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人権教育の力に焦点をあてた展示会

【ジュネーブIDN=ラヴィ・カントゥ・デヴァラコンダ】

国際的な市民団体や各国政府が手を結び、人権教育が人々の生活を変革する力に光を当てている。「人権教育および研修に関する国連宣言」採択5周年を記念して、3月6日に展示「変革の一歩‐人権教育の力」が国連欧州本部で開幕した。

Exhibition "Transforming lives: the power of human rights education"/ SGI
Exhibition “Transforming lives: the power of human rights education”/ SGI

3月17日まで開催予定の展示は、排外主義や偏見、不寛容の傾向が社会で強まる中、「尊厳・平等・平和を促進し、人権侵害を防止するうえで人権教育および研修が果たす重要な役割を強調するもの」になっている。

この展示は、「国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)」の協賛を得て、創価学会インタナショナル(SGI)が、「人権教育2020(HRE2020)」、「人権教育学習NGO作業部会」、「人権教育と研修に関する9か国プラットフォーム」との共同で開催したものだ。

25枚のパネルからなる展示は、人権教育が変革につながった事例として、オーストラリアやブルキナファソ、ペルー、ポルトガル、トルコでの成果を取り上げており、市民や政府、市民団体に対して、「人権文化」を涵養するために行動しようと呼びかけている。

開幕式で、 在ジュネーブ国際機関ブラジル政府代表部のマリア・ナザレ・ファラーニ・アゼベド大使は、「人権教育と研修の意義は、とりわけ社会の分断と暴力的過激主義が進行していることを考えたとき、社会における平和で寛容的、かつ持続可能な社会の実現のために特に注目すべきものになっています。」と語った。

アゼベド大使の発言は「人権教育と研修に関する9か国プラットフォーム」に参加している各国政府を代表してなされたものだ。9カ国とは、ブラジル・コスタリカ・イタリア・モロッコ・フィリピン・セネガル・スロベニア・スイス・タイである。

Craig Mokhiber/ UN Photo/Jenny Rockett

国連人権高等弁務官事務所のクレイグ・モカイバー開発・経済・社会問題部長は、「人権の持つ力に対する認識が高まる中で、蔓延する偏見や虐待、失業、搾取、不平等、そして独裁や政治腐敗、不正を容認できないと叫んでいる人々の『うなり声』が世界中にひろがっています。」と語った。

「この展示が示しているとおり、人権の知識は、人々が自由と尊厳ある生を享受するための力なのです。」とモカイバー部長は語った。

モカイバー部長は、「トルコにおける家庭内暴力」や、オーストラリア当局による厳格で暴力的な差別措置の被害者らを救う人権教育および研修を広めているSGIの取り組みを称賛した。

SGIは、世界で1200万人の会員を擁する、地域に根差した仏教団体である。会員らは、仏教の伝統である人間主義を根本に、平和や文化、教育を推進している。

東京を本拠とするSGIの寺崎広嗣平和運動総局長は、池田大作SGI会長の言葉を引用して、「人権教育を通じて日頃から互いの多様性と尊厳を大切にし合う社会の土壌を育み、一人でも多くの人々が『人権文化』の建設の担い手となっていく流れをつくり定着させていくことが今ほど必要な時はありません。」と語った。

Daisaku Ikeda/ Photo Credit: Seikyo Shimbun
Daisaku Ikeda/ Photo Credit: Seikyo Shimbun

池田会長は、寺崎総局長が代読したメッセージのなかで、今回の展示が国連人権理事会の会場において開催されたことを紹介。また、難民や移民、外国人などに対する嫌悪や排斥の動きが各国で見られる中、人権教育および研修に関する国連宣言の「あらゆる形態の差別、人種主義、固定観念化、憎悪の煽動、それらの背景にある有害な態度や偏見と戦い貢献すること」との一節に触れ、人権教育をあらゆるレベルにおいて推進する継続的な努力がなされることの重要性を訴えている。

国連教育科学文化機関(ユネスコ)ジュネーブ連絡事務所のアブドゥルアズィーズ・アルムザイニ所長は、「大きな変化と不透明さに直面する時代にあって、人権への知識を持つことは、あらゆる人々が持つ権利への敬意を培うための、本質的な手段と見なされるべきです。」と語った。

アルムザイニ所長は、今回の展示は「人権教育が、平和、正義、非暴力、寛容、そして人間の尊厳の尊重といった価値を涵養する強力な言動力となりえます。」と語った。

「ユネスコは、70年前に世界人権宣言が採択されて以来、市民的権利、文化的権利、経済的権利、社会的権利、政治的権利といったあらゆる人権が、継続的な人権教育および研修を通じて、よりよく普及・促進されるよう取り組んできました。」とアルムザイニ所長は語った。

人権問題に取り組む15の非政府組織の連合体で、今回の展示の共催者であるHRE2020を代表して挨拶したエマ・メランデル・ボリ氏は、民主主義への挑戦と人権侵害によって損なわれた今日の世界においては、「国連人権宣言に謳われている人権の監視と履行を継続的に行っていく必要性を強調した。

Abdulaziz Almuzaini (right in the photo) director of UNESCO’s office in Geneva, addressing at the launch of the Exhibition/ Kimiaki Kawai | SGI
Abdulaziz Almuzaini (right in the photo) director of UNESCO’s office in Geneva, addressing at the launch of the Exhibition/ Kimiaki Kawai | SGI

「拡大する暴力と、国家やその新しい統治者による人権侵害の拡大を背景に、人権教育および研修を通じて被害者をエンパワー(内発的な力の開花)するために必要な、さまざまなアプローチをとることが重要です。」と寺崎総局長は語った。

展示会場でIDN-INPSの取材に応じた寺崎総局長は、「人権侵害に関わるそれぞれの事例について徹底的な検証が必要であることは言うまでもないが、他方、小学校以降の人生のあらゆる段階において、人権教育を中心に据える必要があります。あらゆる人々の心の中に人権の重要性を理解する感情を喚起しない限り、人権侵害は繰り返されることになるでしょう。この展示を通じた(SGIの)取り組みの狙いは、まさにこの点にあります。」と語った。

寺崎総局長は、現在米国で移民が直面している窮状について問われ、「米国は多元主義と多様性を通じて成長し、そのおかげで急速に発展してきました。もし米国がこの点で実際に態度を変えるならば、それは自らの過去を拒否し、否定するということになります。」と語った。

SDGs Goal No.4
SDGs Goal No.4

寺崎総局長は、予測不能性、不確実性、暴力、剥奪、不安、さらには、人権への一般的な攻撃で特徴づけられる現在のグローバルな局面に対する懸念を表明し、「だからこそ、SGIは人権教育に力を入れています。」と語った。

展示のテーマに関連したものに、インドの作家で文芸や政治問題に関する著作があるパンカジ・ミシュラ氏による『怒りの時代―現在の歴史』がある。

この著書の中でミシュラ氏は、こう述べている。「先制攻撃による戦争、大量報復、レジーム・チェンジ(体制転換)、国造りとイスラム改革といった9・11後の政策はことごとく失敗に、それも壊滅的な失敗に終わっている。他方で、超法規的殺人、拷問、レンディション(特例拘置引き渡し)、無期限収監、大規模な監視を通じて、無自覚に進められている欧米自身の啓蒙主義に対する汚い戦争は、大成功を収めているのである。」(原文へ

INPS Japan

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人権教育を推進するHRE2020

世界市民教育に余地を与える持続可能な開発目標(SDGs)

ポテンシャルを発揮する人権教育

資源利用最大化を図るタンザニアの学校

【ダルエスサラームIDN=キジト・マコエ・シゲラ】

鐘の音が鳴って、ヘキマ小学校は放課後になる。そしてこの鐘は、レイラ・キトワナちゃん(10歳)と同級生の児童達にとって、学校の畑へ水やりする時間を告げるものでもある。児童たちは、巨大タンクに溜められた雨水を使ったドリップ(点滴)灌漑システムを利用して、この立体的な畑に交替で水やりをしている。

「いろんな種類の野菜を育ています。これらは私たちの食事の大事な一部になります。」とキトワナちゃんは語った。

ダルエスサラームキノノドニ地区の貧しいタンデール集落にあるこの学校の大半の児童たちは、最近まで、授業に出るよりも水の確保に多くの時間を費やしていた。「井戸があったけど、しょっぱくて飲むことができず、トイレ用の水としてしか使えませんでした。」とキトワナちゃんは語った。

極端な水不足、貧しい学習環境のために、低所得層の多くの児童が通学を諦めていた、と教師らは説明する。しかし、学校が「アーバン・ネクサス」のアプローチを採用してからというものの、状況は格段に改善した。これは、水・エネルギー・食料資源を効率的かつ統合的な方法で利用しようとするものだ。

「アーバン・ネクサス」アプローチを通じて、水と衛生、エネルギー、食料と廃棄物をリンクする機会が創出される。こうした解決策は、単一の開発手法を適用するだけでは生み出されないものだ。

ICLEI(「持続可能性を求める地方政府」)とドイツ国際協力公社が5万7000ユーロをかけて支援する「アーバン・ネクサス」のパイロット・プロジェクトの下で、ヘキマ小学校と近隣のエリム小学校は、利用可能な資源をより効率的に使えるようになってきた。

ヘキマ小学校のムンガ・ムテンゲティ校長によれば、プロジェクトのおかげで、学校は、燃料となる木材の消費を減らし、より多くの水を入手し、学校給食のための野菜を育て利用することが可能になったという。

「今では、多くの水やエネルギーを得ることができるようになりました。」「生徒が水汲みに苦労することがなくなり、代わりに教室で時間を過ごせるようになりました。」とムテンゲティ校長は語った。

人口が急速に拡大しているタンザニアの都市部では、水・エネルギー・食料・衛生の供給システムの管理に大きな問題が生じている。しかし、自治体は、縦割りの計画・管理体制が原因で利用可能な資源を十分に活用できていない。

SDGs Goal No. 15
SDGs Goal No. 15

そのため、「アーバン・ネクサス」のアプローチは、一元管理化された統合的なシステムを通じて、より良い結果をもたらすために、限られた資源を活用する方法へと変革しようと試みるものだ。

「私たちは、学校向けに、自らの水供給、エネルギー、改善された衛生システムでもって自立が可能となるビジョンを策定したかったのです。」とICLEIのプロジェクト管理者であるサラ・バーチ氏は語った。

「私たちは料理のために使う木材を半分にし、雨季に利用できる水の量を2倍にし、入手できる食料を増やしました。」「子どもたちに、粗末なおかゆのようなものだけではなく、栄養豊富な野菜スープで十分に栄養をつけてあげたかったのです。」とバーチ氏は語った。

バーチ氏は、「近隣で出されるゴミのかなりの量を使うことになるバイオガス・プラントも小学校で設置していくつもりです。」これにより、「地域住民が出すゴミを使って、公共施設でエネルギーを生み出すことができます。」と語った。

気候変動の脅威の高まりに直面して、専門家らは、アーバン・ネクサスのモデルがそのリスクを低減し、未来の生産的で強靭(レジリエント)な都市を作るために必要なものだとしている。そうした都市は、地元および国全体の経済発展に多大なる貢献をなしうるだろう。

ダルエスサラームは、エネルギーや水の不足、粗末な廃棄物処理、貧困と高い失業率など、数多くのリスクと脆弱性を抱えている。

ダルエスサラームでは人口の約7割が非正規の居住地区に住んでいるため、タンデールのような人口密度の高いスラムは特に洪水に弱い。大雨が降るとしばしば激しい洪水が起こり、数千人が家屋を追われ、被害額は数百万ドルにも及ぶことになる。

「人口の多い地区では、学校が住民同士が連絡をとりあうための理想的な場所となっており、洪水時の強靭性を強めるハブとしてしばしば機能しています。」とバーチ氏は語った。

キノンドニ市の公務員ヨハナ・ムゴンジャ氏によると、この学校プロジェクトから得られた経験は、他の学校や公共機関にとっての模範となるものであり、環境教育の機会も提供しているという。「食糧栽培が、建物の壁や、コンパクトな空間においても可能だということを示すことができれば、地域住民に同じ試みをする気を起こさせることができます。」とムゴンジャ氏は語った。

実際、多くの地域住民がこのプロジェクトを見学に訪れ、自分の家の敷地で何ができるか尋ねるという。

Map of Tanzania
Map of Tanzania

タンザニアにおけるアーバン・ネクサスのパイロット・プロジェクトは、南アジアで実行されているより大きなプロジェクトの一部である。マハラシュトラ州第3の都市で、インドで急速に発展しているナーシク(ブドウ園とブドウ生産で知られる)は、水・エネルギー・食料部門のつながりを明確化することを通じてアーバン・ネクサスのアプローチの利点を示すことを目的としたパイロット・プロジェクトの現場として選ばれた。

水・エネルギー・食料安全保障とその相互の関係の問題は、2012年6月に開催された国連持続可能な開発会議(リオ+20)においても国際的に注目され、持続可能な開発目標(SDGs)の策定にあたっても重要な役割を果たした。

「今日、気候変動と資源の棄損に伴ったリスクの累積によって、都市は進歩・建設・開発・計画のやり方を変えなくてはならなくなっています。」とナーシク市幹部のサトヤ・ナラヤナ氏は語った。

「こうした機会がどこに眠っているのかを探り、それらを把握し、そのうえで計画を策定して実行に移す方策を考えることは、多くの都市において課題となっています。」とナラヤナ氏は付け加えた。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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Editorial: Onwards and Upwards in 2017

By Ramesh Jaura

We don’t want to look back … just recall that we faced numerous obstacles when we re-launched IDN-InDepthNews at the beginning of 2016 under the umbrella of the International Press Syndicate (INPS), formerly Globalom Media, established in March 2009.

As we move forward in 2017, we are very grateful to our colleagues around the world – Phil Harris, Shastri Ramachandran, A.D. McKenzie, Neena Bhadrari, Kalinga SeneviratneKatsuhiro Asagiri, Jacques Couvas, Fabiola Ortiz, Justus Wanzala, Jeffrey Moyo, Kizito Makoye Shigela, Stella Paul, Lowana Veal, Vesna Peric Zimonjic and Lisa Vives of Global Information Network, to name just a few.

We owe sincere thanks to our contributors whose expert analyses and viewpoints enhanced the quality of what we offer to our readers: Jayantha Dhanapala (former UN Under-Secretary-General for Disarmament Affairs); David Krieger (President and  founder of the Nuclear Age Peace Foundation); Alyn Ware (Global Coordinator, Parliamentarians for Nuclear Non-Proliferation and Disarmament); Dr Palitha Kohona (former Ambassador and Permanent Representative of Sri Lanka to the United Nations in New York); Siddharth Chatterjee (UN Resident Coordinator and UNDP Resident Representative in Kenya); Franz Baumann (former UN Assistant Secretary-General, Special Adviser to the Secretary-General on Environment and Peace Operations); and Jonathan Power (a well-known foreign-affairs columnist for the past 30 years).

We are also grateful for and appreciate the support we received from Tokyo-based Soka Gakkai International for coverage of issues related to a nuclear-weapons free world and sustainable development – and this in large part due to INPS Japan headed by Katsuhiro Asagiri.

We joined the Secretariat of the ACP Group of States, headed by Secretary-General Dr. Patrick I. Gomes, to monitor the implementation of Sustainable Development Goals (SDGs) in African, Caribbean and Pacific countries.

We would also like to thank friends who helped us launch UN Insider, which is highly appreciated by an increasing number of Permanent Missions of 193 member states accredited to the United Nations in New York. This Monday newsletter has also been drawing attention of Permanent Missions accredited to the United Nations in Vienna. In 2017, we will continue to rely on our relentless commitment and count on the support of a growing number of our readers and subscribers as well as Editors, Bureau Chiefs, the Board of Directors and our Board of Advisers.

Help us to continue connecting the dots by providing news and analysis reflecting the concerns of the marginalised sections of societies in rich, middle and low-income countries and building bridges between citizens and institutions – whether national, sub-regional, regional, international, intergovernmental or non-governmental – with a view to making information more democratic and participatory. (IDN-INPS 02 January 2017)
The global International Press Syndicate Group provides news and analysis with a view to making information more democratic and participatory.

Image credit: embracingthedetour.com.

