SDGsGoal3(全ての人に健康と福祉を)自ら人生の終わりを選ぶ人々

自ら人生の終わりを選ぶ人々

本人の意思に基づいて医療的介助による死を選ぶ人々の多くは、末期疾患や不治の病、あるいは心身の機能を著しく損なう疾患を抱え、深刻な身体的・精神的苦痛に直面している。

【米国ポートランドIPS=ジョセフ・チャミー】

本医療的介助による死や安楽死を望む人々の多くは、末期疾患や治癒の見込めない病気、あるいは心身の機能を著しく損なう疾患を抱え、深刻な身体的・精神的苦痛に直面している。

研究によれば、こうした人々の多くは、病状が進行して回復が困難な状態にあり、病気によって本人の自律性や尊厳が損なわれたり、自分にとって意義のある活動を続けられなくなったりしている。

本人の意思に基づく医療的介助による死や安楽死を法的に認める国や地域は増えているものの、その是非をめぐる議論は今なお続いている。

争点の核心にあるのは、個人の自己決定権を尊重し、苦痛を和らげることと、人間の生命を守ることの間にある根本的な緊張関係だ。

こうした選択に影響するのは、身体的な痛みだけではない。心理的な苦悩や生きる意味、人生の終わりに対する不安、生活の質が低下することへの懸念も、重要な要因となっている。

例えば、自立した生活や身体機能を失うこと、排泄などの身体機能を自分で制御できなくなること、基本的な身の回りの世話を他人に頼らざるを得なくなることなどが挙げられる。

また、病気の最終段階で、将来さらに激しい痛みや苦しみ、不安に直面することへの恐れも、こうした決断に影響を与える。医療的介助による死が認められる条件は、国や地域の法律によって異なる。対象を終末期の患者に限定している地域では、一般的に余命6カ月以内と診断されていることが要件となる。

一方、余命6カ月以内という制限を設けず、回復不能な疾患や耐え難い苦痛などを基準としている国や地域もある。通常、申請者には、自ら判断する能力があることに加え、十分な説明を受けたうえで、本人の自由意思によって申請していることが求められる。

また、独立した医療専門家による評価が必要とされるのが一般的で、多くの国や地域では、一定の待機期間やその他の安全確保措置が設けられている。筋萎縮性側索硬化症(ALS)、がん、その他の重篤な疾患は、医療的介助による死を求める申請と密接に関連している。

そのほか、進行した心血管疾患や肺疾患、アルツハイマー病をはじめとする認知症などの神経変性疾患を抱える人々からの申請もある。特に進行がんで、治療による効果が得られなくなった場合には、激しい痛み、衰弱、身体機能の低下など、生活を著しく制約するさまざまな症状が現れることがある。通常の医療や緩和ケアでは十分に和らげることのできない激しい身体的苦痛や精神的苦悩が、人々に人生を終えるという選択を考えさせることもある。

しかし、その理由は、一般的に身体的な痛みだけにとどまらない。自分にとって意味のある活動ができなくなること、身の回りのことを自分で行えなくなること、そして個人としての尊厳を保てなくなることなど、自律性の喪失が大きな影響を及ぼす場合がある。

また、家族や介護者への依存が増していくこと、日常生活の基本的な部分を自分で管理できなくなること、生活の質がさらに低下していくことを恐れる人もいる。人生の終わりを選ぶという決断は、医療、心理、社会環境、個人的な事情など、さまざまな要素が絡み合う複雑なものである。

人によっては、病気そのものの症状と同じくらい、身体機能が長期間にわたって衰えていくことや、他人への依存度が増していくことへの不安が、重要な意味を持つ。そのため、医療的介助による死の申請に際しては、本人の病状、判断能力、意思や希望、そして緩和ケアやホスピスケアを含む他の選択肢について、慎重に評価する必要がある。

人生の終わりを選ぶ3つの方法

人々が自ら死の時期や方法を選ぶ場合、その選択肢は大きく3つに分類できる。それぞれに異なる法制度、医療上の手順、実施方法が適用される。主な違いは、生命を終わらせるための薬剤を誰が投与するのか、本人が自ら服用するのか、それとも薬剤を用いずに、本人の意思で飲食をやめるのかという点にある(表1)。

表1:本人の意思に基づく終末期の選択――医療的介助による死(MAID)、自発的安楽死、自発的な飲食の中止(VSED)

出典:Compassion & Choices

第一の類型は、「医療的介助による死(Medical Aid in Dying:MAID)」である。米国では「医師の介助による死(Physician-Assisted Dying)」とも呼ばれ、一部の地域では「尊厳ある死(Death with Dignity)」という名称も用いられている。

米国の多くの州で採用されているMAID制度では、法律で定められた要件を満たし、判断能力がある終末期の成人が、自らの生命を終わらせることを目的とする処方薬を求め、本人自身が服用することが認められている。

