ホーム ブログ ページ 165

核兵器禁止条約と核を「持たざる国」の重要な役割(ジャルガルサイハン・エンクサイハン元モンゴル国連大使)

0
ジャルガルサイハン・エンクサイハン博士は、核不拡散・軍縮促進のために活動するNGO「ブルーバナー(青旗)」事務局長で、モンゴルの元国連大使。この寄稿文はウランバートルで8月31日から9月1日にかけてブルーバナーによって開催される「核軍縮問題に関する国際会議:グローバル及び地域の側面」に先駆けて寄せられたものである。会議では、「核なき世界」を実現するという共通の目標に向けて共に前進していくための効果的な諸戦略が模索される予定だ。

【ウランバートルIDN=ジャルガルサイハン・エンクサイハン

国連で真に歴史的な重要性を持つ出来事が起きた。7月7日、核兵器を法的に禁止する条約の制定を目指す交渉会議の最終会期において、核兵器禁止条約が採択されたのである。これは、冷戦終結以後に交渉された核軍縮関連のものとしては、初めて法的拘束力を持たせた文書である。

賛成122・反対1(オランダ)・棄権1(シンガポール)で採択されたこの条約は、国連総会が「原子兵器と、大量破壊に適用しうるその他すべての主要な兵器を各国の兵器庫から一掃する」提案を行った第1号決議を1946年に採択して以来の、核兵器廃絶を目指す多国間の取り組みにおいて大きな一里塚となった。

世界の原子兵器の95%近くを保有する米国とロシアという2大核兵器国は、大量破壊兵器の備蓄を減らしてはいるものの、核兵器の違法化という問題は、両国の核政策の中に含まれてこなかった。それどころか、核兵器国の数は9カ国に増え、核の近代化が進行し、新たな核軍拡競争が起こりつつある。

ICAN
ICAN

核兵器国の一部の指導者の発言をみると、彼らが追求している政策は必ずしも「合理的、あるいは正気の」道ではないかもしれず、「核兵器は誰の手にも属さない」ということを認めている。こうした大量破壊兵器の恐怖から身を守る最も信頼のおける方法は、これらを全廃することだ。

したがって、脅しをかけるようなレトリックが急増するなか、核兵器のリスクに対する懸念が強まってきている。近年、ノルウェー、メキシコ、オーストリアで3回にわたって開かれた国際会議では、意図的なものであれ、あるいは事故や瑕疵によるものであれ、核兵器の爆発が人間に及ぼす壊滅的な影響に焦点が当てられた。

他方で、核不拡散条約(NPT)での約束や、2000年NPT運用検討会議での合意(13項目の実践的措置)、あるいは2010年NPT運用検討会議の64項目行動計画を果たしていないとして、核兵器国に対する不満が高まっている。これらすべてのことが、国際社会の圧倒的多数をして、核兵器の全廃を最終目的とする、その禁止に関する協議を始めさせることになったのだ。

そうした協議を呼びかけるうえで重要な役割を果たしたのは、オーストリア、ブラジル、アイルランド、メキシコ、ナイジェリア、南アフリカ共和国といった非核兵器国であった。しかし、国連総会が国際協議の開始を決定し、条約文言を採択するうえでは、他の非核兵器国からの支援が、重要な役割を果たした。

各国及び国際的な市民社会組織、とりわけ、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は、交渉開始に向けて具体的な措置を採る必要性について大衆の意識を高め、関連情報を幅広く拡散するうえで重要な役割を果たした。

ICAN
ICAN

また、交渉会議の議長を務めたコスタリカのエレイン・ホワイト・ゴメス大使と、同会議を主導した人々は、条約の内容合意に向けて、粘り強い忍耐力と柔軟性を発揮した点を高く賞賛されるべきだ。

核兵器条約は妥協の産物であった。その意味では、協議に参加したどの国をも満足させるものではない。条約が近い将来に核軍縮をもたらすことはないが、条約の採択は、核兵器を禁止するプロセスを開始する集団的なアクションが具体的に開始されたことを意味する。

