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|ノルウェー|世界種子貯蔵庫をNGOが警戒

バンガロールIPS=ケヤ・アチャルヤ

ノルウェー領スヴァールバルにオープンした世界種子貯蔵庫( Global Seed Vault::GSV )に対し、インドをはじめ世界各地の農業NGOからは公平性を欠くその目的に非難の声が上がっている。

バンガロールを拠点とし、アフリカ・アジア・ラテンアメリカの主要途上諸国に支部を持つ農業ロビー団体GRAIN は、種子貯蔵庫の深刻な欠点は、国および民間の貯蔵庫供託者を基本的に対象とするもので、これらの種子にアクセスできない貧しい農民の権利を排除するものだと主張している。

GRAINは、GSVの生息域外貯蔵システムは、元来種子を生み出し、選択し、保護し、共有してきた農民たちから植物品種を奪い取ると訴える。システム確立に関わる科学的および制度的枠組みへのアクセス方法を知らない農民は排除されていると主張している。

 GRAINのアジアプログラム担当官としてニューデリーに本拠を置くシャリニ・ブータニ氏は、IPSの取材に応えて「このシステムは農民が世界の最初の、そして現在も変わらぬ植物育種家であることを忘れている。したがって、元来農民たちが保全してきた種子の知的財産権やその他権利の交渉が、各国政府と種子産業のビジネスになってしまう」と述べた。

GSVに関する決定はノルウェー政府によって行われることになるが、現在のところ信頼に足ると見なされているものの、その方針に変更はないという保証はない。ノルウェー政府は、供託者と10年間の協定を締結しており、方針が変わった場合には供託者に協定を終了する権限を認める条項が含まれている。

GSVの運営は、ノルウェー政府、世界作物多様性財団(GCDT)および北欧諸国の共同事業である北欧遺伝子資源センターの三者間協定に細かく規定されている。

GRAINは、GSVに関する決定事項をGCDTと共有することを主張している。GCDTは、企業から多額の資金供与を受け、世界の農業生物多様性へのアクセスおよびそれからの便益に関するあらゆる「激論」を積極的に取り上げている民間団体である。

多国籍種子企業は現在、年間300億米ドル規模の世界の種子市場の半分を支配しており、数多くの公的な植物育種プログラムを買い占め、各国政府にその管理を放棄させている。「最終的受益者は、作物多様性の崩壊の根源にあるのと同じ企業となるだろう」とGRAINの刊行物は述べている。

しかしGSVを管理する世界作物多様性財団の責任者ケアリー・ファウラー氏は、そうした批判について「スヴァールバル世界種子貯蔵庫の目的と活動を誤って伝えており、不正確で誤解を与えるような好ましくない形でGCDTについて論じている」と述べている。

ファウラー氏はIPSの取材に電子メールで応えて「種子貯蔵庫は、165カ国を超す国々ならびに国連食糧機関(FAO)の遺伝子資源委員会に歓迎されており、すでに先進諸国や途上諸国ならびに種子貯蔵NGOに利用されている(ただし企業は使用していない)」と語った。

北極点から約1,000km、摂氏マイナス6度の永久凍土層深くに建てられたGSVには、さらに低温のマイナス8度の冷凍庫3室があり、450万組の種子を貯蔵できる。

たとえば核戦争や自然災害など深刻な災害に世界の農業が見舞われた時でも、各国は「地球最後の日の貯蔵庫」とも広く言われているこの貯蔵庫を頼って、種子を取り出し、食糧生産を再開することができる。

しかし、農業保全の策にこだわり続けるGSVに不満を抱いている人は多い。

コミュニティの種子銀行ネットワークを通じて農場における種子保全活動が評価されて2004年に国連の赤道賞を受賞した GREEN財団は、遺伝的多様性を保護するという貯蔵庫の主張は「幻想」にすぎないと述べている。GREEN財団は、バンガロールを本拠に主に女性が運営に当たっている団体である。

