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平和実現と紛争解決に乗り出すアフリカ連合

【ニューヨークIDN=ジポラ・ムサウ】

紛争のないアフリカを実現することは全てのアフリカ人の夢だ。この記事では、現在の紛争地域、紛争の根本原因、そしてアフリカ連合の取組み(Silencing the Guns)を分析している。オックスファムの調査によると、アフリカでは武力紛争により、毎年少なくとも50万人が死亡、数百万人が家を追われたり虐待を受けている。紛争を激化している主要因に小型武器の拡散があるが、その大半は政府ルートの武器輸入、犯罪組織による密輸(とりわけリビアのカダフィ政権崩壊後に大量の武器が流出し、テロ組織の手に渡った)だ。(原文へ)FBポスト

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世界が直面している緊急の保健課題

【ジュネーブIDN=ショーン・ブキャナン】

2020年初頭に世界保健機関(WHO)が発表した世界で緊急を要する課題リストは、保健関連の中核的な優先事項やシステムに対して指導者らが十分な投資をしてこなかったことへの深い懸念を示したものだ。ジュネーブに本拠を置くWHOは、このことで、人々の生命や生活、経済が危機に晒されていると指摘している。

国内総生産(GDP)の1%をプライマリー・ヘルスケアに投じ、より多くの人々が良質な基本サービスを利用できるようにすべきだと勧告するWHOは、世界各地の人々に影響を及ぼす幅広い問題を網羅した向こう10年間の優先課題を指摘している。

たとえば、気候変動を巡る議論にこれまで以上に保健衛生の視点を入れること、紛争地域や危機的状況にある地域に医療を提供すること、医療環境を清潔に保つこと、医療サービスを公正にすること、医薬品へのアクセスを拡大すること、感染症の拡大を食い止め、世界的な流行(パンデミック)に備えること、危険な製品から人々を保護すること、などである。

WHOは、「気候変動危機は健康危機である」として、大気汚染によって毎年推定700万人が死亡する一方で、気候変動によって異常気象が多発し、栄養不良を悪化させ、マラリアなどの感染症の拡大に寄与していると指摘している。地球温暖化を引き起こすのと同じガスが、心臓発作や肺がん、慢性的な呼吸器系障害による死亡の4分の1以上の原因となっているという。

WHOは、官民両部門のリーダーに対して、互いに協力して大気を浄化し気候変動が健康に及ぼす影響を軽減するよう求めた。2019年には、50カ国以上・80超の都市がWHOの「空気質ガイドライン」を順守し、大気汚染や気候変動関連の政策をそれに合わせることを公約した。WHOは2020年には、大気汚染が健康に及ぼすリスクを各国政府が予防・軽減するための政策オプション策定に向けて取り組むことになっている。

紛争地域や危機的状況にある地域に医療を提供することに関しては、2019年は、紛争が長引く国々において最高レベルの感染症対策が必要とされた年であった。また、医療関係者や医療機関が狙われる憂慮すべき傾向も続いた。WHOは、11カ国で医療関係者に対する攻撃が978件あり、193人が死亡したとしている。同時に、紛争によって記録的な数の人々が居住地を追われ、数多くの人々が、時には何年も医療を利用できずにいる。

WHOは、保健医療の問題は考慮すべき事柄の一部にすぎないと認識しており、究極的に必要なのは、①長引く紛争を解決する政治的解決策を見出すこと、②最も脆弱な保健システムを無視することをやめること、そして、③医療関係者や施設を攻撃から守ること、としている。

他方、世界の医療施設の推定4分の1が、保健システムが機能するために必要な基本的な上水道や衛生施設を欠いている。これにより医療サービスの質が低下し、患者や医療関係者への感染リスクが高まっている。このことは、世界で数十億人が、いずれも疾病の主要原因となる清潔な飲み水や適切な衛生設備を欠くコミュニティーで暮らす状況下で起こっている。

Photo Credit: climate.nasa.gov
Photo Credit: climate.nasa.gov

保健医療の公正を期すことに関して言えば、WHOは、根強い経済、社会格差の拡大が、人々の健康の質に大きな差をもたらしていると警告している。富裕国と貧困国との間には平均余命で18年の差があるだけではなく、同じ国や、同じ都市の中でも著しい格差がみられる。

同時に、ガンや慢性的な呼吸器障害、糖尿といった非感染症の世界的拡大が、低・中所得国に過大な負担をかけており、貧困層の資産を急速に奪う結果になっている。

WHOは、個人の健康上のニーズの大部分に対処するプライマリー・ヘルスケアを実践することが、不平等を解消する最善の方法の一つであるとして、すべての国々に対して、さらにGDPの1%をプライマリー・ヘルスケアに充て、人々が自宅近くでニーズに応じた基本的なサービスを利用可能にするよう提唱している。

これは、医薬品へのアクセスを拡大するニーズとも結びついている。世界の人口の約3分の1が医薬品やワクチン、診断ツール、その他の基本的な医療品を利用できないでいる。良質な医療品を利用しづらい環境では、患者が危機に陥ったり、薬物耐性が促進されたりするなど、健康や生命が脅かされる。医薬品やその他の医療製品は、ほとんどの保健システムにおいて、医療従事者の人件費に次ぐ第2の支出項目となっている。低・中所得国では、個人の医療費が支出の中で最も大きな部分を占めている。

WHOは、2020年には、世界規模での医療アクセス拡大に向けた重点課題を設けるという。たとえば、基準以下や偽造された医療品の取り締まり、低所得国がサプライチェーンを通じて質の高い医療品の確保を図るキャパシティビルディンクの強化、糖尿病など非感染症の診断・治療へのアクセス拡大などである。

WHO
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感染症に関しては、HIVや結核、ウィルス性B型肝炎、マラリア、それに、顧みられない熱帯病や性感染症によって、2020年には400万人が死亡すると推定されている。そのほとんどが貧困層である。他方、ワクチンによって予防可能な麻疹のような疾病で2019年には14万人が亡くなった。そのほとんどが子どもである。ポリオはほぼ絶滅状態にあるが、それでも昨年には156件が報告されており、2014年以来最大となっている。

