ニュース核兵器非合法化を打ち出さなかった広島会合

核兵器非合法化を打ち出さなかった広島会合

【東京IDN=モンズルル・ハク】

非核12か国連合の2日間にわたる外相会合が日本の都市・広島で開催されたという事実だけでも、その象徴的な重要性を理解できるだろう。原爆による破壊の恐怖を目撃した世界初の都市である広島は、およそ70年前のその運命的な日以来、大量破壊兵器が引き起こしうる壊滅的な影響について学ぶ世界的な取り組みの先頭に立ち続け、核兵器を廃絶することの必要性を訴え続けてきた。4月11日から12日にかけて広島で会合を開くというこの象徴的な行為は、公式協議に移る前に閣僚たちが被爆者の証言に耳を傾けたことで、より重みのあるものになった。

不拡散・軍縮イニシアチブ(NPDI)は、核軍縮における国際的な取り組みを先導する目的で2010年に発足した。オーストラリア、カナダ、チリ、ドイツ、日本、メキシコ、オランダ、ナイジェリア、フィリピン、ポーランド、トルコ、アラブ首長国連邦が参加しているNPDIは、定例会合や宣言、声明を通じて、核軍縮プロセスを加速する方法に焦点を当てている。広島会合は、NPDI発足以来8回目の会合となる。

日本の岸田文雄外相は広島会合に先立って『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙に寄稿し、核軍縮への多国間アプローチを採用することの重要性を強調し、核兵器なき世界という目標を達成するために世界が確定しておく必要がある優先事項について述べた。岸田外相は、北朝鮮の核・弾道ミサイル計画への懸念を表明し、イラン核問題に取り組む日本の姿勢を改めて明言した。

岸田外相はまた、2011年3月の福島第一原発事故で日本が学んだ教訓についても触れた。原子力発電は核保安とも密接に関連した問題であるため、岸田外相は、核保安分野で能力向上を図ろうとしている国への支援を日本が引き続き行っていくとの意向を示し、福島原発事故の教訓を共有することを誓った。

広島会合は岸田外相が『ウォール・ストリート・ジャーナル』で触れた問題のほとんどを取り扱い、会合後に出された共同宣言(広島宣言)では、核兵器なき世界達成への機運をさらに醸成するために国際社会が取り組む必要のある優先事項や行動について述べた。宣言は、ほぼ69年にわたる核兵器不使用を永久に継続する必要性を強調し、NPTを基礎とした国際的な核軍縮・不拡散体制を強化する実践的かつ効果的な措置を追求するため積極的かつ建設的に貢献するよう、すべての国家に奨励した。

広島宣言は、北朝鮮の核・弾道ミサイル計画は「地域及び国際の平和と安定に大きな脅威をおよぼし、NPTとグローバルな不拡散体制を損なっている」として強く非難する一方、共同行動計画の下で第一段階の措置をイランが履行し始めたことを歓迎し、イランとの継続的な交渉がイラン核問題の最終的かつ包括的な解決につながるよう希望を表明した。さらに、イランの核活動に関する国際的な懸念を払拭するには、イランは追加議定書の批准履行のような措置を迅速かつ着実に採っていく必要があると述べた。

NPDI参加国はまた、市民社会の果たす役割の重要性を認識し、軍縮・不拡散教育を強化する必要性を強調した。共同声明は、NGOや学生、学者、メディアを含めた市民社会と関与していく機会を歓迎した。

抜け穴

ICAN
ICAN

しかし、核兵器廃絶を訴えるNGOおよび市民社会組織の連合である「核廃絶国際キャンペーン」(ICAN)は、広島会合の結果に失望を表明した。閣僚会合直後に発表された声明でICANは、「外相会合は世界が大量破壊兵器に関する法的な抜け穴をふさぎ、核兵器を違法化する必要があることに合意できなかった。」と指摘している。

