【国連IPS=タリフ・ディーン】
ウクライナをめぐる米露間の緊張が強まり、国連の主要な平和のイニシアチブのひとつである核軍縮に支障が出てきている。
とりわけ、核という大量破壊兵器(WMD)の拡散を防止する条約に関する主要な準備委員会会合を目前にして、世界の二大核兵器国は互いを非難し、諍いは激しさを増している。
2000年の核不拡散条約(NPT)運用検討条約で合意された「13の措置」と、2010年会議で「中東非核・非大量破壊兵器地帯」の創設に関する合意とともに出された64点の「行動計画」は、運用検討プロセス強化の先駆けであった、とジャヤンタ・ダナパラ元国連事務次長はIPSの取材に対して語った。
ダナパラ氏は、「しかしながら、実際の目標達成度合い、米露の冷戦思考への回帰、全核兵器国による合意内容の先送りによって、『核兵器なき世界』という目標は幻影になりつつある。」と警告した。
「第3回準備委員会会合がこの不吉な流れを逆転しないかぎり、2015年会議は失敗し、NPTの将来を危機に陥れる運命にある」と「科学と世界問題に関するパグウォッシュ会議」の会長でもあるダナパラ氏は語った。
2015年NPT運用検討会議第3回準備委員会会合は、4月28日から5月9日まで国連本部で開催される。
しかし、よい成果が得られるかどうかは、他の公式核兵器国(NPTで核兵器保有の資格を国際的に認められた国)の英国、フランス、中国に並んで、もっぱら米国とロシアにかかっている。ちなみにこれらの5大国は、国連安保理常任理事国(P5)でもある。
婦人国際平和自由連盟(WILPF)のプログラムである「リーチング・クリティカル・ウィル」の責任者であるレイ・アチソン氏は、IPSの取材に対して、「4月28日から開催される準備委員会は、最大の核兵器備蓄を持つ二国間の緊張が高まる中で開かれるものです。」と指摘した。
アチソン氏はまた、「核兵器を廃絶するための交渉を行う義務を両国とも果たしておらず、核兵器更新のために数十億ドルを費やし、核の存在を未来永劫のものにしようとしています。」と指摘したうえで、「核兵器は本来的に危険なもので、偶発的あるいは意図的にそれが使用されるリスクを考えれば、軍縮には緊急の行動が求められています。」と語った。
公式核兵器国は、今年中に、2010年に採択されたNPT行動計画における軍縮関連の行動を実行するために具体的に取った行動を報告することが義務付けられている。
「核兵器国がその誓約内容に関してどの程度進展状況を報告できるかが、この軍縮プロセスを、意思を持って主導しパートナーとなる意図があるかどうかを明確に示す指標になるでしょう。しかし、核兵器国がこれまでに発表したものを見ても、その誓約のほとんどに関して、まともに実行しようと考慮したふしは全く見られません。」とアチソン氏は指摘した。
「核時代平和財団」ニューヨーク支部のアリス・スレイター支部長は、「NPT運用検討会議準備委員会の開催を目前に控えて、憂慮すべき対立が見られます。」とIPSの取材に対して語った。
北大西洋条約機構(NATO)は東欧を「守る」ために軍事力を強化している。メディアは事態の一部のみを報じ、ウクライナ問題を根拠にNATOによる軍事演習を正当化している。ヒラリー・クリントン前国務長官はウラジミール・プーチン大統領をアドルフ・ヒトラーナチスドイツ総統になぞらえた。『ニューヨーク・タイムズ』の1面は「冷戦の音が聞こえる。オバマ戦略、プーチンを見限る。」と見出しを付けた。
「しかし、NATOがロシア国境まで拡大し、ウクライナやグルジアにも加盟を招請する中、ロシアの安全保障上の懸念についてはほとんど報じられていません。」と「アボリション2000」調整委員会の委員でもあるスレイター氏は語った。
ロナルド・レーガン、ジョージ・ブッシュ両大統領が当時のソ連の最高指導者ミハイル・ゴルバチョフ氏に対して、「NATOは東ドイツを超えて拡大することはない」とベルリンの壁崩壊後に約束したにもかかわらず、このような事態が進行している、とスレイター氏はいう。
スレイター氏はまた、「米国が2001年にいかにして1972年の弾道ミサイル制限条約を脱退し、ポーランドやルーマニア、トルコにミサイルを設置したかについても報じられていません。」と指摘した。
ダナパラ氏は、NPT条約を無条件・無期限延長した歴史的な1995年NPT運用検討・延長会議の議長として、閉会発言の中で、次のように述べた。「条約の無期限延長は、不均衡な義務の実行や、核兵器を『持つ者』と『持たざる者』との間の核のアパルトヘイト状況を無期限に延長するものではありません。この決定が意味するものは、核拡散に対して国際的な法的障壁を永遠にうちたてようとする総意の表れてあり、これによって、核兵器なき世界実現に向けた任務を前進させることができるのです。」
スレイター氏は、最近の米露対立が起きる以前から、1970年以来の核軍縮に関する多くの約束事が果たされてこなかった点を指摘したうえで、「悪化する米露関係は、麻痺したNPTプロセスにおいて成果の見通しを曇らせる悪い前兆となっています。」とIPSの取材に対して語った。
しかし、今回の新たな危機は、核兵器が人間に与える壊滅的な被害の問題を取り上げ、その法的な禁止を求めるオスロに始まったプロセス(2013年のオスロ会議に始まる「核兵器の非人道性に関する国際会議」)を強化するよう、多くの国々を突き動かすことになるかもしれない。
「ロシアと米国で1万6000発の核弾頭が保有されている状況の中、非核兵器国は核兵器禁止条約に向けた取り組みを強化しなくてはなりません。」とスレイター氏は語った。
公式核兵器国(=核5大国)は、オスロ会議(2013年)とメキシコ会議(今年2月)に参加しなかったが、非公式核兵器国であるインドとパキスタンは、オスロで127か国、メキシコで144か国とともに会議に参加した。今年[後半]、オーストリアがフォローアップ会議を主催する予定である。
スレイター氏は「この新たなプロセスは、『核の傘』に依存している国々が抱えている建前と現実のギャップに焦点をあてることとなり、次第にその矛盾を浮き彫りにしてきています。」「これらの国々は、名目上は核軍縮を支持し、核兵器がもたらす人道上の影響に関してますます多くの議論が世界的になされる中で、核戦争の壊滅的な帰結に懸念を示してはいますが、一方で、致命的な核抑止に依存し続けているのです。」と指摘した。
NPT第6条はすべての条約加盟国に対して核軍縮を推進する義務を規定している。
「欧州で戦争が起こる予兆があることで、核兵器禁止に向けた取り組みに新たな推進力が加わるかもしれません。」とスレイター氏は警告した。
アチソン氏は、化学兵器や生物兵器といった他の大量破壊兵器とは異なり、核兵器は未だに明確な法的禁止の対象になっていない点を指摘したうえで、「今こそ、あまりに長く放置されてきたこの異常な状況に対処すべき時です。歴史は、兵器体系の使用禁止に加えて、保有の法的な禁止を行うことが、その廃絶を促進することを示しています。」と語った。
アチソン氏はまた、「違法化された兵器は徐々に正当なものとはみなされなくなってきます。」と指摘した。
こうした(違法化された)兵器は政治的地位を失い、それに加えて、その製造や改修、拡散、永続のための資金や資源を失うようになる。
核兵器を保有した二国の間の緊張が高まる中、非核兵器国が主導して核兵器を禁止することが以前にもまして必要になってきている、とアチソン氏は強調した。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
関連記事: