Institutional Highlights|第7回世界伝統宗教指導者会議|ローマ法王、多民族・多宗教が調和するカザフスタンのイニシアチブを祝福

|第7回世界伝統宗教指導者会議|ローマ法王、多民族・多宗教が調和するカザフスタンのイニシアチブを祝福

【ヌルスルタンINPS Japan=浅霧勝浩 (Katsuhiro Asagiri)】

「第7回世界伝統宗教指導者会議」(9月14日~15日)に出席するため13日に中央アジアのカザフスタンに来訪したローマ法王フランシスコは、首都ヌルスルタン市内の中央コンサートホールで、カシム・ジョマルト・トカエフ大統領と共に登壇し、公式会見に臨んだ。ローマ法王のカザフスタン来訪は、2001年9月22日のヨハネ・パウロ二世以来21年ぶり。会場には各国から到着した伝統宗教指導者をはじめ、カザフスタンの各界代表や駐在外交団が出席した。

Abai Kunanbaev/ Public Domain
Abai Kunanbaev/ Public Domain

法王フランシスコはこの公式会見で、2003年以来「世界伝統宗教指導者会議」(2003年から3年毎に開催)を一貫してホストしてきたカザフスタンの多様性と調和を重んじる社会的風土について言及。同国の伝統楽器「ドンブラ」をモチーフに同国で深く尊敬される詩人・作曲家・哲学者・教育者で、しばしばドンブラと共に歌われる、アバイ・クナンバイウル(1845~1904)の言葉を巧みに引用しつつ、スピーチを行った。

法王フランシスコは、「ドンブラ」について「多様性の中で、過去と現在をつなぐ継続の印」「移り変わりの早い社会において、過去の遺産と記憶を大切に守るシンボル」と述べ、平行な二本の弦を弾くドンブラの奏法を「冬の厳寒と夏の猛暑、伝統と発展、アジア性とヨーロッパ性といった相対する特徴を調和」させる「東西が出会う国カザフスタン」の姿に重ね、ドンブラが他の弦楽器と共に演奏される特徴にも言及しつつ、「社会生活の調和は、共に育ち、成熟してこそ可能になるものです。」と語った。

また、多様な文化的・宗教的伝統が調和するカザフスタンは、「多民族・多文化・多宗教の実験室、『出会いの国』としての召命を帯びています」と指摘。「健全な政教分離のもとで宗教の自由が尊重されたこの国で、社会調和における宗教の貢献を示すために、第7回世界伝統宗教指導者会議に参加できることを嬉しく思います。」と語った。そして、「カザフスタンの名が調和と平和を表すものであり続けることを願いつつ、この国の平和と一致の召命を神が祝してくださるように。」と祈られた。

ドンブラ(前列向かって左端の2人がドンブラ奏者)を含むカザフスタンの伝統楽器による演奏 撮影:浅霧勝浩

歴史の悲劇を未来の希望につなげる知恵

多様性に寛容な多民族・多宗教国家の背景には、カザフ人が歩んできた苦難の歴史がある。

スターリンがカザフスタンで引き起こした飢餓(1932年~33年)により、多くのカザフ人が隣国に逃れた。研究により諸説あるが、この時期に150万人から230万人のカザフ人が犠牲になったと推定されている。出典:Wikimedia Commons

かつて東西交易の要衝をおさえる遊牧民の国家として繁栄したが、18世紀に入ると南下してきた帝政ロシアの圧迫をうけ、19世紀にロシア帝国の支配下に入った。さらに20世紀になるとロシアに代わったソ連の下で大規模な定住政策・集団農場が強制され、その結果引き起こされた飢饉で推定150万人から230万人のカザフ人が犠牲になった。また、カザフ人の独立を訴えた活動家や知識人・資産家は抑圧の対象となり、多くが各地に設けられた強制収容所で犠牲となった。言語もカザフ語よりもロシア語が優先され、文字表記もアラビア文字からラテン文字、さらにキリル(ロシア語で使われるアルファベット)文字が強制された。第二次世界大戦がはじまると、ドイツ人、ユダヤ人、ポーランド人、朝鮮人、日本人、ウクライナ人等、ヨシフ・スターリン政権によって敵視された各地の市民や捕虜がカザフの地にも建設されたソ連の強制収容所に連行されてきた。現在のカザフスタンに130以上の民族がいる背景にはこうしたソ連時代の政策も関係している。

Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri
Semipalatinsk Former Nuclear Weapon Test site/ Katsuhiro Asagiri

また、戦後は1949年から89年にかけて、ソ連がカザフスタン東部に建設したセミパラチンスク核実験場(大きさは日本の四国に相当する:INPS)で456回にわたって核実験が繰り返され、健康上の影響を受けた人は150万人におよぶとされる。

こうした苦難の歴史にもかかわらず、カザフ人はソ連が解体すると、新生カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ初代大統領の強力な指導の下で、あらゆる民族平等と信教の自由(ソ連の体制下では宗教は毒とされ抑圧された)を保証するとともに、セミパラチンスク核実験場の閉鎖と当時世界第4位の核戦力の完全放棄を、ロシアのみならず欧米諸国の安全保障を巧みに取り付けて実現した。以来、カザフスタンは、国連を基軸に「核なき世界」の実現を訴える外交活動を最も活発に展開している国の一つである(2024年には核兵器禁止条約締約国会議をホストすることが決まっている)。

カザフスタンでは、ソ連による遊牧文化の否定・定住化政策にも関わらず、都市民・農耕民となってた今も、カザフ人のジュズ、部族、氏族に対する帰属意識はよく残っている。独立したカザフスタンは、苦難の時期を経ても祖先から受け継いできた伝統・文化を国造りの基本に据えるとともに、ソ連時代にカザフ文化が抑圧された教訓を生かすべく、カザフ文化以外のカザフ人(他民族系カザフ人)の伝統・文化・宗教をカザフ文化と対等に扱うことを憲法に明記し社会の調和を重視する政策を推進している。

ローマ法王フランシスコ(左)とカシム・ジョマルト・トカエフ大統領(右)撮影:浅霧勝浩
ローマ法王フランシスコ(左)とカシム・ジョマルト・トカエフ大統領(右)撮影:浅霧勝浩

法王フランシスコは、カザフの地に根付く寛容で強固な精神性について、アバイの言葉「いのちの美しさとは何であろう。もしその深きをさぐらぬならば。」「目覚めた魂、澄んだ精神が必要」等を引用しながら、「世界は私達から、目覚めた魂と澄んだ精神の模範、真の宗教性を待ち望んでいる。」と語った。そして、「『信教の自由』を人類の統合的発展に不可欠な条件、本質的で譲ることのできない権利として示し、他者に強制することなしに、自分の信仰を公に証しすることは、すべての人の権利にほかなりません。」と強調した。

法王フランシスコはさらに、今日国際社会が直面しているグローバルな課題として、「人間の脆さを知り、いたわるパンデミック対応」、「平和への挑戦」、「兄弟的な受け入れ」「環境保護」を挙げ、「諸宗教が各自のアイデンティティーを守りながら、友好と兄弟愛のうちに共に歩み、暗い現代を創造主の光で照らすことができるように。」と語った。

人口約1900万人のカザフスタンでは、イスラム教徒(スンニ派)が約70%を占めるが世俗的で、生活を制限する厳しい戒律はなく、女性の服装も自由。キリスト教(ロシア正教が大半、カソリック教徒は推定125,000人)は26%、その他ユダヤ教、仏教、バハイ教、ヒンズー教など、130の民族構成を反映して多様な宗教が共存している。

「第7回世界伝統宗教指導者会議」を報じる特集番組。

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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