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|インド・パキスタン|メディア報道が招く一触即発の危機

【カラチIPS=ビーナ・サルワール】

ムンバイでテロが発生してから3日目の11月28日の深夜、パキスタンのザルダリ大統領にインドのムカジー外相を名乗る電話がかかった。緊急事態のため正式の手続きを経ずに直接大統領につながれた電話の相手は、「ムンバイの事件の犯人捜索に即座に応じなければ軍事行動を起こすと脅した」とパキスタンの日刊紙「ドーン」が伝えた。 

同紙は、実はその電話はいたずらで、その電話のせいで先週末にパキスタンが厳戒態勢となったことも明らかにした。この電話のニュースがパキスタンの人々を怒らせ、当初パキスタン政府が合意していた三軍統合情報部(ISI)長官のインド派遣に反対する世論が高まり、軍部と文民政府の激しいやり取りの末、結局ISIの代表の派遣に落ち着いている。

 パキスタンを非難するインドメディアによって敵対意識はすでに高まっていた。パキスタンメディアはインドの報道に憤慨してその主張の不備を暴いていた。インドの一流の日刊紙「ザ・ヒンズー」のイスラマバード特派員であるN.スブラマニアム氏は、テレビ番組でインドの過激な報道を取り上げるパキスタン側の姿勢も賢明ではないとコメントしている。 

専門家は「ジャーナリストの倫理を切り札にする『国家主義』は、印パメディアの常とう手段で、規制もない」という。米国メディアもアルカイダに関して同じ過ちを犯している。 

ムンバイ後には、欧米のBBCやCNNといった権威あるメディアも、パキスタンを非難して戦争の可能性を取りざたすなど敵意を煽っていると非難されている。また、事件を実況中継したインドの24時間ニュースの各局は視聴率を180%上げたが、この実況により犯人が情報を得て犠牲者が増えたという批判もある。 

インド政府もこれについて憂慮し、情報省はテロ事件の報道に関してテレビ各局にテロが成功したような印象を与えないよう勧告するガイドラインを送った。選挙年の今年、政治的圧力の中で、インド政府は国民の怒りを抑えられるだろうか。 

「ザ・ヒンズー」紙のS.バラダラジャン副編集長は「両国の関係が急激に悪化することはないだろう」といい、この5年間のかつてない印パ関係の進展の結果、インド当局はパキスタン政府に対して慎重な姿勢を取ると考えている。「国民も悲劇を政治に利用することには反対するだろう。国際的な圧力もパキスタンの協力的な姿勢を促すだろう」 

メディアの影響を受ける、ムンバイのテロ事件後の印パ関係について報告する。 (原文へ



翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

|米国|ムンバイ事件は地域戦略にとって大きな痛手

【ワシントンIPS=ジム・ローブ】

170人を超える死亡者を出したムンバイ・テロ事件から1週間、米担当官は核武装国インドとパキスタンの全面対決を避けようと動き出した。 

ライス国務長官は12月3日、ニューデリーを訪れ、インド指導者に対して如何なる報復も思わぬ結果、困難をもたらすと警告。時を同じくして、マイケル・マレン米統合参謀部議長はイスラマバードでパキスタン政府および軍に対し如何なる調査にも協力するよう、また同事件に関係したグループに対する厳重な取り締まりを行うよう圧力をかけた。 

ライス長官は翌日パキスタンのザルダリ大統領およびカヤニ軍最高司令官と会談するためインドを後にしたが、直前の記者会見で、パキスタン政府の対応は協力的、行動的でなければならないと厳しい口調で語った。

 米政府およびワシントンの専門家は、同テロはカシミールの反乱グループ「ラシュカ・エ・タイバ」(LeT)の仕業と見ている。専門家は、パキスタン軍統合情報局(ISI)が、インドのカシミール領有を阻止する道具として過去20年に亘り、同グループおよび他のイスラム過激派グループの支援を行ってきたとしている。ブルッキングス研究所の南アジア専門家ブルース・リーデル氏は、「ISIとLeTの関係の程度が問題だ。両者の関係が無くなったとは信じ難い」と語る。 

ザルダリ大統領は最近、印パ信頼回復および両国がそれぞれに領有するカシミール地域の通商再開、ISIの監視強化など、米国を勇気づける発言を行ってきた。しかし、この発言が国内、特に軍部内に強い反感をもたらした可能性は高い。 

ブルッキングス研究所の南アジア研究者で昨年米国の印パ仲介努力に関する本を出版したステファン・コーエン氏は、「ISIが、ザルダリ大統領および文民政権の権威失墜と緊張緩和プロセスを阻止するためムンバイ攻撃の背後にいた可能性もある」と語る。また、ランド・コーポレーションのパキスタン専門家クリスティーン・フェア氏は、攻撃はオバマ政権のアフガニスタン戦略に対する警告でもあると指摘する。 

リーデル氏は、今回の攻撃には戦略的意味があると指摘する。2001年米軍および同盟軍が過激タリバンおよび過激アルカイダ幹部のトラボラ掃討作戦を行っていたとき、ISIが支援していた「ジャイシュ・エ・ムハンマド」によるインド議会爆破事件が起き両国の緊張が一気に高まったため、パキスタンはアフガン国境に配備されていた部隊をインド国境へ移動。これによりタリバンのムラー・オマール、ビン・ラディンの逃亡が容易になったというのだ。 

パキスタンは現在米国の強い圧力によりアフガン国境で国内タリバン勢力と激しい戦いを展開しており、パキスタン軍が東方へ移動するようなことになれば、米国としては地域戦略の大きな痛手となるだろう。 

ムンバイ事件と米国の地域戦略との関係について報告する。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

│移民│カリブ海諸国の二重国籍問題

【キングストン(ジャマイカ)IPS=ピーター・リチャーズ】

昨年4月にジャマイカの裁判所がダリル・ヴァス議員には議員適格がないと判示して以来、二重国籍問題がジャマイカにおいて大きな問題になってきた。 

与党・ジャマイカ労働党のヴァス議員が議員資格を剥奪されたのは、彼がジャマイカと米国の二重国籍を持つからであり、自発的に米国のパスポートを更新し、それを使って海外渡航していたためである。

 この問題を裁判所に持ち込んでいたのは、2007年の総選挙でヴァス議員と戦って敗れていた野党・人民国家党のアベ・ダブドゥーブ氏であった。判決を受けて、ブルース・ゴールディング首相は、ヴァス議員の敗訴によって与党の議席数が60議席中わずか31にまで減少したため、解散総選挙に打って出ると示唆している。 

カリブ政策研究所は今回、『ジャマイカにおける二重国籍と政治代表』という報告書を発表した。それによれば、上記のような問題が生じているのはジャマイカだけではない。トリニダード・トバゴ、セントクリストファー・ネイビス、ガイアナ、グレナダなどでもそうである。 

たとえば、トリニダード・トバゴでは、2001年の総選挙で勝利しのちに副大臣になった2人の議員が、それぞれ米国と英国の国籍も保有しているとの理由で、議員資格を剥奪されている。 

報告書の著者のひとりキム・マリー・スペンス氏は、この問題は概して政局がらみで取り上げられることが多く、憲法上の権利の問題として考えられることは少ない、と指摘する。 

報告書は、他国の国籍を持っているからといってその人物の貢献度が少ないことには必ずしもならないと主張し、海外経験・国籍を持つ人間を政治代表とすることは、むしろ全体として政治の質を高めることにつながるであろう、としている。 

カリブ海諸国の二重国籍問題について報告する。(原文へ

翻訳/サマリ=山口響/IPS Japan 浅霧勝浩

|ラテンアメリカ|『ジャーナリズム』と『アクティビズム』、2つの視点から見た先住民問題

【ラパスIPS=ディアナ・カリボニ】

「我々は当事者であると同時に報道する立場にもある」。コロンビアの先住民Kankuamo族で、自らも先住民運動を指揮するSilsa Arias氏は先週、ラパスで開催された先住民を取り巻く問題について話し合うワークショップ『Journalistic Minga: Developing Indigenous Reporting』で語った。 

