地域アジア・太平洋ロシアと北朝鮮の好都合な協力

ロシアと北朝鮮の好都合な協力

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ハルバート・ウルフ】

2024年6月中旬、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、北朝鮮を2日間の日程で訪問した。2023年9月中旬、北朝鮮の指導者である金正恩が、コロナパンデミック以降初の外遊としてロシア極東部を訪問した。プーチンと金の間に新たに芽生えた友情の裏にある最優先事項が武器供給であることは疑いもない。ロシア軍は、ウクライナに対する戦争で通常砲弾とミサイルを非常に必要としている。

間違いなく、ロシア自身の兵器製造量は北朝鮮が供給可能な量を大幅に上回る。それでもなお、北朝鮮による武器供給は状況に変化をもたらし得る。戦争が2年を超えて続くなか、供給は不足しており、それはウクライナだけの話ではない。「ニューヨーク・タイムズ」紙によれば、9カ月前に金がロシアを訪問した際に北朝鮮はコンテナ1,000個以上の武器をロシアに出荷したと、米国政府高官が主張した。3月には、北朝鮮がこれまでにコンテナ7,000個近い武器を供与したと、米国が発表した。(

砲弾その他の通常弾薬は、どうやら金王朝の帝国には豊富にあるようだ。野心的な核兵器・ミサイル・衛星計画を掲げる北朝鮮は、見返りとして、ロシアの技術にとりわけ熱い目を向けている。2023年、プーチンは軍事協力の「可能性」を口にした。北朝鮮は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻を非難する国連総会決議に反対票を投じたわずか5カ国のうちの一国である。国際的にほぼ孤立している平壌政府はいまや、ロシアの「主権と安全保障を求める戦い」への献身によって連帯を示している。これは今後、のけ者同士の協定へと発展するのだろうか? いずれにせよ、それは、軍事的に強硬な2カ国に利益をもたらす可能性がある。

2023年9月のロシア訪問における金の日程が多くを物語る。プーチンは、シベリアのボストーチヌイ宇宙基地で金を迎えた。プーチンとの会談の後、北朝鮮の独裁者はウラジオストク近郊の軍飛行場を訪れ、当時のロシア国防相セルゲイ・ショイグが核兵器を運搬できる最新の超音速ジェット戦闘機や、通常弾頭のほか核弾頭も搭載可能なキンジャール型ミサイルを披露した。さらに金は、ショイグとともにウラジオストクを訪れ、原子力潜水艦が配備されているロシア太平洋艦隊を視察した。

プーチンは、北朝鮮への武器供与についていかなる確約もしなかった。彼は、武器や軍事技術の提供の禁止を含む国連の制裁に従う約束さえした。しかし、ウクライナ侵攻を考えれば、誰がモスクワの約束を信じるだろうか。それがプーチンの利益になるなら、彼はたちどころに自分がした約束を忘れるだろう。金の訪問、そして今度はプーチンの訪問は、二重の問題を示唆している。ロシアは、ウクライナに対する戦争での弾薬供給の不足を克服する可能性があり、北朝鮮は、核兵器・ミサイル・衛星計画に対する長期的支援を受ける可能性がある。従って、協力の強化は双方にとってウィンウィンの状況なのだ。

ロシア(そしてかつてのソ連)と北朝鮮の関係は、幾度ものアップダウンが見られる。緊張がないわけではない。だが今日では、明らかに双方にとって協力は軍事戦略上の利益をもたらす。第二次世界大戦後の占領国として、ソ連は北朝鮮の最も密接な同盟国であった。核分野における協力は、1960年代にまでさかのぼる。北朝鮮は、ソ連の支援を受けて核研究センターを設立。研究炉を建設し、1967年に運転を開始した。1973年まで、ソ連は必要な燃料棒を供給した。

1980年代初めに行われた軍備管理交渉の第1段階で、米国とソ連は、核不拡散条約に加盟して国際原子力機関の査察を認めるよう北朝鮮を説得することに成功した。また、ソ連、そして後のロシアは、北朝鮮の核計画を中止するよう繰り返し強く求めてきた。

