【The American Spectator/INPS JapanワシントンDC=ヴィクトル・ガエタン】
ルーマニアの大統領候補で、メッセージが最もトランプ的とされるカリン・ジョルジェスク氏が、左派の女性対立候補(「カマラ」と呼ばれることもある)を相手に12月8日の決選投票で勝利に向けて急浮上していた矢先、米国国務省が「ルーマニアの外交政策を西側同盟から転換させようとする外国勢力」に警告を発した。(関連記事:「ルーマニア版の「トランプ」?:絶え間ない戦争とウォーク政治に対する拒絶」)
さらに、12月5日、マルタからアントニー・ブリンケン国務長官が不穏な発言をした。「ルーマニア当局が、最近の大統領選挙に影響を与える大規模で資金豊富なロシアの工作を明らかにしている。」とのことだ。(注意すべき点:ブリンケン氏は、ハンター・バイデン氏のラップトップPCをロシアの偽情報作戦だとする前情報機関員たちの虚偽キャンペーンを主導した張本人であり、アフガニスタンからの米軍撤退の失策や偽証について、現在議会調査の対象となっている。12月11日、コリー・ミルズ下院議員は「あなたが職務を辞めれば、米国はもっと良くなる」と発言している。)
そして翌日、ブカレストにある9人の判事からなる政治任命制の憲法裁判所が突如、ロシアの干渉疑惑を理由にルーマニアの大統領選挙を無効とする決定を下した。この大胆な動きは、クリスマスの祝祭として親しまれている聖ニコラスの日に、国を揺るがす衝撃を与えた。
この選挙はすでに、海外で働く800万人に及ぶルーマニアの巨大なディアスポラ(移民)のために世界中の投票所で始まっていた。ジョルジェスク氏は1回目の投票で国外票の43.3%を獲得しており、国内での23%を大きく上回っていた。
TikTokで100万回以上視聴された投稿(ジョルジェスク氏の予想外の人気を牽引し、ロシアの操作の中心とされたアプリ)で、候補者は冷静な態度を保ちながら、選挙の無効を「合法化されたクーデター」であり「悪魔との契約」と呼んだ。そして支持者たちに冷静さを保つよう呼びかけた。
アジア・タイムズは、この中止された選挙に関連する外国勢力を指摘する際、遠慮のない見出しを掲げた。「米国、ルーマニアにおける司法クーデターを公然と支持」。
悪魔との契約
バイデン政権は、この偽善的な事件において重要な役割を果たしている。元米国駐ルーマニア大使は、地元のCNN系列局でジョルジェスク氏を連日数時間にわたって批判しており、これは大使館の承認なしには実行できない役割だ。
12月9日、米国大使キャスリーン・カヴァレック氏は、ルーマニアとウクライナ国境に位置するミハイル・コガルニチャヌ空軍基地(MKAB)を訪問したことを公表した。この基地は、米軍と北大西洋条約機構(NATO)にとって重要な施設であり、ロシアのウクライナ侵攻以降、ロシア、クリミア、中東からの脅威に対応するための最東端の「発進基地」として機能している。現在、欧州最大のNATO基地に拡張されつつある。
これまでのところ、ルーマニア政府は大統領選挙が外国勢力の干渉を受けた証拠を提示していない。信頼される独立系ニュース誌「コンパクト・ニュース」は、憲法裁判所の決定を「司法クーデター」と呼び、「ジョルジェスク氏に対する情報機関の報告書には、外国の干渉や選挙操作の明確な証拠は含まれていない。」と説明している。
ジョルジェスク氏はスカイニュースの英語インタビューで、自身がロシアと何の関係もないことを強調し、NATOについては「NATOは防衛組織として機能するならば問題ない。もし私たちを守ってくれるならOKだ。しかし、私は自国を戦争に巻き込みたくない。」と語った。
第1回投票で米国のお気に入り候補だった2人は軍事的な信頼性を持つ人物だったが、結果は振るわなかった。元NATO事務次長であり1996年から2000年まで米国大使を務めたミルチャ・ジョアナ氏は6%、元首相でイラクとアフガニスタンで米軍指揮下に従事した退役4つ星陸軍将軍ニコラエ・チュカ氏は9%に終わった。