コロンビア先住民族機構(ONIC)に属する同氏をはじめ多くの参加者は、ジャーナリズムとアクティビズムとの間に生まれる障壁について懸念を示す。その1つがデジタル・ギャップの問題である。1週間あるいは隔週に一度電子メールを利用できるのはワークショップ参加者のうちでも一部の人々に限られている。先住民の間でさえ情報の格差が生じているのだ。

 また、言語の問題もある。ワークショップに参加した先住民たちは協議に参加するためスペイン語の習得を余儀なくされる。しかし、実際には先住民言語しか話せない参加者もいる。このため、例えばラパスから300キロ離れたLoripataの山岳地帯で暮らすAymara族の女性には、インタビュアーが録音を取り(同ワークショップを計画した)フランツ・チャベスIPS特派員に翻訳を依頼するなどの対応を行った。 

一部のワークショップ参加者からは他にも次のような疑問が寄せられた。「汚染や土地収奪の問題でなぜ企業や政府の考えをわざわざ取り上げねばならないのか」、「大手メディアでは行っていない情報の公平性・正確性をなぜ我々が尊重しなければならないのか」。 

単なる抗議記事とは異なり、ジャーナリスティックな辛口の記事内容は多くの人々を惹きつけ、行動に駆り立て、真意を伝えることができる。今回のワークショップでも多くの先住民の代表が必要に迫られて、様々な議論を展開し、同時に技術支援を受けるなど積極的に活動した。先住民問題をめぐるアクティビズムとジャーナリズムについて報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリ=IPS Japan浅霧勝浩 


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先住民族出身のジャーナリストが立ち上がる

|紅海|アラブ安全保障を脅かす海賊監視戦隊

【カイロIPS=アダム・モロー&カレド・ムッサ・アルオムラニ】

11月20日カイロにおいて、エジプトおよびイエメン主催による海賊取り締まり会議が行われた。同会議には、両国の他にサウジアラビア、スーダン、ヨルダン、ソマリア、エリトリア、ジブチ代表が参加。特にエジプトは、紅海と地中海を繋ぐスエズ運河の使用料を主要外貨源としているため、この問題を深刻に受け止めている。 

最近数カ月、特にソマリア沖アデン湾の海賊行為が増加している。国際海事局の統計によれば、今年だけで既に80隻を超える船舶が攻撃されている。11月15日には、サウジアラビアのスーパー・タンカー「MVシリウス」がソマリアの海賊にハイジャックされ、海賊は引き渡しの条件として巨額の身代金を要求している。その3日後には、インドの小型駆逐艦が、激しい銃撃戦の後同じアデン湾で海賊の母船を破壊したと報じられたが、後にそれはハイジャックされたタイの船舶であったことが明らかとなった。最近では、11月25日に鉄鋼を積んだイエメンの船がハイジャックされている。

 同問題に対処するため、インド、米国、ロシア、南アフリカ、NATOは、海運保護を目的に同地域に軍艦を配備。EUは11月半ばにソマリア沖の海賊行為を取り締まるため初のミッションを開始した。報道によれば、これには駆逐艦だけでなく偵察機、ヘリコプターも参加するという。 

会議後の共同声明で、参加国は「ソマリア沿岸の海賊行為は、同国の政治、治安、社会情勢の悪化がもたらしたものの1つである」と述べた上で、アラブ諸国による共同海軍オペレーションおよびイエメンを拠とする海賊監視センターの設立を提案した。参加代表は外国の戦艦配備を歓迎しながらも、地域諸国の主権尊重を主張している。 

イエメンのアル・クルビ外務大臣は11月10日、外国戦艦の存在はアラブ諸国の安全保障にとって脅威となり、紅海の国際化に繋がると警告した。 

エジプトの軍事専門家ガマル・マズロウム氏は、同大臣の発言は根拠の無いことではないと言う。同氏は、1980年代にイスラエルは紅海への戦艦配備を提案したが、アラブ諸国は直ちにこれを拒否。それ以来同問題は議論されていないが、海賊問題出現によりイスラエルが商船保護を理由に戦艦配備を再び主張するのではとの見方もある」と指摘する。 

