【国連IDN=ラメシュ・ジャウラ】
ニューヨークの国連本部で国連軍縮委員会の2週目の審議が翌日に始まろうとする中、核兵器廃絶日本NGO市民連絡会と核兵器廃絶をめざすヒロシマの会が広島で発表した共同声明は、「核のない世界への展望は未だに開けていない」と断じている。
4月10日午後、ニューヨークから約7000マイル(11230キロ)離れた被爆地広島で開催された市民シンポジウムにおいて発表されたこの共同声明「核のない世界のための行動を求める市民の声明」は、「地球上には今なお1万5000発以上の核弾頭が人類の生存を脅かしており、核のない世界への展望は開けていません。むしろ核拡散の波は広がり、貧困、不平等、環境破壊と暴力の連鎖が世界中でさまざまな人道上の危機をもたらしています。」と述べている。この声明は、広島でG7外相会合に参加している各国政府および国連軍縮局に対して発表と同時に送付された。
共同声明はG7各国政府に対して「(今回の外相会合での議論は)『核と人類は共存できない』という、70年前の核兵器の使用によってもたらされた未曾有の非人間的体験からヒロシマ・ナガサキが得た教訓を踏まえたものでなくてはなりません。」と強く訴えた。
こうした心情や見方は、国連軍縮委員会の一般討論演説におけるいくつかの発言にも反映されていた。同委員会のオド・テヴィ委員長(バヌアツ国連大使)は、「諸国間の論争と対立が続く中、テロやサイバー攻撃といった新たな地球規模の難題が深刻化しています。」と指摘したうえで、「多国間軍縮会議においても、各国が実質的な議論を避けるなか、衰退と低迷の兆候が表れています。」と語った。2015年核不拡散条約(NPT)運用検討会議は実質的な最終文書を採択できないまま閉幕した。こうした状況を背景に、全ての国連加盟国が参加できる(総会補助機関である)国連軍縮委員会は、2016年の委員会会期(4月4日~22日)を通じて加盟国間の信頼関係を再構築するうえで、重要な役割を果たすことが期待されている。
キム・ウォンス国連軍縮担当上級代表代行は、「国連軍縮委員会は、多国間軍縮交渉機関の麻痺状態と意見対立が深刻化するなか、本年度の会期も中盤にさしかかろうとしています。」と語った。
キム上級代表代行は、包括的核実験禁止条約(CTBT)が(依然として8カ国が署名・批准しないために)発効に至らない問題や、ジュネーブ軍縮会議における議論が長年停滞している問題を引き合いに出しながら、「昨年のNPT運用検討会議では、こうした現状に対する(非核保有国の)失望感は誰の目にも明らかになりました。」と語った。
キム上級代表代行はまた、「核軍縮と核不拡散に関して成すべきことはたくさんあります。この11カ月の間、(核軍縮の進め方に関する)各国の見解は二極化し平行線をたどってきました。にもかかわらず、来月にはジュネーブ軍縮会議の第二会期(5月16日~7月1日)が開幕し、効果的な法的措置に関する交渉開始を目指した取り組みが再開されます。」と指摘したうえで、「(現在会期中の)国連軍縮委員会は引き続き比類ない独自の役割を維持しています。各加盟国には、この委員会の場を活用して、核兵器なき世界の実現に向けた建設的な議論を大いに行ってほしい。」と語った。
キム上級代表代行の指摘は、1999年以来、ジュネーブ軍縮会議における議論の停滞を打破し、この世界唯一の多国間軍縮交渉機関の有効性を復活させる必要性を訴えてきた、カイラト・アブラフマノフ・カザフスタン国連大使の狙いと合致するものである。アブラフマノフ大使は、「ジュネーブ軍縮会議は、残念ながらこの20年にわたって、本来の任務を遂行してこなかった。」と指摘するとともに、「より安全・安心な世界実現を目指す大胆かつ革新的な措置を通じて、現在の停滞状況が間もなく変化していくことを期待しています。」と語った。
核兵器が国や非国家主体によって使用される脅威が、今日人類が直面している最大の課題であることを考えると、核兵器のない世界を実現するために、あらゆる機会を利用しなければならない。その際、国際的核セキュリティー構造の強化及び国際指針の作成における国際原子力機関(IAEA)の重要な責任と中心的役割を認識する必要がある。
IAEAが核セキュリティーを確保しようとする国際的な努力を取りまとめてきた功績は、評価されるべきである。一方、一連の核セキュリティーサミットは、IAEAの活動を支援しつつ、この共通の目的を達成するために大きく貢献している。カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は、こうした考えを念頭に、初回から4回までの全てのサミット(ワシントン、ハーグ、ソウル、そして3月31日から4月1日にかけて再びワシントン)に参加してきた。同大統領は、一連のサミットで採択された共同声明を実行に移すことで世界の核セキュリティーを大幅に強化できると確信している。