「リオデジャネイロでの国連環境開発会議(UNCED)生物多様性条約(CBD)が、遺伝子銀行には限界があることを認識してからすでに10年が経つ。その固有の限界とは、大規模な停電はもとより、これらの銀行への農民のアクセスを除外している点、冷凍で保管された種子を異なる環境条件下で栽培しようとしても発育しない点などである」と、GREEN財団の創設者ヴァナジャ・ラムプラサド氏はIPSの取材に応えて述べた。「世界の食糧は冷凍庫の中で安全に保管されているとの考えだが、その裏には、悲しむべき科学的注釈がある」

GREEN財団、GRAIN、デカン開発協会(DDS)などのNGOは、農民たちが畑で種子を育て、保全し、これらを他の農民たちと交換していくことが遺伝的多様性と資源を保全するもっとも確実な方法と主張する。

ラムプラサド氏は、この10年、遺伝資源を収集し、それらを畑で保全しようという努力が世界的に行われており、遺伝資源は育種のためだけのものという概念を打ち破ってきたと指摘。「これによって、遺伝資源の生息域内保全は世界の何百万人の食糧安全保障だけでなく、食糧主権にとっても不可欠である事実が再確認されている」と述べている。

ハイデラバードに本拠を置き、貧困層のダリット(インドのカースト最下層)の女性の農村におけるエンパワーメントに取り組み、ミレット(キビ、アワの一種)など在来の穀類の保全を行っているDDSは、科学界が冷凍貯蔵システムによって作物の多様性を保全できるとは考えていない。

DDSの創設者P・V・サティーシュ氏は、「世界の豊富な種子は、畑で、世界の農村地域でしか生き残ることができない。GSVはこうした種子を農民から奪い取り、食物連鎖の最初のリンクを打ち壊す」と述べている。

GSVの供託者は現在、FAOの下で運営されている国際農業研究協議グループ(CGIAR)で、国際社会に代わって受託協定に基づき世界各地の作物を保管する15の遺伝子銀行を所有する。

GRAINは、受託制度は結局CGIARに貯蔵庫の保管物への「ほぼ排他的」なアクセス権を与えるものであり、農民を排除するものと非難している。

インドやアジアからの登録は、CGIARの傘下にあるインドのコメ研究所やハイデラバードにある国際半乾燥地熱帯作物研究所(ICRISAT)の貯蔵物の一部で、GSVに保管されることになる。GRAINのブータニ氏は、「この貯蔵庫はむしろ、農民の重要な伝統的知識を『略奪』するものとして知られる生命科学産業が必要としているもの」と述べている。

ICRISATの報道発表は、貯蔵庫における種子複製保全に同組織が参画することにより、世界の農業を気候変動から守る努力が一層強化されるだろうと述べている。しかしICRISATから受け渡される種子や遺伝資源は、気候変動に耐え得る耐寒性の乾地作物であるモロコシ、トウジンビエ、ヒヨコ豆、キ豆、落花生、ミレットなどである。

ブータニ氏は、この戦略とともに採用されるべき保全方法があると述べ、スヴァールバルが確実な保全方法と信じるに足るものはないと言う。

ICRISATは、世界各国で現在運営されている1400あまりの遺伝子銀行を通じて提供されている保全例を挙げている。たとえば、エチオピアやルワンダの内戦中モロコシの遺伝資源が失われたが、遺伝子銀行に保管されていた貯蔵物から補充された。

GRAINは、各国政府は、国際遺伝子銀行よりむしろ、まず自国の農民や市場を支援し、革新的な農業や種子交換に携わっている農民の手に種子を委ねるべきと提言している。農業生物多様性資産を有する開発途上諸国は、企業支配の農業協定に同意する前に、自国の農民の利益を守ることが必要だ。

ファウラー氏は、生息域外および域内の保全は補完的なものであるという見解をGCDTは支持すると語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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|中東|シリアと「戯れる」イスラエル?