同氏はまた、船隊の海賊行為阻止能力にも疑問を呈している。「これまでにも米国第5艦隊やNATOの150戦隊が地域に配備されていたが、海賊行為防止にはならなかった。最近の配備増強にも拘わらず海賊事件は増加しており、効果の程に疑問が残る」と語っている。 

エジプト/イエメン主催のアラブ諸国海賊対策会議について報告する。 (原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

|ラテンアメリカ|先住民族出身のジャーナリストが立ち上がる

【ラパスIPS=フランツ・チャベス】

国際農業開発基金(IFAD)とインタープレスサービス(Inter Press Service: IPS)が共催する社会開発ワークショップ『Journalistic Minga: Development Indigenous Reporting in Latin America』が11月25日、26日に開催された。Mingaとは伝統的先住民たちによる集会を指している。 

コロンビア・エクアドル・ベネズエラ・ペルー・グアテマラ・ボリビアの先住民族社会出身のジャーナリスト20数名がラパスに集結。各国を代表する記者たちは社会開発促進に向けた共通の利害の確認と各国間の情報交換の必要性について協議した。 

IFADのFarhana Haque-Rahman氏は「ワークショップの目的は、先住民が抱える様々な問題をジャーナリストが詳細かつ正確に報道できるようにすることである」と説明した。世界にはおよそ3億7,000万人の先住民が暮らしているが、(世界人口の5%を占める)彼らの殆どは貧困層である。

 「メディアにおける先住民問題への関心の低さも深刻だ。現地の人々の置かれた危機的状況を世界に発信し、ジャーナリスト同士で包括的な情報ネットワークを構築していくべきである」と、IPSラテンアメリカ総局長のJoaquin Costanzo氏は述べた。 

2日間にわたるワークショップでは、情報伝達の観点や(権利・機会の平等を求める)先住民社会が果たす役割の視点から、彼らの現状について詳しい報告と分析が行われた。 

先住民族ジャーナリストたちの取り組みについて報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリ=IPS Japan浅霧勝浩 

|カンボジア|裁かれるクメール・ルージュ幹部は増えるのか

【プノンペンIPS=アンドリュー・ネット】

2009年初めまで初公判が延期されているクメール・ルージュ裁判に、新たな問題が起きている。裁判の独立性を示すために逮捕者の追加を求める圧力にどう対処するか、である。戦犯法廷で誰を起訴するかは複雑な問題で、特にカンボジアでは歴史的な事情と国内外の司法官からなる法廷システムの構造によりさらに込み入っており、合意を得るのが困難な状況だ。 

現在拘束されているクメール・ルージュ幹部は5人で、トゥール・スレン虐殺の首謀者、カン・ケック・イウ別名ドゥック、クメール・ルージュNo2のヌオン・チャ、元民主カンプチア国家主席キュー・サムファン、元外相イエン・サリとその妻イエン・シリト。

 逮捕者追加の憶測が強まったのは、6月半ばに外国人のR.プチ司法官が他のクメール・ルージュ幹部の

捜査を明らかにしたときだった。国連で裁判の予算を話し合う会議の直前のことだった。それ以来、この追加問題についてカンボジア人と外国人の司法官の間で話し合いが続いている。公式情報ではないが、2~6人の名前が挙がっていると言われている。 

10月の裁判公報では、問題については検討中とされ、その後の報告はない。個々の司法官はコメントを拒否している。追加決定に関しては法廷の規則により外国人司法官の方が優位な立場にある。起訴の基準は、1975年4月17日~79年1月6日のクメール・ルージュ支配下で起きた犯罪の「幹部」であり「重大な責任がある」というものだ。 

裁判はカンボジアで行われ、政府の要職にある旧クメール・ルージュのメンバーも多数いることから、ほとんどの観測筋が追加はないとみている。一方で、正義と平和を原則として、追加を求める市民の声もある。カンボジア政府は、政府での要職を交換条件にクメール・ルージュからの離脱を進めた経緯もあり、追加逮捕は回避したいし、資金の問題もある。 

