をそれぞれ禁止し、その完全廃棄を義務づけている。

これに従って、これらの国々は、核兵器なき世界の追求に向けて4つの別々のアプローチを提唱している。すなわち、包括的な核兵器禁止条約、禁止先行型の核兵器禁止条約、枠組み協定型、「ビルディング・ブロック(ブロック積み上げ方式)」を基礎とした漸進的なアプローチの4つである。

他方で、一部のNATO諸国は、そうした法的欠落は存在せず、NPTが核軍縮追求のための本質的な基盤を提供していると反論している。

Photo: Wide view of the General Assembly Hall. UN Photo/Manuel Elias
Photo: Wide view of the General Assembly Hall. UN Photo/Manuel Elias

これらの国々は、「国際的な安全保障環境、現在の地政学的な状況、既存の安全保障ドクトリンにおける核兵器の役割が、核軍縮の効果的措置の追求にあたって考慮に入れられねばならない。」と指摘したうえで、「その点で、核兵器禁止条約は、国家安全保障に資するものではない。」と論じている。

これらの国々はまた、核兵器禁止条約は、NPTの履行に関して混乱を生み出し、NPTの核軍縮義務の達成を難しくする、と主張している。

「実際は、核兵器禁止条約はNPTに影響を与えることはないだろう。」とラウフ氏は見ている。NPTの加盟国はいずれにせよNPTに制約され、その完全履行の義務を負っているからだ。

核兵器禁止条約は、NPTを超えて、核兵器の保有やその配備(例えば、NATOの下で米国の核を配備しているベルギー・イタリア・オランダ・トルコや、かつての日本や韓国等、外国への配備も含む。)までも禁止するものだ。

「大気圏、宇宙空間、水中での核実験を禁じた1963年の部分的核実験禁止条約が、あらゆる核爆発実験を禁じた1996年の包括的核実験禁止条約と矛盾しないのと同様に、1968年のNPTも核兵器禁止条約と矛盾することはありません。」とラウフ氏は語った。

バローズ氏は、「現在想定されている核兵器禁止条約は、核兵器の保有および使用を禁止するが、検証を伴った核兵器の解体や「核兵器なき世界」のガバナンスに関する詳細な条項を含んだものにならないだろう。」と語った。。

背後にある考え方は、核保有国の参加なしに、そうした国々に直接関係ある問題を交渉しても意味はなく、核保有国の専門能力や見解、コミットメントが、問題を満足いく形で解決するには必要だ、というものだ。

「このアプローチにおける禁止条約は、核兵器の不使用に関する既存の規範を強化し、戦時の行動を規定している国際人道法と核兵器使用を両立不可能にするように法定化するものとなる。また、NPTと各地域の非核兵器地帯の下での核兵器の取得禁止に関する既存の規範も強化されることになるだろう。」とバローズは付け加えた。

バローズ氏は、「核兵器禁止条約はまた、非核兵器地帯を確立する諸条約を基盤とし、ある意味ではそれらを統合するものでもあります。」と語った、非核兵器地帯として史上初めてラテンアメリカ・カリブ海地域に確立したトラテロルコ条約は、2月14日にメキシコシティにおいて50周年を祝った。

「核兵器禁止条約の重要性は、とりわけ政治的な側面にあると言った方がよいかもしれません。なぜなら同条約は、核兵器に関する現状は受け容れがたく、核兵器は二度と使用されてはならず、NPTと国連の文脈、とりわけ1978年の国連軍縮特別総会でなされた核軍縮の約束を果たすうえでこれ以上の遅れは許されないという、強力で明確な意思表明となるからです。」

「しかし、条約の内容次第では、特定の法的帰結も考えられます。」とバローズ氏は指摘した。

たとえば、核兵器への資金提供が禁止されれば、核兵器を製造する企業への投資に相当の影響を与えるかもしれません。また、禁止条約に参加する国にとっては、条約の非締約国による核兵器使用の準備にいかなる形でも支援・協力することが禁止されるかもしれません。」とバローズ氏は語った。(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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