SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)ウィーンからニューヨークへ―初のTPNW再検討会議を前に揺れる核秩序

ウィーンからニューヨークへ―初のTPNW再検討会議を前に揺れる核秩序

国際原子力機関(IAEA)第70回総会が示した保障措置と核セキュリティーの課題―焦点は初の核兵器禁止条約再検討会議へ

【ウィーンINPS Japan=浅霧勝浩】

国際的な核秩序が、新たな試練に直面している。ニューヨークで開かれた核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議が実質的な成果について合意できないまま閉幕してから4カ月足らず。各国政府はウィーンで保障措置や核セキュリティーをめぐる問題に向き合った。そして11月末には、核兵器禁止条約(TPNW)初の再検討会議がニューヨークで開かれる。

9月14日から18日まで開催されたIAEA第70回総会は、核をめぐる地政学的対立が、核不拡散を支える実務にも及んでいる現状を映し出した。

NPT再検討会議が実質的な結論や勧告について合意できなかったのは、2015年、2022年に続いて3回連続となる。アントニオ・グテーレス国連事務総長は結果に失望を表明する一方、NPTが世界の核軍縮・不拡散体制の礎であることを改めて強調した。

IAEAは核軍縮を交渉する機関ではない。原子力の平和利用を促進するとともに、核物質が核兵器などに転用されていないことを確認する保障措置を担う。

しかし今回、イラン、北朝鮮、ウクライナ、原子力潜水艦の推進をめぐる問題は、保障措置や核セキュリティーが、武力紛争やより広範な核秩序と切り離せなくなっている現実を示した。

検証を揺さぶるイラン問題

Map of Iran
Map of Iran

イランをめぐる焦点は、核計画をめぐる政治的対立だけではない。IAEAが独立した検証を継続し、その信頼性を維持できるかどうかである。

施設へのアクセスが制約され、高濃縮ウランを含む核物質をめぐる不確実性が続くなか、保障措置の実効性への懸念が強まっている。

さらに、イランの核施設への攻撃は別の問題を突きつけた。武力紛争下で、核施設とそれを取り巻く検証体制をどう守るのかという問題である。

戦時下の原子力安全を問うウクライナ

ウクライナでは、戦争によって主要な原子力施設が軍事作戦地域やその周辺に置かれ、とりわけザポリージャ原子力発電所が国際社会の懸念の中心となっている。

IAEAは原子力安全と核セキュリティー上のリスクを抑えるため、同原発に専門家を常駐させている。

Water is used to cool processes at the Zaporizhzhya Nuclear Power Plant in Ukraine. Credit: IAEA/Fredrik Dahl
Water is used to cool processes at the Zaporizhzhya Nuclear Power Plant in Ukraine. Credit: IAEA/Fredrik Dahl

ロシアとウクライナは、原子力施設を危険にさらす行為をめぐって互いを非難してきた。双方の主張には争いがあるが、より根本的なのは、大規模な原子力施設が長期の武力紛争にさらされた場合、既存の国際的な核管理体制をどう機能させるかという問題だ。

北朝鮮が示す検証の限界

Photo credit: journal-neo.org
Photo credit: journal-neo.org

IAEAは国外から朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核関連動向を監視し、政治状況が許せば検証活動を再開できるよう準備態勢を維持している。

北朝鮮のケースは、国際的な検証制度の限界を端的に示す。高度な監視能力を備えていても、最終的には現地へのアクセスと当事国の協力が不可欠だからだ。

今回の総会では、より広範なコンセンサス形成の難しさも表面化した。保障措置、原子力安全、核セキュリティー、原子力の平和利用など高度に技術的な分野を扱うIAEAも、地政学的対立の影響を免れていない。

一方、他の保障措置案件での進展は、アクセス、透明性、継続的な協力が確保されれば、多国間の検証制度が成果を生み出せることも示している。

NPTとTPNWをつなぐ市民社会

Hideto Matsuura, head of Nihon Hidankyo, addresses an event hosted at the sidelines of the 2026 NPT Review Conference. Credit Naureen Hossain/IPS
Hideto Matsuura, head of Nihon Hidankyo, addresses an event hosted at the sidelines of the 2026 NPT Review Conference. Credit Naureen Hossain/IPS

核軍縮をめぐる議論には、市民社会も深く関与している。

2026年のNPT再検討会議では、創価学会インタナショナル(SGI)が、核軍縮教育、核リスク低減、核兵器がもたらす人道上・環境上の影響を訴えた。4月30日にはSGIと核時代平和財団(Nuclear Age Peace Foundation)が、核兵器の人道的影響という視点から拡大核抑止を検討するサイドイベントを共催した。

日本被団協を代表して参加した被爆者の松浦秀人氏は、原爆投下から80年以上を経ても、放射線に起因する疾病が被爆者を苦しめている現実を訴えた。

そこで提起されたのは、核抑止をめぐる根源的な問題でもある。安全保障を国家の視点だけから捉えるのか、それとも「人間の安全保障」の視点を組み込むのか。

こうした市民社会の取り組みは、NPTプロセスと、TPNW成立を後押しした人道的アプローチを結ぶ接点となっている。

ウィーンからニューヨークへ

次の舞台はニューヨークである。11月30日から12月4日まで、TPNW締約国は国連本部で条約発効後初となる再検討会議を開催する。

United Nations Headquarters Photo:Katsuhiro Asagiri
United Nations Headquarters Photo:Katsuhiro Asagiri

NPT、IAEA、TPNWは競合する枠組みではない。NPTは核不拡散、核軍縮、原子力の平和利用という三本柱を掲げ、IAEAはその核不拡散を支える保障措置と検証の中核を担う。一方、TPNWは核兵器の開発、実験、生産、保有、使用、使用の威嚇などを禁止し、その廃絶を目指す法的枠組みである。

IAEA
IAEA

2026年のNPT再検討会議が示したのは、核軍縮と核不拡散をめぐる政治的合意形成の難しさだった。ウィーンでは、武力紛争や地域的な核拡散問題、地政学的対立のなかで、検証と核セキュリティーが直面する現実的な問題が前面に出た。

初のTPNW再検討会議では、こうした状況のもとで核兵器禁止条約が核軍縮に何をもたらし得るのかが問われる。

核兵器国はいずれもTPNWに参加しておらず、条約だけで実現できることには明確な限界がある。その一方で、締約国と市民社会は、核兵器の人道上の影響とその廃絶を国際的な議論の中心に据えてきた。

11月30日に各国代表がニューヨークに集うとき、焦点は一つの条約の履行状況だけではない。

NPT再検討会議が再び実質的なコンセンサスを形成できなかった今、既存の枠組みと新たな枠組みがどう補完し合い、核リスクを低減し、検証を強化し、核軍縮を前進させられるのか。

ウィーンからニューヨークへ―それが2026年の核外交に残された重要な問いである。

This article is brought to you by INPS Japan in collaboration with Soka Gakkai International in consultative status with UN ECOSOC.

Toward a Nuclear Free World
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INPS Japan

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