Note: The website of the image carries a quote from a poem by Frances Anne “Fanny” Kemble, a notable British actress from a theatre family in the early and mid-19th century:
Fail not for sorrow, falter not for sin,
But onward, upward, till the goal ye win.

若者は持続可能な開発アジェンダの推進力(クリスティーナ・ガラッチ国連事務次長インタビュー)

【ニューヨークIDN=ラメシュ・ジャウラ】

非政府組織(NGO)や学者の代表らが、韓国南東部の慶州で昨年の6月1日まで3日間にわたって開催された第66回国連広報局(DPI)/NGO会議で、持続可能な開発目標の第4目標(すべての人に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯教育の機会を促進すること)の重要性を確認するグローバルな教育行動アジェンダ(慶州行動計画)を採択した。

その後、どのような進展があったのだろうか。また、2015年9月に国際社会によって承認された持続可能な開発目標(SDGs)が履行されて2年目となる今年、若者集団が果たしている役割は何だろうか。 1月にアントニオ・グテーレス新国連事務総長とマネジメントチームが就任したが、そうした中で今年も国連広報局/NGO会議は開催されるのだろうか? 広報担当の国連事務次長という職責とはどのようなものなのだろうか。

これらは、インターナショナル・プレス・シンジケート(INPS)の基幹媒体であるIDNのラメシュ・ジャウラ記者兼編集長が、国連広報局の代表を務めるクリスティーナ・ガラッチ国連事務次長(広報担当)に問いかけた質問である。インタビューの全文は以下のとおり。

Q:約7か月前の2016年6月1日、韓国の慶州で開かれた第66回国連広報局/NGO会議で非政府組織(NGO)や学者の代表らがグローバルな教育行動アジェンダを採択しました。それ以降にどのような成果があったとお考えですか。

A:昨年の慶州での会議は、国連の市民社会への関与という点で画期的な会議でした。NGOだけではなく、学者や学生、若者グループからも、これまでにない数の参加がありました。2030アジェンダのすべての目標を達成するうえで、教育が果たす決定的な役割に対する認識は高まっていると言えるでしょう。

Participants applauding adoption of the Global Education Action Plan by the UN Department of Public Information/Non-Governmental Organization Conference, Gyeongju. Credit: Katsuhiro Asagiri | INPS Japan
Participants applauding adoption of the Global Education Action Plan by the UN Department of Public Information/Non-Governmental Organization Conference, Gyeongju. Credit: Katsuhiro Asagiri | INPS Japan

国連広報局は、このアジェンダをいかにして前進させるのかについて議論を活性化させるべく、会議閉幕以来、慶州行動計画を広範な国連部局やNGOと共有しています。

会議以来、多くのNGOがそれぞれの持ち場で、行動計画と広範な2030アジェンダを履行するため活動を活発に展開しています。主要な問題に関する意識を高めるための各種イベントやパネル討論が開かれています。また、「世界市民のための国際教育デー」の創設に向けて、いくつかのNGOが実行委員会を組織しました。

Q:国連広報局/NGO会議の歴史では初めて、若者たちが「若者宣言」を策定・発表しました。そのときあなたは「数多くの若者が参加しているが、これは国連と協力することに若者が意義を見出している証拠だ」と指摘なさいました。この7カ月で両者のパートナーシップはどれだけ強くなりましたか。

A:国連と若者の間の関係は引き続き強まってきています。若者は持続可能な開発アジェンダの達成に不可欠な推進力であり、私たちは、若者のエネルギーと情熱を、現場で真の前進と変化に結びつけるような取り組みに、ますます力を入れるようになってきています。

国連広報局は、慶州会議の後、グローバルな問題に関して若者やNGOの若者グループをいかに関与させていくかについて、国連と市民社会パートナー双方に対する諮問機関となるようなNGO若者実行委員会を立ち上げました。

国連は、若者の活動に焦点を当てるか、意識を高め関与を促すために、毎週のように世界各地で若者関連のイベントや活動を開いており、気候変動や公害であれ、賃金の平等や性的暴力であれ、飢餓や貧困の撲滅であれ、最も差し迫ったグローバルな問題への解決策を見つけようとしています。

Ahmad Alhendawi, the Secretary-General's Envoy on Youth/ K.Asagiri of INPS
Ahmad Alhendawi, the Secretary-General’s Envoy on Youth/ K.Asagiri of INPS

また、新国連事務総長の青少年問題特使の選定プロセスも始まっています。青少年問題特使は、若者を代表して世界的なアドボカシー活動を先導するのです。現在、アフマド・アルヘンダウィ氏の任期がちょうど切れたばかりで、アントニオ・グテーレス事務総長は、速やかに次の青少年問題特使を任命しようと考えています。グテーレス事務総長は、若者を動員し協力関係を構築していくことを自身の任務の主要な目的と考えています。

Q:持続可能な開発目標の2年目(=2017年)とそれ以降において、若者に何か特別の役割があるとお考えですか。

A:現在、世界には15~24歳の若者が12億人もおり、若者の数は歴史上最大になっています。この数は今後も増え続けることでしょう。若者は明日のリーダーであり、人類の将来を形作る上で極めて重要な役割を果たすことになります。

世界では、若者がますますグローバルな問題、とりわけ持続可能な開発の問題に関わりを持つようになってきており、ポジティブな変化を生み出す大小様々な方法を模索しています。そしてすでに多くの若者が、各々の国や地域コミュニティーにおいて革新的なプロジェクトやアイデアに着手・実践しています。

今後私たちは、若者たちが新しいアジェンダを実行する最前線に立てるよう、若者や若者団体と関与し続けていかなければなりません。そして若者たちも、自分たちの主張が聞いてもらえるよう声を挙げ続けていかなければなりません。

Q:2017年は新事務総長の就任と、新マネジメントチームの発足で幕を開けました。それでも、国連広報局/NGO会議が今年中に開かれることになるでしょうか。 もしそうだとすれば、会場はどこになるでしょうか。

A:今年は国連広報局/NGO会議を開く予定はありません。次の会議を2018年に開催するオプションを探っているところです。他方で、グテーレス事務総長のチームと協力して、国連広報局によるNGOとの協働が、事務総長の実質的な優先事項とうまく連携するように試みているところです。

Q:国連広報局長としてのあなたの任期も終わりに近づいていますが、国連の活動を広く一般に知らしめるという意味において、任期中に直面した課題や、成し遂げたものとしてはどのようなものがありますでしょうか。またあなたの次のキャリアにとって、ここでの経験はどれほど有益だとお考えですか。

A:国連で広報担当の事務次長として働いたことは、とても実りの多い経験でした。なぜなら、毎日、国連での出来事を国際社会に伝えるグローバルチームを率いるという機会を得たのですから。

SDGs Goal No.4
SDGs Goal No.4

課題は、人々が数百もの異なる言語を話し、ラジオやポスター、テレビといった伝統的なものから、ソーシャルメディアのような新しいものまで、無数の媒体を通じてニュースや情報を受け取っている世界において、またそうした時代において、国連のことをいかにして伝えるのか、という点です。できるだけ多くの人々に、できるだけ多くの手段で情報を伝えなくてはならないのですが、同時にまた、国連広報局の予算が増えていないということも認識しなくてはなりませんでした。

だからこそ「パートナーシップ」が魔法の言葉となるのです。私たちが、政府やNGO、民間部門、活動家等、国連が提示する課題の解決に努力する用意がある全ての人々と真のパートナーシップを組むことができれば、国境や、異なった言語や文化、国、世代を超えて活動を展開することが可能になるのです。

私がこれまで携わってきたあらゆる仕事において、なんらかの発見がありましたが、この仕事も例外ではありません。私にとって、国連広報局がこの2年間で取り扱ってきた問題の深さと幅広さは特異なものでした。そして、さらに印象的だったのは、国連加盟国、メディア、市民社会、企業など、世界のあらゆる場所において、国連と協力することに真摯に関心を抱いている人々がいることです。国連は、よりよい世界を目指して活動しようとする人々にとって選択に値するパートナーであり、最も動員力があり、真の意味でそうした人々の声を集約できる存在なのです。(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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|アイスランド|土地回復の知識を途上国と共有

【レイキャビクIDN=ロワナ・ヴィール】

1907年、主に過放牧と薪の過剰採取による深刻な土地劣化の問題に直面していたアイスランドで、土壌劣化の防止と劣化した土地の原状復帰を任務とする政府機関「アイスランド土壌保全局」(SCSI)が設置された。

