【アスタナINPS Japan=浅霧勝浩】
カザフスタンは長年、欧州とアジアの間に位置する地理的条件に活路を見いだしてきた。戦争によってエネルギー供給や交易路が揺らぐなか、同国はその地の利と電力資源、産業面の経験を、人工知能(AI)時代の強みに転換しようとしている。|英語版|

10月1日にアスタナで開幕した「AI & Digital Bridge 2026」で、カシムジョマルト・トカエフ大統領と国際的な経済界の指導者らは、計算基盤、投資、通信、教育を結びつける構想を示した。翌日の説明会や展示会場で見えてきたのは、それを産業の高度化、若者の仕事、国際協力へとつなげようとする取り組みだった。
天然資源への依存からの脱却を目指すカザフスタンは、海外の技術を受け入れるとともに、国内で研究者や起業家を育て、新たな経済的価値を生み出す拠点を築こうとしている。
地政学的な背景が、この構想に一層の意味を与えている。ロシアによるウクライナ侵攻を機に、中国・中央アジアと欧州をカスピ海と南コーカサス経由で結ぶ「中央回廊(ミドル・コリドー)」への関心が高まった。ロシアを迂回する鉄道・海上輸送網であり、カザフスタンはその重要な結節点に位置する。
今年の米国とイスラエルによるイラン攻撃に伴うホルムズ海峡の海運混乱も、エネルギー供給経路の多様化の重要性を改めて示した。カザフスタンは、カスピ海を横断してアゼルバイジャンへ原油を運び、バクー・トビリシ・ジェイハン(BTC)パイプラインを通じて地中海へ送る輸出経路を活用している。

この原油輸送経路と中央回廊全体は別個のものだが、いずれも、より強靭な供給網を求める国々に選択肢をもたらしている。既存の主要ルートを全面的に代替するものではないものの、カザフスタンの接続拠点としての役割を広げる動きだ。
6月には、欧州連合(EU)とカザフスタンがカスピ海横断輸送回廊の戦略的重要性を再確認した。日本も、アクタウ港税関への貨物検査機材整備を通じ、カスピ海ルートの円滑化を支援している。
今回のフォーラムで示されたのは、こうした接続性をデジタル経済へ広げる構想だった。モノや資源を運ぶ役割に、データが行き交い、計算基盤と専門知識が集まる役割を重ねようというものである。
米投資会社ジェネラル・アトランティックのウィリアム・フォード会長兼最高経営責任者(CEO)は、AIをパソコン、インターネット、モバイル技術、クラウドに続く大きな技術の波と位置づけた。そのうえで、AIは特に多額の資本とエネルギーを必要とすると指摘し、人材と安価な電力をカザフスタンの強みに挙げた。

その見方は、資源国としての蓄積を新たな産業へつなぐ道筋を示している。電力を生かして計算基盤への投資を呼び込み、その周辺で研究、ソフトウエア、サービスを育てるという道だ。
エキバストゥズの「データセンター・バレー」構想は、その展望を体現するものだ。10月2日の記者説明会で、ジャスラン・マディエフ副首相兼AI・デジタル開発相は、電力、通信、投資家支援、規制上の仕組みを組み合わせて誘致を進める方針を説明した。
提示資料では、最大1ギガワットの電力容量と、1キロワット時当たり2.5米セントの電力料金を掲げている。これらは構想上の規模と誘致条件を示す数字であり、施設の全面稼働を意味するものではない。
同相はまた、既存のスーパーコンピューターを大学、政府機関、銀行、IT企業が利用できると説明した。大規模な計算基盤の整備と、国内の研究・事業開発を結びつける取り組みである。利用条件の整備や、安定した電力供給、冷却・環境対策は、この基盤を持続的に発展させるうえで重要になる。


米エヌビディア(NVIDIA)のレブ・レバレディアン副社長は、製造、物流、農業、エネルギーなど、物理的な世界へのAIの応用を論じた。
カザフスタンには、こうした応用を支える産業の経験がある。鉱業、エネルギー施設、輸送網で働く人々は、複雑な設備や厳しい操業環境に精通している。その知見を技術開発に生かせれば、国内の技術者が産業の実情に即した製品を生み出す機会が広がる。
トカエフ大統領が提案した「AIチャレンジ」も、その方向を目指す。経済の実際の需要から課題を抽出し、国内外のチームに解決策を募り、効果を実証したプロジェクトを生産現場へ導入する構想だ。技術開発を、企業や産業が必要とする成果につなげようという試みである。
10月2日のパネル討論では、組織そのものを変える必要性も論じられた。カザフテレコムのバグダト・ムシン氏は、AIによって個人の作業が速くなっても、提案が長い承認手続きに阻まれれば、企業全体の生産性向上にはつながらないと指摘した。AIを業務改革の契機として捉える議論だった。
トカエフ大統領は、こうした転換を支える中心に人材を据えている。最近開学した「カザフAI研究大学(Qazaq AI Research University)」に、教育と産業の需要に応える研究を結びつける役割を期待し、医療、エネルギー、金融、行政などにAIを応用する「AI+X」の手法を強調した。
大統領が同時に訴えたのは、AIを使いこなす人間の能力の重要性だった。AIは人間の知的能力を代替するものではなく、学習と知識の獲得を助ける道具であり、技術が進むほど、批判的思考、判断力、責任感が重要になるという。
その人材育成を身近な学びから始める拠点が、球体の旧EXPO施設を活用した「Alem.AI」だ。マディエフ氏は、一般の人々がAIに触れる場から、子どもの学習、専門教育、起業、研究、産業への実装へとつなぐ仕組みを説明した。

