【ワシントンDC IPS=イヴァン・エランド】
トランプ政権は現在、サウジアラビアにおける商業用原子力産業の発展、さらにはウラン濃縮の国内実施への道を開く可能性のある取引を模索していると報じられている。
だが、この取引は中止されるべきだ。なぜなら、米国にとっては負担とリスクが増すばかりで、それに見合う見返りはほとんど得られないからである。
2020年から21年初頭にかけて、トランプ政権は「アブラハム合意」に基づき、イスラエルとバーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)、モロッコ、スーダンとの国交正常化を仲介した。しかし、サウジアラビアに対してもイスラエルを主権国家として認め、同様の関係を築くよう働きかけたが、成果は得られなかった。
バイデン政権はこの路線を引き継いだが、2023年のハマスによるイスラエル攻撃とそれに続くガザ戦争を受けて、サウジアラビアを巻き込むのは一層困難となった。民間人の死者の増加と人道危機の拡大により、パレスチナ問題の注目度が上昇し、地域全体でイスラエルに対する反感が高まったためである。
この状況下、サウジアラビアはイスラエルとの国交正常化の前提として、「独立したパレスチナ国家の創設に向けた意味ある措置」を取るよう要求した。2025年の現在に至るまで、サウジ政府はトランプ前大統領による「パレスチナ国家に関する要求を取り下げた」との主張を否定し続けている。
戦争終結への努力が実らない中、第2次トランプ政権は、まず米サウジ間の新たな合意を起点に、イスラエル・サウジ和解への取り組みを再始動しようとしているようだ。これは米国エネルギー省のクリス・ライト長官の発言からも示唆されている。
だが問題は、この「包括的取引」により利益を得るのが関係各国(イスラエルとサウジアラビア)であり、調整役を担う米国だけがコストとリスクを背負うことにある。サウジアラビアは以前から原子力発電の導入を切望しており、イスラエルにとっても、強力なアラブのライバルを封じ込め、新たな反イラン同盟国を得る好機となる(ただしサウジアラビアとイランは近年、一定の融和を模索しているため急ぐ必要があるだろう。)
さらにサウジアラビアは、かねてより正式な安全保障条約も求めている。この条約は、米国による防衛を見返りに安価な石油を提供するという、F.D.ルーズベルト大統領とサウジアラビアのイブン・サウード国王との間の非公式な取り決めを、制度化するものである。
しかしながら、米国の国家債務が37兆ドルに上る今、なぜ新たな“扶養国”を引き受け、しかも安全保障の対価を払おうとしない相手に肩入れする必要があるのだろうか(これはトランプ氏が他の同盟国にも頻繁に向ける批判である)。米国はもはやFDRの時代のように石油不足に悩まされておらず、シェールガス革命により再び世界最大の産油国となっている。
サウジアラビアとの正式な安全保障条約は、さらに財政的負担を増やし、米軍を中東に深く関与させ、もしサウジアラビアが近隣国と武力衝突すれば、米兵が戦場に送られるリスクをもたらす。
さらに、サウジアラビアに原子力技術を提供した場合、何が起き得るだろうか? 過去、イスラエル・サウジ合意の交渉が頓挫したのは、サウジアラビアが「商業用原子力プログラムを核兵器開発に転用できないよう制限する措置」に反対したためだった。つまり、イランの核能力に対抗するため、核兵器の開発や他国への技術移転の可能性を残したいという意図がうかがえる。
実際、サウジアラビアは長年、核燃料として輸入する低濃縮ウランではなく、自国でウランを濃縮し、場合によっては核兵器級まで高められる能力を保有したいと望んできた。
米国国内では「サウジアラビアはロシアや中国から技術を得るかもしれない」との懸念もあるが、同国が核拡散防止のためのセーフガードを拒むのであれば、どの国が技術を提供しても結果は変わらない。
したがって、トランプ政権は、イスラエルとサウジアラビアの和解という現時点では見込みの薄い目標のために、こうした取引に応じるべきではない。たしかに、両国の国交正常化は中東にとって望ましいビジョンである(それが単にイラン孤立化の手段でなければ)かもしれないが、その実現のために米国が法外な要求に応じることは、割に合わない。
結局のところ、国交正常化は両国にとって利益のあるものであるべきであり、両国政府の交渉によって達成されるべきだ。米国が過保護に手助けする必要はない。(原文へ)
イヴァン・エランド氏は、インディペンデント研究所の上級研究員であり、同研究所「平和と自由センター」の所長。かつてCato研究所の国防政策部門ディレクターを務め、また15年間にわたり米議会で国家安全保障問題に従事していた。近著に『War and the Rogue Presidency: Restoring the Republic after Congressional Failure』がある。
原文出典:https://www.independent.org/person/ivan-eland/
出典:Responsible Statecraft
※本記事の見解は筆者個人のものであり、クインシー研究所およびその関係者の立場を必ずしも反映するものではない。
INPS Japan/IPS UN Bureau
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