ゴルバチョフの劇的な政治改革とソ連崩壊に伴い、ロシアと北朝鮮の関係は根本的に変化した。ゴルバチョフは、軍事援助、産業協力、食料援助、エネルギー供給をほぼゼロまで削減した。北朝鮮が貿易債務をモスクワに支払うことができなかったことは、政治的緊張をもたらした。また、同じ時期に、かつての戦争敵国同士だったソ連と韓国の間に予想外の関係改善が見られた。ソ連崩壊後、エリツィン政権は北朝鮮との安全保障条約を停止し、それを更新しようとしなかった。社会主義国間の関係のネットワークが解体すると、北朝鮮はその経済的存続の土台を失ったのである。

1990年代の終わりに、モスクワは南北朝鮮との関係を再検討した。そして、一方では韓国との協力関係に期待したことの全てが実現したわけではなく、他方ではいわゆる米朝枠組み合意においてロシアの利益は考慮されていないと結論付けた。この1994年の合意において、米国は北朝鮮への経済援助を約束していた。国際的圧力により、ほとんど孤立していた政権は、核・ミサイル計画に関して譲歩せざるを得なかった。プーチン大統領は2000年に平壌を訪問して広く称賛され、2001年と2002年には北朝鮮の当時の主席であり現指導者の父親である金正日のモスクワ訪問を受け、両国の関係を深めた。

2003年以降、北朝鮮の非核化に関する協議に最終的にモスクワが加わり、中国、米国、北朝鮮、韓国、日本、ロシアからなるいわゆる6カ国協議となった。この枠組みにおいて、ロシアは米国の譲歩と北朝鮮の核計画中止の両方を強く求めた。しかし、モスクワは、北朝鮮の核計画放棄をロシアによる経済協力の条件とせず、また、韓国の資金援助を受けてロシアのガスを供給することによりエネルギー不足を補うという方法を北朝鮮に提案した。北朝鮮は2006年、ロシア・北朝鮮間の鉄道路線を延長し近代化する共同事業を受け入れることに合意した。

協同事業は、2006年10月に北朝鮮が最初の核兵器実験を実施したのを受けて、突然中断された。その後、中国とロシアも賛同した国連決議により、国連安全保障理事会は北朝鮮に包括的制裁を科し、それが今日も実施されている。

金が最初に訪問したのが、中国ではなくロシアだった点は興味深い。長年にわたり中国は、政治的にも経済援助においても、北朝鮮の唯一の支援者だった。それより密接な関係をロシアと北朝鮮が結ぶことによって、両国政府に対する北京の影響力は弱まる。2023年7月、ロシアの国防相は、地域における米国、韓国、日本の3カ国協力に対抗するため、中国、ロシア、北朝鮮の合同軍事演習を提案した。中国政府の反応は消極的なものだった。そのような政策は、米国の「ブロック政治」に対する中国自身の批判を弱体化させるものだ。中国は、再びバランス外交を行おうとしている。長年にわたり、中国の重点は北朝鮮の非核化にあった。中国が平壌の政府に影響力を行使し、北朝鮮が核計画を中止するよう説得することが期待された。これがもはや最優先事項でないことは間違いない。北京は現在、米国との地政学的競争をあらゆることに優先させている。

モスクワと平壌の関係改善が、予想外の結果をもたらす可能性はある。ロシアがエネルギーと軍事技術を提供し、北朝鮮が通常兵器を供与するという現在の実利的な関係がそれ以上に発展するかどうかは、今のところ不明である。ウクライナに対するロシアの戦争は消耗戦となっており、従って北朝鮮の武器供与は、ロシアが武器の数でウクライナに勝るために役立つ。しかし、国際的に隔離された北朝鮮がロシアの政治的孤立を和らげることはまずできないだろう。

ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際軍民転換センター(BICC)元所長。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF: Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の科学評議会メンバーを務める。

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