これは、非核兵器国が自らの死活的利益に直接影響を及ぼすプロセスにより関与する空間を切り開く新たなステージの始まりを意味する。核軍縮の国際規範を強化し、核兵器国のみならず全ての国々の利益に影響を及ぼす問題が持つ社会的な立ち位置を強化し、他の大量破壊兵器や一部の通常兵器の場合と同じく、そうした兵器を非正当化することになるだろう。

法的な観点では、この条約は、国連憲章に反映された国連の原則や目的にかなうものだと言えよう。また、190カ国以上が「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき……誠実に交渉を行うこと」を約束したNPT第6条にもかなう。

ひとたび発効した条約の履行は、核兵器国とその同盟国が参加していないだけに、困難なものとなるだろう。しかし、核兵器禁止条約の発効は新しい状況と環境を生み出し、未参加国家に悪の烙印を押して、生起しつつある政治的・法的環境を最終的に認識せざるを得なくなる。

その意味で、核兵器禁止条約が、のちの加盟に道を開いていることは称賛に値する。非核兵器国が条約加盟国を増やしていくのには、時間がかかり、忍耐のいる大きな努力となることだろう。NPTですら、署名、批准あるいは加入に開放された際には、それほど大きな支持を集めていたわけではなかった。しかし、今日では191カ国が締約している。

一つの妥協として、禁止条約は全会一致の文書とはならなかった。特定の問題についてより強力な条項を望んだ国もあれば、未参加国に受け入れやすくなるよう期待して条項をより曖昧にすることを望んだ国もあった。

モンゴルの観点から言えば、条約第1項(g)と核兵器使用の「威嚇」への言及が、重要な条項だ。というのも、後者は、「核抑止」や「拡大核抑止」概念への直接的な挑戦となっているからだ。一方で、核兵器の定義が欠如している点や、非核兵器国の領土からの核兵器を撤去する時限設定が欠如している点は、核兵器禁止条約をいくぶん弱いものにしている。

上で述べたように、この条約の協議を開始し実際に草案をまとめる上で、非核兵器国が果たした役割には大きいものがあった。しかし、近い将来に条約に署名・批准してこの勢いを維持し、条約を発効させる上での役割は、より重要なものになろう。しかし、核兵器国やその同盟国の立場を考えるとそれは容易なものではない。また、そうした国々は、非核兵器国の政策に影響を及ぼそうとするだろうし、核兵器禁止条約の発効につながるいかなるステップも阻止しようとする可能性さえある。

UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri
UN Secretariat Building/ Katsuhiro Asagiri

同様に、国別・国際の両レベルにおける市民社会の役割もまた、きわめて有益なものとなろう。第4条4項の履行は、核兵器の地理的拡散を狭め、締約国会議はその適用・履行を強化することになろう。条約履行の検証、条項の解釈、紛争を解決する上での非核兵器国の役割もまた、重要なものになる。

いかなる積極的な行動も、国レベルの政策から始まる必要がある。この点で、条約第5条にあるように、条約の国内履行は、それぞれの加盟国の特殊事情を反映しつつ、条項を強化することになるだろう。従って、条約の国内における法制化は意義を持つものになる。これはまた、条約の効果を確かなものにするためにも、情報や経験の交換が有益な領域である。

核の傘の下にあったり核兵器国の配備を認めていたりするような、他の非核兵器国のグループも、独自の役割を果たしうる。核兵器国の同盟国として、これらの国々は核兵器国に直接意見を言う機会がある。核兵器国の政策を支持したり、核戦争計画に参加したりするのではなく、今日の緊密に相互依存化した世界での軍事ドクトリンにおける核兵器の役割を見直す働きができるだろう。これは、禁止条約に加入するまでの間、NPT第6条を履行し、「核兵器なき世界」の目標を促進することへの貢献となるだろう。(原文へ

翻訳=INPS Japan

関連記事:

|視点|核軍縮は人類共通の大義

「理性と心情の組み合わせ」で実現した核兵器禁止条約

|視点|ついに核兵器が違法化される(ジャヤンタ・ダナパラ元軍縮問題担当国連事務次長)

IDN-INPS Observes How Diplomacy Brings the World to Astana

IDN-INPS was witness to four notable events several days ahead of July 2 that marked the 25th anniversary of the country’s diplomatic service. These imparted Astana the flavour of a vigorous hub of international activity aimed at connecting people of all ethnicities, religions and political predispositions.