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【エルサレムIPS=ピーター・ヒルシュバーグ】

パレスチナとの交渉が不調に終わったイスラエルが、今度はシリアとの和平交渉を進めようとしているかにみえる。

イスラエルのインフラ大臣であるベン=エリーザー氏は「イスラエルはシリアを交渉のテーブルにつかせるためのあらゆる努力を行っている」と述べた。また、オルメルト首相も、シリア政府との直接交渉を示唆する発言をしている。

シリア側も、第3者を介してイスラエルと接触していることを認めた。シリア外務省のカンファニ報道官は、トルコを交渉のチャンネルとして利用しているとクウェートの新聞に対してコメントした。

シリアの要求は1967年の中東戦争で奪われたゴラン高原を奪還することにあり、それが和平交渉成立の条件となる。2000年にイスラエルのバラク首相とシリアのアシャラ外相が米ウェストバージニア州シェパーズタウンで会談した際には、交渉が成立しなかった。この時は、シリア側が、(ゴラン高原とイスラエル領土に挟まれた)ガリラヤ湖岸までイスラエルが撤退することを要求した。

今回のシリアの和平姿勢は、強硬なブッシュ政権に対するポーズに過ぎないとの見方もある。また、イスラエルは、最大の同盟国であるアメリカの顔色を伺って、シリアに接近することができずにいる。

他方では、イスラエルからの報復を恐れてシリア軍が予備兵の動員を初めたとの報道もある。イスラエルでいわれている一つの説明は、2月にダマスカスで起こった Imad Mughniyah の暗殺事件にヒズボラが報復するとの情報をシリア政府がつかんでおり、その報復に対してイスラエルが反撃してきた時に備えているのではないか、というものだ。Mughniyahはヒズボラのテロリストであるとイスラエルは長らく主張していた。しかし、イスラエル政府は暗殺への関与は否定している。

イスラエル・シリア間和平の見通しについて報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

|ウガンダ|性的暴力に怯える難民キャンプの女性達

【ナイロビIPS=クワンボカ・オヤロ】

ウガンダ北部では、神の抵抗軍(LRA)と政府軍の武力闘争が続いている。ジョセフ・コニー( Joseph Kony )率いる反乱軍は、聖書の10戒に基づく政府の樹立を主張しているが、子供を兵士や慰安婦、召使に使うなどの人権侵害で悪名を馳せている。 

20年に亘るこの紛争は、2006年に最初の休戦で合意したが、最終和平合意の目途は立っていない。コーニーは、4月10日にスーダンとコンゴ民主共和国の国境地点で和平合意に署名する予定であったが、更なる話し合いを要求していると伝えられる。国際刑事裁判所(ICC)がコーニーを始めとする反乱軍リーダーを戦争犯罪者として裁こうとしていることが、和平交渉を一層難しいものにしている。LRAは武装解除の条件として、ICCの裁判中止命令を要求しているのだ。

 ジュネーブを拠とする「国内難民監視センター」によれば、同紛争により現在約123万の人々が難民キャンプや仮設居住地での暮らしを余議なくされているという。 

カンパラに本部を置く市民団体「女性のための民主主義フォーラム」のローズマリー・ニャキコンゴロ氏は、「難民キャンプの女性達は性的迫害に遭っている。夫さえ、彼女達に兵隊の所へ行き金を貰って来いという始末だ」と言う。また、国連人口基金(UNFPA)のプリモ・マドラス氏は、「8歳の女子も食糧を得るため体を売ることを余儀なくされている」と語っている。 

UNFPAの2007年調査によると、難民キャンプ内では避妊具の需要が高く、配布されるとすぐに無くなるという。しかし、これらは容易に手に入るものではなく、無料で1か月配られたかと思うと、翌月には有料になったりする。その上、戦争状況下では、“産めよ増やせよ”の感覚が浸透しており、失った家族の代わりを産まなければとのプレッシャーも強い。 

その結果、難民キャンプの女性1人当たりの出産は7.4人と全国平均の6.7人を上回る。(ウガンダ統計局)また、全国的には18歳以下の母親は全体の25パーセントであるが、キャンプ内では40パーセントを超える。言うまでもなく、エイズも蔓延しており、全国感染率の6.5パーセントに対しキャンプ内では12パーセントに達している。 