その根本原因は、国からの支援不足と相まって、感染が広がる国々における予算不足と保健システムの脆弱さにある。

感染症の拡大や自然災害、その他の健康上の緊急事態などへの事後的な対応に毎年かけている額は、その予防にかける額よりもはるかに多い。

WHOによると、インフルエンザのような、新型で、感染力が高く空気感染するタイプで、ほとんどの人々に免疫がないようなパンデミックが発生することは不可避であるという。それは、新たな感染症が発生するかどうかの問題ではなく、それがいつ起きるか、起きた場合はどのぐらい急速に広まるか、という問題なのだ。それによって数百万の人々の命が危険に晒されるかもしれない。虫を通じて媒介されるデング熱やマラリア、ジカ熱、チクングニア熱、黄熱のような病気は、気候変動によって増えた蚊が新しい地域に移動することで拡大する。

しかし、人々の健康に世界的影響を及ぼすのは、そうした病気だけではない。食料不足、危険な食料、不健康な食事もまた、今日の世界における疾病原因の3分の1を占めている。

飢餓と不安定な食料供給が数多くの人々を苦しめている。食料不足は戦争の手段としても利用されてきた。同時に、砂糖や飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、塩を含む飲食物を消費することで、体重が増えすぎ、食料に関連した病気も世界中で増えている。

WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は、「健康問題が開発に及ぼす影響は広範囲にわたるため、保健衛生を守るのは所管大臣だけの問題ではありません。」「より健康な世界を実現するための近道などなく……私たちは、世界の指導者たちに約束を果たさせねばなりません。」と述べ、保健衛生システムの不備に対処し、最も脆弱な国々を支援するための資金拠出を増やすよう呼びかけた。

テドロス事務局長は、各国の保健衛生に対する関心を平和・安全保障に対するものと比較して、「多くの国々はテロ対策には積極的に多額の予算をかけるが、感染症の方がより致命的で経済への打撃が大きいにもかかわらず、ウィルスの拡大阻止にはあまり予算を割り当てようとしません。」と指摘した。(原文へ)

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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著名なロシアの大学が創立60周年を迎える

【モスクワIDN=ソマール・ウィジャヤダサ】

戦後独立したアジア・アフリカ・ラテンアメリカ等の若者を受入れ、国連や各界の指導者を輩出してきた「ロシア諸民族友好大学(今月創立60周年)」について、「ミニ国連」とも称されるそのユニークな歴史と功績を分析した、ソマール・ウィジャヤダサINPSコラムニストの分析。国連諸機関(IAEA,UNESCO,FAO,UNAIDS等)の職務を歴任してきたウィジャヤダサ氏は2010年にユネスコ金メダルを授与された母校について、教育が子供に授けることができる最大の贈り物だとするならば、「同大学は150万人の(多くが)途上国出身の有望な若者たちに、掛け替えのない機会を提供した希望の灯であった。」と振り返った。(原文へ) FBポスト

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【ダルエスサラームIDN=キジト・マコエ】

アブドゥルさん(仮名)の店は、ダルエスサラームの活気に満ちたシンザ地区にある。彼は自分の店でプラスチックの椅子に腰掛け、液体と棒でできている小さな検査キットを心配そうに見つめていた。

「HIVに罹っているかどうか知りたいんだ。」と、アブドゥルさんは時計に目をやりながら語った。

この28歳の小売店主は、ほんの少し前に、プラスチックの綿棒を上の歯茎に滑らせて液体を付け、検査キットに差し込んだばかりだった。

数分後、1本か2本の線が現れて、検査結果を教えてくれることになる。

幅広い消費財を商っているアブドゥルさんは、HIV感染の有無を把握する人々の数を増やすことを目指している政府政策の一環として、無料のHIV自己検査キットを与えられた一人である。

保健省によると、12月に2万9000人に自己検査キットが配布され、1万7000人が実際に使用したとみられるという。

口腔粘膜からのサンプル、あるいは指先から採取した血液を使用するこの自己検査キットは、個人が慎重にHIV感染の有無を検査できる最良の方法である。20分もすれば、検査結果がわかる。

HIV/AIDS感染者に対するスティグマ(烙印)を抑制できるかもしれない「命を救う新技術」をタンザニア政府が採用しつつあるという積極的な兆候があるなか、HIV/AIDSとの闘いを一歩前進させる動きとして楽観的に捉える市民が出てきている。

「HIV検査を受けることを恥だとは思いません。だから自分でやることにしました。」とアブドゥルさんは語った。

タンザニアのジョン・マグフリ大統領は昨年12月、HIV/AIDSに関する新法に署名し、親の同意なしにHIV検査をできる年齢を15歳に引き下げた。

同国のウミー・ムワリム保健相は、「HIV/AIDS自己検査によって、人々は自分の感染状況について知ることができ、必要ならば命を救う治療とケアを受けることができます。この動きは、エイズ拡大を2020年までに食い止める『90-90-90目標』達成へのペースを速めることになるだろう。」と語った。

「90-90-90目標」は、エイズ拡大を終わらせるために国連が設定した野心的な治療目標である。2020年までに、世界中のHIV感染者(自分の感染を知らない未診断者+既診断者)の90%が検査を受けて自らの感染を自覚し、そのうちの90%が抗レトロウィルス治療を受け、さらにそのうちの90%が治療の効果で血中のウィルス量を抑制する、というものである。

アフリカにおけるHIV/AIDS対策は進みつつあるが、多くの人々は、検査後の結果で悪い評判が立つことを気にして、検査に乗り気ではない。

90–90–90: Treatment for all/ UNAIDS
90–90–90: Treatment for all/ UNAIDS

自己検査は、HIVに感染しているがその事実を知らない人々に手を差し伸べ、エイズ感染の拡大を食い止めるという世界目標を達成するための革新的な方法だと考えられている。

HIV/AIDS対応に関する持続可能な開発目標(SDGs)の根本原則は「誰も置き去りにしない」というものだ。国連は、エイズ対応に特に関連のある10の目標達成に向けて活動している。