提示資料によると、12~18歳を対象とする無料のTUMOプログラムには4500人が登録している。18歳以上を対象とするTomorrow Schoolでは、学生同士で学ぶ方式を採用し、無料で学習環境を提供している。登録者数は修了・就業実績とは異なるが、学びへの入口を広げる取り組みとして位置づけられる。

学びから仕事への接続を試みる別の取り組みが、ネットワーク・スクールだ。展示ブースの担当者はINPS Japanに、オンラインと対面の試験、面接、試用段階を通じ、カザフスタンのソフトウエア技術者を企業の仕事につなぐ仕組みを説明した。
担当者によれば、通常の学校教育よりも、起業家や技術者が住み、働き、交流する共同体としての性格が強い。国際的な仕事への接続と、共に活動する環境づくりを組み合わせる試みだ。
人材の定着を支える生活基盤にも目が向けられている。大臣説明会の資料は、住居、教育、医療、安全をその条件として挙げた。同日、市当局者らが紹介した学校、医療、スポーツ施設への投資も、急成長する首都の生活環境を整える動きである。技術産業の育成と、人々が暮らし続けられる都市づくりが並行して進められている。
国際協力では、トカエフ大統領が新たな構想を示した。
10月2日の第3回AI開発評議会で、トカエフ大統領は、米国の主要技術企業が署名した「Superintelligence Accord」を踏まえ、いわゆる「ワシントン・モデル」が、専門家による検討を経て、国連の下での国際条約の基礎となりうるとの考えを表明した。カザフスタンが実質的な国際対話の場となる用意を示し、評議会のメンバーに具体的な提案を求めた。
これは条約の成立を告げるものではなく、安全で責任あるAI開発を国際的な議論へつなげる提案である。大統領は、カザフスタンの構想を12月にマイアミで開催されるG20首脳会議で提示する方針も示した。
国内では、市民の安全や権利、重要な利益に関わる領域を厳格に扱いつつ、過度な規制によって人材や投資が国外へ流出することを避ける方針を掲げる。技術の発展と社会的責任を両立させる制度づくりを目指している。

カザフスタンの外交経験は、この国際協力構想を考える背景にもなる。INPS Japanは、同国の核軍縮への取り組みや「世界伝統宗教リーダー会議」を通じ、政治的・文化的な違いを越えて対話を維持しようとする努力を追ってきた。
AI分野の提案は、そうした対話外交との接点を探る新たな機会である。先端技術をめぐる競争が激しくなるなか、国際的な知識交換、共同研究、人材育成の経路を開いておこうとする姿勢が示されている。
トカエフ大統領は「人工知能が新たな分断線を生み出してはならない。技術的な障壁は国家間の格差を広げ、私たちの進歩を遅らせるだけだ。」と述べた。
10月1日夜、INPS Japanも参加したアスタナAI映画祭の非公開上映会は、この転換を文化の側面から映し出した。主催者によると、125カ国から寄せられた8067作品のうち、25作品が最終候補に選ばれた。受賞作は10月3日に発表される予定だ。

主催者の一人は記者団に、AIによって、より少ない資源でアイデアを映画にすることが容易になったと語った。創作、学習、起業の手段を広く行き渡らせるという期待は、フォーラム全体に通底している。
トカエフ大統領が掲げた最終的な目標も、技術の進歩を一人ひとりの国民の具体的な利益へと変えることだった。
アスタナで始まっている挑戦は、地理と資源によって築いてきた接続性を、知識と創造力へ広げる試みである。計算基盤を使う研究者、産業の課題を解く技術者、国際的な仕事に挑む若者、新しい表現を生み出す映画制作者。その活動が国内で育ち、互いにつながることによって、カザフスタンの「橋」としての役割は新たな意味を帯びようとしている。

This article is brought to you by INPS Japan in collaboration with Soka Gakkai International in consultative status with UN ECOSOC.

INPS Japan
関連記事:
まだ存在しない経済に備える―カザフスタンの挑戦に注目すべき理由













