この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。
【Global Outlook=アミン・サイカル】
アフガニスタン統治から1年が経った今なお続く、タリバンによるイスラムの名における過激な残虐行為と、包摂的な政府と人権尊重を求める国連主導の国際的な要求の無視は著しい。タリバン政権は世界の承認を得ておらず、アフガンの人々はアフガニスタンの現代史において最悪の人道危機の只中にある。この国の将来の見通しがこれほど暗かったことはない。
アフガニスタン市民および世界は、米国のアフガニスタン和平担当特別代表ザルメイ・ハリルザドから、タリバンは変わったのだとたびたび聞かされてきた。彼は、2020年2月にアフガニスタンから外国部隊を全て引き上げるとの合意をタリバンと結んだ。また彼は数名の識者とともに「ニュー・タリバン」という用語を作り出し、2001年9月の米国同時多発テロ攻撃の後、アルカイダを匿っているとして米国の侵攻により転覆された以前の過酷な統治体制とは異なる、繊細さがある組織であると再定義した。(原文へ 日・英)
しかし、パキスタンの後ろ盾を得るとともに、反米の立場から中国とロシアに接近されているタリバンは、その過激な神権的信条と実践において変化の兆しを見せていない。彼らはアフガニスタンを中世に戻してしまい、厳しい政治的社会的制約を課し、反対派を残虐に罰している。タリバンが属するパシュトゥン民族より小規模な非パシュトゥンの少数民族の人々は言うまでもなく、女性や少女たちも、体制による抑圧の主なターゲットとなっている。アフガニスタンの経済、財政および開発の取り組みは崩壊し、同国の推定4千万人の人口の半数以上に飢餓が迫っている。
一方、米国の政治および軍事のリーダーたちは、正確に言って何が、米国の、ひいてはNATOおよびNATO以外の同盟国の、アフガニスタンにおける戦略的な失敗に繋がったのかを判断するため自己分析してきた。この問題について公に語った最近の高官が、元米軍のイラク・アフガニスタン駐留司令官でCIA長官も務めたデヴィッド・ぺトレイアスである。 The Atlanticに今週掲載された記事において、彼はアフガニスタンにおける米国の失敗の主な理由は、戦略的な忍耐とコミットメントが欠けていたこと、資源配分の誤り、パキスタン国内にあるタリバンの聖地への進入を渋ったこと、そして条件付きではなく時間ベースの軍の撤退、さらには、適切なアフガン人指導者がいなかったことだと指摘している。
ぺトレイアスは、恐らく一部は自責的に、米国のアフガニスタン侵攻が大失敗に終わった理由、および、タリバンと同盟勢力のアルカイダの復権を防ぐにはどうすればよかったかについて、説得力のある主張を述べている。彼は、アフガニスタンにおいて米国は少なくともイラクで達成したことを達成できたはずだ、と仄めかしている。もっともイラクも未だ低迷しているが。しかし彼は、相反する利益をめぐって地域的・世界的な対立が存在する地域において、介入する大国が合理的に耐えられるような期間内に、内陸のアフガニスタンのような伝統的で細分化された国を、存立可能な国家にどうやって変貌させられるかについては述べていない。彼は、歴史的にアフガニスタンにおける国家建設を妨げ、介入する大国が自分たちのイデオロギーと地政学的な目的に沿ってこの国を形作ることを妨げてきた要素を看過しているようだ。
米国の失敗は、その理由が何であれ、タリバンの支配がアフガン人だけでなく西側諸国をも悩ませる国を残してしまったということである。
現在とりうる最善の選択肢は、アフガニスタンの人々を支援し、彼らが平静と力を取り戻し、内部からの変化をもたらせるようにすることだ。タリバンとパキスタンからの支援勢力に対するアフガニスタン国内のレジスタンス(抵抗運動)は拡大している。アフマド・マスードが率いる国民抵抗戦線(NRF)が、アフガニスタンの北部および北東部で非常に活発になっている。マスードは、1980年代のソ連による占領とその後のタリバン政権と戦い、9.11事件の2日前にアルカイーダ・タリバンの工作員に暗殺されたことで知られるアフマド・シャー・マスードの息子である。NRFは、カブール北部のパンジシール州を拠点とするが、その兵士たちは様々な民族的出自を有し、かつて米国が訓練したアフガニスタン軍および治安部隊の一部も含んでいる。NRFは自由で独立した、包摂的で、政治的、社会的および宗教的に進歩的なアフガニスタンを支持している。
NRFの活動に続くように、アフガニスタンのその他の地域でも反タリバン勢力が蜂起している。その中でも、中央部の諸州はハザラス族の伝統的な居住地であるが、彼らは、パンジシールのタジク人のように、タリバンの民族浄化作戦の標的とされているとの報告がある。一方、アフガニスタンの勇敢な女性たちは、完全に沈黙させられたわけではない。粘り強く運動を続けている。
そういうわけで、全てが失われたわけではない。米軍から引き継がれた最新の軍備の量を考えれば、タリバンとの戦いは長く厳しいものとなる。それでも、タリバンおよびその国外の支持勢力が、米国とその同盟国に対する勝利が彼らの民族的政治的優位とアフガニスタンの安定への道を開いたと考えているとしたら、 その期待は中長期的には裏切られることになるだろう。
この記事は、 The Strategistに2022年8月11日付けで掲載されたものです。
INPS Japan
アミン・サイカルは、シンガポールの南洋理工大学ラジャラトナム国際学院で客員教授を務めている。著書に“Modern Afghanistan: A History of Struggle and Survival” (2012)、共著に“Islam Beyond Borders: The Umma in World Politics” (2019)、“The Spectre of Afghanistan: The Security of Central Asia” (2021) がある。
関連記事:
タリバン、鹵獲した米国製武器と自爆攻撃で、アフガニスタンの支配権を取り戻す