もし文脈と一般市民の懸念に注意を払えば、国連の元高官でマーシャル諸島における核実験による健康被害を報告したカリン・ジョルジェスクのルーマニアでの勝利は、ドナルド・トランプの勝利と同様、全く驚くべきことではなかった。
【The American Spectator/INPS JapanワシントンDC=ヴィクトル・ガエタン】
11月24日に行われた、ルーマニアの大統領選挙の第1回投票で、有権者たちが無所属のジョルジェスクを選んだ際、米国のドナルド・J・トランプ氏の選出がもたらした余震がルーマニアでも起きた。ジョルジェスクは、政府が市民のために働き、ウォーク・アジェンダを拒絶し、平和を推進するべきだと主張するアウトサイダーであり、ジョー・バイデン政権がルーマニアの軍事費をさらに増強するよう圧力をかけている現状に反対する立場を明らかにしている。
2016年にトランプに対して向けられた非難と同様に、ジョルジェスクもすぐさま、PoliticoやBBCのような主流メディア、さらに匿名のSNSアカウントから「親ロシア派の手先」と非難された。しかし、それは土壌科学者であり、尊敬される環境保護活動家であり、大学教授でもあるジョルジェスクに対しては、的外れでばかげた非難と言わざるを得ない。
ジョルジェスクは国連開発計画(UNDP)やルーマニア環境省で活動してきた。また、マーシャル諸島の人権活動家たちからも支持されている。彼は国連特別報告者として、(米国が数十年にわたって行った)核実験による健康への悪影響を記録したことでも知られている。
ジョルジェスクの候補者としての立場が物議を醸しているのは、彼が独立系であるためだ。
ジョルジェスクは、ウクライナ問題で交渉の時が来たというトランプのビジョンを支持している。また、今年ルーマニア語に翻訳されたロバート・F・ケネディ・ジュニアの著書『The Real Anthony Fauci』に序文を寄せた人物でもある。
冷静で穏やかな口調で語るジョルジェスクの特徴は、農家支持、信仰、家族、そして西側のアジェンダに対する国益の優先といった立場にある。この姿勢が、武器製造業界やルーマニアの政治クラスを動揺させている。これらの業界はルーマニア政府を説得して兵器優先政策を取らせてきた。
戦車やF-35に数十億ドル
ルーマニアはウクライナと2つの国境を接している。北の長い陸上国境と、東の黒海沿岸国境である。ルーマニアはロシアによるウクライナ軍事侵攻直後、ウクライナ難民を寛大に支援する緊急措置を採択した。現在も17万人以上の難民に無料輸送を含む様々なサービスを提供している。
しかし、この厳しい紛争は国内経済と生活水準に明らかに悪影響を及ぼしている。ルーマニアのインフレ率は、現在欧州連合(EU)加盟国の中で最も高く、とりわけ食料品やエネルギー価格が急騰している。
EUのデータによれば、2023年には32%のルーマニア人が貧困のリスクに晒されており、これも地域で最も高い数値でる。また、別のデータでは、2023年の時点で20%以上の人々が実際に貧困線以下の生活を送っているとされている。
2020~21年に好調だった農村経済の一部も戦争の影響で深刻な打撃を受けた。例えば、欧州最大の湿地であるドナウ・デルタでの観光業は壊滅状態に陥った。
一方、ルーマニア政府は、米国製のエイブラムス戦車に10億ドル、F-335闘機32機に72億ドルを支出するという軍事支出を高らかに宣伝している。これらはルーマニア史上最も高額な兵器購入である。
今年のルーマニア軍予算は210億ドルを超え、2023年比で45%増加している。この中には、欧州最大規模となる北大西洋条約機構(NATO)軍事基地、ミハイル・コガルニチャヌ基地(黒海沿岸のコンスタンツァ近郊)の建設費も含まれている。この基地はドイツのラムシュタイン基地よりも大規模なものになる予定だ。
もしアラブ首長国連邦(UAE)のように非常に裕福な国であれば軍事支出も問題にならないだろうが、ルーマニアの国家債務は劇的に増加している。
ウォーク・アジェンダ
有権者たちは、党派的な決まり文句と、ジョルジェスクのような真実を語る新鮮な存在を見分けることが可能だ。
ルーマニアは、35年前に独裁者ニコラエ・チャウシェスクが処刑されて以来、米国の熱心な同盟国となっている。国民はNATOの「平和のためのパートナーシップ」を歓迎した。2002年にはジョージ・W・ブッシュ大統領がルーマニアを訪問し、歓声を上げる群衆に迎えられた。2年後、ルーマニアはNATOに加盟した。
しかし、バラク・オバマ政権下では、米国の影響が国家の自立性を損ない、ウォーク文化を押し付け、ルーマニアをロシアに対する代理国として利用しようとしていると人々は感じ始めた。ロシアと同じく、ルーマニアは正教会の信者が多い国でである。
オバマが任命した大使は同性婚の熱心な支持者で、ブカレストでのプライド・パレードに参加した。この姿勢に対し、地元のジャーナリストたちは内政干渉だと批判した。
今年も、米国大使館は「ルーマニアにおけるLGBTIQ+コミュニティの多様性、可視性、レジリエンス、尊厳」を促進する活動を行ったが、多くの人々はこれを米国の駐在ミッションの目的に無関係だと見ている。
あるRedditユーザーは次のように説明している。「ルーマニア人は、西側でのLGBTQプロパガンダがいかに有害で押し付けがましいかを見ている。また、厳しい共産主義の下で、厳格な思想統制を経験してきた歴史があるため、それに似たものを本能的に拒否している。」
もし文脈と一般市民の懸念に注意を払えば、ジョルジェスクのルーマニアでの勝利はちょうど米国でのトランプの勝利と同様に全く驚くべきことではなかった。
ルーマニアの憲法裁判所は与党政治勢力によって任命されており、第1回投票の再集計を命じたため、大統領選挙の最終結果には不確実性がある。しかし、これはジョルジェスクにとって、トランプがそうだったようにその人気を拡大するためのさらなる時間となっている。(原文へ)
INPS Japan
関連記事: