【ハラレIDN=ファライ・ショーン・マティアシェ】
ジンバブエの重要な選挙が近づく中、エマーソン・ムナンガグワ政権は、有権者登録を促し政治腐敗に対して歌で対抗するよう呼びかけているミュージシャンらに対して、厳しい弾圧を進めている。
アフリカ南部に位置するジンバブエでは、この8月に総選挙が行われる予定だ。
与党「ジンバブエ・アフリカ国民同盟・愛国戦線」(ZANU-PF)を率いる現職のムナンガグワ氏が、野党「変化を求める市民連合」(CCC)のリーダーで、より若くカリスマ的人気を誇るネルソン・チャミサ氏を破って二期目の当選を狙っている。前回2018年選挙では、与党がCCCを辛うじて破った。
3月4日、ジンバブエで最も人気のあるレゲエ歌手、DJであるウィンキーDが首都ハラレから25キロ離れたチトゥングウィザで行ったパフォーマンスが、過剰反応を示した警察によって阻止された。
ワラス・チルミコを本名とするウィンキーDは、ショナ語で「呪い」を意味する「イボッツォ」という題名の曲を謳おうとした瞬間、警官によってステージから引きずり降ろされてしまった。昨年12月31日にリリースされ物議をかもしたアルバム「エウレカ」を共同制作した若いヒップホップ・アーティストのムクゼイ・チサマ(ホーリー・テンの名前で知られる)とコラボしてこの歌を歌おうとした瞬間の出来事だった。
この楽曲「イボッツォ」は、与党ZANU-PFの指導者らが政治腐敗を巡る問いを回避し、政治エリートによって民衆の資源が大量に簒奪されている状況を歌うものだ。
「ホーリー・テン」は3月に隣国南アフリカのライブで喜んでこの歌を歌っていた。
音楽批評家のマーシャル・ションハイ氏は、「ジンバブエのように立憲民主主義を規定し、人権が広範に認められた国において、ウィンキーDに起こったようなことが二度と起きてはなりません。と指摘した。
「表現の自由をはじめとする憲法上認められた権利の明確な侵害です。ウィンキーDはアーティストとして自分の考えを自由に、かつ検閲や差別なしに表明する権利があります。」とションハイ氏はIDNの取材に対して語った。
チトゥングウィザでのライブで大声を張り上げて歌っていた聴衆たちは、イボッツォを歌おうとした瞬間に警官がなだれ込んできたのを見て驚愕した。
アルバム「エウレカ」では、ウィンキーDが、エンゾー・イシャル、シンガイ、ハーマン、トッキー・バイブズ、フェイントフロー、アニタ・ジャクソン、キラーT、ムウェンジェ・マトレ、ナッティーOといった若いアーティストとコラボしている。
このアルバムには、政治腐敗から政府による権力の濫用、貧困問題など、さまざまな社会経済的問題を扱った歌が収録されている。
ウィンキーDの事務所はかつて、彼の歌は非政治的なものであり、ファンが勝手に解釈しているだけだと主張していた。
ブレイブマン・チズヴィノが本名である別のアーティスト、バーバ・ハラレが同じ時期にチトゥングウィザで行ったライブも警察によって禁止された。
現在の法では、秩序を保つためにイベントの主催者は事前に警察に公演の届け出をしなければならないことになっている。
バーバ・ハラレはソーシャルメディアで若者に有権者登録を呼びかけており、それが与党ZANU-PFによって目を付けられる原因になったのではないかというのが識者の見方だ。
与党は、失業率が高く経済不況の現状の中では多くの若者に有権者登録をしてほしくないと考えている。そうした状況にある若者たちは野党に投票する傾向があり、有権者登録を呼びかける者は必然的に野党CCCのシンパだとみなされることになる。
バーバ・ハラレは昨年、翌年の総選挙に向けた有権者登録をジンバブエ国民に呼びかけたことに関して、「私の最近のツイートは必ずしも明確な政治的意識に裏付けられたものではなかった。どちらかというと不満から出たものだ。もし状況に不満があるなら自ら動かないと、といつも言われていたからね。」と地元メディアに語っている。
ウィンキーDやその他のミュージシャンが、ジンバブエの貧困の状況を歌ったことで警察に弾圧されたのはこれが初めてではない。
昨年初め、クラブDJのリッキー・ファイヤー氏が、与党ZANU-PFの支持者とみられる人物にソーシャルメディア上で攻撃を受けた。2022年3月の地方選に向けて野党CCC候補者の集会で歌ったことが原因のようだ。
本名ツラニ・タカヴァダのリッキー・ファイヤー氏は野党のチャミサ候補を支持し、創設以来CCCを支援している。野党の象徴となる黄色の服を身にまとってすらいる。そのことがあって、殺害予告も絶えない。
オーストラリアを拠点に活動する歌手でプロデューサーのサニイ(本名ルンギサニ)・マクハリマ氏は、野党CCCを強烈に支持し、現職のムナンガグワ政権が公的な資源を大規模に収奪したと批判したことで、ネット上で何度も脅しを受けている。
