【メキシコシティINPS Japan=ギレルモ・アヤラ・アラニス】
人口約1億3,000万人を擁するメキシコは、世界で10番目に人口の多い国である。その首都であるメキシコシティには2,200万人以上が暮らしており、1日に1万2,000トンを超える廃棄物が発生している。そのうち10%がプラスチックである。環境意識の高まりとともに、大学は市民への教育や、廃棄物の適切な分類・回収を担う重要な拠点となりつつある。

プラスチックと向き合う課題
プラスチック製品は、その耐久性、軽さ、強度、そして低コストゆえに、現代社会に深く浸透している。しかしその一方で、その普及は深刻な環境リスクをもたらしている。国連環境計画(UNEP)の最新調査によれば、世界では2024年に約4億トンのプラスチックごみが発生し、その多くが使い捨て製品によるものだという。
メキシコシティでこの課題に取り組むには、政策立案者や産業界だけでなく、市民全体の参加が求められている。大学は、それらのセクターをつなぐ理想的なプラットフォームとなり、行動変容を促す推進力となっている。
大学発のリサイクル運動
過去6年間、メキシコ国立自治大学(UNAM)は民間企業と連携し、「プラスティアンギス(Plastianguis)」という年次イベントを開催してきた。この取り組みでは、プラスチックごみを持参した人々に、米や豆、石けん、洗剤、ペットフードなどの生活必需品と交換する機会が提供される。

2025年版のプラスティアンギスは、UNAMの化学部で開催され、子どもから学生、大人まで多くの人々が参加した。参加者のアレハンドラ・ロペスさんはこう語った。
「私は景品のために来ているんじゃないんです。ナプキンやトイレットペーパーがもらえるけど、それが目的じゃない。地球を助けたいから来ているんです。それが本当に大事なこと。」
2025年のプラスティアンギスでは、前年より500キロ多い7,675キログラムのプラスチックごみが回収された。
もう一人の参加者であるヒメナさんは、自身のリサイクルへの関心が周囲に影響を与えたと話す。
「6週間同じグループで過ごしたんですが、みんながリサイクルコーナーを作り始めたんです。自発的に行動してくれる姿を見て、本当に嬉しかったです。」
若者が主導する「ConCiencia 2030」
UNAM化学部の学生ダニエラさんは、環境意識と持続可能性をテーマにした若者主導の取り組み「ConCiencia 2030」の一員である。この活動は、持続可能な開発目標(SDGs)の目標4(質の高い教育)と目標11(持続可能な都市と地域社会)に基づいており、若者から若者へ、楽しみながら環境への配慮を広めることを目的としている。

「“なんでそんなことやってるの?”ってよく聞かれるんですけど、私は“なんでやらないの?”って答えてます。
実際、私たちがどれだけごみを出してるか、あまり気づいていないんですよね。ピザの箱が段ボールに出せない理由を何度も何度も説明してきたんですけど、ある日誰かが“あ、それって他のごみだよね”って言ってくれて……その瞬間、“ああ、やってきてよかったな”って心から思いました。」
ダニエラさんは4年間ConCienciaに参加しており、自分の知識を生かして他者に影響を与えられることが、活動の大きなやりがいだと語る。
産業・大学・循環型経済の連携
メキシコ化学産業の発展と責任に関するプラスチック産業委員会の会長であるミゲル・アンヘル・デルガド氏は、プラスチックごみの管理には、社会・産業・政府の3者による連携が不可欠だと語った。
「ごみを出すのは社会、製品をつくるのは産業、そして回収を行うのが政府。大学は、これら3つの要素をつなぐ役割を果たします。アカデミアは、化学やプラスチック産業から得られる恩恵と、そのごみをどう再統合して循環型経済に戻すかを、社会に理解させる重要な存在です。」
ごみからファッションへ
リサイクルはごみ回収だけにとどまらない。ケレタロ市の若者たちは、約12本の使用済みPETボトルから作られたTシャツを発表した。プラスチックをポリエステル繊維に再加工することで、環境に優しく、しかも耐久性と品質の高い製品が実現した。
この製品開発に関わったインドラマ・ベンチャーズ社のオスカー・ゴンザレス氏は次のように語る。
「新品と同じ品質で、通気性もよく、丈夫で長持ちします。実際、ナイキやアディダスといった有名ブランドもすでにリサイクル繊維を使った製品を展開しています。」
国立工科大学(IPN)と「レシクラトン」
メキシコのもう一つの名門大学、国立工科大学(IPN)は、環境保全の取り組みにも積極的だ。メキシコシティ政府と連携し、家電や電池、電子ごみの回収を目的とした「レシクラトン(Reciclatón)」を開催している。

直近では、IPNの社会・経営科学系学際工学ユニット(UPIICSA)が、6月27〜28日に回収拠点となり、合計7.1トンの電子・電気機器廃棄物が集められた。
特に注目を集めたのは、再生可能技術の開発を手がける企業「レヌエバ」が運営するバス型の「インタラクティブ・リサイクル・ミュージアム」だった。来場者は、実際のリサイクル工場で行われる工程を楽しく学ぶことができた。
レヌエバの環境教育部門コーディネーター、イツミエツィル・カスティージョ氏は次のように強調した。
「本当に重要なのは、リサイクルそのものではなく、私たちの“消費”なんです。リサイクルは役立ちますが、それ以上に重要なのはプラスチック使用を減らすこと。それが環境にとって最大のインパクトになります。」
広がる視野
リサイクルされなかったプラスチック容器は、分解に最大500年かかるとされている。世界では年間4億トンのプラスチックが使用され、そのうち40%は一度きりの使用で廃棄されている。

教育、地域社会の関与、若者のリーダーシップの力を活かすことで、メキシコの大学は環境変革の推進力としての新たな役割を果たし始めている。(原文へ)
This article is brought to you by INPS Japan in collaboration with Soka Gakkai International in consultative status with UN ECOSOC.
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