「アイスランド土壌保全局」はその後多くの教訓を学び、その専門的経験を伝えるために、アイスランド農業大学と協力して、途上国からの参加者を念頭に置いた国連大学の訓練プログラムを現在運営している。

国連大学土地回復訓練プログラム」(UNU-LRT)として公式には知られるこのプログラムは、アイスランドを拠点に実施されている国連大学の4件の訓練プログラムの一つである。他の3件は、漁業地熱ジェンダー平等をテーマとしている。

UNU-LRT
UNU-LRT

主に外務省と様々な国際開発機関によって財政支援を受けた「国連大学土地回復訓練プログラム」は2007年に始まり、最初の3年は実験段階とされたが、現在は恒久的なプログラムとなっている。

このプログラムで「フェロー」と呼ばれている学生らは、主にガーナ・ウガンダ・モンゴル・レソト・エチオピア・カザフスタン・ウズベキスタン・マラウィ・ニジェール・ナミビアなどの途上国から参加している。

参加者の年齢層は25~40歳で、パートナーとなる大学や政府機関、地元の研究機関で既にこの分野で実務に従事している人々で、各々の所属機関からの推薦を受けたのち、「国連大学土地回復訓練プログラム」のスタッフによる面接を受けている。

訓練終了後は元の職場に戻り、アイスランドで新たに得た知識を同僚らと共有する。毎年、およそ12~15人のフェローが訓練を受けている。

Hafdís Hanna Ægisdóttir/ UNU-LRT
Hafdís Hanna Ægisdóttir/ UNU-LRT

「土地劣化に関連して多くの途上国が直面している問題は、過放牧や森林破壊、持続不能な土地利用、気候変動、自然災害などです。」とプログラム・ディレクターのハフディス・ハンナ・イージスドティール氏はIDNの取材に対して語った。

イージスドティール氏は、「訓練プログラムの参加者は、アフリカや中央アジア出身者ですが、土地劣化の問題に関しては、世界中どこでも驚くほど類似点があります。従って、参加者らは、自分の国で適用可能な技術や方法、理論を学ぶことになります。」「もちろん、土地を回復するためにどの植物を植えるかは、場所によって環境が違ってきますから一概にはいえません。しかし、特定の植物を利用することに伴う長所と短所や、侵入生物種によって引き起こされる問題について話すことはできます。」と語った。

イージスドティールによると、土地劣化の問題は気候変動と強く結びついている。というのも、土地劣化によって土壌と植生からCO2が排出され、結果として大気中に出されることになるからだ。「しかし、CO2は土地回復によって生態系に再び戻すことができるという良い面もあります。」とイージストティール氏は語った。

「国連大学土地回復訓練プログラム」による半年に及ぶ訓練の間に、フェローたちは土地劣化のプロセスと土地評価の方法、土地回復のエコロジー、土地利用と回復計画、持続可能な牧畜管理(開放的土地の場合と放牧地の場合)、土壌劣化と土壌保全について学ぶ。

ジェンダー平等も「国連大学土地回復訓練プログラム」の不可欠の一部を構成している。訓練プログラムにおいてジェンダーバランスが重視されるだけではなく、フェローたちは土地回復や持続可能な土地管理の分野においてジェンダー平等の観点を育むよう期待されている。というのも、ジェンダーによって権限と意思決定に平等にアクセスできない状態では、土地回復を含めた環境問題に対処するためのあらゆる取り組みを阻害することになると考えられているからだ。

訓練の主要な部分を成すのは、フェロー自身が実施する研究活動だ。自国から集めたデータか、アイスランド滞在中の研究で得たデータを利用する。「フェローたちは訓練内容と同じく、この研究活動に非常に満足しています。」とイージスドティール氏は語った。

Azamat Isakov/ UNU-LRT

元フェローのアザマット・イサコフ氏は、2013年に訓練プログラムに参加後に「キャンプ・アラトゥー財団」の代表に就任し、のちに「国連大学土地回復訓練プログラム」の一部として自身の指導教官とともに実施したキルギスの放牧の問題に関する研究報告書を発表している。

また、北部ガーナ出身の別の元フェローであるエステル・エクア・アモアコ氏は、子どもたちのための環境リテラシー向上プログラムのようなものに参加したいと長年考えていた。彼女は、地域教育にするのかラジオを使うのか思い悩んでいたが、同時に、地域社会を関与させるための時間とコストの問題にも気づいていた。

2012年、アモアコ氏はアイスランドでの土地回復訓練プログラムに参加するよう招待されたが、これが大きな転機になったという。「知識と実践を結びつけた環境リテラシーのコースは、アイスランドにおける土地回復プログラムに子どもたちを参画させた成功事例を学ぶもので…なかでも『子どもランドケアクラブ』から深い見識と方向性を学びました。」とアモアコ氏は語った。

「そして私は、自国に戻ってこの知識を実践に移そうと決意しました。アイスランドで学んだ子どもたちを教育するこのアプローチは、資金的に実行可能で、信頼性があり、より安価で、大きな影響を与えられると確信したのです。」

アモアコ氏は3つの学校で5つの『子どもランドケアクラブ』を設置することから始めた。大規模校では少なくとも40人、小規模校では25人に教えている。「いくつかの学校で環境リテラシークラブを立ち上げるための支援を、環境保護庁の地方支部と私の大学の学部(開発研究大学天然資源・開発学部)から得ることができました。現在、学部はクラブを公認団体にすることに合意し、他の学校にも広げることを予定しています。」とアモアコ氏は語った。

Chantsallkham Jamsranjav/ UNU-LRT

2010年に訓練に参加しその後米国で博士号を取得したモンゴル出身のチャンツァー・ジャムスランジャフ氏は、「『国連大学土地回復訓練プログラム』で得た知識は、私がモンゴルに帰ってから(モンゴル放牧地管理協会の)『グリーン・ゴールド・プロジェクト』の地域開発専門家としての活動に大いに役立ちました。アイスランドの訓練で得た知識を、ここで訓練に参加した地元参加者と共有し、彼らからさらに改善していくためのフィードバックを得られたのは有益だったと思います。」と語った。

ジャムスランジャフ氏はさらに、「地域を基盤とした放牧地管理組織の放牧者たちは、連携の強化、知識の共有、情報アクセスの結果として、季節ごとに牧草地を休ませローテーションさせていくことに積極的になりました。また、放牧地の植生管理も始まり、これは自身の放牧地の状況を把握するうえで非常に重要な第一歩となり、管理スキルの向上につながりました。」と語った。

ジャムスランジャフ氏は現在、国際NGO「マーシー・コープ・モンゴリア」でプログラム評価・改善コーディネーターとして働いている。「私は(2016年3月に)マーシー・コープに参画後、農村社会のレジリエンス(=リスク対応能力)に関する評価を行い、この結果は『強靭な(レジリエント)コミュニティープログラム』とよばれる新たなプログラムの策定にあたって活用されました。このプログラムの重点は、経済や自然に起因する災害や圧力を乗り越える農村社会のリスク対応能力をつけることにあります。」と語った。

「国連大学土地回復訓練プログラム」は、イージスドティール氏らが2015年にパリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)に参加して財政支援を受けるようになってから、各地で短期コースを開き、パートナー国における活動を拡大している。手始めに今年後半にウガンダで2週間のコースが開かれるが、これには地方自治体の環境部門職員約25人が参加予定だ。

UNU-LRT
UNU-LRT
SDGs Goal No. 15
SDGs Goal No. 15

「国連大学土地回復訓練プログラム」はまた、最近活動を進めつつあるENABLE(欧州ビジネス・土地管理教育促進ネットワーク)にも関与するようになってきている。ENABLEは欧州委員会の「エラスムス+計画」の一部だ。

このプロジェクトでは、生態系の機能と持続可能な土地管理がもたらす恩恵について意識を高めるための教育基盤が確立される。誰でも参加可能だが、とくに、ビジネスやマネジメント専攻の学生や専門家、政策決定者を念頭に置いている。

「国連大学土地回復訓練プログラム」と同様に、このプロジェクトも国連の持続可能な開発目標(SDGs)の第15目標の実現へと直接に向かうことになる。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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画期的なトラテロルコ条約の成功から50年