「自己検査の取り組みは、自身がHIVに感染しているかどうか知る人々を増やすことで、HIV/AIDSの蔓延を反転させる可能性を持っています。」と、ムワリム大臣は語った。

2018年時点で、タンザニアには約160万人のHIV感染者がいる。これは感染率4.6%に相当する。国連合同エイズ計画(UNAIDS)の統計によると、2018年にあらたに7万2000人がHIVに感染し、2万4000人がエイズ関連の疾病で死亡したとみられる。

Map of Tanzania
Map of Tanzania

こうした数字にも関わらず、タンザニアはこの10年で、抗レトロウィルス治療の普及を図ることで、エイズ感染抑制に効果をあげてきた。

ムヒンビリ国立病院の公衆衛生の専門家デウス・キタポンジャ氏は、「HIV自己検査は、治療の必要性を発見し実際に開始するうえで重要な出発点となります。調査によると、低所得層の多くが、自身のHIV感染状況について知らないという結果が出ています。自己検査キットによって、治療を加速し、感染を抑えられる可能性があるのです。」と語った。

アフリカはHIV/AIDSに関して世界の中でも重い負担を負っている。2017年の東部・南部アフリカ地域における新規HIV感染者は80万人で、2010年当時と比べると30%減っている。この地域に暮らすHIV感染者の総数(2017年)は、推定1960万人で、そのうち110万人が未成年とみられている。

タンザニアでHIV検査を阻む障害の一つが、個人情報保護への懸念だ。

SDGs Goal No. 3
SDGs Goal No. 3

「自ら望んでHIV検査施設に行く人はほとんどいません。」とキタポンジャ氏は語った。

一方、HIV自己検査の利用に関する最近のデータは、感染状況について知る単純かつ慎重な方法が利用できることで、検査を受ける人数を大幅に増やせる可能性を示唆している。

HIV検査に関する世界保健機構(WHO)のガイドラインによると、HIV検査に関する消極的な態度を改めさせるために、自己検査の役割に関する証拠を収集・整理してパイロット事業を行うよう、各国に要請されている。

しかし、公衆保健の専門家であるアリ・ムジゲ氏によれば、この方法だけでHIVに関する完全な診断は下せない、という。

「自己検査で陽性反応が出たら、その人はHIVに感染していると言えるかもしれませんが、診断を確定し、その患者が治療とケアを受ける必要があると判断するにはさらなる検査が必要です。」とムジゲ氏は語った。(原文へ)PDF

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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【ジュネーブIDN= ムクヒサ ・キトゥイ 】

ムクヒサ ・キトゥイ国際連合貿易開発会議(UNCTAD)事務局長による視点。世界から飢餓を削減し食の安全保障を確保するうえで、貿易が果たす役割を一層重視すべきと訴えている。昨年、世界人口の1割にあたる8億2000万人が飢餓状態に陥り、約20億人が食料不足を経験した。(原文へ)FBポスト

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アジアの「性産業」における搾取の構図

【HIV/AIDS研究事業現地取材からの抜粋】

アジア各国の社会は、売春業に携わる者を伝統的な社会秩序を乱すものとして差別し、エイズ対策においても、売春業従事者の人権の保護というよりも、むしろ善良なる一般人口を売春業従事者によるHIV/AIDS感染の脅威から如何に守るかという視点の方が支配的である。

これは、青少年達を売春業に追いやる社会的・文化的プッシュ要因や青少年を「性的商品」として搾取し続ける「性産業」そのものを支えている社会の「買春需要」に対して十分な認識がなされていないためと考えられる。

今後、効果的なエイズ対策を志向するには、売春業従事者への取締り・管理といった表面的な対策にとどまらず、旺盛な買春需要を背景に青少年達を売春業従事者をして「消費」しながら成長を続ける「性産業」の搾取の構図を把握していく必要がある。


売春業の分類

アジアの青少年達は各地の社会・文化的土壌における様々なプッシュ要因とプル要因を背景に、売春業へ引き込まれている、その入り方としては主に次の3通りに分類できる。

1.個人の自由な選択、或いは性解放の権利を行使する形で売買春を選ぶケース

人口の大半を占める貧困層においてこのようなケースはかなり稀である。一方、近年の経済成長を背景に出現した中流階級の子女の中には、インドネシアにおけるペレック(Perek)などのように、伝統的規範と決別しマスメディアの書き立てる物質主義的な風潮に追随して一種のファッション感覚で売春行為を行う者もいる。 

また、日本に始まった「援助交際」(注1)という一種の売春形態も近隣の台湾・韓国に広がりをみせている。これらの売春形態は概ね個人的な活動であり強制や暴力にもとづくものではないが(注2)、「性産業」からすれば格好の「労働人口予備軍」である。

なお、彼女達はエイズを含む性感染症のハイリスクグループであるが、普段は一般社会に溶け込んでいるため、感染予防・抑制対策は極めて難しい。また、犯罪に巻き込まれる危険性も高い。

2.経済的困窮や両親・家族を扶養する道徳的義務感・圧力等から他に職業の選択の余地無く売春を選ぶケース

これが最も一般的なケースである。ただし、売春業に引き込まれてからの労働条件・待遇は、営業所・オーナーごとに千差万別である。多くの国において非合法とされる売春行為に携わる彼女達には労働者としての権利が法的に保証されないことを背景に、雇用者側による搾取に晒されるケースが多い。エイズをはじめとする性感染症に感染するリスクは極めて高く、その度合いは、客数のノルマやコンドームの使用を顧客に対して求められるか否か等、彼女達の自由度が制限されるほど(=搾取の度合いが大きいほど)高くなる。一方、売春宿や「性的サービス」を提供する各種事業所(注3)に所属せず、個人で売春を営む者も少なくない。

