【メキシコシティーINPS Japan=ギレルモ・アラヤ・アラニス】
外交の象徴として誕生し、今はメキシコシティ・トラテロルコ地区の歴史を記憶する守り手となった建物がある。国連本部を思わせるその建物は、約40年にわたりメキシコ外交の中枢であり、1967年、核兵器廃絶の歴史において最も重要な章の一つ―ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止条約(トラテロルコ条約)―がここで調印された。
三つの文化が交差する場所
トラテロルコを語ることは、すなわち歴史を語ることだ。メキシコシティ北部に位置するこの地は、先住民時代、植民地時代、現代という三つの文化を体現する。ここは、死と生、戦争と平和、交易と布教、近代化と抑圧、そして回復力と外交、さらには核不拡散の闘いが交錯する地でもある。
22階建ての塔が、トラテロルコの景観を支配している。1966年から2005年まで約40年間、ここは外務省(SRE)の本庁舎として機能した。現在は「トラテロルコ大学文化センター(CCUT)」として、この地区の歴史を継承している。「空間には響きがあり、壁は建築が歴史を刻んできたことを伝えている。この建物は、当時この地域において外交が果たした重要性を示している。」と、CCUTのロベルト・バラハス・チャベス視覚芸術コーディネーターはINPS Japanの取材に対して語った。
トラテロルコ条約の誕生
1960年代、メキシコ政府は国内に分散していた外交活動を一か所に集約しようとし、その場所としてノノアルコ=トラテロルコ住宅団地が完成したばかりの同地区が選ばれた。当時、この団地は進歩と繁栄の象徴として際立っていた。
その中心に誕生したSREタワーは1966年に開館し、瞬く間にメキシコ外交の中枢となった。ここからアルフォンソ・ガルシア・ロブレス外相が推進した歴史的出来事が、ラテンアメリカおよびカリブ地域における核兵器禁止条約―通称「トラテロルコ条約」である。
この条約は1967年2月14日に署名され、ラテンアメリカおよびカリブ地域を世界初の「非核兵器地帯」とした。米ソ冷戦の只中、特に1962年のキューバ危機でラテンアメリカが核戦争の戦場となりかけた時代において、その意義は計り知れない。
「二極対立に見えた争いは実際には世界全体に影響を及ぼしていた。重要なのは、トラテロルコ条約が今も国際機関やOPANALによって想起され続けていることだ。」とバラハス氏は語った。
建築と記憶の継承
このタワーは建築家ペドロ・ラミレス・バスケスによって設計され、白い大理石の外壁と黒いガラス窓が102メートルの高さにそびえる。国連本部を模した造りで、矩形の外観や内部の廊下、会議室、講堂なども共通点を持つ。
2006年、外務省は都心部に移転し、トラテロルコの塔は空いたままとなった。1985年の大地震にも耐えたが、構造的な損傷を負っていた。2007年、国立自治大学(UNAM)が管理を引き継ぎ、文化センターへと生まれ変わらせた。
現在、CCUTには2つの常設展示がある。一つは1337年に創設された先住民都市トラテロルコの歴史を伝える展示、もう一つは1968年10月2日に起きた学生運動弾圧の記憶をたどる展示である。

トラテロルコ条約専用の常設室はないが、その記憶は展示企画によって継承されている。2025年には「トラテロルコ:核軍縮とフェミニズムの拠点」と題する展覧会を開催し、条約調印58周年と第1回世界女性会議(1975年)の50周年を同時に記念した。
ノーベル平和賞受賞者の遺産
1982年に核軍縮推進の功績でノーベル平和賞を受賞したアルフォンソ・ガルシア・ロブレス大使の記憶も、建物に刻まれている。センターのメイン講堂と書店には彼の名が冠され、書店には学生運動や外交史を見守るように彼の肖像画が掲げられている。

かつて条約が署名された大広間は、現在は展示やイベント会場に改装されたが、小規模な再現スペースが設けられ、当時の歴史的交渉の雰囲気を伝えている。
地域と未来をつなぐ
CCUTは展示や会議に加え、コンサート、ワークショップ、地域活動も開催し、地元との結びつきを深めている。目指すのは、住民が自らを「抵抗、文化、外交」の遺産の担い手として再認識することだ。


Room where the Treaty of Tlatelolco was signed. Author: CCUT.
2025年9月19日、メキシコシティを襲った大地震から40年を迎え、犠牲者の追悼が行われた。ノノアルコ=トラテロルコ住宅群ではヌエボ・レオン棟が倒壊し、SREタワーも被害を受けたが崩壊を免れた。この塔は2026年に完成60周年を迎える予定であり、文化センターでは記念行事の準備が進められている。(原文へ)
INPS Japan
This article is brought to you by INPS Japan in partnership with Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.
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