誰を追加逮捕するかも明確ではない。すでに死亡している幹部も多い。ジャーナリストや学者がクメール・ルージュの戦犯について資料を提供し、特に2人の名が戦犯として挙がっているが、この2人を含めるとさらに範囲は拡大していく。クメール・ルージュの旧施設から収集される資料は各地に散らばっている。だがこうした施設の犠牲者を援助しているNGOは、証言や証拠を多数収集していると主張している。 

逮捕者の追加が憶測されているクメール・ルージュ裁判について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 


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『民主カンプチア時代』の真実とは

|Q&A|「支援資金が減ればエイズによる死者が増大する」

【国連IPS=タリフ・ディーン】

世界規模の経済危機により、国連が掲げる重要な開発目標の一つ「2015年までに今なお世界中で数百万の人々を苦しめているエイズの蔓延を阻止する」もまた脅かされている。 

ジュネーブに本部のある、国連エイズ合同計画(UNAIDS)事務局長のピーター・ピオット博士は、「エイズの支援金は潤沢だ」と繰り返し指摘されるのは誤解を招きかねないという。エイズ対策資金はなお不足しているというのが「厳然たる事実」なのである。

 昨年、世界的なHIV/エイズとの戦いの資金は大幅に増え、総計100億ドルに上り、2006年と比べて12%の増加となり、10年足らずで10倍に増えた。 

しかしそれでも昨年の不足額は81億ドルを超えていた。2008年にはその不足額がさらに拡大するおそれがある。 

12月1日の世界エイズデーを前にピオット事務局長は、「世界的な金融危機が支援の縮小という事態を招く懸念があり、そうなると途上国世界全般に、特にエイズ対策において、有害な影響をもたらすだろう」と語った。 

先週の時点で世界のHIV感染者は3,300万人。2007年の新たな感染者は全世界で270万人で、エイズによる死亡者は200万人だった。 

 「この疫病はいまだに対策を上回る勢いで広まっている」と、UNAIDS ニューヨーク事務所のバーティル・リンドブラード所長はタリフ・ディーン国連総局長の取材に応じて語った。 

「この病との戦いは延々と続いており、対策にも持続性が必要だ」とリンドブラード所長は続けた。 

「現在の新たな局面は、重大な課題も提示している。現在の気運を将来に持続させ、それを踏まえて今日の人々だけでなく今後20年30年後の人々のためにできる限り最善の成果を確実にもたらす体制を整えるという課題である」 

リンドブラード(BL)UNAIDS ニューヨーク事務所長とのインタビューの抜粋を以下に記す。 

IPS:低中所得国のHIVプログラムに対する支援資金は6倍に増えたにもかかわらず、世界では3,300万人がいまだにHIV感染者であり、昨年は270万人の新たな感染者が生じた。今日の世界的な状況をどのように考えるか。 

BL:エイズは時代を特徴づける問題であり、今日でもそうだが、21世紀を通じてずっと優先課題であり続けるだろう。というのもエイズは気候変動と同じように長期的で地球規模の影響を持つ地政学的な事象だからである。私たちは今、エイズ対策の新たな局面に入りつつある。初めて、エイズ対策が現実に成果を生み出している。 

特に深刻な影響を受けている国々で、HIVの予防と治療に関して大きな進展が見られた。低中所得国では今日、300万人以上が延命効果のあるHIV治療薬を利用できている。 

UNAIDSの2008年版エイズ報告書によると、2007年の新たな感染者は、前年の300万人から270万人へと減少した。原因の一つとして、多くの国で人々が、安易に性行為をしない、性行為の相手を減らす、性行為の時には避妊具を使用する、など性行動を変化させ始めたことがあげられる。HIVに感染して生まれる子どもの数も減った。子どもへのHIV感染を防ぐための医療サービスが必要な女性の33%は、そうしたサービスを利用できている。 

こうした事実は端緒に過ぎない。この世界規模の疫病は感染者の割合(有病率)については横ばいとなったが、それでもHIV感染者の総数は世界で3,300万人に増えており、毎日7,500人近くが新たに感染している。 

