ニュースサウジ防衛協定は米国の安全保障への信頼低下を映す

サウジ防衛協定は米国の安全保障への信頼低下を映す

【メルボルンINPS Japan/London Post=マジド・カーン】

画期的な動きとして、サウジアラビアとパキスタンが「戦略的相互防衛協定」を締結した。これは、米国およびイスラエルに対し、サウジ王国が地域の抑止力を強化するために安全保障同盟を多角化する姿勢を明確に示すものである。

地政学的な力学が急速に変化する中で結ばれたこの協定は、サウジアラビアが長年依存してきた米国の安全保障への依存からの明確な脱却を意味する。

この協定は、リヤドでムハンマド・ビン・サルマン皇太子とパキスタンのシャハバズ・シャリーフ首相の間で署名された。わずか1週間前、イスラエルがカタールに滞在するハマスの政治指導者を標的にミサイル攻撃を行い、米国の防衛支援に依存してきた湾岸諸国に深い不安をもたらした直後である。

湾岸諸国は長らく、ワシントンの予測不能な姿勢と、自国の安全を確実に保証する意思に疑念を抱いてきた。イスラエルの軍事行動が地域の緊張を高める中、その不信はさらに深まっている。サウジ高官の一人は、「一方への攻撃は、他方への攻撃と見なす」と述べ、この相互防衛協定が抑止力の中核となると説明した。協定には、脅威の性質に応じて必要な防衛・軍事手段を講じることが明記されている。

この協定はまた、中東における地政学的構図の変化を象徴している。ドーハ攻撃後、米国が「地域の安全保障の保証人」としての役割を果たしていないとの見方が広がる中で、サウジは同盟関係の再調整を進めている。イスラエルによるドーハ空爆に対する米国の反応が抑制的であったことは、湾岸諸国の脆弱性を露呈させた。ムハンマド皇太子はこの攻撃を「残虐な侵略」と非難し、アラブ・イスラム諸国、そして国際社会が一体となって対応すべきだと強調した。

ワシントンDC拠点のシンクタンク「スティムソン・センター」の上級研究員アスファンディヤール・ミールは、この協定を「両国にとっての画期的な出来事」と評した。彼は、パキスタンが冷戦期に米国と相互防衛条約を結んでいたが、1970年代までに形骸化したことを指摘した。中国とも正式な防衛協定は存在しないため、今回のサウジとの合意は地域の安全保障構造における大きな転換点であると述べた。

ミールはまた、この協定が印パ関係に新たな緊張をもたらす可能性にも触れた。特にインドによる軍事的圧力が懸念される中での締結は象徴的であるという。

シドニー工科大学の南アジア安全保障研究者ムハンマド・ファイサルは、この協定がパキスタンにとって、UAEやカタールなど他の湾岸諸国との防衛協力を広げるモデルになる可能性を指摘した。これにより、パキスタンの地域的地位が一層強化されると見ている。

この合意は、政治的にも重要な意味を持つ。サウジがパキスタンとの関係を正式に再確認したことは、インドが各国に対してパキスタンから距離を置くよう働きかけている中でも、リヤドが依然としてイスラマバードとの長年の絆を重視していることを示す。ミールは「パキスタンは外交的孤立に直面しているが、この協定は同国が完全に周縁化されていないことを示す」と指摘した。

この合意の最も注目すべき点の一つは、サウジの莫大な財政力とパキスタンの核武装軍の能力が連携する構図を生み出すことである。ただし、協定の詳細は依然として曖昧であり、両国とも「核技術や核能力の移転は含まれない」と明言している。

パキスタンのカワジャ・ムハンマド・アスィフ国防相は、「核兵器は協定の射程外にある」と述べ、この協定が将来的に他の湾岸諸国にも拡大される可能性に言及した。

戦略的観点から見れば、この合意は地域の勢力均衡を変える可能性を持つ。長年米国に安全保障を依存してきたサウジが、中国およびロシアと関係の深いパキスタンを防衛の新たな柱として位置づけようとしているためである。この提携は米国の軍事的存在を代替するものではないが、サウジが西側への依存を減らし、他の戦略的パートナーシップを模索していることを明確に示している。

中東の安全保障環境が急速に再編される中で、この動きは生まれた。イスラエルの攻撃的な軍事行動と、地域における米国の影響力低下が、湾岸諸国に安全保障政策の見直しを迫っている。サウジ・パキスタン防衛協定は、サウジが米国の予測不能な外交方針に不安を抱き、地域の不確実性に備えるための戦略的転換を示している。

サウジ王室に近い政治評論家アリ・シハビは、今回の協定は「米国の軍事的役割に取って代わるものではない」が、サウジが従来の同盟関係を超えて新たな方向性を模索している象徴的な転機だと述べた。また、パキスタンとの軍事的連携を再確認することは、地域の安定維持において重要な意味を持つとも指摘した。

パキスタンにとって、この協定は好機であると同時にリスクでもある。湾岸地域での地位を高め抑止力を強化する一方で、米国との関係を複雑化させる可能性があるからだ。特にトランプ政権期以降、ワシントンとの関係が改善していたことを考えると、この新たな防衛協力は再び緊張を招く恐れがある。米国がイラン封じ込めのためイスラエルを中東安全保障の枠組みに組み込もうとする中で、サウジとパキスタンの関係強化は、ワシントンにとって厄介な要素となるだろう。

ラホール大学安全保障戦略政策研究センターのラビア・アフタル所長は、「この協定はサウジにとって通常戦力の保証を固め、パキスタンの防衛ノウハウを取り込むものであり、イスラム教徒多数派で核抑止力を有する国との連携を象徴している」と分析した。その一方で、インドとの対立を最優先するパキスタンにとっては、中東安全保障への関与が新たなリスクを伴う可能性があると警鐘を鳴らしている。

インド政府もこの協定の影響を注視している。特に湾岸地域での影響力維持を図る中で、インドは今後、外交方針を慎重に再調整する必要に迫られるだろう。サウジとインドの関係は引き続き良好であると見られるが、パキスタンとの防衛協力強化はインドの地域戦略に新たな変化をもたらす可能性がある。

この協定はただちに中東の安全保障構造を変えるものではないが、地域の同盟関係が多様化しつつあることを示している。そしてそれは、中東全体で進行する地政学的変化の一端でもある。

サウジアラビアとパキスタンの両国は、より複雑で予測不能な地域秩序に備えており、この協定は、各国が世界的・地域的変化に対応して同盟関係を再構築していることの象徴である。(原文へ

INPS Japan

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