ICANは核兵器を法的に禁止する枠組みにつながるような交渉プロセスを開始することを強く主張しており、法的拘束力を伴う禁止が伴わなければ、目に見える成果は表れないと考えている。同反核連合は、法的に禁止することによって、「核兵器保有に対する明確な壁を作ることでNPT上の義務を果たしてそれを強化し、核兵器が安全保障を提供するという想定に挑戦し、自国の核戦力撤廃に向けて核保有国に強力な道徳上のインセンティブを与え、世界的な不拡散の取り組みを強化することになる、と考えている。

ICANはまた、NPDIの12か国がそれぞれに追求している核問題に関する立場には、相いれない部分があると指摘している。NPDI12か国中7か国は安全保障戦略において核兵器に依存しており、核兵器が世界に対してもたらしている脅威をなくす上でこれらの国が特別の責任を負っているというのがICANの見解である。これらの政府がより説得力のある措置をとろうとするならば、それは、核兵器に関するNPDIの公的な立場にあわせるような形で自国の安全保障戦略を改定することによって立場の矛盾をまずは解消するということに当然なるだろう。

さらに、NPDIを主導する日豪両国は、NPDIの政策声明が主張する方向性に反する措置を採りつづけている。日本は、兵器級プルトニウムの大量蓄積につながるような政策を引き続き採ろうとしているし、オーストラリアは、核兵器製造に必要な原料であるウランをNPTで公式に核保有が認められている5大国全てに売却している。

では、どちらに向かうべきか?

こうした批判や欠点があるにもかかわらず、広島会合でなされた討論では、NPT加盟諸国(190ヵ国)が2015年のNPT運用検討会議に向けて準備を進める中で、こうしたイニシアチブの重要性が明確に指摘された。広島宣言は、2015年NPT運用検討会議が急速に近づく中、全ての加盟国がその義務と誓約に完全に従うこと、とりわけ、2010年NPT運用検討会議における行動計画で打ち出されたすべての行動を完全かつ即時履行する必要があると正しくも述べている。核保有国が核戦力の完全廃棄を達成するとの明確な約束を2000年のNPT運用検討会議で成し、それが2010年NPT運用検討会議で再確認されたことに留意すべきであろう。しかし、国際社会は、人類の大多数が長らく望んできたこの公約について、その後何の前進も果たせないまま今日に至っている。

ある情報筋は、「NPT交渉のペースと、不拡散・軍縮に関して迅速に行動する必要性に関連してNPDIが定期的に出している宣言や声明は、正しい方向に向けて措置を採る必要性を再確認させるだけではなく、時宜を得た行動をとらなければ国際社会が直面する可能性のある深刻な帰結についても警告するものだ。」と指摘している。

「したがって、最後に、日本の外相が『ウォール・ストリート・ジャーナル』で述べたことにあらためて戻ってみよう。つまり『協力の強化、透明性、法の支配、および21世紀外交のその他の基礎が、(冷戦期の最大7万発から)1万7000発にまで(核兵器の)世界的な備蓄を減らしてきた。これは相当の削減数ではあるが、ここで進歩を止めるわけにはいかない』」。(原文へ

翻訳=IPS Japan

※モンズルル・ハクは、バングラデシュのジャーナリストで、日本などのテーマに関するベンガル語の著作が3冊ある。ダッカの国連広報センターとロンドンのBBCワールドサービスで勤務したのち、1994年に日本に移住。バングラデシュの主要全国紙2紙(『プロトム・アロ』と『デイリー・スター』)の東京支局長で、バングラデシュのその他の重要発行物に定期的に寄稿している。日本や東アジアの問題について英語およびベンガル語で手広く執筆。東京外大、横浜国立大学、恵泉女学園大学で客員教授を務め、日本政治、日本のメディア、途上国、国際問題などを教える。NHKラジオにも勤務。2000年より外国人特派員協会のメンバーで、理事を2期務めたのち、同協会会長も歴任した。

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