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核兵器禁止へ道を切り開く国際会議

【ベルリン/オスロIDN=ラメシュ・ジャウラ】

「核兵器なき世界」が実現するまでの道のりは、まだ何千里という長さだ。しかし、大量殺戮が可能な核兵器の禁止に向けた重要なステップが、北大西洋条約機構(NATO、加盟28か国)の熱心な加盟国であるノルウェーの首都オスロでとられた。

バラク・オバマ大統領が2009年4月にプラハで行った演説に応えて、NATOは「核兵器なき世界への条件を作り出すという目標」を掲げた。しかし、2010年11月のリスボン会合で承認された「戦略的概念」の一部として、「世界に核兵器がある限り、NATOは核同盟でありつづける」ことを再確認してもいる。

Espen Barth Eide/ By Magnus Fröderberg/norden.org, CC BY 2.5 dk
Espen Barth Eide/ By Magnus Fröderberg/norden.org, CC BY 2.5 dk

 
 ノルウェーのエスペン・バート・アイデ外相は、NATOの戦略的概念と、核兵器がもたらす人道的影響について検討するためオスロで3月4日・5日に主催した画期的な政府間会議との間に矛盾があるとは考えていない。アイデ外相は、圧倒的多数の国家が核不拡散条約(NPT)に署名した1968年以降では、今日ほど、核不拡散への懸念から、すべての核兵器がもたらし続けるリスクに対する認識が高まった時期はないとみている。 

2010年のNPT運用検討会議以来、まだ生まれたばかりではあるが、核兵器違法化を求める運動が大きくなりつつある。運用検討会議の最終文書は、「核兵器のいかなる使用も人間に与える壊滅的な結果に対する深い懸念」に留意し、「全ての国家が、国際人道法も含め、適用可能な国際法を常に遵守する必要性」を再確認している。 

これに、2011年11月の国際赤十字赤新月運動の代表者会議における決議が続いた。同決議は、「法的拘束力ある国際取り決めを通じて、核兵器の使用を禁止し、完全に廃絶するための交渉を誠実に追求し、緊急性と決意を持って妥結させること」をすべての国家に対して強く訴えた。 

その後、2012年5月に開かれた2015年NPT運用検討会議第1回準備委員会において、ノルウェーとスイスを中心とした16か国が、核軍縮の人道的側面に関する共同声明を発した。同声明は、「冷戦の終結した後でも、核による絶滅の脅威が21世紀の安全保障環境の一部であり続けていることに深い懸念を持つ」と述べている。 


オスロ会合の重要性は、核軍縮に関する67年間にも及ぶ公式・非公式の議論の中ではじめて、核兵器がもたらす人道的影響について議論するために127か国の代表が集ったという点にある。これに加え、さまざまな国連機関、赤十字赤新月運動、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)や創価学会インタナショナル(SGI)などの市民団体・宗教団体が集まった。 

緊急性 

ICAN
ICAN

人道的影響に関する緊急性は、米国が最初の原爆を広島・長崎に投下した1945年以来、公式・非公式の核兵器国が保有してきた1万9000発もの核兵器が、地球を何度も破壊する能力を持っていることからも明白である。 

ICANが3月2日~3日にノルウェー政府の支援を得て市民社会フォーラムを開催したのは、この衝撃的な事実ゆえだ。約500人の活動家、科学者、医師、その他の専門家らが集った。フォーラムは、すべての核兵器を違法化する世界的な運動に対して、熱気を与えることになった。 

ICANの代表らは、各国政府や国際赤十字赤新月社連盟、SGIなどのパートナーと協力して、新しい核兵器禁止条約に向けて取り組んでいくと述べた。 

SGIはすべての核兵器廃絶に向けて一貫して訴えてきているだけに、なおのことそう言える。創価学会・戸田城聖第2代会長の「原水爆禁止宣言」を原点に、池田大作SGI会長は、1983年以来毎年平和提言を発表しており、平和と人間の安全保障の実現に向けて地球社会が直面する様々な挑戦と、仏教の基本概念との相互の関係性に焦点を当てている。また、教育改革や環境問題、国連の在り方に関する提言もある。 

Photo: SGI president Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun
Photo: Dr. Daisaku Ikeda. Credit: Seikyo Shimbun.