As Deputy Foreign Minister Roman Vassilenko told IDN in Astana, Kazakhstan’s diplomacy in 25 years was marked by 25 achievements that were topped by those in regional and global diplomacy.

READ > Diplomacy Brings the World to Kazakh Capital Astana

WATCH VIDEO > Briefing by & Interview recorded by IDN-INPS Multimedia Director Katsuhiro Asagiri

Pugwash Celebrates 60th Anniversary in Astana

Sixty years after convening its first meeting, Pugwash held its 62nd conference in Astana, the capital city of Kazakhstan, from August 25-29, 2017. While IDN-INPS Editor-in-Chief and Director-General explains the significance of this landmark international gathering hosted by Kazakhstan, the video captures important milestones of the opening day with a film explaining the history of the nuclear age until today and one speaker after another stressing the compelling need for undertaking every effort to usher in a world free of nuclear weapons.

Recorded are the remarks, among others, of Former UN Under-Secertary-General Pugwash President Jayantha Dhanapala, Kazakh Parliament Senate Chairman Kassym-Jomart Tokayev, UN High Representative for Disarmament Affairs Izumi Nakamitsu. CTBTO Executive Secretary Lassina Zerbo, Jennifer Allen Simons, President of The Simons Foundation Canada; Former UN Under-Secretary-General Sergio Duarte; Ambassador Elaine Whyte Gómez of Costa Rica, President of the UN Conference to negotiate a legally binding instrument to prohibit nuclear weapons, leading to their total elimination, and Christine Muttonen of Austria, President of the OSCE Parliamentary Assembly.

WATCH VIDEOS > 
Pugwash conference on the 1st day held at Palace of Peace and Reconciliation


Disarmament Talk with CTBTO Executive Secretary Dr. Lassina Zerbo


Disarmament Talk with Alyn Ware, PNND Founder and Coordinator

Covering Establishment of LEU Storage Facility in East Kazakhstan & Inauguration in Astana

IDN-INPS joined journalists from various parts of the world on a one-day trip to watch the inauguration of the Low Enriched Uranium (LEU) Bank Storage Facility of the International Atomic Energy Agency (IAEA) at the Ulba Metallurgical Plant (UMP) in Ust-Kamenogorsk, also known as Oskemen, in East Kazakhstan region on August 28.

IDN-INPS also participated in the Press Conference following the inauguration ceremony of the IAEA LEU Bank at Hilton Hotel Astana on August 29, the International Day against Nuclear Tests.

WATCH VIDEO > Visiting IAEA LEU Bank in Ust-Kamenogorsk and Press conference in Astana.

世界初の「低濃縮ウラン(LEU)備蓄バンク」を取材

Video documentary filmed by Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan

INPS Japanの浅霧勝浩マルチメディアディレクターはドイツから合流したラメシュ・ジャウラ編集長と共に、国際原子力機関(IAEA)がカザフスタン東部のウストカメノゴルスク(オスメケン)に設置した「低濃縮ウラン(LEU)備蓄バンク」と運営主体のウルバ冶金工場を視察する国際プレスツアーに参加し、取材及びドキュメンタリーを制作した。また、翌日首都アスタナとLEU備蓄バンクを衛星で繋いで開催された開設式(天野之弥IAEA事務局長ヌルスルタン・ナザルバエフ大統領が共催)を取材した。

低濃縮ウラン(LEU)バンクは、ウラン濃縮能力のない国々が安定した核燃料提供を受けられるようにすることで、核不拡散条約が加盟国に認めている「核の平和利用」を保障すると同時に、核不拡散の強化に貢献することを目的としている。

Visiting International Atomic Energy Agency (IAEA) Low Enriched Uranium (LEU) Bank Storage Facility at the Ulba Metallurgical Plant (UMP) House Museum, and Ethnograpic Park in the eastern city of Ust-Kamenogorsk, Kazakhstan on Aug 28, 2017.

