【IDNシドニー=ニーナ・バンダリ】
オーストラリアとニュージーランドは、国際的な包括的核実験禁止条約(CTBT)の枠組みの下で核爆発の検知強化と核実験の永久的かつ効果的な禁止の推進協力を行うための科学技術協力協定を締結した。
オーストラリアのボブ・カー外務大臣はCTBTをサポートする新たな枠組みを歓迎して、「国際協力は、核実験が行われたかどうかに関して両国政府に助言を行う科学専門家の技能を強化するものです。このオーストラリアとニュージーランドの協力は、世界の他国に対するモデルとしての役割を果すことができ、CTBTの強化を図るものとなります。」と語った。
二国間協力の枠組みは、オーストラリア外務貿易省保障措置・不拡散局(ASNO)とニュージーランド外務省間の合意覚書において定めたものである。そこでは、CTBTの検証に関するデータと情報について、オーストラリアとニュージーランドの担当部局による健全な科学技術分析を支援し、地域諸国の同様な能力開発を促進し、そしてCTBTの効果的な検証手段と方法論の開発を促進することが主要点として明記されている。
こうした動向の中で、オーストラリア放射能保護・原子力安全庁及びオーストラリア地球科学局は核爆発検知の能力を高めるために、ニュージーランドの環境科学研究所(ESR)と密接に協力していくことになるだろう。
カー外務大臣は声明の中で、「オーストラリアは、CTBTの早期発効を強く主張しており、我々はその時期に向けて技術的な準備を進めています。」と語った。オーストラリアとニュージーランドは2012年9月28日に科学技術協力協定を締結している。
しかし、公益財団法人広島平和文化センターのスティーブン・リーパー理事長は、CTBTに署名、批准を行ったオーストラリアのような国は、新たな枠組みに関する協議以上のことを行うべきだと感じている。
「両国は核兵器の問題について何らかの対策を行っているように見えますが、実際のところは核兵器禁止条約への支持を拒否しているのです。両国が本来すべきことは、米国が(CTBTへの)条約批准を行うよう、本気で外交上かつ経済的な圧力をかけることなのです。」とリーパー氏はIDNの取材に対して語った。
リーパー氏は、それを行う1つの方法として、米国及びその他の(CTBT)未批准国に対し、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会が構築した国際監視システム(IMS)が収集した地震活動、放射線放出及び実験に関する極めて貴重な情報の提供を拒否するという戦略を提案している。
CTBTは、関係国が互いに協力し合って、核爆発が発生したかどうかを検証するための監視システムの活用能力を強化するよう求めている。
CTBTO準備委員会は、核爆発から発せられる音波と放射性核種微粒子及びガスを把握するために環境を監視している300以上の施設からなるIMSの構築を完了している。こうした施設で収集されたデータは、どの事象(年間およそ3万件)が核爆発であるかを判断する最終的な責任を持つCTBT関係国に提供されている。
リーパー氏は、「CTBTはいわゆる段階的なアプローチの一部であり、それは、核兵器保有国が引き続き永遠に核保有の優位性を保持する一方で、核兵器非保有国に対して核不拡散条約の履行義務に従い続けるよう欺く取り組み以外の何物でもありません。日本とオーストラリアは、核保有国を刺激したくないために、この段階的なアプローチに献身的に取り組んでいます。我々は、CTBTを越えた核兵器禁止条約へと一刻も早く進む必要があるし、我々はこの包括的なアプローチの後ろ盾としてオーストラリアとニュージーランドを必要としています。」と語った。
CTBTは、1996年9月24日に署名開放され、183カ国が署名しているが、それが発効する前に発効要件国(いわゆる「付属書2諸国」44カ国)の批准待ちという状態である。今年(2012年)初旬に批准したインドネシアは36カ国目にあたり、あと8カ国(中国、韓国、エジプト、インド、イラン、イスラエル、パキスタン及び米国)が批准しなければならない。
「付属書2諸国」とは、1994年から1996年までCTBTの交渉に参加していた「核保有の能力を有する」と指定され、当時、原発あるいは研究用の原子炉を保有していた44カ国である。過去16年間において、地球上のどこかで行われている核爆発の可能性を検知し、調査する検証システムと分析技術の開発は進展してきている。
「核兵器の全面禁止」
オーストラリア外務貿易省の報道官によれば、「CTBTを通じた核実験の永久かつ検証可能な禁止は、不拡散と軍縮に不可欠となる構成要素であり、オーストラリアは引き続きCTBTの早期発効を迫っていく。」としている。
しかしながら、世界では益々多くの国家、組織、著名人らが、核実験だけでなく、核兵器を完全に禁止する条約に着手する交渉を求めている。近年、多くの政府は核兵器の無い世界への支援の声を挙げているが、その目標に到達するための具体的な行動は殆どなされてこなかった。
核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)オーストラリアのディレクターであるティム・ライト氏は、「CTBTは確かに、ある程度の核開発を抑制する上で役立ちましたが、核兵器の完全廃絶を達成することは言うまでもなく、核兵器の近代化を止め、核兵器不拡散を防止する必要な法的枠組みを提供してきておらず、また、提供する意図が全く無いものでもありました。」と語った。
「これは政府が外交努力を集中すべき点です。交渉はCTBTの施行を待つ必要がなく、待たなければならないものではないのです。我々は、核武装した国々が行動するのを単に待つのではなく、むしろ主要な役割を果す核兵器非保有国を必要としているのです。これは緊急な人道的必要性です。」とライト氏はIDNの取材に対して語った。
オーストラリア赤十字は、フリンダース大学と南オーストラリア大学のボブ・ホーク首相記念センターと連携して、2012年11月の第1週にアデレードで国際会議を共催する予定である。そこでは、核兵器を禁止し、最終的には廃絶するための法的に拘束力のある手段を作るための緊急なニーズについて討議を深めることとなっている。
国際赤十字・赤新月運動は、当初から核兵器を巡る議論の中心にあった。1945年から2011年まで、両組織は一貫して、こうした大量殺戮兵器に対する深い懸念とその使用禁止の必要性を訴えてきた。
2011年11月、国際赤十字と赤新月運動は、全ての国に対し、「法的に拘束力のある国際的な協定を通じて、核兵器の使用を禁じ、その全廃を行う交渉を誠意を持って行い、緊急性と決意を持って合意に達するよう」求める決議を採択した。この決議はその後、オーストラリア議会の支持を含む、世界の注目を集めた。
今日、少なくとも世界中に2万発の核兵器があり、その内3千発は発射可能な状態にある。この核兵器の潜在的威力は、広島型の原爆約15万発分に相当するとみられている。
ICANオーストラリア諮問委員会メンバーのカトリオーナ・スタンフィールド氏は、「核兵器禁止の運動に最初に火を付けたのは市民社会であり、核兵器保有国が何もしようとしない中にあって、市民社会は、軍縮や核不拡散を最も声高々にサポートし続けているのです。」と語った。
「市民社会は私のような若者が核兵器禁止を推進する運動に関わる主たる舞台で在り続けています。私の世代では、市民社会が、通信と技術の急速な変化を追い風に、『核兵器のない世界』を求めて行動をおこすグローバルな連帯を構築することになると確信しています。」とスタンフィールド氏はIDNの取材に対して語った。
この点は、核兵器全廃への前兆となるものである。
翻訳=IPS Japan
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