アブラフマノフ大使は、「ナザルバエフ大統領が第4回サミットで出した声明の中で最も重要なものの一つに、『一連の核セキュリティーサミットの開催によりかなりの前進が見られたが、共同声明で打ち出された諸目的については、十分に実行されてきたとは言えない。』という見解があります。」と語った。
「従って、核セキュリティー上の脅威をさらに減らしていくために、サミットの継続を考えていくことが必要です。そこでカザフスタンは、第4回サミットにおいて、『マニフェスト:世界。21世紀』と題した全く新しい文書を発表しました。」とナザルバエフ大統領は語った。カザフスタンはこの文書の中で、戦争と平和の問題に関する重大な見解(戦争に勝者はなく、もし国際社会が核兵器の完全廃絶に向けた協力で前進できなければ、いずれ核兵器が使用され人類が滅亡する)とともに、全ての国が参加して核と戦争のない世界を実現するための方策を記している。
ナザルバエフ大統領は、昨年9月の第70回国連総会で演説した際、各国に対して、21世紀の人類の最大の目標として、核兵器のない世界を構築していくよう訴えた。そしてカザフスタンが35カ国と共同提出した「核兵器なき世界の達成に関する普遍的宣言」に関する決議案(70/57号)は、133か国からの支持を得て昨年12月8日に採択された。これには、核軍縮に関する基本原則と目的が記されており、全ての核兵器を禁止し廃棄するための法的拘束力を持つ国際文書の採択や、核軍縮を目的とした世界的な反核運動の確立など、大胆な措置をとるよう勧告している。
カザフスタンは、核軍縮に関する多国間交渉プロセスを前進させるために公開作業部会(OEWG)の設立を支持してきた。「私たちにとって、OEWGはジュネーブ軍縮会議や国連軍縮委員会に取って代わるものではありません。しかし、OEWGには国連加盟国の圧倒的多数の支持があり、その可能性は無視できないだろう。私たちは核保有国に対してもOEWGにおける対話プロセス(第二会期は5月2日~13日)に参加するよう呼びかけています。」とアブラフマノフ大使は語った。
こうしたカザフスタンと同様の見解は、現在会期中の国連軍縮委員会における数カ国の代表者発言の中にも認めることができた。在ジュネーブ国際機関インド政府代表部のヴェンカテーシュ・ヴァルマ氏は、自らの立場を非同盟運動と重ねたうえで、「(国連)軍縮委員会が現在直面している難題は、多国間協議に努力を注ぎ込む『政治的な意思』が各国に欠けていることに起因しています。』と語った。第4回核セキュリティーサミットにおいて、インドのナレンドラ・モディ首相は、インドが核軍縮に関してコミットしている点を強調した。
「事実、核セキュリティーは引き続きインド政府の優先課題となっていくでしょう。インドはまた、核軍縮に関して例外を設けず期限を定めて達成するという方法を支持しています。」とヴァルマ大使は語った。
ヴァルマ大使は、核軍縮に向けた交渉における議論の隔たりを埋める必要性を強調しつつ、来たるジュネーブ軍縮会議の第二会期では、核軍縮条約に関する実質的な交渉が始まることを期待している。これに関して、ヴァルマ大使は、核兵器の完全廃絶に向け段階的なプロセスを踏んでいく合意を作り上げることや、カザフスタンが提案した「核兵器なき世界の達成に関する普遍的宣言」等の国際的な努力を支持している、
ヴァルマ大使はまた、信頼醸成策について、「段階的なプロセスとは、全ての当事者が受け入れ可能なペースで展開していかなければなりません。」と指摘するとおもに、「インド政府にとってプライオリティーは核軍縮に関する(国連軍縮)委員会の議題項目ですが、もし国際社会が新たな脅威に対処していくことに資する第三の議題があるとすれば、それに関する議論を妨げることはありません。」と語った。
アブラフマノフ大使はまた、非核兵器地帯の重要性を強調した。現在非核兵器地帯は南半球のすべてを網羅しており、非核兵器地帯に加盟している国々は116カ国にのぼり国連加盟国の大半を占めている。
「私たちはこれからも非核兵器地帯の拡大、とりわけ中東非大量破壊兵器地帯の創出を支持します。」「私たちは全ての非核兵器地帯の代表が集う年次会合をニューヨークで開催するという提案を支持します。...核保有5大国が2014年に署名した中央アジア非核兵器地帯条約(CANWFZ)の議定書については、英国、中国、ロシア、フランスは既に批准手続きを終えており、米国による早期の批准手続き完了を期待しています。」とアブラフマノフ大使は語った。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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