3.誘拐、借金のかたとして、或いは騙されて「性産業」に売られ、暴力と監視の下で売春を強いられるケース

「性産業」における経済原理が最も前面に出た「現代の奴隷制」ともいえる最悪の搾取形態である。この場合、売春人の自由意志は全く認められず、オーナーとなる雇用主の下で使い捨ての「性的商品」として極限まで搾取される。その労働環境や労働条件は劣悪で、労働時間や顧客(あるいは顧客の性的趣向)を選択する権利は売春人には認められない。そのため、エイズをはじめとする性感染症に感染するリスクは極めて高い。また、強制に伴う拷問や虐待などで様々な健康障害に罹り死に至るケースや、状況に絶望して自殺を選択する犠牲者も少なくない。

近年「性産業」においては、エイズの流行を背景に性経験の少ない(=感染リスクがより低い)児童に対する「需要」が高まっており、18歳未満の児童が犯罪的手段で「性産業」に引き込まれている(注4)。その手段は、あからさまな誘拐から、仕事の紹介を装った勧誘、偽装結婚、偽りの養子縁組、そして、年季奉公を装って借金のかたとして子供達を連行していくもの等、多岐にわたっている(注5)。さらに、人身売買のネットワークには国際的な犯罪組織が密接に関与している場合が多く、子供達は国境を越えて、より所得レベルが高い国々へ「輸出」(或いはより所得が低い国から「輸入」)されている。

「性産業」における売春婦のライフサイクル

「性産業」に引き込まれた女性のライフサイクルは短く、多くが10代半ばで売春婦に仕立て上げられるが、HIV/AIDS感染を含む性感染症の感染リスクに悩まされながら加齢と経験に伴って急速に市場価値を失い(注6)、20代前半には後続の若い売春婦に対抗できず、売春産業の経営者から捨てられる。そして、社会の偏見に晒されながら他の選択の余地もなく、「性産業」周辺の様々な職種につきながら、私娼としてより感染リスクの高い売春行為を継続していくものが少なくない。ここでは、HIV/AIDS感染リスクとの相関関係を考察しながら、「性産業」における売春婦のライフサイクルを段階別に概観する。


1.Initiation:(「性産業」への導入:10代前半~中頃)

少女達が前項の様々な経緯から「性産業」に連れてこられて、最初に買春顧客をあてがわれることをInitiationと言い、この時点から少女達の売春婦としてのライフサイクルがはじまる。「性産業」に連れてこられる少女達の多くは10代前半から半ばの性経験の無い、あるいは少ない少女達である。彼女達「新入り」は、近年のHIV/AIDSの流行を背景に、性感染症と縁がない“Clean and disease-free”な売春婦として市場価値が高まっており、「性産業」に投入されて数ヶ月間は、若い未経験な少女を求めて買春顧客が殺到する。中でも処女は、性感染症感染リスクが皆無ということで高値で取引されている(注7)。

しかし現実には、感染リスクが少ないとの安心感から、買春顧客がコンドームの使用を拒否するケースが最も多いのも、この交渉知識も満足にない若年層の売春婦達である。皮肉なことに、売春婦にとってHIV/AIDS感染リスクが最も高いのがこの「性産業」への導入時期である。

「プノンペンのある高級ホテルでは、13歳から15歳程度の処女がホテルのスイートに宿泊中の顧客のもとに宅配されてきており、顧客は数日から1週間程度、性感染症への感染を気にすることなく買春をしている。その間、少女は暴力団の監視があるためホテルから逃げられない。このような処女の相場は$500で、Initiationを終えた少女達は、その後2ヶ月は1回の買春料金が$10、3ヶ月以降は$5からビール1杯相当へと急速に市場価値が落ちていく」(Sam, Hotel Manager)

2.Seasoning:(「性産業」による売春婦の抵抗意思の破壊:10代前半~中頃)

「性産業」に引き込まれる少女達の背景は様々で、中には売春婦をさせられることを知らされず売春宿に騙されて連れてこられた者や、「性産業」で働くことは漠然としたイメージとしては捉えていても、実際に顧客を取らされて始めてその実態を把握した者など、自分が新たに置かれた境遇・条件に対して抵抗を示すものも少なくない。この段階で「性産業」が用いるのがSeasoningというプロセスで、少女達の過去のアイデンティティーとそれに起因する抵抗意思を徹底的に破壊し、買春顧客へのサービスに徹する「性商品」へと仕立てるべく、様々な精神的・肉体的圧力を加える。

代表的な手法としては、1)監禁・強姦を繰り返し、「自分は元の生活には戻れない価値のない人間」と思い込ませる(注8)、2)本人の殺害や家族へ危害を加えることを仄めかす、3)逃亡や反抗した他の売春婦を拷問にかけてみせしめとする(注9)、4)麻薬中毒にして自己決定力を麻痺させる(注10)、などがある。また、「性産業」は、少女同士の団結・抵抗を回避するため、売春婦の一部を密告者に仕立てて監視・反目を煽ったり(注11)、他の売春宿への転売を頻繁に行う(注12)。

3.Acclimatization:(新たな環境への適応:10代前半~20代前半)

新たな環境から逃げ出せないことを悟った少女達は、生きていくために必死に環境への適応を試みるようになる。この時点で「性産業」側によるSeasoningプロセスは完成し、少女達は従順な「性商品」として経営者の言うままに買春顧客へのサービスを実施していく。売春宿に監禁されている売春婦達の労働環境は施設によって様々だが、一般に過酷で、ほとんど休みを与えられず、休日には通常より多くの客をとらされるところも少なくない(注13)。

また、売春婦の妊娠は経営者にとっては営業に大きく差し支えるため、ピルをはじめ様々な薬を投与して妊娠しないように管理をする。それでも妊娠した場合は、強制的に堕胎手術を受けさせ出来るだけ早期に売春婦を職場に復帰させる(注14)。また、HIV/AIDSをはじめ性感染症に感染して病気の売春婦と出すことは店のイメージダウンに繋がるため、性病検査を定期的に実施して(注15)、HIV/AIDS感染の陽性者や病気が進行して明らかに買春顧客を獲得できそうに無い売春婦は即座に追放される。

このような過酷な環境に必死で適応し、借金の返済に努力しても、売春婦が性商品としての利用価値がある間は、「性産業」は様々な仕掛けを凝らして売春婦が自由の身になることを妨害する(注16)。こうしてほとんどの売春婦は、「性産業」側が売春婦の年齢や健康状態などから商品価値が無くなったと判断するまで、徹底的に搾取される傾向にある。

このような環境では、コンドーム使用に伴う摩擦からくる痛みと、コンドーム使用に伴う性交時間の長さを嫌う売春婦も少なくない。カンボディアで取材した売春宿では、「10分経過するとオーナーがドアをノックし、15分以内に1人の客をこなせなければ後でひどく殴られる」と回答している。

4.Survival:(「性産業」ピラミッドを落ちてゆく中での葛藤:20代前半~)

「性産業」における苛酷な環境を生き抜き順応した結果、せっかく経験と知識を習得しても、今度は続々投入される後続の若くて新しい売春婦の追い上げを受けることになり、加齢と長年の不健康な環境による肉体的な衰えから、相対的に買春顧客の需要は下がっていく一方になる。売春宿は一般に、売春婦の若さと未経験さを売り物としているため、彼女達は20代の前半で、売春宿を放逐されるが、他の正業への就職が見込めないことから、さらに収入の少ない「性産業」周辺の各種職業に転職し、私娼として生計を繋ごうとするものが少なくない。

またこの傾向は、「性産業」ビラミッド全体に見られる傾向で、「高給ナイトクラブ」「マッサージパーラー」「カラオケバー」における売春婦も20代前半には相対的により悪条件の施設へと移籍を余儀なくされるものが少なくない(注17)。そして、買春市場における商品価値が低下し生活環境が悪化していく中で、競争相手となるより若い売春婦に対抗するため、HIV/AIDS感染リスクがより高いサービス(コンドームなしの性交渉、肛門性交等)を提供せざるを得ない状況に追い込まれていく傾向にある。

一方、売春婦の中には、稀に「性産業」の構造を習得し、経営側の信頼を獲得して郷里に後続の売春婦をリクルートに行くなど、搾取される立場から搾取する側の中間職に立場を代えて生き残り、30代に入っても「性産業」で活躍するケースもある。ただし、全体から見ると、このような選択肢を獲得できる売春婦はごく僅かである。

(現地取材班:INPS Japan浅霧勝浩、マルワーン・マカン・マルカール)

注1:メコン地域の観光地、リゾート地では女性が現地の少年を買春する形態もみられるようになった。そのような買春女性観光客においても日本人女性は主要な一角を占めており、タイ・カンボディアでは通称「イエローキャブ」と呼ばれている。

注2:援助交際の動機は、「家が困窮の果て自分が犠牲となって」という日本において60年代頃まで見られた家庭の事情によるものはほとんどないが、家庭内の不和、両親の離婚、性的虐待、学校でのいじめ、などから家出した少女達が生活をしていくために売春を行うケースも少なくない。「援助交際」は小遣い欲しさに少女達が気軽に売春を行っているというイメージがマスメディア等を通じて先行しがちであるが、家庭にも学校にも居場所を失った青少年達が、自分の価値と癒しを求めて、様々な犯罪に巻き込まれていっているという社会の閉塞的な現状にこそ着目すべきである。


注3:ナイトクラブ、ビアガーデン、エスコートサービス、レストラン、マッサージパーラー、理容室等、国・地域によって様々であるが、当局の取締りに対応して間接的な売春システムへと潜在化してきているのが近年の傾向である。

注4:就労のための法的資格が与えられていない子供たちは医療や社会福祉サービスを受けることができない。また、親が借金するために子供を売った場合、子供たちには移動にかかる費用などさまざまな手数料を含め多額の借金が課され、それを返済するため雇用主に酷使される。借金に付け加え、法的支援や滞在資格のない子供たちにとって、助けを求めることは極めて困難といえる。

注5:人身売買にはブローカーや警察当局、移動や雇用の調整役、さらには親類・友人が関与しているケースも多い。(ILO 2001)。

注6:通常の職業では、経験と知識に応じて業界における地位と生活待遇が向上し、キャリアの階段を登っていくものであるが、「性産業」の世界では「性商品」としての若さと未経験さが顧客の需要を左右するため、売春婦達は、労働力として市場に投入された時点から、キャリアの階段を降下していくよう運命付けられている。欧米諸国では、売春婦の経験はポジティブに捉えられる傾向もあるが、概してアジア文化圏では、性経験が乏しく男性の前で従順な女性像が評価される傾向にある。従って、性経験に長けた女性はかえって顧客に疎まれる傾向にある。

注7:タイ-ミャンマーの国境メーサイは処女の買春で有名なところで、1人当たり数百ドルの値段で取引されている。処女との性交については、アジア全域において様々な誤った風評が信奉されており、このように処女買春を目指してメコン地域の売春宿を訪れるものが後を絶たない。それらの風評の中には、「処女と性交することにより若い力を吸収し寿命を延ばすことができる」とか「処女と性交することによってエイズを治すことができる」などがある。

注8:アジアの伝統的価値観である、未婚女性の純潔を強調する「性の二重基準」を逆手に利用した手法で、女性自身、「強姦」を繰り返されることで、「性産業」側が仄めかす「自分にはもう結婚する価値がない」「汚れた女として故郷で差別される」等の偏見を信じ込んでしまい新しい状況を受け入れてしまう傾向にある。

注9:「売春宿のオーナーに接客を拒否して陰部に硫酸を撒かれて拷問をうけた娘、激しい拷問と殴打で惨い姿にされた娘、胸や乳首にタバコの火を押し付けられて接客を強要された娘……私は売春宿で不幸な娘達を見てきた」(Sunita、2歳の娘と共に売春宿に売られた人身売買の犠牲者)