ウガンダ難民キャンプの惨状について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

|国連|母親から子供へのエイズ感染防止を強化

【国連IPS=タリフ・ディーン

国連は4月3日、母体からのエイズ感染防止は可能だとする報告書を発表した。

2007年現在、15歳以下のエイズ死亡者は29万人。サハラ以南のアフリカ諸国では1,210万人の子供が両親あるいは片親をエイズで失っていると予測される。

「子供とエイズ」と題された同報告書は、1)エイズ/HIVは子供の成長に深刻な影響を与えており、貧困、途中退学、差別を余儀なくされる子供は数百万人に達する、2)HIVに感染している子供210万人の殆どは出産あるいは授乳中の感染による、3)15歳以上の感染者の内15-24歳の若者が40%を占める、と述べている。

ユニセフのアン・ヴェネマン事務局長は、「今日の子供、若者は、エイズの無い社会を知りません。毎年数千人がこの病気で死亡し、数百万の親、親族を失っています。グローバル・エイズの課題は子供を中心に据える必要があります」と語っている。

国連報告によれば、エイズ感染を防ぐ手段を持たない青少年が最もエイズに犯され易く、エイズ対策の重要な鍵になるという。

母体感染防止キャンペーンは、2005年10月に国連が「子供のための連帯、エイズに対する連帯」と称し国連合同エイズ計画(UNAIDS)、WHO、ユニセフと共同で成果の見直しをし、母親から子供への感染防止、小児科治療の提供、青少年間の感染の防止、エイズに感染した子供達の保護/支援の4つを今後の課題に設定したことに遡る。

同報告書は、資金拠出のギャップは存在するものの、政府、ドナーのリソース提供は増加しており、2004年には61億ドルであった資金が2007年には100億ドルに増加。特に母親から子供への感染防止はかなりの成果、進歩を遂げていると述べている。

今回、国連は子供への感染防止を目的に、1)コミュニティー、家族の連携強化、2)保健、教育、社会保障システムの強化、3)母親、乳幼児のための母子感染予防対策の統合、4)防止活動強化のためのデータ、評価システムの統合の4つの分野で行動を強化するよう呼びかけている。国連の新エイズ防止策について報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan

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ヨルダンは米国のテロ容疑者引き渡しの拠点、と人権団体の報告書

【ニューヨークIPS=ウィリアム・フィッシャー】

有力メディアではアラブ中東地域の中でもっとも穏健な国と報じられているヨルダンだが、「CIAの真の代理看守として」囚人を引き受けた最初の国であり、世界でもっとも多くの「特例拘置引き渡し」の犠牲者を受入れている、とヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の新しい報告書は伝えた。 

HRWは、CIAからヨルダンに引き渡された拘留者の大半に対して「拷問および残虐・非人道的処遇を組織的に行っているようだ」と非難している。報告書は、引き渡された囚人は「赤十字の国際委員会が視察に来る時にはいつも隠蔽された」と主張している。 

さらに、CIAのヨルダンの治安部隊との長年にわたる関係が、ヨルダン人は拘留の事実を他言しないとの確信を米政府高官に与えたようだと、報告書は述べている。 

HRWのテロおよび反テロ・プログラムのディレクター、ジョアンヌ・マリナー氏はIPSの取材に応えて「ヨルダンで私たちが実証した引き渡し事件は、拷問が待っているような引き渡しは行っていないというブッシュ政権の主張が偽りであることを示すもの」と述べた。

 彼女はさらに「9・11以後、CIAは囚人をCIAの収容所に不法に拘留するだけでなく、ヨルダンにおいて十数人もの囚人の尋問・拘留・拷問を秘密裏に委託した」と述べている。 

HRWによれば、ヨルダンに引き渡された正確な人数は判明していないが、引き渡しの目的はただひとつ、テロ活動の自白を引き出すことにあった。拘留者の多くが、ヨルダンにおいて虐待的な尋問を集中的に受けた後直ちにCIAの監督下に戻され、一部は自国に、他はグアンタナモ米軍基地に移送され、一部は未だ拘留されている、と報告書は明らかにしている。 

