ニュース視点・論点国連人権トップ「テロとの闘いは、拷問・スパイ活動・死刑を正当化しない」

国連人権トップ「テロとの闘いは、拷問・スパイ活動・死刑を正当化しない」

【国連IPS=タリフ・ディーン】

拷問、違法な拘禁、戦時捕虜への非人道的な処遇、強制的失踪の禁止などを禁じた様々な人権条約の法的な管理者である国連が、紛争地帯におけるテロとの闘いを根拠に、ますます多くの国が国連の諸条約違反を正当化するようになってきていることを問題視している。

ヨルダン出身のザイド・ラアド・ザイド・アル・フセイン国連人権高等弁務官は、暗に大国のあり方を批判して、「戦争がそれを許すから拷問するのだ。不快なことだがテロ対策に必要だから自国民に対するスパイ行為を行うのだ…。こうした論理が今日の世界には溢れかえっています。」と単刀直入に語った。

「地域社会のアイデンティティや自分の生活様式がこれまでになく脅かされているから、新たな移民は望まないし、マイノリティを差別するのだ。他人が私を殺そうとするから、他人を殺すのだ…。こういう論理が長々と続いていきます。」

ワシントンDCにある「ホロコースト記念博物館」で2月5日に講演したフセイン氏は、全ての人々にとっての人権と基本的自由への関心に導かれた「深く人々を鼓舞するようなリーダーシップ」を世界は必要としていると語った。

「私たちは、全ての差別、多くの人々からの剥奪、戦争における残虐行為と行き過ぎを禁じるために策定された全ての法と条約を、一切の口実を設けることなく完全順守するような指導者を必要としています。そうして初めて、私たちは、迫りくる重大で一見したところ出口が見えない現在の危機から抜け出すことができるでしょう。」

昨年、米中央情報局(CIA)は、水責めや睡眠の剥奪、身体的苦痛等を伴う「強化尋問技術」をテロ容疑者に対して用いていたとして非難された。

アフガニスタンやイラク、シリア、リビア国内で空爆を実施してきた西側諸国は、数多くの民間人の殺害を「コラテラルダメージ(=予期せぬ巻き添え被害)」だとして正当化し、批判をかわしてきた。しかしこれらの国々は、国連総会や安全保障理事会の場では、人権や民間人の生命がいかに神聖なものであるかについて説き続けているのである。

他方で、ヨルダンやパキスタン、サウジアラビアのように、テロとの闘いの一環として、テロリストを死刑に処したり、ブロガーや反体制活動家らを公開むち打ち刑に処したりすることを正当化している国々もある。

イスラム過激派組織『イラク・レバントのイスラム国(ISIL)』は、同勢力に対する空爆連合にヨルダンが加担しているとしてヨルダン空軍のパイロットを残虐な方法で殺害して、国際的な非難に晒された。

ヨルダン政府は、パイロット殺害への報復として、アルカイダとのつながりがあるとされる2人の死刑囚を即刻処刑した。

あるヨルダン人は、(この政府の措置について)「目には目をだ」と発言したとされる。

昨年12月、国連の193加盟国のうち117カ国が、死刑のモラトリアムを求める国連総会決議に賛同した。しかし、その後も処刑は続いている。

死刑に反対している国連の潘基文事務総長は、「死刑は21世紀にはあってはならないものだ」と述べている。

Mr. Javier El-Hage, International Legal Director Human Rights Foundation

米国の人権擁護団体「人権財団(The Human Rights Foundation)」の法務顧問であるハビエル・エル=ハージュ氏は、IPSの取材に対して、「私たちは、現在と過去における『世界各地にみられる最悪の紛争や残虐行為の原因』との闘いにおいて、国際社会が恩恵を得られるであろう2つの対抗手段、すなわち「よりよいリーダーシップ」「世界的に教育のありかたを見直すべき」をとする、ザイド・フセイン国連人権高等弁務官の呼びかけを称賛します。」と語った。

特に、リーダーシップの問題に関して、ザイド・フセイン氏は、国際人権諸条約を完全順守し、「全ての人々の基本的自由への関心に突き動かされた」指導者が出てくることへの期待を述べた。

一方、教育の問題についてザイド・フセイン氏は、「『偏見や狂信的愛国主義がどのようなものであるか』『それらがどんな悪弊をもたらすのか』『(そうしたプロパガンダへの)盲従がいかに邪悪な目的のために当局によって利用されるのか』について、あらゆる地域の子どもたちが教育される必要があります。」と語った。

