地域アジア・太平洋韓国外交に対する言説の3つの謎

韓国外交に対する言説の3つの謎

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=チャンイン・ムーン】

韓国は、米国との強固な同盟を守りつつ、中国との戦略的パートナーシップを維持しなければならない。

物や現象の観察では観察者の主観は大きく影響するものだ。それを避けることはできない。しかし、現実の課題に対する政治的解決策には、客観的な事実と時代に即した常識に基づく裏付けが必要である。

文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領の外交政策に対する最近の多くの批判は、もっぱら主観的な先入観からなり、この客観的な事実と常識を全く無視しているようである。(原文へ 

この点を、近頃メディアで取り上げられた三つの問題を用いて説明しよう。

第1の問題は、「クアッド」(日米豪印の4カ国戦略対話=Quadrilateral Security Dialogue)に関する議論である。

保守系のメディアや評論家は、文政権が米国の求めに応じてクアッドに加わらなかったことに失望を表している。そのような要請は米国から公式にも非公式にも受けていないと政権が断言しているにもかかわらず、これらのメディアは、ソウルがただちにクアッド参加を表明しない限り韓米同盟は終わりだと人々に信じ込ませようとしている。

アントニー・ブリンケン米国務長官の説明によると、クアッドは、米国、日本、インド、オーストラリアが多くの問題を慎重に検討するための非公式な集まりである。先のクアッド首脳会議で採択された声明は、新型コロナワクチンに関する協力、気候変動に関するワーキンググループ、ハイテクおよび新興技術に関する協力など、非軍事的な問題を扱うものだった。

したがって、クアッドは明白に中国に対抗するために形成された軍事同盟とは見なされないはずである。そして、韓国政府はすでに、非軍事的分野でクアッドと協力する意思を表明している。

外国メディアは、この問題を歪曲し、誇張する役割を果たしている。2021年4月11日、日本の読売新聞は、ホワイトハウスのジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官が韓国の徐薫(ソ・フン)国家安全保障室長に対してクアッドに参加するよう強く圧力をかけたとする、不正確かつ大部分が架空の記事を掲載した。

一部の中国メディアも、韓国に対してクアッドに加わらないよう不適切な圧力をかけており、クアッドはまだおおむね概念的な組織であるのに、“NATOのアジア版”と評している。

これらは、“フェイク・ニュース”に基づく物語性を持った報道の典型的な例である。韓国のメディアとオピニオンリーダーたちがそのような記事に操られているのを見ると、当惑せずにはいられない。

第2の問題は、徐薫国家安保室長と鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相の近頃の行動に関する報道と解説である。4月初め、徐は日米の国家安全保障担当補佐官との会合に出席した。同じ頃、鄭は中国の王毅外相と中国の厦門で会談した。

一部の新聞は、韓国が危険な「二股外交」あるいは「綱渡り外交」を行っていると懸念している。また別の新聞は、中国は韓国を米国の同盟体制において最も結合が弱い部分と見なし、圧力をかけており、文政権は会合の開催に即座に同意したことにより、深刻な苦境に陥っていると主張している。

この種の主張には常に、韓国が国家安全保障は米国に依存し、経済は中国に依存するという戦略的曖昧性を維持するなら、最終的には米国に見捨てられ、韓国の安全保障はボロボロになるという予言が含まれている。

筆者は、このいずれにも同意できない。韓国政府の外交政策と国家安全保障政策が目指すところは、朝鮮半島の非核化実現による戦争の防止と平和の確立である。その目標に向かって、韓国は、米国との強固な同盟を守りつつ、中国との戦略的パートナーシップを維持しなければならない。

徐国家安保室長が、バイデン政権による北朝鮮政策の検討に韓国の観点が反映されるよう尽力することと、鄭外相が中国とともに朝鮮半島を非核化する方法を論じることに、なんらの矛盾はない。

現時点で、米朝間の対話を再開し、韓米首脳会談を設定し、中国に北朝鮮の態度変容を促すよう依頼することは、全て必要な外交行動である。

筆者は、保守派が原則と国益に基づく透明性の高い大国外交を行う文政権を称賛したくないことは理解するが、彼らが文政権の外交政策を国に損害をもたらすとして攻撃する傾向があることには困惑している。

最後の問題は、韓米日の3国間協力に関する批判である。文政権の反日感情が3国間の協力を困難にし、北朝鮮の軍事的脅威に対する防衛態勢を弱体化させ、韓米同盟に多大な影響を及ぼしているという主張である。

韓米日の国家安全保障担当補佐官が最近メリーランド州アナポリスで会合して以来、いわゆる3カ国調整グループ(TCOG)の復活をめぐる話さえ出ている。TCOGは、金大中(キム・デジュン)政権下の1999年、効果的な北朝鮮政策の確立に関する協力を促進するため、韓米日が発足させた。

北朝鮮の核問題を除いたとしても、3カ国の協力は重要である。しかし、協力が行われるためには、それぞれの立場の者が同じ認識を持っている必要がある。

1998年8月の北朝鮮による「テポドン」ミサイル発射実験がTCOGを実現し、ペリー・プロセスの進捗が3カ国のいっそう密接な協力を可能にした。議論の焦点は、北朝鮮に対する軍事抑止力と同じ程度に、制裁解除と人道支援にも向けられていた。

たとえ韓国と日本の歴史問題の論争がなかったとしても、北朝鮮の核問題に対する3カ国の姿勢が現在のように鋭く対立する状況では、3国間協議が多くの結果をもたらす可能性は低い。

 外交政策が国益を根拠とする必要があることは常識である。しかし、上記の三つの事例では、そのような常識が欠如しており、政治的な物語が大きく幅を利かせている。

なぜこれらのコメンテーターたちは過激な選択を要求する一方で、白か黒かの性急な選択は重要な国益を損ねる恐れがあるという事実を意図的に無視しているのか、筆者にとっては不可解である。非常に残念なことだ。

チャンイン・ムーン(文正仁)は韓国・世宗研究所の理事長。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。

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