エイズ禍は世界のどの地域でも終焉を迎えていない。新たに治療を受ける2人ごとに、5人の新たな感染者がいる。さらに、ドイツ、英国、オーストラリアなどで報告されているように、流行が収まったと思われている地域で新たなHIV感染者の数が増えている。 

IPS:国連の最優先課題の一つであるミレニアム開発目標(MDGs)は2015年までにエイズの蔓延を阻止すると提唱している。潘基文国連事務総長は現在の金融危機が全てのMDGsを揺るがせる可能性があると懸念している。今回の経済危機には、エイズとの戦いへの影響もあるだろうか。 

BL:何の手だてもなく資金不足の犠牲になるのは承服できない。この先数年間の死者が数百万単位で増えることになり、一方で予防が後手になれば感染者がさらに増えてその後のコストがいっそう増大する。支援国および各国政府はエイズ対策を持続し拡大するために全力を尽くし続けることが不可欠である。それができないと、数百万の人々が悲惨な状況に陥る。これまでの膨大な投資もまったく無効になってしまうし、2015年という期限までにMDGsを実現するという気運をそぐことになる。 

資金拠出が制約される時期においては、プログラムのいっそうの効率化および実施の強化もかつてないほど重要になってくる。援助国および被援助国政府双方による、2005年の援助効果向上に関するパリ宣言の完全な実施が必須である。 

IPS:過去数年にわたり、世界の全HIV患者の半数を女性が占めている。改善が遅れているのはなぜか。経済的な問題か、それとも政治的な、或いは、文化的な問題か。 

BL:HIVは、特に女性の間で蔓延し、影響が強まるという状態が続いている。これは男女の不平等、婦女子に対する執拗な汚名や差別、HIVに対する女性の脆弱性を緩和するための権利拡大の欠如などの、根深い要素による。 

女性をHIVに対して脆弱にし、病の影響(特に看護の分野)を過度に負わせている社会的、文化的、経済的な要素は、各国のエイズ対策にとって大きな障害となっている。 

IPS:国連の積極的な運動にもかかわらず、多くの国がHIV患者を保護する法律を持たないことから、エイズに押された社会的烙印ははびこっている。世界には反差別法の成否の例はあるのか。 

BL:67%もの多数の国がHIV感染者を差別から保護する法律を備えていると報告している。たとえばナミビア議会は2007年に可決されたナミビアの労働法案でHIVを差別の禁止基準に含めた。 

バハマ、マラウィ、南アフリカ、ジンバブエの法律は民間企業の雇用の条件としてHIVテストの強制を認可していない。カンボジア、ガイアナ、その他では、質の高い医療を平等に受けるHIV患者の権利を法律で明記している。 

けれどもこうした法律の実施レベルはこれまで実証されていない。さらに、2008年6月のエイズに関するハイレベル会議の際、国連事務総長等が国連加盟国にHIV感染者に課せられた旅行規制を解除するよう求めたが、63カ国がいまだにHIV患者というだけで入国、滞在、居住を何らかの形で規制している。 

いかなる理由があろうといかなる期間であろうとすべてのHIV患者の入国を認めないと宣言している国が8カ国あり、さらに短期滞在ビザの発券さえ拒否している国が5カ国ある。28カ国はHIV陽性と判明した時点で患者を国外退去させている。(原文へ) 
 
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

|テロとの戦い|「アフィア女史を釈放せよ」とUAE紙

【ドバイWAM】

アラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙は論説の中で、3人の子どもを持つ母親が、如何にして証明されていない「テロ容疑」の犠牲となったかについて報じた。 

「明らかに彼女は『テロとの戦い』の一環として拉致された数百人に及ぶ犠牲者(その大半は無実の人々)の一人である。」とカリージタイムスは「アフィア・シディキを釈放せよ」と題した論説の中で述べた。 

