地域アフリカ|ナイジェリア|過去との決別を願う人権活動家

|ナイジェリア|過去との決別を願う人権活動家

【ラゴスIPS=トイ・オロリ】

ナイジェリアの金融の中心都市、ラゴスを本拠とする人権団体「市民自由機構(CLO)」によると、長く続いた軍事独裁政権の後、1999年にナイジェリアに民主主義がもたらされたが、超法規的殺害は止むことなく、むしろ数は2倍に増えて、いまや日常茶飯事となりつつある。 

「軍事独裁の時代には、無益な殺生や器物損壊がほとんど国策のように行われていたが、新たな民主主義政権ではそうした醜い現象が、衝撃的なことだが、治安警備員、特に警察官による無実の民間人の不法な殺害というさらに悪化した形で目撃されている」とCLOが過去に発行した報告書は指摘している。 

この調査は1999年5月から2005年6月までの6年間に焦点を当てている。だが著者でありCLOの法執行プロジェクト代表であるダミアン・ウグ氏は、「現在も状況は改善されていない」とIPSの取材に応じて語った。「過去8年間に膨大な数の超法規的殺害を見てきた。警察、軍、国が雇った自警団が手を下している」。 

超法規的殺害とは法律によって認められていない処刑である。ナイジェリアの刑法では人間の不法な殺害は死刑に処される犯罪である。 

ナイジェリアでは、平均して少なくとも1日に5人が超法規的な状況で殺害されていると、CLOは推測している。そのほとんどが警察署で行われるとされ、武装強盗の容疑者は即座にその場で尋問中に処刑されるといわれている。一方警察側は容疑者の逃亡を阻止しようとして殺害が起きると主張している。 

「1日に5人という数字はかなり控えめなものだ」とウグ氏は語り、「地方の警察署や自警団では報告されない殺害もある。しかも、警察と軍隊が頻発する紛争に躍起になっている、問題の多い石油埋蔵量の豊富なニジェール・デルタで起きている事件は、数字に含まれていない」と言い添えた。 

CLOの報告書は、超法規的殺害が増加したのは、経済状況の悪化に原因があるとしている。オルシェグン・オバサンジョ大統領が政権にあった最後の数年に石油の歳入は増大したが、国連開発計画によると、ナイジェリアの1億4,000万の人口の80%以上が1日1ドル以下でいまだに生活している。この状況が銃犯罪、強盗、誘拐の増加を招いている。 

オバサンジョ大統領は今週退陣した。政権の座にあった8年の間に、50万人もの労働者が失業したとウグ氏はいう。多くは貧窮のまま放っておかれ、家族を養うために苦しんだ。「子供は授業料が払えず学校へ通えない。20歳以下の若者の多くが狂信的宗教や犯罪組織に加わり、犯罪に関わっていった」。 

警察は無法状態の広まりに「圧倒」された。「そのために問題を超法規的殺害により解消しようとしている」とウグ氏は語る。「この人間を殺せば、舞い戻ってきてまた面倒をかけられることはないと考えている。犯罪の可能性のあるものを減らすために超法規的殺害という手段を取っている」。 

警察が、自分たちの経済状態に憤りを感じ、その憤りを人々に放出しているという側面もある。ウグ氏は「数ヶ月給料を支払ってもらえない警察官は腹を立てている。検問所で警察官が賄賂を受け取ることは現在禁止されているのに、政府の役人や政治家が大金を流用しているのを見て、怒りを社会に向けている」と指摘する。 

IPSの取材では、自警団を備えている州の知事は、武装強盗の発生件数の多さに対処するために自警団が必要だと主張しているが、そうした自警団もまた、容疑者の不法な処刑を行ったとして非難されている。 

退陣するナイジェリア政府は、バカシ・ボーイズなど、こうした自警団のいくつかの禁止に乗り出し、これらの自警団が政治的目的のために利用されているとして告発していた。 

「当局が超法規的殺害の苦情について行動を起こしたのは極めてまれだった」とウグ氏はいう。「過去8年間で、政府や警察当局によって検挙された警察官はほとんどいない」。また、ウグ氏の知る限り、超法規的殺害にかかわったとして裁判所に訴えられた兵士は皆無である。 

一般市民の抗議を受けて当局が行動を起こしたことは一度だけあった。それはナイジェリアの首都アブジャのアポで2年前に警察によって6人の若者が殺害されたときのことだ。アムネスティ・インターナショナルの2006年8月22日の声明によると、「いわゆるアポの6人とは、5人の若いイボ人の商人グループと1人の女子学生で、武装強盗の疑いで逮捕され、アブジャで拘留中に処刑された。この事件では死体が警察との銃撃戦で殺された武装強盗として公開された」。 

ウグ氏によると、「当時ナイジェリアは国連の安全保障理事会の一員になろうとしていたため、この事件は特殊だった。国連の超法規的殺害に関する特別報告官がナイジェリアを訪問する予定にもなっていたため、政府は何かをする必要があり、査問を行ってみせた。だがそれ以来、数千人が殺害されながら、何もなされていない」。 

活動家は軍事政権の間も超法規的殺害の数は多かったと認める。しかし軍隊が国を支配していた頃には、殺害をめぐる報復として、町や村が兵士や警察の手で壊滅状態にされることはなかった。1999年11月にはニジェール・デルタのバイエルサ州にあるオディの町が破壊された。その2年後、兵士たちはナイジェリア中央部のベヌエ州にあるザキ・ビアムとバアセ地区に大挙して押しかけ、数百人の民間人が死亡し、活動家が検挙された。 

IPSはラゴス警察に人権組織とウグ氏の主張についてコメントを求めた。広報官は、自分自身が今の任務にある過去2年間に、ラゴス州で略式処刑が行われた事実はないと否定した。「超法規的殺害は起きていない。それがコメントである」と警察のオルボデ・オジャジュニ広報官は答えた。 

このように警察が問題を認めようとしないため、CLOは積極的に国民の意識を高めるキャンペーンに乗り出し、政府役人や国際社会に向けてアピールしているという。さらに、「拷問と超法規的殺害に関する国家的警告」というネットワークを立ち上げ、拷問や超法規的処刑などの行動を監視している。このネットワークは全国に3,000人を超える会員がいる。 

「だれかが、どこかで、『この人々は自らの罪をあがなうべきだ』という日がやってくるのを期待している」とウグ氏は語った。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

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