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2017年2月14日、ラテンアメリカ・カリブ海地域核兵器禁止条約(トラテロルコ条約)は50周年を迎える。同条約は、核兵器の実験・使用・製造・生産・取得を禁止している。同地域の全33カ国がこの条約に加盟している。本記事は、同条約の重要性を詳しく検討するものである。

【ニューヨークIDN-INPS/TMS=セルジオ・ドゥアルテ、ジェニファー・マックビー】

地球上の人間の住む地帯に初めて非核兵器地帯が設置されたものとして、トラテロルコ条約は、世界および地域の軍縮・平和・安全保障に重要な貢献をしてきた。条約効力の無期限化、留保の禁止、核兵器の定義、消極的安全保障を通じて非核兵器地帯の地位を尊重するという核兵器国による約束、加盟国による平和目的に限定した原子力エネルギー利用の容認等、この条約は数多くの革新的な条項を含んでいる。

Treaty of Tlatelolco Logo/ OPANAL

トラテロルコ条約は、非核兵器地帯はそれ自体が目的ではなく、将来における全面的かつ完全な軍縮、とりわけ核軍縮を達成する手段だとする原則を体現している。この条約はまた、国家間の平等と、加盟国間の差別禁止の原則を掲げている。

OPANAL(ラテンアメリカ・カリブ海核兵器禁止機構)は、トラテロルコ条約の義務遵守を確保する責任を担う国際組織である。1992年、国際原子力機関(IAEA)は査察実施に関する完全な権限を付与された。ラテンアメリカ・カリブ海地域の全ての国々が核不拡散条約(NPT)に加盟していることから、これらの国々はNPT第3条に規定されたIAEA保障措置に従っていることになる。また、これらの国々は包括的核実験禁止条約(CTBT)にも署名・批准している。さらに、4者協定によって、ブラジル・アルゼンチン両国は、IAEA並びに両国が1991年に設立した「アルゼンチン・ブラジル核物質計量管理機関(ABACC)」による査察にも服している。

この間、世界の他の地域もラテンアメリカの範に倣った。現在、南太平洋、東南アジア、アフリカ、中央アジアと、4つの地域に非核兵器地帯が存在する。現在113国がこうした非核地帯の加盟国であり、これに加えて、国連によって1998年に非核地位を確認されたモンゴルがある。その大多数が南半球に位置しており、南半球は事実上の非核半球となっている。

トラテロルコ条約交渉の起源と成功は、ラテンアメリカ諸国に共通するイベリア半島の起源とその外交的伝統、平和的共存と協力、国際法への信頼、地域の問題に対処するメカニズムを協議することへの信頼に負っていると言ってよい。

Nuclear Weapon Free Zones
Nuclear Weapon Free Zones

1962年、ブラジルのアフォンソ・アリノス・デメロ・フランコ国連大使は、ラテンアメリカに非核兵器地帯を確立することを初めて提案した。この数週間後、キューバにソ連がミサイルを設置したことから生じた国際危機が、この理念への一般的な支持を確固たるものにした。1963年には、ボリビア・チリ・エクアドルがブラジルとともに非核兵器地帯創設を提案する決議草案を提出した。

翌年、この4カ国にメキシコを加えた5カ国の大統領が、ラテンアメリカ大陸の非核化をもたらす国際文書の協議および署名を行うとの正式決定を発表した。協議は1964年にメキシコシティで始まり、1967年2月14日に署名開放され、翌年4月に発効した。そして2002年にはキューバが批准し、ラテンアメリカ・カリブ海地域の全33カ国について条約が完全発効した。また、メキシコのアルフォンソ・ガルシア・ロブレス大使は、この協議プロセスを主導した功績と、核軍縮・核不拡散への貢献が評価されて、1982年にノーベル平和賞を授与されている。

トラテロルコ条約の付属議定書2の下で、(NPT上の)5つの核兵器国は、ラテンアメリカ・カリブ海地域の非核兵器地位を尊重し、条約加盟国に安全の保証を与える義務を負っている。しかし中国を除く4か国は、議定書批准に際して、自国の義務に関して一方的な解釈宣言を行っている。(フランスは国連憲章第51条の下での自衛権の行使について、また米国、英国およびソ連〈当時〉は核兵器国に支援された締約国による侵略の事態に消極的安全保障の義務を再考する権利について、それぞれ留保を付している。)

条約の加盟国は、こうした解釈は議定書の目的や精神に反しているとして、解釈の見直しか取り消しを要求している。というのも、こうした解釈は、条約が適用される地帯内で核兵器の通過が可能となったり、一定の状況下で核兵器の使用あるいは使用の威嚇が可能となったりするようにみなしうるからだ。

条約の締約国と議定書の締約国がこれらの問題に関して共通の理解を持つことが重要である。そのため、OPANALは相互の利益になる問題について共通の立場に到達すべく、核保有国やその他の非核兵器地帯の諸機構と協議している。

興味深いのは、包括的核実験禁止条約(CTBT)が採択された1996年から先立つこと29年前に、既にトラテロルコ条約の中に核実験の広範な禁止が盛り込まれていたことだ。このことは、CTBTが依然として正式に発効していないという事実を浮き彫りにしている。CTBTの発効には批准が必要とされる残り8カ国による批准が必須だ。非核兵器地帯を確立した5つの国際条約と同様に、CTBTの発効は核拡散を阻止するうえで極めて重要な要素となる。

トラテロルコ条約50周年は、2016年の国連での歴史的な決定を受けて核兵器禁止に関する協議が開始されるという状況と時を同じくしており、幸先良いものを感じさせる。この協議が成功するならば、国連憲章が1945年に署名されて以来、国際社会のほとんどの国々が追求してきた目的の達成(=全ての核兵器および大量破壊兵器の廃絶)に大きく近づくことになるだろう。

同様に、核物質の保安を確保する効果的な措置を全ての加盟国が採ることが、核兵器の拡散を防止する取り組みにおいて重要だ。核兵器を永遠に廃絶することは、核の大惨事を予防し、人類の生存を保証するための緊急かつ死活的な任務だ。(原文へ

※セルジオ・ドゥアルテは、ブラジル大使、国連の軍縮問題元高等代表、核不拡散条約運用検討会議の元議長、国際原子力機関元理事長。ジェニファー・マックビーは、米国科学者連盟上級研究員。

翻訳=INPS Japan

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国連の分担金削減の危機が迫る中、「希望の持てる領域」を探す動き

【ベルリン/ニューヨークIDN=ラメシュ・ジャウラ】

米国による分担金の大幅削減というリスクが、まるで「ダモクレスの剣」のようにアントニオ・グテーレス国連新事務総長の頭上にぶら下がっているなか、政府高官や市民社会の代表らが、「永続的な平和」と「持続可能な開発」のネクサス(関連性)を強調し、ニューヨークの国連本部という舞台を超えて、この関連性に関する意識を広く喚起する必要性を訴えている。

「公正で、平和的で、包摂的な社会」の必要性に焦点を当てた「持続可能な開発のための2030アジェンダ」第16目標は、そうした本来的な関連性を強調しているが、国連が2015年9月に全ての加盟国の賛同を得て持続可能な開発目標(SDGs)の履行が開始されてから既に1年が経過しているにもかかわらず、一般の人々や外交分野における関心は依然希薄なままである。

国連総会は、このことを視野に、「持続可能な開発」と「継続的な平和」の本来的な関連性を強調する画期的な第一歩として、2日間にわたるハイレベル対話を1月24・25両日に開催した。

カザフスタンのイェルザン・アシクバエフ外務次官は、「開発と安全保障の関連性」の重要性を強調して、「世界各地で安全保障上の問題が、開発から得られる成果を脅かしています。」と語った。カザフスタン政府は、従来から、地域・世界レベルにおいて、武力紛争を予防し終結させる取り組みに外交努力を集中すると断言してきた。

アシクバエフ外務次官は、「しかし、国家間には残念ながら信頼感が欠如しています」と指摘したうえで、国連に対して仲裁の努力を抜本的に強化するよう訴えた。この点に関しては、国連安保理が義務として取り扱うテーマを拡大(例:「永続的な平和」と「持続可能な開発」の関連性を協議)したり、国連諸機関間における協力関係が一層緊密化させたりするなど、新しい道筋が最近開けてきている。

アシクバエフ外務次官はさらに、資金不足が開発の大きな障害であると指摘したうえで、加盟国に対して、防衛予算の1%を2030アジェンダ履行のために振り向けるよう訴えた。

アシクバエフ外務次官は、「多面的な難題には多方面からの対応を必要とします。」と指摘したうえで、「平和的で公正で包摂的な社会に関する第16目標を促進する取り組みは、この点において特に意味があります。」と語った。カザフスタンは、民主的なガバナンスや法の支配、人権擁護を基礎にして持続可能な開発目標を国家レベルの戦略に統合する取り組みを進めている。

General Assembly Seventy-first session, 59th plenary meeting Appointment of the Secretary-General of the United Nations.
General Assembly Seventy-first session, 59th plenary meeting Appointment of the Secretary-General of the United Nations.

