SDGsGoal1(貧困をなくそう)|タイ|持続可能な生活を始める民衆を支える仏僧

|タイ|持続可能な生活を始める民衆を支える仏僧

【シサケット(タイ)IDN=パッタマ・ビライラート】

新型コロナウィルス感染症対策としてのロックダウンが続く中、首都バンコクや、パタヤ・プーケット・チェンマイ・サムートプラカーンのような他の主要都市に住んでいた多くの労働者たちが、雪崩を打って故郷に帰り始めた。彼らは、自らの生計を立て、長期的に持続可能な生活を送る方法を合理化する道を探ることを余儀なくされている。

タイでは、一日の始まりの功徳として、普通の人々が僧侶たちに朝からお布施をするのが習わしである。しかし、コロナ禍の中で功徳における自らの役割を反転させる僧侶たちが出てきている。

Map of Thailand
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ワットバンタコイナンでは、国際仏教研究大学(IBSC)のディレクターであるハンサ・ダーマハソ師が、時代を超えた仏陀の教えを、「平和の村」(コクノンナ)におけるコミュニティー開発事業で実践している。

ハンサ師はIDNの取材に対して、「平和の村は、身体・社会・精神・知性の発展に関する仏陀の4つの教えに由来します。私はこれらを、現在進行形の諸問題に取組むための戦略に活用しています。」と指摘したうえで、「村の第一の問題は貧困であり、(それに対処するために)持続可能な仕事を作らなくてはなりません。人々が貧しいままでは、村を平和にすることなどできません。そこで、私はラーマ9世の『足るを知る経済』の概念を、コクノンナ・モデルを発展させるために適用しています。」と語った。

故プミポン国王(ラーマ9世)は、タイが1997年にアジア金融危機に直面した際に「足るを知る経済」の概念を導入した。中庸(節度)、道理(妥当性)、自己免疫(ショックへの備え)という3つの柱で構成される経済モデルで、いずれも仏教哲学を基礎としている。国王の公的な哲学によると、自己免疫には、物質的環境の変化に対する免疫、社会変化に対する免疫、環境変化に対する免疫、文化の変化に対する免疫の4つの領域があり、皆がその達成に努力すべきとしている。

ハンサ師は、仏陀のこれらの教えを村に応用することについて、環境が重要だと説明した。「かつてはこの土地は多くの問題を抱えていました。そこで私は5つのパンチャシラ(原則)、とりわけ2つめの原則『盗むな、騙すな』に従うように諭したところ、うまくいくようになりました。また、村人たちの福祉が重要になります。なぜなら村の老人たちは多くの健康問題を抱えているからです。そこでバンコクから医学生を連れてきて、自分たちで養生する方法を訓練させたのです。また、コロナ禍に伴うロックダウンが厳しい時には、シサケット県やそれに隣接した県から戻ってきた人々に対して、故郷の村にうまく順応できるように面倒を見ました。」とハンサ師は嬉しそうに語った。

タイ銀行は、新型コロナ感染拡大の第一波(2020年2月~4月)以来、200万人の労働者が都市部に出入りしたとしている。2020年の後半には、1カ月あたり20万人の労働者が移動した。そのほとんどが21~60歳(80%)であり、半分以上が低所得層だった。

解雇された労働者たちは、バンコクや、その周辺にあるプーケットやチェンマイのような主要な観光都市から出て行った。労働者たちは大都市での生活コストを負担することができず、故郷に帰ることを決断したのだ。

シサケット県バンタコイナン出身の移住労働者であるバウチャイさんもこのような目に遭っている。コロナ禍以前、彼女はバンコク近郊に住み、30年以上、裁縫師として働いていた。「2020年2月の第一波の時、感染者が増えていって、4月にはさらに状況が悪化し、シサケット県に戻る計画を立て始めました。そして年末までには故郷のバンタコイナンに移り住みました。」とバウチャイさんはIDNの取材に対して語った。

感染第一波から第二波(2020年2月~21年1月)にかけては、患者に対処する病床数は十分にあった。しかし21年4月から6月にかけての第三波では、地方や都市部の病院でかろうじてコロナ患者に直接医療や看護を提供できる状態であった。