注10:売春婦に対して麻薬やアルコールの習慣をつけさせる売春宿の経営者は少なくない。なぜなら、麻薬によって判断能力が麻痺した売春婦は、より多くの買春顧客をこなすことができるし、麻薬やアルコールにかかる費用を借金に上乗せしてさらに長期間売春婦を拘束する2重のメリットがある。また売春婦の方も、麻薬やアルコールで、悲しみや怒りなど自分の感情を麻痺させたり押し殺したりして、やりきれない状況を乗り切ろうとする。このような環境の中で、精神に異常をきたす売春婦も少なくない。

注11:売春婦は常に競争関係にあり、借金を返すために買春顧客を確保することは死活問題である。特に年長の売春婦は若い新顔と比べて不利な立場にある。経営者はこの心理を利用して比較的年長の売春婦を密偵にしたてあげ、売春婦間の反目を煽るよう仕向ける。

注12:買春顧客は、若くて新しい売春婦を求める傾向にあるため、売春宿間における売春婦のトレードは、売春婦を更に精神的に不安定で孤独な状況に追い込むと同時に、顧客に対して「新顔」としての新戦力を提供し続ける点で2重のメリットがある。同様の理由から、日本に送られてくるタイ人やフィリピン人売春婦達も全国のスナックを転々とさせられる傾向にある。

注13:365日24時間営業しているところ、生理中も注射を打って働かせているところ、ホルモン剤を投与して実年齢より大人に見せかけて子供に売春を強要しているところ等、安さと若さを看板に掲げている売春宿としては、性商品である少女達から極限まで収益を得ようとする。また、下級クラスの売春宿ほど、経営者にとっては買春客の回転率が重要となってくるため、売春婦には1人の顧客の性的欲求を短時間に処理して多くの数をこなすことが要求される。

注14:タイの事例の中には、妊娠5ヶ月で堕胎手術を受けさせられ、4日後には客を取らされていたものもあった。少女達は10代で妊娠・堕胎を繰り返し、様々な性感染症にも罹るため、生き残って売春宿を出ることが出来ても、不妊症になっているケースが少なくない。過酷な売春宿での環境は、少女達の心と体に一生に渡って深い傷を残す。

注15:HIV/AIDS検査をはじめ性病検査を実施するところは比較的買春料金のレベルの高いところで、レベルが落ちていくに従って実施される可能性は低くなる。

注16:カンボディアの事例の中には、売春宿の経営者が借金返済直前の売春婦を買い物に使いにやり、その途上暴漢に襲わせて重症を負わせ、その治療費を借金に上乗せして再び売春宿に縛ったケースがあった。また、日本でタイ人女性がスナックのママを殺害した「茂原事件」のように、経営者が恣意的に売春婦に罰金を科して、借金返済を不可能にしていたケースもある。

注17:例えば、高級ナイトクラブやマッサージパーラーでの活躍年齢は10代後半から20代前半、その後は、時給収入では圧倒的に低い伝統式マッサージ嬢(20代後半から30代前半)、ゴーゴーバーやディスコのフロア嬢(20代後半まで)、30代以降は「性産業」関連施設の掃除婦、雑事係など、職種は限られている。

INPS Japan浅霧勝浩

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ガーナ帰還年が奴隷制の全容に目を向ける契機となるか

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

ガーナのナナ・アクフォ=アド大統領が2019年を「ガーナ帰還年(Year of Return, Ghana 2019)」にすると発表した際、アフリカン・ディアスポラ(世界各地に離散したアフリカに起源を持つ人々)は、この宣言を歓喜をもって迎えた。

2019年は、英植民地であったバージニア州のポイント・コンフォートに1619年に到着して400周年にあたり、「ガーナ帰還年」では、コンサート、美術展、映画の封切り、クリエイティブ・エコノミー、トレードショー等様々な記念イベントが、年間を通じて開催された。

 「これまでのところ、アクフォ=アド大統領の呼びかけは大成功を収めています。」と、ガーナの作家でジャーナリストのクワベナ・アグヤレ・イェボア氏は『アフリカン・アーギュメント誌』の電子版で述べている。

Map of Ghana
Map of Ghana

2019年の1月から9月の間にガーナを訪問した米国人は前年比26%増で、史上最高を記録した。

また同時期に、ガーナを訪問した英国人(24%)、ドイツ人(22%)、南アフリカ人(10%)、リベリア人(14%)も軒並み前年比で増加している。報道によれば、ガーナは2019年全体で80万件のビザを発行した。また今週(2020年1月中旬)には、高い需要に対応するため、2月にガーナに入国する全ての国籍の来訪者に対して、到着時にビザを取得できる措置を発表した。

アグヤレ・イェボア氏は、「(ガーナ帰還年事業は)多くの意味で称賛に値する取り組みだったとは思います。しかし、もっとできなかっただろうか?米国を主な対象に大西洋奴隷貿易にのみに焦点を当てたことは、許容されるべき欠点だったということになるだろうか?あるいは、これによってガーナの奴隷史に関する極めて重要な側面や遺産が消し去られてしまったのではないだろうか?」と述べている。

「ここで欠落しているのは、1250年以上にわたって、ソコトやボルヌから輸出された人々を含む推定6~7百万人におよぶアフリカ人が、北アフリカ、欧州、中東に奴隷として強制連行された『サハラ縦断交易』です。」と、アグヤレ・イェボア氏は主張している。

アグヤレ・イェボア氏は、「こうした奴隷制度という負の遺産は、今でもアフリカ北西部のモーリタニアで顕著にみることができます。同国は奴隷制を1981年に公式に廃止したものの、現地活動家らの推計では今でも人口の20%(すべてが少数民族の黒人)が奴隷状態に置かれているのです。」と指摘したうえで、「こうした境遇に置かれているアフリカ人の子孫に帰還を呼びかける声は、いったいどこにあるのか?(帰還年が焦点をあてた)アフリカ人(奴隷)の子孫は、アメリカ人やジャマイカ人、キューバ人、ブラジル人の他にもいるのではないか?」と問いかけている。