HRWは、2001年9月以降、CIAの引き渡しの慣行は変わったと、次のように指摘している。「CIAは、容疑者を本国に送還して『公正な裁き』(但し、拷問や極めて不公正な裁きを含む)を受けさせるのではなく、虐待的尋問を手助けする第三国に引き渡し始めた」 

米国の囚人引き渡しに協力するヨルダンについて報告する。

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

新しい「緑の革命」へ向けて

【ヨハネスブルクIPS=スティーブン・リーヒ】

Rice ready for harvest. Credit: Amantha Perera/IRIN
Rice ready for harvest. Credit: Amantha Perera/IRIN

食料価格が高騰し、世界の数億人が飢えに苦しむなか、食料安全保障を守るための新しい方法が模索されている。これについて、「開発のための農業科学技術国際評価」(IAASTD)をめぐる国際会議が4月7日から12日まで南アフリカのヨハネスブルクで開かれる。 

昨年は、食料価格が猛烈な勢いで高騰した。たとえば、トウモロコシは前年比31%、大豆が87%、小麦が130%といった具合である。世界の食糧備蓄はわずか40日分しかない。他方で、2050年までの間に人口がさらに30億人拡大するとみられている。 

IAASTDには、30ヶ国の政府代表、バイオ技術産業、農薬産業、グリーンピースやオックスファムなどの国際NGOが参加している。彼らの報告は、人々を貧困から救い出すには地元の伝統的な知と定式的な知識を組み合わせることが必要だと結論づけた。

 しかし、2つの巨大バイオ技術企業であるシンジェンタ社とBASF社が、IAASTD報告草案が遺伝子組み換え作物に対して警戒的すぎるとしてIAASTDプロセスから降りることになった。 

ハーバード大学の農業政策の研究者であるロバート・パールバーグ氏は、IAASTDは1960年代の「緑の革命」をたんに失敗としてのみ描いていると批判し、バイオ技術を中心とした科学を貧しいアフリカ農業にもっと適用すべきだと主張している。 

これに対してトロント大学のハリエット・フリードマン氏は、IAASTDはたんなる「意見」ではなく明確に「科学」的知見に基づいたものであると反論する。「バイオ技術産業は農業科学に対する視野が狭すぎる」と氏は批判した。 

貧困層を救うための新しい農業のあり方について考察する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

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|スーダン|拷問を受けたとの申し立てで死刑判決に疑念

【ハルツームIPS=ブレイク・エヴァンス・プリッチャード】

2006年にスーダンの著名ジャーナリスト、ムハンマド・タハを殺害した容疑で2007年11月に有罪判決が下った10人について、弁護団が自白は拷問によって強要されたものだとし、免訴を主張。しかし3月8日、控訴が棄却された。 

日刊紙「al-Wifaq」の編集長だったタハ氏は、預言者ムハンマドの出自に疑問を呈した記事を発表したとして2005年に冒涜的な言動を非難されていた。後にこうした容疑は撤回されたものの、死刑を求める一般の声は高かった。 

拷問の申し立ては困難を伴う。人権団体で活動する医師がIPSの取材に述べたように、「刑務所も裁判所も、拷問が立証されないように、身体検査を遅らせる」さらに身体検査は担当裁判官が任命する公立病院の者が実施することが義務付けられており、人権団体や独立した病院による検査は容認されない。

 10人の主任弁護士カメル・オマール氏は、こうした拷問の申し立てを理由に逮捕され、1晩拘留された。彼はIPSの取材に、訴訟について発言を拒んでいる。 

しかし、昨年まで弁護団の一員だったムハンマド・シェリフ氏も、拷問が行われたことは明らかと、IPSの取材に対し述べている。 

スーダンの多くの人権派弁護士が、拷問はスーダンの深刻な問題と主張している。だが、依頼人に対する守秘義務からこうした主張を立証する具体的事例を明らかにできない場合が多い。ロンドンに本拠を置く「拷問に反対するスーダン組織(Sudan Organization Against Torture)」も、「スーダンの拷問者は法執行組織の一員であるため、一般に法の網を逃れる」と主張している。 