資料:www.hec.edu/en
資料:www.hec.edu/en

しかし、21年7月末から8月半ばにかけて、患者数は継続して1日あたり1万5000人から2万2000人という高いレベルにあった。「コロナ対応管理センター」(CCSA)によれば、バンコクや、サムートサコン、チョンブリ、サムートプラカーンのような主要な経済都市で過去最多のクラスターが発生したという。患者数が爆発的に増えた際、病床不足がバンコクなどの主要都市で起きた。患者は治療と隔離のために故郷に戻ることを余儀なくされた。

「シサケット県のバンタコイナンでは、2021年7月半ばから8月にかけて、県外に出ていた若者達が村に帰って来ることを希望するようになり、私は、森の寺院で自己隔離するよう求めました。また、病院の院長と一緒に現地に仮設病院を立ちあげました。最初の病院では35人、次の病院では100人を受け入れることができました。」とハンサ師は説明した。

「私の活動を知っているサムートサコンやアユタヤ、サムートプラカーンなどの県の人たちから、この村で自己隔離し治療を受けることは可能かという問い合わせがありました。もちろん受け入れることとし、迎えの車を出したこともあります。こうしてこれまで1400人近くを救済することができました。」

ハンサ師は、仮設病院を作る以外に、村人や感染者と、村当局や医療関係者をつなぐ役割も果たした。治療がどこで可能か、隔離のルールは何かといったことについて、フェイスブックを使って関連当局と連絡を取っている。

治療と隔離だけがハンサ師の貢献した領域ではない。「さらに、彼らに2カ月にわたって食料や水を与え、コクノンナで農業を教えて、有機野菜を育て自分で生活できるようにさせることで、長期的に彼らは持続可能な生活を送ることができるのです。」治療と隔離の時期が終わっても、コクノンナの農業は今でも続いている。

バンコクで働いていて将来的に帰還を考えている村人の子どもたちは、コクノンナで農業を学ぶことに関心を示している。ハンサ師は、フェイスブックやラインを使って、村人の子らを励まし続けている。今月から、その一部が村に戻り、長期的に持続可能な生活を送ることを学び始める。コロナ禍は彼らに仏教の根本的な考え方である生命の無常について教えたからだ。自己免疫の哲学はコロナ禍がもたらすショックへの備えとなる。

タコイナン村の元村長であるマリニーさんは、ハンサ師が始めたいくつかの活動に加わっている。「尊師の活動によって、村人や地区当局と深く関わり協力が得られるようになりました。ハンサ師は『足るを知る経済』の原則を適用することによって、村の問題の根本的な原因に対処してきました。コクノンナでは、支出が減る一方で世帯収入は増えました。師の『平和の公園』には毎日夕方5、6時になると瞑想のために村人達が集まり、彼らはそこで、調和をもって暮らしていくことを学んでいます。」とマリニーサンはIDNの取材に対して語った。

タイの地域開発財団によれば、故郷にUターン移住する人々がいたとしても、天然資源や農作物に頼れるため、食料不足が地域で起こることはめったにない、という。しかし、タイ農家の76%が非農業収入に依存している。都市の労働者がコロナ禍によって農村部に移動することになると、タイ経済とライフスタイルの根本である農業部門に変化がもたらされることになるかもしれない。

ハンサ師が実行しているコクノンナでの取り組みには、都市部から移住した労働者と村人たちが物理的なニーズを満たしつつ持続可能な生活を送れるようにするという目標と、仏教の教えであるダルマで心を満たすという目標の2つの基礎がある。彼のモデルは、持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために精神的な教えを実践的に応用するものだ。

ハンサ師は、「ダルマが存在するのは田野であり、それ以外にどこにも存在しません。農業をやろうと決意すれば、ダルマはどこにでも現れ学びを提供してくれます。こうして私たちは自分たちの体が土や水、火、風の要素で成り立っていることを知るようになるのです。」「農業をしながら、(持続可能な)生活のために土地を維持する方法を探るなど、自分たちのやっていることに配慮し、集中しなくてはなりません。大変かもしれないが、忍耐が必要です。」と語った。

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英語を流暢なに操り、タイで著名な仏教学者でもあるこのエネルギッシュな僧は、村の農民たちはダルマの用語をよく知らないかもしれないことを認識している。「ダルマ(自然の法則)は(どこにでも)存在し、そこには忍従・配慮・英知・集中・努力といった(実践)が含まれています。」とハンサ・ダーマハソ師は語った。(原文へ

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This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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