SDGsGoal13(気候変動に具体的な対策を)|バングラデシュ|気候変動のリスクからコメ生産を守る

|バングラデシュ|気候変動のリスクからコメ生産を守る

【シュヤムナガール、バングラデシュ)IDN=ラフィクル・イスラム・モントゥ】

この新しい水稲品種は「シャルラータ」と呼ばれている。この水稲は塩害に強く、通常の風にも耐え、肥料や農薬を使わなくてもよく収穫できる。また、種子の保存も容易である。このような理由から、「シャルラータ」は農家から農家へと急速に広がっている。昨シーズン、収穫量も良好だった。

バングラデシュ南西部沿岸サトキラ地区シュヤムナガール行政区画チャンディプール村の農民ディリプ・チャンドラ・タラフダール(45)さんは、災害に強いこの種類の水稲(モンスーン期チャルラタ米)を開発した。この稲の植え付けは6月の最終週から始まり、収穫は11~12月にかけて行われる。

SDGs Goal No. 13
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タラフダールさん自身、水稲栽植で何度も危機に直面してきた。この地域は塩分濃度が高いため、田んぼの表面が乾燥してしまうのだ。この災害は籾に甚大な被害をもたらし、期待された収量は得られなかった。この危機への対処を迫られたタラフダールさんは、地元の2種類の稲を交配する方法で、新しい災害耐性のある米の品種を発明したのである。

なぜ新品種を開発する必要があったのか? タラフダールさんはこう話す。「かつて、私たちの祖先は田んぼに稲を植えると、稲穂が熟して刈り取るまで田んぼで他にすることはありませんでした。しかし、今では稲を植えた後に多くの問題に直面しています—水位の上昇、強風の問題、害虫の被害もあります。私たちは、かつて祖先が植えた災害に強い種類の稲を取り戻すために、新しい交配法を開発しました。期待していた結果を得ています。」

新種の稲と在来種の違いは何だろうか? 「この稲は水害や塩害にも強い。また穂先が非常に固く強い風にも耐えられるのです。シュヤムナガールは災害の多い地域です。だからこの品種はこの地域に合っています。ここの田んぼでは、33デシマル(訳注:バングラデシュ、インドにおける旧来からの土地の単位)あたり最大840キログラムのコメが獲れます。対照的に、在来種では同じ面積の土地あたり400キロも獲れません。だからこの品種が農家の間で人気があるのです。」とタラフダールさんは語った。

災害のリスクにさらされる農業

タラフダールさんと同じように、この地域の農民は水稲栽培で複数の困難に直面している。この地域の地下水は塩分を含んでいる。そのため、ボロ・シーズン(乾期)には水稲を栽培できない。雨季には在来種のコメを育てることで収入の不足を補おうとするが、そこにはさまざまな困難が待ち受けている。市場から買ってきた種ではよく育たない。十分な肥料や殺虫剤をまいても十分な収穫が得られない。2~3年の収穫の後には、蓄蔵しておいた種の質は悪化している。

シュヤムナガール地域農業局のエナムル・ハク氏は、「災害の多いこの地域の農民は、地元の稲の種子を保存し、稲の新品種を発明するという素晴らしい仕事をしてきました。彼らの働きは、災害に直面しても農業を維持するのに役立っています。農民たちが発明したいくつかの品種は、バングラデシュ稲研究所に送られました。そこから成果を得るには、少なくとも10年はかかります。」と語った。

バングラデシュ南西沿岸部のシュヤムナガールなどの地区の農民は、稲の収穫に関しては自然災害が大きな問題になっているという。サイクロンが頻発し塩害が激しくなっているため、多くの農民が農業を辞めている。2009年のサイクロン「アイラ」の後、土地の塩分濃度が上昇した。その結果、多くの農民が耕作に助けを必要としている。2007年のサイクロン「シドル」と20年のサイクロン「アンファン」は、この地域の農作物に深刻な被害をもたらした。しかし、かつてこの地域の土地は、水稲を含むさまざまな作物で非常に豊かな土地だった。

クルナ地区のコリャ、ダコップ、パイガッチャ、それにサトキラ地区のアサシュニ、シュヤムナガールでは土地の性質が変わってしまった。国際組織「実践的なアクション」の調査によると、1995年から2015年までの20年間で、これら5つの行政区画の農業用地は7万8017エーカー減ってしまった。他方で、塩水によってエビを育てる土地は11万3069エーカー増えた。

世界銀行の『河川の塩化現象と気候変動:バングラデシュからの報告』によると、2050年までに、バングラデシュ19地区の148の行政区画のうち10区画の川で塩害が生じることになるという。サトキラ地区のシャヤムナガール、アサシュニ、カリガンジ、クルナ地区のバティアガタ、ダコップ、ドゥムリア、コリャ、パイガッチャ、バゲラート地区のモングラ、パトゥアカリ地区がそうである。

世界銀行の研究チームの一員で気候問題の専門家アイヌン・ニッシャット博士はこう述べる。「この地域の川の水の塩分は徐々に多くなっている。塩水の浸入や洪水は問題を引き起こしている。土地で耕作ができなくなれば人々は移住することだろう。この地域の土地利用は今すぐ変更すべきだ。塩害に強い品種の開発や、最新技術を農民が今すぐ利用できるようにすべきだ」。

土壌資源研究所(SRDI)のデータによると、クルナの耕作可能な土地の89%が塩害地である。加えて、塩水の浸入が激しいために、乾季に灌漑用水が足りなくなり、沿岸地域では耕作放棄するところも出てきている。塩害がひどくなると、沿岸地域の住民は農業から撤退せざるをえなくなる。

農民たちは、気候変動や自然災害から水稲栽培を守るため、率先して水稲の種子を保存している。彼らは、自分たちの必要性に応じて品種改良を行い、様々な米の品種を生み出している。

農家は自らの必要から「コメ博士」になった

Map of Bangladesh
Map of Bangladesh

ハヤバトプールはシュヤムナガール行政区画にきわめて近い村である。この村のシェイク・シラジュル・イスラムさんは自宅にコメ研究センターを設置した。ここでは、交配によってさまざまな品種の米が開発されている。他の稲との交配によって、栽培に適した「ダンシ」という品種を開発しようとしている。それ以前にも、彼は「ソハグ4」「セバ」という2つの品種を作り出した。

地元品種は、シャムナガルにある非政府研究組織「バングラデシュ先住民知識リソースセンター(BARCIK)」の事務所でも開発が進んでいる。BARCIKは、稲の種の保存や、稲の品種を開発するための技術支援を行っている。BARCIKによれば、農民たちは35品種の米を開発したという。そのほとんどはまだ実地試験段階である。地元の稲の種は約200品種保存されている。農民を支援するために「種子バンク」が設立された。

農民のスシャント・マンダル(38)氏は、「かつて、この地域では豊かな稲作の収穫がありました。私たちは水稲栽培から農家の年間食糧の大部分を確保できたものです。」と語った。(原文へ

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