INPS Japan

関連記事:

カザフスタンが非核世界推進の立役者を表彰

カザフスタン、核不拡散に向けた重要な一歩でIAEAに加わる

専門家らが米国のイラン核合意離脱がもたらす幅広い悪影響を予測

Encounter with Eminent Kazakh Artist Karipbek Kuyukov​

It was overwhelming to meet Karipbek Kuyukov in Astana, the capital city of Kazakhstan, during the 62nd Pugwash Conference focussed on Confronting New Nuclear Dangers. We talked about the pressing need to do away with nuclear weapons. Visiting an exhibition of his paintings in the National Museum of Kazakhstan was a shattering experience.

Karipbek Kuyukov was born 45 years ago in a small village in Kazakhstan, just miles from where the Soviet Union conducted more than 450 nuclear weapons tests. Those tests exposed his parents to radiation and resulted in Karipbek being born without arms. Karipbek has overcome many obstacles to become an anti-nuclear weapons activist and renowned artist whose works have been shown around the world.

Today, Karipbek often paints portraits of the victims of nuclear testing and, as honorary Ambassador to The ATOM Project, speaks out against nuclear weapons at conferences and events held in such places as the United Nations and the United States Congress.

WATCH VIDEO > Honorary Ambassador of the ATOM Project and non-proliferation activist Karipbek Kuyukov talks to IDN-INPS about the success of the broad-based movement for the closing down of the nuclear testing site independent Kazakhstan inherited from the Soviet Union after its collapse. He urges North Korea to end nuclear tests and appeals to the international community to help usher in a world free of nuclear weapons. Filmed and edited by Katsuhiro Asagiri, IDN-INPS Multimedia Director.

WATCH VIDEO > Screams of the Soul: A Glimpse of the Paintings of Karipbek Kuyukov.

パグウォッシュ会議年次会合を取材

Filmed by Katsuhiro Asagiri, Multimedia Director, President of INPS Japan.

INPSは、パグウォッシュ会議が「新たな核の危機に直面して」というテーマを掲げ、カザフスタンで「核実験に反対する国際デー」(8/29)に合わせて開催したを第62回総会を取材した。ラメシュ・ジャウラ編集長とアスタナで合流したINPS Japanの浅霧勝浩マルチメディアディレクターは、会議期間中、会議全般の収録に加えて主な参加者やカザフ政府関係者へのインタビューを行った。

パグウォッシュ会議は、核兵器を否定し、「あなた方の人間性を心に留めよ」、「紛争を平和的に解決する方策を見出そう」等、世界の指導者らに「新しい思考」を促した1955年のラッセル=アインシュタイン宣言に端を発しており、共同創設者であるジョセフ・ロートブラット卿とともに1995年にノーベル平和賞を受賞した団体である。

Sixty years after convening its first meeting, Pugwash held its 62nd conference in Astana, the capital city of Kazakhstan, from August 25-29, 2017. While IDN-INPS Editor-in-Chief and Director-General explains the significance of this landmark international gathering hosted by Kazakhstan, the video captures important milestones of the opening day with a film explaining the history of the nuclear age until today and one speaker after another stressing the compelling need for undertaking every effort to usher in a world free of nuclear weapons. Recorded are the remarks, among others, of Former UN Under-Secertary-General Pugwash President Jayantha Dhanapala, Kazakh Parliament Senate Chairman Kassym-Jomart Tokayev, UN High Representative for Disarmament Affairs Izumi Nakamitsu. CTBTO Executive Secretary Lassina Zerbo, Jennifer Allen Simons, President of The Simons Foundation Canada; Former UN Under-Secretary-General Sergio Duarte; Ambassador Elaine Whyte Gómez of Costa Rica, President of the UN Conference to negotiate a legally binding instrument to prohibit nuclear weapons, leading to their total elimination, and Christine Muttonen of Austria, President of the OSCE Parliamentary Assembly.