マクハリマ氏は、次の大統領選・議会選において変革を起こすよう、若者の有権者に登録を呼びかけている。
ウィンキーDと彼のバンド「ビジランス」(注:「警戒」「監視」を意味する)のメンバー等は、与党ZANU-PFとの関係が疑われるなたで武装した集団によって、2018年のクリスマスイブに中部クウェクウェで襲撃された。ウィンキーDが、政治腐敗や悪化する医療部門、通貨危機について歌った「カソング・ケジェチャ」をリリースした直後のことだった。
与党ZANU-PFの指導者や支持者はその歌詞を気に入らず、国有ラジオは歌を放送することを拒否した。
2020年、警察はウィンキーDが首都ハラレで行おうとしたライブを中止させた。コロナ対策が名目とされたが、識者らによれば、同時期に別のアーティストがライブコンサートを許可されていることから、当局に標的となったとという。
2022年、ハラレ郊外の田園ボローデールで行われたウィンキーDのステージを警官らが妨害した。
ションハイ氏は、ウィンキーDへの攻撃は寛容のなさの表れだと考えている。「政党は、多様な見方に対して『寛容』な立場を取っているなどと、とりわけ選挙が近づいてくると主張しがちだが、それなのにそんなことが起こるとは驚きだ。異議申し立てをする者に冷たく当たるのが残念ながら今のジンバブエの状況です。」と語った。
ションハイ氏はまた、ウィンキーDの音楽はパワフルで、若者に力を与えているとみている。「彼の音楽のメッセージは、普通の人たちが日々格闘している日常の出来事に関係したものです。彼は人々がすでに経験していることを歌っているのです。」
「ジンバブエの危機連合」の広報オバート・マサローレ氏は、ウィンキーDの音楽はとりわけ若い市民の間の意識を高めたと指摘する。「ウィンキーは、若者を麻薬から引き離し、この国家的な危機の根本原因を真剣に考えさせるように仕向けているのです。」
「ケニアやナミビア、南アフリカにも同じような状況がありますが、これは、失業や貧困と闘う若者の運動を構築することにつながっていくと思います。この運動は現在の政権を引きずりおろし、大衆運動によって政権を倒す可能性を秘めています。」
メディア研究者のラザラス・サウティ氏は、「ジンバブエの選挙は数十年にわたって暴力にまみれてきました。野党支持で反政府的とみられるアーティストは標的にされてきたので、総選挙の数か月前という状況でウィンキーDに攻撃が仕掛けられたことは不思議ではありません。」とIDNの取材に対して語った。
「政府は、選挙結果に影響を及ぼすことを期待して有権者に脅しをかけようとしている。ウィンキーDのような社会問題に関わる音楽家を追放することでこれを成し遂げようとしているのです。」と、サウティ氏は付加えた。
ウィンキーDは、ハラレでアルバムを発表して間もなく、与党ZANU-PFに連なる音楽家や、「経済エンパワメント集団」のような若者運動からの批判に晒された。1月に会見を開いた彼らは、ウィンキーDの歌は「暴力を煽る」としてジンバブエ国内における彼のパフォーマンスを禁じるよう政府に要請した。
国営ジンバブエ放送は、ウィンキーDの音楽を禁止してはいないと明確にする声明を出さざるを得なかったほどだ。
ラッパーのアワ・キウェやクオンフューズド、バーバ・ハラレのようなその他のアーティストたちは、ソーシャルメディア上でウィンキーDを支持している。野党の指導者チャミサを含めた政治家の中にも、「アーティストの自由をはく奪するな」と政府に呼びかけている者もいる。
ジンバブエ国民は、植民地時代からポスト植民地時代を通じて、音楽に政治的な意味を読み込んできた。植民地時代には、白人の少数派政府が、チムレンガ(解放)音楽の大物で政治的な意識が高かったトーマス・マプフーモ氏のような音楽家を弾圧する法律を用いてきた。
ジンバブエでは、ロバート・ムガベ期に独立を果たすと、レオナルド・ザカタ氏やマプフーモ氏、故オリバー・ムトゥクジ氏のようなジンバブエの伝説的な音楽家たちの音楽が、その政治的なメッセージゆえにラジオでの放送を禁じられてきた。
マプフーモ氏は2018年まで20年間にわたって米国で亡命生活を送ったが、ハラレでライブを行うために戻ってきた。
「(独立前の)ローデシア時代に存在したのと同じ抑圧的な検閲法が今日でもまだ存在します。多くのアーティストたちが検閲を受けていますが、現在のやり方は、公式に表立ってそれが行われるのではなく単に放送を禁じるという形になっていいます。」とションハイ氏は指摘した。(原文へ)
INPS Japan
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