IPSの取材に応えた政府機関「人権諮問委員会」の報告者アブドゥール・モネイム・オスマン氏は、「スーダンは拷問の件数がもっとも少ない国のひとつ。人権派弁護士の主張は政治的目的のためであり、国際社会の同情を集めるためのものだ」と話し、タハ事件の公正さを主張した。 

アムネスティ・インターナショナルの最新の報告書によれば、スーダンはアフリカで死刑執行件数が最多であり、2006年には65人以上が死刑に処せられた。 

他の死刑判決についても疑念が生じるスーダンの拷問慣行について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 


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独裁政権を支持するEUに不満の声

|オーストラリア|地位を確立したアボリジニのラジオ局

【ブリスベンIPS=カリンガ・セレヴィラトネ】

オーストラリアの大都市でアボリジニの運営による初のコミュニティラジオ放送局「ブリスベン先住民メディア協会」(Brisbane Indigenous Media Association: BIMA)がこの4月5日で開局15周年を迎えた。

通称「98.9FM」がライセンスを取得し、開局にこぎ着けた1993年当時は、ブリスベンにはアボリジニよりもキリスト教徒の人口が多いとして放送ライセンスの優先権を主張するキリスト教団体に対し、主要メディアを通じて発言権が確保されている彼らよりも、アボリジニこそ発言の場を得る権利があると放送当局を説得しなければならなかった。

 今や98.9FMは、非主流のコミュニティ放送というよりは主流ラジオにとなった。

このラジオ放送局の創設者でゼネラルマネジャーのTiga Bayles氏は、IPSの取材に応えて「私たちはたまたま黒人で、たまたまコミュニティラジオであるが、ブリスベンの主流ラジオ業界のステークホルダーだと自認している。週当たりの白人のリスナーも12万人にのぼる」と述べた。

白人にもアボリジニにも人気のあるカントリーミュージックが、この24時間放送のラジオ局の売り物である。ブリスベンのグリフィス大学のマイケル・メドーズ教授も「カントリーミュージックが先住民族と非先住民族の2つのコミュニティの架橋となっている」とし、このラジオ局の成功要因に挙げている。

98.9FMではこの他、午前6時から午後8時まで毎時間5分間のアボリジニ・コミュニティに関連するニュースを放送している。Bayles氏が会長を務める全国先住民族ニュースサービス(National Indigenous News Service?NINS)が制作するニュースは、先住民族の視点からニュースを伝えるもので、オーストラリア全国およそ150のコミュニティラジオ放送局にも衛星で配信されている。

Bayles氏はまた、週5日1時間のトーク番組を生放送し、これもNINSを通じて全国に配信。「白人リスナーに黒人の体験を伝えている」と述べている。

メドーズ教授がラジオを中心にクイーンズランド州のアボリジニ・メディアの視聴者調査を行ったところ、このトーク番組は医療従事者や公務員の白人専門職のリスナーも多く、先住民族の考え方を知ることのできる貴重な機会と評価が高かった。

「人民の声」として先住民族社会と外部社会を結ぶ重要な役割を果たすコミュニティラジオについて報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

IPS Japan日本の国会議員連盟で活動紹介を行う

【東京IPS=浅霧勝浩】

IPS Japanは、3月25日に東京の衆議院第一議員会館において開催された途上国貧困問題解決国会議員連盟の総会に招かれ、IPSについてのプレゼンテーションを行った。同国会議員連盟は、2007年に海部俊樹元首相、同議連名誉総裁によって設立されたもので、現在総裁は鳩山邦夫法務大臣が務めている。 

総会に先立ち、欧州議会の超党派国会議員連盟”Friedns of IPS”を代表して、パスカリーナ・ナポレターノEU議員より海部・鳩山両氏に対してレターが送られた。ナポレターノ議員はIPSを推薦したそのレターの中で、「声なき声」に光をさす同通信社を通じて、欧州連合の議員と方向性を同じくする日本の国会議員の間で新たな対話のチャンネルが開けることを切に希望している旨を伝えた。 