グテーレス事務総長は、1月1日の就任以来初となる国連総会での演説において、「紛争の根本原因に対処し、思想から実行のレベルに至るまで、平和、持続可能な開発、人権を全体的視野の下に統合するグローバルな対応策が必要だ。」と既に述べていた。

不平等が引き続き世界中を覆っており、世界で最も裕福な8人が最貧困層の36億人と同じだけの富を所有しているという。民衆や国々全体が取り残されたと感じており、破滅的な紛争が新たに発生する一方で、旧来からの紛争がしつこく続いている。

インドのスジャータ・メフタ対外関係相も同様の観点から、慢性的な格差拡大と継続的な不平等、それに暴力的過激主義のような非旧来型の脅威の登場に注意を向けた。

技術の進歩により、世界はますます小さくなり、遠く離れた国々に暮らす人々の生活が一層相互に関連性を持つようになってきた。また諸国の経済はますます緊密化し、感染症は拡散しやすくなり、テロのネットワークは、世界のどこでも容易に攻撃を仕掛けられるようになった。

「同時に、『経済成長』と『包摂的な開発の安全性』、そして『人々の一般的な健康問題』も相互に密接に関連するようになっており、たとえある場所でこうした側面が満たされたとしても、必ずその影響は他の場所に及ぶことになるのです。」と、メフタ氏は語った。

メフタ氏はまた、「平和と開発の関連がパリ合意と2030アジェンダの双方の基盤にあります。」と指摘したうえで、「合意形成以降の進展具合は『けっして好ましいものではなく』、合意履行のための資金調達ではドナーからの資金提供が減少しています。」と語った。

メフタ氏は、「一旦なされた公約を違えることは、皆にとってマイナスとなります。」と警告し、より長期的な観点から開発問題に着目すべきと呼びかけた。「私たちは『グローバル・ヴィレッジ(地球村)』の住人です。国連加盟国に対して持続可能な開発目標の達成に向けて努力するよう、また、国連に対してその支援を行うよう求めます。」と語った。

ナイジェリアのアンソニー・ボサー氏は、「持続可能な開発」、「平和」、「経済成長」が保障されるべきだと述べ、この点に関する協調的な取り組みを訴えた。「2030アジェンダと持続可能な平和の追求は、一体をなすものです。暴力の実行者ら(新たに登場した勢力もあれば、長きにわたってそうした行為を行っている勢力もいる)が、紛争を乗り越えようとしている国々を支援する国際的、地域的取り組みに対して深刻な影響を及ぼしているのが気掛かりです。」とボサー氏は語った。

ボサー氏はまた、地域レベルと準地域レベルの諸機関との提携を通じて新たな「アジェンダ」と持続可能な平和の間に相乗効果(シナジー)を作り出そうとする国連の努力を歓迎するとともに、「西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は紛争解決において大きな成果を残してきました。」と語った。

「真実を語る基準(ベンチマーク)」

国連総会のピーター・トムソン議長(南太平洋メラネシアの島嶼国フィジー出身)は、「国連総会と安保理が、持続的な平和に関する諸決議を採択したことは、平和と開発に対する部門横断的で包括的、統合的な新アプローチを象徴するものです。」と語った。

トムソン議長は、相互に平和を維持する方法を補強し、同時に2030アジェンダの17項目からなる持続可能な開発目標を実行する方法を模索するよう、参加者に呼びかけるとともに、今回のハイレベル対話をこの課題に関する「真実を語る基準(ベンチマーク)」とするよう強く訴えた。

トムソン議長はまた、「2030アジェンダと持続的な平和に関する諸決議は、加盟国が『持続可能な開発』と『持続的平和』を、不可分の2つのアジェンダとして捉えるよう明確にしたものです。」と指摘したうえで、「SDGsを履行する止めようもない潮流を生み出し、『持続可能な平和』と『持続可能な開発』が互いの要因であるとともに成果でもあることを認識する必要性があります。」と強調した。

トムソン議長はさらに、「長引く紛争に現在17カ国が影響を受けており、不安定化しているか、紛争、暴動状況などにある国々に20億人が暮らしています。また、難民と途上国内の内地避難民の95%が、1991年以降、10件の紛争によって影響を受けてきました。」と語った。

トムソン議長はまた、加盟国からの積極的な支援と関与を得て、事務総長のリーダーシップの下での国連システムによる行動と改革の必要性を強調し、「2日間に亘った今回のハイレベル対話の議事録は、国連総会の第72会期において今年後半に招集される予定の『平和構築と持続的な平和に関するハイレベル会合』の準備に貢献するだろう。」と語った。

「2030アジェンダ」は普遍的なツール

スウェーデン外相で1月の国連安保理議長をつとめたマルゴット・ヴァルストローム氏は安保理を代表して、「最近ノルウェーで開催された「北極協議会」の会合に参加しましたが、そこでは科学者らが北極の環境について暗い見通しを報告していました。その中で、『どうしたら夜安心して眠れるか』と問いかけられたある科学者が、『自分は解決策が議論されうる希望の持てる領域に目を向けたい。』と答えていました。このハイレベル対話がそうした 『希望の持てる領域』の一つになりうると思います。ナショナリズムや恐怖と分断が台頭しつつある昨今、私たちはこのハイレベル会合で、『変化は可能だ』という希望のメッセージを届ける必要があります。」と語った。

ヴァルストローム外相はまた、安保理が紛争予防と平和構築に関して1月に行った公開討論に言及して、「各加盟国は、潜在的な紛争に関する報告に接して、行動に移る意思と能力、そしてまた手持ちのツールについても考えてみなくてはなりません。」と語った。

ヴァルストローム外相はさらに、「2030アジェンダは平和構築と紛争防止に全ての国々と民衆が関与することを要請する普遍的なツールです。」と指摘したうえで、「SDGsの第16目標に規定された平和と正義の推進(=法の支配の強化とグッド・ガバナンスの必要性)を強調した。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

そして具体的に重要なポイントとして、①リスク管理、根本原因、早期警戒、早期行動の重要性、②国連が世界銀行等の他の機関との協力を強化すること、③早期警戒と代替的な紛争予防措置に対して貢献する女性の役割、を指摘したうえで、「紛争予防は経済的な面からも望ましいことであり、より効果的に紛争予防を行えば、人道支援にかける開発予算を削減することができます。」と語った。

「平和構築委員会」委員長の職責で発言したケニアのマチャリア・カム大使は、「SDGsはより強靭な世界を実現するためのロードマップです。今回のハイレベル対話は、平和に向けた活動の一里塚として歴史に名を留めることになるだろう。」と述べ、今回のハイレベル対話を国連がSDGsという公約を果たすための出発点と認識するよう加盟国に求めた。

カンボジアのライ・トゥイ国連大使は、「(内戦を経験した)我が国は戦争の代償についていやというほど痛感しています。」と指摘したうえで、「全ての人々にとって持続可能な平和を構築することが最優先課題の一つです。」と語った。教育が平和構築にとって中心的な意味を持つことから、カンボジアの国家戦略的開発計画は、男女に平等な経済的機会を拡大することに焦点を当てている。

モルジブトリニダード・トバゴからの発言者は、気候変動という文脈から平和と開発について論じた。モルジブ代表は、水没が懸念される島嶼途上国にも国連安保理における議席が与えられ、「まだ行動する余裕があるうちに」気候変動と海面上昇の問題が議題とされ続けるようにすべきだ、と訴えた。