「アフィア・シディキ博士(38歳)は既に5年に亘って米国により身柄を拘束されており、近い将来拘束を解かれる見通しはない。」

 「シディキ博士をテロ容疑で審議した米国の判事は、彼女を公判に耐えうる精神状態ではないと述べた。これは言うまでもなく、米軍がアフガニスタンと米国で尋問戦術に基づいて拘留中の同女史に加えた拷問と高圧的な尋問の結果である。ところが、パキスタン政府が新たに女史の本国送還を米政府に求めたことから、今後の展開について多くの注目を集めている。」 

”Grey Lady of Bagram”(バグラム=アフガニスタンのバグラム空軍基地内の刑務所)とあだ名されるシディキ女史は3人の子どもの母親で神経科学者である。シディキ女史がどのようにしてアフガニスタンにたどり着き、(米軍によって)アルカイダ指導部を支援したとの容疑で逮捕されるに至ったかの経緯についてはあまり知られていない。 

「シディキ女史の弁護士の主張によれば、パキスタン生まれの同女史は、2003年3月にカラチ空港で子ども達とともに拉致され、以来5年間に亘ってパキスタン或いは米国当局の手によってアフガニスタンで身柄を拘束されてきた。そして今年7月、母国パキスタンが黙認する中、彼女は裁判を受けるため身柄を米国に移送された。」 

「しかし、パキスタン政府は、人権団体やメディアによる圧力に動かされて、米国に対してシディキ女史の本国送還を要請した。しかし米国の法律の下では、本国送還よりも米国の精神病院に終生収容されることになるのではないかとの懸念がある。アフィアの家族や人権団体が繰り返し主張しているように、彼女に対するテロ容疑の論拠にはなぞの部分が多い。」 

「パキスタン当局は、5年前のシディキ女史のカラチ空港からの失踪について詳細不明で事態を把握していないとしている。また、米国当局も、シディキ女史訴訟の理由をアルカイダとの関連容疑ではなく、『尋問官襲撃容疑』としていることからも分かるように、そもそも同女史を訴える論拠を持ち合わせていない。この茶番劇はどこまで行くのだろうか?介助なく自ら立ち上がることもできない独りの女性がどのようにして米軍や尋問官を襲うことができるのだろうか?もし彼女が米国に対するテロ攻撃を計画していたならば、実際彼女が(失踪時)そうしていたように幼い子ども達を連れて行くだろうか?」 

 「明らかに、シディキ女史は、米国による『テロとの戦い』の名の下に拉致された数百人に及ぶ、そしてその大半が無実の、犠牲者の一人である。今日、悪名高いグアンタナモ湾の収容所の閉鎖を約束したバラク・オバマ米国次期大統領に対する国際社会の注目が集まる中、アフィア・シディキ女史の事件は、テロとの戦いの名の下に行われている恐ろしい人権侵害の残酷な事例を示すものである。」 

「この3人の子どもを持つ若い母親は、彼女が犯した可能性が極めて低い犯罪の代償を既に払わされてきた。しかも、シディキ女史が有罪というならばそれを立証する責任は米国政府にあるのである。シディキ女史は既に医学、精神医学双方の治療を必要としている状態である。米国当局は、シディク女史の本国帰還を直ちに認め、彼女を今日の状態に陥れた補償を行うべきである。」と論説を締めくくった。 (原文へ
 
翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

禁止された後も数千人を殺害する地雷

【ブリュッセルIPS=デイビッド・クローニン】

地雷の使用禁止が国際的に合意されてから10年が過ぎたが、新しい報告書の推計によると、この武器は2007年にもなお数千人の命を奪っている。 

未だに地雷の使用を続けているのはビルマとロシアの2国だけだが、世界各地の数々の紛争の間に敷設され、いまだに不活性化されていない地雷による死傷者が後を絶たない。 

地雷監視年次報告書によると、地雷および手榴弾、迫撃砲、クラスター爆弾などの「戦争の爆発性残留物」は昨年5,426人を殺害した。

 11月21日にブリュッセルでこの報告書を発表したハンディキャップ・インターナショナルのスタン・ブラバン広報担当官は、この調査結果を「非常におそろしい」と表現した。実際の死亡者の数はこれをはるかに上回る可能性もある。 