翻訳=INPS Japan

関連記事:

カザフスタン、核不拡散に向けた重要な一歩でIAEAに加わる

核軍縮に向け画期的な成果(セルジオ・ドゥアルテ元国連軍縮問題担当上級代表)

非核世界への道をリードするカザフスタン

核実験禁止条約の早期発効を訴える国際会議

国際法は民族紛争を減らす強力なツール

【ルンド(スウェーデン)IDN-INPS=ジョナサン・パワー】

ソマリアやザイール、ルワンダ、東ティモール、旧ユーゴスラビアなどの国々で1990年代に勃発した分離主義的民族紛争についてコメントしたウォーレン・クリストファー米国務長官が、「これはいったいいつ終わるのだろうか? (世界の国々の数が)5000カ国になれば終わるのだろうか?」と問うたのは、それほど昔のことではない。

しかしこの見解は誤ったものであった。分離主義的な戦争は、現実には、その後急速に減っていったのだ。マイノリティーの人々はもはや、以前と同じようなペースで、自らの領土を求めて闘ってはいない。1993年以来、民族自決を掲げた戦争の数は半数になった。

かつては民族紛争が勃発する兆しが見られたが現在は状況が大幅に改善している国々の数は少なくない。バルト三国の民族主義者らは国内少数派のロシア系住民に対する扱いを穏健化させている。スロバキアやルーマニアのハンガリー系住民はもはや、かつてのような脅威に晒されてはいない。長い戦争を経て、クロアチアは少数民族を尊重するようになった。インドの中央政府とミゾ族との間の紛争や、モルドバの少数民族ガガウズ人の問題、バングラデシュ・チッタゴン丘陵地帯のチャクマ民族集団の問題は、すべて沈静化している。ロシアの最も重要だがほとんど知られていない成果の一つに、タタールスタンバシキリア、その他40の地域で平和裏に権力共有協定を結んできた事実がある。

一方、依然として民族紛争が燻っている国々の事例を挙げると、上記の沈静化した事例と同じくらいの数にのぼるが、この数年における国際動向から見てとれる教訓は以下の点にまとめることができるだろう。つまり、①民族紛争の種は無限にあるわけではないということ。②数年前の超悲観主義は誤解に基づいたものだったということ。③人類は、多数派が少数派のアイデンティティを尊重し十分な自決権を付与すれば、手にするものが少なくても問題を解決に導けるということ、である。

Peoples under Threat 2017: Killings in the no-access zone

にもかかわらず、英国に本拠を置く「マイノリティの権利グループ」が発表した最新報告書『危機に晒される人々』が明らかにするように、自己満足に浸っている暇はない。この年次報告書は、どの国で最悪の民族紛争が起こっているか、他国と比較したその国の状況が前年からどのくらい変化したかを指標にして公表している。

イエメンは、今年の指標で急激に順位を上昇させた国だ。狭い範囲での武装蜂起が、外部からの介入によって、スンニ派・シーア派間の地域全体を巻き込んだ宗派紛争に展開していった。民間人の死者の多くは、米国や英国が提供した武器によってサウジアラビアが行った空爆によるものだった。

「大きく順位を上げた」国々の3分の2はアフリカに位置している。ナイジェリア、ブルンジ、エリトリア、ウガンダ、カメルーン、モザンビークがそうだ。残りの3分の1は、トルコ、パプアニューギニア、バングラデシュである。昨年のリストの上位にあったのは、ウクライナ、エジプト、北朝鮮、ベネズエラであった。

これらの国々は「大きく順位を上げて」はいるが、必ずしも最悪の被害と死者数が出ているわけではない。最悪の被害と死者がでている国々のうち7割はアフリカではない。

容易に想像がつくように、死者数ではシリアが1位である。被害の大きさの順で言うと、これにソマリア、イラク、スーダン、アフガニスタン、南スーダン、イエメン、パキスタン、ミャンマー、リビア、ナイジェリアが続く。