エルサルバドルのザモラ・リヴァス国連大使は、「和平協定と政治改革によって我が国は武力紛争を克服することができました。」と語った。しかし、そうした大きな成果を収めた一方で、エルサルバドルは、依然としてすべての社会階層において社会経済的発展を必要としており、事務総長に対してその実現のために必要な支援を行うよう要請した。

Building Sustainable Peace for All - General Assembly of the United Nations
Building Sustainable Peace for All – General Assembly of the United Nations


国連経済社会理事会のフレデリック・ムシーワ・マカムレ・シャバ議長(ジンバブエ)は、2030アジェンダと「開発資金に関するアジスアベバ行動目標」、気候変動に関するパリ協定国連の平和構築体制の見直し作業との間の連関を強調した、数多くの発言者の一人である。これらは一体となって、より望ましく、より包摂的で持続可能な世界への道を切り開いてきた。

コンゴ女性基金」および「平和と開発の統合をめざす女性の連帯」を代表して発言した市民社会代表のジュリエン・ルセンジ氏は、そうした紛争の原因に関する具体的な経験を共有した発言者の一人である。紛争の原因とは例えば、ルセンジ氏の祖国コンゴ民主共和国で起こった天然資源の違法な搾取、その結果としての不平等な富の分配などである。(原文へ

翻訳=INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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Getting to Know UN Office for South-South Cooperation

IDN-INPS Editor-in-Chief and Director-General Ramesh Jaura met with Jorge Chediek, Director of the UN Office for South Cooperation (UNOSSC) at his office in New York on February 17, 2017 to acquaint himself with activities of this important constitutent of the UN system.

Among the issues discussed was what South-South Cooperation really means.

Simply put: South-South Cooperation is a broad framework for collaboration among countries of the South in the political, economic, social, cultural, environmental and technical domains. Involving two or more developing countries, it can take place on a bilateral, regional, subregional or interregional basis. Developing countries share knowledge, skills, expertise and resources to meet their development goals through concerted efforts. Recent developments in South-South cooperation have taken the form of increased volume of South-South trade, South-South flows of foreign direct investment, movements towards regional integration, technology transfers, sharing of solutions and experts, and other forms of exchanges.

Collaboration in which traditional donor countries and multilateral organizations facilitate South-South initiatives through the provision of funding, training, and management and technological systems as well as other forms of support is referred to as triangular cooperation.

READ our interview with the UNOSSC Director Chedek > Mainstreaming South-South Cooperation in the UN System

「核への抵抗」を象徴する国連会議

【ロンドンIDN=サマンサ・セン】

一部で語られてきた「世界新秩序」というものが、今や「世界新無秩序」へと崩壊していく恐れがある。なかでも、新たな懸念は、それを巡って米ロ両国が合意できないものではなく、むしろ合意できる問題なのかもしれない。かつて米ロ首脳はなにかにつけ反対側に立っているとみられていたが、ドナルド・トランプ大統領ウラジーミル・プーチン大統領は、お互いが、反対側から同じ方向を見据えている政治上の「双子」であることに気付いた。こうしたなか、核戦力の強化という問題ほど、この両者の見解の一致が致命的となる領域はないだろう。

米ロ首脳は、自国が保有するあらゆる兵器に肯定的であり、さらなる軍備増強を承認している。また両者とも、自国の核能力の「強化」について論じている。いったい何の目的でどの程度強化するのだろうか? 両国でいったい何度世界を破壊することができるのか。これは恐るべき計算だ。しかし、それを数える必要などない。たった一度の核戦争で十分だからだ。

UN General Assembly approves historic resolution on December 23, 2016. /ICAN
UN General Assembly approves historic resolution on December 23, 2016. /ICAN

国連総会は、トランプ候補の大統領当選以前に、核兵器を禁止する法的拘束力のある合意をまとめるために、3月と6・7月に会議を開くことを決議した。米ロ首脳が核兵器が実際に使用される前に事の真理を理解するだろうと期待している者はほとんどいないだろう。来る国連会議は、この政治的な双子を、その親戚(=他の核兵器国と核抑止を支持する国々)とともに正気への道、すなわち、人類が生き残る道へと引き戻す世界政治を強化する、時宜を得た動きとなるだろう。

この国連会議は、「改宗者」(=核抑止理論をもはや信奉しない国々)の間でのみ合意が交わされる単なる「しゃべり場」と化し、問題となっているその他の人々(=核保有国とその同盟国)が会議場からはるかに離れた所にいるだけのものになるという、冷ややかな見通しも出てきている。核を「持つ者」と「今後持つかもしれない者」がいかにして改心し軍縮に向かうのか? あまりありそうにないことだが、英国について、そのような希望がはたして持てるだろうか? 核軍縮キャンペーン(CND)は明らかにそのように考えているようだ。それは、CNDが単に英国に本拠を置いているという理由からだけではない。英国は米国の核兵器とその兵器システムに歴史的にも最も緊密に結びついている。しかし、英国内における核に対する抵抗は強く、しかも近年一層強まってきている。

CNDのケイト・ハドソン議長はIDNの取材に対して、「(非核化を訴えている)野党勢力が強い英国が、世界の核兵器体系の鎖において『最も脆弱な部分』であり、もし英国で核政策に変化をもたらすことができれば、他の核保有国にも波及効果があるのではないか、という推測もあります。」「それこそ、私たちが目標として活動していることです。」「核兵器を現在支持している世界の少数の指導者らが、いったいどんなメカニズムで核に関して正気を取り戻すのかは不明ですが、もし人類に将来があるとするならば、彼らはそうせねばなりません。」と語った。

Kate Hudson/ Campaign for Nuclear Disarmament
Kate Hudson/ Campaign for Nuclear Disarmament

そうしたメカニズムが英国でどう機能するかは不明だが、一つの「脆弱な部分」を指摘することは可能だ。それは、ヴァンガード級原子力潜水艦が配備されているスコットランドである。潜水艦発射弾道ミサイル「トライデント」システムの改修には約3000億ドルが必要とされており、核ミサイルシステムの改修はスコットランド市民の圧倒的多数にとって、危険で高価なうえ、おそらく機能しないとして反対する政治的な意見を民衆の声が後押ししている。

英国の欧州連合(EU)離脱投票を受けてスコットランドが英国から離脱する可能性は、今すぐとはいえないにしても、かなり高いものがある。このことが核兵器の将来に影を投げかけている。伝統に生き、観光客の目からは離れた風光明媚な沿岸の村々は、朝食をとりながら湾の向こうに停泊する核潜水艦を見やるなどという事態を決して歓迎しないだろう。英国市民の圧倒的多数は、その指導者らが見過ごしている正気を見せている。かつて「サダム・フセインの大量破壊兵器?」という民衆に投げかけられた幻影を根拠に(当時の英国政府が)イラクに侵攻した事実を誰も忘れてはいない。100万人がイラク侵攻に反対して「ダウニング街10番地」前を行進し、その中には数十万人の子ども達が含まれていた。そのとき街頭に繰り出した子どもたちは間違っていなかった。間違っていたのは政府だったのである。

子どもたちと民衆は再び、今回は核軍縮に関して正しい判断を下した。ブリストル大学の調査によると、核兵器によって安心感を得ると回答したのはわずか3%であった。このような結果を示す事例は、世界で枚挙に暇がない。

「世界的なトレンドは、冷戦終結以来相当程度に減少してきた核弾頭の数に関しても、国家と市民社会の両レベルにおける意見に関しても、『核兵器反対』にシフトしています。」「非核兵器地帯に参加する国々の数は増えており、今では南半球の全域と北半球の一部をカバーしています。また、数多くの主要な政治家が、核兵器はあまりに危険で保有するに値しないと認識するようになってきています。」と、ハドソン議長は語った。

僅か一握りの指導者が世界の生存に対する拒否権を持ちうるものだろうか? そして今、根本的に道徳的で政治的な問題が国連総会の会議で試練に付されることになる。行動する能力への信頼は、それ自体限定されている。国連安保理は、つまるところ、一部の国による決定権を認めている。この限界の中で、今年7月に核兵器が劇的に禁止されるというわけではないけれども、限定的な可能性は確かに存在する。停滞の20年を経て核軍縮が正式に国際的な議題に上り、それが最終目標地点というわけではないにせよ、もうあと数歩というところまで見えているのである。核兵器に対する圧倒的な民衆の反対は強まっており、核兵器への民衆の抵抗はさらに拡大していく勢いだ。