アグヤレ・イェボア氏は、「奴隷制の歴史に全面的に向き合うのではなく、選択した一部の地域(=アメリカ大陸)に暮らすアフリカ人奴隷の子孫のみに焦点をあてたのでは、信憑性を失なってしまいます。」と非難したうえで、「一年間にわたって展開されたこのキャンペーンは、本来ならば、アフリカ人とアフリカ人の子孫の全体的な歴史について正面から向き合う機会があったはずです。この点に関して、もっと取り組んでいかなければなりません。」と語った。(原文へ)

Slave trade in medieval Africa/ Runehelmet derived from Aliesin - File:Traite_musulmane_medievale.svg, CC 表示-継承 3.0
Slave trade in medieval Africa/ Runehelmet derived from Aliesin – File:Traite_musulmane_medievale.svg, CC 表示-継承 3.0

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震災から10年のハイチに国連が懸念

【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】

10年前の1月12日にハイチを襲った壊滅的な地震によって国連職員102人を含む数十万人のハイチ市民が命を落とし、数百万人が被害を受けた。

国連人道問題調整事務所(OCHA)の最近の報告によると、この震災は人類史上最も被害の大きかった震災ワースト10に入るという。にもかかわらず、昨年2月に始まった1億2600万ドルの人道支援計画に対して、まだ32%の資金しか提供されていない。OCHAによれば、この比率は世界最低であるという。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、ハイチ地震10周年のビデオメッセージで「震災を乗り越えようとする民衆の強さと多くの友人からの支援」を称賛した。しかし、OCHAの報告書によると、低成長率や高いインフレ率、基本食料品の高騰など、2019年の経済悪化状況が、ハイチの人々の生活に悪影響を及ぼしている。

Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain
Antonio Gutierrez, Director General of UN/ Public Domain

マイナスの影響はいまだに続いている。OCHAは12月27日、十分な食料を得られないハイチ国民は、2019年の370万人から、2020年には400万人超になりそうだとの見通しを示した。

グテーレス事務総長は、「民衆の安寧と繁栄にとって重要な仕組みを強化しハイチが持続可能な開発目標(SDGs)を達成できるよう、国際社会の継続的な支援を確保する」とともに、「ハイチ国民が明るい将来を構築できるよう国連が支援していくこと」を改めて約束した。

しかし、OCHAが報告するように、高いインフレ率と基本食料品の高騰がハイチの人々の生活に悪影響を及ぼしている。同時に、治安の悪化と社会の緊張が高まり、援助関係者が大半の地域に足を踏みこめない状況にある。

結果として、食糧難に直面しているハイチ国民の数は、2018年の260万人から2019年には370万人へと拡大した。OCHAは今年3月までにこれが420万人へと拡大し、食料不足が「緊急レベル」に達する人は120万人に上ると予測している。

「状況は今後数か月も不安定なままだろう。これがハイチの経済を弱め、さらには、ハイチの最貧困層が基本的ニーズを満たす能力と、政府が基本的サービスを提供する能力を弱めることになる。」とOCHAは述べている。

OCHAはパートナーと共に、昨年1月~9月の間に45万5000人を支援した。しかし、資金難のためにそれ以上の支援は困難であった。

Map of Haiti
Map of Haiti

人道支援団体などは、2020年にハイチでさらに200万人以上を支援するために2億5200億ドルを集めたいとしている。全体としてみれば、ハイチの人口の4割に当たる460万人(その多くが女性や子ども)が緊急の支援を必要とすることだろう。

こうした状況を背景に、国連安全保障理事会は、ハイチのジョヴネル・モイーズ大統領と強まる反対運動の間の対立によって生まれた国内政治の行き詰まりを解決する必要性を強調している。

安保理は1月9日夜、民衆のニーズに対応する政権を結成すべく、包摂的でオープンな対話に入るよう関係者に緊急に求める声明を出した。

ハイチは、政情不安に加えて、燃料不足や汚職スキャンダルなどの難題に直面しており、これに怒った民衆らが街頭に繰り出す事態になっている。

「安全保障理事会の加盟国は、ハイチ政府が同国の不安定と貧困の根本原因に取り組む必要性を想起する。我々は、すべての当事者に対して、暴力行為に訴えず、平和的手段を通じて差異を解消するよう求める。」と声明は述べている。

声明はさらに、国連や国際社会の支援を得て、同国の悪化する人道状況に緊急に対処する必要性を強調した。

安保理はまた、暴力の激化に対応する行動を求め、責任者は処罰されるべきだと述べた。特に言及されているのは、2018年11月に首都ポルトープランス近郊のラ・サリーヌで起きた虐殺事件と、1年後にベルエアー地区で起きた武力衝突で約15人が亡くなった事件である。

「国連ニュース」が報じたところでは、安保理はまた、ハイチの関係者に対して、政治的安定と良好なガバナンスを強化するために国連がハイチ国内に設置した「国連統合事務所」を活用するよう求めた。

フランス語の頭文字をとって「BINUH」として知られる同機関は、15年に及んだ国連平和維持活動の終了を受けて、2019年10月に設置されていた。(原文へ)

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新通貨の導入案、6か国の反対でまったがかかる

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

西アフリカ諸国経済共同体(15カ国)で共通通貨を導入しようとする動きの最新展開を報じた記事。旧フランス植民地8カ国が通貨名を「エコ」として従来の共通通貨CFA(セーファー)フランからの移行準備をすすめようとしていたのに対して、主に英語圏の域内6カ国(ナイジェリア、ガーナ、ガンビア、ギニア、リベリア、シエラ・レオーネ)が、十分な審議が尽くされていないとして「まった」をかけた事態に陥っている。(原文へ)

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G20は核軍縮を議題とすべきだ(ハーバート・ウルフ ボン国際軍民転換センター元所長)

【ドゥイスブルク(ドイツ)IDN=ハーバート・ウルフ】

現在、気候変動と核戦争の可能性という2つの重要な動きが、文字通り、人類の生存そのものを脅かしている。多くの政府が確認しているにも関わらず解決策が立つ見通しはないが、気候変動の深刻さに関しては幅広いコンセンサスがある。環境に悪影響を与える政策に対して無数のデモが行われるなど、気候変動をめぐる議論は、少なくとも活発であるといえる。