国連難民高等弁務官は6月、一部の国が同機関のスタッフの入国を拒んだことに警告を発したことを明らかにした。国々は、「入国禁止」を言い渡すためにあらゆる口実を見つけようとする。「[入国許可を求める]特定の要請に対して、意図的に複雑で非合理に長い協議と対応を行うことで、国連を欺き、現実的で現地の状況に根差した、事実に基づいた評価に対して不適切な代替案を示そうとしている。」

Minority Rights Group
Minority Rights Group

キューバは、10年にわたって国連からのあらゆる要請を拒絶していたが、国連報告官の入国を今年初めについに認めた。ナイジェリアは、入国要請に対して少なくとも14回は対応しなかった。

現在、国際司法裁判所(ICC)が戦争犯罪の訴追にあたっている。全ての欧州諸国を含む世界の国々の圧倒的多数は、既にICC規程を批准しているが、インドやサウジアラビア、ロシア、中国は未批准だ。ICCは、連携している裁判所とともに、民族紛争に責任があると判断された戦争犯罪の訴追を追求している。

これは、国際法の発展における大きな一歩だ。しかし、あくまで既遂の犯罪しか裁けないのが同裁判所の弱点だ。必要なのは、民族紛争裁判所だと私は考える。

たとえば、ミャンマーのロヒンギャが現在直面しているように、民族集団が脅威を受けていると感じたならば、この裁判所に対して訴え出て、裁判所は両者を召喚する権利を持つ。ある主体が裁判所への出廷を拒んだなら、国連安全保障理事会に付託され、同理事会は制裁を命じたり、場合によっては逮捕を命じたりすることも可能だ。

同裁判所は、現場で状況を調査したり、決定を下したりする。ある国家が残虐な行いをしたとか、あるいは民族集団が暴力的に相手を挑発したなどの認定を行うこともできる。ここでもまた、状況がより良い方向に変わらないならば、制裁や逮捕がこれに続くこともありうる。

今日のシリアにおいてそうであるように、同裁判所や安保理が無視される状況も間違いなくあるであろう。しかし、悪い状況が早期に認識されたならば、紛争を避けることができる。

国際法は明確に適用された際には、強力なツールとなることを過小評価するべきではない。(原文へ

INPS Japan

関連記事:

ルワンダ国際戦犯法廷が21年に亘る審理を経て歴史的役割を終える

国連安保理、極度の飢餓を引き起こす紛争について説明を受ける

コロンビア和平協定の陰にある環境リスク

【カルタヘナ(コロンビア)IDN=ファビオラ・オルティス】

2016年11月に署名され12月初めにコロンビア議会が批准したコロンビア革命軍(FARC)との和平協定は、半世紀に及んだ紛争を終わらせたが、環境にとっては脅威になっているという。カルタヘナで7月23日から27日にかけて行われた国際生物保護会議(ICCB2017)で科学者や専門家らがそうした議論を行った。

Map of Colombia

この世界的なフォーラムには約2000人の科学者が集まり、生態系の問題に対応し、保存科学や持続可能な実践におけるあらたな研究が提示された。

人口4000万人のコロンビアには、2300万ヘクタールにも及ぶ59の国立公園やその他の保護地区があり、世界の生物多様性の10%が集中する世界で最も生物種が豊富な17カ国のうちの一つとなっている。

熱帯雨林が専門でクイーンズランド大学の博士研究員でもある生物学者のパブロ・ネグレット氏は、IDNの取材に対して、「コロンビアにおける環境保護に関する決定については、紛争後のシナリオを考慮に入れたものに改善していく必要があります。」と語った。

「私たちは史上最も長い紛争の一つを経験し、多くの領域がゲリラの支配下にあって孤立してきました。武装集団が行動していた地域は、長年にわたって開発事業の恩恵を受けてきませんでした。しかし、紛争が終結し和平協定が結ばれた今日、武装解除の過程にあるFARCから解放された地域には別の集団が支配を広めつつあります。」

