地域アフリカアフリカのクーデター:国連の紛争予防努力に課題

アフリカのクーデター:国連の紛争予防努力に課題

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ジョーダン・ライアン】

この3年にアフリカで相次いだ軍事クーデターは、国連が紛争予防のために一貫性のある行動を取ってこなかったことを露呈している。西アフリカと中央アフリカにおける民主化移行の流れは、立て続けに発生した7回のクーデターにより突如として断ち切られた。これらのクーデターは、民主主義を弱体化させるとともに、国連が「暴力を未然に防ぐ」という重要な使命を果たし得ていないことを示している。(

このような失態の原因は、最近の国連の内部調査で究明されている。そのような調査の一つによると、国連内部や国連機関間における分析の連携、情報の共有、活動の動員に機能不全が明らかになった。国連本部のバラバラな官僚組織は、支援対象国から得た情報に合わせて作成した行動計画に従うのではなく、断片的なアジェンダを追求することが多い。この内部調査では、スーダンのような国々に差し迫っている情勢不安に対処する“ツールキット”が国連に欠如しているとの結論が出され、その後スーダンではクーデターが発生した。

国連職員や国連機関がより密接に協力して危機を予防することができないというこのような状況は、30年にわたって歴代事務総長が国連の統合強化を求める指令を出してきたことを考えると、驚くべきことである。根強い分断が続いている。開発、人道問題、人権問題、政治問題を扱う各組織の仕事は、自分の担当分野だけに陥りがちである。国連が自慢する紛争予防は、大部分は紙の上に存在する。

重大な危機が勃発したとき、COVID-19やハイチ地震の際にそうであったように、国連は迅速に対応することができる。COVID-19の際は、ワクチンへの公平なアクセスを確保するために包括的な公衆衛生対応を動員した。ハイチ地震の後、国連は緊急救援活動を調整した。短期間とはいえ、これらの調整された対応は、必要なときに国連は統一的な危機管理ができることを示している。

しかし、各国の国内に生じるストレスを予測し、危機が悪化する前に早期の対策を講じることは、国連の得意とするところではない。紛争が勃発するはるか前に、貧困、統治の失敗、気候影響、その他の要因によって情勢不安が進行していることはよくある。重大な危機が浮上したときには、有効な予防措置を講じるには遅すぎるのである。国連は、リスク分析と早期介入の機能を強化しなければならない。また、アフリカ連合や西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)のような地域機関のほうが現地のダイナミクスへのアクセスや理解に優れていることが多いため、これらの機関とも、より密接な調整を行うべきである。

幸いなことに、最近の内部調査では今後の道筋が示されている。国連の平和構築支援事務局に対する評価では、「予防に重点を置く」ことが提案された。そのためには、根本原因を分析し、早期対応のためにその結果を迅速に共有する機能を強化する必要がある。予防努力によって、人命を救い、費用を節約することができる。世界銀行は、予防のために投資される1ドルは後の費用16ドルを削減すると見積もっている。

同様に、アントニオ・グテーレス事務総長の「平和のための新たなアジェンダ」は、国ごとに紛争予防戦略を策定するよう訴えている。このアジェンダでは、「予防を政治的優先課題として」表現しており、国連を「世界的な予防努力の卓越したハブ」と見なしている。

この概念を現実にしていくためには、具体的な改革が必要である。合同のフィールド分析班、スタッフ交流、フレキシブルな地域事務所といった施策によって、個別ケースに合わせた早期の行動が可能になるだろう。安全保障理事会の支援があれば、情勢不安が暴力に発展する前に抑止することができる。

最も重要な点は、安全保障理事会が、紛争勃発後の軍事的な危機管理だけでなく、政治的戦略をもち、予防に重点を置いた平和活動を支援しなければならないことである。紛争を予防するには、ガバナンス改革、不平等の削減、気候影響の管理を通して、紛争の根本原因に対処する必要がある。

 世界的に情勢不安が拡大するなか、国連は、分断化した通常のやり方にしがみついてはいられない。紛争予防の失敗が続くなら、平和構築努力もしかりであり、ますます多くの国が危機に飲み込まれるだろう。

予防活動を再び強化することによって、国連は、各国が平和を維持し、クーデターを乗り越え、開発の足を引っ張る暴力的紛争を終わらせるため、力を発揮する機会を最大にすることができる。何もしないことの代償はあまりにも大きい。改革の時は今である。

ジョーダン・ライアンは、Folke Bernadotte Academyの上級顧問であり、The Carter Centerの元平和担当副所長である。事務総長室の委託により、国連の統合状況に関するレビューの筆頭執筆者を務めた。2009~2014年に国連事務次長補兼国連開発計画(UNDP)総裁補。また、リベリア担当特別副代表、ベトナム常駐調整官を歴任した。コロンビア大学とジョージ・ワシントン大学で大学院を修了、イェール大学で学士号を取得した。ハーバード大学ケネディスクールの研究員であった。

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