この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。
【Global Outlook=アミン・カイサル】
世界の政治は、分極化の不穏な局面に達している。この状況の根底には、おもに米国が主導する民主主義国家と、ロシアと中国が主導する専制主義国家との間の闘争がある。しかし、ほかにも危険な側面がある。専制主義の大国とアフガニスタンのタリバンのような過激な神権主義勢力との密接な関係が浮上してきたことである。
1991年のソ連崩壊は、まぎれもなく西側に楽観主義の新時代を引き起こした。多くの人々、特に重要なのは当時の米国指導者の見解では、それが世に知られていた冷戦を終結に導き、共産主義に対する民主主義の勝利、息が詰まるような中央集権的社会主義に対する自由主義的資本主義の勝利を印象付けたのである。これを受けて、フランシス・フクヤマのような思想家は「歴史の終わり」を主張した。非常に挑発的な共産党独裁主義の中国や高飛車なロシアの台頭とともに、パワーが西側から東側へと目立たぬところで移ると気付いた者はほとんどいなかった。(原文へ 日・英)
同様に、ジョセフ・ナイが説いた力の拡散を予見し得た者も多くはなかった。その典型的な例が、アルカイダやイスラミック・ステートのような多国籍の暴力的過激主義グループやネットワークである。また、米国とNATOおよび非NATOの同盟国がアフガニスタンから敗北のうちに撤退し、その結果、2001年9月11日の米国テロ攻撃を実行したアルカイダをかくまったタリバンが、再びアフガニスタンで政権を握ることになるとは、概して思いもよらないことだった。あるいは、その点で言えば、現代の独裁者ウラジーミル・プーチンの権力への野心を体現するものとして、ロシアがウクライナを侵攻するということも予想外だった。
一方で、それ以上に当惑をもたらすのは、対立する国家グループを率いる二つの大国が、利害のうえで自国側につくならどの国でもおかまいなしに仲間に引き込んでいることだ。米国のジョー・バイデン政権は、当初外交政策で重視していた人権と民主主義的価値の推進を放棄してしまった。中国とロシアは、米国に敵対している、あるいはその可能性がある勢力なら相手かまわずすり寄っている。例えば、バイデンはいまや、かつてパーリア国家と呼んだ国(サウジアラビア)に再び歩み寄ろうとしており、イスラエルにパレスチナ領の暴力的占領をやめるよう圧力をかけるふりさえもしなくなっている。中国とロシアの指導者は、タリバンに対して非常に友好的になっている。
北京とモスクワは、もはやタリバンを過激派勢力ではなく同盟国になりうる相手として見ている。アフガニスタンのタリバン政権を公式承認してはいないものの、両国は緊密な外交関係を確立し、貿易・経済関係を結んでいる。
北京はタリバン指導者を大いに歓迎し、2国間関係を促進するため中国外相がカブールを訪問した。いまや中国は、アフガニスタン、特にその鉱業部門に対する最大の投資国となる構えで、アフガニスタンからの輸入品に対する関税を撤廃した。北京は非常に影響力の大きいプレイヤーとして浮上しつつあり、タリバンから望ましい経済的パートナーという宣言を得ている。
中国の影響力、アフガニスタンの二つの隣国であるパキスタンおよびイランと中国の経済的・戦略的パートナーシップ、そしてパキスタンによる決定的なタリバン支援により、北京は非常に強固な地域グループを築いている。中国の「神なき」世俗的共産主義が、タリバンのイスラム過激主義ともイランの政治的多元性を持った神権秩序とも都合よく付き合っている様子は、驚くべきものである。
同じことは、タリバン政権をほぼ承認しているロシアにも言える。ロシアは、タリバンがモスクワでアフガニスタン大使館を運営することを認めており、パキスタン以外でそれを認める唯一の国である。プーチンのアフガニスタン特使、ザミル・カブロフは近頃、ロシアはあらゆる実用的目的のため、タリバン政権を承認された存在として見なして対応すると発表した。
ロシアは、アフガニスタンに対して天然ガスを割安な価格で販売することを申し出ている。ただし、いずれのパイプラインを経由するかは明確になっていない。タリバンは、ロシアのウクライナ侵攻を支持しているため、百戦錬磨のタリバン戦闘員がロシア軍の前線に配置されている可能性はある。ロシアは、タリバンのイスラム過激主義が裏庭である中央アジアに広まることへの懸念をほとんど捨てており、タリバンも、1980年代にソ連がアフガニスタンを占領していた時期のロシア人の残虐行為を忘れ、プーチンがその専制支配の裏付けとしてキリスト教への信仰を改めて強化していることも見逃しているようである。
米国とその同盟国は、長期に及ぶウクライナ支援の態勢を整えている。これらの国々は、プーチン率いるロシアが欧州秩序、ひいては世界秩序の変更を狙う敵国であり、中国はインド太平洋地域における脅威であると断じている。二つの東側の大国は、支援を得られるなら相手かまわず手を結ぼうとしてきた。その相手には、アルカイダとつながりのあるタリバンや、アジア、中東、特にアフリカなど、世界各地に広がるその関連組織のような神権主義的勢力さえ含まれる。
現在展開されている戦線は、冷戦時代よりもさらに世界情勢を微妙に、そして危険にしている。
アミン・サイカルは、シンガポールの南洋理工大学ラジャラトナム国際学院で客員教授を務めている。著書に“Modern Afghanistan: A History of Struggle and Survival” (2012)、共著に“Islam Beyond Borders: The Umma in World Politics” (2019)、“The Spectre of Afghanistan: The Security of Central Asia” (2021) がある。
INPS Japan
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