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|アフリカ|権力の座にしがみつくアフリカ諸国の大統領

【コトヌーIPS=アリ・イドリス・トゥーレ】

西アフリカのベナン共和国の人々は、ケレク大統領が2006年の大統領選での再選を断念したことを喜んでいる。だが同氏は自ら進んでこの決断を下したわけではなかった。 

ケレク大統領は1972年から89年まで軍指導者として国を率いた。(この間マルクス・レーニン主義に基づく社会主義を国是としたが、経済状況が悪化し、1989年の東欧における社会主義崩壊を受けて1990年3月に国民革命議会を解散した:IPSJ)1991年の大統領選でM.ソグロ氏(元世銀理事:IPSJ)に敗れたが、1996年3月の大統領選で返り咲き、2001年3月に再選し2期目を務めている。

 ベナン共和国では1990年2月に憲法で大統領の任期を2期10年までと定めているが、2001年にケレク大統領と同時期に再選を果たしたウガンダのムセベニ大統領とチャドのデビー大統領はそれぞれ大統領の任期を2期までと定めた憲法を改正し、来年の大統領選で3期目を目指している。 

この2年間、ベナンのマスコミでは同じように憲法を改正すべきか否かという議論が白熱し、国を2分してきた。しかし7月11日に教員団体との会合において、ケレク大統領は初めて任期を2期で終わらせるという意向を示した。 

民間新聞数紙はケレク大統領の決定を支持しつつ、「憲法改正に対して民衆が一斉に異を唱えたこと」がこの決定をもたらしたとする記事を掲載した。憲法改正に必要な議会の5分の4の賛成、あるいは国民投票の承認を得ることが難しいと同氏が自ら判断しなければこの決定はなかった。 

市民社会団体連盟のスポークスマンのR.グベグノンビは「市民団体が一致団結して声を上げていなければ、憲法はずっと前に改正されていただろう」と述べ、NGOのELAN代表R.マドゥマドゥ氏も「国益が危機に晒されたときには市民が一斉に異を唱えなければならない。今回成果を上げたことを誇りに思う」と述べた。市民グループは、統治中の独断からマスコミによって「カメレオン」と呼ばれるケレク大統領の監視を怠ってはならないと警告している。 

アフリカではトーゴのエヤデマ大統領、チュニジアのベンアリ大統領、ガボンのボンゴ大統領、ギニアのコンテ大統領と憲法を改正して再選を果たす大統領が大勢いる。このような動きを抑制するベナンの状況について報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

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|アフリカ|国連人道支援担当の高官、国際社会が無視してきた危機に対する支援を訴える

|タイ‐米国|エイズ薬の取り扱いが、次回自由貿易交渉の焦点になる

【バンコクIPS=マルワーン・マカン・マルカール】

「タイ国民が適正な価格で医薬品やヘルスケアにアクセスできる権利は守られなければならない」と、スチャイ・チャロエンラタナクル保健相は、先週、記者団に対して語った。

タイ―米国間の第4次自由貿易交渉(FTA)が、7月10日から15日の間、米国モンタナ州で開催予定であるが、タイ政府は、次回交渉の結果(新たに協議項目に「知的財産保護」項目が追加された)、抗レトロ薬(エイズ薬)が従来のように安価で製造できなくなるのではないかと懸念を深めている(タイ政府がFTAに関してこのような懸念を一般に発表したのは初めて)。

 タイ政府は現在、国立製薬局を通じて正規のエイズ薬(250ドル~750ドル)よりはるかに安価なジェネリック薬(30ドル)を生産しており、国内のHIV/AIDS感染者はもとより近隣の貧困国(カンボジア、ラオス、ミャンマー)にもジェネリック薬の提供を行っている。

米政府は、5月になって、ジェネリック薬を使用しているタイ国民(HIV/AIDS感染者)が自由貿易交渉によって影響を受けることはないとの見解を示したが、一方で、チュラロンコン大学の研究者は、米国が締結済みのシンガポール、チリとの自由貿易合意文書の中に、「薬の知的所有権が従来の20年から25年への延長」を目指す(=そうなればタイはジェネリック薬の製造ができなくなる)箇所を指摘し、米側の意図はジェネリック薬の規制あるとの見解を示した。

