【ドゥシャンベLondon Post=ラザ・サイード】
タタジキスタンは近年、医学教育の進学先として注目が高まっている。教育の質、費用の手頃さ、文化的な親和性に加え、政府の後押しもあり、とりわけ南アジアの学生にとって有力な選択肢になりつつある。同国は、イブン・シーナー(アヴィセンナ)の遺産に連なる医学の伝統を持つ。その土台の上で国際水準に沿った近代化を進めながら、学生本位でコストを抑えた学習環境を維持してきた。

南アジア――とりわけインド、パキスタン、バングラデシュでは、限られた医学部定員をめぐる競争が激しいうえ、私立校の学費も高騰している。結果として、多くの学生が海外に活路を求めるようになった。こうした状況の中で、タジキスタンは旧ソ連型の厳格な教育を基盤に改革を進め、世界水準の医学教育を比較的低い費用で提供している点が評価されている。文化的に馴染みやすく、自然景観にも恵まれた環境も、学びの場としての魅力を後押しする。
タジキスタンが医療の高度化に取り組む背景には、独立後に掲げたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の国家ビジョンがある。世界保健機関(WHO)の指針に沿い、欧州連合(EU)など国際パートナーの支援も得ながら、政府は「国家保健戦略(2030年まで)」と「2024~2026年行動計画」を進めている。重点は、一次医療(プライマリ・ヘルスケア)の強化、非感染性疾患への対応、都市と農村の格差縮小である。

具体策として、2025年にはスグド州でパイロット事業が始まり、自己負担の軽減とサービスの質の向上を狙う新たな財源・支払いの仕組みが導入された。こうした改革は国内の医療課題への対応にとどまらず、医学教育機関の対外的な信頼性と存在感を高め、費用面の壁なく高度な訓練を求める南アジアの学生にとっての魅力を強めている。
この体系の中核にあるのが、首都ドゥシャンベのアヴィセンナ・タジク国立医科大学(Avicenna Tajik State Medical University=ATSMU)である。1939年創設で、ペルシャの博学者イブン・シーナー(アヴィセンナ)にちなんで命名された。ATSMUは、規律と臨床重視を特徴とする旧ソ連型の教育モデルを基盤にしつつ、シミュレーション施設、研究センター、家庭医療(総合診療)のカリキュラムなど、現代的な教育要素も取り入れている。
ATSMUでは、一般医学(MD/MBBS)や歯学、公衆衛生などを英語で学べるプログラムを用意し、提携する15の関連教育病院を通じて早期から臨床実習の機会が得られるとしている。留学生は500人を超え、近年はパキスタン出身者が約450人に上るとされるほか、インドやバングラデシュからの学生も多い。
このほか、ダンガラのハトロン州立医科大学やタジキスタン医療社会研究所などが、学際的な教育やシミュレーション実習、卒後研修を提供し、ATSMUを補完している。卒後教育は、卒後教育研究所(Institute of Postgraduate Education)を通じた研修・専門教育として位置づけられている。
学位の扱いについては、各国の関連機関の要件や国際的な枠組みに照らし、卒業後にインドのFMGE/NExT、米国のUSMLE、英国のPLABなど各種ライセンス試験を目指せる点が強調されている。理論と実践の双方で通用する力を育み、国際的な医療制度への接続を視野に入れた教育である、という位置づけである。
南アジアの学生にとって、タジキスタンの大きな魅力は費用負担の軽さにある。英語による5年制MBBSの授業料は年4,000~5,000ドル程度が一般的で、寮費や生活費を含めた総費用は在学期間全体で、インド・ルピー換算で約16~22ラーク(約160万~220万ルピー)、パキスタン・ルピー換算で約140万~150万PKR程度に収まるとされる。インドやパキスタンの私立医大で学費が高額化し、寄付金が上乗せされる例もある現状と比べれば、負担は相対的に小さい。

入学は成績重視で手続きが比較的明確であり、一般に高校相当課程で理科(物理・化学・生物)の成績50~60%が求められる。インド人学生はNEET合格が必要で、いわゆる「キャピテーション・フィー(裏口入学金)」はないとされる。生活費も月150~200ドル程度と比較的抑えられ、学内の学生寮ではハラール食や南アジア向けの食事を提供する学生寮の食堂(メス)が整い、同じ文化圏の仲間と支え合える環境があるという。
教育費の高騰と世界的な医療人材不足が同時に進む中、タジキスタンは「手頃な費用で質の高い教育機会を提供する」という方向性を強めている。文化的背景にも配慮した訓練環境を整えることで、人材流出の圧力を和らげ、卒業生が母国で貢献する道と国際的に活躍する道の双方を開く狙いがある。改革が進み、パイロット事業の成果が全国展開されれば、同国は医師養成にとどまらず、包摂的な医療を担う人材育成の拠点としての存在感を高める可能性がある。南アジアの志願者にとって、タジキスタンは学位取得を超えたキャリア形成の選択肢になりつつある。(原文へ)
INPS Japan

注記:最近、MBBS Abroad Consultancy Pvt LtdのCEOでありAPP特派員でもあるシャムス・アバシ氏が率いるパキスタン人ジャーナリスト団(団長:ムハンマド・アバス・マハール博士)がドゥシャンベを訪問し、タジキスタンの大学で医学教育を受けるための施設・環境を調査した。筆者はこの件に関連し、アバシ氏から訪問の詳細について情報提供を得た。本稿はそれに基づいて執筆した。また、この訪問の成功と各種支援においては、駐パキスタン・タジキスタン大使H.E.ユスフ・シャリフゾダ・ティオル閣下の役割が重要であった。大使は両国関係、ビジネス、投資における新規プロジェクト創出に向け、重要な役割を果たしている。
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