議連会合では、まずIPS Japanの浅霧勝浩理事長よりInter Press Serviceの設立理念、歴史、活動概要、そして同通信社特有のユニークな国際支援体制について説明がなされた。IPSは、開発問題に関わる様々な機関(国連諸機関、各国政府、開発援助機関、市民社会組織、民間財団)による支援体制が確立されている。浅霧理事長は、また、プレゼンテーションの中で、IPSグループがTICAD、洞爺湖G8サミットを通じて日本政府に対する初めてのメディア協力を実施する予定であることに言及し、5月下旬にラメシュ・ジャウラ欧州総局長が外務省の招聘でTICAD取材に来日すること、そしてIPS総裁も今年来日予定であることを述べた。 

広中和歌子同議連幹事長、元環境庁長官からは、日本の議連や市民社会組織を含む、世界各地において厳しい境遇にある人々のために活動している様々な活動が今後IPSによって報道されることを期待する旨の発言がなされた。広中幹事長は、日本の国会においても、言葉の壁とメディア報道についての議論が高まっており、日本国内の様々な社会各層において活発に活動が展開されている各種団体・個人によるイニシャティブについても積極的に国際社会に発信していく必要性が議論されている現状を披露した。その上で広中幹事長は、IPS Japanが、今後の活動を通じて、日本国内のメディアが殆ど取り上げてこなかった(開発問題に真摯に取り組んできた)人々と海外のIPS報道を通じて既に繋がっている世界の方向性を同じくする人々を「橋渡しする」役割を期待したい旨の発言があった。 

上田勇同議連事務局長からは、今年の議連の活動計画に言及し、5月の月例会合にIPS欧州総局長、そして後の会合でIPS総裁をゲストに迎え、IPSグループとのさらなる意見交換の機会を持つことによって、同議員連盟とIPSの将来に向けた連携の可能性について引き続き協議をしたい旨の対案がなされ、一同の了承を得た。 

また、4月3日には浅霧理事長らが再び同議員連盟の4月月例会議に招待された。同議連は、5月下旬のTICADに向けてアフリカ7カ国から在京大使をゲストに迎え、意見交換の機会を設けた。

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

|米国|拷問の合法化(クミ・ナイドゥー)

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【IPSコラム=クミ・ナイドゥー】

恐ろしいことに、民主主義と自由を標榜するはずの政府が拷問を擁護するようになり、拷問が再び公共の場で議論されるようになったと、CIVICUS(市民参加のための世界同盟)の前事務局長クミ・ナイドゥは書いている。この記事の中で著者は、ブッシュ大統領が最近、拷問を違法とする法案に拒否権を発動し、テロリスト容疑者に対する拷問の使用を全面的に認め、米国当局者による拷問の実施を実質的に容認した、と書いている。この決定は、CIA長官マイケル・ヘイデンが、CIAは水責めの技術を被拘禁者に使用したと最近証言したことを受けてのものである。米国が公に拷問を認め、容認することは、米国が1984年に批准した拷問禁止条約の効力を弱め、政治的自由と被拘束者の善処を提唱してきた多くの米国の活動家や進歩的政治家の前向きな活動を損なうものである。このアプローチが送るメッセージは明確だ。正当化できるのであれば、拷問は問題ない(ほら、アメリカ人だってやっているじゃないか!)。

ジョージ・ブッシュ米大統領は最近、テロ容疑者に対する拷問の使用を全面的に認め、拷問を違法とする法案に拒否権を発動し、米当局者による拷問の実践を実質的に容認した。

2008年の情報認可法は、CIAを含むすべての政府機関に尋問に関する米陸軍野戦教範を適用するものであった。現在、国防総省にのみ適用されているこのマニュアルは、水責め(擬似溺死)を含む特定の拷問・虐待行為を禁止し、一連の合法的な尋問方法を認めている。

