SDGsGoal13(気候変動に具体的な対策を)インド、世界初の微小粒子状物質(PM)排出取引市場を先導

インド、世界初の微小粒子状物質(PM)排出取引市場を先導

【ニューデリーSciDev.Net=ランジット・デブラジ】

インドで試験的に導入された、人体に有害な微小粒子状物質(PM)排出の取引市場が、産業由来の大気汚染を削減し、コスト低減にもつながったことが明らかになった。研究者らは、この仕組みを他の低・中所得国にも拡大することを目指している。

「キャップ・アンド・トレード(総量規制と排出権取引)」方式と呼ばれるこの制度の成果は、経済学専門誌『The Quarterly Journal of Economics』2024年5月号に発表された。論文では、PM2.5(粒径2.5マイクロメートル以下の粒子で肺にまで達する)の排出を、インド西部の石炭火力発電所約300カ所以上でリアルタイムに追跡しながら運用した結果が報告されている。

研究共著者であり、イェール大学経済成長センターのローニー・パンデ教授によると、この制度が導入されたインドの産業都市スーラトでは、PM排出量が20~30%削減され、参加事業所はすべて環境基準を満たした。

対象となった318の発電所のうち、62カ所が無作為に選ばれ、総量規制の対象とされた。それぞれの事業所には、排出可能な微粒子の上限が割り当てられ、上限を下回った場合は、排出超過した他の事業所に排出枠を売ることができる。これにより、排出削減に経済的なインセンティブが生まれる仕組みだ。

一方、残りの発電所は従来の罰則型規制(罰金など)に基づいて運用される対照群となった。

キャップ・アンド・トレード制度は、排出全体に上限を設けたうえで、事業者同士が排出枠を売買できる市場を構築する。一方でカーボンオフセット制度は、排出削減プロジェクトへの投資を通じて自らの排出を相殺するものであり、通常は自主的な取り組みとして実施される。キャップ・アンド・トレードは政府の規制の下に運用される点で異なる。

この研究によれば、スーラトの排出取引制度に参加した発電所では、従来の罰則型規制と比べて排出削減コストが11%低下した。また、真の経済的恩恵は、大気汚染の減少による死亡率改善という形でも現れている。

汚染の影響、設備投資、死亡回避による社会的利益などを考慮した費用対効果分析では、この市場制度のコストパフォーマンスは、従来方式に比べて少なくとも25倍に達することが示された。

PM2.5による汚染はインドにおける深刻な公衆衛生問題である。スイスの大気質調査機関IQ Airが2024年3月に発表した報告によれば、PM2.5による世界で最も汚染された都市20のうち11都市がインドに存在する。

今回のグジャラート州の制度は、世界で初めてPM排出を対象とした排出取引市場であり、インドとしてもあらゆる汚染物質を対象とした初の市場制度である。同制度は、グジャラート州汚染管理委員会がシカゴ大学エネルギー政策研究所(EPIC)と共同でパイロット開発した。委員会は、一定の期間内に地域全体で許容されるPM排出量の上限を設定した。

「この研究は、政府の行政能力が限定的な状況においても、遵守型市場制度が実行可能であり、従来型の規制手法より優れる可能性があることを示しました」とパンデ氏は語る。

デリーのエネルギー・環境・水協議会(CEEW)のカールティク・ガネーサン上級研究員は、この研究の理論的根拠は有効であるとしながらも、「制度の効果が実感できるようになるには、職員の広範な研修と投資が必要」だと述べた。「この制度がインド全体で効果を示すまでには数年かかる可能性があります」とも付け加えた。

グジャラート州政府は現在、同様のPM排出取引制度を州内の別の工業都市アーメダバードに導入しており、隣接するマハーラーシュトラ州では二酸化硫黄(SO₂)を対象とした排出取引市場の開発が進められている。

本研究の共著者であるシカゴ大学のマイケル・グリーンストーン経済学教授は、「スーラトでの成功により、経済成長と環境の質のバランスを目指す他国政府からの関心が高まっている」と話す。

「現在、インド国内の他州や海外の政府とも連携し、こうした汚染取引市場のスケールアップに取り組んでいます」

一方、インド政府は、全国カーボン市場(Indian Carbon Market)に向けたオフセットメカニズムの整備を進めており、再生可能エネルギー、グリーン水素、産業エネルギー効率、埋立地のメタン回収、マングローブ植林といった分野を、カーボンクレジット創出の対象として特定している。

また、インド環境省は、アルミニウム製錬やセメント製造などの高汚染産業に対し、温室効果ガス排出原単位目標の達成を促すため、炭素クレジット取引制度の導入にも着手している。(原文へ

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