それにもかかわらず、ブラバン広報官は、「1997年に国際的な地雷禁止条約が合意されてから、地雷による犠牲者の削減に関しては着実な進展がみられる」と指摘した。1990年代には、地雷および関連した武器による死亡者は毎年およそ2万6,000人に上っていた。 

 156の国が批准したこの条約の下では、各国政府にはその領土内の地雷を撤去するために10年が与えられている。英国はフォークランド諸島の地雷撤去をほとんど進めていないことから、「条約違反となる危険性のある」国のひとつだとブラバン氏はいう。フォークランド諸島は南大西洋上にあり、その領有をめぐって1982年にマーガレット・サッチャー英国首相の政権(当時)がアルゼンチンと戦争を行った。 

この条約のもっともプラスとなる影響のひとつは、条約への署名を拒否した国の多くへの抑止となり、少なくとも備蓄分を部分的に廃棄するまで、地雷に烙印を押したように思えることである。昨年は4,200万個の地雷が廃棄された。ロシアは最近のチェチェン紛争では地雷を使用しているが、100万個の地雷を廃棄した。 

さらに報告書によると、2007年には地雷の影響を扱う国際支援の総額は4億3,100万ドルだったが、前年と比べて4,500万ドル減っている。最大の資金提供者である欧州連合(EU)は、2億ドルの貢献を行ったが、2006年と比べると25%の減少だった。 

クラスター爆弾に反対する運動は、5月にダブリンでの会議で107カ国がその使用禁止を支持し、大きな後押しとなった。条約は来月オスロで行われる式典で正式に調印が始まることになっている。 

けれども禁止が合意されたにもかかわらず、8月のロシアとグルジアとの短い戦争でクラスター爆弾の使用を防ぐことにはならなかった。 

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、犠牲者の体から手足をもぎ取るこうした武器の使用により少なくとも16人が死亡し、56人が負傷したと断定した。 

ロシアはクラスター爆弾を投下したという申し立てを否定しているが、グルジア側はこれらの武器の使用を認め、その武器はイスラエルのメーカーから購入したといっている。 

ヒューマン・ライツ・ウォッチの上級軍事分析官のマルク・ガルラスコ氏は、これらの武器の使用を調査するためにグルジアに赴いた。ガルラスコ氏は「ゴリ地方で数千個のクラスター爆弾が不発のまま残っていて、除去には半年かかるだろう」という。グルジアは使用した大量の爆弾が不良品のようだったのはなぜか調査中である。 

米国は国際的な禁止に対して、もっとも執拗に反対してきた。ジョージ・W・ブッシュ現大統領が個人的に各国指導者に電話して完全な禁止に抵抗するよう要請したことは知られている。しかし活動家は後継者となるバラク・オバマ氏が、この合意と米国が批准していない1997年の地雷禁止条約に、より建設的な立場を取ることを期待している。 

ガルラスコ氏は、「米国は北大西洋条約機構(NATO)の他のほとんどの国と対立している」と主張する。「米国のNATO内の同盟国、英国、ドイツ、カナダ、フランスなどのほとんどがこうした地雷とクラスター爆弾という二つの武器の放棄に快く応じている。そのため米国が放棄しない理由が考えられない」 

一方で、EUの執行機関である欧州委員会の出資した調査は、拷問用具を製造する1万6,000社を超える企業を特定した。 

英国のマンチェスターを本拠とするオメガ財団によって行われたこの調査はまた、拘束者に苦痛を与えるため使用される可能性のある6,000品目を特定した。 

この調査は「拷問の商売」を規制するEUの法令が導入されてからどのような進展があったかを追跡調査するために企画されている。この法令の主要な弱点を指摘した、オメガ財団とアムネスティ・インターナショナルが共同で行った2007年の報告に続くものである。だが拷問者が使用する道具の中でもっとも悪名が高い、スティング・スティックとして知られている針のつきでた棒や死刑執行のために作られたロープなどは含まれていない。 

EUの職員の話では、評価基準の範囲の拡大についての話し合いが2009年初めにブリュッセルで予定されている。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan 浅霧勝浩