「人権高等弁務官が指摘しているように、人類最悪の残虐行為は、国民の一部あるいは多数を代表する頑迷で狂信的に愛国主義的な権威的指導者によって引き起こされたものです。そうした指導者は、反体制的とみなした独立メディアを弾圧して教育と情報の独占を達成することで、急進主義的な経済政策、国民主義的、人種主義的、あるいは宗教的に過激な政策を、少数派やあらゆる種類の反対者の権利を踏みにじる形で推進したのです。」とエル=ハージュ氏は付け加えた。

Wikimedia Commons

たとえば、国家主義的、民族主義的、あるいは宗教的に過激な政策は、ドイツにおいてはユダヤ人に対してソ連においてはウクライナ人に対してトルコにおいてはクルド人に対して、また、南アフリカのアパルトヘイト体制下においては黒人に対して、そして奴隷制廃止までは西側社会の大部分において黒人に対して、採られたものである。

こうした差別主義的な政策は、今日でも依然として、中国においてはウイグル人チベット人に対して、中東各地においては宗教独裁の下でキリスト教徒や少数派のイスラム教徒に対して実行されている。西側民主主義国に親和的なサウジアラビアヨルダンのような国においてもそうだし、親和的でないイランやシリアのような国においてもそうである。

ザイド・フセイン氏は、「国際人権法は、人類による残虐非道の経験を経て生み出されたものであり、再発を防止する救済手段にほかなりません。」と指摘したうえで、「しかし今日、指導者らは往々にして意図的に国際人権法を侵犯する選択をしています。」と苦言を呈した

ホロコースト後の数年間、特定の条約に関する交渉がなされ、人権を擁護する法的義務へと高められました。世界中の国々がそれを受け入れたが、現在は残念なことに、あまりにも頻繁に法が破られています。」

ザイド・フセイン氏は、子どもに対する攻撃や、(ザイド・フセイン氏と同じヨルダン人)同胞であるパイロットのムアズ・カサースベ氏のISILによる野蛮な焼殺などの残虐行為に対する暴力的な報復は、限定的な効果しか生んでいない、と指摘した。

「単にISILを爆撃したり、資金源を断ったりするだけでは、明らかに効果はあがっていません。なぜなら、これらの過激派テロ集団は依然として拡大し、勢力を増しているからです。必要なのは別の種類の戦線、すなわち、思想を基盤とし、もっぱらムスリム指導者やイスラム教国による新たな戦線を構築することです。」

またザイド・フセイン氏は、他の国々における主要な市民権・政治的な権利に対する波及効果について、「多くの国々において、検討不足の、あるいは実に搾取的な対テロ戦略の重圧のもとで、反対意見が述べられる空間が崩壊しつつあります。こうした中、人権擁護活動家からは大きな圧力に晒されています。彼らは、基本的な人権を平和的に擁護しようとするだけで、逮捕・収監、あるいはそれ以上の弾圧を加えられるリスクに直面しているのです。」と指摘した。

UN General Assembly/ Wikimedia Commons
UN General Assembly/ Wikimedia Commons

HRFのエル=ハージュ氏は、IPSの取材に対して、「20世紀を通じて、旧ソビエト連邦と衛星国の指導者らは、単一政党が支配する国家機構を作り上げました。そして強力なプロパガンダ機能を備えたこうした一党独裁体制の下では、オープンな教育や独立のメディアは存在せず、急進的な経済政策が推し進められ、国民の大多数が苦境に陥ったのです。」と語った。

「これらの権威主義的な一党独裁政権下では、大規模な飢餓のような大惨事を引き起こされました。それらは、ウクライナ飢饉のような、特定の少数民族に対する直接的で物理的な抑圧の結果ではなかったものの、基本的人権を否定し、小農や事業主の移動と資源へのアクセス、財産権、情報の自由、他者と協力しあう自由を国が統制することで、彼らが自立できる能力を制限する経済政策が引き起こしたものだったのです。」

「またこれらの国々では、党が大衆を救うという理念を謳いながら、実際にはその大衆の一員である個人を苦しめ、あまつさえ飢餓に陥らせることさえあったのです。」とエル=ハージュ氏は付け加えた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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