一般的に、余命6カ月以内と診断された末期疾患が要件となるが、具体的な条件は州によって異なる。ただし、MAIDという用語の定義は、国によって必ずしも同じではない。

例えばカナダでは、医療的介助による死(Medical Assistance in Dying:MAID)という名称の下に、本人が処方された薬剤を自ら服用する方式と、医師またはナースプラクティショナーが直接薬剤を投与する方式の両方が含まれる。カナダでは後者が圧倒的多数を占めており、2024年に実施されたMAIDはすべて医療従事者による投与だった。また、カナダの制度は、米国の多くの州とは異なり、対象者を余命6カ月以内の患者に限定していない。

このように、同じMAIDという略語であっても、対象となる患者、薬剤を投与する主体、医学的要件などには国や地域による違いがある。本人が自ら薬剤を服用する方式では、医師やその他の医療従事者ではなく、本人自身が最終的な行為を行うため、その時期を自分で決めることができる。

国や地域によっては、安全確保のため、複数回にわたる本人の意思確認、診断や余命予測の再確認、意思決定能力の評価などが義務づけられている。

こうした措置は、本人の決定が自由意思に基づき、十分な情報を得たうえで行われることを確保するためのものだ。

MAIDは、それぞれの国や地域が定める法的要件を満たす人々を対象とする制度である。苦痛を抱えている人や、死を望む人なら誰でも利用できる一般的な選択肢ではない。

誰が対象となるのか、どのような医学的評価が必要なのか、申請をどのように記録するのか、また、どの程度の待機期間や安全確保措置を設けるのかは、それぞれの国や地域が定めている。

第二の類型は、「本人の意思に基づく安楽死(Voluntary Euthanasia)」である。本人が薬剤を自ら服用する方式とは異なり、この形態では、患者本人が明確な意思を示し、適切な判断能力を備えていることを前提として、医療従事者が生命を終わらせるための薬剤を投与する。

通常、その目的は、ほかの方法では耐えることのできない苦痛を和らげることにある。この形態は複数の国や地域で法的に認められているが、適格要件、実施手続き、安全確保措置などは大きく異なっている。

なお、カナダのように、この方式もMAIDという制度名に含めている国があるため、国際比較では用語の違いに注意する必要がある。

第三の類型は、「自発的な飲食の中止(Voluntarily Stopping Eating and Drinking:VSED)」である。MAIDの適用条件を満たさない人や、医療的介助による死や自発的安楽死が認められていない地域に暮らす人にとって、VSEDが終末期のもう一つの選択肢となる場合がある。

これは、本人が自らの意思で食事と水分の摂取を中止し、最終的に死に至るというものである。その過程では、不快感や苦痛を和らげるための医療や緩和ケアが提供される場合もある。ただし、VSEDは薬剤の投与による死の幇助とは性質が異なり、同じ法制度の下で扱われるとは限らない。

世界各国に広がる法制化

A patient and healthcare professional share a quiet moment, illustrating the complex and deeply personal decisions surrounding end-of-life care. The image reflects the delicate balance between individual autonomy, relief from suffering, human dignity, and the protection of life in the debate over medically assisted dying.
Illustration: AI-generated / INPS Japan
患者と医療従事者が静かなひとときを共有する姿は、終末期医療をめぐる複雑で極めて個人的な意思決定を象徴している。この画像は、医療的介助による死をめぐる議論の核心にある、個人の自己決定権、苦痛の緩和、人間の尊厳、そして生命の保護という価値の間の微妙なバランスを表現している。 画像:AI生成/INPS Japan

本人の意思に基づく死の幇助を法的に認める国や地域は、世界的に増加している。2026年現在、欧州、北米、南米、オセアニアの複数の国や地域で、何らかの形の医療的介助による死や安楽死が法的に認められている。

ただし、合法化した国の数を一律に示すことは難しい。その理由は、医師による薬剤投与と本人による自己投与を区別する必要があるうえ、法律によって制度が整備された国、裁判所の判断によって一定の行為が認められた国、法律が成立していても実施体制が整っていない国などが混在しているためである。

欧州では、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、スペインなどで、一定の条件の下で医療的介助による死や安楽死が認められている。フランスでも、2026年8月18日に、一定の条件の下で死への医療的援助を認める法律が成立した。

同法は、原則として本人が薬剤を自ら投与する方式を採用し、身体的に不可能な場合には医師や看護師による投与を認めている。

一方、ドイツでは、2020年の連邦憲法裁判所の判決によって、自己決定に基づく死の権利と、第三者から自発的な援助を受ける自由が認められた。スイスやオーストリアでも、一定の条件の下で自殺幇助が認められているが、その法的枠組みは、医師が直接薬剤を投与する安楽死制度とは異なる。

ポルトガルでは、2023年に医療的介助による死を認める法律が成立したものの、2025年に憲法裁判所が制度の中核となる複数の規定について違憲判断を下している。このため、制度が実際に利用可能な国と同列に扱うことは適切ではない。

南北米では、カナダ、コロンビア、エクアドル、ウルグアイなどで、一定の条件の下で医療的介助による死や安楽死が認められている。ウルグアイでは、2025年に安楽死に関する法律が成立し、2026年4月には実施に向けた規則と医療上の手続きが整備された。

