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|オリンピック|今回もサウジ女性は蚊帳の外?

【シドニーIPS=サンドラ・シアジアン】

今年の7月にロンドンで開幕予定の第30回オリンピック競技会に向けて世界のアスリートが最終調整に入る中、サウジアラビアは、女性のオリンピック参加を禁じている世界唯一の国として孤立を深めている。

以前はカタール、ブルネイも、文化的、宗教的理由から女性のオリンピック参加を禁止していたが、今回は初めて女性選手団を派遣することになっている。

しかし、保守的な聖職者が「女性のスポーツ参加は社会の風紀を乱しかねない」と懸念するサウジアラビアでは、女性や少女がスポーツをする権利を否定する厳格な政治方針に基づいて、これまで一度も女性をオリンピック選手に指名したことがない。


 国際人権保護団体ヒューマンライツウォッチ(HRW)は、2月に発表した報告書の中で、サウジアラビアに対して女性が男性と同様にスポーツをする権利を保護するよう求めるとともに、国際オリンピック委員会(IOC)に対しては、1999年に女性のオリンピック参加を否定したとして(当時タリバン支配下の)アフガニスタンに対して国内オリンピック委員会を資格停止処分にした前例と同じような措置をサウジアラビアに対して行うべきだと強く要求した。

Steps Of The Devil」の著者でHRWのクリストフ・ウィルケ(Christoph Wilcke)中東上級調査員は、「IOCは、今こそ会員に関する規則に従って行動する時です。」と語った。

「サウジアラビアは規則に違反していますが、問題は、罰則の適用が事態を好転させるか、かえって悪化させるかわからない点にあります。」とミュンヘンを拠点にしているウィルケ氏はIPSの取材に応じて語った。

「IOCはこの点についてはまだ結論に達していないが、私は、オリンピック開幕の2か月前という今の時期こそ、IOCが規則を施行するのに理想的なタイミングだと思います。サウジアラビアは明らかに、男性アスリートのみからなる選手団を参加させたいと考えています。しかしこれでは規則違反を犯しても全く罰則なしにまかりとおるということになってしまいます。」

サウジオリンピック委員会のナワフ・ビン・ファイサル王子は昨年11月、ロンドンオリンピックには男性のみからなる選手団が参加すると発表した。その際王子は、女性の競技参加について可能性を否定しなかったが、その場合は外部からの招待を受けた場合に限られると述べている。

またファイサル王子は、「女性競技者は、イスラムの戒律に則った適切な服装を身に付け、男性保護者(父またはその男兄弟、夫など)が見守る環境でスポーツを行わなければならない。またその際も、イスラム法に違反しないよう、体の一部が他人にみられないよう配慮しなければならない。」と付加えた。

信仰・文化上の権利

サウジアラビアを除けば、全てのイスラム教国・アラブ諸国において、女性は政府や国が認可したスポーツ委員会の支援を得てスポーツをする機会が認められている。

しかしサウジアラビアの場合、オリンピック委員会や全国に29ある国家スポーツ連盟のいずれも、女性部門を設けておらず、スポーツを志向する女性アスリートに対していかなる競技会も開催されていない。

ウィルケ氏は、「イスラム教には女性がスポーツをしてはいけないという規定はないのです。反対する人たちの主張の根拠は、女性は家にいて外出すべきでないといった伝統的な、家父長制度的見解によるものにすぎないのです。」と指摘し、「女性がスポーツをする権利を普及させたい女性は、宗教の観点から筋の通った議論ができるのです。」と語った。

サウジアラビアの公立学校では男子生徒にしか体育の授業が行われていない。また国が認可するスポーツジムは男性専用に限定されているため、女性が利用できる施設は通常病院に併設されたヘルスクラブに限定されているのが現状である。

