【国連IPS=ノラ・ハッペル】
今年9月に国連総会で採択予定の野心的な「ポスト2015年開発アジェンダ」が果たして実行可能なものになるかどうかは、大部分が資金調達いかんにかかっている。
エチオピアのアジスアベバで開催された「第3回開発資金国際会議」(7月13日~16日)に向けた国際協議においても、旧来の政府開発援助(ODA)を補完し、世界の成長が鈍化し大半のドナー国が予算上の制約を感じている時代に資金調達の欠落を埋める安定的で予測可能な手段だと見なされている「革新的な資金調達メカニズム」が議論の中心になってきた。
ミレニアム開発目標(MDGs)採択という文脈の中で21世紀初めに考え出されたこの概念の背景にある理念は、バランスの崩れを取り戻し、極度な貧困の根絶や教育・グローバルヘルスの推進といった最も緊急を要する開発上のニーズに対する資金を提供するために、「目に見えない」形で相当の収入をあげるところにある。そのメカニズムには、政府による徴税から官民パートナーシップといったものまで、幅広い内容が含まれる。
革新的資金調達の著名な事例に、グローバルヘルスに関する取り組みであるUNITAID(ユニットエイド)がある。主たる資金的裏付けは、航空券連帯税である。集められた資金は、マラリアやHIV/AIDS、結核と闘うためのグローバルな対応策のために使われている。
なかでも最近の事例が、金融取引税(FTT)であろう。諸政府はこれを、金融投機を抑制するツールであると同時に、開発のための金融に利用し得る相当の収入をあげるメカニズムであるとみている。現在、欧州連合(EU)の11の有志国家で金融取引税を適用するという計画が進行中であり、これが革新的金融の次のステップとなるかもしれない。
元フランス外相で国連事務次官(開発のための革新的金融担当)、ユニットエイドの議長・創設者のフィリップ・ドゥスト=ブラジ氏が「第3回開発資金国際会議」の開催と今年後半の「持続可能な開発目標(SDGs)」採択を控えてIPSによるインタビューに応じ、金融取引税と革新的資金調達メカニズムに対する見解を披歴した。
Q:「ポスト2015年開発アジェンダ」に関する協議という文脈において、革新的資金調達はどのような役割を果たすでしょうか?
A:2015年は、世界の未来にとって極めて重要な3つの国際会議が開催されるという意味で歴史的な年です。1つ目はアジスアベバで開催される「第3回開発資金国際会議」、2つ目は「持続可能な開発目標(SDGs)」が発表される9月の国連総会、3つ目はパリで開催される「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議」(COP21)です。
この3つの国際会議では、シナリオは同じようなものになるでしょう。すなわち、素晴らしい政治的合意がなされるが、その裏付けとなる金融的手段に欠く、という状態です。この点に関して私は警告したいのです! 世界には史上かつてないほどお金が溢れているにもかかわらず貧富の差が継続的に拡大している現在において、もし革新的資金調達の道を見つけることができないならば、21世紀はひどい暴力に終わることになるでしょう。
Q:開発のための金融には相当な金融資源が必要となります。金融取引税は、他の革新的な資金調達手段と比較して、必要な資金を確保するのに適切なツールだと言えるでしょうか?
A:金融は、今日もっとも税金から逃れている経済部門の一つです。金融部門が2008年の経済危機で国際開発に及ぼした甚大な悪影響について知れば、非常に驚かれることでしょう。金融取引に対して取るに足らない割合の税を課すことで、世界中で数千億ドルを確保し、結果として、極度な貧困や感染症、気候変動との闘いにおいて決定的な役割を持つことができるのです。
現在私たちは、完全にグローバル化された世界に生きており、こうした脅威は世界のあらゆる市民の頭上に降りかかってきます。これに対抗するには、グローバル化された活動や交流を通じて、国際連帯に貢献すべきなのです。実はこれこそが、私がフランスのジャック・シラク大統領とブラジルのルイス・イグナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領とともに航空券連帯税を始めた際に念頭にあった思いなのです。
人々はますます旅行をするようになっていますから、航空券の価格にほんのわずかの税を課すことによって、世界中で救命治療をより多くの人々に施す機会が与えられることになります。金融取引税も同じような論理です。財政的なニーズは膨大であり、お金のあるところからそれを取ってくる必要があります。革新的資金調達手段は、競合関係にあるものではなく、むしろ相補的なものとみなされるべきです。
Q:ユニットエイドは、HIV/AIDSや結核、マラリアに対処するために世界的な連帯税という方式を使って集められた資金を投資しています。これらの疾病対応において、ユニットエイドはどのような成果を上げてきましたか?
A:第一に、ユニットエイドの投資は、[医薬品の]価格を年1500ドルから500ドルに引き下げることによって、2007年に主要な効果的HIV治療のための市場を創出しました。
第二に、ユニットエイドは、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバル・ファンド)と国際連合児童基金(ユニセフ)への支援を通じて、4億3700万ドル以上に相当する最高水準のマラリア治療を提供することに貢献し、2000年以降でマラリアによる死者数を世界で47%削減するうえで重要な役割を果たしました。
第三に、結核菌を検出するための重要な新型テストカートリッジの価格を4割下げる交渉を、米国際開発庁(USAID)や「ビル&メリンダ・ゲーツ財団」とともに、145か国を相手に行いました。これによって、世界全体で、2年間で7000万ドルの節約につながり、医薬品への耐性をもつ結核事例の把握率が年間で3割向上しました。
Q:UNITLIFEという新プロジェクトについて説明していただけますか? それはどういうもので、準備はどれくらい進んでいるのでしょうか?
A:私たちは、8億7000万人の人々が栄養不良に苦しみ、アフリカ大陸のほぼ3割の子どもたちが慢性的な栄養不良で学校の授業についていけなかったり成長が遅くなったりするという、恥ずべき世界の現実と闘わねばならないのです。
さまざまな世代を破壊し、社会を不安定化させ、諸国、とりわけアフリカの国々を激しく痛めつけてきた災難に直面した私たちには、効果と連帯を統合したような対応を想像する義務があるのです。それが、UNITLIFE(ユニットライフ)を始めようと思った理由です。
ユニットライフは、単純な原則に依っています。すなわち、連帯のグローバル化が経済のグローバル化に見合うような形で、アフリカの資源を引き出すことで得られた巨万の富のごく一部を、栄養不良問題に対処するために使おうということです。これまでに、アフリカ6か国の元首がこの原理を受け入れています。ユニットエイドが世界保健機関(WHO)によって主催されているのと同じように、ユニットライフはユニセフによって主催されています。
Q:欧州11か国で今後実施されることになる金融取引税が有益であり効果的であるためには、どのようなものである必要があるでしょうか? たとえば、フランスやイタリアの金融取引税をどのように評価されますか?
A:フランス、イタリアの金融取引税については、あまり評価できませんね。金融規制の面でも歳入の面でも、所期の成果を上げていません。両国政府は自国の金融部門を守ろうとしているだけのように思えます。
もっとも投機的な取引には課税しないという免除が課されているのです。デリバティブやマーケット・メーカー、日中取引、高頻度取引は、もっとも危険なものであるにもかかわらず、この2つのモデルでは課税対象とされていません。
さらに言えば、これらの手法に対して課税することで、金融取引税はもっとも多くの資源を得ることができるのです。同じ理由で、外国株に適用されない欧州の金融取引税も、きわめて意義に欠けるものとなるでしょう。11か国の政治指導者は、金融部門からの反応を恐れるのではなく、やる気を見せて、適用対象が広く抜け道を許さない強力な金融取引税のしくみを設計すべきです。
Q:徴税されたものの特定の割合を確実に開発問題に振り向けるにはどうしたらいいでしょうか?
A:すでに、フランスの金融取引税の17%が気候問題と感染症対策に配分されています。フランソワ・オランド大統領は、欧州金融取引税の一部も同じ目的に配分すると述べています。もう少し割合を大きくすることを望みたいものです。
(スペインの)マリアーノ・ラホイ・ブレイ首相もまた、国際連帯に歳入の一部を配分すると約束していますが、それがこれまでに出された唯一の宣言です。11か国の元首が協働で国際連帯に資金を配分してくれることを望みます。「グローバル・ファンド」や世界保健機関、「グリーン気候基金」といった多国間基金に金融取引税の歳入を使うことで、徴収されたお金を確実に開発に使うことができます。
そして、いまや「世界最大の墓場」とでも言った方がよい地中海を数多くの移民が渡ろうとしている状況の中、貧困国から富裕国への大量移民を防ぐ唯一の解決策は、いわゆる「グローバル公共財」(食料、飲料水、基本的医薬品、教育、衛生)をすべての人間に提供することにあると強調しておきます。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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