
【ローマ/東京IPS=浅霧勝浩】
かつて帝国の暴力の象徴であった古代ローマのコロッセオ。その荘厳な遺跡の下で、世界各地の宗教指導者が一堂に会し、戦争と分断が続く現代に「平和を取り戻す」ための共同の祈りを捧げた。
「平和への果敢な挑戦(Dare Peace)」と題されたこの国際会議は、聖エジディオ共同体が主催する年次フォーラム「平和のための宗教と文化の対話」。3日間にわたり、キリスト教、イスラム教、仏教、ユダヤ教、ヒンドゥー教など多様な信仰の代表が、対話と祈りを通して平和の道を探った。
10月28日の閉会式で演説した教皇レオ十四世は、古代の石壁に響く声でこう訴えた。
「戦争は決して聖なるものではありません。聖なるのは平和です。それは神が望まれる道なのです。」
道徳的勇気への呼びかけ
コンスタンティヌスの凱旋門の下で、教皇レオ十四世は「権力の傲慢」と呼んだものに立ち向かうよう、各国政府と信徒の双方に呼びかけた。
「世界は平和を渇望しています。人々が戦争を人類史の“常態”とみなすようになってはなりません。もう十分です―これは貧しい人々と大地の叫びなのです。」

数千人規模の群衆の中には、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教、仏教、ヒンドゥー教の代表者が含まれていた。その中には、長年にわたり平和運動を続けてきた仏教団体、創価学会の寺崎広嗣副会長の姿もあった。
古代の円形闘技場の周囲に蝋燭の火が灯される中、彼らは静かに並んで立ち尽くした。石壁に揺れる小さな光は、和解への共通の祈りを象徴していた。
信仰と責任
教皇の演説は、信仰と政治的責任の間に明確な一線を引くものだった。
「平和はあらゆる政治において最優先でなければなりません。平和を求めず、緊張や紛争をあおった者たちは、その日々と年月を神の前で問われるでしょう。」
その言葉は、ウクライナとガザで戦闘が続く中で発せられ、意図的な緊張感を帯びていた。教皇レオ十四世のもとでのバチカンは、世界的な危機における政治的停滞に対する道徳的な対抗軸としての立場を一層明確にしており、平和を抽象的な理想ではなく人類の義務として語っている。

「アッシジの精神」を継ぐ対話
今年の会議は、教皇ヨハネ・パウロ二世が1986年にアッシジで初めて宗教間の平和集会を開いてから、ほぼ40年という節目を迎えた。それ以来、聖エジディオ共同体は「信仰間の対話こそ、政治的分断を和らげる力となり得る」との信念を持ち続けてきた。
同共同体のマルコ・インパリアッツォ代表は
「戦争の言葉が支配する世界で、私たちはあえて平和を語る勇気を持ちました」と、語った。「対話の道を閉ざすことは狂気です。教皇フランシスコも言われたように、世界は対話なしでは窒息してしまうのです。」
閉会式では、宗教指導者たちが「平和の燭台」に火をともした後、イタリアのトランペット奏者パオロ・フレズが静寂の中に哀切な旋律を響かせた。
生命の尊厳を問う分科会
同日午前、創価学会はローマ市内のオーストリア文化フォーラムで、分科会22「正義は人を殺さない―死刑制度の廃止に向けて」に参加した。
ピサ大学のエンツァ・ペッレッキア教授は、創価学会を代表して登壇し、この運動による死刑廃止への取り組みについて、創立者である池田大作会長が英国の歴史家アーノルド・トインビー博士との対談で語った言葉を通して、次のように語った。
生命の尊さは罪や功績によって評価されるものではなく、平等である。故に、正義の名のもとであっても生命を奪う権利は誰にもない。死刑を容認するのは、生命の価値に差をつける制度化された暴力の一形態であり、池田会長がそれを「現代における生命軽視の風潮」の現れであると述べている―と。

池田会長の人間主義的思想は、教皇レオ十四世の「死刑や暴力を容認しながら“プロライフ”を名乗ることはできない。」という最近の発言と深く通じ合うものであり、両者はいずれも「一部の命は犠牲にしてもよい」とする同じ道徳的誤りに立ち向かっているのだと語った。
沈黙を拒む宗教
何十年にもわたり、コロッセオは平和を象徴する集いの場として使われてきた。しかし、参加者たちは今年の式典にはこれまでになく切迫した緊張感があったと語る。欧州と中東で続く戦争、数百万人に及ぶ人々の避難、そして高まる権威主義―そうした現実が、「道徳」という言葉に新たな重みを与えていた。
「平和は人間の心の変革から始まります。」と寺崎副会長は語った。「宗教間の協力は象徴ではなく、歴史を動かす方法なのです。」
次世代へ託された平和のアピール
夜の帳が下りるころ、トランペット奏者のパオロ・フレズが哀切な独奏を奏でた。そのあと、子どもたちが壇上に進み出て、外交官や政府関係者に「平和のアピール」を手渡した。―それは、次の世代が、いま大人たちが下す選択を受け継ぐことになるという事実を静かに思い起こさせる場面だった。
教皇の最後の言葉は短く、低く穏やかだった。
「神は戦争のない世界を望んでおられます。神はこの悪から私たちを解き放ってくださるでしょう。」
群衆が去った後も、蝋燭の光はローマ帝国の遺跡を照らし続けた。古代の石壁を背景に揺れる小さな灯が、なお戦争を続ける世界への静かな抵抗と希望の象徴となった。(原文へ)
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