今回の決定は、CIAのマイケル・ヘイデン長官が最近、CIAが被拘束者に水責めの技術を使用したと証言したこと、グアンタナモ収容所の囚人に対する拷問の疑いが続いていること、2004年にイラクのアブグレイブ刑務所での米兵による被拘束者への虐待の衝撃写真が公表されたことを受けて行われたものである。

米国は1988年4月18日に1984年の「拷問禁止条約」を批准し、63番目締約国となった。この条約は、拷問を特に違法とし、罰を与えるため、あるいは情報を引き出すために、「肉体的であれ精神的であれ、激しい痛みや苦痛を意図的に人に与える行為」、「そうした痛みや苦痛が、公務員や公的資格で行動する他の者によって、あるいはその扇動によって、あるいは同意や黙認の下に与えられる場合」と定義している。

当時の米国大統領ロナルド・レーガンは、「この条約の批准に助言と同意を与えることによって、米国上院は、拷問という忌まわしい行為を終わらせたいという我々の願いを明確に示すだろう」と述べている。

残念ながら、現在、米国(および他の多くの条約署名国)は、テロとの戦いという文脈で拷問を正当化しているように見える。テロとの戦いが、拷問からの自由といった基本的人権を守ることを保証するのではなく、むしろそのような行為を正当化することを許しているのだ。

南アフリカでは、アパルトヘイトの時代、テロという概念は、政権による広範かつ組織的な人権侵害の道具として使われた。しかし、アパルトヘイト国家は、その残忍さゆえに、残酷な尋問方法の使用を公表すれば、国際的なスポットライトを浴びることになると考え、その使用を公に否定していたのである。

民主主義国家が、自国の民主主義の欠陥や世界的地位の深刻な低下にもかかわらず、公に拷問を認め、容認することは、拷問禁止条約の効力を弱め、政治的自由と被拘束者の良い待遇を提唱した多くの米国の活動家や進歩的政治家の前向きな活動を損なうものである。このアプローチが送るメッセージは明確だ。正当化できるのであれば、拷問は問題ない(ほら、アメリカ人だってやっているじゃないか!)。米国国務省の報告書では、多くの国で被拘禁者が虐待されていることが強調されているが、この報告書は今や空虚で不誠実なものに思えるだろう。

さらに心配なのは、グアンタナモ基地の軍事委員会裁判で、公式の残虐行為によって得られた証拠が使われていることである。これを許すことで、米政権は自国の司法制度を弱体化させ、テロ法で訴えられた多くの人々が明らかに不公正な裁判を受けることを確実にしているのだ。ヒューマン・ライツ・ファーストが、このような証拠の使用を記録した最近の報告書で指摘したように、拷問を受けた容疑者は、単に虐待を止めるため、あるいは精神的・身体的機能が損なわれたために、しばしば虚偽または誤解を招く情報を提供していることが、調査で一貫して示されている。

ハリウッド映画『レンディション』では、拷問と虚偽または誤解を招くような情報との関連性が示され、米国政府によるもう一つの疑わしい慣行、すなわち過酷な尋問技術を採用していることが知られている国に容疑者を移送する代理人による拷問システムである特別移送が強調されている。

私たちCIVICUSは、ブッシュ大統領がこの法案に拒否権を発動したことに不信と憤りを表明している全米の市民社会組織とともに、この法案に反対している。オルタナティブ・ニュースワイヤーであるコモン・ドリームスが発表したアピールは、支持者に立ち上がり、「それは私のアメリカではない」と叫ぶよう求めている。私のアメリカは拷問をしない!」と叫ぶようにと。国際的な組織として、私たちはこのアピールに参加し、米国は自国民だけでなく、米国の政策に影響され、長い間自らの残忍な行為の正当性を求めてきた政府を持つ国々の人々も失望させていることを表明する。

民主主義の真の試練は、すべてが順調なときに人権侵害を控えることではなく、むしろ内外の脅威に直面したときにその価値を維持することである。テロとの闘いの名の下に、民主主義のある種の基本的な信条を損なうことは、民主主義の理念や人権の実践を損ない、ひいてはテロとの闘いを弱体化させるだけである。(原文へ

翻訳=IPS Japan