これに対して、核災害のリスクについて、人々の意識からほとんど消え去ってしまった。平和運動と冷戦の終結によって少なくとも一時的には政策の大きな転換につながったが、今日では、前例のない規模の再武装化が始まっている。核弾頭の数は、冷戦終結時の7万発超から現在の1万4000発へと減ってきたが、世界を数度絶滅させるのに十分な量が残っている。

しかし、とりわけ、米国や中国、ロシアの核兵器近代化や、イスラエル・北朝鮮・インド・パキスタンのような国々の核戦力拡張は、武力紛争のリスクと核兵器使用の可能性を増してきた。

こうして、軍事支出は急拡大している。現在、年間で1.8兆米ドルを超すが、冷戦終結時に比べると既に5割増である。北大西洋条約機構(NATO)がさらなる予算増を要求し、中国が世界の国々にペースを合わせ、ロシアが近隣諸国に対して攻撃的な姿勢を示し、インドが中国に反応し、サウジアラビアとイランが中東で軍拡競争を演じている現状にあっては、これが私たちをいったいどんな状況に導くのかと心配するのは自然なことだろう。

ICAN
ICAN

気候変動と軍備政策との関連は、近年の戦争と暴力的な紛争、それらが引き起こす難民・移民の動き、そしてそれが生み出す反発に現れている。気候変動と軍備拡張のリスクはよく知られているが、この流れが反転する兆しはない。崖から飛び降りるレミングスのように、この2つの危機は、不可避と思われる惨事に向かって突き進んでいる。

部分的に機能していた多国間主義と、「ギブ・アンド・テイク」の精神による妥協で成り立っていた旧来の世界秩序は、国家主義的な野望と、飽くなき自己利益の追求に取って代わられた。こうした中で、気候に関する諸合意が疑問に付されるのみならず廃棄され、軍備管理に関する交渉の場やそれに伴う条約も失われつつある。

1980年代から90年代にかけて超大国の米ソ間で結ばれた軍備管理協定が時代錯誤的なのは間違いない。今日、制度的な敵対はもはや問題ではなく、野放図な軍拡競争が人類全体の脅威となっている。だからこそ、破局に向かう流れを逆転させるには、中国やインド、サウジアラビアといった地域大国を軍縮努力に加えなければならない。

今や、G20サミットがこうした目標を達成するための「自然な」フォーラムといえよう。G20のうち19カ国とEU諸国を合わせると、世界の軍事支出の82%にも及ぶ。G20は全ての軍事輸出のほとんどを占め、それらの国々の戦力には世界の核弾頭の98%が収められている。再軍備や軍拡競争すら行われている欧州や東南アジア、中東の地政学的な利益については、G20の議題となるだろう。

この排他的なクラブの加盟国はまた、地球温暖化に責任がある国々でもある。気候変動を否定する勢力もこのグループに見いだせる。米国、カナダ、ブラジル、アルゼンチン、メキシコ、ドイツ、フランス、英国、イタリア、ロシア、トルコ、南アフリカ、サウジアラビア、インド、中国、日本、インドネシア、韓国、オーストラリアの19カ国は、現在の破壊的な傾向に対して主要な責任を負っている。

G20 member countries (purple and blue) / Public Domain
G20 member countries (purple and blue) / Public Domain

だとするならば、定期的に開催されているG20サミットはなぜ軍縮や軍備管理の問題に対処しようとしないのだろうか。崖から飛び降りようとするレミングスをいかに説得して立ち止り、向きを反転させることができるだろうか。原則的には3つの可能性がある。すなわち、①理性に訴える科学的なリスク分析か、②世論から圧力をかけ自分たちの本来的な価値を守るよう主張するか、それとも、③たとえ反対に遭ったとしても人権と国際法を尊重するか、である。

気候変動危機への対応として、科学的な分析と民衆からの圧力という2つの手段が現在用いられている。科学研究の大多数が、流れを逆転させるには何をどうすればいいのかを明らかにしてきた。しかし、(すべてとは言えないまでも)多くの政府が、「未来のための金曜日」運動が勢いを増し、科学的な警告と民衆の抗議活動がもはや無視しえない規模の運動へと拡大するに至ってから、ようやく真剣に取り組み始めたところである。

一方、現在の軍備拡張政策に対して大きな抗議行動が行われていないことは、軍縮や軍備管理に関する協議が開かれない理由のひとつかもしれない。暴力的紛争の原因やリスク、武器輸出がもたらす破壊的な副作用、核戦争がもたらす当面の危険については、数多くの研究で調査・記録されているが、1990年代に見られたような軍備管理に向けた動きはどこにも見られない。戦争のリスクに関する科学的な研究や、軍備拡張を続けることへの政治的・経済的警告、そして、ごく単純に言えば、平和運動に対する目立った支持がいずれも欠如しているのだ。

SDGs Goal No. 16
SDGs Goal No. 16

G20が、こうした抗議活動のターゲットとされるべきだ。もし事態を好転させようと思うなら、今日の危機を引き起こした当事国が2020年11月にサウジアラビアで開かれる次のG20サミットに集う際に、声高な抗議行動の要求を彼らに認識させるようにすべきだ。「G20を非武装化せよ!」という呼びかけが、気候変動危機と軍備危機を引き起こしている主要な当事国を揺さぶることになるかもしれない。

分断された社会にあっても、先ほど述べたような価値を称揚することが必要だ。欧州諸国はトルコやサウジアラビアのような国々に武器を売り続ける一方、中国などでの人権侵害には口をつぐんでいる。G20側には前向きな考えをもった決意は見られない。

一部の防衛産業や石油企業、自動車製造企業の事業を危機に晒すことを恐れて、口先だけで欧州的な価値観を唱えるだけでは、人類の生存そのものに脅威を与えている惨事を防ぐには不十分だろう。(原文へ)

※ハーバート・ウルフは、ボン国際軍民転換センター(BICC)の所長を1994年の創設から2004年まで務めた。現在は、BICC上級研究員。

INPS Japan

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