【ルンドIDN=ジョナサン・パワー】
2017年、国際刑事裁判所(ICC)の検察官事務所は、拷問や 強姦を行ったとされる戦争犯罪の容疑者として、現場の米軍兵士や 秘密刑務所の米中央情報局(CIA)工作員を初めて名指しした報告書を発表した。米兵はICC加盟国であるアフガニスタンに駐留していたため、ICCは理論上アフガニスタン国内の戦闘員による犯罪に対して幅広い管轄権を有している。
これに対する米政府の反応は迅速かつ怒りに満ちたものだった。米国は米軍に対する調査を打ち切るようICCに圧力をかけた。そこでICCは、欧州各地のCIA秘密施設で行われていた拷問を起訴することに目を向けた。しかし、米上院情報特別委員会が、CIAの「拘束・尋問プログラム」に関する報告書サマリーを公開し、国際法に明らかに違反する拷問の数々が明らかにされたにもかかわらず、ICCは何も得られなかった。バラク・オバマ大統領は、大統領就任早々、このような意見が分かれる問題に対処する必要がないとの理由で、訴追を開始することを拒否した。
ウクライナの残虐事件が起こるまで、米国のあらゆる党派がICCに強く反対していた。彼らは、既に124カ国がICCに加盟しており、米国に最も近い欧州の同盟諸国がICCの大きな支持者であることを見落としていたようだ。実際、英国は、イラクでの殺人、拷問、強姦の罪で多くの英国兵が起訴されたとき、当初はICCに協力的だった。
英国は、原則的には、ICCがその使命を遂行しなければならないことを認識しているが、実際には、ICCのイラクやアフガニスタンでの取り組みに対して消極的で、捜査を行き詰らせようとした。最終的には、英国は自国領土で犯罪の疑いを誠実に調査し起訴する意思があるとして、ICCを説得し調査を打ち切らせた。しかし、有罪判決が下されたのは1件のみで、殺人罪で有罪判決を受けた兵士は、僅か3年しか服役しなかった。
ICCへの嫌悪を公言していたジョージ・W・ブッシュ大統領は、この裁判所に協力するものは米国から重い罰則を受けると各国を脅した。しかし、ブッシュ大統領はその後大きく方針を転換している。私は英語圏のジャーナリストとして初めて、2期目のブッシュ政権が、ダルフール、スーダン、コンゴでの大量虐殺の指導者や、かつてリベリアを支配した独裁者チャールズ・テイラーの捜索のために、密かにICCを支援していた事実を明らかにした。
バラク・オバマ大統領は、寄付を含めICCへの支援をさらに強化した。私の知る限り、オバマ大統領はアフガニスタンでのICCの活動に対して公然と不満を表明することはなかった。しかし、実際に米兵が起訴されても黙っていたかというと、それには議論の余地がある。一方、ドナルド・トランプ大統領は、「もしICCが米国人を訴追するならば、米国はICCの判事や検察官の米国への入国を禁止し、経済的制裁を課すだろう。」と述べ、ICCに対する怒りと憤りを露にした。
トランプ政権のジョン・ボルトン補佐官(国家安全保障問題担当)は、ICCは米国を束縛したい国々に支持された「責任を負わない」「明らかに危険な組織だ」とまで言い切った。そして、米国は米国人を対象としたICCの調査を支援するいかなる企業や国家に対して行動を起こし、ICCの判事や検察官を起訴すると述べた。
ボルトン補佐官はまた、ICCが調査に15億ドルという巨額の資金を浪費していると非難した。ニューヨーク・タイムズ紙は、「ボルトン補佐官が、『このようなひどい実績では、(ICCは)独裁者らに対する抑止力にはなりえない。歴史上の残忍な独裁者らは、国際法という幻想に惑わされることはない…。悪や残虐行為に対する唯一の抑止力は、かつてフランクリン・ルーズベルト大統領が米国とその同盟国の『正義の力』と呼んだものであることは、歴史が証明している、と語った。」と報じた。
(米軍が軍事介入した)韓国、ベトナム、カンボジア、ドミニカ共和国、グラナダ、ニカラグア、エルサルバドル、グアテマラ、そしてアフガニスタン、イラクにどんな「正義の力」があったのだろうか。
ボルトン補佐官はさらに、驚くべき発言をした。つまり、「もしICCが米国やイスラエルなどの捜査に乗り出せば、米国は『黙ってはいないだろう。』「非合法な裁判所」から自国民を守るために政権は行動する。」と述べた。
今、米国は再び方針を大きく転換しようとしているように見える。議会の共和党幹部は、ICCを改めて検討し、プーチン大統領を含むロシアの戦争指導者らを戦争犯罪で逮捕させるのに、これ以上の組織はないと結論付けている。より多くの資金支援や司法支援、そして情報機関の分析結果をICCに伝えることが、今まさに行われようとしている。民主党の議員の多くも、ホワイトハウスと同じような考えを持っている。
しかし、米国がICCへの加盟を求めない限り、できることは限られている。しかしそうすれば、将来、自国の軍や諜報機関のメンバーが訴追される可能性がある。そのため国防総省はICC加盟に反対であることを明らかにしている。現在ホワイトハウスはこの問題を熟考しているようだ。ジョー・バイデン大統領がもしそのような一歩を踏み出せば、人権にとって素晴らしい日になるだろう。ウクライナ戦争が続いている現在の状況では、議会はバイデン大統領を支持するかもしれない。
何が起ころうとも、それは転換点である。もし米国のICCへの加盟が実現すれば、米国がある日突然、再び方針を大転換してICCを誹謗中傷し、弱体化させることができるかどうかは極めて疑問である。米国は、ICCと折り合いをつけなければならないのだ。ウクライナでのロシアの戦争犯罪を追及する米国の姿勢が大いに偽善的なものであることは、多くの人々が正しくも主張するだろうが、加盟が実現すれば、それは進歩である。(原文へ)
INPS Japan
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