【ニューデリーINPS/ SciDev.Net=ランジット・デブラジ】
警察署に女性警察官がいれば、ジェンダーに起因する暴力が多いことで知られるインドの女性にとって、司法制度へのアクセスが容易になることが、ある研究結果で明らかにさ れた。
世界経済フォーラムによると、インドの男女平等度は156カ国中140位。また、インドは過去20年間、女性に対する家庭内暴力が多く、増加傾向にあることが分かっている。
この研究は、7月にサイエンス誌に発表されたもので、インド中部のマディヤ・プラデーシュ州で2300万人の市民を管轄する180の警察署をサンプルにしたものである。これを無作為に3つのグループに分け、そのうち61の警察署には通常の女性用ヘルプデスクを、59の警察署には女性のみが運営するヘルプデスクを設置、一方で60の警察署にはヘルプデスクを設置しなかった。
インドでは、警察署に第一報を正式に提出する形で事件登録が行われ、警察官は判事の令状なしに逮捕し、刑事手続を開始することができる。また、事件登録は家庭内事件報告書でも可能で、これは判事の監督のもとで民事手続を開始するものである。
11ヶ月の調査期間中、ヘルプデスクのある警察署では、ヘルプデスクのない警察署に比べて、家庭内の事件報告が約2000件、第一報が3300件以上多く登録されていることがわかった。刑事手続きにつながる第一報の増加は、すべて女性警官が運営するヘルプデスクによるものだった。
この研報告書の著者で米バージニア大学経済学部准教授のサンディープ・スクタンカール氏は、SciDev.Netの取材に対して、「この介入によって民事と刑事両方の事件登録が大幅に増加したことは、正しい支援と訓練があれば、警察は実際に女性の訴えに対応できることを示しています。」と語った。
インドの女性は、事件登録の際に大きな障害に直面している、とこの調査は指摘している。「女性が社会や家族の圧力に屈せず事件を報告した場合でも、警察官は公式に記録することを拒むケースが少なくない。」
スクタンカール氏は、「事件の登録は犯罪被害者の女性にとって正義を実現するための小さな、しかし重要なステップです。」と指摘したうえで、「女性が刑事犯罪や民事犯罪の苦情を警察に訴えることに抵抗がなくなるまでには、さらなる努力が必要です。」と語った。
女性の地位向上を目指す非政府組織で、国連経済社会理事会の諮問機関であるGuild for Serviceの事務局長であるミーラ・カンナ氏は、「女性に対する犯罪が一般に警察で登録されない背景には、インド社会の家父長制と、15年前に最高裁が命じた警察改革が実現しなかった経緯がある。」と指摘した。
「女性に対する犯罪の大半は、経済的というよりもむしろ性的なものですが、警察署の責任者を含む一般の警察官はそうした女性に対する犯罪を軽視しがちです。」と、カンナ氏は語った。
「一般的に男性警察官は、殺人をレイプよりはるかに悪質な犯罪と考えるでしょう。レイプに対する恐怖は、すべての女性に共通する経験ですから、レイプという犯罪の重大性をよく理解している女性警察官のこの犯罪に対する態度はおのずと男性警察官のものとは異なります。女性が犯罪を通報しても、警察は家父長制の規範に導かれるように、しばしば無関心でいることが多い。その結果、被害を訴えた女性は再被害を受けることになるのです。」
「マディヤ・プラデーシュ州の警察が、州内の700あまりの警察署すべてに女性相談窓口の導入を計画していることを知り、嬉しく思っていますが、インドのように広大で多様な国で女性の司法アクセスを改善することは、遅々として進まないことでしょう。」とカンナ氏は語った。
一つは警察の役割だ。カンナ氏によれば、警察は「植民地時代の名残り」があり、犯罪の捜査よりも法と秩序の維持、政治家や高官の保護が主な役割だといまだに考えている。
「この調査結果は、女性に対する暴力の削減に取り組む政策立案者に具体的かつ実用的な洞察を与えるものです。」と、世界銀行の性的暴力研究イニシアチブとともにこの調査の主要な出資者であるアブドゥル・ラティフ・ジャミール貧困アクションラボの犯罪と暴力イニシアチブ南アジア担当エグゼクティブディレクターのショビニ・ムケルジ氏は語った。
女性に対する犯罪は、特に低・中所得国において、開発の大きな障害になっています。」とムケルジ氏は付け加えた。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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