ルーマニアのアナリストたちは、ジョルジェスク氏への攻撃的なキャンペーンは、ウクライナでの交渉支持に直接関係していると考えている。「驚くべきことに、ジョルジェスク氏はルーマニア国民の利益を守りたいとよく言うが、それは地域戦争を避けることを意味し、人々は完全に彼に同意している。しかし、それこそが彼を窮地に追い込んでいるのだ」と、匿名希望の著名なジャーナリストは語った。
奇妙な出来事が12月13日に発生した。新議会が12月1日に選出されたにもかかわらず、退任間近のルーマニア議会が、ルーマニア兵士が外国の指揮下で展開できるようにする法律を可決したのである。この動きは、昨春の「フォーリン・アフェアーズ」の記事「欧州 — ただしNATOではない — がウクライナに軍隊を送るべきだ」(副題:ロシアの進軍を阻止するために、ウクライナ政府はより多くの兵力を必要としている)を思い起こさせた。
この法律は、欧州諸国が直接ウクライナでの戦闘に兵力を送ることを主張していたが、ルーマニアの主流メディアはこの投票をほとんど報じなかった。(関連記事:「クルスクは核戦争に値しない」)
民主主義への損害
ルーマニアの選挙にロシアの干渉があったかどうか、真実はやがて明らかになるだろう。しかし、すでに取られた非民主的な戦略は、民主主義に損害を与えている。現大統領クラウス・ヨハニス氏は2014年12月21日に初めて就任したが、次の大統領が選出されるまで職務を続けると発表した。しかし、憲法では、議会がヨハニス氏の続投を認める法律を可決しない限り、任期満了時に退任しなければならないと定められている。
「ヨハニス氏は現在、国内で最も嫌われているルーマニア人である。彼がさらに長く居座れば、社会的緊張は非常に大きくなるだろう。」と、経験豊富な政治評論家ボグダン・キリエアック氏は、人気のある独立系テレビ番組のパネルで語った。
長年にわたり弁護士兼政治アナリストとして活動しているセルギウ・アンドン氏も、「大統領の任期延長に対する国民の嫌悪感は相当であり、これは共産主義時代を思い起こさせる。」と付け加えた。
彼は過去の恐ろしい例を2つ挙げている。
「この国民の選択への侮辱は、1946年に共産主義者が選挙結果を改ざんし、得票率を21%から81%に変更した時以来、最も恥ずべき選挙行為です。当時、共産主義者たちは占領していたソ連軍とともに行動していました。」と説明した。
さらにアンドン氏は、「聖ニコラスの日に憲法裁判所が下した決定は、1989年のクリスマスにニコラエ・チャウシェスク夫妻に死刑判決を下した『カンガルー裁判』(*非公式で公平性に欠ける裁判)以来、最も司法に反する決定です。彼らがその運命に値したかどうかは別として、司法手続きとしては誤ったものであり、今月のプロセスも同じく誤ったものでした。」と語った。
今後の展開
残念ながら、ルーマニアとカリン・ジョルジェスク氏は現在と未来の狭間で身動きが取れない状態にある。ウクライナでの戦争をいかなる犠牲を払ってでも推し進めようとするバイデン政権(最近では武器供与と援助を加速させ、疲弊した国の紛争をエスカレートさせようとしている)と、「ウクライナでの即時停戦」を求め、「米国のNATO脱退もあり得る」と推測する新しい米国大統領ドナルド・J・トランプ次期大統領の間で板挟みになっているのだ。(関連記事:「バイデンの罠」)
バイデン陣営は、民主的な意思に関係なく、ルーマニアを戦争に巻き込む既成事実を作り出そうとしている。トランプ政権の発足が待ちきれない状況だ。
続く…(原文へ)
INPS Japan
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