「危険があるのはまさにこの点です。」と専門家らは警告している。以前は国土の3分の1が反乱軍によって支配されていたが、解放された今、広大な未開発の土地に眠る豊かな天然資源を求めて新規参入者や経済的利害関係者に対して道が開かれてしまったからだ。

「多くの地域が、採鉱や石油掘削、粗放農業といった開発事業に対して開放されました。とりわけ、アマゾニアン・ピードモントにおいては森林破壊の度合いが増しています。」と、ネグレット氏は警告した。

SDGs Goal No. 15
SDGs Goal No. 15

アマゾニアン・ピードモントは、プトゥマヨカケタ両県にあり、コロンビア南西部のアマゾン川流域とアンデス山脈の交わるあたりにある丘陵地帯のことである。生物の保存と研究にとっては関心を呼ぶ、多様性のレベルが非常に高い場所だ。アマゾン川はこの丘陵地帯に発して、900以上の鳥類、数百種以上の哺乳類、爬虫類、両生類が生息する深い森を通って、低地へ流れている。

「土地の現状回復に関しても大きな期待があります。政府は、コカのような違法作物を別の作物に置き換える意思のある家族に対して経済的な支援をする予定です。そこで多くの入植者や農民がそうした地域を目指し、支援を受けるために森を切り開いて、あえてコカの栽培を始めるケースが出てきました。」

こうした動きによって、アマゾンの森林破壊は加速度を増している。コロンビアの「水文地質学・気象学・環境研究所」によると、最新の調査における森林破壊率は34%に上っていた。

紛争後のコロンビアで環境を脅かすリスクについてネグレット氏に尋ねたところ、大きな脅威は、土地分配や(この地域の天然資源を求める)新規参入者対策に関する厳密な計画が存在しないことだという。結果として、生物多様性が豊かな地域を手つかずのままに残すことが困難になっている。

Pablo Jose Negret Torres/ University of Queensland
Pablo Jose Negret Torres/ University of Queensland

「生物多様性のレベルが高い多くの地域が破壊されてしまうかもしれません。」とネグレット氏は警告する。「開発計画や道路建設が実施された段階で生物多様性が壊れないようにするために、生態学的な特徴を考慮に入れた紛争後の地域を優先する計画を策定すべきです。例えば、採鉱よりもずっと経済的に見返りの高い利益をもたらすことができる、生態系サービスを確立するといったオルタナティブについて考えるべきです。」

ネグレット氏によると、コロンビアの開発は、保護区域を拡大して、すでに国立公園化しているところでは熱帯雨林の破壊を防ぐ保護政策に焦点を当てるべきだという。「私たちは、保護区域、とりわけFARC以外の武装集団が依然として存在している地域の管理をもっと厳格にする必要があります。」と、ネグレット氏は訴えた。

「これは潮の変わり目です。人々は戦争状態の中でこれ以上暮らしたくないと思っているのです。FARCとの和平プロセスは他の集団が武装解除に応じるよい模範になるかもしれません。今まさに変化の兆しが訪れているのです。」

歴史的な瞬間だった。6月27日、FARCの元戦闘員らが、国連と450人の国際監視人が見つめる中、7000丁以上の銃火器等の武器を放棄したのだ。

「国際社会が、和平プロセスと我が国の環境目標を支持するのを待ち望んでいます。」「私たちは、環境目標を、和平プロセスの履行という文脈の中に埋め込んでいかなくてはなりません。私たちには、新しい時代の難題に対応する政策と機構改革があります。」とコロンビアのルイス・ムリージョ環境・持続可能な開発相は語った。

FARC women and men marched to Pondores, in La Guajira (Colombia), where laying down of arms will take place with the presence of the UN Mission. Photo: UN Mission in Colombia
FARC women and men marched to Pondores, in La Guajira (Colombia), where laying down of arms will take place with the presence of the UN Mission. Photo: UN Mission in Colombia