ジェネリック薬の今後を左右する来月のFTA交渉を控えて、タイで浮上している諸議論を報告する。(原文へ

翻訳=IPS Japan

|スリランカ|「政治的な津波」が津波被害からの復興作業を脅かす

【コロンボIPS=アマンタ・ペレラ】

昨年12月の津波(海岸線の4分の3を襲い同国の船舶の半数〈16,479隻〉を破壊、約31,229人の死者と4,100人の行方不明者、80万人の被災者を出した:IPSJ)からほぼ半年が経過した6月24日、チャンドリカ・クマラトゥンガ政権は、人民解放戦線(PLF)等の国内の強い反対を押し切って、津波被災者救援のためのLTTE〈タミル・イーラム解放の虎:通称タミールの虎〉とのジョイントメカニズムに署名した。 

これにより、国際社会からの津波被災者支援受け入れ作業は進展するものと思われるが、同時にクマラトゥンガ政権は、LTTEとの連携に強く反発する国内政治勢力との厳しい対決――「政治的な津波」を覚悟しなければならない状況に追い込まれている。 

スリランカでは、津波被災地に反乱軍が実効支配する北東部が含まれており、国際社会の祖国復興支援(援助表明額は30億ドルにおよぶ)を受けるには反乱軍とも提携した援助物資が被災者に行き渡るメカニズムの構築が必要とされている。一方、スリランカからの分離独立を主張している反乱軍勢力(20年の内戦で65,000人が死亡)との提携には、政権内外からの反発が大きく(PLFはLTTEとの交渉に抗議して6月16日連立政権を脱退、これにより連立与党は議会の多数議席を失っている)、同大統領は難しい政局運営を迫られていた。 

しかし、包括的な援助受入計画の欠如から、折角の莫大な援助資金も活用できず、6ヶ月を経ても遅々としてすすまない復興状況(6月8日現在、9480世帯が依然としてテント生活を強いられている)に加えて、国際社会からのジョイントメカニズムを支持する声(米国津波特使クリントン前大統領も5月に被災地を訪問してメカニズムを支持)等にも後押しされて今回の合意に踏み切ったとみられている。ジョイントメカニズムの合意により津波被災者救援への道筋が開かれる一方で、連立政権の足元を揺るがす「政治的な津波」を抱え込んだクマラトゥンガ政権が直面している諸課題を報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

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|スリランカ|公式HIV/AIDS感染者数は少ないが、リスクは高い

UAE政府、地元求職者支援に動く

【アブダビIPS=特派員】


アラブ首長国連邦(人口約430万人)では、20世紀の産油ブームで、それまでの伝統的な社会・経済構造の変革が迫られて以来、圧倒的な人口、人材不足を背景に、伝統的に外国人(賃金の高い順に〈1〉白人〈2〉アラブ人〈3〉アジア人の3層で構成)がUAE民間セクターの仕事を独占する状況が続いてきた(地元労働者が占める割合は平均0.5~1.0で推移している)。

しかしその後、国内人口も増加し、UAE国籍の失業者数が40,000人に達したほか、地元出身者が就職において(外国人労働者と比較して)差別されているとの不満が国民からあがるに及び、UAE政府も、民間企業に対してある一定の職員割合をUAE出身者に確保する方策(Emiratisation)や、職業訓練校の設立、「Careers UAE fair」を通じた民間企業とのマッチング活動など、積極的な対策を講じている。しかし一方で、UAE出身の就職希望者の44%が高卒程度、22%が大学卒業程度という中で、労働市場の構造変革を変えていく作業は今後も多くの困難が予想される。

アラブ首長国連邦における地元出身労働者の就職問題について報告する。

翻訳=IPS Japan

|イスラエル|「イスラエル兵士が殺人を犯しても裁かれない」:HRW報告書

【ニューヨークIPS=キャサリン・スタップ】

「現在のインティファーダが2000年に始まって以来、イスラエル兵士が殺害した戦闘に参加していないパレスチナ人民間人の数は1日平均1名を越える(1600人以上の犠牲者の内、少なくとも500人は子供)。 

しかし捜査が行なわれた事例はほんの一部にすぎない。」人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は6月22日、「免責の文化を醸成する(=Promoting Impunity):犯罪行為を調査できないイスラエル軍」と題した報告書を発表し、多くのパレスチナ民間人がイスラエル軍兵士によって殺害され、真相が闇に葬られる中、一部兵士の間にも民間人を殺しても裁かれないというモラルハザードが広がりつつある現状を警告した。 