オセアニアでは、オーストラリアとニュージーランドで、法律によって定められた条件の下で医療的介助による死が認められている。

米国でも制度を認める州が増えている。2026年には、イリノイ州とニューヨーク州が新たに加わり、いずれも一定の要件を満たす終末期の患者による医療的介助の利用を認めた。ただし、連邦法によって全国一律に認められているわけではなく、州ごとに資格要件や手続きが異なっている。

このように各国の法律や制度が異なるため、世界全体での合法化国数や対象人口の割合を比較する際には、何を合法化とみなすかという基準を明確にする必要がある。一方、制度が合法的に運用されている国や地域では、毎年数万人が医療的介助による死を選んでいると推計される。

世論は容認する方向に

米国の成人の約6割は、医療的介助による死を容認できるものと考えているか、あるいは道徳的な問題として捉えていない。ただし、政治的な支持政党によって意見には違いが見られる。

民主党支持者では約75%が道徳的に容認できると考えているのに対し、共和党支持者では約50%となっている。北米、欧州、オーストラリアなどの多くの地域で実施された国際世論調査でも、一般的に本人の意思に基づく死の幇助に対して過半数の支持が見られる。

また、17カ国の医師を対象とした横断的調査でも、厳格な安全確保措置が設けられている場合には、医師の介助による死について、さまざまな留保や条件が示されながらも、全体として支持する傾向が確認された。

薬剤の投与方法も、国や地域によって異なる。スイスでは、本人が薬剤を自ら服用する方式が認められている。カナダのケベック州では、医師またはナースプラクティショナーが薬剤を投与する方式が採用されている。オーストラリアでは、本人による自己投与と医療従事者による投与の両方が、制度上認められている。

本人の意思に基づく死の幇助に関する法律は、国や地域によって大きく異なる。しかし、こうした選択を求める人々の病状や個人的な事情には、地域や時代を超えて共通する傾向が見られる。

例えば、ALSの患者は、医療的介助による死を選ぶ割合が最も高く、がん患者の数倍に達する場合もあることが、研究で明らかになっている。

一方、がん患者は、肺疾患や心疾患など、他の病気の患者と比べて、医療的介助による死を利用する割合が高い傾向にある。ただし、実際に医療的介助による死を選んだ人々の診断名として最も多いのは、がんである。これは主に、がん患者の総数が、これらの他の疾患の患者数よりもはるかに多いためだ。

全死亡者に占める割合

本人の意思に基づく医療的介助による死は、制度が認められている国でも、全死亡者に占める割合は比較的小さい。ドイツ、スペイン、スイスなどでは、報告されている割合は一般的に1%以下にとどまっている。

一方、それよりもかなり高い割合を示す国もある。2023年ごろの統計では、医療的介助による死が全死亡者に占める割合は、オランダで5.4%、カナダで4.7%、ベルギーで3.6%だった。ただし、これらの統計は各国の制度や集計対象が異なるため、単純に比較することはできない。

また、一部の国では、医療的介助による死を選ぶ人の数が大幅に増加している。例えば、オランダでは、2002年以降、その数が約3倍に増えたと報告されている。カナダでも、制度導入後、当初は急速に増加したが、その後は増加率が鈍化している。

2024年には1万6499人がMAIDを受け、全死亡者に占める割合は約5%に達した。

自己決定権と生命の保護

本人の意思に基づく死の幇助を合法化する国が増えているにもかかわらず、この問題をめぐる議論は続いている。その中心にあるのは、一方では個人の自律性を尊重し、苦痛を和らげること、他方では人間の生命を保護することという、根本的な価値の対立である(表2)。

表2:本人の意思に基づく死の幇助をめぐる賛成論と反対論――患者の自己決定権、尊厳、苦痛の緩和、医療倫理、弱い立場に置かれた人々へのリスク

出典:英国医師会(British Medical Association:BMA)

本人の意思に基づく死の幇助を支持する立場では、患者の自己決定権、苦痛からの解放、人生の最終段階における尊厳、安全性を確保するための規制措置、家族の負担軽減などが重視されている。

これに対し、反対する立場では、生命の神聖さ、弱い立場に置かれた人々への危険性、適用範囲が次第に拡大していく「歯止めの利かない拡大(スリッパリー・スロープ)」への懸念、医療倫理上の問題、そして緩和ケアの重要性などが強調されている。

要するに、本人の意思に基づく死の幇助は、世界のより多くの国や地域で法的に認められるようになっており、その利用も多くの国で大幅に増加している。しかし、たとえ合法化されている国であっても、それは依然として、慎重な検討を要する、意見の分かれる、そして極めて個人的な問題であり続けている。

ジョセフ・チャミー(Joseph Chamie)は、人口統計学のコンサルタントで、元国連人口部長。人口問題に関する多数の著作・論文を発表している。

INPS Japan/ IPS UN Bureau Report

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