国際生物保護会議で記者会見を開いたムリージョ大臣は、「和平が実現したことで国を開発していくための資源動員が可能になりました。しかし私たちはこの国の生物多様性についてほとんど知りません。和平プロセスが開始されたことで、生物多様性が豊かな地域に行くことができるようになりました。コロンビア政府は現在、生態系を守りつつ、同時に、地域や国全体の経済発展に資する天然資源の現状を把握し、その使い方を自覚する『バイオ経済』という概念に基づく開発指針の基盤作りを進めています。」と語った。

しかし他方で、和平合意に全ての人々が同意したわけではない。和平交渉から先住民族が取り残されたとの不満の声も強い。和平プロセスの結果として制定された30本の法律のうち、先住民に関連する法律は、彼らの環境への貢献に対する支払いを定めた1本に過ぎない。

1995年に創設された「コロンビア・アマゾン先住民族全国組織」(OPIAC)のコーディネーターであるマテオ・エストラーダ氏はIDNの取材に対して、「これは全く不十分と言わざるを得ません。先住民族は、この紛争に間接的に関与し犠牲を強いられてきたにもかからわず、和平交渉は政府とゲリラとの間のみで行われ、社会の大部分は排除されたのです。」と語った。

Mateo Estrada/ OPIAC
Mateo Estrada/ OPIAC

コロンビアの105の先住民族のうち、56がアマゾン地域に住んでいる。その全人口は12万人で、全国土の3300万ヘクタールの先住民族の土地のうち、2900万ヘクタールに住んでいる。つまり、先住民族の土地のほぼ9割がアマゾンにあるということだ。

「私たち先住民が保護している地域はゲリラによる影響を受けてきました。私たちは、狩猟や漁をはじめ行動の自由を奪われるなど、ゲリラから多くの規制を課され、一部の先住民族にいたっては強制的に動員されもしました。(和平合意でゲリラが去った今日)私たちが抱える環境問題について政府と対話の機会が設けられることを望んでいます。」

コロンビアの先住民族らは、アマゾン地域に対する明確な環境政策の策定を政府に求めるための具体的な提案を提示するために、彼らが直面している脅威(森林伐採、採鉱、土壌汚染等)と生物多様性を保全するための代替え案(オルタナティブ)を特定しようとしている。

「私たちは、これまでアマゾン地域に対する特定の政策や特別の規制枠組みが存在しなかったために、様々な被害に苦しんできました。今こそ、和平プロセスの枠組みのなかで、こうした新しい政策を描くべき時です。しかし、これまでのところ政府は本気でそのような取り組みをする意志を見せていません。私たちは、アマゾン地域に対する適切な政策が打ち立てられることを切に望んでいます。」とエストラーダ氏は強調した。(原文へ

翻訳=INPS Japan

関連記事:

先住民族が全ての権利の平等を主張

次なる最重要開発課題としての森林投資

|ペルー|アマゾン地区で環境問題への独創的な解決法

「世界と議会」2017年夏号(第577号)

特集:世界の中の日本

■政経懇話会①
 「混迷の時代に日本政治をどう構想するか - 世界史の流れの中で」
 谷藤悦史(早稲田大学政治経済学術院教授)

■政経懇話会②
 「今後のアジア情勢と日本政治の課題」
 ペマ・ギャルポ(桐蔭横浜大学大学院法学研究科教授)

■政経懇話会③
 「モンゴル国と日本の絆 - 世界の平和と発展に向けて」
 ソドブジャムツ・フレルバータル(駐日モンゴル国特命全権大使)


■連載『尾崎行雄伝』
 第七章 政党の受難時代

■INPS
 ついに核兵器が違法化される(ジャナンタ・ダナパラ)

■財団だより

1961年創刊の「世界と議会では、国の内外を問わず、政治、経済、社会、教育などの問題を取り上げ、特に議会政治の在り方や、
日本と世界の将来像に鋭く迫ります。また、海外からの意見や有権者・政治家の声なども掲載しています。
最新号およびバックナンバーのお求めについては財団事務局までお問い合わせください。