一方、イスラエル軍当局は、「軍律に違反した行為は全て徹底的な捜査の対象となっている」として報告書の内容を否定している(しかし、2004年5月現在、軍当局が武器の非合法な使用に関連して審議した事件は74件で民間人殺害件数の5%に満たない)。2004年10月5日に、13歳の民間人少女を指揮官の命令でイスラエル兵士達が射殺した事件では、軍当局の当初の捜査では「指揮官に、倫理に反した行動はなかった」と無罪裁定が下ったが、この事件に疑問をもったイスラエル軍の同僚兵士が事件当時の通信記録を提出し、指揮官が明確に「民間人の少女」であることを部下から報告を受けながら「この区域内で動く者は、たとえ3歳の子供であろうと殺さなければならない」と発言して至近距離で少女を射殺させたことが明らかとなり、現在再審理が行なわれている。HRWの概要とイスラエル軍の捜査体制の問題点を報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan

|スリランカ|公式HIV/AIDS感染者数は少ないが、リスクは高い

【コロンボIPS=アマンタ・ペレラ

人口1950万人の内、公式に確認されたエイズ発症者数614人、HIV/AIDS罹患率0.1%と、公式統計を見る限り、スリランカはエイズ感染の影響を殆ど受けていないように見える。しかし、専門家の間では、同国のエイズ感染率が相対的に低いことは認めているものの、初期段階にある現在の内に思い切った対策をとらなければ、深刻な事態へと感染が広がっていくと見られている。

 専門家は、感染拡大のリスクとして、(1)東北部(長らくタミールの虎との内戦が続いている)から流失した国内難民(厳しい生活環境の中で感染リスクが高い性行動をとる傾向にある)、(2)軍隊駐屯地周辺を中心とした売春婦の増加、(3)感染後も診察にいかない傾向(性感染症患者の診療所への出頭率15%)とモニタリング体制の弱さ、(4)性教育の遅れ、(5)コンドーム使用率の低さ(特に田舎で低い)、(6)10万人に及ぶスリランカ女性の海外出稼ぎ者の存在、(7)国内人口の多数を占める性的にアクティブな青少年層の存在、(8)長い場合は10年に及ぶ感染潜伏期間をもつHIV/AIDS感染の特徴、を挙げ、このままではハイリスク集団を中心としたHIV/AIDS感染から幅広い社会層へと感染が広がる事態を警告している。スリランカ社会の水面下で広がるHIV/AIDS感染の脅威を警告する専門家達による諸議論を報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

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スリランカ|津波の影響|被災者の声:援助の表明は相次ぐものの、家はいったいどこに建つのか?

毛沢東派共産ゲリラ、ネパール政治の主流入りを提案か?

【ニューデリーIPS=ランジット・デブラジ】
 
インド政府が、同国の諜報機関のエスコートでネパール毛沢東派共産ゲリラ指導者バブラム・バタライとプラカシュ・カラットインド共産党 (CPI-M)総書記が秘密裏に会談していたとするインドの主要紙「The Times of India」の報道内容を否定する中、専門家たちは今回の会談を隣国(ネパール)の手に負えない政治危機を収束させるための鍵として歓迎している。

著名なネパール専門家S.D.ムニ教授は「インドが毛沢東派共産ゲリラ勢力との接触をとることは『良い考え』である」と語った。

「インドの指導者層は当初、ネパールに共和国建設を訴えて軍事闘争を展開している共産ゲリラ勢力に関して、ネパールのギャレンドラ国王及び側近との連携のもとに活動している『右派ロビイスト』からの圧力もあり、距離を置く姿勢を見せていた。」とムニ教授は指摘する。

 ムニ教授(名門ジャワハルラル・ネルー大学で国際関係論を教授している)はIPSの取材に応えて、その『右派ロビイスト』の内訳をインド国軍、米国政府(インド政府とネパール危機に関して密接な連携関係にある)、インド上層階級(ネパール王室との姻戚関係をもつ者もいる)と語った。

さらに毛沢東派共産ゲリラに反対しネパール王室擁護の立場をとっているロビー勢力にヒンズー原理主義者があり、彼らはインド国会の主要野党勢力を形成しているインド人民党(BJP)に関連した諸団体に属している。

