【フナフティ(ツバル)IDN=カリンガ・セネビラトネ】
アラブ首長国連邦(UAE)での[国連気候変動枠組み条約]第28回締約国会議(COP28)が新たな気候変動補償基金からいかに資金を分配するかの議論を進める中、太平洋の小島嶼国ツバルは、対応に数百万ドルを要するかもしれない気候変動による数多くの問題に直面している。
元公務員のセレタ・タウポさんは、「私はここで生まれ育った。私たちのきれいな海辺はなくなってしまった。もう岩しか残っていない。かつて海岸沿いにあったヤシの木もなくなった。海が大通りまで迫っている。」と嘆いた。
ツバルは気候変動との闘いの最前線に立たされている。南太平洋の、世界で最も辺鄙なところにある国だ。人口1万1200人、環礁が13カ所のツバルは、今後30~40年で国が海の下に沈んでしまわないように、温室効果ガスを排出する主要国により大胆な行動をとるよう繰り返し要求してきた。
2017年、この脅威に対する新たな防衛策として「ツバル沿岸適応プロジェクト(TCAP)」が開始され、7年間で3890万ドルの費用が見込まれている。「緑の気候基金」が3600万ドルを提供し、ツバル政府は290万ドルを協調融資する。この事業はツバル政府と協力して国連開発基金(UNDP)が共同で実施している。
高地に避難することが難しいツバルでは、TCAPによって、環礁から浚渫砂を利用して7.3ヘクタールの土地があらたにかさ上げされた。海抜3メートルであり、首都フナフティのあらたな名所になっている。2100年までは海水面よりかなり高い位置にあり、大規模な嵐にも耐えうることから、家屋やオフィスビルがこの土地の上に建つことになっている。
2023年7月、TCAPはツバル政府に最新型のオンラインシステムを提供し、気候変動によって引き起こされる海水面の上昇や頻繁に発生する暴風雨に伴うリスクを発見し、それらへの対応策を練り、そのリスクを減ずることができるようになった。このデータは他の環礁の同種の事業にも転用可能だ。
「この緻密なデータはTCAPの主要な事業がデザインされている基本線となるものだ。波の影響モデルやデータもまた、TCAP危険情報データベースの基礎をなしている。これらすべての活動が、太平洋の小島嶼開発途上国としては初めてのものだ。TCAPの全国プロジェクト責任者のアラン・レスチャー氏は、「フナフティの埋立地区の設計に資する情報を提供しているのはまさにこのデータだ。」と語った。
気候変動は神による罰か?
このプロジェクトは、家屋、学校、病院などの主要な沿岸インフラが高潮による被害を受けやすいという脆弱性を軽減するとともに、弾力的で財政的に持続可能な沿岸管理のための制度、人材、知識を強化することを目的としている。
近年は、台風の強大化、海水面の上昇、気温の上昇によって、食料安全保障や健康、水資源などの面で持続可能な開発目標(SDGs)達成の取り組みが相当に難しくなってきている。
ツバルのキリスト教会連合のフィティラウ・プアプア代表は、気候変動の脅威はここツバルで重大であり、人々を守ることがきわめて重要だと語った。「干ばつや暴風雨の頻度が増している。しかし、地球温暖化による海水面上昇の影響はこの国では顕著だ。市民は海水面の上昇を常に記録してきた。私たちの国で最も高いところは海抜わずか1メートルしかない。」と指摘した。
太平洋諸国には敬虔なキリスト教徒が多く、遠隔地のコミュニティーでは気候変動は神からの罰でありどうしようもないことだと信じられているという。プアプア代表はそのような考え方を否定した。「民が神の創造物である自然を破壊したら、その結果を背負わねばならない。その一つの帰結が私たちが現在気候変動として経験しつつあるものだ。しかしこれが神からの懲罰だという考え方は支持できない。」
天候パターンの変化は人々の健康と食料安全保障に影響を与える、とツバル赤十字の地域保健コーディネーターを務めるミリキニ・ファイラウツシ氏は指摘した。「この間、デング熱が流行った。より蒸し暑く、そして乾燥とするといった気候の変化がその要因のひとつだ。」
台湾がツバルの野菜生産を支援
ファイラウツシ氏によれば、気候の変動のために食料生産が低下しており輸入に頼らざるを得なくなっているという。かつては生計を立てる基本手段だった漁業も影響を受けている。「私の父は漁師だったが、今では潮が変化してしまいかなり沖まで出なくてはならなくなった。気温上昇で潮目と風が変わってしまったからだ。かつては環礁の内部で漁ができたが、今では沖に出ないといけない。」
ツバルでは野菜や果物はほとんど栽培されておらず、市場でも売られていない。裏庭に自家用の小さな野菜畑を持っている人もいる。しかし、台湾とツバルの開発援助プログラムにより、台湾がツバルに野菜栽培を導入している。ツバルは台湾と国交のある4つの太平洋島嶼国のひとつである。
台湾人はツバル政府より与えられた空港近くの浜辺沿いにある農地で野菜栽培を成功させた。毎週火曜と土曜に一般市民に野菜を売る。おもにキュウリとほうれん草だが、時にはカボチャやゴーヤもある。市場は朝6時半に開き、7時には売り切れてしまう。
事業はツバルと財団法人国際合作発展基金会の協力協定の下で2004年に始まった。ツバル政府はフナフィティに0.6ヘクタール、バイタプ島に2ヘクタールを準備した。
ツバルに派遣されている農業技術支援者のチェン・ファピンさんは「ここでの野菜作りには課題が多い」と話す。「ひとつの理由は土壌だ。環礁ではすべての土壌がサンゴ礁(白砂)からできている。だから、有機肥料のコンポストを使わねばならない。時には化学肥料も使う。(この島ではたくさん取れる)ココナッツの葉をブタの肥料と混ぜて有機肥料を作る。我々は豚舎を持っているわけではないが、豚を飼育している人は多いからね。」
ファピンさんはまた、地元の人びとに野菜栽培を習わせて、政府が立ち上げた小農園で雇用しているという。「ここでの平均収穫量は月に2000トン程度だが、野菜の需要は近年この国で高まっている」。彼らの他の農場では月に2.5トンの収穫があり、バイタプ島の1000人の住民に提供されている。島の寄宿中学校もその恩恵を受けているひとつだ。
ツバルの収入源は限られており、主な収入は南太平洋マグロ条約に基づく漁業ライセンス料、対外援助金、海外労働者(主にニュージーランド)からの送金である。遠隔地であることと、航空運賃が高いことが、観光産業の発展を妨げている。フィジーからフナフティに到着する便は週に3便しかなく、ホテルはゲストハウスに近い3軒しかない。
「ツバルの海の女性たち」の代表を務めるバサ・サイタラさんによると、「私たちが観光産業の育成を始めた際、『エアーB&B』のような部屋を提供するように女性に呼びかけがなされた」という。「私も部屋を提供した女性のひとりだ。しかし、航空券が高いのでビジネスは成り立たなかった。1年に1人しか客がいなければ協力する者はいなくなる。観光産業なんか準備しても意味はない、ということになる。」
教会指導者のプアプアは、ツバルは漁業では有利だが、大規模な農業には投資が必要だと考えている。「私たちには最小限の資源しかありません」と彼は悲しそうに語った。(原文へ)
INPS Japan
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