A3プラスが静かに書き換える国連安全保障理事会の力学

【ニューヨークATN=アハメド・ファティ】
最近公表された「セキュリティ・カウンシル・レポート(SCR)」が分析したA3台頭の実態を見る限り、安全保障理事会の内部力学は、これまでの専門家の想定を超えるかたちで変容しつつある。安保理は長らく、固定化したヒエラルキーが支配し、地政学的“振り付け”が繰り返される場だった。しかし、SCRのアフリカ理事国──いわゆるA3──に関する検証は、傍流から静かに始まった再調整が、実は本質的で深い意味をもつことを示している。
アフリカ、そして新たに加わるカリブ諸国が、安保理内部の影響力の流れを再構築し始めているのだ。
静かな再調整──大声でもイデオロギーでもなく、しかし揺るぎなく南から
これは決して派手な動きではなく、冷戦期のような劇的な対立構図とも異なる。むしろ、規律立ち、協調し、明確に「グローバル・サウス」に根ざした外交の台頭である。
SCRはその状況を緻密に記述するが、国連本部で交渉現場を取材する私にとっても同じ光景が見えている。A3プラスは、緩やかな協力枠組みというよりも、むしろ現代的な“非同盟”の新形態に近い。大国同士が互いに言葉を交わすことすら難しくなる世界に適応した、新たな自立的外交ブロックだ。
A3+カリブ──理想ではなく“現実”が生んだ連携

SCRが強調するのは、A3の変容が野心だけで生じたのではないという点だ。その原点は、痛烈な経験──2011年のリビア危機にある。当時、アフリカ連合(AU)が提示した外交ロードマップは退けられ、北大西洋条約機構NATO主導の軍事介入が進んだ。
アフリカ外交団にとって、これは“現実を突きつけられた瞬間”だった。「分断されたまま安保理に入れば、アフリカは無視される」この教訓が、A3を10年がかりの政治ブロックへと進化させた、とSCRは追跡する。
そして、その変容を地域内連携から“越境的パートナーシップ”へ引き上げたのが、カリブの参加である。
- 2020年:セントビンセント及びグレナディーン諸島がA3に合流
- 2024年:ガイアナが参加

その瞬間、A3は大陸的な声から、脱植民地の歴史と政治的優先課題を共有するアフリカ+カリブという新たな南南連携へと姿を変えた。
SCRの分析を読んでいて強く感じたのは、この連携が時代に極めて自然に適合しているということである。アフリカは規模・正統性・大陸的重量を提供し、カリブは俊敏さ、明確な発信力、そして率直に語る道義的権威をもたらす。
両者は既に、ハイチ、コロンビア、さらにはアフリカ域外のテーマ案件においても統一した立場を発表している。これは象徴ではない。戦略である。
国連交渉を取材する私の目にも、SCRの記述と重なる現実が見える。
安保理という最も強力な国連機関内部に、新しい南南軸が静かに形成されつつあるのだ。
統一こそ影響力──安保理が予想していなかった規律
SCRが最も説得力をもって示すのは、A3が共同声明を発する頻度の増加である。これは政治的規律の客観的指標だ。
- 2019年:16件
- 2020年:35件
- 2021年:53件
- 2022年:63件
- 2023年:93件
- 2024年:105件
これらの数字は明確だ。
統一は理念ではなく、作動している実務である。
A3(そしてA3プラス)は、必要な場合を除き、個別に発言しない。
一緒に発言し、一緒に投票し、一緒に交渉する。
SCRは、この結束が「安保理の結果を著しく形成している」と指摘する。
ここ国連では、言外の意味こそが外交だ。誰もがその変化に気づいている。
“交渉力の獲得”──A3に対するP3の態度変化
SCRは詳細な分析の中で、もう一つの重要なトレンドを指摘する。
それは、P3(米・英・仏)がA3に接する姿勢の“根本的な変化”だ。
かつてP3がゼロドラフト(交渉前の初期文案)を共有するのは、中国とロシアだけだった。
現在は、その対象にA3が含まれている。
それは礼儀ではない。
影響力の承認である。
特にアフリカ関連案件では、ペンホルダー(主筆国)が交渉開始前にA3の了承を求める傾向が強まっている。そしてA3側は、アフリカ全案件のペンホルダー権限を要求する動きを強めている。
これは旧来の非同盟運動とは異なる。
思想的には幅広くとも戦略的に一貫性が乏しかった“かつての非同盟”ではない。
これは小さく、鋭く、現実的な権力の動きを理解した新たな連合である。
「中立」ではなく「自立」

SCRの報告から浮かび上がるA3プラスは、中立を求めているのではない。
主体性(agency)を求めている。
A3プラスは、大国間の対立を回避するために距離をとっているのではない。
その対立に“利用”されない位置に立とうとしているのだ。
現代の“非同盟”とは、争いから離れることではなく、
他者の物語に従属しないという意思表示である。
A3プラスは世界にこう伝えようとしている。
「私たちはあなた方の政治闘争の道具でも、あなた方の物語の検証役でもない。
私たちは地域を代表し、私たちに関わる決定を形成するためにここにいる。」
安保理が機能不全に陥る今、これは単に新鮮であるだけではない。必要な動きである。
これからの政治局面──“アジェンダ・セッター”への道
SCRは、A3が「アジェンダを作る側に立つ寸前にある」と結論づける。
私自身、報告書を読み、A3の外交を現場で追ってきたうえで、この評価は妥当だと思う。
しかしSCRは、同時にその好機が脆弱であるとも警告する。
勢いを持続させるには、以下が不可欠だ。
- アフリカ連合(AU)との一層の戦略協調
- 各A3理事国のための訓練と制度的記憶の継承
- 2年任期を越える継続性の確保
- カリブ側の安定した参加(2027〜2028年にはトリニダード・トバゴが想定)
基盤はすでに整いつつある。
名称が歴史に残るかどうかは別として、安全保障理事会の内部では確かに新しい運動が生まれている。
それはイデオロギーとしての非同盟ではなく、服従を拒む姿勢としての非同盟だ。
SCRが示した最大のポイントは明快である。
アフリカとカリブは、もはや「代弁される側」でいる気はない。
彼らは今、共に“部屋を形作る”方法を学んでいる。(原文へ)
INPS Japan/ATN
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