著名なBJP指導者でラジャスタン州首相のヴァスンダラ・ラジャ・シンディアはかつての王族であるがネパール王室と親戚関係にある。

国内の(親ネパール王室傾向にある)政治事情は別にしても、インドには毛沢東派共産ゲリラの武装闘争が(1996年以来隣国ネパール全土で政府軍と戦闘を繰広げ11,000人の命が失われている)、インド国境(両国の国境はオープンボーダーとして開放されてきた:IPSJ)を越えて、貧困層が多く左翼過激派の活動が既に活発なインド北部一帯に拡大することを恐れる十分な理由がある。
 
 今年2月1日、ギャレンドラ国王は、毛沢東派共産ゲリラ勢力に対する適切な対応ができていないとして政党内閣を解散、非常事態宣言を発令して政治、民間、プレス活動を厳しく制限するとともに、民主主義に逆行する国王親政体制を敷いている。

 しかし、ネパール国王のこのクーデターに対してインドを始めとする国際社会は強く反発し、厳しい経済制裁を発動した。そこで国王は態度を少し軟化させ、4月29日に非常事態宣言を解除した(政治、プレスに対する規制はそのまま継続されているが)。

このような事態の中、毛沢東派共産ゲリラは、インド共産党に対して共感の意思を示している。しかも、インド共産党は昨年5月の前回選挙(BJPと国民会議が与野党逆転:BJP)で大きく躍進し、現在の与党であるインド国民会議派が率いる統一進歩連盟(United Progressive Alliance:UPA) に対してキャスティングボード的な外部協力の手を差し伸べられる立場にある。

先週、インドの主要紙「The Times of India」が毛沢東派共産ゲリラ指導者のバブラム・バタライとインド共産党書記長プラカシュ・カラットの秘密会談を報じた際、それを歓迎するコメントから激しく非難するコメントまで非常に幅広い物議をインド国内に巻き起こした。

インド外務省のナブテジ・サルナ報道官は、5月27日に開かれた記者会見の中で、「ネパール共産党(毛沢東派共産ゲリラ)に対するインド政府の姿勢は変更ない。我々は毛沢東派共産ゲリラによるテロ活動がネパールの人々に多大なる苦痛をもたらしてきたことを明白に非難する。」と語った。そして、「ネパールに恒久平和と安定を取り戻すには、政治解決を図るより方法はなく、中でも、毛沢東派共産ゲリラが戦闘終結を宣言し武器を置くことが必要条件となる」とサルナ報道官は付け加えた。

サルナ報道官の政府見解に対して、評論家のC.ラジャ・モハンは政府を批判する論説をし掲載し、その中で、「インド政府の一貫性のない外交姿勢は(国際社会に対して)混乱したシグナルを発してしまっている。」と語った。モハンは、「インド政府は一方で世界におけるテロとの戦いを支持するとの立場を表明しながら、対ネパール外交政策に関しては民主主義を瓦解させたばかりの絶対君主を支援しているのが現状である」指摘した。

インド諜報機関が、カラット書記長との秘密会談にバタライ(国際刑事警察機構:ICPOの指名手配犯)をエスコートしたとする報道に関しては、サルナ報道官は特に言及することを避け、カラット書記長が先にその事実を否定したことを引用することに終始した。一方、カラット書記長はこの点に関して、インド諜報当局の役割に関しては慎重に報道内容を否定した。しかしバタライとの会合の事実関係そのものを明白に否定することは避けた形となった。

ムニ教授によると、バタライとカラットは1970年代ジャワハルラル・ネルー大学で同窓であり、両者が互いに会おうと思えば特にインド諜報当局の助けは必要なかったと指摘している。「しかし収拾がつかないネパール情勢を解決していくには毛沢東派共産ゲリラ勢力を交渉の表舞台に載せる以外、選択肢が見当たらないのが現状です。しかし残念なことに、インド政府、特にインド外務省が毛沢東派共産ゲリラとの接触を極度に嫌っているのも現状です」とムニ教授は語った。

ムニ教授は、「今回の秘密会合疑惑のエピソードは、毛沢東派共産ゲリラとネパールの主流諸政党との関係改善を図ることでギャレンドラ国王を孤立させることを目論んでいるバタライに対して、ネパールの政権を掌握している王党派がバタライの信憑性を崩そうと動いている政治状況の中で理解しなければならない」と解説した。