「世界的な核兵器禁止条約の確立を止められる世界の指導者は誰もいないが、実際にそれに署名させようとするプロセスは恐らく困難なものになるだろう。」とハドソン議長は語った。その困難とは、一部の指導者に自分たちとその国民にとって何が正しいかを理解させるという点にある。「核軍縮は彼ら自身にとっての利益でもあります。」とハドソン議長は付け加えた。「無用な大量破壊兵器に国の資源をこれ以上浪費することはできないし、自国絶滅の脅威を永続化させることもできません。指導者自身もこの脅威から逃れることなどできないのです。彼らを交渉のテーブルにつかせ、核兵器禁止を支持させることが私たちの仕事です。そしてそれは、事故であれ意図的なものであれ、核兵器が実際に爆発する前に実現しなければなりません。」

ICAN
ICAN

この論理は、まずもってトランプ大統領とプーチン大統領の面前で明確に示されることになるだろう。しかし、問題なのはこの2人だけではない。CNDが指摘するように、英国・フランス・イスラエルのような(すべてではないにせよ)その他の核兵器国も核兵器禁止に反対している。一方、北朝鮮はこれを支持し、中国・インド・パキスタンは棄権した。反対したその他の国々は主に、北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国や日本・韓国・オーストラリアのように、米国と軍事同盟を結んでいる国々だ。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

「国連での交渉は、国連総会の圧倒的多数によって支持されてきました。」とハドソン議長は言う。「世界的な核軍縮を望む願望は、数十年にわたって多くの国によって表明されてきましたが、核不拡散条約に体現された国際法に反対するほんの一握りの核保有国によって妨害されてきました。」

国連会議は、この核兵器体系の鎖を一撃の下に叩き斬るということにはならないだろうし、そう懸念する理由もある。しかし、(核兵器禁止という)困難な仕事を考えると、この鎖が「脆弱な部分」で弱められるだけでも意味があるだろう。この鎖の弱体化は、世論の力を通じてのみ成しうるものであり、英国においてのみ起こるものではない。世論の力には既に世界中で圧倒的なものがあり、必ずしも為政者自身が生み出したわけではない政治的決定につながってきた。(核抑止を信奉する)残された一部の指導者たちについても、今や民衆が政策に影響を及ぼすことが可能になっている。来る国連会議は、停滞しがちな外交チャンネルでの諸事を超えて、民衆へのシグナルとなることだろう。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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【サンタバーバラ(米加州)IDN=リック・ウェイマン】

2016年10月24・25の両日、核時代平和財団は、様々な分野から核問題に取組んできた少人数の専門家(学者、活動家、思想家等)を招集して、核軍縮に向けたグローバルな言説をいかにして変えていくかを議論した。シンポジウム「喫緊の課題である核兵器廃絶」において、参加者らは、核の脅威をめぐる現状、核兵器廃絶に立ちはだかる地政学的・心理学的障害、今後進むべき道筋について議論した。

シンポジウムから僅か2週間後にドナルド・トランプ氏が米国の新大統領に選出されるという新たな政治的現実を盛り込むために、シンポジウム最終声明の発表は大幅に遅れることとなった。

今日の世界は、壊滅的な核の脅威に満ちている。最も破壊的な脅威は米国とロシアによるものであり、世界に1万4900発存在する核兵器の内、両国が実に93%を保有している。これらの核戦力が使用されれば、間違いなく「核の冬」が訪れ、人類文明の将来は深刻な危機に立たされるだろう。例えば、インド・パキスタン間の核交戦でも、地球の気温は相当程度に低下し、広範な飢餓と世界合計で20億人の死を招来する可能性が高い。

ICAN
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シンポジウムの最終声明は、シリアの多面的な紛争、米軍の太平洋への軸足シフト、大西洋条約機構(NATO)の戦争演習、東欧における米ミサイル防衛、引き続く北朝鮮との緊張関係など、数多くの極めて不安定な状況について指摘している。2017年1月21日にこの最終声明が公表されて以来、「核兵器廃絶(=核ゼロ)」を実現させる緊急性はますます明らかになってきている。

イランによる1月末の中距離弾道ミサイル実験後、トランプ大統領はツイッターで「イランに公式に警告する」と述べた。他方、米空軍は2月7日に大陸間弾道ミサイル「ミニットマンⅢ」の実験を計画している。米国は全米5州のミサイル格納庫に核兵器を搭載した「ミニットマンⅢ」を約400基配備している。

米空軍当局は、大陸間弾道ミサイルの実験後に、「攻撃からの防護を求める我々の同盟国と、平和を脅かす敵国に対して我々が送るメッセージ」だとして実験を称賛するのが通例だ。今週行われたミサイル発射を巡るダブルスタンダードは、米国以外の国々にとっては明らかだろう。

時計の針が進む

1月26日、『原子科学者紀要』の「世界終末時計」の針が、午前零時(=人類の絶滅)まで「あと2分半」に進められた。1950年代以来、午前零時に最も近付いたことになる。これにも関わらず、そして、上記の恐るべき状況にも関わらず、私達人類を破滅の淵から救い出すために一般市民の支持を必要とする前向きな取り組みが存在する。

Image credit: Bulletin of the Atomic Scientists
Image credit: Bulletin of the Atomic Scientists

エドワード・マーキー上院議員(マサチューセッツ州選出)と、テッド・リュー下院議員(カリフォルニア州)は米議会に、核兵器の先行使用を一方的に命令する大統領の権限を制限する法案を提出している。もっとも、かりにこの法案が可決したとしても、米議会が敵国に対して宣戦布告すれば、米国は依然として核兵器を先行使用することが可能であることから、十分な内容とは言えない。

しかし、トランプ大統領が不規則に行動し、非合理的な報復に打って出る傾向があることを踏まえれば、この法案制定が必要なものであることは明白だ。核兵器は決して民主主義と折り合うものではない。ハリー・トルーマン氏からトランプ氏に至る全ての米大統領は、巨大で、責任など取りようもない力を自らの手中に収めてきたのである。

3月15日、米連邦第9巡回区控訴裁判所は、マーシャル諸島共和国(RMI)が米国に対して起こした訴訟の口頭尋問を行う。RMIは米国が核不拡散条約第6条(次の段落を参照)に従うよう求めている。

各締約国は、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する。

マーシャル諸島はとりわけ、米国は「これまで一度もなされたことがない交渉、すなわち、核軍拡競争の停止と核軍縮に関連した交渉を呼びかけ誠実に追求すべき」だと訴えている。米国に対する訴訟はもともと2014年にオバマ政権に対して提起されたが、審理が裁判所で続いていたため、現在はトランプ政権が相手となっている。

そして、3月27日には、核兵器禁止条約に関する歴史的な交渉が国連で開始される。昨年12月に国連総会で113カ国が支持したこの取り組みは、「核兵器の使用・開発・生産・取得・貯蔵・保持・移転に加え、あらゆる禁止行為に関与するあらゆる者への支援・勧奨・誘導も含め、核兵器に関連した幅広い行為」を禁止する条約につながることであろう。

昨年12月22日、当時は次期大統領だったドナルド・トランプ氏は「米国は、世界が核に関してまともな感覚を取り戻すまでの間は、核能力を大幅に強化し拡大しなくてはならない」とツイートした。しかし現実には、世界の大多数の国々は、核兵器廃絶を達成する緊急の必要に関して、実際のところまともな感覚を持ちあわせているのである。他方で、世界9つの核保有国とその支援国が、引き続き全人類を脅かし続けている。

United Nations Headquarters in New York City, view from Roosevelt Island. Credit: Neptuul | Wikimedia Commons.
United Nations Headquarters in New York City, view from Roosevelt Island. Credit: Neptuul | Wikimedia Commons.

核時代平和財団シンポジウムの最終声明が述べるように、「核兵器廃絶に向けて努力すべき倫理的な必然性が存在する。人類やその他の複雑な生命体が将来生き残れるか否かは、この必然性を踏まえた行動にかかっている。」(原文へ

※リック・ウェイマンは、「核時代平和財団」事業・運営部門の責任者。

翻訳=INPS Japan

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