池田会長は、2013年の平和提言の中で、NGO(非政府組織)と有志国による「核兵器禁止条約のための行動グループ」を発足させ、非人道的であり、毎年1,050億ドルをも費やす核兵器を禁止する条約づくりのプロセスを開始させること提案している。 

SGIの寺崎広嗣平和運動局長は、ICANの市民社会フォーラムもノルウェー政府主催の政府間会合も、核兵器なき世界をもたらす重要な機運を醸成したと語った。 

SGIは、2015年の主要国首脳会議(G8)と広島・長崎原爆投下70周年が、核兵器なき世界に向けた拡大首脳会議を開催する重要な節目になることを期待している。 

成功 

オスロ会議は、65か国が加盟するジュネーブ軍縮会議の枠外で行われた。「公式」の核兵器国である米国、ロシア、中国、英国、フランスと、非公式の核兵器国であるイスラエルと北朝鮮は会議に参加しなかったが、核兵器を保有しているとされるインドとパキスタン、それに、核開発疑惑があるイランは参加した。 

会議は、とりわけ、メキシコが次の会議を主宰すると発表したことから、ひとつの成功だと言えるだろう。核爆発が世界的に及ぼす人帰結について理解することは、核兵器を禁止し廃絶する緊急の行動にとって出発点になるという点で広範な国々や組織が合意した。 

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.
Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

ICANの共同議長であるレベッカ・ジョンソン博士は、メキシコによる発表は大いに評価すべきものだとして、「冷戦真っ只中の1967年、メキシコは、ラテンアメリカ・カリブ海地域全体において核兵器を禁止するトラテロルコ条約の主要な推進国でした。この『非核兵器地帯』は、その後アフリカ、南太平洋、東南アジア、中央アジアにおいて同じような核兵器禁止地帯の創設につながったのです。」と語った。 

これらの非核兵器地帯は、一部の核兵器国[による軍縮への努力]がおそろしく遅い歩みであることに比べれば、成功であることを示してきた、とジョンソン氏は言う。近年、核兵器国の軍縮努力は、保有する大規模な核戦力の近代化、改修、更新に対する多額の投資によって打ち消されている。 

オスロでの科学的発表、一般討論で出された主要な議論は、いかなる国家あるいは国際機関も、核兵器の爆発が直ちにもたらす人道面における緊急事態に十分に対応し、被害者に対して十分な救援活動を行うことは不可能。実際、そのような対応能力を確立すること自体、いかなる試みをもってしても不可能かもしれない、というものだった。実際、やろうとしても、そうした能力を作り出すことは不可能かもしれない。 

原因はどうあれ、核兵器爆発の結果は国境によって妨げられるものではなく、地域的にも世界的にも国家や市民に重大な影響を及ぼす。 

ICANと「社会的責任を求める医師の会(PSR)」のメンバーであり、核によって引き起こされる飢饉に関する報告書の著者であるアイラ・ヘルファンド博士は、核兵器が地域レベルで限定的に使用された場合でも、10億人が飢饉で死亡する可能性があると説明した。 

「小規模」あるいは「限定的」な核戦争後に起きると考えられる気候の大変動と「核の冬」に関する著名な気候学者アラン・ロボック氏らが行った研究を基礎として、ヘルファンド博士は、「放射能汚染が広範囲に広がって住宅や食料、水供給に深刻な影響を及ぼすだろう。また、物的損害をはじめ、世界的な貿易や経済活動一般が崩壊することに伴う財政的被害や、大量の難民が発生することに伴う開発への影響は甚大なものとなろう。」と語った。(原文へ) 

翻訳=INPS Japan 

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