SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)|カメルーン|腐敗した政権に立ち向かう精力的なカトリック教会(ヴィクトル・ガエタン ナショナル・カトリック・レジスター紙シニア国際特派員)

|カメルーン|腐敗した政権に立ち向かう精力的なカトリック教会(ヴィクトル・ガエタン ナショナル・カトリック・レジスター紙シニア国際特派員)

分析:中央アフリカの教会指導者たちは、国の生活水準を損なってきた深刻な汚職体質を公然と批判している。

【National Catholic Register/INPS Japanドゥアラ(カメルーン)=ヴィクトル・ガエタン】

豊かな資源を持ちながら、数十年にわたる政治の腐敗と不正管理によって貧困に陥ったカメルーンは、10月12日に大統領選挙を控えている。この国では、カトリック教会の指導者たちが、現体制に対する強力な批判者として台頭している。

92歳の現職大統領ポール・ビヤ氏は、中央アフリカの人口3,000万人の国で再選を目指している。国民の中央値年齢は19歳。ビヤ氏自身もカトリック信徒で、カテキスタ(教理教師)だった父を持つ。1975年に首相に就任して以来、すでに半世紀。1982年に大統領となってから今日まで、その座を保っている。もし国が良く統治されていれば問題はないだろう。だが、現実はそうではない。

カメルーン司教協議会(NECC)は1月、36人全司教の連名で公開書簡を発表し、「蔓延する汚職と公金横領が国家全体の生活水準を破壊している」と強く非難した。

しかし筆者が最大都市ドゥアラ(中央アフリカ最大の港湾都市)で目にしたのは、驚くほど活気に満ちた信仰共同体であった。預言者的リーダーシップ、活気ある小教区、そして多様なカトリックの霊性が息づいていた。

真実を語る教会

国際統計によれば、この20年間でカメルーンの経済成長は停滞しており、2022年時点で国民の4割が極度の貧困状態にあった。

「ヨハネ・パウロ2世(1985年、1995年)も、ベネディクト16世(2009年)も、安定した国としてカメルーンを訪問した。中央アフリカの中で、カメルーン教会は特に信仰が活発な国として重要な位置を占めています。」と、ドゥアラ大司教サミュエル・クレダ氏は語る。大統領ビヤ氏がカトリック信徒であることも、この関係性に影響を与えてきた。

だが、同国は本来持つ豊富な天然資源や人的資源を国民の幸福に結びつけることができていない。

クレダ大司教はフランス語でこう説明する。
「我々は政府の統計―失業率、道路の荒廃、電力や飲料水の不足―をもとに現実を語っています。政府自身も国の悲惨な状況を理解しているはずです。それでも彼らは変わろうとしません。権力を失うのを恐れているのです。それこそが問題なのです。」

12人の候補者がビヤ大統領に挑む構図だが、全国的な知名度や組織力を持つ対抗馬は見当たらない。そこで教会が「空白」を埋める形となっている。

NECCは特定候補を支持することは避けたが、異例の試みとして「理想的な大統領像」を公表した―国民と向き合い、国を回り、正義と公益に献身する人物像である。クレダ大司教自身も8月に牧会書簡を出し、現体制への批判を表明した。

「私たちは権力に警鐘を鳴らし、良心に立ち返るよう呼びかけています。キリスト教的な意味で“回心”し、民のために奉仕してほしいのです。」と大司教は語る。

政権にこれほど公然と挑戦することは危険ではないのか?という問いに対し、66歳のクレダ大司教は静かに答えた。「叙階の日、私は殉教の覚悟を受け入れました。だから真実を語らなければなりません。イエスが当時の不正にどう向き合ったか―それが、私が今この国の不正に対して行動する理由です。私はイエス・キリストに従う者だからです。」

生きた信仰共同体

クレダ大司教は毎週日曜日、管轄する88の小教区のうちいずれかを訪問している。9月28日の目的地は「サン・マルク教会」2009年に彼が大司教に就任して以来、信徒数は倍増した。これまでに46の新しい教会とカトリック・セントジェローム大学を設立している。

到着すると、身長2メートル近い大司教を迎えたのは、踊り、香、赤ん坊、神学生、祝福と歌の渦だった。円形の礼拝堂とバルコニーには1,000人を超える信徒が集まり、ミサとともに90人の若者と成人が初聖体・堅信の秘跡を受けた。

説教では、ルカ福音書の「金持ちとラザロのたとえ」を取り上げ、こう語った。
「富める者は心を閉ざしてしまう―富が現実を見えなくしてしまうのです。これが、今日のカメルーンの姿なのです。」

賛美歌はフランス語、英語、現地語、ラテン語で歌われ、太鼓、木琴、ひょうたんのシェーカーが加わり、喜びに満ちた礼拝となった。

ミサ後、信徒たちは感謝の意を込めて食料を奉納した。米袋、油缶、パイナップルの皿、青々としたバナナの房、鶏、4頭のヤギ、そして巨大な豚までが、祭壇前に捧げられた。

これらの物資は後に大司教区を通じて神学生や高齢者、貧困家庭に分配されるという。信頼できる指導者のもとで、共同体が富を分かち合う仕組みが実に見事に機能している。

さらにクレダ大司教は「薬草園」プロジェクトを推進し、そこではダチョウ、アヒル、ニワトリ、クジャクなどが薬効植物とともに育てられている。COVID-19が蔓延した際には、彼が開発した天然薬が注目を集めた。

多様なカリスマ

ドゥアラ滞在中、筆者は多くの修道者、宣教師、そして献身的な信徒たち、若者グループに出会った。

アウグスチノ修道女のオノリーヌ修道女(36歳)は、子どもたちのカテキズム(教理教育)を担当していた。「教皇がアウグスチノ会出身であることを、心から喜んでいます!」と微笑む。彼女の共同体にはコンゴ民主共和国出身の修道女もおり、カトリック初等学校の教育にあたっている。

少女たちは青いベール姿で「マリアの少年団(Cadets of Mary)」として活動し、「週末ごとにロザリオを祈っています。マリア様の足跡をたどりたいのです」と15歳のパトリシアさんは話す。

街の反対側では、聖霊修道会(スピリタン会)の修道士たちが礼拝堂とゲストハウスを運営している。彼らは1930年代からこの地で布教を始め、1932~1955年にかけて初代・二代の使徒代理を務めた。

アフリカのキリスト教

カメルーンは、かつてドイツ・フランス・英国の植民地支配を受けた。その遺産は現在も「英語圏危機」として、英語圏北西・南西州とフランス語圏中央政府の武力衝突に影を落としている。

ドゥアラ大司教区の事務局長セルジュ・エボア神父は、「信仰は植民地主義とは異なる」と語る。
「アフリカの人々は、布教以前からすでに“信仰の民”でした。司祭や司教は、すでに信仰を持つ人々にカトリックの次元を加えただけなのです。だからこそ、福音の重要性をすぐに理解できた。アフリカの伝統宗教とカトリックは調和するのです。」

「カトリックの教育と価値観は、社会を健全に変革する力を持っています。平日の昼のミサでも大聖堂は満席です。人々は教会の意義を理解しているのです。」

しかし、彼は警鐘を鳴らす。「伝統宗教は少しずつ姿を消しています。一方、西欧からは“脱キリスト教化”の波がやって来ています。」
米国などから来た知識人の中には、「キリスト教が先住の信仰を奪った」として排除を主張する者もいるという。「だが、それは誤った考えです。イエス・キリストは私たちの人生に不可欠な存在です。もし教会が失われれば、世界は永遠の闇に沈むでしょう。」とエボア神父は断言した。

選挙を前に

10月7日、ビヤ大統領は選挙運動の初の公開集会を北部で行った。同地域は有権者の2割が住み、イスラム教徒が多数を占める。現在支持を伸ばしている主要2候補も、この地域出身のムスリムで、いずれも元政府閣僚だ。

クレダ大司教はこう語る。
「教会としての願いは、不正のない、透明な選挙が行われることです。私たちの祈りは平和のためにあります。」

そして静かに付け加えた。
「私たちは、もっと良い未来を願っています――本当に、もっと良い未来を。」(原文へ

Victor Gaetan
Victor Gaetan

ビクトル・ガエタンは、国際問題を専門とするナショナル・カトリック・レジスターの上級特派員であり、バチカン通信、フォーリン・アフェアーズ誌、アメリカン・スペクテーター誌、ワシントン・エグザミナー誌にも執筆している。北米カトリック・プレス協会は、過去5年間で彼の記事に個人優秀賞を含む4つの最優秀賞を授与している。ガエタン氏はパリのソルボンヌ大学でオスマントルコ帝国とビザンチン帝国研究の学士号を取得し、フレッチャー・スクール・オブ・ロー・アンド・ディプロマシーで修士号を取得、タフツ大学で文学におけるイデオロギーの博士号を取得している。彼の著書『神の外交官:教皇フランシスコ、バチカン外交、そしてアメリカのハルマゲドン』は2021年7月にロウマン&リトルフィールド社から出版された。2024年4月、本記事の研究のためガエタン氏が初来日した際にINPS Japanの浅霧理事長が東京、長崎、京都に同行。INPS Japanではナショナル・カトリック・レジスター紙の許可を得て日本語版の配信を担当した(With permission from the National Catholic Register)」。英文の原文はSDGs for Allに掲載。

*ナショナル・カトリック・レジスター紙は、米国で最も歴史があるカトリック系週刊誌(1927年創立)

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