また国内にある153の政府認可のスポーツクラブのうち、女性のチームは皆無である。

シドニーのサウスウェールズ大学で国際関係と中東問題を講義しているアンソニー・ビリングスレー氏は、「たとえサウジアラビアが女性のスポーツ参加を禁止する法律を解除したとしても、国際競技で通用する女性アスリートを育てるには何年もの歳月を要するだろう。」と語った。

「もしあなたがサウジアラビアで競技ランナーになりたかったとしても、実際に練習できるのは病院かなにかの施設に併設された建物の屋内に限られてしまいます。」と、中東での滞在・勤務経験が長いビリングスレー氏は語った。

「女性が外に出て練習したり他者と競ったりする機会は実質的に皆無なのが現状です。そうした環境で、一人で練習するには限界があります。問題は、時間的なものよりも、むしろ国際競技に向けた実質的な練習や、スポーツ技術を学んだり、自らの技術を高められるような機会がないことなのです。」

ABCラジオのジャーナリストでメルボルンにあるRMIT大学で講師をつとめているナスヤ・バーフェン氏は、「女性のスポーツ参加を禁じたサウジアラビアの措置は、男女が一か所に交わるべきではないとするイスラム神学上の視点を厳格に適用したものです。」と語った。

「彼らの観点からすれば、女性が野外に出て走り回り、男たちの視線に晒されることは、神に対する冒涜に等しいものであり、イスラムの教えに反するということになるのです。一方、イランのような国では、女性のスポーツ競技を認めていますが、フットボール競技の観戦や参加は認めていません。スポーツの分野における男女隔離に関しては、イランの方がサウジアラビアよりはましだということです。」とバーフェン氏は語った。

スポーツの優先順位は?

スポーツへの参加に関する女性や少女に対する差別は、サウジアラビアが自国の女性に対して行っている多くの権利侵害の一つに過ぎない。同国では、女性は車の運転を認められておらず、国が定める「男性保護者制度」により、サウジ女性は年齢に関わらず、特定のヘルスケアの受診、就職・進学・結婚等、全ての行動について男性保護者の許可を得なければならない。

「サウジアラビアは、ゆっくりではあるが少しずつ近代化に向けた改革の途上にあります。そうした意味では、女性の権利に関しては、まず車を運転する権利について見直しが行われ、続いてその他の基本的な優先事項が審議されるでしょう。そしてプロスポーツへの女性の参加については、そのあとの展開になるものと思われます。」とバーフェン氏は語った。

またバーフェン氏は、「サウジ女性が男性と比較して概ね平等な扱いを享受している分野が教育です。しかしそれでも、卒業後は伝統的な職種に追いやられる傾向にあります。サウジ社会には、女性医師、看護婦、女性教師に対する差し迫ったニーズが明らかにあるにも関わらず、女性にこうした非伝統的職種を奨励する動きがほとんど皆無なのが現状です。」と語った。

ビリングスレー氏は、「サウジアラビアで女性の地位を変革されるには、世代を超えたとてつもない規模の教育的努力がなされなければならないでしょう。」と語った。

ウィルケ氏は、「最終的には女性に基本的権利とある程度の政治的権限を持たせることについて、サウジ政府が従来の方針を変更するかどうかにかかってきます。」と語った。

またウィルケ氏は、サウジ政府が7月のオリンピック開幕までに政策を変更する可能性がほとんどないことに言及して、「僅か3カ月程度の間にこうした差別の構造を廃止することができないであろうことは理解しています。」と語った。

「しかし、私たちはサウジ政府がこの問題について、早速にも誠実に取り組む姿を見たいのです。そこで私たちは、サウジ政府に対して、公立学校に女子生徒向け体育授業を導入する日時を発表するよう、さらには、国の管理下にあるスポーツクラブに女性部門を設けていく予定計画を策定するよう、提案しているのです。」

「オリンピックレベルの選手を排出するまでには時間を要するとしても、女性がスポーツを行える仕組みについては、比較的簡単な手順で下地を構築していくことが可能なのです。」とウィルケ氏は結論付けた。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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