5月19日、ネパール軍当局はプレスブリーフィングの中で日付入ビデオテープを公開した。そこには毛沢東派共産ゲリラ最高指導者のプラチャンダの映像が映し出されており、その中でプラチャンダは、ゲリラメンバーに対して、「バタライはインドに接近しすぎており、彼を全ての職務から更迭する」と発表している。ネパール軍当局は、この際、バタライが「インドの手先」として信頼が失墜している点を演出するとともに、バタライとプラチャンダの違いを改めて強調し、毛沢東派共産ゲリラ内の内部亀裂が深刻であることを印象付けることに余念がなかった。

しかしムニ教授は、「もしインドがネパールの和平に仲裁者としての役割を得ようとするならば、最終的には毛沢東派共産ゲリラの信頼を獲得しなければならいのが現実である」と語った。

ジャワハルラル・ネルー大学博士課程に留学中のハリ・ロカを含む他の専門家も、ムニ教授の状況評価を支持している。

「ネパールの主流諸政党と毛沢東派共産ゲリラが同盟関係を結ぶという(バタライの目指すシナリオ)事態は、インド-米国-英国枢軸のタカ派にとってなんとしても避けたいシナリオです」と、ネパールの安定は2つの柱(立憲君主制、複数政党制民主主義)によって維持されるとするインドの公式外交スタンスに批判的なロカは語った。

「現実的にネパールに平和と安定を取り戻す2つの柱は、複数政党制民主主義と毛沢東派共産ゲリラの主流政党への編入です」とロカは語った。(原文へ
 
翻訳=IPS Japan

ラテンアメリカにおける犯罪と下されるかもしれない罰

【ローマIPS=ミレン・グティエレス】

ラテンアメリカでは、20世紀後半に地域全体を席捲した軍事独裁政治の影響で、体制側によって行われた政治犯罪は責任の所在を追及されることなく、未来志向と和解のみが強調される傾向にあった。 

しかし今年になって互いに関連のない数十年前の政治犯罪の責任を問う動きが表面化しており(チリ:先月、元独裁者アウグスト・ピノチェトが1970年代に競合相手2名暗殺容疑で告発される。ペルー:ウラディミーロ・モンテシーノ元諜報局長官に15年前の虐殺事件の責任を問い35年懲役求刑。 

コロンビア:アルベルト・サントフィミオ元法相が1989年の大統領候補暗殺容疑で逮捕。)、これを契機に、過去に暗殺や虐殺事件に関与した当時の指導者たちが法の裁きを受けるようになるかもしれない。3つの政治事件に焦点を当てながら、従来の沈黙の文化を捨て、過去と向き合おうとするラテンアメリカ諸国の現在を報告する。(原文へ) 

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩 

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|人権|アムネスティ米国代表:ラムズフェルト氏にピノチェト氏と同様の扱いを適用するよう求める

報道の自由に光を当てる

【ナイロビIPS=ジョイス・ムラマ】

国際新聞編集者協会(International Press Institute 〈IPI〉本部:ウィーン)の第54回総会が、世界各国のプレス関係者400人を一堂に会してケニアの首都ナイロビで5月22日より(3日間)開催されている。

報道関係者への圧力と迫害(年間に殺害された報道関係者は年々増加し2004年は78人、今年は既に25人が死亡)が強まる状況の中で、報道の自由の確保と国際的な報道内容の質向上にむけた意見交換が行われた。

近年、政府関係者を巻込んだスキャンダルが報道されている総会のホスト国ケニア、アバチャ軍事政権の下で人権侵害が横行したナイジェリア、及び1994年の虐殺報道の影を引きずるルワンダの事例について、政府及びメディア関係者双方の主張を紹介しながら、報道の自由を巡る問題点を報告する。

 「報道の自由が政府によって侵されており、これは危険なシグナルと言わざるを得ません」と、IPI代表のヨハン・フリッツは語った。

政府による「報道の自由」に対する攻撃は、厳しい法規制で記者の活動を抑圧する形で行われている。ジャーナリスト達も少しずつ、そのような圧力が自らに飛び火してくる危険性を感じつつある。IPIによると、今年に入って既に25人の記者が勤務中に殺害されており、昨年は78人、2003年は64人、2002年は54人と被害に遭うジャーナリストの数は増加傾向にある。

