ニュース王室の戴冠式で鳴り響く新たなメッセージ: 「私の王ではない」

王室の戴冠式で鳴り響く新たなメッセージ: 「私の王ではない」

【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】

華やかな演出、トランペットのファンファーレ、銃礼で盛大に執り行なわれた英国王チャールズ3世とカミラ王妃の戴冠式には、ウエストミンスター寺院に参列した王室関係者や招待客のほか、ロンドン市民や世界各地から参集した観光客が会場周辺の沿道を埋め尽くした。

1760年に作られた金色に輝く王室専用馬車(ゴールド・ステート・コーチ)は、戴冠した王族をバッキンガム宮殿に運ぶために用意されたものだ。

Coronation Procession at the Coronation of Charles III and Camilla/ By Katie Chan - Own work, CC BY-SA 4.0
Coronation Procession at the Coronation of Charles III and Camilla/ By Katie Chan – Own work, CC BY-SA 4.0

しかし、今日の観衆は、70年前のエリザベス二世の戴冠式に参集した300万人を数えた往時の帝国の臣民とは様変わりしている。例えば、沿道の群衆の中に「私の王ではない」と書かれた垂幕を掲げる人々の姿に、どれだけ変わったかを見てとることができるだろう。

「英国社会は大きく変貌しました。王室は、今日私たちが暮らす社会を代表するものではありません。」と、記者のリズ・ステファンズは語った。

「多くの国民が経済的に苦しんでいるときに、豪華な戴冠式が行われています。これは、恥ずべきことだと思います。この国は混乱しているのに、戴冠式に何百万ドルも使うなんて……」と、ある抗議者は付け加えた。

王室の戴冠式では、国民は国王への忠誠を誓うよう求められる。しかし、王室が、かつての植民地主義や多くの旧植民地で未だに根強いLGBTQ+法が大英帝国時代に遡るイメージなどから、王政そのものに別れを告げたいと考えている人々も少なくない。

1952年、エリザベス女王の即位に伴い、イギリス軍はケニアに非常事態を宣言した。当時、ケニアを含む世界各地の植民地で独立運動が活発化しており、大英帝国は縮小傾向にあった。

当時ケニアでは、後のケニア独立に繋がる重要な要素となる通称「マウマウ団」と呼ばれるケニア土地自由軍が、過激な民族主義的独立運動を展開していた。

これに対し植民地政府は、イギリス本国から派遣された正規軍5万人、戦車、爆撃機などを投入してナイロビで2万7千人、農村で107万人の反乱支持者を逮捕した。また、この反乱によるマウマウ側の死者数は、11503人だった。また、ゲリラからの隔離政策で環境劣悪な収容所に送られて死亡したキクユ族は2万人程度に上ると見られている。

Troops of the King's African Rifles carry supplies while on watch for Mau Mau fighters./ By Ministry of Defence POST-1945 OFFICIAL COLLECTION, Public Domain
Troops of the King’s African Rifles carry supplies while on watch for Mau Mau fighters./ By Ministry of Defence POST-1945 OFFICIAL COLLECTION, Public Domain

多くの人々にとって、英国王室はこうした植民地支配の記憶と結びついている。彼らからすれば、王室は帝国を支配し、帝国から多大な利益を得ており、それに加担していたと見做されているのである。

チャールズ3世の戴冠式は、こうした歴史を直視し、王制の存続の是非を考える絶好の機会であると考えている人は少なくない。

ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンのジェレマイア・ガーシャ助教授は、「2023年は、新しい英国に王政の居場所はもうないと振り返る分岐点になると思います。」と語った。

南アフリカ大学(UNISA)のアフリカ政治学教授であるキャーレボーハ ・マフンイェ氏は、「私たち南ア人にとって、英王室の戴冠式は、特に興奮したり喜んだりするようなことではありません。むしろ、この国が今も、大英帝国の植民地時代の遺産を引きずっていることを考えれば悲しむべきことなのです。」

「今回の戴冠式でも、英国王が南アフリカから持ち去られた世界最大のダイヤモンド『アフリカの星』をはめ込んだ王笏を使用すると聞いています。とても、私たちが興奮したり喜んだりできるものではありません。」

南アフリカの活動家たちは、英国政府に対して、ロンドン塔に他の宝石とともに保管されている「アフリカの星」を返還するよう要求している。

ヨハネスブルグのモハメド・アリ氏は、「彼ら(=英国人や旧宗主国の人々)は今日私たちを第三世界の人間と言及します。しかしアフリカの大半の国々は、植民地主義者が略奪した鉱物資源のために貧しくなったのです。彼らは私たちのおかげで豊かになったのですから、略奪したものを返還すべきです。」と語った。

引退したジャーナリスト、ビクター・イゼコール氏は、ナイジェリア南部のベニン王国に英国が侵攻し、美術品を持ち去ったことを非難している。「英国人は自国の伝統を愛していますが、一方で、私たちの伝統を破壊するためにやってきたのです。」と語った。

かつて大英帝国が植民地支配した領域を中心に構成された国家群である英連邦諸国は、この戴冠式をせいぜい無関心で見ている。「国王チャールズ3世は、国民から奪われた富の返還を含めて植民地支配がもたらした被害の修復を始めるべきです。」と、オーストラリアのリディア・ソープ上院議員は語った。(原文へ

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