ニュース視点・論点核軍縮に向けた統合的アプローチの必要性(ジャヤンタ・ダナパラ)

核軍縮に向けた統合的アプローチの必要性(ジャヤンタ・ダナパラ)

【IPSコラム=ジャヤンタ・ダナパラ】

核兵器に関する唯一の実行可能な規範的アプローチは、厳格な検証措置の下でそれらを完全かつ普遍的に廃絶することである。これは、漸進的なステップではなく、国連事務総長も推奨している核兵器禁止条約(NWC)の交渉によってのみ、成しうることである。

今日、核軍縮と核不拡散とを破局状態から救う希望があると私は思っているが、それにはいくつかの根拠がある。

米国のオバマ大統領とロシアのメドベージェフ大統領は、「核兵器なき世界」の達成を目指すと繰り返し表明している。我々は、拡散から脱却する新たな時代へ向かいつつあるのかもしれない。それは、核兵器の拡散と、その永続、さらなる改善からの転換である。

 核兵器の「拡散」という概念には2つの次元がある。水平的拡散(他の国への拡散)と垂直的拡散(既存核兵器の改善)である。核兵器保有国―それは北大西洋条約機構(NATO)諸国と「核の傘」に依存する国々に支えられてもいる―は、長い間、水平的拡散の防止と垂直的拡散の推進を同時に行ってきた。

つまりはこういうことだ。「核兵器保有国は、新たな核兵器保有国の出現の可能性(現実であれ想像上のものであれ)に対して、警告を発する。そして、それを防ぐために、(イラクへの違法な侵略のようなことが)必死に追求され、それが水平的拡散に対するさらなる制限を必要とする。」という関係なのである。

しかし、こうして作られた外国の脅威は、二重の意味で使われる。つまり、核兵器保有国にとっては、自国の核戦力を改善(=「近代化」)し、核軍縮を無限に先送りすることを正当化する根拠になる。

イスラエルの未申告の核兵器能力―それは核兵器保有国の一部が支えてもいる―をめぐっては共謀して沈黙が保たれている。核兵器保有国が持ち出すこうした選択的なストーリーによって、事態はより不透明化することになる。さらに、「良い」拡散国と「悪い」拡散国という恣意的な区別も導入されている。そして、それなしには核不拡散条約(NPT)の無期限延長はなかったであろうと言われている、1995年の中東に関する決議は、無視されている。

こうして、長きに渡ってNPT入りを拒んでいるが「良い」拡散国だとされているインドが、米国との核協力合意によって、核技術と核物質の供給という見返りを得ている。同様に、世論からの批判にもかかわらず、米国の核兵器が欧州の5ヶ国に置かれていることは、「核共有」の名の下に正当化されている。

今日の新たな次元は、テロ集団による核兵器の取得・使用の可能性だろう。こうした可能性は、恐るべきまでに現実のものとなっている。と同時に、核兵器保有国がそれを利用して、自らの核兵器の問題から世界の目をそらせるためのものでもある。しかし、核兵器保有国の核自体には、テロと闘うための明確な軍事的価値はない。基本的な問題は、核兵器は誰の手にあってもそもそも危険なものだということだ。

こうして核兵器の「持てる者」と「持たざる者」との間で上段/下段の責任を分割することは、核軍縮と核不拡散が同じ物事の両面であるという現実を覆い隠す有害な働きしかない。その二つは、互いに補強しあう並行的なプロセスでなければならないのだが。

20世紀になって核兵器がもっとも破壊的な大量破壊・恐怖兵器として登場したことは、時代を画することになった。この兵器は、長期にわたって生態系と遺伝子に影響を与え、人間の生を破壊するものであることがわかってきたのである。こうして、核兵器の削減・制限は、国連と国際社会の優先すべき問題となった。

世界最大の2つの核兵器保有国(世界の核兵器の95%を保有する米露)の間の2国間条約や、核実験を禁止したり(包括的核実験禁止条約=CTBT)、拡散を禁止したり(核不拡散条約=NPT)する多国間条約は、垂直的拡散と水平的拡散の両方を規制しようとしてきた。非核兵器保有国によって結ばれる非核兵器地帯条約も同様である。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、今日の世界には2万3300発の核弾頭が存在し、米国・ロシア・英国・フランス・中国・インド・パキスタン・イスラエルが、数分以内に発射可能な核弾頭を8392発配備していると推定している。

すべての兵器に関する規範的な構造には、2つの側面がある。ひとつは、非人道的な兵器を完全に禁止したり、あるいは、人道的理由、集団的な安全保障上の理由によって、特定のカテゴリーの兵器を禁止することである。もうひとつは、戦力のレベル、あるいは新保有国の出現防止に関する軍備管理を目指すことである。軍縮のためには、既存兵器の検証可能な形での破壊、生産・販売・貯蔵・移転・取得の停止を必要とする。

こうして、生物兵器や化学兵器、対人地雷、クラスター爆弾、レーザー兵器などを、(たんに制限したり削減したりするのではなく)非合法化することが、グローバルに実現してきた。一方で、こうした目的のために交渉されてきた多国間条約が、普遍的なものでもないし、検証措置が必ずしも信頼に足るものではないのにもかかわらず、である。

軍縮と軍備管理を組み合わせようとしているひとつの条約は、NPTである。これは、世界で最も加入国の多い軍縮条約だ。NPTが明文上認めているのは、核兵器保有国と非核兵器保有国という2つのカテゴリーだけである。

核兵器保有国は、条約加盟国として、自国の核兵器の削減と廃絶に関する交渉を行う義務を負う。非核兵器保有国は核兵器を取得することが完全に禁じられ、国際原子力機構が、非核兵器保有国が核を平和利用する際に当該国と「保障措置協定」を結ぶ権限を与えられている。

軍備管理に関して言えば、核兵器保有国は、他の二国間・多国間条約を通じて適用される制限を受けつつ、核兵器を保有すること自体は認められている。しかし、核兵器保有国は、NPTの下における義務を果たすのではなく、2010年のNPT運用検討会議に向けて、非核兵器保有国にさらなる制限を課すことばかりを行おうとしてきた。たとえば、条約10条にある条約脱退の権利を制限したり、条約4条にある原子力平和利用の権利にあらたな条件を課す、といったことである。

イラクにおいて1990年代初頭に秘密の核開発計画が発覚したこと、朝鮮民主主義人民共和国がNPTを脱退しその後核実験を行ったこと、リビアがNPTに従っていなかったがその後事態は是正されたと判明したこと、イスラエルがシリアの原子炉を破壊したとされる疑惑についてさまざまな疑問が残っていること、イランの核開発計画に関して依然として緊張があること―これらによって、核不拡散体制としてのNPTは弱体化させられている。

こうした岐路にあって、核軍縮と核不拡散という2つのアプローチを再統合することによってのみ、NPTを救うことができるのである。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

ジャヤンタ・ダナパラ:スリランカの外交官で元国連大使。1995年核不拡散条約(NPT)運用検討会議の議長。1998年-2003年、国連軍縮担当事務次官。現在は、科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議会長。本コラムは、ダナパラ氏の個人的見解である。

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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