総会の開会式で演壇に遭ったホスト国ケニアのキバキ大統領は、「ケニア政府は『報道の自由』を守るため全力を尽くしている」と語り、「我々は『報道の自由』を守りつつ、同時にその自由がプレスと一般国民双方にとって責任をもって執行されるような予防措置を伴う適切な法的枠組みを構築すべく、協議を重ねているところです」と会場の参加者に語りかけた。

しかし、最近のケニアにおけるメディアを取巻く状況を見れば、大統領の演説を聞いてもあまり明るい未来が想像できないのが現状である。今月初めにも、ルーシーキバキ大統領夫人が報道カメラマンを攻撃して物議を醸し出したばかりである。

キバキ婦人は彼女の家族に関する記事について、報道内容がフェアでないとして抗議していたが、皮肉なことに、(報道カメラマンを襲った)事件は世界報道自由デー(5月3日)の前日に起こり、大きな注目を浴びる結果となった。 

また昨年には、メディアがキバキ政権内の不正疑惑を報道したのを契機に、公務員に対してメディアに対する緘口令がひかれた。その報道は、パスポート印刷機械導入と司法施設建設事業に関して、ある外国企業に数百万ドルの予算が割当てられたスキャンダルに、キバキ政権の複数の閣僚が関与していた内容を報ずるものであった。

2005年4月、世界各国の「報道の自由」度をモニターしている米国に拠点を置くフリーダムハウスは、ケニアの現状に関して「自由でない:Not Free」の評価を付けた。ちなみにケニアの昨年における評価は、「一部自由:Partly Free」であった。

今回のIPI総会では、ナイジェリアにおける「報道の自由」の現状についても注目された。ナイジェリアの著名な活動家でノーベル文学賞受賞者のウォレ・ソインカは本総会に提出した報告書の中で、故サニ・アバチャ軍事政権(1993年~98年)下でいかに多くのジャーナリストが迫害の対象にされ、拷問にさらされたかを詳しく報告した。

そしてソインカは、「アフリカのジャーナリスト達は、アフリカ大陸で横行しているメディアに対する抑圧に、もっと非難の声をあげるべきだ」と訴えた。

一方、総会に参加したポール・カガメルワンダ大統領は、「外国のメディアはアフリカ大陸のネガティブな側面にのみ集中して報道している」として、欧米のメディアを非難した。

「アフリカ諸国が外国からの直接投資を受けれない要因の一つに、欧米のメディアがアフリカに関して常にネガティブな報道をし続けている現状がある」と、カガメ大統領は「欧米メディアによるアフリカ報道」と題した論文の中で語った。

カガメ大統領は、そのメディア・バイアスの事例として、欧米メディアのルワンダ報道は1994年の大量虐殺時(少数民族のツチ族約80万人と穏健派フツ族住民が犠牲となった)のものに圧倒的に集中しており、その後10年に亘る国の再建に向けたルワンダの取組みは、ほとんど報道されていない点を挙げた。

「私達ルワンダ人は、世界に対して内戦の灰塵から再び立ち上がる意志と決意を示しているのです。……ルワンダは400万人近い難民の本国帰還と定住を成し遂げました。しかし、残念なことに、このような事実は、欧米メディアの目には留まらない(記事の対象にならない)ものなのでしょう」(原文へ

翻訳:IPSJapan 浅霧勝浩

|スリランカ|津波の影響|被災者の声:援助の表明は相次ぐものの、家はいったいどこに建つのか?

【ハバラドゥワIPS=アマンサ・ペレラ

ピヤセナは68年の人生の中で、過去5カ月間ほど悲惨な経験をした時期はなかった。彼は昨年12月26日の津波(約30,000人が死亡、100万人が国内難民となった)で娘を失い、半壊した家(テントを張って雨をしのいでいる)に妻と取り残された。

先週(5月17日閉幕)、スリランカ開発フォーラムに参加した援助供与国・団体はスリランカの津波被害の再建支援として前例のない30億ドルの供与を約束したが、ピヤセナのように、遅々として進まない被災地の復興計画の下で、未だにテント生活を強いられている多くの被災者にとっては、現実に住宅が再建されない限り国際社会の支援を実感することはできない(5月15日現在、津波被災者向け住宅として建設予定の77,561棟中、実際に建設されたのは僅か119棟に過ぎない)。最貧困層を直撃したスリランカにおける津波被害の影響と、国際社会の援助表明にも関わらず復興作業が遅々として進まない被災地の現状を報告する。(原文へ

翻訳/サマリー=IPS Japan浅霧勝浩

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