SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)軍事支出の増大を止める機会を逸してきた代償

軍事支出の増大を止める機会を逸してきた代償

【ニューヨークIPS=アリス・スレーター】

国連は年末、ファクトシート「世界の軍事支出の増大(Rising global military expenditures)」を公表し、昨年の世界の軍事支出が過去最高の2兆7000億ドルに達したと報告した。ファクトシートは、こうした支出の拡大が人々の福祉や環境、気候危機への対応余力を圧迫し、雇用創出、飢餓・貧困対策、医療、教育などへの十分な財源確保を困難にしていると指摘している。

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このファクトシートは、各国の軍事支出がいかに偏在しているかを示すとともに、同じ資金があれば飢餓と栄養不良の解消、安全な水と衛生、教育、環境修復などに何を実現し得たかを具体的に浮かび上がらせている点で意義がある。だが今こそ国連は、軍事支出の拡大を止め、地球を癒やすために「これまで何を取り逃がしてきたのか」に焦点を当てたファクトシートを出すべきではないか。

というのも、第二次世界大戦終結80年と国連創設80年の節目に当たる2025年夏、ロシアと中国は「世界戦略的安全保障に関するロシア連邦と中華人民共和国の共同声明」を発出した。同声明は、国家や国家の枠組みが「他国の安全を犠牲にして自国の安全を確保してはならない」とし、「各国人民の運命は相互に結び付いている」と付け加えている。

米国とその核同盟が、ロシアや中国に対する軍事的優位を確保しようとしてきた経緯をたどるだけでも、平和や軍縮に向けた交渉提案を受け入れる機会をたびたび逸してきたことが分かる。もしそれらの提案が受け入れられていれば、長年にわたり数兆ドル規模の資金が軍事以外の分野に回り、いま私たちが直面する「地球上のすべての生命を守る」危機への対応に充てられた可能性がある。

A view of the Earth and a satellite as seen from outer space. Credit: NASA via UN News
A view of the Earth and a satellite as seen from outer space. Credit: NASA via UN News

筆者が直近の「失われた機会」として挙げるのは、中国とロシアが共同声明で、米国の「ゴールデン・ドーム」宇宙計画を批判し、宇宙空間を武力対立の場にしないよう各国に求めた点である。筆者は、この主張が西側メディアで十分に報じられていないとして、軍需産業との関係を背景に挙げて批判している。

中ロはさらに、宇宙空間における兵器の配備や武力行使を防ぐため、ロシアと中国が軍縮会議(CD)で提案してきた条約草案(2008年および2014年)に基づく交渉を求めた。軍縮会議では条約交渉の開始に全会一致が必要だが、米国が合意に同意せず、議論は前に進まなかった。

The first USSR nuclear test "Joe 1" at Semipalatinsk, Kazakhstan, 29 August 1949. Credit: CTBTO
The first USSR nuclear test “Joe 1” at Semipalatinsk, Kazakhstan, 29 August 1949. Credit: CTBTO

また中ロは、宇宙での軍拡競争を防ぎ、宇宙の平和を促進する措置として、「宇宙に兵器を最初に配備しない」国際的なイニシアチブ(政治的コミットメント)を世界規模で推進することで一致したと述べた。言い換えれば、「先に宇宙配備しない」という立場である。

筆者は、宇宙の平和をめぐる提案を最新の「逸失の機会」と位置付ける。一方、最初の「逸失の機会」は1946年にさかのぼる。ハリー・トルーマン大統領が、ヨシフ・スターリンによる提案―新設された国連の下で原爆を国際管理に移す―を拒否し、その結果、ソ連が核兵器を保有するに至った、というのが筆者の見立てである。

President Reagan meets Soviet General Secretary Gorbachev at Höfði House during the Reykjavik Summit. Iceland, 1986./ Ronald Reagan Library, Public Domain
President Reagan meets Soviet General Secretary Gorbachev at Höfði House during the Reykjavik Summit. Iceland, 1986./ Ronald Reagan Library, Public Domain

筆者は、ロナルド・レーガン大統領が、冷戦終盤の転機―ベルリンの壁崩壊と、ミハイル・ゴルバチョフによる東欧の解放へと至る過程―において、核兵器の全廃を視野に入れた交渉条件として「スター・ウォーズ」計画(戦略防衛構想)の放棄を求める訴えに応じなかったと位置づける。こうして、核兵器庫を廃絶する機会は失われた、というのである。

さらに続く「逸失の機会」として筆者が挙げるのは、ベルリンの壁崩壊後、再統一ドイツをめぐる協議で「NATOは東方に拡大しない」との趣旨の説明があったにもかかわらず、NATOがその後ロシア国境に迫る形で拡大していった点である。

・ビル・クリントン大統領は、プーチンによる提案――双方が核弾頭を各1000発に削減し、その後、全核保有国を招いて全廃交渉に入る。その代わり米国がルーマニアでのミサイル関連施設の開発を止める――を退けた。
・ジョージ・W・ブッシュ大統領は、1972年の弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)から離脱し、ルーマニアに基地を設置した。トランプ大統領はポーランドに基地を置いた。
・バラク・オバマ大統領は、プーチンが提示した「サイバー戦を禁止する条約」を交渉する提案を退けた。[i]

NATO.INT
NATO.INT

筆者は、米国が長年にわたり協力により開かれていれば、軍事以外の分野に回り得た資源は拡大し、「住み続けられる地球」を守るという切迫した課題にも、より大きな能力で対処できたはずだと訴える。宇宙の平和に関する中ロ提案を取り上げるのに、まだ遅すぎることはない。より賢明な判断が勝ることを願う。(原文へ

[i](参考)
https://pirm.medium.com/why-no-international-treaty-for-cybersecurity-to-ban-cyber-attacks-5a53d8b3fdd1

(参考資料)国連ファクトシート「世界の軍事支出の増大」
https://www.un.org/sites/un2.un.org/files/milex-docs/MILEX_UN_Fact_Sheet.pdf

アリス・スレーターは、World BEYOND WarおよびGlobal Network Against Weapons and Nuclear Power in Spaceの理事を務め、Nuclear Age Peace Foundationの国連NGO代表でもある。

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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